凄惨なる天命への反逆   作:未奈兎

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6話 急転

少し時は遡る

 

典韋という少女は傍目で見れば料理が好きな只の村娘だった、ただ他の人と比べてれば驚くほどの怪力の持ち主だったが、

親友に許褚と言う少女がいて彼女とも仲がよく典韋が作って許褚が美味しく食べる光景が村の癒やしだった

 

だが許褚はある日、賊を追って村を飛び出して行方が知れなくなった、典韋は心配にはなったが、その夜・・・悪夢を見た。

 

夢の中は、人が溢れかえっていた、その人達が揃って自分に殺意を向けている、いつの間にか持っていた武器を振り回して

とにかく身を守る、どれだけなぎ倒しても切りがなく、人が群れのように襲いかかってくる。

 

【曹操軍を生かして返すな!此処で魏の命運を断つ!】

 

【立ちはだかる猛将一人に呉の精兵が遅れを取るな!】

 

気がつけば、自分自身が血に濡れていた、返り血、手傷も数えきれない、それでも何故か自分は倒れない。

 

『体中が痛い、私、なんで、こんなこと・・・。』

 

何故この人達は襲いかかり、自分が人を殺しているのか、疲労した心には次第に恐怖が生まれる。

 

『いや、こないで・・・。』

 

逃げ出したい、倒れたい、それでも自分の体が倒れてくれない、その時、声が聞こえた。

 

【流琉!・・・流琉!】

 

自分の真名を呼ぶ声が聞こえる、声からして男だろうか、聞き覚えのない声なのに、不快感はなくて、寧ろ心地よかった。

 

『誰、私を呼んでいるの・・・?』

 

声のする方に手を伸ばした時、次第に光が大きくなり、典韋は目が覚めた。

 

「・・・!」

 

起き上がった時には体中が嫌な汗で濡れていた。

 

「ゆ、め・・・?」

 

寝間着から着替えて汗を拭いてもあの夢が引っ付いてはなれなかった、思い出す度に体が震える典韋。

 

(夢・・・だよね、ただ、夢見が悪かっただけ・・・。)

 

その後、許褚から手紙が届く、許褚は夢で見た曹操軍に居るようで、典韋も来てみてとの文面だった。

典韋は許褚を追う旅をするために必要な旅費を稼ぎながら夢を見た、それは悪夢ではなく、自分が曹操軍で過ごした夢を・・・。

 

 

 

 

(曹操様と季衣と、天の御遣い・・・兄様・・・?)

 

自分が様々な人と共に過ごした日常を外から見た、厨房で鍋を振るって美味しいと言ってもらった、時には戦場にも出たがその度に、

北郷一刀、兄様と慕った男性、曹操、真名を華琳と言う女性に労って貰い、親友の許褚と共に掛け替えの無い日常を過ごしていた。

 

(私、とっても楽しそう・・・。)

 

だが、少しずつその日常は終わりを迎えていた、そしてとうとう夢はあの悪夢に追いついた・・・。

 

船が燃えて、命からがら陸に付けた自分達は必死になって逃げた、敵の追撃を振り切れず、追いつかれるのは時間の問題だった。

 

『このままじゃ、皆が死んじゃう・・・ここから迂回する道はあまりない、なら私ができることは・・・!』

 

狭い崖に挟まれた道に差し掛かった時、典韋は武器で崖の岩を崩した、ぶつかった衝撃で岩の雪崩が起きて、自分だけ残された。

 

『!?流琉!何をしているの!?』

 

『流琉!』

 

『季衣、来ちゃ駄目!兄様、華琳様、ごめんなさい、どうかご無事で・・・!』

 

『何を馬鹿なことを言ってるんだ!?流琉!』

 

『兄様、華琳様、季衣、また、私が作った料理、食べて貰いたかったです・・・。』

 

『私に・・・私に貴女を置いて行けというの!?』

 

『華琳様!私は典韋です!私の役目は、この身を持って華琳様をお守りすることです!』

 

『・・・。』

 

『そして、季衣!季衣は私と同じで華琳様を守るのが役目でしょう!早く行って!』

 

『流琉の・・・馬鹿、絶対生きて帰ってきてよ!ボク泣くよ!』

 

