遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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最近執筆できる時間が、仕事の休憩時ぐらいしかない私です。
気を抜けば普通に二週間をきってしまう、しかし地の文が思いつかない、結果遅れる様…。どうにかしたいです。



VSクロノス 伝説の再臨

童美野町にある海馬コーポレーションが所有する施設ーー海馬ランド。この日、その一角にあるスタジアムにてデュエルアカデミアの入学試験が行われていた。

デュエルアカデミアの入学試験は筆記と実技に別れており、筆記試験を突破できた者だけがこの実技試験に臨むことができるのだーー。

 

ーーと、アニメやら漫画ならその類のモノローグが流れるであろうことを考えながら、目の前で行われている試験を眺めている男が一人いた。

その男の視線は懸命に試験に臨んでいる受験生達のプレイングや、試験官が使っている試験用デッキに投入されているカード等を捉えている。

 

1番フィールドの受験生は合格できそうだーー。

2番フィールドの受験生は少し厳しそうかーー?

おっと、3番の受験生がミスをしたぞーー。

うわ、『レッグル』とか懐かしいなーー。

 

そんな思考がぐるぐると回っているなか、男の視線がとある受験生に留まる。

その受験生は水色の髪に眼鏡、背が低く気の弱そうな印象の少年だった。それはこの【GX】において忘れられない人物だ。

 

(そうか。そういえば彼の受験番号はーー)

 

まだ実技試験が始まって間もない時間、もう彼の番が回っていたことを少し意外に感じた。ふと、そういえば先ほどのアナウンスで最初に呼ばれたのが120番だったことを思い出す。改めて考えてみれば、筆記試験に落ちた受験生と合わせてどれ程の受験生がいたのか、今更なことに興味が湧いてきた。

 

『マスター。デッキの再確認はされなくてよろしいのですか?』

 

男の隣から聞こえてきた声ーー。しかしその主と思しき人物の姿は何処にも見当たらない。

それもそのはず、その人物は多くの一般人には見えないからだ。尤も、彼等は本来見えない筈の存在なのだが。

 

(一昨日から二人であれこれ考えて、やれる事をやったんだ。後は実践で勝利をもぎ取るだけだろ)

『それはそうですが、もしもの事もあります。やはりもう一度確認するべきかと』

 

だがこの男はその存在を感知、対話するに至る。彼は何かしら特別な生まれであったり、怪しい宗教的な行いをしているわけでもない。至ってごく普通の一般人なのだ。

そんな彼がどうしてその存在とコミュニケーションを取れるのか、それは本人にも未だ分かっていない。

 

『彼女』に促されるままにそのマスターである男ーー亀崎は第一デッキを取り出すと、周囲に覗かれないように囲いを作りつつデッキを確認していく。

 

一昨日に社長と共にアカデミアへと赴き実技試験の日取りを聞いた亀崎は、KCに戻ってから頭を悩ませることとなった。

その原因は、自身の持ち札が四つのデッキのみだということ。余りあるカード達は今もI2社に預けたままな為、必然的にほぼ身動きが取れないことになったのである。

そのことを聞いた社長は、「『青眼』の力で全てを粉砕すればよかろう」と有り難みのないアドバイスを投げつけてくれた。恐らくは海馬のこと、『青眼』を使わせて周囲の視線ーー特に叩きのめす対象であるエリートの意識を集約、難癖をつけてきたところを文字通り粉砕しろということだと自分なりに理解した。

その後は先ほどの通り、『乙女』と相談しつつ他のデッキから使えそうなカードを投入する結果となったのだ。

 

(くそぅ、やっぱりペガサスに預けなきゃ良かったかな…)

 

そう後悔するも、時既に遅し。こうなってしまえばもう開き直るしかない。

思考から後悔の言葉を追いやると、新たに受験生の名が次々と呼ばれた。アナウンスの言葉を左右の耳から逆方向へと聞き流しつつ、彼の意識はデッキへと向けられ続けた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

変わらずフィールドでは次々と受験生が試験に臨むなか、客席で同じように自身のデッキの最終確認を行っている人物がいた。

 

(ーーよし。僕の計算が間違っていなければ、これでこの試験は大丈夫な筈だ)

 

白の学ランに身を包んだ男ーー名を、三沢大地という。

彼はその明晰な頭脳を持って筆記試験をトップで通過、今回の試験においてアカデミアの教師と生徒から注目を浴びている秀才である。

 

(……ん?)

