凄惨なる天命への反逆   作:未奈兎

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2話 集う諸将と運命の転機

 

 

一刀が新野の太守となって時が経ち、各地で暴れていた黄巾賊が大規模に集結、

これを知った官軍は諸将に黄巾賊討伐の命を発する、新野太守、一刀のもとにも檄文が届いた。

 

「いよいよ、か・・・この時に備えて準備はしていた、結局武官は仕官してこなかったけど贅沢は言えない。」

 

「お姉さん、戦いのための準備は全て万端ですよ。」

 

「兵糧、野営の備えも十分にあります。」

 

「お疲れ様、さて少し気合入れるか。」

 

一刀の目の前にはこの新野の街のみならず移住してきた住民たちも兵として志願している、

多くの命をこの一身に背負う、ここに再び来た時から、覚悟は決めていた。

 

「皆、ここにいる思いは人それぞれだと思う、この街を守りたいと思ってくれる者、黄巾賊に恨みを持つ者、義で立つ者、

出世がしたい者、自分を高めたいって思う者、それでも一つ一緒の思いがあると思うんだ、【生きたい】って気持ちだ。」

 

「だからこそどんな時だって訓練の教訓を思い出して欲しい、一人で勝てないと思うなら二人で、

二人で無理だと思うなら三人で、ここにいる者達は一人ではないんだ、隣には一緒に戦う仲間がいる。」

 

「全軍、行くぞ!俺達は生きて明日を掴むんだ!」

 

「「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

刀を抜刀して天に突き上げればそれに呼応するように集まった兵たちが声を上げる。

 

「士気は高いですねーこれなら十分諸将に劣らない活躍ができるでしょう。」

 

「それに一刀殿の統率力もあって兵達一人ひとりが中々の練度を持っています、これなら行けるでしょう。」

 

「さて行こうか、稟、街の方を頼んだよ。」

 

「お任せください、何があっても対処してみせましょう。」

 

一刀達は稟にいざというときのための守備を頼み、新野から出立した。

 

 

 

 

黄巾賊の本拠地に行軍するまでに結構な道のりがあった、行軍中脱落者が出ないように数回の休憩をはさみ

兵達の疲労を気遣ったり、義勇軍が加入させてほしいと申し出てきたため受け入れたりもした。

 

「しかし、義勇軍にしては中々精錬されてますねー。」

 

「確かに、熟練兵までとは行かないけど中々の練度を持ってるな。」

 

「戦力を腐らせる理由もありませんし、兵たちと交流をさせて連携が取れるようにしましょうか。」

 

行軍中の思わぬ戦力増強に二人は頬を緩めたが、偵察兵からの通達された思わぬ事態に驚愕することになる。

 

「軍に保護を申し出ている人達が居る?」

 

「はっ!行軍中であるのは理解しているそうですが路銀が尽きて娘が心配だそうです。」

 

「どうします、お姉さん?」

 

「聞くまでもないだろ、数人余分に養っても平気なくらいには備えはあるし、俺には見捨てることはできないよ。」

 

「まあ、お兄さんならそう言うと思いましたよー。」

 

「了解しました、すぐにお連れするのでお待ちください。」

 

偵察兵が離れると数人の人がいるようで説明をしているようだが、その数人には二人にとって凄く見覚えがあった。

 

「なあ風、俺目が疲れてんのかな・・・?」

 

「ぐぅー・・・。」

 

風もこれには予想外だったようで夢の世界に逃げてしまった、仕方なく一刀は一人で保護を求めている者達に向かった。

 

 

 

 

「どうも、俺がこの軍を率いている新野の太守、北郷一刀です。」

 

「ありがとうございます、私の名は黄忠と申します、此方は娘の璃々です。」

 

「よろしくお願いします、太守さま!」

 

「ワタシは魏延だ、これでも腕が立つぞ。」

 

「楽進です、よろしくお願いします一刀様。」

 

一刀は正直顔が引き攣る思いだった、以前の三国志で黄忠に夏侯淵を討たれた過去もあって

今対峙している黄忠に若干の苦手意識があったがここでは彼女は何もしていないのだ、

ここで夏侯淵の仇敵である彼女になにか言ってもただの八つ当たりであり、詮無きことである、

そんなことよりも更に魏延とか凪まで連れているのはどういうことなのだろうか・・・?

