遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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最近『幽鬼うさぎ』なるワードが出てきて、何のことかと調べたら新パックのカードだったんですね。
何故こっちには一枚も当たらなかったし。

新パックと言えば、次では『真紅眼』が強化されるそうですね。また箱買いしなきゃ。


VS明日香 プリマと竜姫

万丈目とのデュエルから数日ーー。アカデミア一年生の教室ではクロノス先生が担当するデュエルモンスターズの授業が行われていた。

アカデミアでの授業は基本的に通常の学校と大差は全くないものの、唯一デュエル、そして錬金術の授業がある。特にデュエルの授業に関しては毎日ある。以前童美野町を遊戯に案内してもらっていた最中に、デュエルの強さがその人のステータスになり得ることを聞かせられたことを思い出し、その徹底ぶりに納得する。

現在授業では、クロノス先生に指名された天上院明日香がカードの種類を完璧に答えている。デュエリストならば知ってて当然なのだが、クロノス先生は自前のブルー贔屓で必要以上に褒めだす始末。だがクロノス先生はそこで終わりにせず、今度はレッドの丸藤翔を指名ーーフィールド魔法の説明を要求した。

 

「あ、えぇと…その、フィ、フィールド魔法は…そのーーあぁと……」

「そんなの幼稚園児だって知ってるぜー!」

 

上手く答えられず、それを万丈目の取り巻きの一人に指摘されたのを皮切りに一部を除いた周囲から笑われる翔。クロノス先生が着席を促して呆れるとより笑う声が大きくなった。

先のブルーもそうだがなんて言うか……正直疑いたくなる。いくらランクの違いがあるとはいえ、ただひとつ答えられなかっただけで笑い者にされるなど小学生レベルではないか。自分が言える立場ではないがハッキリ言って民度が低い。

 

「くっだらね……」

 

嘲笑のなか誰にも聞こえない小さな声でボソリと呟く。こんなのがプロデュエリスト育成機関においてトップを張ってるとはにわかに信じ難かった。まああの海馬のこと、「弱い奴が曝されるのは当然だ」とか言いそうなもんだが…。

するとどうやら顔に出ていたらしく、少し離れた席にいる女子生徒がこっちに視線を向けてきた。咄嗟に顔逸らしたから詳しくは見れなかったが、あの嘲笑のなかで聞こえにくいほど小さい声を離れたところで聞いたというのだろうか。だとしたら並の聴力じゃない。

 

「でも先生、実技と知識は関係ないですよね?」

 

クロノス先生を言い負かす十代と悔しさのあまりハンカチを噛むクロノス先生。そしてそんな十代を微笑を浮かべて眺める明日香を順次見ていた俺は気づかなかった。その女子生徒は未だ、その視界に俺を捉えていたことにーー。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

アカデミア校舎内ーー。某所にあるクロノスの部屋にてその主である彼は、一通の手紙をしたためていた。実技試験であり得ない敗北を喫した原因、遊城十代を罠に嵌める為である。

算段としては、オベリスク・ブルーの女王と呼ばれる天上院明日香ーー彼女の名を騙ったラブレターで十代を深夜の女子寮の裏に誘き出す。女子寮の裏手は風呂を覗くことができる場所なので、まんまと誘き出された十代を覗きの証拠写真を撮った上で興弾しようというものだ。

 

(あのドロップ・アウト・ボーイめ…。このワタクシに恥をかかせたことを後悔させてやりまスーノ…!)

 

書いた手紙を丁寧に封し疑われにくいように自前のキスマークまで施すと、クロノスは作戦の成功を想像して笑った。ひとしきり笑ったところでまたひとつ、良くない考えがクロノスの頭によぎる。

 

(フ〜ム…折角ナノーネ。彼も少しばかり試してみるとしますノーネ)

 

そう決まれば行動は早く、クロノスは早速新しい手紙をしたためるーー前で手が止まった。遊城十代宛てには明日香の名を騙ったが、彼ーー亀崎賢治宛てには誰の名を騙るのが一番なのか、そこを把握していなかったのだ。

女子寮に誘き出すならば当然女子の名を使わねばならないが、亀崎が特定の女子に興味を持っているような話は聞いていないし素振りもない。入学式からここまででラー・イエローの三沢大地と話しているのを見かけたぐらいだ。

 

(弱ったノーネ……いったい誰の名なら引っかかってくれるノーネ…)

 

クロノスは一旦羽ペンを置くとPDAを操作してアカデミアに在学している生徒の名簿を流し読みしていく。良さげな名はないかと考えていると、だいぶ後ろのとある女子生徒でスクロールが止まった。クロノスはその顔写真と睨めっこしたのち、考えついた作戦を元に文面を書き記していったーー。

