強面男が幻想入り   作:疾風迅雷の如く

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注意!今更ですが日常回に限らずこの小説は基本的にぶっ飛んだ話が多いです。


第40話

レミリアは勇姿が紅魔館を襲撃する夢を見てから怯えていた。開き直って運命を操り、間接的に勇姿を殺そうとした。だが無駄だった。どのくらい無駄かというならば永久脱毛したところに市販の育毛剤を使って毛を生やそうとするくらい無駄だった。

 

通常、運命を操るには対象者の運命の分岐点を見てどうなるか予測する。そしてそこから運命の分岐点をなくし都合のいいように操る…この方法で当時吸血鬼狩りをしていたハンターを抑え、部下にし、そして妹も抑えてきた。

 

しかし分岐する運命をガン無視してしまう例外がいる…霊夢だ。運命は道路のようなものだ。そこから外れたら脱路してしまう…つまり死を迎えるのと同じことだ。

だが霊夢はその運命の道路の上を飛んでいる。霊夢の能力は【空を飛ぶ程度の能力】であり、幻想郷の住民の中では平凡な能力のように聞こえる。しかしそれはとんでもない思い違いであり実際には幻想郷の中でも相当強い能力である。その能力の特徴はRPGでボスに即死魔法が効かないのと同じように、霊夢は何にも影響されないということだ。

 

では勇姿の場合はどうなのかと言われれば霊夢のような例外ではない。魔理沙や咲夜等、普通の人間と同じように運命そのものは見える。しかし運命の分岐点がないのだ。

普通の人間が人一人歩けるくらい狭い道だとするなら勇姿の運命の道筋はアスファルトが限りなく続く平野のようなものだ。そんなところで通行止めの標識を一つ置いたとしてもその横を通られたら意味がない。常識は投げ捨てるものである。

 

しかしそんな力技で屈するほどレミリアはれみりゃ(ヘタレ)ではない。自らの運命を操り、勇姿に挑んだ…がダメだった。

敗因は勇姿が強すぎた。この一言に尽きる。謀略戦に持ち込もうとしても妖怪の賢者と呼ばれる紫を嵌めた相手では勝てる訳もない。

 

しかし紅魔館の当主のメンツという物もあり、勇姿から戦略的撤退することはあっても逃げることはない。そこで考えたのが月に遠征して成果を上げるという考えに至った。月の住民はどうも過大評価されている。紫の指揮の下、鬼や天狗等の当時最強クラスの妖怪達がほぼ全滅したと言われているがそんな話あってたまるか。

紫が無傷だったということは紫に嵌められたと考えるべきだろう。嵌められさえしなければ何一つ問題はない。それよりもあの怪獣の方が恐ろしい。レミリアの評価はそんなものだった。

 

「発射!」

そして遂にロケット(パチュリー作)を使いレミリアは月へと向かった。まだ勇姿は来ていない。フランドールの口からレミリア達が月へ行くことを漏らしたのは誤算だったがそれでも間に合った。

「はっはっはっ!これで恐れるものはないっ!見ろっ!この美しき青空を!」

カリスマックスなレミリアがハイになりロケットの窓を見る。そこには幻想郷の景色と青空が映し出されていた。

「さらば博麗の代行!大人しく指でも咥えて私達の吉報を待っていろ!」

そしてレミリアは振り返り、連れてきた咲夜と妖精メイドに演説しようと振り向く。

「諸君!」

そして演説が始まり、妖精メイドも静まり返った。するとこのロケットとは別の音が聞こえ、妖精メイド達の方向にある窓を見る。

その数秒後、戦闘ジェット機に乗った勇姿と目が合い、勇姿は獲物を見つけ動物のように笑った。

「なっ…!?」

レミリアが声を出そうとした瞬間、勇姿はとっくに動き、ミサイルを発射していた。

 

ジリリリ!バンッ!

