凄惨なる天命への反逆   作:未奈兎

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3話 情と謀

兵糧庫を制圧して董卓軍と合流した一刀達は日も暮れてきたため野営の準備を始めることにした。

 

「よーし、全軍野営の準備だ、周囲を警戒しつつ迅速に作業に入ってくれ!」

 

「承知しました!」

 

一刀達の軍の建設員は材料を丁寧にまとめて必要な資材のみで作業に入り始めた。

 

「はぁ、建築速度速いなー姉さんの軍は随分と統率が撮れてるんやな。」

 

「これは張遼殿、まあうちは数も武将も足りませんからね、必然的に統率や練度をあげなければならなかったんです。」

 

「そんなもんかいな、しかしあんたの指揮は中々のもんやったな、見てくれ地味でも被害を抑えた戦略は目を見張ったで。」

 

「ありがとうございます。」

 

前回の歴史で散々魏の武将たちに扱かれ、現代に戻ってからも後悔とともに学んだ兵法、人の運用方法、

現代からここに戻っても使える内政や建築方法を頭を痛くしながらも学んだ一刀だ、知識だけとはいえその量は膨大だった。

 

(しかし驚くべきはこの世界の職人の技量な高さだよなぁ、味噌は作るわ、天幕用の布はせっせと編むわ万能すぎる。)

 

なんだかんだでメイド服があったり李典の現代も腰抜かす発明品があったりと外史には吹っ飛んだ技術に事欠かないようだ。

 

「さて、俺はそろそろ仕事に入ります、俺もやることがあるんで。」

 

「お、なにをするんや?」

 

「大したことじゃないですよ、ちょっと炊き出しをするだけです。」

 

 

 

 

「ワタシってさやっぱあの大将変わり者だと思うんだよな。」

 

「そうですかー?」

 

「だってさ、見たこと無いぜ、あんたは見たことあるのかよ?」

 

「んー別にいいんじゃないでしょうか、あんな太守様が居ても。」

 

風と魏延が見ているのは割烹着を着て炊き出しをしている一刀だった、黄忠や璃々が手伝う中自然に溶け込んでいた。

 

「はーい、並んで並んで、急がなくてもまだまだあるから順番を守ってくれよ。」

 

「皆さんお疲れ様です、疲れた体をこれで癒してくださいね。」

 

「えーと、あと配ってない人は―・・・。」

 

多くの兵たちが並び、董卓軍の兵たちや黄巾賊の捕虜も混ざって雑談に興じている。

 

「はー・・・うめえ、こんなにうまいの初めて食ったぞ。」

 

「ははは、そうだろ、うちの軍の料理はうまいんだぜ。」

 

「確かにな、お前さん達董卓軍だろ?董卓様ってどんな太守様なんだ?」

 

「董卓様はお優しい方なんだ、俺たち兵たちだけじゃなくて農民たちにも心を砕いてくれるお方だ。」

 

「そうだぜ、俺達は董卓様の助けになりたいと決めて農民から兵になったんだ。」

 

「俺達の太守様もそうだぜ、北郷様は働いただけ俺たちに報いてくれる良い太守様だ。」

 

「ほらお前たちも食えって、捕虜だからって遠慮することねえぞ?」

 

「い、いいのか?」

 

「うちの太守様はそんな小さい人じゃないぜ?気にせずに食えや。」

 

「・・・ああ。」

 

捕虜たちは一口ごとに噛みしめるように炊き出しの食事を味わった。

 

「やっぱ変わってるって、董卓軍どころか捕虜の分まで食事を出すなんてさ。」

 

「そうでしょうか、軍の評価は捕虜の扱いにも関わってきますよ、例えば戦に勝って敵の兵が投降してきます、

でも捕まえた捕虜たちをなんの理由も無くすぐに殺してしまうような太守様に魏延さんはついていけるのですかー?」

 

「む・・・確かにな。」

 

「そういうことですよー風はそういう太守様よりもお姉さんのようなお人好しの軍についていきます。」

 

いつものような胡散臭い笑顔ではなく、微笑んだ笑顔で風は炊き出しを頑張る一刀を見ていた。

 

「それに、指揮官の賈駆さんにも董卓軍の分の兵糧は提供してもらってますしねー。」

 

「ああ、そういや器二つ持って天幕に戻っていったな。」

 

 

 

 

「ふぅ、中々に好評で嬉しいや。」

 

「一刀やったか、ほんまコレうまいで、酒が欲しくなってしまうわ。」

 

「あはは、まだまだ戦は続きますからね、今は活力をつけるために、酒は勝った後の祝勝会のための楽しみにしてください。」

 

「そう言われたら張り切らざるをえんなぁ。」

 

配膳をしながら張遼と雑談する一刀だったが、ふと袖をクイクイと引かれる。

 

「ん?だれ・・・っ!?」

 

「・・・。」

 

(え、ちょ、呂布!?なんでこっち見てんだ・・・ってもしかしてこれか?)

