凄惨なる天命への反逆   作:未奈兎

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兵法や内政の方法があっているかな?


1話 対等になるための一歩

「風、本気で言っているのですか?」

 

「はい本気です、実は昨日の夜あのお姉さんとお話をして、風はあのお姉さんについて行くことにしました。」

 

もう一人の自分の記憶を得て日が昇った後、風は稟と向かい合っていた。

 

「できれば事情を伺いたい、なぜたった一晩であの御仁についていくと?」

 

「そうですねーあのお姉さんはいずれ凄い事をする、そんな気がするんです。」

 

「凄い事ですか・・・。」

 

「それに稟ちゃんも感じたのではないですか、お姉さんと話した時に何かを。」

 

「む、たしかにそれは否定しませんが。」

 

「お姉さんは今日此処の名士の方と相談して太守についての相談をするそうです、

此処には太守が居ませんからね、交渉と仕事次第では新野の新しい太守になるかもしれませんね。」

 

「風は一刀殿とここで名をあげるつもりなんですね。」

 

「はい、でもきっとお姉さんは今の世の中すら変えれると思います。」

 

「そこまで、見込んだのですね。」

 

「本音を言うと稟ちゃんにも来て欲しいんですが無理強いはできません、

其処で提案があるんですが稟ちゃんにもお姉さんを見極めて欲しいんです、

交渉の席には私も同行するんですが、稟ちゃんにも同席して貰いたいんですよ。」

 

「ふむ・・・。」

 

顎に手を当てて考える素振りを見せる稟、しかしある程度の考えは決まっているのだろう。

 

「私としても風が其処まで見込んだ一刀殿に興味があります、直に見極めてみましょう。」

 

「ありがとうございます、稟ちゃん。」

 

正直な話申し訳ないとも思う、自らの勝手で親友の運命をねじ曲げてしまうことに、

一度未来を見て、一刀の人となりを見た風とは違って稟は何も知らないのだから、

それでも一刀と同じく風にも譲れないものができたのだ。

 

(稟ちゃん、私も稟ちゃんをあんな形で絶対に死なせたくないのです。)

 

 

 

 

話を終えて風と稟は一刀とともにこの街の名士の家を訪ねていた。

この名士の男は街を管理しているわけではないが多くの人脈を持っている。

その証拠に治安が乱れた新野の街で中々の財を蓄えている有力名士だった、

風と稟の二人は後方で控えて風は必要あらば援護する体勢で居た。

 

「なるほど、ではあなた方はこの街を繁栄させる術を知っていると?」

 

「はい、あなたにはその支援をしてもらいたいんです、決して損はさせません。」

 

「たしかにこの街はあまりよい環境とはいえませんが、あなた方にこの街を立て直せる力があると?」

 

「そうです、治安の見直し、農地開拓、商業の発展の方法の見当もついてます。」

 

北郷一刀は曲がりなりにも三国時代の黄巾の乱から樊城の戦いの戦後までを戦ってきた一人の将、

曹操軍の一員として働いていたが人手不足の時に荀彧に内政業へと引っぱり出されることも少なくなかった。

 

その仕事の中には外交官として地方豪族や名士たちとの交渉についたこともある、

経験は何よりも大切な財産だ、その財産をここに持ち込めたことを感謝せずにはいられない。

 

「それにあなたが一番ご存知のはずです、お金は使わなければ廻らず、懐に留まらないことを。」

 

「ほほう、あなたは私が出資すれば私にも利があると。」

 

「言わずもがなです、あなたはここの町の商人に土地を貸し出すなど多くの投資をしています。

当然商人の利益が出なければ損にしかならず、商いがうまく行けばあなたの懐も潤う。」

 

「お願いです、俺には太守としてこの街でやりたい事があるのは否定しませんが、

この街の現状、指を咥えてみていることも俺にはできないんです。」

 

「・・・。」

 

名士の男は目の前にいる女性、一刀を感心の目で見ていた、ただ太守になりたいから援助しろと

言っているではなく、此方にもしっかりとした利を提示して尚且つその具体案すら述べている。

 

「お話は解りました、ですがすぐに信用するわけにも行きません、まずは仕事ぶりを見せてもらいましょうか、

この街にも形だけですが政庁があるので其処で暫くあなた方の仕事ぶりを試させてもらいます、

前金としてある程度の工面は致しますが現状での支援はそれのみとさせていただきますよ。」

 