 

〜〜〜〜〜〜

 

遊城十代含む一年が体育の授業へ赴いている最中、クロノスは“餌”を持ってロッカールームへと向かっていた。この時間ならば他のクラスもそれぞれの授業中なので、自分の諸行がバレる心配はない。ロッカーひとつひとつを開けて遊城十代の靴を見つけると、その上に彼宛てに書いた手紙を乗せニヤリと笑う。先ほどはバレる心配はないと言ったがやはりその可能性は捨てきれず、迅速に次の獲物へ向かおうとするクロノスだったが入り口から予想外の問題がやって来たことに気づいた。

 

「わぁー!遅刻だ遅刻だー!」

(⁉︎この声は、シニョール丸藤翔…⁉︎)

 

ロッカールームでコソコソとしている自分は明らかにおかしいと思われるだろう。しかもその左手にはもう一人に宛てた偽装ラブレター。怪しさ満点である。

クロノスがそれをポケットに急いで仕舞い込むのと同時に丸藤翔が駆け込んでくる。

 

「あ、あれ?クロノス先生…⁉︎」

「シニョール丸藤!遅刻するとは気が弛んでるノーネ!もう授業は始まってるノーネ‼︎」

 

いる筈のない人物がいたことに驚きを隠せない翔と、思惑がバレないように普段通りの自分を引き出すクロノス。戸惑う翔は極当たり前な質問をクロノスに尋ねた。

 

「な、なんでクロノス先生がここにいるんですか…?」

 

その質問にクロノスは少ししどろもどろとなったが、すぐに何かを閃きポケットに仕舞った『それ』を取り出した。

 

「ソ、ソレハ〜……ちょっと用があって立ち寄っただけナノーネ…」

「え…用っスか?」

「ワ、ワタシのことは気にしなくていいノーネ!いいから早く着替えなさいーノ!」

「ハ、ハイィ…!」

 

クロノスの謎の剣幕に押された翔は弾けるように自分のロッカーへと走って行った。

 

(…仕方ないノーネ、ここは時間を置いてまた来るノーネ)

 

予想外の邪魔者に溜息を吐いたクロノスは、少し時間を置いて再び来ることを決めてロッカールームを後にする。

そんな彼の歩いていく方向とは反対の曲がり角の陰で、一連の様子を見ていた一人の女子がボソリと呟いた。

 

「あら…先を越されちゃったかしら?」

 

◇◆◇◆◇◆

 

「翔の様子がおかしい」と十代から聞かされたのは、体育の授業が終わってからのことだった。おおかたクロノス先生が十代を罠に陥れる為に書いた手紙を翔が読んだからだろう。ちなみに翔が態々十代のロッカーを開けた訳ではなく十代が間違えて翔のロッカーを使ったので、クロノス先生にとっては本当の意味で予想外のことだろう。

 

『本当のことを伝えなくてよろしいのですか?マスター』

「今の翔に何を言っても無駄だろうよ。それに、変に指摘したら十代と明日香がデュエルしなくなる。下手に歴史を歪める訳にはいかん」

 

この後の展開を知っている手前、流れを変えることは自分のなかで自然と躊躇われた。どれかひとつが変わろうものなら、それに関するその後の物語が変わるーー最悪なくなってしまう恐れがあったからだ。そうならないよう俺は気をつけながら生活していかなければならないのだ。

 

『私達が存在する時点で既に歪んでしまっているような…』

「『乙女』、そこは気にしたら負けやで」

 

過ぎてしまったことはしょうがないとそれぞれ自分に言い聞かせながら、この手の話を終える。話が打ち切られて止めていた作業を再開すると、『乙女』が手元を覗き込んでくる。

 

『…ところで、マスターは先ほどから何をしているのですか?』

「何って見れば分かるだろ?“ストレージあさり”だ」

 

昼休みの現在、俺達がいるのはアカデミア内の購買部ーーの隅っこにあるストレージコーナー。ここには生徒達が不要と判断したカードや本土で大量に在庫を余らせたカードが、文字通り盛りだくさん存在している。そのほとんどは低ステータスのモンスター、高ステータスでも相手の場に召喚されるモンスター、完全に自分が損するカードなどパッと見で扱いにくいものばかりである。

 

「こういうところにゃお宝が眠ってたりするもんだ。例えなかったとしても、後から思いがけないコンボを閃いたりするからな」

 

忙しなく両手を動かしながら一枚一枚を確認していけば、次々と懐かしいカードが目に入り込んでくる。『密林の黒竜王』とかデュエル始めたばかりの時はエースカードだった過去を振り返って楽しんでいるとウルトラレア仕様のカードが目に止まる。