『・・・ごめんね、季衣。』

 

『季衣!?なにをするの、放しなさい!』

 

外から見ているからわかる、許褚は泣きながら、曹操を抱えて走りだした・・・。

 

『流琉・・・!』

 

『兄様、華琳様と、季衣をお願いします、大好きです!』

 

『俺もだよ流琉・・・任された!』

 

一刀も走りだして、いよいよ残ったのは自分と、目の前の満々たる大軍。

 

『・・・此処から先は、私の命に代えても通しません!』

 

其処から先は、夢で見た光景そのままだった、ただひとつ違うところは、あの典韋は、襲いかかる敵の大群を恐れていなかった。

ひたすら敵を倒し、矢が刺さろうとも自分は倒れなかった、傷からながれた血と返り血に濡れたその姿は自分ですらも恐ろしくなる。

 

【何故倒れん・・・!奴は悪来の生まれ変わりか!?】

 

『はぁ・・・はぁ・・・まだまだ、時間を稼がなきゃ・・・!』

 

どれほどの敵を倒しただろうか、山のように積み重なった屍、それでも途切れない敵が典韋が死地に居るを物語る。

その時不意に刺さった、一本の矢、身体の奥深くまで刺さり、苦悶の声すらあげず、典韋はただ、空を見た。

 

『ごめんね季衣、私此処で、終わりみたい、泣かせちゃう、なぁ・・・華琳様・・・にい、さ・・・ま。』

 

血に濡れた身体に一滴の雫が溢れる、それを最後に、典韋の身体は動かなくなった。

 

【・・・なんてやつだ、立ったまま、死んでいる!?】

 

武器を構え、光を喪った目を開き、その目で尚も敵を見据え、立ったまま少女は死んだ、最後まで守るために其の身を賭して・・・。

 

 

 

 

死んだ自分から、別の場所が見えた、許褚に護られ、一刀に肩を貸されて満身創痍の曹操が見えた。

その道中、一人の伝令から、呉軍が典韋を討ち取ったと宣言していた報を聞く。

 

『無様ね私は、ふふふ、稟が生きていたら、こんな無様な姿を晒さずに済んだのかしら・・・?』

 

『いいや、無様でもいいさ、流琉のためにも、俺達は生きないといけないんだ。』

 

『私よりも幼かったのよ、私よりも、背が低かったのよ・・・許せないのよ私は、火計を防げず、流琉を死なせた、無様な私がぁ・・・!』

 

曹操にも涙がこぼれていた、威厳にあふれていた彼女の姿は、どこにもなかった。

 

『流琉・・・馬鹿、ばかぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

せき止めていたものが、壊れ、許褚も鉄球を落として涙を流した。

 

『く、そ・・・ふざけんな・・・こんな、こんなことを、認めろっていうのかよ・・・ふざけんなぁぁぁぁぁ!』

 

 

 

 

 

『お願い、あなたは生きて、私は、もう季衣や華琳様、兄様を泣かせたくないの・・・。』

 

夢の最後に、自分と同じ声が聞こえて、流琉の視界は、白く染まった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「兄様・・・華琳様・・・季衣・・・!」

 

目が覚めた時、なにもかも思い出した、何故忘れていたのだろう、許褚を追いかけなかった自分が信じられなかった。

 

「すぐに行かないと、私も華琳様のところに・・・!」

 

思い出した時には、黄巾賊は壊滅していた、商人伝いに噂が広まるのは速いもので、張角が行方不明なことも・・・?

 

「行方・・・不明・・・?」

 

典韋は違和感に気がつく、確か曹操軍は外面は張角を討ち取ったはずだ、それなのに何故、そう思った時に信じられない話を聞く。

 

【黄巾賊を倒したのは董卓軍と、それに追従した、『北郷軍』】

 

金鎚で頭を殴られた気分だった、曹操軍が撃破したのではなく、倒したのは連合の時に倒した、董卓軍と・・・。

 

「兄様・・・?」

 

見間違う筈はない、この字の名は、間違いなく彼の名だ、何故彼が曹操と別の軍に居る・・・?

 

(兄様、新野に居るんですよね?)

