新学期が始まると俺は、空いている時間さえあれば必要の部屋に籠った。
二年生になる前にある程度しっかりした閉心術に身につけたいのだ。二年生では事前に知っていなければ出来ないことをするつもりだからな。そのことをダンブルドアに怪しまれ、目を付けられることは確実だろう。
この間、閉心術の練習していて気がついたのだが、本に書いてあった開心術と閉心術の才能っていうのは、人を理解したい気持ちと自分を守りたい気持ち、または周りを拒絶したい気持ちの強さなんだと思う。
実際、孤独で、どこか人に縋ろうとしているようなところがあったダンブルドアとヴォルデモートは開心術が得意であるし、家族が嫌いで幼少期から家族を拒絶していたり、リリー以外の人間にまるで興味を抱かなかったスネイプは閉心術のスペシャリストだ。
頭の中にある原作知識を誰にも知られたくない俺は、ある意味この世界の全ての住民を拒絶していると言える。つまり俺には閉心術の才能があるのだ。
と、適当な理由を付けて自分には才能があると思い込むこんでいる。その方がやる気が出るし、練習が捗るからだ。
その影響か分からないが、以前よりしっかりとした防御のイメージが浮かべられ、開心術を防げる時間が延びている。
さらに強化した防御のイメージが浮かべられるようになれば、開心術を防ぐことが出来ると思う。
今年中に閉心術を会得することは決して不可能なことではない。
しかし、必要の部屋に籠ることで多くの時間が削られてしまい、勉強は疎かになったしーー学校の勉強はなんとかやっているーー、クィディッチはスリザリン以外の試合は見に行けなくなってしまった。
グリーングラス姉妹との勉強会のせいでもある。放課後を潰されるのはかなりダメージが大きい。
ハーマイオニーがマクゴナガルから貰うことになる逆転時計が喉から手が出るほど欲しい。あれほど便利な物は無いだろう。まぁ、あれほど恐ろしい物は無いとも言えるが。
とりあえずそれはどうでもいい。とにかく言いたいのは俺には時間が足りないということだ。
タメになる宿題であれば納得出来るのだが、ただの暗記問題を解かせる宿題だと不満が溜まってくる。こういったものは仲間で分断してやるに限る。
そんなわけで、
「なあ、セルス。ミコンドリアって何だ?」
「大抵の植物の成長を促す魔法生物だ」
「ふ〜ん。じゃあ、ラスナリルとミナルの違いは?」
「んー、分からない。教科書に載ってないのか?」
「調べたけど載ってなかった」
「おい、ダフネ。ラスナリンとミナルの違いわかるか?」
魔法史の勉強をしているダフネに問いかける。
「1673年!?嘘、1643年じゃなかったの!?……このノート意味がな、えっなに?」
授業中にとったノートと教科書の内容が違ったらしく、かなりイライラしている。やめた方が良さそうだ。
「あー、なんでもないわ。おい、ドラコ図書館行って借りて来た方が良さそうだ。あっ、ついでにドラゴンの血について書かれている本も頼む」
「わかった」
ドラコは嬉しそうに談話室を出て行った。一時的とはいえ、勉強をしなくていいのが嬉しいんだろう。
「これってなんて書いてあるんだ?」
クラッブとゴイルが教科書を俺の目の前に広げ、文章の一部を指で指した。
「えっ、これか?ここ?……ほとんど全部じゃねーか。えーとだな、お前ら筆記試験は諦めた方がいい。今年の試験は実技に専念しろ。」
どうやら彼らは字の勉強から始めないといけないらしい。
俺の隣りの席は既にノットが座っていたので、ドラコは俺のいる場所から離れた席に座ったのだが、授業の間俺のことをチラチラ見てはソワソワしていた。
授業の終了を告げるチャイムが鳴ると、ドラコは俺のローブを引っ張って教室の外に引きずり出した。そして人が少ない場所に来ると、重要なことを告げられる予感をさせる、低くゆっくりとした小さな声で喋りだした。
「ビッグニュースだ。なんと、森番がドラゴンを飼っている。しかも、それにポッター達が関わっているんだ」
ドラゴン事件がついに来たか。この事件でハリーとハーマイオニー、ネビル、ドラコの四人は森に入るんだよな。
原作ではクィレルと遭遇しても何も無かったが、この世界ではどうなるか……。大丈夫だとは思うが、万が一を考えてドラコは罰則を受けさせるべきじゃないな。
「それはビッグニュースだな」
「僕が信じられないのか?朝食の帰り道で、森番のドラゴンの卵が孵るって話をポッター達が話しているのを聞いたんだ。最初は嘘かと思ったんだけど、一応魔法史の授業が終わった後、森番の小屋に行ったんだ。で、窓から小屋の中を確認したら、本当にドラゴンの赤ちゃんがいたんだ!」