 

「ほら、『おろかな埋葬』。これでモンスターを墓地に落として『死者蘇生』とかな」

『カード一枚で考えるな、ということですね』

「いやそこまで偉そうには言わないけどさ……」

「誰かと思ったら、亀崎さん?」

 

ふいに聞こえた声に振り返るとそこにはオベリスク・ブルーの制服を着た三人の女子がいた。内一人は昨日も会った天上院明日香だった。

 

「君は確か天上院明日香さん…だったか。えぇと、そちらの二人は?」

「彼女らは私と同じブルーの一年でーー」

「枕田ジュンコです」

「浜口ももえと申しますわ」

 

明日香から紹介を受けた赤茶の髪の気の強そうな子と、黒髪のややお嬢様然とした子が自己紹介する。それに対してこちらも同じように自身の名を改めて教えると、二人はやや表情が硬いながらも短く返事してくれた。もしかしたら万丈目とのデュエルを見て、近づきづらい印象を与えてしまったのだろうか…?

 

「亀崎さんがストレージコーナーにいるなんてちょっと意外ですね。まだ二回しか見てませんが、あんな強力なデッキを持っている貴方が何故ここに?」

「もしかしたらいいカードがあるかもしれない、ってのが第一。次に足りないカードを補給する為だな」

「足りないカード?」

 

本当に意外だったのか明日香はその疑問を投げかけてきた。それに対し俺は至極まっとうな回答を返すと、今度はジュンコが頭に「?」を浮かべる。

 

「何もデッキをひとつしか持っちゃいけないなんて規則はないんだし、だったら色んなデッキを使った方が勉強にもなるだろ?もしかしたら、より自分に合うデッキに巡り会えるかもしれないんだからさーーおっ、『ソニックバード』!」

 

気がつけば講義くさいことをのたまっていたことに少し気恥ずかしさを覚えて、適当に探していたカードを見つけた風に装う。後ろから明日香の「確かにその通りね…」と何かを考えるような声色が聞こえると、明日香と入れ替わるように今度はジュンコから質問をされる。

 

「今まではどんなデッキを組んだことがあるんですか?」

「そうだな…。【種族統一】や【属性統一】はもちろん、【ハンデス】に【バーン】とか。後は十代と同じ【E・HERO】やらクロノス先生の【アンティーク・ギア】も組んだことがあるな」

「さすが、私達とは違って持ち幅が広いんですのね…」

「まああまり多いと混乱しちゃうからね。都度、使うデッキは切り替えてるけど、持ち得るデッキは最大で四つまでにしているよ」

 

そう言って俺は腰に下がる四つのデッキホルダーをポンポンと人差し指と中指で叩く。それぞれが白、黒、灰、羽のキーホルダーが付いた緑とひと目で判別できるように色分けされていて、どれもエースモンスターのイメージカラーと同じ色にしているが、灰色のみその都度使うデッキを入れ替えているのだ。

ちなみに万丈目とのデュエルで使ったのは茶ーー第三デッキであるが、今は全く別のデッキが入っている。今回ストレージ漁りをしているのは、このデッキに欠けているカードを得る為でもあった。

 

「でしたら亀崎さん。私とデュエルしてもらえませんか?」

「えぇ⁉︎」

「明日香様⁉︎」

 

いきなりの明日香の申し出にジュンコとももえは驚いていた。かく言うこっちもちょっと驚いたが、冷静に明日香へと視線を向ける。

 

「いきなりだな。俺は構わないけど、どうしてまた?」

「自分よりも強いデュエリストと戦えるこの機会を逃したくないからです。この学園にいる以上は誰もがデュエリスト…それは貴方も例外ではありません。そして貴方とのデュエルで私は、今の自分に足りないものを見つけたいんです。……それが理由では駄目ですか?」

 

そう言ってこちらを真っ直ぐと見据える明日香の目は、自分をより昇華させたいという純粋なデュエリストの目そのものだった。

アカデミアに通う生徒のほとんどは将来より良い職業に就く為にデュエルを学んでいるのだろうが、彼女はそれだけに留まらず自身も一人のデュエリストとしてデュエルの腕を磨き上を目指そうとしている。若者にしては素晴らしい向上心だな。

後ろから『マスターもまだ若いですよ…!』とフォローをされたが、それは言われたら余計に意識するタイプだぞ『乙女』よ……。

時計の針が授業開始の時刻へ迫っていたこともあり、とりあえずこの場はお開きとなった。成り行きで俺は明日香達と一緒に教室へ入ると、教室の真ん中の席に座る万丈目から睨まれたのだが知らん振りを通し席についた。