 

袖を引かれた方を見てみれば呂布が居て、その呂布の視線は一刀、というよりも給仕をしている器に向けられていた。

 

「えっと・・・食べます?」

 

「ん。」

 

短い肯定の返事とともに器を受け取ると黙々と味わいながら食べ始めた。

 

実は一刀にとっては呂布はそれはもう恐怖の存在であり、前回の歴史では蜀軍に合流した呂布に魏軍を大いに悩ませた、

多くの兵で囲もうがどれだけ奇策を練ろうがその天賦の才と小さい軍師に完膚なきまでに打ち砕かれ、軍師たちを苦しめた。

 

そのため、最初は呂布を打ち倒すには最低でも張遼と夏侯惇、夏侯淵の三人が居ないとまるで話にならなかった、

しかし、前回の張遼は合肥で無双したばかりか、樊城の時にはたった単騎で呂布と渡り合っていたのだ、

そう考えるとよく前回の張遼は魏に来てくれたものだと改めて前回の張遼に感謝した・・・が。

 

(なんだろうなーこの呂布から漏れてる筆舌しがたいなんか癒される感じは。)

 

現代で言う所のマイナスイオン?のようなものが食事中の呂布から溢れており、このトラウマを帳消しにして余りある何か、

周囲を見渡してみれば呂布を見ている兵たちが例外なく癒やされた顔をしているという謎の光景が広がっていた。

 

「あーらら、すっかりやられちまっとるなぁ。」

 

「なんなんでしょうかこの空気は?」

 

「恋っちが飯食っとると大概こうなるんや、ある意味どんな戦略兵器よりもおっそろしいで。」

 

「・・・おかわり。」

 

張遼の話を聞いていると綺麗に空になった食器を一刀に渡しておかわりをせがむ呂布、

 

「あ、はい、どうぞ呂布将軍。」

 

「恋でいい。」

 

「へ!?」

 

「・・・一刀はいい人そうだし、そう呼べ。」

 

「えーと・・・?」

 

前回を含めても最短最速真名預けに戸惑うも、恋の意識はとっくに器に行っているのでこれ以上何も聞けないだろう。

 

「ははは、姉さん随分と懐かれたなぁ、陳宮が見たら蹴り入れてきそうやわ。」

 

「陳宮さんですか?」

 

「そや、こんな小さいくせして蹴りの強さだけは侮れんのや。」

 

張遼が手を下にかざして陳宮の背を表現してるようだが、かなり低くかった。

 

「今は華雄ってやつと一緒にウチらの本拠地を守ってもらってるんや、まあ実際本人ごっつ歯噛みしてたけどな、

「呂布殿を連れて行ってねねを置いていくとは何事ですか!メガネが残ればいいではないですか!」って喚きおってなぁ。」

 

かなりご立腹だったらしい、肩を竦めて愚痴を漏らす張遼からは苦笑いが出ていた。

 

「ま、こんな後味悪い戦はさっさと終わらせて帰るに限るな。」

 

「そうですね。」

 

この連合軍が戦っているのはただの賊ではない、朝廷の腐敗が招いた民達の不満が爆発したものなのだ。

賊も多数を占めているが、その中には賊となることしか生き永らえることすらもできなかった者も居ただろう。

 

「やっぱり、このままじゃな・・・。」

 

「せやな、この戦に勝っても根本的な解決にならん、世の中を根本から変える何かが必要やな。」

 

(そうだ、そう思ったからこそ、華琳は立ち上がって、劉備や孫策も目指す目標ができたんだ。)

 

だが、三英雄歩みあえず、譲れぬものがあるからこそ三国が争い泥沼に陥った。

 

(でも、その前提が崩れればどうなるんだ?あまり影響がなかった俺や多分華琳のところに行くであろう楽進はともかく、

魏は既に二人の軍師が欠けてしまった、孫呉だって袁術との中は良好で孫堅が健在だから前以上に伸びるだろう、

そして劉備に至っては魏延と黄忠はかなり後に加わるはずなのに今別勢力でここにいる。)

