強面男が幻想入り 作:疾風迅雷の如く
今回はなんと8000文字オーバーです!どんどん増やしていって、調子に乗った結果半年に一回しか投稿できない未来が見えてしまう…それでも目標一万文字オーバーしたいものです。
比那名居天子、本来であれば彼女は博麗神社を崩壊させただけでなく博麗神社を乗っ取ろうとして紫からの制裁を受けていたであろう人物である。
しかし勇姿が地震止めを行ったことにより博麗神社は崩壊せず、神社乗っ取り計画も白紙へと戻る。そのおかげで天子は紫に警戒こそされたがお咎めなし。結局この異変で起きた変化は天子に対する紫の疑惑とそれによる天子の行動の制限だけであった。
そして宴会の日から翌日、紫はその天子をスキマの中に入れて博麗神社に来ていた。
「なんであんたなんかと一緒に行かなきゃいけないのよ…」
天子は何故態々こちらから出向かなければならないのか。その理由がわからずにぶつくさ言いながら博麗神社の土を踏んだ。
「それはこっちのセリフよ。感情だけで行動出来るなら今すぐ殺したいくらいだわ。だけど貴女を殺してもデメリットしかないから殺さないだけよ」
紫は天子に対し、現時点では殺さないがあくまでも理由さえあれば殺すように伝えておく。
「そんなこと言って殺せないだけじゃないの? オ・バ・サ・マ?」
女性、それもよりによって歳を気にしている紫の目の前でオバ様などという天子は間違いなく紫が歳を気にしていることを確実に理解していた。第三者が見たならば間違いなく自殺行為だと思っただろう。
「挑発のつもり? 悪いけど今の私は感情と理性の境界を操っているから貴女がどう挑発しても怒ることはないわ」
しかし天子の予想に反して紫が鼻で笑い、天子にそれを告げた。
「それって境界を操らなければこの程度の挑発に乗っちゃうってことでしょ? この程度の挑発に乗って私を殺されることを心配するなんて妖怪の賢者と呼ぶには余りにもヘタレね」
それでも諦めずに天子は挑発し続ける。何故彼女が挑発を続けるのかは彼女が紫をからかうのが楽しいからにしか過ぎない。天子は典型的なお嬢様であり、その我儘も父親も受け入れてきた。故に人をからかうという行為は彼女の刺激になり楽しみとなるのだ。
「何度でも言うけど今回は感情と理性の境界線を操って怒らないようにしているから挑発は無駄よ」
紫が冷静に対処し、天子から目を離すとスキマを呼び出しその中に入った。
「少し待っていなさい」
スキマが閉じると紫の姿が完全に見えなくなり、天子は「初めから博麗神社の中に入ればいいんじゃないの?」と思いながらもただ一人で待っていた。ズカズカと博麗神社の中に入らないあたり天子は幻想郷の中では律儀である。某白黒魔法使いであれば問答無用で入り込む。親しき仲にも礼儀ありというがこの幻想郷にそんな言葉は無用の長物である。ちなみに外来人である早苗もその幻想郷の常識に染まり、「常識とは投げ捨てるものです!」などと言って二柱を困らせていたのは余談である。
「しかしボロそうな風体の割には中々良い物を使っているわね…」
しかし元々不良、もといお転婆で知られる天子がおとなしく待っているはずもなく、博麗神社に近づき博麗神社の柱を鑑定していた。もちろんその評価は客観的な評価ではなくアテにもならない。
「その価値がわかりますか?」
「うわっ!?」
後ろから魔王のような風貌の持ち主が話しかけ、天子は思わずその男から引いて戦闘態勢をとってしまった。
「おっと、驚かせてしまったようだ。すまないねお嬢さん」
それを見た男は意外にも紳士的な態度で天子に近づく。天子は黙ってそれを見ていた。
「…………貴方はどちら様で?」
しばらくの間、沈黙したが天子は戦闘態勢を解いてこの男と話をすることにした。ただ退屈な時間を過ごすよりもこの男と話した方が良いと感じたからだ。
「どこにでもいる博麗神社の助手です」
お前のような奴がどこにでもいてたまるか! と天子はツッコミたかったがそんなことを言えば間違いなくミンチにされるだろう。万全の状態ならともかく、異変の時に爆発に巻き込まれ怪我を負っている状態ではこの大男には勝てないだろう。