 

「一応聞いておきたいんですが何故保護を?路銀の件はともかく腕も立つようですが。」

 

「はい、元々私と魏延は襄陽などを治める劉表様に仕えていたのですが、事情があって放浪の身なのです。」

 

「劉表様は別に悪い人じゃなかったし、あのまま劉表様の下にいるのも良かったんだが蔡瑁の奴にな・・・。」

 

(蔡瑁・・・たしか劉表が亡くなった後に魏に降伏してきた水軍に優れた将だったけど、赤壁で甘寧に討たれた将だったな。)

 

一刀の知る以前の蔡瑁は劉備達を追い出して魏に降伏、南征に対して水軍の調練が進んでいなかった魏軍には

荊州水軍は魅力的なもので蔡瑁を厚く遇したが、赤壁の戦いの際船が炎上し、乗り込んできた甘寧に討たれてしまう。

魏軍に居た一刀にとっては天の知識がありながら防げなかった上に流琉まで喪った敗北で苦い記憶のある戦いだった。

 

「蔡瑁は優れた将で彼なくして劉表様は成り上がれないほどの将だったのですが最近野心を燃やすようになったのです。」

 

「元々上を目指すのに躊躇のないやつだったんだがどんどん手段を選ばなくなってきたんだよ。」

 

「蔡瑁は黄巾賊が頭角を現してきたのに対して軍力強化していたのですが自分の思い通りになる軍を編成し始めたのです、

その際私達にも声をかけてきたのですがこれを断ると私達が討伐に赴いている中謂れのない罪を着せられてしまい・・・。」

 

「蔡瑁は黄巾賊の仕業に見せかけてワタシ達を暗殺しようとしてきたんだが危ないところをこの楽進に救われてな、

劉表様がそれを受け入れる人じゃないのは知っているが身の危険を感じてそのまま劉表軍を抜けだしたんだよ。」

 

(それが真実だとしたら蔡瑁は何を考えてるんだ?黄忠や魏延は多少の事があっても手放すのはあまりに惜しい人材だ、

それに何より、なんで其処に凪が加わって俺達に保護を求めることになるんだ?)

 

凪に再び会えたのは嬉しい事なのだが一刀が疑問に思い首を傾げると楽進が前に出て説明を始める。

 

「其処から先は私が説明します、私は友人の二人とともに旅をしていたのですが途上で大規模の賊に襲われてしまい、

全員が散り散りになってしまったのです、元の場所に戻っても二人に合うことはできずに一人で充てなく旅をしていたところ

襲われていた此方の二人に出会い助太刀をして行動を共にしています。」

 

「・・・なるほど経緯はわかりました、今は行軍中ですがあなた方を養うことはできます、人を匿うには不出来ですがね。」

 

「いいのお姉ちゃん!」

 

「こ、こら璃々!太守様にそんな口を・・・。」

 

「ははは、気にしないでください、それに俺は困った人は見過ごせない質でして。」

 

「ふーんお人好しの変わりもんだな、あんた。」

 

「焔耶も何を言ってるの!」

 

「いいですよ、変わり者なのは自覚してるんで、それにそれだけ言うなら腕も立つのでしょう?」

 

「勿論さ、あんたらこのまま黄巾討伐に行くんだろ?なんなら軍に加えてくれれば大暴れしてやるよ。」

 

「それは頼もしい、うちの軍には武官が不足しているので、お望みなら遇しますよ。」

 

「あの、でしたら私も末席に加えていただけませんか?弓の腕なら自信があるので。」

 

