強面男が幻想入り 作:疾風迅雷の如く
「あと少しね…」
冥界の白玉楼に住む亡霊、西行寺幽々子は巨大な木に向けて正座して待っていた。
幽々子は八雲紫から「博麗の代行、大和勇姿を敵に回してはいけない。」と言われていた。何故博麗の巫女よりも代行の方を恐れるのか?という疑問はあり、気になったが紫が真面目な顔で警告していたのだ。流石に手を出す訳にはいかなかった…だがそれを上回る好奇心が幽々子にあった…西行妖である。
西行妖の花が満開になったことはない。それもそのはず…西行妖の下には幽々子の遺体があり満開になったら亡霊である幽々子が成仏するようになっているのだ。その事を知らない幽々子は何が眠っているのかという疑問が湧き、部下である魂魄妖夢に春の元である春度を集めるように命じた。春度は花を咲かせる効果もある。それ故に幽々子は命じた…
「幽々子様、春度を集めました。」
そして二刀を持つ半人半霊の少女、妖夢が再び幽々子に春度を提出した。
「ご苦労様、妖夢。」
それを幽々子は上機嫌で迎え、妖夢に励ましの言葉を与えると西行妖に春を与えた。
「では再び行って参ります。」
妖夢は生真面目であり、それを見た直後にそう言って立ち去る…
「待ちなさい妖夢。」
しかし幽々子はシリアスな顔でそれを許さず妖夢を引き止めた。
「はい。何でしょうか?」
妖夢はまさかと思い、恐る恐る聞く…そして幽々子の口が開いた。
「お腹減ったわ~…御飯作って!」
妖夢が恐れていたこととは幽々子の腹が減ったことだ…
「い、今からですか?」
妖夢は聞き直す、幽々子の腹が減ったということは地獄を見ることに繋がるからだ。
「今すぐよ!」
しかし現実からは逃げられない!妖夢の頭にそんな言葉が浮かび、ガックシと肩を落とした。
「わかりました…トホホ…」
トボトボと歩き、妖夢は料理を作り始めた。
何故妖夢が地獄を見ることになるのか説明しよう。妖夢の料理の腕は決して悪くない。それこそ料理店が出来る程度には…だから幽々子に味が悪くて文句を言われることはない。むしろ称賛されるくらいだ。では何故地獄を見ることになるのか?それは…
「妖夢~!お代わり~!」
「今作っていますから待ってて下さいーっ!!」
そう、幽々子が大食らいなのだ。それこそ某ピンクボールや某野菜人達並に食欲がある…そのせいか食べるスピードも速く、もたもたしているとすぐにお代わりを要求してくるのだ。
1時間後…ようやく幽々子の食欲が止まり、その被害は180人前である。幽々子にしてはこれでも抑えた方だ。
「やっと終わった…」
ゼェゼェと息を荒くし、妖夢はその場でへたり込んだ。
「妖夢、休憩が終わったら春度を集めてね~」
幽々子はそう言って再び西行妖を見始めた。
「(それにしても何故幻想郷に雪が降らない?)」
妖夢は階段を降りていると不審に思った…何故春度を集めているにもかかわらず4月からずっと晴れているのか?雪どころか雨すらも降らないのは異常だ。そう思っていると階段の先に人影が見えてきた。
「何奴!」
妖夢は二刀で構える。その人影は徐々に近づき、正体がわかり始めた。大柄な男性でかなりゴツい体格をしている。だが何よりも妖夢の警戒心を促したのはその雰囲気だ。雰囲気はまるで魔王。フランドールが感じたように妖夢も恐怖の大魔王のように見えた。
「(こんな…ことって…!!)」
妖夢はその雰囲気から実力差を感じ取っていた。妖夢は前回異変の首謀者だったレミリアとは違い卑屈だ。レミリアは少し子供っぽいところと吸血鬼であることから傲慢な部分があった。しかし妖夢はレミリアとは逆で周りから半人前扱いされ続けたせいか卑屈になっているのだ。その為実力差を感じ取りやすかった…
「私の名前は大和勇姿。」
「大和勇姿…?」
妖夢はその名前を聞いて思い出した…幽々子に会ったら逃げろと言われた男の名前だ。その名前を聞いた途端身体が動かない…いや動けないのだ。あまりの恐怖に妖夢は足が震え過ぎて麻痺して金縛りと同じようになっていたのだ。
「さて、一つ聞きたいことがあります。」
勇姿はそれを見ても全く動じず聞きやすい声で尋ねた。それが妖夢をなお怖がらせた。
「この先に今回の異変の首謀者はいますか?」
異変…それは4月から降水量を0にさせた犯人のことを言っているのだろうか?だとしたらお門違いだ。あくまで自分達は春度を集めていただけなのでそんな異変に関わった覚えはない。当然答えはNOだった。
「ではそこを通して貰えますか?」
ここで勇姿を通したら幽々子や祖父が残した白玉楼はどうなる?その答えは決まっている。幽々子を奴隷のように働かせ、白玉楼は地獄よりも悲惨なことになるのは目に見えていた。
「いいえ…それはできません!」
妖夢は首を振らずに口で答えた。
「何故?」
「貴様のような悪に幽々子様に、白玉楼に一歩も近づけん!」
そして妖夢は動けなくなった身体を無理やり動かし、勇姿に斬りかかった。
「ふっ…!」
勇姿は最低限避けると妖夢の両腕を自分の脇に挟む。
「なっ…!?」
妖夢は必死で抜け出そうとするが無駄だった。まるで万力で挟まれたかのように固定されていたのだ。もちろんそれだけが理由でない。妖夢の筋肉は刀を振る為にあるものだ。刀の切れ味は「斬れないものなどあんまりない!」と断言する程なので素早く振ることに特化している。その為通常の人外達に比べ力の方はあまりないのだ。
「おらっどうした?」
ヤ9ザボイスで勇姿はそう言い妖夢に頭突きをする。
「がっ…!」
その痛みは絶妙な手加減で痛みを与える程度に済ましており、逃れようとするが腕が脇に挟まれているので逃れられない。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
それを何回か繰り返す内に妖夢の目は死んでいった。
「もう…止めて…」
そして妖夢は解放され、勇姿は階段を上がっていった。それを確認した妖夢は刀を使い立ち上がり…勇姿の背後に立ち背中を斬り付けようとした。腹を刺そうとしなかったのは彼女なりの自尊心かもしれない…
「甘いな。」
勇姿はすぐさま振り向き、それを右手で持っていたMagnumで防ぎ、もう片方の手に持っていたMagnumを妖夢に撃ち、気絶させた。
「サムライガールであるお前は知らないだろうが…世の中にはこんな武器もあるんだぜ。」
勇姿はそう言って階段を上がっていった。