 

〜〜〜〜〜〜

 

その日の夜、俺は寮の自室にて完成した新たなデッキを試すべくテストデュエルを行っていた。ベッドに敷かれたデュエルフィールドの上では儀式モンスターと自身の最も信頼するドラゴンが相対している。モンスターのパワーはあちらに敵わないものの、魔法や罠を用いて相手の攻撃を掻い潜りなんとか隙を突いていく。そんななかもう一体のドラゴンが召喚されて形勢が不利になるが、このデッキの奥の手を出せればまだ巻き返せる。

難しい顔をしていても仕方ないので、デッキの一番上のカードに命運を託すーーといったところで傍に置いてあったPDAの電子音が鳴り始めた。

なんぞと思い手に取って確かめてみると一通のメールを受信した旨の表示が出ている。

 

「メール…?いったい誰からーー」

 

送られてきたメールを開くと、そこには簡素な文だけが書かれていた。しかしその内容は自分にとって到底無視できないものだった。以下がその内容である。

 

“私は貴方の秘密を知る者。

この秘密を暴かれれば貴方はこの学園にいられなくなるだろう。

それを防ぎたければ今夜、女子寮の裏に来られたしーー”

 

その内容に俺は頭を悩ませた。もしこれがいち生徒が書いたものならば、イタズラと判断することもできる。だが十代を罠に陥れようとしたクロノス先生が、ついででこっちにも送ってきたものだとしたら少し厄介だ。実技試験において1ショットキルを受けたことを根に持って、要らんことを校長や海馬に吹き込まれかねない。

ーーと考え事をしていると、『乙女』が画面を覗き込んで『脅迫文ですか…』と呟いてきた。

 

『どうされますかマスター?』

「ただのイタズラなら無視でいいんだが……一応確認しに行ってみよう。それっぽいヤツがいなければ戻って来ればいい話だ」

『…そう言いながらも実は女子寮に行くのを楽しみにしていたりしませんか?下心を見せていたら余計な疑いかけられますよ』

「分かってるって」

 

釘を刺してくる『乙女』に何故バレたしと内心思いながらデッキをホルダーに戻し部屋を出る。ちょうどすれ違いになった樺山先生には「少し散歩をしてきます」と伝えてから女子寮へ向かおうと寮から出たところで、走ってきた十代と鉢合わせた。

 

「あ!亀崎さん!」

「遊城?こんな時間にどうしたんだ?」

「翔のヤツが女子寮で捕まってるらしいんだ!見かけないと思ってたけどアイツ何してんだ…!」

 

どうやら既に明日香から十代に脅迫状ーーもといお誘いがあったようだ。十代はそれだけ言ってさっさと走って行ってしまったので、俺も後に続いて行く。

アカデミアの入り口へと続く道を曲がらずそのまま真っ直ぐ走って行く。やがて青を基調とした館ーーブルーの寮が見えてきたが脇目もふらず過ぎ去り、さらに走れば豪華な居城が見えてくる。青と白で彩られた居城ーーあれこそがブルー女子寮だ。

女子寮の裏へはボートを使って湖を渡らなければならないので、十代と共にボート乗り込み指定された場所へ向かう。途中で湖に浮かぶダイビングスーツ(?)を着込んだクロノス先生らしき人を見かけたが、こちらに勘づいたのかすぐに潜って姿を消してしまった。

そのまま女子寮の裏に到着すれば、そこには縛り上げられた丸藤翔を含めた四人が待ち構えていた。

 

「え、亀崎さん…⁉︎」

「どうしてアニキだけじゃなくて亀崎さんまで…」

「俺の方は遊城とは別の用件で来たんだよ」

「別の用件…?」

「このメールに見覚えはないか?ついさっき送られてきたんだが」

「いえ、全くありませんが…」

「少なくても私達ではありませんわね」

 

招かれざる客である自分が来た理由を話して、PDAを取り出し件のメール画面を開いて見せてみる。それを見た女子三人の反応は、とても犯人らしいものとは思えなかった。一応十代と翔にも見せてみるが反応は全く同じだ。

溜息を吐いた俺はPDAをしまう。

 

「じゃあやっぱりイタズラだったか…。気にかけて損したな。…そういえばなんで丸藤がこんな時間に女子寮にいるんだ?」

「そ、それは…」

「こいつが女子寮のお風呂を覗いていたんですよ!」

「なんだって…⁉︎翔、お前…」

「丸藤……気弱そうに見ていたけど行動力があるんだな。だけどそれを覗きに使うのはマズイだろ」

「違うッスよ!僕は覗きなんかやってないッス!」

 