 

曹操軍のことも気になったが、それ以上になぜ彼が別の地にいるのか、典韋は気になって、居てもたっても居られず、新野行きの

商隊に頼み込み連れて行ってもらった、賊の襲撃などはあまりなく、遭遇しても記憶を取り戻した典韋には賊など相手にならない。

 

「ここが・・・新野・・・。」

 

たどり着いて、思ったのが活気の凄さだ、前回の陳留にも劣らないその活気は民が満たされた生活をしているのかがよくわかる。

さらに、広場で聞こえる歓声に典韋は目を見開いた。

 

「みんなー!今日も私達の歌を楽しんでいってねー!」

 

「「「「「ほわあああああああああああああああああああああ!!」」」」」

 

「・・・うそ!?」

 

典韋が広場で見ているのは三姉妹のライブだ、驚くぐらいの歓声で典韋の声をかき消されたが・・・。

 

(なんで天和さん達がこっちにいるの!?)

 

本来ならば曹操軍が保護したはずの彼女達が何故か此方にいる。

 

「楽進様、今のところ周囲は大丈夫です。」

 

「そうか、だが警戒は怠るな、彼女達がライブをすると稀に収集がつかなくなるからな。」

 

「はっ!」

 

「以前の私もこうしてあの姉妹のライブ警備をしていたのだろうか・・・。」

 

「っ!?」(凪さんまで!?)

 

思わず物陰に隠れ様子をうかがうと、あそこに居るのは間違いなく凪、彼女までここに居る、

 

(なんでここに天和さんや凪さんが・・・。)

 

典韋の疑問は増すばかりだった、こうなると益々一刀に接触を試みてみたい典韋だったが如何せん一刀に会う方法がない、

飯店に駆け込んで雇ってもらったのは良かったが、前回の自分と全く変わらない行動に思わず落ち込んだ・・・が。

 

 

 

 

そして時は戻る

 

「兄・・・様・・・?」

 

「え・・・?」

 

目の前に居る女性、あの白い服は着ていないが、あまりにも酷似したこの女性。

それは一刀にとっても同じである、何故典韋は前の自分の呼称を知っているのか?

 

「おい、お前大将のことをいきなり男性扱いとは・・・。」

 

「いや、待て焔耶、あの子なにか様子がおかしいぞ。」

 

身を乗り出す焔耶を一旦落ち着かせる凪。

 

(あ、そうか、焔耶は当然だけど凪も記憶を持ってるのは合肥の戦いだけだからその前に死んだ流琉のことは知らないのか。

いや、うーん、典韋って将の話はしたけど、これはすごい話がこじれそうな・・・風も交えて話さないとな。)

 

「あの、すみません、私のよく知る人に似ていたものでして、つい・・・あの、あなたに似たような男性の方を見ませんでしたか?」

 

「あーなるほど、説明はしたいんだけど、とりあえず政庁に来てくれるとありがたい、かな?」

 

「わかりました、必ず伺わせていただきます!」

 

「じゃあ、この割符を持って政庁に来て、それで見張りの兵は通してくれるから。」

 

典韋としては渡りに船であり、一刀は焔耶を何とか宥めて政庁に戻っていった。

 

「それしても一刀様、先ほどの少女とはどういう知り合いですか?」

 

「・・・凪と同じ境遇の子って言えばいいかな?」

 

「なるほど、私と同じということは、あの子も魏の・・・。」

 

「ぎ?なんだそりゃ?」

 

「大したことじゃないよ、ただ、掛け替えの無い知り合いってだけさ。」

 

「本当になんだそりゃ??」

 

わけがわからないと首を傾げる焔耶に思わず笑ってしまった二人だった。

 

 

 

 

その後少し時が経ち、典韋は見張りの兵に割符を見せると、兵に案内されながら一室の前に通された。

 

「えーと・・・。」

 

部屋の中に居たのは、先ほどの女性と・・・風。

 

(ふ、風さんまで!?)