 

この時点で魏呉蜀はある程度の変革が起きている、もし一刀がこのまま更に目的のために進むのならば・・・。

 

「どうなっちまうんだろう、この天下・・・。」

 

「そうやなぁ。」

 

ふと漏らした言葉が張遼に聞き取られたが、張遼が解釈したのは別の意味だろう。

 

 

 

 

その夜、松明が照らす野営の陣の中で二人の人影があった、一人は張遼、もう一人は董卓軍の大将董卓。

 

「すみません霞さん、眠れないからといって散歩に付き合ってもらって。」

 

「別にええで、夜の見回りも兼ねてるんや、月が気にすることやない。」

 

「はい・・・。」

 

親友にくれぐれも張遼から離れるなと厳重に注意されながら陣内を歩く董卓達。

実は先ほど北郷軍の軍師が訪ねてきて賈駆はその相手をしていたので張遼が護衛を買って出たのだ。

 

「でも、捕虜にも安易ながら天幕が用意されているのですね。」

 

「ああ、あれは驚いたで、捕虜たちが風邪引いたらあかん言うて寝るための場所は用意してあるんや。」

 

捕虜が寝ている場所は兵達よりも隔離されて見張りの兵が居るが、少なくとも捕虜の待遇ではない。

 

「一刀様は、やさしい太守なのですね。」

 

「そうやな、甘いって風にも取れるがウチはああいう奴は嫌いやない。」

 

「ふふ、私もです。」

 

「おっ?さっきまで沈んどった月が笑った。」

 

「へうぅぅ・・・。」

 

張遼が月の頭を撫でると顔を仄かに染めて照れる董卓。

 

「・・・お?あそこに居るのは一刀やないか。」

 

「あ、あの方がですか?」

 

董卓達が視線を向けると、天幕から少し離れた樹の下で刀を構え、目を閉じたまま微動だにしない一刀が居た。

 

「あ、あのー。」

 

「待てや月、今声かけたらあかん。」

 

「え・・・?」

 

ふと一枚の葉が木から落ちる、ひらりと地に向かい降下する葉、一刀の眼前に落ちてきた時、一刀は刮目し抜刀。

 

「ふっ!」

 

一閃の下、月明かりに照らされ反射した日本刀の鈍く光る銀色の閃光が降下していた葉を両断した。

 

「ほぉ・・・。」

 

「えっと、今のは何を?」

 

「精神統一して一撃にえらい力込めとった、やさしい姉さんかと思うとったが武も中々できるな。」

 

口角を上げる張遼に董卓は慌てるが一刀が二人に気がついた。

 

「おや、こんばんは張遼殿に・・・えーと?」

 

「おう、随分と集中してたようやな、ほれ挨拶ぐらいしてやれや。」

 

「は、はい、えっと、はじめまして一刀様、私は董卓軍を纏める董卓です。」

 

「おお、あなたが董卓殿ですか、俺は北郷一刀と申します、董卓殿の統治は新野まで届いてますよ。」

 

実際、一刀が太守をしている時に商人伝いに董卓の善政が伝わるほどだ、その信頼は郡を抜くものだろう。。

 

「ありがとうございます一刀様、この戦い、最後までよろしくお願いします。」

 

「はい、俺も皆の助けを借りながらできることを尽くします。」

 

陽だまりのようなきれいな笑顔で笑った董卓とそれを見守る張遼、二人と言葉を交わして董卓達は天幕に戻っていった。

 

「・・・やっぱり間違ってるよな、あんなに優しい子なのにあんな理由で連合軍から攻められるなんて。」

 

元々、宦官の専横を止めるために董卓は洛陽入りして大功をあげたがそれを嫉妬した袁紹や他勢力により

洛陽で帝を独占して暴政を敷いた逆賊とされ連合軍に攻められる、劉備軍に保護されて事なきを得たが多くの者を喪った

彼女の心境は察するに余りある、曹操軍として洛陽に攻め寄せた自分たちにもそういうことを言える資格はないが・・・。

 

「でも、俺も前とは違うんだ、できることを尽くせばきっと・・・。」

 

何ができるかわからなかったあの頃の自分じゃない、戦う力と率いる知識、それを携えて戻ってきたのだ、仲間とともに。

 