その後、明日香の提案により丸藤翔の身柄を懸けてデュエルが行われることとなったので、それぞれのボートに三人ずつが乗り合わせ湖のど真ん中へと出る。十代と明日香が先頭でデュエルディスクを起動させ、デュエルを開始する。ジュンコ、ももえ、翔がデュエルに意識を傾けるなか俺は、本当にメールを送ってきた犯人がいないか周囲の雑木林や女子寮に視線を巡らせたーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「『サンダー・ジャイアント』のダイレクト・アタック!ボルティック・サンダー‼︎」

「きゃああぁぁぁ‼︎くぅ…っ!」

「明日香さん…!」

 

遊城十代が召喚したモンスターによって私ーー天上院明日香のライフが尽きた。クロノス先生に勝ち万丈目君相手にも決して悪くないデュエルをした彼を相手に、油断はしていないつもりだった。それでも最後の最後で逆転されてしまったのは、最後のターンで《運良く》『死者蘇生』を引かれたからだ。そこから彼が見せた新たな『HERO』によって私はエースモンスター共々やられてしまったのだ。

まったく、やられたわね……。

 

「約束通り、翔は連れて帰るぜ?」

「ええ。約束通り今回のことは多目に見てあげるわ」

「助かったぁ…ありがとうアニキ」

「いいってことさ」

「それならもう戻ろうか。ここにいる必要はなくなったしな」

 

予想外の存在である亀崎さんがレッドの二人にそう促したことで、二人も賛同していち早く寮に戻ろうとする。

その時、私は咄嗟に声を上げたーー。

 

「ーー待って!」

 

皆の視線が私に集中するけど今は関係ない。いったい誰がここに呼んだのかは知らないけど、これは彼とデュエルができるチャンス…。聞くだけ聞いてみましょう。

 

「亀崎さん…今ここで私とデュエルしてください」

「え、今からか?」

「せっかくですもの。貴方を相手にして私のデュエルがどこまで通用するか、確かめてみたくて」

「ふ〜ん…分かった。やろうか」

 

少し考えた素振りをして彼は了承してくれた。言ってみるものね。

 

「あーずりぃぞ!俺だって亀崎さんとデュエルしたいのに…!」

「ま、まあまあアニキ…」

 

十代と入れ替わり今度は亀崎さんが私と相対する。彼は昼休みに見せてくれた灰色のホルダーにあるデッキをディスクにセットし起動させたのを見て、掌にじんわりと汗をかくような錯覚を振り払う。

デュエリストとしての自分の本能が感じ取っているんだ。彼は強いとーー!

 

「それじゃあ始めようか!」

「はい!」

「「デュエル!!」」

 

明日香 LP 4000

VS

賢司 LP 4000

 

◇◆◇◆◇◆

 

月の輝く夜のもと、広大な湖の中央ではデュエルの第二幕が上がる。十代と明日香のデュエルには目立った変化はなく、全く知る通りに決着がついた。そのままの流れで戻ろうとしたところで明日香からデュエルを挑まれた俺は、その誘いを受けることに決めて明日香と対峙する。

 

「先攻は私がーードロー!『エトワール・サイバー』を攻撃表示で召喚!さらにカードを伏せてターンエンド!」

 

エトワールのサイバー

ATK/1200

 

赤の衣装を身に纏う女性モンスターと伏せカードという、十代の時と同じ出だし。ならばあの伏せカードは十中八九『ドゥーブル・パッセ』だろう。

『ドゥーブル・パッセ』とは、相手モンスターの攻撃を直接攻撃に変更、次の自分のターンで攻撃対象となったモンスターの直接攻撃を可能にする罠カードだ。この世界では発動したその場で直接攻撃ができるようだが。

 

「俺のターン、ドロー。『クリバンデット』を召喚」

 

クリバンデット

ATK/1000

 

パッと見は『クリボー』や『ハネクリボー』に近いが、毛色が黒く目つきも鋭い山賊のような風貌のモンスターを召喚する。十代が目ざとく「相棒に似ている」と溢したと思ったら、ももえも「可愛らしいですわー!」とやや興奮気味になりジュンコはそんなももえを見て苦笑していた。

 

「カードを二枚伏せて、エンドフェイズに『クリバンデット』の効果発動。デッキからカードを五枚捲り、その中から魔法・罠を一枚選んで手札に加える」

 

 

捲った五枚は『マンジュ・ゴッド』、『儀式魔人デモリッシャー』、『儀式の準備』、『サイクロン』、『祝祷の聖歌』だった。そのうち一枚を選ぶと、『クリバンデット』は残りの四枚をひったくって墓地へと潜り込んでしまう。これで俺の場は伏せカードのみになる。

 

「ターンエンドだ」

 