「それならば私もお願いします、何もせずに世話になるのは忍びないので・・・。」

 

(・・・思わず決めちゃったけど、これはある意味諸刃の剣だな、行軍中にどれだけ兵たちと馴染めるかが勝負かな。)

 

武官が優秀でもそれに兵がついて行けなければなんの意味もない、行軍中で立て続けの戦力増加に

一刀は嬉しさとそれに劣らない悩ましさで今も尚寝た振りをしている風を睨むがなんの意味もなくため息が漏れた。

 

 

 

 

集結した黄巾賊を討伐するために各地の太守達が集い、黄巾討伐のための軍議を開こうとしていた、

・・・が、集ったうちの一人の将、曹操孟徳は護衛である夏侯淵を連れながら苛立ちを募らせている。

 

「全く、これからあの袁紹の長話を聞かなきゃならないなんて・・・。」

 

「しかしこれはしかたがないかと、今の袁紹の軍力は最高峰ですから。」

 

「ふん、金と名声に任せた大軍勢ね・・・そう言えば秋蘭、あなた新野の太守のことを知ってるかしら?」

 

「はっ、最近黄巾賊を討伐して、捕えた黄巾賊を引き渡した際に官軍に納税を渡して太守と認められた女性で、

治安の乱れた新野の街を見違えるように復興させるなど、武力もあり優れた内政の手腕の持ち主でもあるようです。」

 

「そう、この黄巾賊が跋扈する中堂々と太守の一人となって頭角を現している、どんな娘か凄く気になるわ。」

 

「ならばすぐにでも知れるかと、この黄巾賊討伐の軍議にその太守が参加しているそうですので。」

 

「そうね、いずれこの曹孟徳自らその太守を見てみましょうか。」

 

好奇心と期待の導くまま、曹操は己の信念に生きる女性であり、欲しい人材は必ず手に入れる主義でもある、

治安が乱れた新野の街を復興、黄巾賊を討伐した手腕、連れている軍師、どれもが曹操の好奇心を刺激した。

 

「まあ、まずはあのやかましい高笑いをやり過ごさないとね。」

 

「心中お察しします、しかし本陣の留守を姉者と桂花に任せてよろしかったので?」

 

「構わないわ、なんかいざこざが起きても季衣や真桜達が止めてくれるわよ。」

 

特に気にしていないようで軍議のために建った天幕に入っていく曹操を夏侯淵は苦笑いしながら追った。

 

 

 

 

「おーほっほっほっほ!皆さんよくぞ集まってくれました、これより華麗に優雅に黄巾の皆さんを蹴散らして差し上げましょう!」

 

ここまで来るともはや個性だろう、耳に残りそうなほどの高笑いとともに冗長な解説が始まった。

 

(はぁ、よくもあんなに言葉が出るわよね。)

 

曹操は嫌になりながらも聞き流しながら卓上に置かれた対黄巾賊のための地図を眺める。

 

(連合軍にとって有利なのはそれぞれに優秀な将が居ること、あの袁紹にだって二枚看板の二人がいるほどだしね、

それよりも今私が気になるのは、あの義勇軍ね・・・。)

 

曹操が傍目で視線を移すとそこには公孫賛の客将であり、義勇軍でもある劉備軍、背後に控える黒髪の武人は、

まだ戦における彼女の腕を見てはいないが、己が信頼する夏侯惇にすら負けるとも劣らない風格がある。

更にその武人関羽を従えている劉備という将、目立つところはないがその関羽を従える何かがあるのだろう。

 

(あの義勇軍は伸びるわね、そして今この中で集っている軍で袁紹に次ぐ強さを持つ【孫文台】・・・。)

 

袁紹の妹である袁術を膝に乗せて袁術も笑い合いながら孫堅と話をしている。

 