ちなみに天子はこの男のことを異変の際に一度だけ見たことはあるが覚えていない。これは何も天子が不良だから覚えられないのではなく、人間を見下す天人であるが故の弊害だった。
「その柱は見ての通り御神木で出来ていましてね…もし博麗神社が先日の異変で壊れていてもこの柱だけは残っていたでしょう」
その男は柱を触り、ノックをするようにそれを叩く。すると木と木がただぶつかるような音ではなく樫の木同士がぶつかり合うような乾いた音が響く。
「他はどうなるの?」
天子の疑問にその男が振り向き、口を開いた。
「他? 何を仰っているんですか? 博麗神社は全てが御神木で出来ています。尤も全て柱の霊力にムラがあるようで今回の地震で壊れる可能性は充分にありましたが」
普通、犯人がそれを聞かされたら罪悪感に襲われるが地震を起こした犯人である天子はそれを聞いても、まるで罪悪感など捨ててしまったかのように動じていない。
「それなら一つくらい持って帰ってもいいのかしら?」
天子は柱を触り尋ねる。
「仮に持ち帰ったとしてもその時は貴女が被害を受けるだけですので自己責任でお願いします」
「…貴方は止めないの?」
「幻想郷では止めたところで持っていく輩が大勢いますからね。もっともそれは妖精や悪党などですので拷問をすればすぐに吐いてくれますよ」
天子は顔を自分の髪のように青く染め、冷や汗をかく。ただでさえ物騒極まりない幻想郷だがその中でも恐怖の対象である魔王のような男が拷問すると言っているのだ。しかもそれまで受けてきた全員が殺しても問題ない妖精や悪党だ。後者の中には死んだ例もあるだろうと天子は考えていた。
「なら止めておくわ…それにこんな柱を持ち帰ってもどこにも置けないしね」
「それが妥当ですよ。貴女はこれからある妖怪を救い、英雄となるのですから、そんな理由で捕まっては情けないですからね」
「え?」
何のことだかさっぱりわからず、天子は困惑する。
「それでは私にもやらねばならない事があるので失礼します」
そう言ってその男は軽くお辞儀をして階段を下り、それを見送った天子は男が見えなくなるまで唖然としていた。
「それにしてもあの男、どこかで見たような気がするんだけど…どこだったかしら?」
天子は手を顎に添え、思考するが全くわからない。だがこれだけは言える。あの大男が何故最後にそんな事を言ったのかは、恐らく天子自身が認められるチャンスがあることを教えたかったのではないのか? ということだ。
「はぁい」
天子がそんな感情を抱えている中、現れたのは先ほど消え、胡散臭い笑みを浮かべた紫だった。
「天子、貴女に質問があるわ」
だがその笑みがすぐに消え、紫と目が合う。
「勇姿を見かけなかった?」
「雄雌?」
「大和勇姿。人間かどうか怪しいけれど間違いなく言えるのは身長2m超えの大男よ」
「そいつならさっきそこの階段を降りて行ったけど」
天子のその言葉を聞き、紫は眉を顰めた。
「もう階段を降りたの? それじゃあ追いかけても間に合いそうにないわね…」
「どうしてよ? あんたの能力なら十分に間に合うはずでしょ?」
紫の能力、それは《境界を操る程度の能力》である。これだけ聞くと弱い能力と思われがちだが違う。彼女の能力はありとあらゆることに干渉しその境界を操ることができるのだ。
話は変わるが霊夢は女である。それは巫女である以上事実であるし、どんなに霊夢が男だと言っても変わらない。しかしそれが紫によって変化出来ると言ったら? …つまりそういうことだ。紫は性別の境界を弄り、霊夢を男へと変化させることが出来るのだ。無論性別だけでなく、体格等の容姿、感情や理性などの中身、そして一部とはいえ物体の性質すらも操れることが出来るのだ。
「天子、貴女に一つ言っておくわ。彼に能力は効かない。特に私のような応用の利く能力は無効化されてしまうわ」