明日香 LP 4000

手札:4

モンスター:1

魔法・罠:1

 

賢司 LP 4000

手札:4

モンスター:0

魔法・罠:2

 

「私のターン、ドロー!」

 

さて、彼女はここからどう出てくるだろうか。『エトワール・サイバー』が健在の今、融合してくる可能性は大きいだろう。もしくは新たなモンスターを召喚して攻撃してくるか。

 

「魔法カード『融合』!私の場の『エトワール・サイバー』と手札の『ブレード・スケーター』を融合して、『サイバー・ブレイダー』を融合召喚!」

 

サイバー・ブレイダー

ATK/2100

 

二体が混じり合い現れたのは、彼女の象徴とも言える一人のプリマ。ステータスは低くとも、その身に秘める能力で明日香のピンチを何度も救ってきたことは容易に想像できる。

 

「『サイバー・ブレイダー』でダイレクト・アタック!」

「罠カード『和睦の使者』を発動。このターンで受ける戦闘ダメージをゼロにする」

 

肉迫する『サイバー・ブレイダー』が罠カードによってその勢いを止める。その結果は明日香も予想していたのか不敵な笑みを見せた。

 

「やっぱり、そう簡単にダメージを受けてくれませんね…!」

「場がガラ空きになるんだから、相手の攻撃を防ぐカードを伏せるのは当然だろう?」

「私のモンスターを破壊するカードじゃなかっただけ良かったーーと取るべきかしら。ターンエンド」

「さて、どうかな。俺のターン、ドロー。魔法カード『儀式の準備』。デッキからレベル7以下の儀式モンスターを、そして墓地から儀式魔法を手札に加える」

「亀崎さん、今度は儀式モンスターを使うのか…!どんなヤツが来るのかな!」

 

ワクワクしている十代の前でデッキからレベル6の『竜姫神 サフィラ』、そして墓地から『祝祷の聖歌』を手札に加える。明日香も来たる未知のモンスターに表情を引き締めていた。

 

「儀式魔法『祝祷の聖歌』を発動。手札の『儀式魔人プレサイダー』と、墓地の『デモリッシャー』を生け贄に捧げーー』

「墓地のモンスターを生け贄⁉︎」

 

墓地のモンスターを生け贄にすることに明日香が驚愕しているが無理もないだろう。この時代の儀式召喚は、まだ手札か場のモンスターを生け贄にするしかできなかった筈。事実、今使った『儀式魔人』は【5D's】時代のパックで初登場したのだから。

 

「「竜姫神サフィラ』、儀式召喚」

 

ソリッド・ビジョンによって宙に現れた二つのステンドグラス。二体の『儀式魔人』がそれぞれに吸い込まれるとオレンジと青ーー二つの光が差し込み、交差する一点に新たな紋様が浮かび上がる。聖なる光によって召喚された竜は、自身を包んでいた穢れのない透き通る翼を開き青白く神々しいその肢体を隠すことなくフィールドに降り立つ。

 

竜姫神サフィラ

ATK/2500

 

「うぉ〜、また新しいモンスターだ…!」

「こんなの見たことない…!」

「な、なんなの?あのモンスター…」

「とてもモンスターとは思えない美しさですわ…」

 

四者四様、それぞれの反応が返ってくる。かく言う自分も初めて『サフィラ』を見た時に、専用デッキを組むことを決めたぐらいだ。それほどまでにこの『サフィラ』はーー美しいのだ。

『サフィラ』の攻撃力は『サイバー・ブレイダー』を上回っている。だがこのまま攻撃すれば、間違いなく罠を使ってくるだろう。ならばーー。

 

「『竜姫神サフィラ』でサイバー・ブレイダー』を攻撃!」

 

『サフィラ』の透き通る翼から発せられた無数の光が『サイバー・ブレイダー』を覆いこむ。『サイバー・ブレイダー』はその効果によって戦闘による破壊は免れるが、プレイヤーへのダメージはしっかりと通る!