(袁術の父親などの家族が亡くなった後基盤が揺らいだのを父《袁逢》と交友があった孫堅と袁術の側近張勲が立て直した、

それもあって袁術は母同然に慕って孫堅もそれを受け入れている。)

 

大軍を擁している袁術軍に孫堅の統率力が備わって袁紹にも引けをとらない精強な軍となっている。

 

(ふふ、この黄巾賊討伐の後でどれほどの英雄が私の前に立ちはだかるのかしら。)

 

他にも立ち並ぶ官軍の器の中に収まらない大器達を見ながら曹操は一人薄く笑みを浮かべていた。

このまま官軍のような無能の下に甘んじるなど御免こうむる、それならそれら官軍や阻む英雄を押しのけ自ら望む世を創る。

 

(・・・ん?)

 

反対側に居る将に視線を移すと自分と同じく地図に目線を移して何かを考えこんでいる一人の将。

夏侯淵との話題に上がった件の新野の太守が側の軍師と何かを話していた。

 

(彼女が新野の街を復興させた太守ね、そしてその側にいるのはあの程昱と真桜が話していた楽進・・・。)

 

密偵を出して噂話として聞いた日輪を持ち上げる夢を見て名を変えた賢才の少女と真桜達の旅の仲間である武将。

 

(更に聞いた話が確かなら彼女の側にはあの郭嘉も居る。)

 

最近太守になった北郷一刀、その彼女のどこに軍師にすらなれる奇才の二人を惹きつける魅力があるのか・・・。

 

そんなことを考えていたら此方の視線に気がついたのだろう、一刀が顔を上げて此方を見た、

一刀は真っ直ぐな目で曹操を見ながらニコリと綺麗に笑って手を振ってきた。

 

何故かその顔を見てると顔に熱が登り顔を背けると面白そうに笑って、傍に控える程昱もふふふーと面白そうに笑っていた。

ただ楽進は二人を不思議そうに見ていたが。

 

(なんなのよ、あいつらは・・・。)

 

どうにも調子が狂うしそれに何より悪い気がしないのだ、一体自分に何が起きたのか、今の曹操には全く理解できなかった。

曹操の、華琳にとって一刀への第一印象は調子を狂わせる変わった奴、だった。

 

「さあそんなわけで皆さん、我が袁家御旗の元、大いに働いてくださいな!おーっほっほっほっほ!」

 

 

 

 

「さーて、俺達の受けた配置は董卓軍の援護だけど・・・。」

 

「そうですねー。」

 

「正直言ってお荷物確定じゃないか?」

 

「まあ袁紹さんは知りませんからねー董卓軍には天下無双が居るなんて。」

 

「一応活躍の場はあると思うけど、その少ない活躍の場をしっかり掴まないとな。」

 

「黄巾の乱に参加しましたけどなんの活躍もありませんでしたってのは不味いですしねー。」

 

この黄巾の乱には後に英雄となる将達が多数集った三国志始まりの戦と言ってもいい重要な戦だ。

期待の新星である劉備、雌伏の時を過ごしながら虎視眈々と牙を磨いた孫呉、この時から頭角を示した曹操、

天下無双の呂布を仲間にする董卓軍や当時呉を従えていた大軍を擁す袁術、精強な騎馬隊、白馬義従の公孫賛。

そして、その名声と財力をあらん限りに使った現在最大の兵数を誇る袁紹だ、この中で自分たちがどこまで行けるのか。

 

「ははは、まあ俺たちは戦功を上げながら董卓軍の援護をしてればいいだけさ。」

 

決して容易に進む戦ではないが普通に戦うよりも味方にあの天下無双が居るなら幾分かは気が楽である。

 

「にしても劉表の件といい、前回に比べて随分と変わっていたな・・・。」

 

「そうですねー確か孫堅さんは黄巾討伐の時期には既に亡くなっていたはずなんですが・・・。」

 

「更に言うならその影響で孫家と袁術の間に確執が無いってのも大きく違うな。」

 