「そろそろ俺も寝ないとな、寝坊したら風に笑われてしまう・・・この戦、違う結果で勝利してみせる。」

 

風にはこれからのための秘策を託して賈駆に接触してもらっている、正直賭けのようなものだがうまくいく確率は十分ある。

明日も早い、警護をしている兵たちを労うと一刀も自分の天幕に戻っていったが・・・。

 

「おやお兄さんお帰りなさい。」

 

「いや、なんでここにいるのさ風。」

 

「少しあちらの軍師さんと【お話】してきましたよ、お兄さんの要望を聞いてもらうのに少し頭を使いました。

なのでご褒美に添い寝してください、お兄さんの温もりが恋しいのでー。」

 

「それは本当にありがとうな、でも俺女になってるけどいいのか?」

 

「閏の相手をするわけでもなし、でもお兄さんとなら吝かではないですが、お兄さんは華琳さまのことをお忘れのようでー。」

 

「ああ・・・すまん。」

 

それだけで全てを察した一刀は寝台に潜り込んでいた風と眠りに落ちた。

 

 

 

 

「さて本日は快晴也、進軍するにはちょうどいいけど、楽進準備はいいかい。」

 

「はい万事滞り無く、ですが一刀様、何故程昱殿が背中で寝ているのですか?」

 

「えーとな、昨日夜遅くまで策を練っていてくれて少し寝不足らしいんだ、寝かせてやってくれ。」

 

「なるほど、程昱殿はお疲れでしたか。」

 

「それに進軍するとなれば直ぐに目を覚ましてくれるさ。」

 

「あんたほんとにそいつのこと信用してるんだな。」

 

「旗揚げの時から一緒にいてくれる大切な仲間だからね、もう一人軍師が居るんだけどその人に留守を任せているから

俺達はこうして新野から離れて黄巾族討伐に来れるんだ。」

 

「まあ、北郷様は二人も軍師が居るのですか。」

 

「まあ実は武官が全く居なかったから三人が来てくれて助かったよ本当に。」

 

「もったいないお言葉です。」

 

「まあ、居て居心地が悪くないのは否定しないな。」

 

「焔耶、あなたはまた・・・璃々、兵隊の皆さんの言う事よく聞いているのよ?」

 

「はーい!」

 

「さぁて、黄巾討伐、続きと参りますかー。」

 

「あ、起きた。」

 

「まあ今回は露払いでなく合同軍として行動しますからね、昨日の合同食事が効きました。」

 

「あいつ等と一緒に行軍すんのか、手柄を取られないように気張っていくぜ。」

 

「今回は捕虜の皆さんも連れて行きます、来るべき策のためにも各自しっかり護衛してくださいねー。」

 

「じゃあ、行くぞ、董卓軍と足並みを揃えて前進だ!」

 

「全軍進撃!」

 

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

 

一刀と賈駆の号令とともに野営地からの撤収を終わらせて北郷軍が董卓軍と合同で進軍を始める。

 

 

 

 

「弓兵第一隊は右翼に向かって斉射!槍兵第二隊は左翼から攻めてくる挟撃狙いの歩兵に対処して!

後、絶対に呂布隊の邪魔はしないで、最悪巻き添えを食うよ!」

 

「はっ!」

 

「俺達は左翼の敵軍が到達する前に威嚇も兼ねて敵の数を削る!黄忠隊、援護射撃だ!

楽進隊は董卓軍の弓兵第一隊を護衛しつつ前進してくれ!」

 

「了解しました!」

 

昨日同じ釜の飯を食べたのもあるだろう、二軍は連携を取りながら着実に進軍している、その速度と撃破数は

他所で進軍している連合軍でも随一となるほどだった、まあ撃破数の大半を恋が占めているのは仕方がなかったが。

 

「行く・・・。」

 

一振りで何人の命が刈り取られただろうか、彼女の進軍する道が敵兵の血や死体で埋まる。

方天画戟が振るわれるたびに黄巾族が吹き飛ばされすさまじい進軍速度となって董卓軍は進む。

 

「負けてられるか、ワタシたちも進むぜ!」

 

「そうやな、恋っちに手柄を取られてばかりじゃ気がすまんわ!」

 

対抗心を燃やす魏延と張遼も負けじと獅子奮迅の働きをする。

 

「おっと、あちらの敵陣に隙が、歩兵さん達はあちらの方々に突撃してくださいねー。」

 