 

デッキを戻した三沢は、ふと視界の端に映った一人の男の奇妙な姿を捉えたーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「ん〜、これでいいとは思うんだがな……」

 

デュエルのSEをBGMに、俺は唸りながらデッキを確認している。見直した方がいいと言われたから見直しているのだが、見れば見るほどカードを預けたことに後悔の念がふつふつと湧き上がってきていた。

現状、このデッキのパワーならばそう簡単に押し負けることはないだろう。打点3000を上回るモンスターを有する試験用デッキは使われていないはずだ。

あのクロノス先生が相手の場合は別だがーー。

 

(現に、それほど攻撃力の高いモンスターは使われてないみたいだしな。むしろ守備的な傾向があるか…)

「やあ」

「?」

 

声がした方を向くと白の学ランを着た男がいた。

 

「えぇと、どちら様?」

「僕は三沢大地。君と同じ受験生さ」

 

その人物も、先の受験生と同じくこの時代においての主要人物ーーだった男、三沢大地。

いたって軽く話しかけてきた彼に、俺は僅かな違和感を覚えつつも口を開く。

 

「俺は亀崎。よろしく」

「こちらこそ。いや、熱心にデッキを見ていたみたいだったから、つい声をかけてしまったんだ。迷惑だったかな?」

「そんなことはない。かえっていい暇潰しになるよ」

「暇潰しか。難関と言われるアカデミアの実技試験、普通は緊張なりするだろうに」

「そういう三沢は緊張しているように見えないが?」

「僕は自分の計算に基づいて臨めば大丈夫だからね。ミスさえしなければ合格は確実さ」

 

さすが秀才。とても自分にはできないことを平然とこなそうとしている。確かにデュエルにはデッキのバランス配分やら計算が必要な部分があるからな。

確かここで三沢が使うデッキは後に調整用と言われるものだが、それでも恐らくはかなりの安定率を誇るに違いないだろう。

 

「…失礼を承知の上で聞きたいことがあるんだが、いいだろうか?」

 

いきなり三沢が改まって質問してくる。それを聞いた俺はその質問の内容を粗方予想ができていた。

 

「君はもしかして僕より年上なのかな?よく見てみれば、同年代にしては身体も大きいし…」

 

ああやっぱり、と呟きながら額に手を当て前傾姿勢になる。それを図星だと見て取ったのか三沢はどうすべきかと困った表情を浮かべていた。

 

「三沢が気にすることはないさ…。俺自身、ここにいるのが不思議なくらいだし……」

「ということは、やっぱり年上…。もしかして、新しくアカデミアに赴任する教師なんですか?」

「いや、教師じゃない」

「じゃあいったい…」

「それはこの試験が最後までいけば分かるさ」

 

年上と分かった途端に敬語になる三沢の疑問に、先延ばしの返答を返しフィールドに視線を戻す。既に大部分の受験生が実技試験を終えたのか、不安そうにしていたり芳しくなかったのか俯いている姿も見えた。

聞こえたアナウンスに呼び出された番号は、既に一桁に突入していた。

 

「そろそろ僕の番か」

「それでも緊張の姿勢を見せない三沢に、俺は一種の羨ましさを感じるよ…」

 

やがてついに三沢の名が呼ばれ、彼は勇ましくフィールドへと向かっていく。

 

『マスター…』

「ん?どうした」

 

少しの間を置いて三沢の試験が始まるのと同時に、『乙女』が再び現れ耳打ちをしてくる。それにつられるように、俺も小声になる。

 

『…見られています』

「見られてる…?どこだ?」

 

聞くと『乙女』はとある箇所を指差した。視線で追ってみると、一人の男の姿があった。

 

〜〜〜〜〜〜

 

三沢の試験が終わった頃、後ろの方がやや騒がしくなってきた。軽く視線を向けてみると、先ほどの受験生ーー丸藤翔と恐らく遅刻してきたのであろう、【GX】の主人公ーー遊城十代が話し込んでいた。

 

「でも百番台のデュエルは一組目でとっくに終わってるよ?」

「えぇ!?」

 