「何はともあれ袁術と呉軍が本来の知る歴史よりも大きく躍進してますね、これは少し面倒ですねーぐぅ・・・。」

 

「こらこら、面倒なのはわかるが寝ないでほしいな。」

 

「おおう、これから辿る未知の面倒さを察するについ眠気が。」

 

「まあ、それでもやりがいはあるだろ?」

 

「そうですねー困難な道をあらゆる手段で通りやすい道にして切り開くのが軍師の本懐ですから。」

 

「お話中に失礼します一刀様、董卓軍の進軍準備が整った模様です。」

 

「ん、じゃあぼちぼち行こうか、進軍前に董卓軍へ挨拶しに行かないとな。」

 

「お供させていただきます。」

 

「よし頼んだ、楽進。」

 

 

 

 

董卓軍の天幕に向かうとメガネを掛けた少女が出迎えた。

 

「ボクが董卓軍を仕切る賈駆だよ、今回の戦では後詰をよろしく。」

 

「ご丁寧にありがとうございます、俺は新野を治める北郷一刀です、」

 

「賈駆殿ですか、私は楽進と申します、此度の戦ではどうぞよろしく。」

 

(うん、やっぱり董卓本人は出ないか、仕方ないよな、本当の彼女は戦が嫌いな優しい少女だし。)

 

「さて、一応確認だけど・・・。」

 

「ご心配なく、袁紹の指示通りに動けば味方に無用な被害が出てしまうだけです。」

 

「それがわかってるならこっちからはなにもないよ、討ち漏らしはそっちに任せるね。」

 

「承知しました、うちの軍は偵察兵も優れているので董卓軍の背後はお任せください。」

 

ある程度の言葉を交わすと賈駆は天幕の中に戻っていった、おそらく中にいる董卓と話をしているのだろう。

一刀達も本陣に戻り戦力となった将達に指揮を託す。

 

「よし、じゃあ董卓軍と足並みをそろえながら進軍するか、楽進、魏延は槍兵達を、弓兵は黄忠に任せたよ。」

 

「はっ、歩兵達の指揮は任せて下さい。」

 

「ようやく暴れられるな、腕がなるぜ!」

 

「皆さんの足を引っ張らないように奮戦しますね。」

 

「ではではー武将も揃った新野軍、改めて出撃しますかねー。」

 

北郷一刀が新しく太守となり、以前の歴史とは大きく食い違った黄巾の乱が幕を開けようとしていた・・・。

 

 

 

 

「さーて孫武の強さ、黄巾の奴らに刻み込んでやるか!」

 

「大殿、儂もお伴しますぞ!」

 

騎馬に跨がり威風堂々とした振る舞いで先陣を駆る孫堅と側を固める孫家の重臣たち。

それに追従しながら孫堅の娘、孫策はため息をこぼしていた。

 

「はぁ、母様は本当に元気よね・・・。」

 

「なんじゃため息なんぞつきおって、らしくないぞ雪蓮。」

 

「おっと美羽じゃない、大したことじゃないのよ、子ども三人産んどきながら未だに現役張れる母様に呆れてるのよ。」

 

「あーなるほど、義母上は黄蓋と同じく生涯現役を謳っておるからのう・・・。」

 

「全くどこから来るのよあの活力。」

 

「それでも嫌いではないのじゃろう?」

 

「当然じゃない、私は孫家長女孫策伯符、いずれあの大きな背中を継がなくちゃならないんだから。」

 

あの背中を追い続けていつかは越える、王の器としては及ばないとしても、自分にも信頼できる親友がいるのだから。

 

「さて、妾たちも出陣するぞ!手柄をあげて義母上に褒めてもらうのじゃ!」

 

「・・・無理した進軍はやめなさいね、七乃にものすっごい負担が行くんだから。」

 

「いえいえー美羽様のためなら例え火の中水の中、お望みならば黄巾賊すら殲滅してみせましょう!」

 

