強面男が幻想入り 作:疾風迅雷の如く
あれほど探していた
俺を幻想郷まで連れてきたあげく、能力までつけた奴はいい-というかだいぶマシな-奴なんだろうが、何故俺をここに連れてきたのかがわからない。俺を直接幻想入りさせた紫は基本的に人間を食料として幻想入りさせている。もちろん例外もあるがそれは能力持ちの人間だ。それもごく少数しかいない。その理由は幻想入りする際に大半が妖怪の住処とも言える場所に着いてしまうからだ。
だから能力持ちでない人間は確実に妖怪の食料にされていると言っていいくらい妖怪に殺られ、能力持ちであっても覚醒していなければ妖怪達に殺られる。例外と言えばよほど運の良い人間かよほどの実力者かのどちらかだ。もちろん幻想入りした先が博麗神社に着いた俺も例外のうちの一人だ。
それはともかく俺は戦闘機で天界に来ていた。その理由は自分の力で空を飛ぶよりも戦闘機の方が速いからだ。普段通りの異変であればのんびりとしても問題はない。
しかし今回はそうじゃない。
そんな訳で
そしてその場所に近づくと屋敷が見え、首謀者はそこにいると確信した。
「あいつの仲間がやってきたぞ!」
天界にいる住民だから天人と呼ぶべきだろうか、そいつらは俺に向かって数百の弾幕を放ってきた。
…どうやら歓迎されていないようだな。それにしても
「じゃかましいっ!そこを退かないならばお前ら全員叩き潰す!」
ドスの効いた声でそう告げると俺は目の前に戦車を久々に召喚し、盾にして弾幕の雨から逃れた。
「さらばだ!」
俺は盾にした戦車を持ち上げ、ハンマー投げの応用で投げる。すると戦車が次々と建築物を破壊し向こう側がパニックになる。…頃合いだな。
DOGAN!!
天子がいるところで戦車をコードを使って爆発させ、奴に挨拶する。物騒かもしれないが向こうが先に喧嘩売ってきた以上お互い様という奴だ。
ちなみに戦車を投げられたのは俺にも謎だ。少なくとも幻想入りする前の俺はそこまでの力はなかった。精々あったとしても車を持ち上げるくらいが限界だった。だが依頼をこなしていくにつれ無自覚のうちに力が増していった。ゲームでいうなら隠しパラメータに相当するかもしれない。
『首謀者 比那名居天子を倒しました。』
…おいおい終わりか?あれだけ引っ張っておいてもう終わりか!?戦車の爆発くらいで伸びるなよ…普通あの展開なら絶体絶命の危機のところで奇跡が起こるものだろうが!まるで俺が悪役みたいな感じだ…
『妨害者 博麗霊夢、妨害者 守矢諏訪子、妨害者 永江衣玖、extra 一、妨害者 その他大勢を倒した為ボーナスが与えられます』
extraが一なのはわかるが妨害者 その他大勢って何だよ?今なら高校の時隣にいた究極のバカの気持ちがよくわかる。
究極のバカは「因数分解ってなんだよ?勝手に分解するなよ。自然のままにしておけよ。」という風に常に疑問に持っていた。
要するに理解不可能ということだ。
『その他大勢をリストに載せますか?』
そんな親切はいらん!とっとと今回のボーナスの説明をしろ!
『今回のボーナスは従来のシステムやコードのパワーアップ及び新規システムやコードの追加となります。』
何だ…いつも通りか。とりあえず変わったところだけ見てみるか。
最初はコマンドだな。一番に確認しないとわからなくなる。
『マップ検索機能(up↑)』
検索機能がパワーアップしたことによって無機物が検索できるだけでなく無機物に限ってその成分の名前を検索すれば同じ成分を含んでいる無機物を検索出来る…例えばコンクリートなら粘土や石灰を含んでいるから粘土と検索すればコンクリートを含めた粘土の場所を検索することが出来るってわけだな。
『袋・倉庫の収納機能(up↑)』
袋や倉庫に入れられる種類と個数が無限になっただけでなく、半径500m以内のものであれば収納出来るようになった。
『各場所へのワープ(new!)』
…これが一番使えるんじゃないのか!?もっと詳しく説明しろ!
『このコマンドは幻想入りしてから貴方自身が行ったことのある場所へ瞬間移動するコマンドです。貴方自身が行きたい場所を選択すればすぐにでも瞬間移動が可能となります。ただしまだまだ制限がございますので注意してください』
便利すぎる…だが『幻想入りしてから』という条件である以上幻想郷から抜け出せないか。何にせよかなり重要なコマンドだということはわかった。
次はコードか…これも重要なんだよな。異変イベントよりも依頼イベントではコマンドよりも重要になる。
『無想転生(up↑)』
無想転生の使用時間増幅がメインか。このコードは依頼イベントで手にしたコードだから異変イベントとは無縁なはず…現時点で無想転生習得していなかったらどうなっていたんだ?