「はっ!お前たち、俺に続け!」

 

風の指揮で百人隊長が号令を上げるとともに敵陣に突撃を仕掛ける、

北郷軍と董卓軍が連合した結果、互いの死角を埋めて余りある強靭な軍となった。

 

「しかしここまで来るとさすがに抵抗が激しいですねー。」

 

「そりゃそうさ、流れで黄巾賊になったものはともかくここにいるのは確固たる目的で張角達に従う軍なんだから。」

 

賊やあやかるために黄巾賊になったものではない、心の底から信じる者は時として恐ろしい底力を発揮する。

 

「「「「うおおおおおお!」」」」

 

「うわっと、敵さんの抵抗も凄いな。」

 

「敵も後がないからね、でもこのくらいの抵抗は織り込み済みだよ、それにしても北郷一刀、何を考えているんだろ・・・?」

 

「まぁ、ええんやないか、普段偉ぶってる官軍連中に一泡吹かせられるしウチは賛成や。」

 

「まあ其処は同意するけど、物好き過ぎじゃない?【黄巾賊の中枢を保護する】ってさ。」

 

賈駆という少女は親友である董卓に関わらなければ基本何が起きても構わないのだ、

無論、董卓が望むのであればどのような手段だろうと迷わずに行使するといった気概もある、

その気概が以前の董卓軍をあそこまで押し上げたのだ、その手腕は推して知るべしである。

 

「それに、月でも迷わずにそんな手段を取るやろ?」

 

「そうだね、月なら黄巾賊の総大将でも助けちゃうか・・・それにこの策はボク達にとっても利があるしね。」

 

賈駆の指揮によって統率のとれた軍勢が黄巾賊の数を着実に減らす、呂布隊の奮闘もありその速度は破格だった、

結果、北郷・董卓連合は以前の董卓軍よりも圧倒的な速度で張宝の本隊に到達した。

 

「嘘!?こんなに早く討伐軍が来るなんて!?」

 

「張宝様、お逃げください、我々が足止めを致します!」

 

「い、嫌よ!応援してくれる皆から逃げちゃなんのために歌ってきたかわからないわ!」

 

「張宝様・・・。」

 

「それにわたしが逃げたら先に居る天和姉さんが困るわよ、絶対ここは通さないんだから・・・!」

 

「了解しました!ならば我々親衛隊が命をかけてお守りします!」

 

「おい・・・なんか話だけ聞いてるとこっちが悪者じゃないか?」

 

「間違っては居ないのではないですかー?風達はあっちから見れば只の攻めてきた敵ですし。」

 

「「!?」」

 

いつの間に接近されたのだろうか、すっかり囲まれてもはや逃げ道はない。

 

「くそっ、張宝様には手を触れさせんぞ!」

 

「あー身構えるのはわかるけど、できればおとなしくして欲しいんだよね、こっちにはそっちを害する理由はないし・・・。」

 

「な、何言ってんのよ!皆を討ってここまで来たんでしょ、そんなやつ信用出来ないわよ!」

 

「なるほど、ですかそれならば安心してください、降伏した人の身の安全は保証するのでー。」

 

「その証拠というわけでもないけど、捕虜の皆は全員ここに来てもらったよ、ほら。」

 

「っ!?お、お前ら!」

 

「皆・・・!」

 

張宝と親衛隊の男は驚いた、なぜなら其処には黄巾賊の親衛隊から農民上がりの兵まで無事な姿で来たのだ。

 

「隊長、張宝様、恥を忍んでここに来た無礼をお許し下さい・・・。」

 

「そんなことより大丈夫なの皆!そいつらに酷いことされてない!?」

 

「はい、北郷軍では我々は破格の待遇で保護をされました、ですが北郷一刀にこうも言われました。

【ここでどんな待遇で迎えられても降伏は勧めるな】と・・・。」

 

「え・・・?」

 

「正直言ってこういうやり方はダシにしてるみたいで好きじゃないんだ、でも少しでも安心できる材料があるなら

俺は遠慮無くできることをするつもりさ。」

 

「張宝さんに決めてもらいたいのですよー此方に来て安全な道を取るか、それとも・・・。」

 

「・・・っ!」

 

言葉の先に含まれた意味を察したのだろう、思わず固まる張宝だが一刀が風の頭に手を置く。

 

「脅すなって、降伏が無理なら俺達はこのまま進む、でも約束はするよ、君の姉妹は助けてみせるってさ。」

 