「私にとってはそれだけでも十分です、機会を与えて頂き感謝します。」

 

一刀は恭しく頭を下げると部屋を後にした。

 

「不躾な訪問でしたが、概ね好意的に受け止められましたね、しかしよく投資などの情報を集めましたね。」

 

「まあね、情報は何よりの武器さ、あると無いじゃぜんぜん違う。」

 

「それにしてもお姉さん、試させてもらうと言ってましたが、どんなことを提示されたんですか?」

 

「大したことがあるようでない感じかな、治安の回復と番兵達の指導、まずは信用を勝ち取らないとな。

風には手伝ってもらうことが多くなるけど、郭嘉さんもあてにして大丈夫かい?」

 

「ええ、いいでしょう、あなたがどこまで行けるのか、私も興味が出ました。

それと私のことは稟とお呼びください、風が其処まで信頼するなら真名を預けるに値する方でしょう。」

 

「ふふふ、風と稟ちゃんがいれば頭脳面で怖いものなしですよ、お姉さん。」

 

「ああ、ありがとう稟さん、風も頼りにしてるよ!」

 

三人は手を取り合い、目指すもののためにまずはこの街を復興させていくことから始めていくのだった。

 

「それで、一刀殿はまず何から着手するのですか?」

 

「それについては決めていることがあるんだ、この文面を街中に掲示しようと思う。」

 

「これは・・・なるほど、まずは何よりもすべきことですね。」

 

「しかしこれは斬新な、一刀殿はどういう考えで?」

 

「俺の尊敬する人が出した考えかな、前金としては十分すぎるし、早速行動に移していこうか。」

 

 

 

 

その日の翌日、新野の街にある看板が立てられ、その看板を民衆たちが読みながら何かを話していた。

 

「おい、俺は字があまり読めないんだが、お前解るか?」

 

「どれどれ、あーこれは人材募集の触れ込みだな、働く意欲のある奴を集めて街の復興を始めるらしいぜ。」

 

「本当かよ、報酬はどれぐらいになってんだ。」

 

「かなり良い待遇だな、俺力仕事に自信があるし政庁に申し出ようかな。」

 

「あ、ずるいぞ、俺も知りあい誘って行ってみようかな。」

 

「食料に乏しい者達に配給もするらしいぞ、これは行かなきゃ損だぞこれは!」

 

「兵としても働き場所があるんだな、よっしゃ、仕官してみるのもいいかな。」

 

 

 

 

数日後、街の民衆が熱心に復興に向けて働き始め、外からの商人、嘆願や意見書が来る様になり、

山のように積み重なった竹筒を一刀が整理しているのを稟は手伝っていた。

 

「しかし、何故いきなりこのようなことをしたのです?この街には困る者は多いですし、

施しなどをすれば人が一気に溢れて混乱状態になります。」

 

「それでいいのさ、この状況。逆に言えば押し寄せるくらいに困窮してるってことなんだから、

名主様にも言ったけど、お金は使わないと廻らないし、このお金が商人たちにも回ってるんだ、

そして炊き出しを雇った人たちにも給金は回したし、何をするにも人を集めないとね。」

 

「それでも。前金としていただいたお金を半分以上も使ってしまって大丈夫なんですか・・・っ!?

なるほど、そのための【税収】ですか、涼しい顔をして考えることは恐ろしいですね。」

 

「そ、なんだかんだで【税収】もここに来るようにしたんだ、俺達はこのお金をうまくやりくりしないとな、

人事の担当には風を頼ってるし、俺はこの書類を片付けないと、嘆願が多いけど処理できない領域じゃない。」

 

「内政にも明るいのですね、字の書き取りもそうですが、貴殿は随分と学に明るいようだ。」

 

「ははは、師匠とも言える人に随分と扱かれたからなぁ。」

 

「だとすれば、その師匠というのは恐ろしい人だ、単独でこれほど仕事をこなせる人物を育ててしまうとは・・・。」

 

「ああ、そうだね・・・。」

 

その時、稟は確かに見た、誇るべきほどの事なのに、一刀の顔に影がさしていたのを。

 