テンションを上げて言ったつもりだったのだが、あまり上がってなかったようで、ドラコに疑っていると思われてしまう。既に知っていたことだから、いまいち盛り上がれなかっただけなんだけどな。まぁ、分かるはずが無いが。
「勿論信じてるよ。で、これからどうするつもりなんだ?」
「うーん、森番をクビにするのは簡単だが、それじゃあ面白くない。ポッター達がドラゴンの件に関わっているっていう証拠を見つけるまでは、放置しておくよ」
ドラコは、にやにやと笑った。
それから一週間、二週間、ドラコはポッター達の行動を監視した。しかし、ポッター達は透明マントを使ってハグリットの小屋に移動するので、それは完全に無駄だった。
ドラコに無駄なことをしていると教えてやりたかったが、透明マントの存在を俺が知っているのは、おかしいことなので言えなかった。
勉強をしろとは忠告しておいたが。
今日はドラコが医務室に行っている間、俺は必要の部屋に来た。学期末試験も近いし、今日こそはっ!といつも以上に気合いを入れてだ。
鎧の前に立つ。そして、心を覗かれることを拒絶し、自分の記憶、感情をいくつもの壁で守るイメージを浮かべる。壁は巨大で厚く、誰にも壊すことが出来ない。どんなに地面を掘っても、どんなに高く上昇しても壁が途切れることはなく、俺の中身を見ることも近づくことも出来ない。そんな鉄壁をイメージする。
準備ができた俺は杖を鎧に向ける。
次の瞬間、何者かが俺の中身を覗こうと物凄い勢いで壁にぶつかってくる。しかし、この感覚は何度も体験している。いくらぶつかってこようが怯まない。
いくばくかの時間が経った後、衝撃が止む。
「ふぅー、……やった、ついにやったぞ!!!」
ついに閉心術が成功した!
これなら簡単に知識を覗かれることはないだろう。あとは、閉心術を一瞬で使用出来るようにすれば完璧だ。
もうホグワーツで目立った行動をして、ダンブルドアに目を付けられても平気だ。これで二年生になった時に自由に行動出来る。
「セルス!!!これを見てくれ!」
部屋に入ると、ドラコが何かを握りながら駆け寄ってきた。
ドラコが渡してきたのは、皺くちゃになったチャーリーからロンへの手紙だった。土曜日の真夜中にドラゴンを連れてホグワーツの一番高い塔に来てくれといった内容だ。
「ウィーズリーから奪った本に挟まっていたんだ。まったく間抜けだよな……」
「ついに証拠を掴んだな。これをスネイプ先生に渡せば奴らは大減点だ!」
くっくっとドラコが笑う。
「あの野蛮人も逮捕だな」
それはどうかな。ダンブルドアが通報するとは思えないし。
「今からスネイプのところに行くんだろ?俺も一緒に行っていいか?もちろん一緒に行っても手柄はドラコだけのものだ」
「今から行くのか?……まあ、いいか。じゃあ、行こう」
スネイプの部屋の前に来た。
「スネイプ先生!ドラコ・マルフォイです」
部屋の扉をノックしたドラコは中にいるスネイプに呼びかけた。
扉が開き、スネイプが出てくる。
「何用だね?ん?お前もいたのか」
ドラコがスネイプに手紙を差し出す。
「これを見ていただければわかりますよ」
手紙をジーと読んでいたスネイプが顔を勢いよく上げる。
「これにはポッターも関わっているのか!?」
「ええ、そうですよ」
「よくやった!」
スネイプは何処かに向かって歩き出した。
「スネイプ先生!ちょっと待ってください!」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
スネイプが足を止め、こちらを振り返る。
「もしも減点しようとしたり、退学させようとしているんだとしたら今じゃない方が良いんじゃないでしょうか?現行犯で捕まえた方がいいのでは?」
「あぁ、確かにそうだな。では、そうしよう」
三人は顔を見合わせ、ニヤリと悪そうな顔で笑った。
日曜日の午後には、ハリーとその友人二人が夜中に抜け出し、150点も減点されたという話がホグワーツ中に広がった。ネビルは巻き込まれないと思っていたが、土曜日の夕方にドラコになにやら吹き込まれたらしく、原作通りマクゴナガルに捕まったらしい。
ハリーは一夜にして人気者から叩かれる人間に立場が逆転した。一方、ドラコはスリザリンの英雄だ。宿敵のグリフィンドールの点数を減点させるチャンスを作り、スリザリンを寮対抗杯のトップにしたのだから。
こうしてグリフィンドールだけが減点されることとなり、罰則もグリフィンドールの三人だけが受けることとなった。