だが勇姿にそれが効かない。勇姿に効く能力と言えば勇姿に直接干渉しない能力か、あるいは特化したものでなくては無効化されてしまう。鈴仙の能力が多少とは言え効いたのは気を狂わせることに特化した為である。
「だから階段の麓で待機していればいいじゃない! その勇姿は階段を降りたんだから麓で待っていれば会えるんじゃないの?」
「いいえ。彼は階段の途中で道から逸れて行く癖があるわ。だから麓で待機していても来るはずもないのよ」
「それだったら飛んでいく瞬間を見計らって行けば?」
「彼、異変以外で移動する時は9割の確率で徒歩。残りの1割ですらジェット機…鉄の飛竜に乗って移動するのよ?あれを見かけてもすぐに目の前から消えてしまうわ」
「結局追いかけられないことをなにかと言い訳しているだけじゃない。激ダサね」
「私が激ダサかともかく外の世界じゃこれが普通よ。不可能を何かと理由付ける天才…それが幻想郷のある国人だから」
天子はそれに対して、ただどうでもいいように鼻で笑った。
「それでその勇姿に何の用だったの?」
「貴女の処分を含めた天人達との交渉よ」
「交渉?」
「そう、幻想郷と異変を起こした勢力の今後の関わりを話し合うのが彼の仕事。でも彼がいないとなれば霊夢がやるしかない…」
「ちょっと待って、それじゃあ私は天人の代表として連れて来られたの?」
「そうよ。これは貴女が起こした異変…交渉はそのケジメみたいなものね」
「ケジメね…本当は交渉を失敗させて私を処刑しようとしていたんじゃないの?」
「そんな手段を取るくらいならもっと別のやり方で確実に仕留めるわ。例えば交渉の前に勇姿を怒らせておくとかね…」
それを聞いた天子は思わず頷きかけた。目の前にいる妖怪はそういう事をやりかねない。
「それだと逆に貴女にとばっちりを喰らわない?」
だがとばっちりを喰らうリスクに気がついた天子がそう指摘すると紫は目を泳がせ、扇子を口元を隠すように開く。
「そんな事はどうでもいいわ。とにかくこの中へ入りなさい」
誤魔化すように紫が天子に博麗神社の中に繋がっているスキマに入るように誘導する。
「ったく、わかったわよ…やればいいんでしょ?」
天子がスキマに入ると無数の目線が天子に突き刺さり、不機嫌になる。
「相変わらず悪趣味ね…」
などとほざきながら天子はスキマの出口に出ようとした。
「やっと見つけたぞ!」
だがハルバートを持った中華服を着た大男がスキマに無理やり入り込み、天子をガン無視して紫を捕らえる。
「へっ?」
天子はいきなりの出来事に頭が追いつかず、混乱する。大男が中華服を着ていることはまだわかる。大男がハルバートを持っていることもわかる。だが中華服を着ているのにもかかわらずハルバートを持っているのは訳がわからない。戦闘機や戦車に鎧や刀を取り付けるようなものだ。
「何で、貴方がここに…!?」
紫はその大男を知っているようで、怯えや恐怖などの感情が露わになっていた。
「勇姿という小僧に負けて以来、俺は貴様を探していた。勇姿のいる国とやらに行けるのはお前だけだからな…さあ言え、言わねば貴様の穴に俺の息子が炸裂するぞ」
それを聞いた天子はピンときた。勇姿は恐らくこの事を言っていたのではないのか? そう判断した天子の行動は速かった。
「し、知らないわよ! 大体彼は貴方を相手にしないって言っていたわ!」
紫が首が千切れそうなくらい横に振ると大男がハルバートを持っていない方の片手の拳を握りしめ…次の瞬間、鉄が割れる音がスキマ内に響く。
「…よもや俺に喧嘩を売る女がいるとはな。驚いたぞ青髪」
その石を呂布にぶつけた本人、それは天子だった。
「て、天子…? どうして?」
紫は困惑していた。助けてとも言っていないし、アイコンタクトもとっていない。どちらにしても紫を助ける義理は天子にはない。
「勘違いしないで。私はあんたよりもこの下衆が気にくわないだけよ」
天子は思わずそう答えてしまった。勇姿ならば「女性が苦しんでいるのに助ける動機などありますか?」と答えるだろうと思い、天子もそう答えるべきであったと後悔した。