『天候操作(up↑)』
天候操作は決まった天気を周回して変えたが今回になってそれは変わった。今回からは天候操作は周回せずとも任意のコードを入れればその天気に変化するというものだ。本当に天候を自在に操れるようになったわけだな。
『市民の服装変更(new!)』
…これは何というかカオスなコードだ。人間、あるいは妖怪の私服を変えるコードだな。服の流行を操るコードとも言える。…今度実証してみるか。
主に変わったものはこんなものだろうか。細かいところはほとんど無視だ。それよりも異変を起こした阿呆をとっ捕まえて白状させるか。今回の異変は何が原因だったんだ?天子の事を少し調べるか…
『比那名居天子
性別 女
種族 天人
能力 地面を操る程度の能力
状態 気絶』
地面を操る程度の能力…確かに神社で起きた地震はこいつが原因だな。つまり天子は神社を破壊しようと地震を起こし異変イベントに繋がったということか。しかし妙だな。それだったら異変イベントでなくとも依頼イベントでも良さそうなものだが…引っかかるな。袋に入れて紫に引き渡すか。
あいつは暇人なくせして仕事を少ししかしない-その少しが紫にしかできないのだが-奴だが幻想郷の国士、言ってみれば幻想郷第一主義者だ。その幻想郷の要である博麗神社をぶっ壊そうと企んだ天子に対しては容赦しねえだろうな。幻想郷を支配しようと企んでいた-実際には企んでもいないが-俺に対しては目の敵にしていた。ぶっ壊す云々は推測でしかないが天子にキツイお仕置きが待っているのは確実だ。
「あれ勇姿さん?どうしてここにいるの?」
そんなことを考えていると霊夢が話しかけて来たので一旦思考を止め、霊夢と話しをすることにした。
「どうしたもこうしたも異変の犯人を倒してきたんだよ。」
「じゃあ、異変の犯人はここにいたのね!?」
「そうだ。お前の言う通りだったぞ。今度からお前の勘を信じてみよう」
「うん…!」
…霊夢の様子が変だな?この場合何か一つ言い返しそうなものだがただ返事をするだけなんて珍しい。じっと見つめると霊夢の顔が赤くなっていることに気づき、霊夢に尋ねた。
「霊夢、熱でもあるのか?」
俺は自分の額と霊夢の額をくっつけて熱を測るために霊夢に近づこうとした。
「な、何でもないわ!それじゃ博麗神社に戻るから勇姿さんも早く来て宴会の準備手伝って!」
しかし霊夢はさらに顔を紅潮させるほど物凄い勢いで離れ、その場を去ってしまった。…本当に大丈夫なんだろうな?あいつは俺を良く言えば尊敬、悪く言えば依存をしているが恋はしていない。
だが霊夢はその尊敬が恋だと勘違いしている可能性がある。何せ俺と霊夢は3つ年下だ。つまり出会った時の数え年で換算すると俺の年齢は19なのに霊夢は16だ。早期恋愛や早期結婚が目立つ幻想郷とは言え巫女、それも幻想郷の要の博麗神社の巫女となれば青春のせの字も知りえないし恋が何たるかもわからない。…もっとも俺もわからないが尊敬と恋と同一視している霊夢よりかマシな方だ。
だからこそ俺はその尊敬、否依存をなくしてから霊夢の意見を聞きたい。そうと決まれば博麗神社に戻って霊夢の依存を取り除く方法を考えよう。
〜博麗神社〜
…霊夢の依存を取り除く方法を考えてみたが何も思いつかない。親戚共が俺を認めるキッカケとなった焼き餃子を作り終え、俺はそう決断を下す。随分決断するのが早いとか思うが何も思いつかないのは事実だ。霊夢を人里に住まわせて人里のバカップルを見せてやろうとも考えたが霊夢が神社にいないのは論外だし、それまでの首謀者やextraに相談してもほとんどが恋愛経験皆無だ。藍は恋愛経験豊富だったがろくな思いをしていないし、輝夜は弄んだたげで恋愛とはいえん。参考になったのは諏訪子くらいか…?あいつの子孫が早苗だしな。ちなみに萃香が何をトチ狂ったのか「喧嘩と酒には恋しているよ!」などほざきやがり、その後色々と他の連中も騒ぎ出したので無視した。
「それにしても勇姿、そんなことを言うなんて珍しいじゃないか」
そんな中、神奈子が俺に話しかけてきた。
「八坂の神…」
「普通に神奈子でいいさ。それよりも何でいきなり恋愛なんて言い出したんだ?」
「俺に対する霊夢の依存を治したくてな」