 

「また碌でもない夢を見てしまったわね。」

そしてレミリアは河童から洗濯機を購入する際にオマケで貰った目覚まし時計を叩き、身体を起こす。ここのところレミリアはこんな夢ばかり見る。特に勇姿と接触する時間が迫るほどその時の夢をはっきりと見る為、どうしようもないのだ。

 

「月へ行くの止めよう…」

レミリアは即判断し、パチュリーの元へ急ぐ。だが足を止めた。

「お嬢様。妹様と勇姿様がお見えになりました。」

その理由がこれだ。夢…特に勇姿がレミリアを攻撃する夢を見る時は勇姿がやって来る時であり、絶対に逃がれられない。

「ふむ…」

咲夜の伝言を受け取り、レミリアは考える。どうせ勇姿を除け者にしても咲夜の攻撃を物ともせず勝手に入ってくる。

「熟睡していると言っておけ。」

「畏まりました。」

となれば顔を合わせないのが一番良い。レミリアは咲夜に伝えると自分の部屋へ狸寝入りしに向かった。

 

数分後

 

「あれれ?お姉様本当に寝ちゃっているの?」

妹、フランドールが何故かレミリアの部屋にやって来て顔を近づけるがレミリアは当然無視した。今の自分は寝ているのだから…

「起きなきゃ擽って起こしちゃうよ?それでもいいの?」

その後、レミリアはすぐに起きた。

 

「はぁ…で?私に何か用?フラン。まだ昼間だし寝たいんだけど。」

ため息を吐き、レミリアはうんざりした顔でベッドから降りる。

「お姉様、どうせそんなこと言ってまた勇姿にビビっていたんでしょ?」

「うるさい。あの代行は危険極まりないのは初見で分かっているでしょ?」

レミリアのいう通り、フランドールは勇姿を見た途端パニックになった。その結果があのザマである。そうでなくともあのザマになっていたが細かいことは気にしない。

「確かに敵になった時は怖いけど、案外優しいし、参拝客の人も勇姿のことを良く思っているよ?」

しかしフランドールはそれを悪く思っていなかった。大和勇姿という人物がどんな人物かよく知ることが出来、幸せな生活を送ることが出来た。

「フラン、そんな人間の言葉なんかアテにするのは間違っているわ。」

「もちろん人間だけじゃないよ。萃香だって、フウだって皆勇姿のことを信頼しているよ。」

「フラン、どちらにせよ私の意見は変わらないわ。諦めなさい。」

「むぅ…」

レミリアがバッサリとフランドールの意見を切り捨て、フランドールは拗ねた顔になった。

 

「それで他に用は?」

「お姉様、月に行くって話あったでしょ?」

「まさかそこに代行を乗せろ…なんて言わないでしょうね?」

「言わないよ…私が言いたいのはお姉様が月に行かないように勇姿に説得しにもらいに来たの。」

「…そういうことね。」

もしかしたらこの事を伝える為にあの夢を見たのか…そう思うと馬鹿馬鹿しい。レミリアはクツクツと笑い始めた。

「お姉様?」

「いや何でもない。私は月に行かないわ。フラン、代行やパチェにもそう伝えておいてくれないかしら?」

「直接自分の口で言ったらどうなんだ?」

そしてレミリアのトラウマとも言えるその低い声が鼓膜に響き渡り、汗がダラダラと流れ出てきた。

 

「あら、代行…レディの部屋に勝手に入ってくるなんて礼儀がなってないんじゃない?」

だがレミリアは動じていないように見せた。レミリアはプライドが高く見栄を張ることも多い。それがレミリアの長所でもあり短所でもある。

「何分経ってもフランが戻ってこないからな。不安になって様子を見に来ただけだ。」

「随分過保護ね。私も人のこと言えないけれども。」

「俺が不安なのはお前たちがまた姉妹喧嘩を始めてしまわないかということだ。」

勇姿はレミリアとフランドールの姉妹喧嘩を何度も見ており、姉妹仲が悪いことを知っていた。それ故に不安でここに入ってきたのだ。

「勇姿、私達の姉妹仲を心配しているの?」

「そういうことだ。俺は俺の兄貴達と仲良くやっていたおかげで何度も助かり、兄貴達も成績や就活…ありとあらゆる事が上手くいって成功している。良い環境は成功をもたらすってことだ。」

「…代行、貴方にも兄弟がいたのね。」

「…俺に兄弟がいておかしいか?」

「いいえ。なんにせよパチェには私が伝えておくわ。それとフラン、貴女がいつ帰ってくるかわからないから定期的に手紙を送りなさい。」

「はーい♡」

こうしてレミリアの月侵略は終わった…

 

〜月〜

 

レミリアが行く予定だった月は世紀末となっていた。

「ふははははは!その程度でこの呂布を止められるとでも思ったのか!!」

その原因は勇姿を子供あつかい…いやそれ以上にボロクソにした呂布である。

「雑魚が…どけいっ!」

呂布の拳圧で月人が扇風機に飛ばされた紙吹雪のように舞い飛ぶ。

 

