「今日って何の授業だっけ?」
「闇の魔術に対する防衛術だ。それからスネイプ先生の魔法薬学さ。グリフィンドールと合同でね」
ドラコは嬉しそうに答えた。スネイプはルシウスの後輩だし、贔屓してくれると思っているんだろう。事実その通りなのだが。
それにしても今日は濃い一日になりそうだ。
闇の帝王に寄生されているクィレル先生の授業に、ハリーがスネイプを完全に嫌いになる魔法薬学の初回の授業。
覚悟はしていたが、ホグワーツでの生活に安息の日々は訪れないのだろうか……。
バサバサという大きな音とともに何百羽のふくろうが大広間に入ってきた。郵便の時間だ。
このふくろうたちは手紙や新聞、お菓子、その他様々な物を運んでくるのだ。目的の者を見つけるまでは天井を旋回し、見つけるとその者の許に降下して荷物を渡してくれる。
すっかり毛の色が反転し、大きくなったメガネフクロウのミニッツも俺に荷物を届けてくれた。
ミニッツに朝食のハムをあげ、持ってきたもの確認する。契約してある日刊予言者新聞に加えて、ナルシッサの手紙とお菓子があった。後でお礼の手紙を送ろう。
新聞の一面には『グリンゴッツ侵入される』という見出しが載っていた。魔法族の財産を預かる場所が襲撃され、しかもその侵入を許したのだから注目されるのは当然のことだろう。
あのグリンゴッツにバレずに侵入し、発覚するまでの時間が長いということは、クィレルは手練の魔法使いであることを意味する。
いや、そうとも言えないか。ヴォルデモートの的確なアドバイスがあっただろうし。
新聞から顔を上げると、いつの間にかミニッツが目玉焼きをペロリと食べ終えていた。
闇の魔術に対する防衛術の教室はニンニクの匂いやその他色々な物の匂いが充満して臭かった。クィレルが後頭部に寄生する闇の帝王の匂いを隠す為に匂いがキツい物を身の回りにおいているせいだ。
理由を知っている俺からすると納得ものであるが、何も知らない生徒たちからすると不審極まりなかった。
さらに、生徒たちは闇の魔術に対する防衛術に期待していたのに、クィレルが闇の生物や闇の呪文を言うたびにビクビクして授業が進まず、大変つまらなかったので、すぐにクィレルの悪口を言い出した。
アルバニアの森に旅行に行ってしまったのが彼の運の尽きだった。
チャイムがなり、授業が終わる。早くこの臭い教室を出たい生徒は早足で教室を出て行った。
「セ、セルス君!セルス・マ、マルフォイ君!す、少し残ってく、ください」
おい、ちょっと待ってくれよ。何で目を付けられているんだ?闇の帝王が俺にこだわる理由はなんなんだ?
「なんですか?」
「な、なにかこ、困ったことはないですか?じゅ、呪文と、とか?ち、力になりますよ」
「……何で力を貸してくれるんですか?」
「え、えっと、き、君がゆ、優秀だとお、思って」
クィレルは引き止める理由を考えていなかったのか、墓穴を掘った。
「先生とは今日が初対面ですし、今日の授業でも僕たちに会話はありませんでした。それなのに優秀かどうか分かる訳がありません。失礼させていただきます」
クィレルに背を向け、教室の外に向かう。
ゾクッ
背後から何か恐ろしい気配を感じた俺が後ろを急いで振り返ると、表情をストンっと落としたような顔をしたクィレルが立っていた。
恐ろしくなった俺は、冷や汗が背中から出てくるのを感じながら早足で教室を出た。
もしかしたらクィレルは望んで闇の帝王に寄生されたのかもしれない。
クィレルの表情が頭から離れず昼食があまり食べれなかった。スネイプがいかにいい先生であるかとドラコは説明していたが、それに対する反応も薄くなってしまった。
「おい、何かあったのか?クィレルに残されていたみたいだが、なにかあったか?」
いつもと違うことに気がついたノットが心配そうに言った。
ノットの言葉で俺の様子に気がついたドラコも話をやめて心配そうな顔を向けた。
「いや、クィレルの近くに居たせいで食欲がわかなくてな。ほら、あいつ匂いがキツいだろ?」
それを聞いた二人はあ〜なるほどな、といった顔をし、再び魔法薬学の話を始めた。
彼らに危険があることがあってはならない。
何故だか分からないが、俺が闇の帝王が俺に目を付けているのは分かった。
今まで以上に勉強と原作知識を使った自分強化をする必要がある。
それにしても闇の帝王が目を付けてきたのは、幼少期からのことであるから、生れに何かあるのだろうか。
これはフィリップ家について調べる必要があるな。
魔法薬学の教室の教室に向かう生徒たちの顔は二パターンに分かれていた。嬉々とした表情と不安げな表情だ。言わずもがな嬉々とした表情はスリザリンで、不安げな表情の方がグリフィンドールだ。見ていないがハーマイオニーは嬉々とした表情であるかもしれないが。
教室は地下牢であるため寒かった。手先を暖めようと手と手を擦り合わせて待っていると、教室の扉を勢いよく開いてスネイプが入ってきた。
スネイプは颯爽と生徒の座る席の間を抜けて教壇に立つ。
スネイプはまず出席を取り始めた。
「ああ、さよう」猫なで声だ。「ハリーポッター。われらが新しいーースターだね」
スネイプの皮肉にスリザリン生はクスクス冷やかし笑った。
出席を取り終わったスネイプは生徒を見渡すと、静かな大演説を始めた。
いかに魔法薬学が難しいく繊細な物であるか、いかに危険な物であるか、上手く作れればいかに素晴らしい物であるか、といった内容を直接言わずにややこしい言葉で伝えるのはスネイプらしいと言えた。
大演説を終えたスネイプは突然『ポッター!」と呼んだ。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるか?」
何であったか。ここで質問された物は結構使えるものなんだよな。