「何時から居たのよ・・・?」

 

この連中と居ると退屈しないなぁ、そう思いながら苦笑いする孫策であった。

 

 

 

 

「華琳様ー!この春蘭の活躍をご覧あれ!」

 

「姉者は随分と張り切っているな、しかし流石に脆いな、大して鍛えていない兵ならばこの程度か。」

 

「・・・。」

 

曹操が信頼する夏侯姉妹が奮闘する中、曹操はなにか思案顔で考えていた。

 

「華琳様、いかがなさいましたか?」

 

「ああ桂花、あなた新野の太守についてどう思う?」

 

「はっ、少し前に旗揚げしたにしてはあまりにも成長速度が速い軍です、内政も奇抜で斬新な発想が目立っています。」

 

「それだけじゃないわ、彼女は才人を求めて街に人材を募る触れ込みを出して僅かな間で街を復興させたわ、

あっという間に太守になれた器を持つ才人が何故今まで世に埋もれていたのかしらね?」

 

「それは、確かに・・・。」

 

「ふふふ気になるわ、北郷一刀。」

 

曹操は気がつかない、一刀の将の基板を作り上げたのは未来の曹操自身、内政の応用は己が信頼する桂花だということに。

 

 

 

 

「進め!幽州に白馬義従ありと黄巾の賊達に知らしめろ!」

 

白馬の波が黄巾賊を踏み荒らし、公孫賛が先陣を切る部隊の勢いは止まる気配がなかった。

 

「うりゃりゃー!邪魔する奴には手加減しないのだ―!」

 

「我が名は劉備玄徳が義妹、関雲長!死にたくなくば道を開けろ!」

 

「ふむ、血気盛んだな、これはもたもたしていると常山の昇り龍が霞んでしまうではないか。」

 

それに負けないほどの勢いで劉備の義妹と公孫賛の元から引き抜いた趙雲が黄巾賊を蹴散らしていた。

しかし、それを見守る義勇軍の長、劉備は浮かない顔をしていた。

 

「と、桃香様、どうしたんですか?」

 

「あ、ごめんね朱里ちゃん、少し気になったことがあってね、この黄巾の乱って本当は防げたのかなって・・・。」

 

「桃香様・・・。」

 

「変な事言ってるのは分かってるの、でも朱里ちゃんや雛里ちゃんには解るかな、こうなってしまった理由って。」

 

黄巾の乱が始まる少し前に劉備軍に加わった臥龍、鳳雛と呼ばれた諸葛亮、龐統、二人は劉備に答えを話す。

 

「・・・結論から言ってしまえば黄巾賊達が立ったのは漢王朝の権威の失墜、それに追い打ちを掛けるような

飢饉や疫病の蔓延、そして太守達の不正によって民が苦しんだ結果に起きたことです。」

 

「でもでも、ほんとはしっかりと内政を整えてればここまでは行かなったと思うんでしゅ・・・あう。」

 

説明をしたいのに思わず噛んでしまって帽子を目深にかぶる龐統を劉備は優しくなでた。

 

「あわわ、そのですね、つまり治安や内政をしっかりと管理してれば未然には防げたはずなんです・・・。」

 

「・・・そうなんだ、私にはできるのかな、皆が笑って居られるような、平和な天下。」

 

「で、できます!桃香様ならぜったいにできましゅ!」

 

「ふふ、ありがとね、朱里ちゃん♪」

 

劉備は二人を優しく抱きしめると意を決したように立ち上がった。

 

「よーし、私も頑張らないと!」

 

部隊を率いて劉備も戦場の中に飛び込む・・・が。

 

「いかん!桃香様が前線に出ている、急いで援護に行くぞ鈴々!」

 

「わかったのだ!」

 

「桃香様!勇気と無謀は違いますぞ!」

 

「えぇー!?みんなひどい!」

 