(そりゃそうさ、その師匠は病の中で、俺に一つでも残そうと必死になって教えてくれた稟なんだから。)

 

 

 

 

確かに内政の基本師匠といえるのはあの事あらば罵倒してくる華琳の軍師様だったが、

以前の一刀の内政、知略、軍略の最大の師匠は間違いなく稟だったと断言できる。

 

あれほど無力を呪ったことはなかった、否、それ以降も呪ったがあれが初めての事だった、

病に倒れ、数日も持たないと申告された稟は一刀を部屋に呼び出して講義を始めた。

 

『もはや私には猶予は残されていません、ならば一刀殿、ゴホッ!

この私の我儘を聞いてください、私の一片でもいい、貴殿に託したいんです。』

 

『・・・体に障るからダメだって言ったら俺はとんだ大馬鹿だな、覚えは悪い頭だけど、詰め込んでみるよ、

頼む、俺に稟の少しでもいい、知略の一片を残させてくれ。』

 

『ええ、こんな身体ですが、容赦はしませんよ、早速初めますから筆を取りなさい。』

 

必死だった、とにかく稟の不安を取り除きたかった、自分がその一助になれるなら一刀はなんだってした。

それから、華琳や風、一刀に看取られながら、稟はその生を全うしようとしていた。

 

『一刀殿、全く貴殿は覚えが悪くて苦労しましたよ、及第点まで行ったのが奇跡に思えるほどです、

華琳様、申し訳、ありません、できることなら最後までこの知略をあなたのために、捧げたかった・・・。』

 

『何を弱気なことを言っているのよ、あなたはまだ、いいえ、最後まで私の側に必要なのよ、

それなのに、稟は、あなたは私の許可無く先に逝ってしまうの!?』

 

『稟ちゃん、まだです、きっとよくなりますから・・・だから!』

 

『弱気になっちゃ駄目だ!気をしっかり持ってくれ、お願いだ、稟!』

 

『ふ、ふふふ、無念です、身体は全く言うことを聞かないのに、私の頭蓋は、華琳様の覇道、

これから、南へと進み劉備、孫呉の討伐への策謀が溢れて止まりません、本当に無念、で、す・・・。』

 

『駄目よ!逝っちゃ駄目よ、稟ー!』

 

『そんな、こんなの、嘘です、稟・・・ちゃん…!』

 

『畜、生・・・!なんで、なんでこうなっちまうんだぁぁぁぁぁー!』

 

 

 

 

「一刀殿、いかがした?」

 

「っ!いやなんでもないよ。」

 

本当にどうしてあんな結果になってしまったのだろうか、稟も自覚症状もなく病気が杞憂だったのかと思いもした、

でもそれは間違いだった、稟は自分の先を知っていた、一刀や風、華琳にすら申し出もしないで隠していたのだ、

烏丸討伐には稟の知略と霞の武が絶対に必要な状況だった、そして討伐が佳境に差し掛かった時には・・・。

 

一刀はひたすら後悔した、たとえ隠し通されようとも何故病のことで稟を気遣わなかったのか、

華琳に、風に申し出れば、もう少しいい結果に導かれただろうか?

 

「俺は、師匠の誇れるような、そんな奴になりたいんだよ。」

 

「ならば貴殿の師は誇らしいでしょうね、これほどの奇抜な内政を私は今まで見たことが無いですから。」

 

(ありがとう、稟にそう言ってもらえるだけでも、俺は少し救われる気分だよ。)

 

あれから、桂花の教えが見違えて吸収できるようになったのは、間違いなく彼女のおかげなのだから。

 

 

 

 

その夜、一刀と風は政庁の一室で話をしていた。

 

「しかし、お姉さんの、華琳さまの考えが見事に的中した形ですねこれは。」

 

「元々この街は名主様のお陰である程度自立できていたんだよ、だったら俺達はその地盤を作ればいいだけさ、

風にはお見通しだったみたいだけど華琳のやり方を自分なりに変えてみたんだ、どう思う?」

 

「まあ確かにこの街は広いですから埋もれている人材も少なからず居ましたけど、

一つだけ見当違いなことがあります、この街【武官】に値する方が全く居ませんでした。」

 