 

「罠カード『ドゥーブルパッセ』発動!相手モンスターの攻撃をプレイヤーへの直接攻撃に置き換えたのち、攻撃対象となったモンスターで相手に直接攻撃することができる…!」

 

やはり伏せられていたのは『ドゥーブルパッセ』だったか。まあどんな罠だろうと怖くはななかったんだけどな。

 

「罠カード『トラップ・スタン』を発動。このターンを終えるまで場の罠の効果を全て無効にする」

「なんですって⁉︎」

 

『ドゥーブルパッセ』からバチバチとスパーク音が発せられてそのまま消滅していくと、明日香のライフが容赦なく引かれていった。

 

明日香 LP 4000 → 3600

 

「エンドフェイズに『サフィラ』の効果が発動。三つあるうちひとつを選びそれを適用するわけだが、今回はひとつ目の効果ーーデッキから二枚ドローして手札を一枚捨てる、と。ターンエンドだ」

 

墓地に捨てたカードは『魔界発現世行きデスガイド』。エクシーズカードが使えるならば心強いカードではあるが、以前試してみたところエクシーズは疎かシンクロモンスターにすらこのデュエルディスクは反応しなかったのだ。まあカードのイラスト自体が消えしまっているので、使えないことは何となく察してはいたけどな…。

 

明日香 LP 3600

手札:2

モンスター:1

魔法・罠:1

 

賢司 LP 4000

手札:4

モンスター:1

魔法・罠:0

 

「私のターン、ドロー…!」

 

『ドゥーブルパッセ』の不発、さらに強力なモンスターを召喚されたことに明日香は苦い顔をしていた。ドローしたカードを見て一瞬だけ和らいだように見えたが、その意味は完全には分からない。

 

「『サイバー・ジムナティクス』を召喚!『サイバー・ジムナティクス』は1ターンに一度、手札一枚を捨てることで

相手の攻撃表示モンスター一体を破壊するができる!魔法と罠が使えないなら、モンスターの効果で…!」

 

サイバー・ジムナティクス

ATK/800

 

体操選手のような衣装を身に纏った女性モンスターの効果による破壊を目論んでいたか。確かに魔法と罠が使えないなら攻撃力の高いモンスターか、モンスター効果に頼るしかないだろう。

だからこそ、彼女の行動が予測できたのだが。

 

「手札から『エフェクト・ヴェーラー』のモンスター効果を発動。このカードを墓地に送ることで、相手モンスター一体の効果をエンドフェイズまで無効にする。対象はもちろん『サイバー・ジムナティクス』だ」

「くっ…!それなら、装備魔法『フュージョン・ウエポン』を『サイバー・ブレイダー』に装備!」

 

サイバー・ブレイダー

ATK/2100 → 3600

 

逆転に繋がる一手すらも潰された明日香の顔は、苦悶一色になっていた。苦し紛れに出したであろう装備魔法による強化によってその攻撃力は『サフィラ』を上回ったが…。

 

「効果でも駄目なら戦闘で破壊する…!『サイバー・ブレイダー』で攻撃‼︎」

「手札から『オネスト』の効果を発動。墓地に送ることで、相手の攻撃モンスターの攻撃力を攻撃対象となった光属性モンスターの攻撃力に加える」

 

竜姫神サフィラ

ATK/2500 → 6100

 

『サイバー・ブレイダー』から放たれたレーザーのような攻撃が、『サフィラ』のはばたきで跳ね返される。『サイバー・ブレイダー』は破壊されなかったが、明日香へのダメージは防がれることなく大ダメージを受ける。

 

明日香 LP 3600 → 1100

 

「手札がないならエンドフェイズだな?『サフィラ』の効果により手札かデッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに、再び三つからひとつの効果を選ぶ。今度は三つ目を選択し、墓地の光属性モンスター一体を手札に加える」

「ターン…エンド…」

「あ、明日香さん…」

 

墓地から『オネスト』を回収するのと同時に、明日香の自身の無力を噛み締めるかのような声色が上がる。

……ちょっとこれはやり過ぎたか?手札の回りも良過ぎるくらいだし、何よりエースモンスターの地力はこっちの方が高い。負けることは考えにくいとは思っていたが、ここまで上手く回ってくれるとは思いもしなかった。

 

「悪いがそろそろ戻らないと、樺山先生が心配するだろうから終わらせてもらおう。俺のターン。『サフィラ』で『サイバー・ジムナティクス』を攻撃」

 

明日香 LP 1100 → 0

 

『サフィラ』の光が『サイバー・ジムナティクス』を焼き尽くし、明日香のライフを削りきった。十代と翔は俺がブルー相手にライフを削られることなく勝ったことに驚いていた。特に翔は開いた口が塞がらないみたいだ。

 

「1ポイントもダメージを受けずに勝っちゃった……」

「すっげぇ…完全勝利かよ…」

 

向こうではジュンコとももえが、俯いたままの明日香を心配している。あんな完封されれば悔しさも並ではないだろう。もっとも明日香のデッキの構成上、なるべくしてこうなったと言えるのかもしれない。

序盤の明日香のデッキにおいて、注意すべき『サイバー・ブレイダー』と『ドゥーブルパッセ』ーーこの二つがなければ明日香デッキには現時点で打点の高いカードが少ないのだ。何より十代のように臨機応変にモンスターを融合させるわけではないので、素材が揃わなければ相手に圧倒されることも珍しくない筈だ。強化魔法も『フュージョン・ウエポン』しか見ていないから、幾つか強化手段も備えておくといいかもしれない。