この後の流れが知っている通りなら、十代がクロノス先生とデュエルする筈だ。それならそれで心の準備をする時間が長引くからこっちとしては嬉しいような残念なような。

 

『マスター……そろそろ覚悟を決めてください。この先、嫌でも目立つことになるんですから…』

(頭ん中じゃ分かってるんだよ…。でもこの緊張感は中々慣れなくてさ……)

 

大勝負目前の緊張感ーーといえばいいのだろうか。俺は昔からこれがこの上なく苦手だった。いざ本番となれば吹っ切れることができるのだが。

 

『では、緊張を適度に解す良い方法を教えますね。まずはーー』

「掌に人の字を三回描いて呑むーーっていうのは単なる気休めだからな?」

『ーーーーーー』

 

どうやら図星だったようだ…。『乙女』は階段にしゃがみ込み、いじいじと『の』の字を書き始めてしまった。

 

『うう…やっとデュエル以外でマスターのお役に立てると思ったのに……』

 

想像だにしていなかったその姿に、少しだけだが緊張感が和らいだ。改めて溜息を吐き、残った緊張感をなんとか追い出してから『乙女』に声をかける。

 

「いや、助かったよ。お陰で幾分楽になった」

『……本当です?』

 

その問いに頷き返し、『乙女』がやっと気をとり直してくれるのと同時に、試験を終えた三沢が戻って来た。

 

「お疲れさん、三沢」

「ありがとう、次は貴方の番ですね」

「いや、その前にーー」

「すっげえな、お前!」

 

俺と三沢が話し始めると、後ろから十代が会話に入り込んできた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

デュエルアカデミアの実技担当最高責任者ーークロノス・デ・メディチは、憤りに近い感情を抱いていた。

受験生達の実技試験が終わり残るは前日に急遽聞かされた特別編入生の試験となった時に、時間ギリギリにやって来た受験者ーー遊城十代が現れたからである。

クロノスは問答無用で失格を唱えるものの、彼に随行した試験官達ーーそして校長に窘められることになってしまった。

 

デュエルアカデミアはエリートの為の学園ーー。

己の思想を反芻した彼はまず遊城十代を叩くことに決めてフィールドへと向かった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「くらえ!スカイスクレイパー・シュート!!」

「マンマミーヤ!我が『古代の機械巨人』がーッ!」

 

周囲の受験生とアカデミアの生徒ーーその全員が予想だにしていなかった。いち受験生に過ぎない110番ーー遊城十代が、アカデミアでも屈指の実力を持つクロノスを破ったのだ。

 

「何故ナーノ…?何故私があんなドロップ・アウト・ボーイニ…!」

 

クロノスはただひたすらに悔しさを噛みしめている。ここから彼の十代に対する嫌がらせにも等しい行いが始まるのだが、それは追い追い。

 

「へへっ、先生とのデュエルに勝っちゃったぜ!」

「すごいよ十代くん!あのクロノス先生に勝っちゃうなんて…!」

 

見事に勝利を収めた十代が満面の笑顔で戻り、翔が十代を賞賛する。実技担当最高責任者に勝つなんて普通じゃあり得ないことだからだろう。

フィールドに視線を戻すと、クロノス先生が別の試験官に指示をだしているのが見える。

 

『特別編入生、亀崎賢司さん。一番フィールドへどうぞ』

 

遂に呼ばれた自分の名前それを聞いた俺は、持参した鞄を開けた。

 

「特別編入生…?あなたが?」

「そういうこと」

 

短く返しながら鞄から取り出したものを左腕に装着する。

 

「っ、それは…?」

「うおお、かっけぇ!!」

「それってもしかして…デュエルディスク!?」

 

三人の意識が左腕のデュエルディスクに向けられる。それもそのはず、これは決闘街時代の旧作でもアカデミアで使われている現行モデルのものでもない。

以前三幻神から与えられた、あのカイバーマンが使う物と全く同じフォルムなのである。モデルとなったのはもちろん『青眼の白龍』だ。

 

これについては、試験に向かう直前になって海馬から渡された。曰く、『ペガサスがカードケースの天板を不自然に思って外したら出てきた』とのことらしい。確かに自分でも見た時にやたら天板が下がってるなと思っていたが…。