「まあ無理ないかもな、門衛も腕は立つって言っても卒伯ぐらいの実力だったし。」

 

「ここにいるくらいなら今諸将が募ってる武官招集に応じているでしょうね。」

 

「あーあ、俺の知る武官が仕官してくれれば話は違うんだろうけど、其処まで話はうまくいかないよなぁ。」

 

「・・・ぐぅ。」

 

「おぉい!?」

 

「おおう、余りにも荒唐無稽な話につい眠気が。」

 

「・・・考えなしの話じゃないんだけどな、ほら後に対立した三国ってさ黄巾の乱から既に人材がある程度

基板ができていたんだよ、俺たち魏には春蘭、秋蘭、桂花、蜀には関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、龐統、

最初は袁術に属していた呉にだって孫策は勿論知恵者の周瑜、そして雌伏の時に揃えた名将たち。」

 

「確かに、考えてみればその時にはある程度自立しても問題ないほどの人材が揃っていたんですね、

そして後は魏、呉、蜀、それぞれが更に人材を集めて飛躍の時を待つだけだった。」

 

「今の俺も風と稟が居る、焦りは禁物だってのは知ってるけど、やっぱり一人でもいいから武に長じた人がいればなぁ。」

 

「そう言えば、お兄さんは今どれぐらい強いんですか?」

 

「・・・わからない、風を看取った後俺は元の世界に戻っていたんだ、そこで有数の武道家にはなったけど、

この国でどれだけこれが通用するのか、それがわからないんだ。」

 

一刀はそばにある日本刀を握る、女となってしまった身体でも、問題なく振り回せた。

しかしこの武が果たして一刀が知る英雄たちに通用するのか・・・。

 

「それと、お兄さん、とうとう黄巾賊の活動が活発化してきました、黄巾の乱はそう遠くないうちに起きるでしょう。」

 

「まあ黄巾賊の本当の姿はただの歌姫たちの熱烈な追っかけだったけどね、それに便乗して一部が暴れてるだけで、

あーそれだったら尚更武官がほしいな、俺が覚えた付け焼き刃の兵法じゃまだ通用しないよ・・・。」

 

「しかしお兄さん、付け焼き刃と申しましたがどれ位できるんですか?」

 

「動きとしては問題ないんだけど、実戦を交えてないからどうにも判断に困っていてね・・・

兵として志願してきた人たちと訓練を始めてね、鍛冶屋の人たちも積極的に協力してくれたんだ、

槍とか弓なんて大事だしすぐに量産してくれたよ、やっぱり戦をしたことがないときには長い得物の方がいいし、

剣は多く鉄を使うけど弓矢とか槍なら少ない鉄材でも質のいい木もあれば量産できるし。」

 

「なるほど、資源の節約も兼ねれるんですか。」

 

「木材もだけど鉄材だってとても貴重なんだ、闇雲に多く使うわけにも行かないよ・・・。」

 

「ふむふむ、お兄さんも中々成長してるようで、嬉しいですね。」

 

「今を乗り切ればいいって話じゃないんだ、これからもこの街を発展させていかないとな。」

 

「そしてこの街を起点として、ですね。」

 

「まだその舞台にすら立ってないからな、焦らないで、それでも時には大胆に行動していかないと。」

 

「道は険しいですよー最低でも華琳さまを超えるのが絶対条件ですから。」

 

「うへー・・・気が遠くなる話だけど、やるしか無いんだよな。」

 

「華琳さまは自分よりも無能の下には付きませんからねー。」

 

ふふふーと笑いながらジト目な彼女と話していると、一刀は昔を懐かしんだ。

それからも、暫く二人は談笑をしながら夜を過ごして、魏軍に居た時のことを語り合った。

 

 

 

 

それから更に数日後、偵察に出していた斥候から街に一報が入る、数は多くないが、黄巾賊が迫ってるらしい、

町の住民は少なからず動揺が走るが其処を一刀や稟達が鎮める。

 

「落ち着け!今までの訓練を忘れたのか!?」

 

「賊の規模も決して多くない数です、皆さんの奮戦があれば勝機はあります!」

 

「しっかりと訓練を思い出せば絶対負けませんよ―。」

 

