強面男が幻想入り 作:疾風迅雷の如く
「ちょっと勇姿さん。ここでやらないでよ。」
私は抗議していた。その理由は勇姿さんが料理教室を開くとかいう理由で神社を占領してしまったからだ。
「お前の気持ちもよくわかる…だがなこれはいい機会なんだぞ?」
「いい機会?どこが?」
「博麗神社に来ることで信者が増える可能性がある。」
「へ?」
「お前は美人かそうでないかと言われたらかなり美人だ。お前の顔目当てに来る人間もいる。俺はすでに人里に顔見知りとして知られているから恐れられる心配はねえ…ってどうした?」
「…」
この人なんでこうも簡単に口説くんだろう…私が美人…?勇姿さんからみてそう思われていると顔が真っ赤になったわ…
「おい、大丈夫か?」
気がつくと勇姿さんの顔が目の前にあり、私はそれを見て動揺した。
「えっ!?うん、大丈夫よ…」
顔はイカツイけれど彼の本心は間違いなく私を心配していた。
「そうか。それじゃ俺の助手を頼む。」
「わかったわ。」
私はその後準備をしてオムライスとやらを食べてみた…見た目通り美味く、舌がとろけるような感じだった。
料理教室が終わりお賽銭を確認するといきなり風が強く吹き、私のスカートがめくれ上がった。
「きゃっ!?」
私はそれを抑え、勇姿さんの方を向くと彼は全く別の方向へ向いており、何かを気にしていた。
…そういえば気にしていたで思い出したけれど勇姿さんはレミリアとほとんど話していないというか異変以来話していないらしい。その理由は勇姿さんのいないところを見計らってレミリアは私のところに来ており、勇姿さんが近づくと消える。宴会を通してレミリアと勇姿さん仲を取り持ってみようかしら…勇姿さんへと恩返ししましょう…
「勇姿さん、宴会の準備をするわよ。」
「何故だ?」
「なんかね…宴会しなきゃいけないと思って…それに勇姿さんはレミリアと仲良くした方が良いと思うわ。」
「…まあ確かに嫌われるよりかマシだがあいつの方から避けられているしな。あいつの方から歩み寄ってくれなきゃ何一つ出来ない。」
「そういうことで紅魔館によろしくね。勇姿さん。私は他の連中を呼びに行くから!」
私はそう言って魔理沙達に呼びかけに向かった…
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「それでは料理教室を開催します。私の名前はご存知かもしれませんが大和勇姿、この料理教室の先生です。よろしくお願いします。」
私は勇姿さんの開く料理教室に通っていた。前々回と前回の宴会の時…彼の料理を食べてみたけど美味かった…
「「「よろしくお願いします!」」」
「いい元気ですね。では今日はオムライスを作ります。」
「お、オムライス?」
オムライスくらいなら私も作ったことはある…というか私の職場は洋食中心なのでオムライスは作れるのはメイド長として当たり前。
「おそらくここにいる皆さんはなんでそんなものを…と考えているんでしょうが私の作るオムライスはちょっと違いますよ。」
まあ前に人里に言ってオムライスを食べた時はちょっと形に問題があったくらいだし、味は問題なかった…彼の作るのは見た目だけとは思えない…
数分後…
「これが本当のオムライスです!」
一見、ちょこんと卵が乗っているように見えるが私にはわかる。美鈴が唯一得意としていた洋食が今のオムライスだった。私はそれが好きで一生懸命頑張ったけど卵を包み込むことくらいまでしか教われなかった。独学でやっても出来ない…私はそれを見ることを諦めていた。
「そしてこの卵をナイフで切るとどうなるか御見せしましょう。」
彼が卵を切るとふんわりと半熟の卵がご飯を包み込み、そこにケチャップをかけると見事にオムライスとなった。…間違いない。なんで美鈴が作ったオムライスが彼にできる?いや…彼はそれ以上。思い出補正があっても美鈴はあそこまでは出来ない…
「う、美味そう…」
霊夢…あれは美味そうなんじゃなく美味いのよ。私の鼻が告げている。
「これが本当のオムライスです。もちろん技術もあるのでそう簡単には出来ないでしょうが私が教えますのでご安心ください。」
私は勇姿さんに教わり、それを初めて出来た。
「それでは今日はこの辺で終わりにします。ありがとうございました。もし要望があればこれからも日にちを伝えて料理教室を開催しますのでよろしくお願いします。気をつけて帰ってくださいね。では解散です!」
こんな有意義な時間がまた出来るとなると私は胸が踊った。美鈴のオムライスが私にもできるようになるなんて…
「こんなにお賽銭が…」
そういえば霊夢は勇姿さんが来る前まではお賽銭を頼りに生活していたんだった。今もお賽銭の量は変わらなかったらしいけど今回は別。私も奮発してちょくちょく集めた小銭を全て入れておいた。