 

「何やら驚いているようですがいかがなさいましたか?」

 

「あ、いえ、その・・・。」

 

「ははは、でも、その慌てぶりからするに、あたりじゃないかな、風。」

 

「ですねー自己紹介もしておらず失礼ですが、おひとつ貴女に伺いたいことがあります。」

 

「なんでしょうか?」

 

「【赤壁】。」

 

「・・・!!」

 

ある種トラウマのような単語を風から出されて思わず固まる典韋。

 

「・・・ごめん。」

 

「あなたは、いったい誰なんですか?」

 

「俺は北郷一刀、華琳に拾われて、秋蘭や春蘭達にしごかれて、桂花に罵倒されて、季衣と一緒に流琉の料理を美味しく食べて、

凪や真桜や沙和と天和達のライブとかの警備隊の仕事をして、霞に振り回されて、風や稟に何度も囲碁で負けた、北郷一刀だよ。」

 

「な!?そんなまさか!だって兄様は男ですよ!?」

 

「なんでかしらないけど、女になっちゃったんだよ、こればっかりは信じてくれってしか言えないな・・・。」

 

「きっとお兄さんが前回とってもたくさんの魏の人達と関係を持っちゃったから天罰じゃないでしょうかねー。」

 

「はぐっ!?」

 

飴を舐めながら半目で呟く風に思わず顔が引き攣る一刀。

 

「なんだかよくわからないけど、あなたが兄様だというのはわかりました・・・。」

 

「それで理解されるのも、なんだか遣る瀬無い・・・。」

 

「種馬故致し方なしですねー。」

 

「うぐぬぬぬ・・・。」

 

「ふふ、でも不思議な気分です、あんな後にまたこうして兄様と会えるなんて・・・。」

 

「あ・・・。」

 

一刀が少しうつむくが、それを支えるように流琉は一刀の手をとった。

 

「兄様、先に言っておきますけど、私は赤壁から逃亡する時のあれを後悔なんて全くしてません。

それでも一つだけ、記憶が戻ってからどうしても気になっていることがあります、あの後季衣は、華琳様はどうなりましたか?」

 

「季衣は、あの後西涼の馬家が攻めてきて、その時に馬超の攻撃から守るために傷を負っちゃってね。

後にその傷が悪化したせいで季衣は・・・その後も魏は勝ち切れないで、華琳も、皆も・・・。」

 

「そっか、季衣も・・・。」

 

「だから、きっと流琉も記憶を思い出したのは理由があると思うんだ、陳留に、華琳のもとに行くなら護衛をつけるけど?」

 

「ありがとうございます兄様、でも私は行けません。」

 

「何故でしょうか、流琉ちゃん?」

 

「だって魏の記憶がある兄様がこうして華琳様のところから離れて居るのも、理由があるんですよね?」

 

「っ・・・ああ、俺もできることなら、華琳の所に行きたかったよ、でもそれだと、前と同じことが起きるらしいんだ、皆が死ぬ未来がね。」

 

「そんな・・・。」

 

「でも、これ以上華琳のところから皆が離れたらどうなる?下手を打てば魏を建国する以前の問題になるんだ。」

 

「ここの将は、風に稟ちゃんに凪ちゃんに流琉ちゃん焔耶ちゃん紫苑さんに・・・おおう、そう言えば天和ちゃんたちもいました。」

 

「それでも、私だけ兄様から離れて華琳様のところに行くわけには・・・それとも、私では兄様の側に不足ですか?」

 

「う・・・。」

 

流琉からの上目遣いに思わずたじろぐ一刀だったが、そこに風が話を切り出した。

 

「あーそれなんですがねお兄さん、実を言うと、其処はあまり問題にならないかもしれません。」

 

「え?」

 

「どうしてだよ風?」

 

「お兄さんも知ってのとおりですが、現在劉備さん率いる義勇軍と曹操軍は黄巾の乱が終わって尚同盟してます、

普通に考えるならいずれ劉備さんは離れると考えられるのですが、状況を鑑みるに既に二軍は合併してると言ってもいいでしょう。」

 

「何故ならば、劉備軍が既に曹操軍の中核まで携わっており、陳留の民心も劉備さんが貢献して支えられています、

これで天和ちゃんが居た頃とは及びませんが、曹操軍、そして劉備さんのために陳留に流民が集まっています。」

 

「この状態で劉備さんに何かしらの官位を渡してどこか領地を渡すと陳留がかなり弱体化します、更に劉備さんですが、

義理堅く優しい劉備さんが陳留のために残ってくれと民達に嘆願されれば残らざるをえません。」

 