「なんで・・・?」

 

「まあ大した理由じゃありません、官軍のおしり拭きでこんな戦をするのも少し抵抗がですねー。」

 

「女の子がおしりとか恥ずかしげもなく言うな。」

 

一刀が軽く風に体重をかけると「おおう」と風はおどけてみせた。

 

「本当に、姉さんたちを助けてくれるの?」

 

「まあそのための神速行軍でもありますしねーそろそろ・・・。」

 

風が再び意味深に言葉を切ると連合軍の伝令が慌ただしく入ってきた。

 

「報告!劉備軍と連合した曹操軍が敵将張梁軍を撃破!張梁は本陣に逃亡し、軍は一部を除き崩壊した模様!」

 

「そ、そんな、人和も負けちゃうなんて!」

 

「でも本陣には逃げた・・・か、ここまでは予想通りだね。」

 

「そうですねー曹操軍と劉備軍には【今は】あまり変化はないですしね。」

 

「何言ってんのよ、あんた達一体何なの・・・?」

 

「ちょっとした戯言さ、でも今なら【間に合う】この早さで行けば連合軍が来る前に本陣に行けるな。」

 

前回の黄巾の乱では劉備、曹操が協力して張梁を追い詰めたが後に地形の調査にて進軍が若干遅れたのだ。

だが、本陣に一番乗りしたのは曹操軍とそれに従軍した劉備軍だった、尤も、その時には張角三姉妹は一時的に逃亡、

その後残党となった張角達を曹操が保護、残る黄巾の者達が青州兵として曹操に帰順し大兵力を得るに至る。

 

「さて張宝さん決断の時です、このまま逃げて最終決戦とするか、私達と来て助かる道を選ぶかです。」

 

「言っておくけどどっちも困難な道だよ、だから決めて欲しいんだ、当事者の張宝さんに。」

 

「・・・張宝様。」

 

「うん、心配してくれてありがと・・・北郷一刀だっけ、信用していいのね?」

 

「張宝さんが協力してくれるなら、3人と言わずに観客たちもできるだけ助けてみせるさ。」

 

自身に満ちた笑みを浮かべる一刀に張宝は表情を崩して頭を下げる。

 

「お願い・・・姉さんたちを、みんなを助けて・・・!」

 

「任された!風、始めるぞ!」

 

「はい、伝令さん、至急他の軍にこの伝令を送ってほしいのです。」

 

伝令を受け取った兵は内容を確認すると驚いた様子で顔を上げる。

 

「はっ・・・え!?で、ですがこれでいいのですか?」

 

「だいじょうぶですよー・・・これからそれを真実にするので。」

 

風の顔は今までの風ではない、一刀とともに衰退していく魏を支えた真剣だった頃、奇才と謀略の軍師の顔だった。

 

「さて、董卓軍に合流するぞ、俺達の目的のために、行くか!」

 

振り向き号令を上げる一刀、そして董卓軍の天幕に向かい呂布と賈駆に頭を下げで頼み込んだ。

 

「恋将軍、少し負担を強いることになりますがよろしくお願いします・・・。」

 

「ん、月のためにもがんばる、任せて。」

 

相変わらず表情は読めないが、策に対して協力してくれるようだ。

 

「でもいいの?これだとあんた達の手柄ってすごく小さいものになっちゃうよ?」

 

「まあ領地がほしいってわけでもないですから、今は新野の街の内政で忙しいですし、最低限の手柄があればいいんです。」

 

 

 

 

「敵将討ち取ったりーってね、あーあ、こんな弱い賊ばっかじゃ腕が鈍っちまうよ。」

 

「いや、母様、一人で敵陣に突っ込んで悠々と敵将の首持ち帰らないでよ・・・。」

 

「流石は義母上なのじゃ!」

 

「孫堅様の単騎戦力だけでも他の勢力からずば抜けてますからね。」

 

「やれやれ、こんな退屈な戦なら俺が出ないで蓮華辺りも出して実戦を覚えさせるのも良かったか?