「フハハハハ! 気に入ったぞ! この呂布に喧嘩を売るだけでなく下衆と言う程気が強い女は初めてだ」
大男、呂布が笑い歓喜する。それまで女と言えば男の言いなり、偶に逆らう者がいても下衆だの何だのとは言わない。それ故に天子の気が強いと錯覚するのは無理なかった。
「青髪、貴様の名前は何だ?」
呂布が真顔になり尋ねると天子は答えるべきか迷ったが、素直に答えることにした。
「天子、比那名居天子よ」
「そうか、ならば今回は天子の顔に免じて引っ込むとしよう。だが天子、勇姿という小僧に伝えておけ。貴様の勝ち逃げは許さんとな!」
呂布がスキマから外へ出て元の世界に戻る。そして次の瞬間、安堵の溜息が紫から吐き出された。
「助かったわ…」
「ふん…これに懲りたら少しは自分の行動を顧みることね」
「…そうね。あんなのがいつ出てくるかわからない以上は自重するわ」
そして天子達は博麗神社の中へ入った。
「遅かったわね。紫」
博麗神社に着くと霊夢がそこに座り待ち構えていた。
「相変わらず博麗の巫女の勘は衰えていないわね、霊夢」
紫がそう言って部屋の中に入り、座布団に座る。
「そんなことはないわ。何せ勇姿さん相手じゃ私の勘も通用しないわ」
「彼は仕方ないわ…あれは《霊長類ヒト科》じゃなく《霊長類ヒトか?》だから」
紫と霊夢が雑談していると天子が手を挙げ、質問をした。
「…ねえ、その勇姿って奴の事をよく知らないんだけど、どんな人なの?」
天子は勇姿という男と一度だけしか話をしていない。その為、どんな人物かまだはっきり言ってわかっていないのだ。
「ああ、あんたは勇姿さんと余り話していないのね? 私の目線から話すよりも紫から聞いた方がいいわよ。その方が客観的な意見が多いしね」
紫に目配りすると紫は扇子を取り出し、口元を隠した。
「そうかしら? 私こそ主観的な意見が多いわよ?」
「とまあ、こんな風に勇姿さんの評価はバラバラね」
霊夢がそう溜息を吐いた。
「…具体的にはどんな人なの?」
「彼は博麗の代行、あるいは博麗の魔人という二つ名を持っているわ」
「魔人? 人じゃないの?」
「異変を超スピードで解決する勇姿の姿を見た天狗の新聞記者が新聞記事にしようとしたけれど二つ名が博麗の代行ではインパクトが薄い。そこで彼の新しい二つ名…博麗の魔人という二つ名が生まれたのが原因よ」
その新聞記者は自称《幻想郷最速》の射命丸文である。彼女は「清く正しく」をモットーとしている為、嘘は書かないが真実かと言えばそうではない。勇姿に言わせれば「(射命丸の新聞は)嘘を書かないから捏造だらけのクソッタレなマスゴミよりもマシ」らしい。
ちなみに何故自称幻想郷最速なのかというと、霧雨魔理沙が射命丸文を抜いて最速の座を奪い取った…という訳ではない。勇姿が異変を解決する際に射命丸を速度でも戦闘でもボコボコにした為である。
「…それだけ?」
「それだけよ。どーせインパクト重視で書いたからいい加減なものよ。あの人に魔力はおろか妖力も霊力もありゃしないから魔人とは程遠いわよ」
霊夢の言う通り、勇姿にはそのような力は全くと言っていいほどない。それにもかかわらず、霊夢をはじめ多くの幻想郷の住民達と戦い勝利している。普通であればそのような力がなければ勝利するどころか文字通り死んでもおかしくない。紫が勇姿の事を《霊長類ヒトか?》と分類するのもその為である。
「…うーん、確かにそう言う意味では納得したけど中身の方を知りたいよのね」
天子が腕を組んで、霊夢達に尋ねると霊夢は少し考えて口を開けた。
「そうね…勇姿さんを一言でいうと努力の天才ね」
霊夢は風鈴のように安らぎを与えるような声でそう告げた。
「努力の天才?」
「そう、勇姿さんは練習、訓練、特訓、修行の毎日を送っているわ。どんなに時間がなくとも必ずと言っていいほどそれらを行っているわ。紫、あんたも幻想入りした当初の勇姿さんの事を観察していたから知っているでしょう?」
「…今でも想像するだけで嫌になるわ。私の前ではほとんど見せなかったけど一度だけ見たら丁度彼の裏拳の練習をしている時に当たって歯が折れたわ…多分わざとなんでしょうけど」