「事実上、劉備さんが曹操軍の一角を担ってしまっているので、これは最早客将という身分では落ち着きません。

尤も、華琳さまのことですから劉備さんを飼い殺しにする、などという手段を用いていることはありえませんけどね、

劉備さんの二大軍師、諸葛亮ちゃん、龐統ちゃんや人の気を知る星ちゃんもそういうことには機敏に反応して進言するでしょう、

まあ、華琳さまが関羽さんをどうしても欲しいのであればその可能性も無きにしもあらずなわけですがー。」

 

風が現在の状況を的確に把握しているのに思わず口が開く二人である。

 

「ん?じゃまさか今の曹操軍って劉備軍との合併軍だから・・・。」

 

「はい、兵の多さは前と比べて大きく差が開きましたが、将の厚さ、晩成の見込みはある意味孫堅・袁術軍よりもやばいです。」

 

「うへー・・・。」

 

心配していたつもりが実はとんでもない強敵が誕生していたのを知る一刀、劉備と華琳の連合を考えるだけでも寒気物である。

 

「ということは、別に私が華琳様のもとに行かなくても大丈夫ということですね。」

 

「もう一度言うけどいいのか?季衣と、華琳と戦わなくちゃいけない道を行くんだぞ?」

 

「大丈夫です、私が華琳様の元から離れて変えられる運命があるのなら、この流琉、兄様を守るために季衣とだって戦います!」

 

「はぁ・・・華琳も俺も、恵まれてるよな、あははは。」

 

「ですねー♪」

 

「ふふ♪じゃあこれからは姉様って呼ばせてもらいますね!」

 

「っておおい!?マジかよ・・・。」

 

「諦めてください、しかしお兄さん、こうして確認すると記憶を取り戻す人には何らかの切欠があると思います。」

 

「切欠ですか?」

 

「はい、風は多分お日様を持ち上げる夢の時、凪ちゃんはお兄さんと対峙する時に断片とはいえ合肥の戦いを思い出しました。

流琉ちゃんは多分季衣ちゃんから手紙をもらった時か、曹操軍を認識した時、天和ちゃんたちは置いといて、そう考えると・・・。

その人にとって何らかの運命の転機が訪れた時に、記憶が戻るようですが・・・この辺りで解せないことがひとつ。」

 

「稟・・・それどころか他の魏軍の皆のことだよな。」

 

「考えたくはありませんが、稟ちゃんの場合は病気が発症するか、華琳さまに会うか、稟ちゃんにとって転機が大きいのはこの2つ。」

 

「まずいな・・・華琳はともかく、病気の方は発症前に対策を取りたいんだが、今も仕事の無理をさせないように負担は減らしてるし。」

 

「うーん・・・私も色々やることが多いですね・・・。」

 

「そうだな、改めて、これからもよろしくな、流琉。」

 

「はい!」

 

その後、流琉が正式に北郷軍に加入することになり、流琉に話をせがまれ、今に至るまでを話すことになった。

 

 

 

 

流琉は夜も深くなり、今日は店主に断りを入れるため帰っていったが、その翌日、流琉が荷物を纏めて戻ってきて、

早速と言わんばかりに料理を作り北郷軍の舌を唸らせた、軍の士気も程良く上がり、北郷軍は洛陽に向けて出発する。

 

「ではお姉さん、道中ご注意を、稟ちゃんもどうかお気をつけて。」

 

「ああ、風、紫苑、新野は任せたよ。」

 

「天和達も、ライブをするのならば節度を守ってくださいね。」

 

「はーい♪」

 

「お任せください北郷様、ご武運をお祈りしていますわ。」

 

「お姉ちゃん頑張ってねー♪」

 

「行ってまいります皆様。」

 

「しかし、飯店のこの娘も一緒に行くに行くのか、大丈夫か?」

 

「心配するな焔耶、見たところ彼女も中々できるようだ、下手を打つとお前も危ないぞ。」

 

「うげ・・・ワタシもおたおたしてられないってことかよ・・・。」

 

風や紫苑、天和率いる大勢の民に歓声をもって見送られながら、北郷軍は洛陽に向けて出立した。

 