「あの紅白巫女があんたに依存ね…」
「そうだ」
「しかし別にそれなら良いんじゃないのかい。あの博麗の巫女に慕われるんならそれで良いじゃないか」
「慕う程度ならいい…だが霊夢は俺と結婚しようとするくらい依存している。あいつは恋をせずに生きてきた。だから尊敬と恋を一緒にしている。少しでもその恋に触れさせて尊敬と恋は別物だと教えてやりたいんだ」
「そうか…なら心理学のスペシャリストと会ってみないかい?」
「そんな奴どこにいる?」
俺は咄嗟に頭が良い二人組である紫と八意永琳を思いついた。紫は妖怪の賢者と呼ばれるほどの謀略家であるものの心理学のスペシャリストって訳ではない。八意永琳も普段は医者染みたことをしているが本業は薬師だ。心理学が特別得意という訳でもない。
「そいつは地底にいる。」
神奈子の言葉を聞いて俺は戦慄した。
地底。萃香と同じ鬼を始め凶暴な妖怪達が住むところでその個性は様々だ。だが確実に言えるのは幻想郷の妖怪よりも恐ろしく危険極まりない。その為紫は幻想郷の妖怪と地底の妖怪との交流を基本的に禁じている。
とはいえ、幻想郷のロリ閻魔には敵わないらしく誰もが避けるらしい。その事から俺の世界で使われる諺は泣く子と地頭には敵わないだが、幻想郷の場合だと泣く子と地蔵には敵わないとなる。何で閻魔ではなく地蔵なのかというとその閻魔が地蔵だったからだ。以上豆知識だ。
「その地底にね、私も用があるんだ。良かったら一緒に行かないかい?あんたがダメなら他の奴に頼むさ」
「いや行こう。どうせ博麗神社に居ても仕事の毎日だ。息抜きにはちょうど良いだろう」
それにワープ場所に地底も加えたいしな。
「地底に行くのが息抜きか。大したもんだよ。明日の昼、地底に入ったところで待っている。霊夢に見られたら色々マズイだろう?」
確かにな…神奈子は俺の好みではないがそれでも女としては魅力的だ。下手したらデートにも見えかねない。それを面白おかしく書くような天狗に見つかったらその天狗が霊夢に殺されるな。
「わかった」
「ま、先に地底に来ても良いし昼に来なかったら私は目的の場所に行くだけだから問題ない」
「そうか。じゃあまた明日…」
そう言って俺は神奈子と離れると他の奴に話しかけに向かった。
「紫、話がある」
「あら、勇姿…どうしたの?さっきの恋バナの続き?」
「今回の異変の首謀者…比那名居天子についてのケジメはどうした?」
紫が不機嫌そうに顔を歪め、俺の問いに答える。
「本来であれば万死に値するわ。何せ博麗神社を壊そうとしたんですもの…」
「俺が地震止めをしなければ奴は死んでいたか?」
「ええ。もし本当に壊していたら殺さざるを得なかった。今回は未遂行為でまだ弁解余地もあったわ」
「あいつに弁解余地なんてあったのか?」
「何でもあの薬師が言うには
また
「何故記憶が戻るまでなんだ?」
「罪は償ってこそ意味がある。記憶もないのに悪行を償うのは筋違いというものよ。それに彼女から色々と聞きたいこともあるしね」
だから紫の機嫌が悪いのか。このまま紫が天子にケジメをつけさせてもポリシーに反するし、つけさせずとも怒りは収まらないということか。
「それもそうか」
だが妙だな…天子と戦う前に
となれば陰陽術ではない可能性が高い。だが八意永琳がそんな診断ミスはしないし紫もそれに気づくだろう。天子だけでなく八意永琳、そして紫すらも記憶操作されている。
俺が操作されている可能性もあると言うのも考えたが俺の場合は幻想郷に来てからの記憶がはっきりしているし、何よりも記憶操作をされたのは幻想入りする前の俺の過去についてだ。それ以外は弄られていない。
やはり俺をここに呼び寄せた黒幕はいるか…
「それと勇姿、その薬師とそのお姫様が貴方を呼んでいたわよ」
「あいつらが…?わかった」
俺は八意永琳と輝夜の場所へと駆けていく。
「あ、来た来た」
輝夜の笑顔は霊夢の上位互換だと思えるくらいに眩しい。流石帝をも虜にした女だ…
「それで宴会の時間に何の用だ?」
それはさて置き、俺は用件を尋ねた。輝夜が美しいのはわかるがそれでしどろもどろになっても意味がない。
「貴方の血を調べたいから献血に協力してくれないかしら?」
俺の血か…そう言えば今まで献血したのは16の時に一回しただけだな。たまにはいいか。