「なんでわざと?」
「当時、私は勇姿を敵視していたのよ。彼を観察している時に幻想郷を支配するとか言っていたから…結局誤解だったんだけど」
紫が昔の頃を懐かしむように頷いた。
「話を戻すわ。勇姿さんは紫の妨害にも負けず、ただただ自分を磨いて言ったわ…私はそれが羨ましかった」
「そうなの霊夢?」
その質問は天子ではなく、紫から出たものだった。
「そうよ。私には努力する才能がない…というより勇姿さんのようにかなり長い目で見れないわ。努力して苦しい思いしても大して成果は上がらない上に何もしなくても素質と勘のみでどうにかなる。恵まれた素質故の弊害って奴なんでしょうね…」
「なるほど隣の芝生は青いって奴ね。自分が持っていないことに憧れる…霊夢の場合は努力の素質がなかったって訳ね」
「そうよ。だから勇姿さんに惹かれたし、今の生活を崩したくない…なのに!」
霊夢は机を叩き、あるものを二人に見せた。
「こんなのないわよ、勇姿さん…」
「これは手紙みたいね…え〜と我が愛しき霊夢へ…」
【我が愛しき霊夢へ
俺はお前の愛を受けてから、お前に恋をしていた…だからお前を嫁にするべきなのだろう。だがお前は俺に対して依存し過ぎている節があり、このままでは俺も霊夢の事を依存することになるだろう。故に少しの間冷却期間が必要だと感じ、とある場所に移住することにした。部下であるにもかかわらず、黙ってここを出て行ってしまった馬鹿な俺を許してくれ。
大和勇姿より】
「何でよ、何で、勝手に出て行っちゃったのよ…!」
紫の声で再生された手紙を聞いた霊夢は泣いていた。
「だからこそじゃない?」
天子がそんな事を言い出し、霊夢の泣く声が止んだ。
「…まさか、私の依存を治す為って言いたいの?」
「出かける前に勇姿と会ったんだけどその時の顔つきは策を打ったような顔つきじゃなく、これから何かをするような感じだったわ。少なくとも霊夢を放置してお終いって訳じゃないと思うの」
「ちょっと!? 勇姿さんと出会ったって本当!?」
霊夢が天子の首元を掴み、額と額がくっつきそうになるくらい近づく。
「グェッ……! 本当よ、本当!だから離しなさい、霊夢」
天子の言葉に従い、霊夢は手を離す。
「全く、確かに依存しているわ。これじゃ勇姿が心配する訳ね」
「そんな話はどうでも良いわ。私の事とか、どこへ行くとかそんな情報はないの!?」
「ないわ。神社の柱云々の世間話よ。これからやらねばならないことがあるって言って立ち去ったわ」
天子がそう告げ、霊夢は項垂れる。
「とにかく霊夢、勇姿が戻って来るまで時間はあるから嫁入り修行しましょう? 少しでも勇姿の期待に応えて、笑顔を見せてくれる為にも…ね?」
流石に霊夢を哀れに思った紫がそう声をかけると、霊夢は凛とした顔つきになり決意した。
「紫の言葉に従うのはちょっと癪だけど、勇姿さんの笑顔を見る為なら仕方ないわね。やってやろうじゃないの!」
気合の入った霊夢の声が博麗神社に響くと隣の部屋で爆睡していた人外達の体が飛び上がり、横のままジャンプするという器用なことをしていた。
「そうよ、霊夢。私も手伝」
手伝うわ。そう言おうとしたが霊夢の次の言葉によって遮られた。
「あ、紫はいいわ。藍に教えて貰うから」
「酷くない!?」
当然と言えば当然である。紫がポンコツ…という訳ではない。幻想郷を管理するという立場から普通に考えて紫は多忙な立場であり、家事などの雑用をする間はない。故に式である藍の方が雑用をする場合が必然的に多い。多忙でなくとも主人が従者の雑用をするなど、従者がペットか子供などの雑用能力皆無なものでない限りあり得ないのだ。以上のことから紫の雑用能力よりも藍の雑用能力の方が期待出来る。
「私もいつか嫁入り修行することになるのかしら…」
それを見ていた天子は溜息を吐いた。
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