進軍中、賊の襲撃などもあり、若干の死傷者が出て脱落者などはでたが、基本野営の時に流琉の料理で士気は高かった。

 

「しかしこれはどういうことなのでしょうか、洛陽に進むに連れて逆に治安が悪くなるとは・・・事情は理解できますが。」

 

「それだけ末期ということだろうな、やれやれ、権力抗争なんかに巻き込まれる暇があるなら此処の治安を改善したいね。」

 

「同意、ですね、こんなくだらないことに巻き込まれる暇があるなら賊を討つ策の一つでも考えたほうが建設的です、

仮に何進、張譲のどちらが生き残っても最早漢王朝の復権は難しいでしょうね・・・。」

 

「お前ら、恐れ多いことをよくもまあつらつらと言えるよな・・・。」

 

一刀と稟の歯に衣着せぬ物言いに思わず顔が引き攣る焔耶。

 

「別に漢王朝に忠がないわけではありません、ですが霊帝は政治に明るくなく洛陽での暴挙を許しています。

【主、乱れるとき国乱れる】、漢王朝の腐敗が賊を蔓延させ、権力抗争まで巻き起こっているのです、

霊帝が崩御すれば劉弁様、劉協様で後継者争いでさらに混沌とするでしょうね、本人の意志を全く無視して。」

 

「帝のご子息のそのどちらもがまだまだ幼い、教育が行き届いていても、傀儡政権のいい的だな。」

 

「そして、それに泣くのはなにもできない民衆、ということですか。」

 

「たしかに改めて確認すると、それは許せないな・・・。」

 

内心義憤が募り、拳をきつく握りしめる凪と焔耶、話を聞いている兵たちも同じような心境だろう。

 

「姉様、これから洛陽で私達ができることはないのでしょうか?」

 

「厳しいな・・・田舎太守にできることなんてたかが知れてるしな。」

 

「難しい話ではありますが、帝の側近たちに直談判できる機会があれば、あるいは・・・。」

 

進軍をしながら洛陽でどう行動するかを側近たちで煮詰めながら一刀達は董卓軍との合流地点に向かった。

 

 

 

 

その後、宛と洛陽の中間辺りで董卓軍と合流した一刀達、挨拶もそこそこに進軍をしながら互いに雑談に興じていた。

 

「お久しぶりです、一刀様。」

 

「こちらこそお久しぶりです、董卓殿。」

 

挨拶もそこそこに互いの将達を紹介していく二軍、ある程度面識もあるが数人今回は見覚えのないものも居た。

 

「華雄だ、武には自信がある。」

 

「陳宮ですぞ、恋殿の一番の軍師です!」

 

「郭嘉です、黄巾の乱では不在でしたが、知謀には自信があります。」

 

「典韋と申します、料理と力強さが自慢です。」

 

他にも賈駆や張遼や恋、黄巾の乱にも居た董卓軍の主力も居るようだ、聞く所に寄ると統治は李儒という将に任せているらしい、

しかし、挨拶をしていて驚くのは北郷軍の将たちだ、董卓という少女を見たのは初めてだが、その容姿に驚いた。

 

(なあ凪、あの娘が董卓・・・なんだよな?)

 

(そうらしいが・・・あの方が太守で善政を敷いているのか。)

 

(更に将の厚さも眼を見張る者があります、彼女も人望があるのでしょう、しかしにわかには信じられませんね・・・。)

 

(すごくきれいな子ですねー。)

 

「そこ、何こそこそ話してんのよ?」

 

「いえ、なんでもありません。」

 

「しかし、こんだけぞろぞろと引き連れて洛陽の方は大丈夫なのかな?」

 

「心配ないやろ、うちらかて自炊するだけの兵糧は持ってきとる、いざって時には民衆にも配れるようにな。」

 

「董卓軍もですか、我々も何があってもいいように多めに兵糧を持ってきたのです。」

 

「まあ洛陽付近がこんな有り様じゃあっちでの補給なんて見込めそうにないよなぁ。」

 

付近の村落や村の現状を見る限り、とてもいい状態とはおもえなかった、どうやら腐敗の侵食はとても根深いようだ。

 

「私達が何とかしていきたいですね・・・。」

 

「そうだね・・・。」

 