冥琳達を留守番させないでこのまま目の前の本陣に攻め寄せてしまえばこの戦あっさり終わってた気がするぞ。」

 

「母様、何言ってんのよ、蓮華や小蓮は戦をするにはまだ少し早いわよ。」

 

「しかしのう、そう言って先送りにしてたらさすがに不味いのではないか?」

 

「うっ、そうだけどさ・・・。」

 

「まあ、この戦が終わっても黄巾賊の残党は確実に出ると思うのでその鎮圧で実戦経験を積ませるのがよろしいかとー。」

 

「ああそうだな、しかし、この軍の総大将さんは随分とのんびり進軍してるねぇ。」

 

「多い軍ほど、多く食さなければならぬもの、補給が一番困難なのではないでしょうか。」

 

「しかし袁紹は妾よりも多くの物資を持ってきたぞ、あれならば飢える心配はないのではないか?」

 

「そうですね、ですが美羽様、こんな戦で物量を使いすぎるのはあまり上策とはいえません。」

 

「むむ、そうなのか、七乃?」

 

「でもそんな数が波のように押し寄せたら将の強さなんか関係なさそうね、まさに人の波に呑まれる感じかしら。」

 

「お話中申し訳ありません、董卓軍から伝令が届きました!」

 

粗方片付いた賊達を前に雑談に興じる孫堅・袁術軍だったが一報の伝令が入りその顔は驚愕に染まることとなった。

 

「・・・なんですって!?」

 

「さ、さすがに偽報じゃろ!そんなことはありえんぞ!?」

 

「いえ、十分な備えがあれば不可能ではありません、それでもこれは信じがたいことですね、並みの速さではありません。」

 

「こりゃ、俺達が遅かったとかそういう話じゃないな、だとしても早過ぎるね・・・。」

 

孫堅が進軍しようとしていた場所、黄巾賊の本陣には陥落したであろう証の黒煙が上がっていた。

 

「こりゃ、戦が終わった後に一悶着あるかもしれんな。」

 

 

 

 

一方曹操、劉備軍は他の軍より先んじて黄巾賊の本陣に向かって進軍を始めようとしていた、その時に伝令が入る。

 

「伝令!董卓軍からこのような書筒が届きました!」

 

伝聞を読みながら顔を上げた曹操は黒煙が上がる敵本陣を睨みながら言葉を漏らした。

 

「・・・まさか。」

 

「華琳様、黄巾賊の本陣から黒煙が・・・。」

 

「ええ、見えているわ。」

 

「え、え?曹操さん、何があったの?」

 

顔をしかめる曹操と荀彧を前に慌てる劉備、その劉備に諸葛亮が重い口を開いた。

 

「桃香様、黄巾賊総大将張角、董卓軍とそれを援護する北郷軍に撃破され敗走、張角は行方不明であり

残党となった黄巾賊は次々と討たれ逃げ出しています、事実上、連合軍の勝利です・・・。」

 

「・・・なんだと!?」

 

諸葛亮の報が信じられず伝聞を奪い読む関羽、その顔は徐々に険しくなった。

 

「馬鹿な・・・。」

 

「いくら何でも早すぎるわ、私達もかなりの速さだというのに・・・。」

 

「地図を作り地形を把握したからこそ、これほどの速さでこれたのですが、事実董卓軍はそれを上回る速さで

黄巾賊本陣を陥落させました・・・誰か此処の地理に詳しいものを雇い入れたのでしょうか・・・?」

 

荀彧と龐統が顎に手を当てて思考に浸る、それを見ていた伝令が伝えづらそうに口を開いた。

 

「あの、もう一つ報告が、董卓軍が撃破した黄巾賊、降伏兵を足しても、この戦における黄巾賊を多数撃破しています、

董卓軍が進軍した道には黄巾賊が多数討ち倒されていました、更に恐るべきことにその大半は一人の将によるものです。」

 

「・・・誰なの、その将は?」

 

「呂布奉先、単騎でおいて恐らく並ぶものは居ないと思います、あの武はまさに、鬼神です。」

 

「鬼神呂布・・・その強さで敵を迅速に蹴散らし敵本陣まで駆け上がったのか、恐ろしい将だ。」

 

戦で勝利したのに鬨を上げるのも忘れ、両軍は暫くの間唖然とした、ただ一人劉備は別のことを考えていた。

 

(この戦で、敵も味方もどれぐらいの人が死んじゃったのかな・・・?どうすれば助けられたのかな・・・?)

 

この黄巾の乱で董卓軍は軍中に鬼神呂布ありと連合軍に知らしめた、北郷一刀と暗躍した奇才の軍師程昱の策は、

呂布の強さに隠れて諸将に気づかれること無く、黄巾の乱は連合軍の勝利で幕を閉じた。




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