「勇姿さん。少しお話が…」
私は何故美鈴以上のオムライスを作ることができたのか気になり、話しかけた。
「話?」
「ええ、もしよろしければ私の職場…紅魔館の料理人として働きませんか?給料は出します。」
私とあろうものがいつの間にか仕事のスカウトになり、勇姿さんにそう言っていた。
「残念だが断る。」
まあ当然よね…彼は霊夢の為にいるようなものだし、自覚している…霊夢がお嬢様と触れ合う為に、彼が席を外している時、切ない顔をしていたのをよく覚えている。
「そうですか…では手が空いている時に来てくださいね。」
私はせめて力になるようにそう言っておいた。
「そうさせて貰うよ。」
「それでは失礼します。」
私は紅魔館へと戻り、美鈴に尋ねた。
「美鈴…貴方が作るオムライス、誰から教わったの?」
「あれですか?あれはちょっと前にとある女性を師事した時に教えて貰ったものですよ。」
「とある女性?」
「その人は私が体術で初めて敗北した人間でしたね。」
「弾幕を交えての勝負じゃなくて?」
「はい体術です。ボロボロにやられてしまいましたよ。あの時は誰も体術じゃ私に敵う敵はいないという感じで傲慢でしたからね…それが原因で敗北。」
紅魔館をあの異変と白黒以外の侵入者から守ってきた美鈴が負けるなんて…信じられないわ。
「そういえばオムライスの話でしたね。オムライスは師匠が作ってくれて教わりましたよ。お前は中華しか作れないんだからたまにはこういうのも作れって感じで。」
「その人と勇姿さんの気って似ていたの?」
「それがわかりません。」
…は?美鈴の性格ならはっきりと答えるのにわからないとはどういうこと?
「彼は不思議なことに気を感じないんです。それだけでなく霊力、パチュリー様やお嬢様からの報告によると魔力や妖力も感じないらしく感知が出来ないらしいんです。」
「普段は抑えているとかは?」
「それも考えたんですが私と戦った時全く開放していなかったんです。」
「彼は一体…?」
「それよりも咲夜さん。お嬢様が不機嫌にならないようにもう行った方がいいのでは?」
「それもそうね。ありがとう、美鈴。」
私は時を止め、お嬢様のところへと駆けつけた。
「遅いぞ。咲夜。」
屋上でお嬢様が不機嫌そうに肘をついていた。
「申し訳ありません。お嬢様。」
「まあいいさ。それよりも紅茶を淹れてくれ。」
お嬢様の要望に応えるべく私は紅茶を入れ、お嬢様の優雅なティータイムが始まった。
ババババババ!
そしてお嬢様の優雅なティータイムをぶち壊したのはカブト虫のツノがなくなったような鉄の塊…
「ブーッ!!」
お嬢様汚いです…もしかしてあれがお嬢様を数日間の間不眠にさせたトラウマですか?
「ゲホッゲホッ…おい咲夜!逃げるぞ!」
お嬢様はカリスマを保ちながら逃げるという器用なことをこなし走った…おっと忠誠心が出てしまいましたね。ティッシュ、ティッシュ…
「おいっ!待て!」
お嬢様が逃げようとした場所に彼…勇姿さんは着地した。
「何のようかしら?」
お嬢様は顔を引きつらせ、勇姿さんに尋ねた。私も気になるし、聞いておいて損はないわね…
「紅魔館の皆さんにお知らせをするべくここに来ました。博麗神社で宴会を開くことになりましたので是非来てください。」
なるほど…確かに宴会なら会う理由はある。
「そ、それだけ?」
お嬢様はまるで親にイタズラがバレた子供のようにふるふると震え、そう尋ねた。お嬢様…反則です!上目遣いにその行動はぁぁっ!!
「おぜう様ぁぁぁっ!」
私は時間を止め、忠誠心を全力で出し、対応した。流石にお客様の前でこんな失態を見せる訳にはいかないからね…
しばらくして溢れる忠誠心を再び止め、能力を解除した。
「それとそちらのメイド…咲夜から料理人としてスカウトされたのですが…時間が空いた時に来ますのでよろしくお願いします。では失礼。」
ああ、完全に断られた訳じゃないんだ…良かった。
「咲夜ぁ~っ!!どうしよ~っ!?」
ああ、お嬢様の幼児退行が始まった…どんだけトラウマなんですか?たかが夢でしょうに…いやお嬢様の能力は運命を操る程度の能力。そのせいかお嬢様は正夢を見やすい…つまりお嬢様は誰に殺されるかはわかっているけどいつ自分が殺されるかわからない状態でいる。しかも彼は霊夢に慕われている上、彼のパターンを徹底的に分析した筈の妖怪の賢者八雲紫ですらも匙を投げる程の強さ…そんな相手から狙われているお嬢様からしてみれば恐怖でしかない。
「大丈夫ですよ。お嬢様…いざとなったら私がついていますから。」
私はいざとなったら勇姿さんを殺す覚悟はしている。彼もまた同じ…