「あー!ズルい!私だって勇姿の血を吸ったことも見たこともないんだよ!」
俺が口を開けようとしたらフランがそこにいて口出しして来た。何が悲しゅうてお前に血をやらなくちゃいけないんだ?第一吸血鬼の好む血液型はRH+のBであって俺はそれとは違う。
「あら可愛らしいお嬢さんね。お名前は?」
ここで丁寧な対応する輝夜は端から見れば間違いなく美人だと思うだろう。
「フランドール・スカーレット。勇姿の友達よ!」
「それじゃフランちゃんって呼ぶわね。フランちゃんはどうしてこのお兄さんの血が欲しいのかな?」
「吸血鬼だから!」
「フランちゃんは吸血鬼なのね。でも後でこのお兄さんの血をたっぷり分けてあげるから最初にこのお兄さんから血を貰っていい?」
輝夜がここまでするのは理由がある。俺の血を求める理由そのものはわからんが献血を一度してしまうと何ヶ月か献血は出来なくなるからだ。その為フランに交渉している。
「ダ〜メ〜っ!勇姿の初めては私が貰うの!注射器に先を取られるのは嫌!」
そもそも献血しているから初めてじゃねえよ。
「まさしく男の取り合いをする2人の女ね…」
ボソッと八意永琳が呟くが2人の口論の声に掻き消された。…それにしても過激になってきたな。時々性悪ビッチとか淫乱とかそんな言葉が聞こえる以上この場を去ろう。
「八意永琳…他の場所で話そう」
「あら三股?いえ霊夢も入れると4股ね」
「アホなことを言っていると今度から援助金減らすぞ」
永遠亭は医療機関なだけあり、膨大な金が必要だ。俺の世界では親父が国をはじめとした様々な機関に寄付していたからほとんどが無料で使えるが幻想郷では違う。幻想郷には機関に影響を与えられるほど寄付出来る人物はいない。
しかし援助金なら話は別だ。援助金は寄付とは訳が違う。寄付は善意の寄贈-流石に年収6000万以上の家庭ならば賄賂の意味になる-だが援助金は言ってみれば善意の借金だ。つまり援助金は回収可能あるいは見返りが求められるような金だ。それなら普通に出せるという訳だ。もちろん寄付金も援助金も一番出しているのは俺だ。特に援助金に関しては過剰なくらいで奴らが贅沢出来るのは俺のおかげとも言っていい。
「それは勘弁ね。…本題に入るわ」
「本題?」
「どうも最近虫歯になる患者が多いのよ。治療費を貰えるこっちとしては嬉しいんだけど、仕事が多すぎて…どうにか出来ないかしら?」
「月の頭脳も金の稼ぎ方に関しては下手くそだな」
「だいたいそんなものよ。人の評価なんて」
下手くそなのは認めるのか…
「金の稼ぎ方云々はともかく、虫歯になる原因は人里で歯磨きの文化が進んでいないからじゃないか?」
「それはそうね…」
「一度人里で歯磨きの講演会を開いて歯ブラシと歯磨き粉を支給するのはどうだ?」
「なるほど…その手があったわね。虫歯のことを教えるついでに歯周病についても話せるし、宣伝にもなるわ」
「それだけじゃない。歯ブラシや歯磨き粉も商品として売り出せば楽してぼろ儲けだ。まさか薬師であるお前が歯磨き粉を作れないというわけではあるまい」
「流石は大和財閥の四男坊ね。そこまで計算出来るとは…」
これくらいのことは当たり前だぞ。むしろこれだけのことを計算しないでどうしろと言うんだ?だがそれ以上に気になるのは…
「四男坊って誰から聞いたんだ?」
俺は八意永琳にはそのことを話していない。話したのはごく少人数だ。
「あそこの緑の巫女よ」
「早苗か…口が軽い奴だ」
「まあ私が貴方の正体を知る為に無理やり聞き出したんだけれども」
前言撤回、早苗の口が軽い訳じゃないな…自白剤とかそんなものを飲まされて話してしまったのか。薬のせいで自白させられるのは仕方ない…ただし婆さんがこの話を聞いたら「麻薬どころか自白剤に負けるなんて精神力が足りさなすぎる!」と怒って稽古するだろうな。…婆さんは麻薬吸ったことあんのかよ?そしてそれを自力で克服したのかよ?というツッコミはしない。ああいう人間だからな。
「…これからも患者を連れてきた時はよろしく頼むぞ」
「もちろんそのつもりよ」
これで一安心だな。地底に行く準備でもしておくか。
よろしければ感想の方もよろしくお願いします!!!!