さて何故呂布が月にいるのかと言われるとまたしても紫のせいである。

紫はかつて勇姿を抹殺する為に平行世界の後漢へと飛ばした。しかし勇姿の能力によって呂布が倒され失敗した。しかも紫が唖然としている間に勇姿は隙間の中に潜り込み、見事幻想郷に戻った。

…もうおわかりいただけた推理力豊かな人の為に答え合わせをしていく。

そう、答えは勇姿が隙間の中に潜り込んだ際に呂布も潜り込んだのだ。

勇姿のことだけで頭がいっぱいになっていた紫に呂布を確認する余裕もなく、そのまま放置しており、呂布も呂布でその中で過ごしていた。しかしそんなある日、呂布は生活に飽きて隙間の中から出てしまったのだ。着いたその先が月である。

 

そして呂布が食料を調達に出歩くがその異様な服装から月の民は呂布を攻撃してしまった。しかもあの伊吹萃香を吹っ飛ばした勇姿の攻撃すらも効かない相手だ。いくら進んだ文明の月の民とはいえ所詮は一介の兵士。対生物用の武器しか持っておらず呂布を倒すにはそんな武器では通用しない。そして冒頭のシーンへと移る。

 

「この俺をもっと楽しませろ…!」

「そこまでだ!」

世紀末救世主…ではなく、月人救世主が呂布の前に現れた。そう、その正体とはかつて元天魔をボッコボコにしただけでなく数多くの妖怪達相手を倒してきた伝説の姫…綿月依姫だ。

「…ほう、これまた面白そうな奴だ。あいつ以来の楽しみだ。」

呂布は笑みを浮かべ、胸を高ぶらせる。

「貴様に問う、何故我等月人を襲った。」

「食料の調達以外の何物でもない。聞き分けが悪かったのでな…少々お仕置きしたら向こうから襲ってきただけのこと。」

「食料強奪か…この外道が。」

どちらも人の話を聞かず、二人の拳が交じる。体重の軽い依姫が吹っ飛ばされ、地面に根伏せてしまい呂布が月の民から奪ったハルバードを使い依姫の頭を狙う。

 

ダンッダンッダンッ!!

 

しかし依姫はそれを避けて対処するが自慢のポニーテールが切られてしまった。

「(あ、危なかった…!!一瞬でも反応が遅ければ間違いなくミンチにされて死んでいた!)」

依姫は内心そう感じていた。呂布の攻撃は拳圧だけでも月の民を吹き飛ばす為に、ハルバードを持ったらどうなるか想像がつくだろう。鬼に金棒というがそのレベルではない。鬼に金棒、勇姿に対物ライフル、呂布にハルバードである。

 

「小娘、面白い!面白いぞぉぉぉっ!」

そして呂布が依姫に向かってハルバードを振る。依姫は体勢を整え、剣を構える。

「えっ?!」

次の瞬間、呂布はどこにもいなくなっていた。そしてそれを引き起こした犯人…もとい、もう一人の救世主(メシア)が現れた。

「姉上!!」

そう、依姫の姉である綿月豊姫だった。彼女は依姫のような戦闘能力こそないが交渉や内政能力に長け、紫と交渉したのも彼女である。

「依姫、もうあいつはいないわ。」

豊姫がそう宣言すると依姫は剣を杖のように扱い、体を支える。

豊姫の能力、それは瞬間移動だ。非戦闘能力のように見えるがとてつもなく強力な能力で対象をどんな場所にも移動させることができるというものであり、それを使って月を滅ぼしかねない呂布を移動させたのだ。

「…それでどこに行かせたんですか?」

「幻想郷。本当なら三途の川の中に移動させて溺れさせたかったけどそれは流石に無理だったわ…あの男は。」

「…あそこには策士もいますし、多分大丈夫でしょう。」

こうして月で起こった異変は幻想郷に擦りつける形で終わった。

 

もちろん紫の隙間によって呂布は無事後漢へと帰っていった。なお引き起こした紫は「幻想郷にはもっと化物がいるのでその相手をしていた。」や「妖怪達相手に無双した月の皆様に警告するまでもなかった。」などと供述しており全く反省していなかった。

 

また月の最高戦力である依姫がバカにしていた地上の人間に負けかけたことによって月の民の意識が変わり、これまで以上に軍隊訓練がキツくなったのはいうまでもない。


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