 

 

道すがら、董卓軍と北郷軍は民衆に施しをしながらも洛陽に近づいていった、それと同時に時は近づく、避けられない大戦の時が。

 

 

 

 

 

一行は洛陽が目視できる所まで迫ってきたが、先行している焔耶があるものに気がついた、疾走する馬車、宮中の物だろうか、

派手な装飾はないが使っている布はそこらでは見かけないほどの材質だろう。

 

「おい、なんか凄い勢いで馬車がこっちに来るぞ?」

 

「(まさか・・・。)嫌な予感がするな、馬車を止めて事情を聞いてみるか。」

 

しかし、一行が馬車に近づこうとすると、急停止した馬車は別方向へとかけ出した、まるで逃げるように。

 

「あ、おい!」

 

「只事じゃないわね、霞あの馬車を追って!」

 

「合点や!」

 

「凪、単騎ですまないが先行して欲しい、今の凪の足なら馬車を追い越して先回りできるはずだ、もしものときに備えてくれ!」

 

「承知しました!」

 

賈駆の指示とともに張遼、そして一刀の指示を受けて凪も追従するように馬車を追った。

 

「おかしい、なんで逃げる必要があるんだ?宮中の者なら逃げる必要なんて無いはずなのに。」

 

「確かに、我々が賊でないのは一目瞭然なのですが・・・。」

 

それから馬車の追撃が始まり、途中馬車についていた護衛が無言で切りかかってきたりなどで驚愕するも撃退して

二軍は馬車を補足した、凪の姿は近くには見えなかったが、一刀の指示通り一刀の見える範囲で備えて茂みに伏して居た。

 

「おかしいぞ、なんで護衛が襲ってくるんだ!?」

 

「ああ、これはいよいよ持って怪しいな。」

 

護衛を蹴散らした華雄と焔耶が訝しんでいると馬車が止まる、それを見計らい張遼が馬車に向けて声を張り上げた。

 

「おい!なんで逃げるんや、事情があるならでてこんかい!」

 

張遼が威圧するように声を出すと馬車の中から四人の人間が出てきた男女二人づつで全員が身なりの良い服装をしていたが

様子がおかしかった、男性二人が少女とも言える二人の首筋に剣を近づけながら出てきたのだ。

 

「な!?」

 

「動くな!動くとしょ、少帝達を殺すぞ!?」

 

「く、離せ!」

 

二軍は騒然となった、今この男はなんと言った?小帝、その言葉が突き刺さり華雄が声を荒げる。

 

「貴様ら!それが事実なら何故そのような愚を犯す!?」

 

「知るか、元々お飾り同然の無能な帝だろう!そんな小帝を我々のために使って何が悪い!」

 

「諸将、小奴らは十常侍の夏惲、郭勝だ!父が崩御し都で政変が起きて張譲の指示で何進や母も殺されてしまった!」

 

「ええい黙らんか!」

 

「協!」

 

小帝の一人から話された事実に一刀はいくらか憶測はできたがそれでも驚きを隠せない。

 

(くそっ!凪を伏せているとはいえ、二人同時に救援なんてできるのか・・・?)

 

奴らが話しているのが事実なら彼女達は霊帝の娘、劉弁、劉協なのだろう、それに憤る焔耶や華雄が今にも飛び出しそうになる。

 

「貴様ら恥を知れ!宮中で専横を振るうだけでは飽きたらず幼い帝を拐かすとは!」

 

「ふん!無能な帝の代わりに漢王朝を管理してやったのだ!それぐらい当然の報酬だろう。」

 

「ふざけんな!民を苦しめ貴様らが贅を貪るさまが管理であってたまるものか!」

 

小帝に剣を近づけながらも開き直った下卑た笑みで笑う十常侍の二人を尻目に一刀は思考に没頭していた。

先程ならば緊迫していたが、徐々にだが密かに凪が十常侍たちとの距離を縮めていた。

 

(凪・・・よし、今なら奴らの注意は小帝と焔耶達に行っているか。)

 

一刀が凪に視線を向けると、既に気を気取られない程度に充満させた凪が頷く。

 

(あの距離なら十分凪が不意を打てる、後もう少し確実にしたい、此方に注意を向けないと。)