 

「さすが特別編入生ですね……完敗です」

「それほどでも。それで、自分に足りないものは見つかったか?」

「…はい、心当たりができました」

「そうか。次のデュエルを楽しみにしていよう」

 

昼休みに明日香が言っていた“自分に足りないもの”。それが何かは見当がつかないが、それを解消できる手伝いができただけ良しとしようか。

 

「それじゃ戻ろうぜ。大徳寺先生に見つかる前にな」

「ふん!レッドのアンタが明日香さんに勝ったからって、いい気にならないでよね!」

 

ようやっと戻ろうとするとジュンコが尚も食らいついてくる。明日香が十代に負けたのが余程認めたくないのだろう。だが当事者である明日香がジュンコを諌める。

 

「止しなさいジュンコ…!負けは負けよ」

「いや、そいつの言う通りかもしれないぜ」

「え?」

「アンタは強えよ。なぁ亀崎さん?」

 

十代が賞賛の言葉と同時に俺に同意を求めてきた。ここは俺も何か言わなきゃならないか。

 

「そうだな。俺が言ったら嫌味になるだろうが、天上院は少なからずここでは強い部類に入るだろう。今回の敗北を次でどう活かしてくるか、それが楽しみだよ」

「あ、ありがとうございます…」

「さて、それじゃあ俺達は戻るとするか。丸藤君、向こうまでお願いするよ」

「うえぇ⁉︎ぼ、僕が漕ぐんスか⁉︎」

 

恐縮するように声を絞り出す明日香とジュンコ、ももえに別れを告げて、十代と翔と一緒に寮へと戻るべく三人を乗せたボートは翔によって岸へと向かっていった。

必死に漕ぐ翔を手伝うことにした十代と向かい合う形でチラリと後ろを見れば、策略が失敗したクロノス先生が疲労からか湖に沈んでいくのが見えた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

女子寮のとある一室。月明かりが差し込むその部屋の主は、電気の一切を点けずにPDAを覗き込んでいた。その画面には、先ほどまで行われていた天上院明日香と亀崎賢司のデュエルが映っていた。

 

「ごめんなさいね、明日香。貴方を利用するような真似をしてしまって」

 

部屋の主は本人に届くことのない謝罪の言葉を述べる。しかしその声色は、反省しているとは到底言い辛いほどに感情がこもっていなかった。

 

「それにしても、やっぱりそう簡単にはいかないものね…」

 

勝敗が決した映像を閉じ小さな溜息を吐く。それは明日香が負けたことに対するものか、それとも別の理由によるものかーーその真意を知るのは溜息を吐いた本人のみ。

 

「いいわ。貴方がそう来るのなら、私自身の手で貴方の秘密を暴いてあげる」

 

女子は呟くと操作したPDAをテーブルに置いて部屋を後にする。部屋に残されたPDAの人工的な光を発するその画面には、『メールを削除しました』と表示されていたーー。

 

 

 

翌日、アカデミアの廊下にてクロノスが亀崎に対して書いた手紙が差出人の名前を書き加えられた状態で貼り出されていた。

これに対しクロノスはーー

 

「ワ、ワタクシがこぉんなモノを書く訳がないノーネ…!誰でスーノ!ワタクシはこんな乙女心を前面に押し出すことを念頭に置いた書き方なんてしたことないノーネ‼︎」

 

そんな言い訳を慌ててするクロノスだったが、虚しくも少しの間だけ生徒と教師の間で話の種にされることになるのだった。

 

「シニョール亀崎…!ワタクシはアナタを、絶対に許さないノーネ‼︎」

 

最初はちょっと試すつもりだったのが、こんな形で返ってくるとはーー。

道行く生徒に笑われながらも、亀崎への仕返しを心に決めたクロノスの声はエコーを効かせてアカデミアに響き渡った。

 




やっと…やっと戻ってこれました!
書き直し始めてどれ程の時間が経ったことか…。
それでも尚、この作品を見てくださっている皆さまには大変感謝しております。これからも投稿間隔は今のままだと思いますが、どうかよろしくお願いします。

話は変わりますが、最近やった某エロゲーとあるゲームの影響で【まじこい】の小説が書きたくなってきました。(テイルズの方は黒歴史ということで削除を検討)
ちょこちょこと裏で考えたりしているので、もしかしたら一話(プロローグ)だけ書いてみるかもしれません。
ただ、テンプレ転生に最強系なのであまり望まれないと思いますが。

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