ご覧の有様である、皆を惹きつけ、仁の世を目指す劉備玄徳、彼女道のりはまだまだ険しそうだ。

 

 

 

 

一方、董卓軍の援護をしながら黄巾賊を倒していく一刀達は人が吹き飛ぶさまを遠い目で見ていた。

 

「いやー・・・なんていうか言葉に出来ない状況だよな。」

 

「人間はあんな感じにぽんぽん飛んでいきませんからねー。」

 

董卓軍の後を追って従軍すると天下無双、呂布奉先の部隊が黄巾賊を文字通り蹂躙していた。

 

「訓練されている兵じゃないけど、あれを見て同じ武に生きる人間としてどう思う楽進、魏延。」

 

後ろに控える二人に話を振ると二人は震えていた、だがその震えは決して恐怖から来ているものではないのを知っている。

 

「・・・正直、勝てる気がしません、正面から当たってもあの一撃のもとに散るでしょう。」

 

「ああ、それでもさ、やっぱワタシたちは武人なんだ、あいつが恐ろしく強かろうとさ、戦場で武を交えてみたいんだよ。」

 

「はい、魏延殿の言うとおりです、できることならあの武に挑み、乗り越えてみたいと思うのが私達武人なのですよ。」

 

「・・・だよな、そう言うと思ったよ。」

 

あれを見て臆するのではなく、逆に戦意高揚してしまう彼女達は間違いなく三国に生きる武人の顔をしていた。

 

「おっと、話は終わりかな、呂布軍の討ち漏らしを黄忠隊で射かけて威嚇するよ、槍部隊は弓部隊の護衛を頼む。」

 

「え、当てなくてよろしいんですか?」

 

「多分、あの黄巾賊達は今自分の目の前に矢が刺さったら心が折れると思うんだよね・・・。」

 

(元々呂布さんの武に怯えて絶望状態の敵に弓なんて射掛けたらどうなるかなんてわかりきってるんですけどねー。)

 

一刀の指示を受け、黄忠は黄巾賊の部隊近くに弓を射かけた、逃げた先にまで敵がいるのかと黄巾賊は混乱に陥った。

 

「ひぃ、こっちにも敵がいるぞ!」

 

「お、俺は死にたくない!降伏するから助けてくれぇぇぇぇ!」

 

「俺もだ、武器を捨てるからどうか命ばかりはお助けください!」

 

「ん、懸命だね、君たちの身は保証させてもらうよ。」

 

呂布の勢いをその目で見て完全に心を折られた黄巾賊を降伏させるのは容易なことだった。

 

「しかし一刀様、彼らを降伏させることになんの意味があるんですか?」

 

「まあ、無駄に被害を出したくないし、元々黄巾賊の実情は賊も多いけど、朝廷に不満を持った農民も居るしね、

この人達もどうみたって戦うのに慣れてないし、こんな戦いで無駄に命を散らせる必要もないでしょ。」

 

「やっぱあんた変わってんなー。」

 

「そうかな、言ってる間にまた一部隊来たよ、あの部隊は殲滅して構わないか、あいつらが向かってる方向には村落だし。」

 

「あーたしかにありゃ見るからに生粋の賊だな、呂布を見ても怯えるどころか火事場泥棒目論んでる顔してるぜ。」

 

「大方董卓軍の目があっちに向いてる隙にって感じなのでしょうけど浅はかですね―。」

 

「楽進、魏延、あの部隊を止めてくれ、その間にこっちはすることがあるから。」

 

「了解しました、楽進隊行くぞ!」

 

「よっしゃぁ、暴れるぜ、楽進隊に遅れを取るなよ!」

 

勢い良く駈け出した二人の部隊が突撃してきたのを賊は気が付いたようだがもう遅い、後は任せるだけで大丈夫だろう。

 

「さて、君たちには少し聞きたいことがあるんだ。」

 

「は、はいぃ!なんでしょうか!」

 