この街を見違えるほどに良くしてくれた一刀達の言葉の影響力はとても高く、動揺は鎮まり、

自らが住む街を守るためにそれぞれが槍や弓を取り準備を始めた。

 

「これがお姉さんがやってきた成果ですね―。」

 

「よしてくれよ、稟や風の助けがあって事さ、俺はまだまだ未熟だよ。」

 

「現状に満足しないのは結構なことですが、今は目の前に集中しましょう、賊は待ってくれませんから。」

 

「よし、皆!よく聞いてくれ、これから黄巾賊を撃退するために策の準備をする!」

 

「「「おおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

「信頼は十分のようですね、これなら一刀殿の命は皆よく聞くことでしょう。」

 

「相変わらず人心掌握がお上手ですね、お兄さんは。」

 

「む、風なにか言いましたか?」

 

「・・・ぐぅー。」

 

「まあいいでしょう、そう言えば一刀殿、策と言いましたが一体?」

 

「ああ、大したことじゃないよ、ちょっと【釣り】に行くだけさ。」

 

「・・・?ああ、なるほど欲に目がくらんだ賊なら間違いなく成功しますね。」

 

(ふふふふーまさかお兄さんから策が聞けるようになるとは、稟ちゃんも鼻高々ですね。)

 

 

 

 

新野の街、その近くで賊の一団が下卑た笑みを浮かべながらじわじわと迫っていた。

 

「へへへ、もうすぐ街につくぜ、あー早く暴れてえな―。」

 

「街なら女もたくさんいるだろうな、今から楽しみだぜ。」

 

「他のあいつらよくわからねえよなー歌や踊りのどこがいいんだか。」

 

話していることは街についたらどう暴れるかなどでありとても平和的なことではなかった。

しかし、賊達の目にある一団が目にとまる。

 

「う、うわぁ!黄巾賊だ、積み荷を奪われる訳にはいかない、すぐに逃げるぞ―!」

 

見たところ商隊だろう、馬車を引きながら賊から遠ざかるように逃げている。

 

「お、あんな所に商隊が居るぜ、行き掛けの駄賃だあいつらも頂いていこうぜ。」

 

「おっしゃ!まちやがれ、積み荷を置いていけ!」

 

「・・・よしうまく釣り出せたな、後は一定の距離をとって北郷様の言うとおり森へと引き込まねば。」

 

賊達は気がつかない、欲に眩んで行動して、自ら虎穴に飛び込んでいることを。

 

 

 

 

商隊と黄巾賊との逃走劇は続き、やがて深い森に入ると、賊達は商隊を見失った。

 

「ちっ見失ったな、仕方ない、街を襲いに戻ろうぜ。」

 

「とんだ無駄足だったな・・・がっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「や、矢だ、木から矢が降ってくるぞ!」

 

気がつけば木上には矢を番えた弓兵達が賊たちを狙っていた。

 

「しまった、こりゃ罠だ!戻れ戻れ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?」

 

気が付いた時には手遅れ、一刀と稟が率いた兵たちが矢継ぎ早にと黄巾賊を襲う。

 

「今だ!第二陣、一斉に放て!」

 

「うわわぁぁぁこっちにも弓兵が居るぞぉぉぉ!」

 

「慌てるな!数は多くない、蹴散らして進め!」

 

賊の頭だろう、彼が指示を出すと数人が弓兵達に突撃するが、更に横から槍を持った兵が奇襲してきた。

 

「よし、かかれ!敵は浮き足立っているぞ!」

 

「ひぃぃぃぃ!こっちにもいるぞ!?」

 

「な、なんだってんだ!こいつら一体どこから!?」

 

「森というのは隠れるのにとても適した場所なんです、まあ教訓を活かす機会はもはや無いでしょうかね。」

 

「かかれ!ひとりとして死ぬのは許されないぞ!生きて街に帰るんだ!」

 

「「「おぉぉぉおおお!!」」」

 

「・・・戦国の強者、島津の得意戦法【釣り野伏】、うまくいったな、誘い出し、静かに備えて、かかる時は烈火のごとく。」

 

自分の学んだ日本の兵法、これによって今を戦える、そう思うと今までの研鑽は無駄ではなかったことを感じると、

日本刀を握り、首をふる、感慨に耽るのは今ではないのだから。

 