 

そう思い、一刀が救出への段取りを決めて更に稟へと視線を移すと、読み取ったように稟も頷いた。

 

「このまま逃げられると思っているのですか?付近に備える諸将を退けてまた返り咲けると?」

 

「そうですぞ、すぐに討伐軍が起こりお前たちを討ちに軍が向かう事になりますぞ!」

 

「は、はははは、いいんだよ、小帝さえいれば全てこっちのものだ!」

 

「早く道を開けろ!帝がどうなってもいいのか!」

 

(へぅ・・・詠ちゃん・・・。)

 

(大丈夫、北郷軍に策があるみたい、ボク達もそれに備えるよ。)

 

詠も恋と張遼達に目配せをしながら備える、その間にも少しづつ二軍と四人の距離が離れるが、突如、茂みから気が爆発した。

夏惲達はこのまま逃げきれると油断していた、だからこそ、その不意打ちに気が付かなかった。

 

「はぁあああああああ!!」

 

茂みから凪が爆発的速度で飛び出し夏惲、郭勝の側面を急襲、凪の両の拳が二人を穿った。

 

「ながぁ!?」

 

「ば、馬鹿な、ぐふ・・・。」

 

「今だ!」

 

「応!」

 

その隙を突いて華雄と焔耶が小帝達を救出する。

 

「助かったぞ・・・。」

 

「こんの外道どもがぁぁぁ!」

 

「・・・死ね。」

 

更に一気に距離を縮めた張遼と恋の一撃で二人の首は宙に舞った、二軍の連携で小帝達は危機を脱した。

 

「劉弁様、劉協様、ご無事ですか!」

 

北郷軍、董卓軍が共に平伏する、ある程度落ち着いた二人は立ち上がると、共に諸将を労った。

 

「よい、面をあげよ、そなた達誠に大儀であった。」

 

顔を上げれば、幼いながらも皇帝としての威厳を備えた小帝二人が居た。

 

「そなたらの軍の責任者は何処か。」

 

「はっ!私は天水太守の董仲穎と申します!」

 

「私は新野太守、北郷一刀と申します。」

 

「うむ、此度の功績、言葉では表せぬ、洛陽に戻りし時相応の褒美を約そう。」

 

「では、我々の馬にお乗りください、洛陽まで御身をお守りいたします!」

 

「頼む、姉上。」

 

「ええ、お願いします。」

 

二軍は小帝達を護衛しながら、洛陽へと急いだ、政変が起きているのならば、都洛陽も無事では済まないはずだから・・・。

 

「・・・何進に呼ばれたはずが、その何進は政変で既に亡く、まさか我々が小帝を救うことになるとは。」

 

稟は一人呟く、新野太守の軍師の一人になり、驚くほどの躍進ぶりに驚愕を禁じ得なかった。

 

「風、まさかあなたはこれを見越して、残ったのですか?」

 

そもそもあの親友は言っていた、政変に巻き込まれたら・・・と。

 

「あの言葉が冗談ではなく、将兵を多数連れて物資も多めに積んで行かせたのは洛陽での備え、とも考えられます・・・。」

 

考え過ぎだとは思うが、風は無駄な手は打たない軍師だ、親友である自分ですらその真意は測りきれない。

これほどの物資があれば洛陽での活動も滞りなくできるし、民たちへの施しだって可能になるのだ。

 

「もし、あなたがこれを見越していたのであれば・・・ふふ、少しあなたに嫉妬しますね。」

 

新野に居る親友の胡散臭い笑みが映る、対抗意識が生まれたのは否定しない、さながら味方にいながら競い合える好敵手だろう。

 

「一刀殿、ご存知かもしれませんが洛陽はかなり荒廃としているでしょう、到着次第董卓軍と連動してすぐに復興に当たりましょう。」

 

「そうだな、ここから見える洛陽の城壁は、綺羅びやかに見えるんだがな・・・。」

 

二人は洛陽を見る、もうすぐ到着するであろう都は、恐らく思っている以上に只事ではすまないようだ。

 

「俺には理解できないこともあると思う、その時には稟、その知謀で俺達を助けてくれ。」

 

「お任せを、ご期待に必ず応えてみせましょう!」


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