「落ち着いて、答えられなくても命は取らないから、君たちこの付近で黄巾賊が兵糧貯めている場所知っているかい?」

 

「は、はい・・・。」

 

 

 

 

「北郷軍から伝令?」

 

「はっ!降伏し捕虜とした兵から中規模の兵糧庫の場所を聞き出したので落とすべきかの判断を伺っています。」

 

「ふぅん・・・兵を降伏させて情報を引き出したんだ、でもなんであいつ等こっちに情報を寄越したの?」

 

「あ、それについてなんですが、呂布将軍が暴れていたからこそ成功したので董卓軍に判断を任せるとのことです。」

 

「・・・まあいいか、真偽はどうあれ場所を聞くに進軍箇所とそれほど遠くないし、とりあえず呂布はそのまま進軍、

兵糧庫の攻撃へは張遼隊に委任するから北郷軍には張遼隊を援護するように伝令を送って。」

 

「は、承知いたしました!」

 

「なんや、別行動とってええんか?」

 

「あんたのことだから出番なくて寂しいんでしょ、機会作ってあげたあいつ等に感謝しなさい。」

 

「ま、ええけどな、恋っちばっかが暴れてて暇してたところや、ひと暴れさせてもらうで!」

 

張遼が一声かけると従軍する騎馬隊が駈け出した。

 

「あ、こら!北郷軍と足並みそろえなさいって!?」

 

「わかっとるでー。」

 

「はぁ、大丈夫かな・・・?」

 

親友を前線に出さないために董卓軍総大将を務めたが自由奔放ぶりに頭を抱える賈駆だった。

 

 

 

 

「そらそらそらぁー!一気に行くでぇ!」

 

「張遼隊に遅れを取るな!俺達も続くぞ!」

 

「あらら、これはもはや虐めですねー。」

 

風は離れた所から戦場を眺めているが黄巾賊にとっては地獄の様相だった、張遼の騎馬隊が黄巾賊を蹂躙して

一刀率いる魏延、楽進隊は堅実に包囲しながらジリジリと軽被害で乗り切っていた、そこに黄忠隊が後方弓部隊を

先に仕留めているので弓に対する被害は軽微になっているためもはや一方的な殲滅戦だった。

 

「やはりしっかりと練兵さえしてれば黄巾賊はものの数じゃないですねー。」

 

熟練された兵が少なく、元が賊徒や農民上がりの兵たちだ、練兵を怠らずに統率をしっかりと整えていれば

ただ数の多い賊の群れと大差がないのだ、それでも彼女達の熱狂的な信仰者はそんな話では片付かないが。

 

「普段もそうですが、被害は軽微に相手に大打撃を、できれば戦わずに勝つ、そういう戦法を練るのが私達軍師ですしね。」

 

そもそもこの戦いは多少食い違っていても経験済みなのだ、ここで躓いていたら全く話にならない。

 

「まあ、今はいいかもしれませんが、戦場の情報に限ってはこの先は全く役に立たない知識かもしれませんね。」

 

空を見ながら風は思う、ただ一刀が太守になっただけでこれほどまでに運命がねじ曲がるのだとしたら、

元々太守になる前から生きていた、孫堅の生死もそうだが、もし更なる改変が起きたら魏呉蜀でなされた三国鼎立すら・・・。

 

「報告!兵糧庫を完全に陥落させました、火をつけるべきか接収すべきかの判断を求めています!」

 

「おおう、風としたことが余計なことまで考えてました、接収は持ちすぎない程度にして残りは火をつけてください。」

 

必要以上に持ってしまうと逆に軍の動きが鈍る、運送のための人員も考えると多すぎても駄目なのだ。

 

「はっ!」

 

「さて、接収が終わり火をつけたら董卓軍と合流しますかね。」

 

先の事は気にはなるが今を集中しなくては意味が無い、そう思いながら風は一刀達と董卓軍に合流しに向かうのだった。

 


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