「くっそぉぉぉ!せめてお前だけでも道連れにしてやる!」

 

「・・・悪いが、俺は死ぬ訳にはいかない。」

 

賊の頭目が此方に特攻してきた、迫る殺気は凄いが、闇雲に剣を振り回してくるだけなら

簡単にさばける、刀を峰にして、相手の脇腹にめがけておもいっきり打ち付けた。

 

「ご、がぁ・・・!」

 

「今殺しはしないが、罪は償ってもらうぞ、他にも生きている黄巾賊がいたら拘束しろ、この戦い俺達の勝ちだ!」

 

「う、おぉぉぉぉぉ、やったぜ俺達黄巾賊に勝っちまった!」

 

「信じられねえ、俺たち勝てたんだ!」

 

黄巾賊を無力化して、勝利の喜びに浸る新野の兵たち、彼らは戦いを知らず怯えるだけだったが、

今間違いなく、一刀や稟、彼らの力で敵を倒せることに成功したのだ。

 

「見事な手並みですね、釣りだしから奇襲までの算段も見事でした。」

 

「ありがとう!稟にそう言ってもらえると凄く嬉しいよ!」

 

「!・・・・ななななな!?」

 

一刀は出来る限りの笑顔で稟に笑い抱きつくと稟は見事に顔が赤く染まり・・・稟の鼻管から大量の血が吹き出した。

 

「うわっ!あー・・・忘れてた、あははは、締まらないなぁ、俺・・・。」

 

稟を抱き上げながら兵たちに指示を出すと黄巾賊たちを土に埋めて一刀達は馬に乗り新野の街に戻り始めた。

 

「ああ、もう・・・足が今更震えてきた、俺の指示で、この黄巾賊達は死んだんだよな、運が悪ければ街の皆も死んでいた、

華琳と居た時だって兵を率いていたけど、重さが全然違う、華琳はいつもこの重さに耐えていたのかな?」

 

「でも振り返らないよ、俺はここで死んでいった人のためにも、目指さなくちゃな・・・!」

 

決意を新たに、一刀は足を進める、自分の成したい目的と、後ろからついてきてるれる兵達のために。

 

 

 

 

新野の街に戻った兵たちを街の民衆は大歓声で迎えた、一刀たちも勝鬨の声を上げて街を凱旋した、

そして今日ばかりは皆の完勝を祝って宴会を開いた。

 

「いやぁ、お見事ですねーお姉さんも稟ちゃんもお疲れ様でした。」

 

「ありがとうございます、風、街の方は異常はありませんでしたか?」

 

「大丈夫ですよ、何も変わらず皆の帰りを今か今かと待ってました。」

 

「よかった、兵が居ない間に街に異常があったら事だったよ。」

 

《そのために残したんだろうが、信用ねえなおい。》

 

風の頭に乗っている奇妙な物体が話し始めた。

 

「いえ、何なのですかその言い回しは?」

 

「ぐぅー……。」

 

「だから何故其処で寝るんですか!?」

 

「今に始まったことじゃないさ、ほら、稟も飲みなよ。」

 

「ととっ失礼、しかし本当に快勝でしたね。」

 

「皆の奮闘あってのことさ、俺は戦う力を教えて策を立てただけさ。」

 

「いえ、それだけできれば十分です、改めて確信しました、私のこの知をあなたに預けましょう。」

 

「・・・ありがとう稟、頼りにさせてもらうよ。」

 

そして、黄巾賊討伐で一刀達の実力は街の多くの人達に認められて名士も支援するに値する者と認める、

とうとう一刀は新野の街の太守となった。

 

 

 

 

「俺はようやくここまでこれた、形だけとはいえこれで新野の太守として黄巾賊討伐を対等に参加できる、

何か言われた時には、まあ何とか出来るさ、今の漢王朝じゃ諸将の勢いを止められない、

せめて武官が居ればもっと有利に進んだだろうけど、そんなことを言ってられない、俺の全力で行こう。」

 

「なにより、稟や風にあれだけ期待されてるんだ、俺は女にはなったけど、男として応えないとな。」

 

満月が照らす夜、一刀は満月を見上げながら笑い、次の戦いに備えるために、書類をまとめ始めた。

 




一刀さんがようやく太守に、これからが本番ですね。

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