ハリーの方を見ると困った顔をロンに向けていた。しかし、ロンにもわからなかったようで、さらに困った顔になった。
ハーマイオニーは流石な物で手をピンッと伸ばしていた。
「分かりません」
「チッ、チッ、チーー有名なだけではどうにもならんらしい」スネイプは口元でせせら笑った。
「ポッター、もう一つ聞いておこう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探す?」
ここからなら覚えている。ベゾアール石は原作で凄い伏線として使われたし、最後の問題は意地悪問題であったからだ。
ここで手を挙げるとグリフィンドール生には嫌われるだろうが、そんなもの元々だろう。
スネイプに優秀だと気に入られて、色々便宜を計って貰った方が重要だ。
スッと手を挙げる。
「ん?何だセルス・マルフォイ?」
「その質問には僕が答えてもよろしいのでしょうか?」
隣でポッターが答えられないのを笑っていたドラコが口を開けて、俺の顔とスネイプの顔を交互に見るのが視界の隅に映った。
「ふむ……いいだろう。答えてみろ」
「ベゾアール石は羊の胃から取り出せます。ほとんどの薬の解毒薬になります」
クラスがシーンとなる。
「正解だ。スリザリンに一点やろう」
スネイプが加点するとスリザリン生は、はしゃぐまではいかないが喜びの声を上げた。
「ポッター、モンクスフードとウルフスペーンとの違いはなんだね?」
再びスネイプはハリーに問題を投げた。次こそは自分が!と思ったのかグレンジャーは席から立ち上がり限界まで腕を伸ばした。
ハリーは俺が手を挙げようとしているのを見ると急いで、分かりませんと言った。続いて
「ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
と、挑戦的にスネイプに言い放った。グリフィンドール生の数人が笑う。
しかし、スネイプには面白くも何ともなかったようで、不快そうに顔をしかめただけだった。
「座りなさい」スネイプはピシャリとハーマイオニーに言った。
「教えてやろう、ポッター。アスフォルデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。余りに強力なため『生きる屍の水薬』と言われている。ベゾアール石はマルフォイが言った通りだ。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、トリカブトのことだ。どうだ?諸君、何故いま言ったことを全てノートに書き取らんのだ?」
一斉に羽ペンを取り出す音と羊皮紙を取り出す音がした。その音にかぶせるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」
その後、スネイプは生徒を二人組に分けておできを治す簡単の薬を調合させた。クラップとゴイルが二人組になるのは大変不安なので、クラッブにはドラコが、ゴイルには俺がついた。
干しイラクサを俺が計り、ヘビの牙を砕くのはゴイルが行った。
生徒の様子を見回っていたスネイプがドラコの前で止まり、いかにドラコが角ナメクジを完璧に茹でたかを褒めていた時、地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音と悲鳴が教室に広がった。
ネビルが調合方法を間違え、大鍋を溶かし、ねじれた小さな固まりに変えてしまい、薬がこぼれてしまったのだ。
スネイプは「バカ者!」と怒鳴ると、杖を一振りして、こぼれた薬を取り除いた。
スネイプは、ネビルのペアだった男の子にネビルを医務室に連れて行くようにと命令した後、ハリーがネビルが失敗するのを気づいていたのに何も言わなかったとし、グリフィンドールから一点減点した。
授業が終わり地下牢から出て行く生徒たちの表情は、より明確に二つのパターンに分かれることになった。
魔法の地図で周りに人がいないのを確認する。
ん?ハリーとロンがハグリットの小屋にいる。この時から賢者の石をさらに気にするようになるんだっけ。
クィレルの名前を探すとトム・リドルと一緒に四階にいた。この地図ではヴォルデモートとは書かれないようだ。姓を嫌っている彼がこれを見たら激怒するかもしれない。
灰色の壁の前で手順を踏んで秘密の部屋の扉を開ける。
今日はいつもと違う方法を試してみようと思う。
今まで俺は、自分の中に入ってきた者を追い出そうと必死になっていた。そこでこう考えてみたのだ。相手を心に潜り込ませるのを前提にするのではなく、始めから自分を隠すのだ。
閉心術をスネイプが身につけたのも、家族を拒絶したかったからだった。
そこで開心術をかけられる前に、自分の心を見せたくない、見せたくないと念じる。自分の感情、知識、感情を誰かに見られるのを拒絶する。
準備を終えた俺は鎧に杖を向ける。
ガツンとハンマーで殴られるような感覚がした後、自分を覆っていた物がパリンと壊れるイメージが頭に浮かび、心の中に誰かが入ってくる。そして、誰かが自分の中にいる気持ち悪さが訪れる。
「ハァ……ハァ……うえっ」
現実に戻ってきた時、疲れと気持ち悪さで地面に胃の中身を吐き出した。それだけ壁を破壊されたダメージが大きかったのだ。
だが、ほんの一瞬であるが開心術を妨害させることが出来た。より強く自分の心を見せたくないと思えば防ぐことが出来るようになれる!
何回もの練習でゲロまみれになっていた俺は、必要の部屋が用意してくれたシャワーと瞬間乾燥機で体を清めると、必要の部屋を後にした。
もしも部屋を出る瞬間の俺の顔を見ていた者がいたとしたら、何かいいことがあったのだなと必ず思っただろう。
閉心術は確実に進歩していっている。