このデュエルディスクを渡してきた海馬は、『カードだけでなくデュエルディスクまでとは……つくづく気に入らん奴だ』とはっきり分かるくらいに怒りを押し殺していた。

 

装着を確認してフィールドへと向かうと、既に対戦相手が待ち構えていた。その人物は先程の敗北から気持ちを切り替えているようだった。

 

「ボンジョ〜ルノ、シニョール亀崎。鮫島校長が話していた特別編入生とはアナタデス〜ネ?」

「よろしくお願いします、クロノス先生」

「フフン、随分と立派なデュエルディスク〜ネ。アナタが我がデュエルアカデミアに相応しいかどうか、確かめさせてもらいます〜ノ!」

 

さっきまで悔しがっていた姿などこへやら、そこには実力あるデュエリストとして臨むクロノス先生があった。まあ引きずったままデュエルされても困るんだけど…。

デッキホルダーからデッキを取り出し、ドラゴンの口にあたる部分に差し込む。すると自動でシャッフルされた後にトップの五枚が引きやすいようにカードの半分あたりまで抜き出された。これにはクロノスだけでなく自分でも驚いた。

 

「それでハ、気を取り直して……」

「「デュエル!!」」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「特別編入生……どう見ても大人じゃないか」

「あのデュエルディスクといい、いったい何者なんだ…?」

 

客席のある一角に青い制服を着た三人組がいた。うち二人は特別編入生という存在に疑問を浮かべ、一人は少し前までのふんぞり返る姿勢を少し変えて見定めるかのように静観している。

 

「ふん。どうやら110番とは違って、最初からクロノス教諭が相手をする予定だったようだな」

「ってことは、あいつはそれほどの腕ってことですか?万丈目さん」

「知らん。ただ奴がアカデミアに来たとしても、この俺には敵わないだろうがな……」

 

◇◆◇◆◇◆

 

三人組の更に上ーー手すりによる落下防止が施された二階にも同じく実技試験を観戦していた三人がいた。

腕を組み静観している【帝王】ーー丸藤亮。

手すりに身を乗せる【女王】ーー天上院明日香。

そして、終始つまらなさそうにしていた【女帝】ーー藤原雪乃。

 

「特別編入生、ね…」

「どんなデュエルを見せてくれるのか楽しみね。私を熱くさせてくれるのなら……ふふふ」

「……」

 

明日香と雪乃が興味を示す傍ら、亮は一言も喋らず編入生を凝視していた。気になったのか、明日香が亮に声をかける。

 

「どうしたの亮?」

「いや……ついさっき、ふと彼が一番と話していたのを見かけてな。俺の視線に気づいたのか、すぐにこっちを見ていたんだ」

「あら。もしかして彼は敏感なのかしら?」

「さあな。だが何故だろうな……彼は普通のデュエリストではないような気がする…」

 

亮の感想に明日香と雪乃も、亀崎を一層注目し始めた。

謎の編入生のデュエルから『何か』を感じ取る為にーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

クロノス LP 4000

賢司 LP 4000

 

「この実技試験においては、基本的に受験者のターンから始めますノ〜ネ」

「それではいきます。俺のターン!」

 

自身のターンを宣言し引いたカードと手札を確認する。

 

『エネミーーー』

『シャインーー』

『融合解除』

『滅びのバーー』

『青眼の白龍』

『アレキサンドライドラゴン』

 

『青眼の白龍』も大概だけど、『アレキサンドライドラゴン』も大体初手にいる気がするなぁ…。十代の『スパークマン』的立ち位置でも狙っているのか?

 

「まあ様子見には打ってつけか。『アレキサンドライドラゴン』を攻撃表示で召喚!」

 

このデッキの切り込み隊長(予定)であるドラゴンを召喚する。その体を覆うアレキサンドライドのウロコは、照明の光を浴びて一層輝いて見える。

 

アレキサンドライドラゴン

ATK/2000

 

『攻撃力2000!?』

『あんなモンスター見たことないぞ!』

 

周囲のギャラリーが軽くざわつき始めた。彼らからすれば、素の攻撃力が2000超えのレベル4モンスターはあまり馴染みのないカードなのかもしれない。あくまでこの当時の彼らの話だ。

 

「これでターンエンドです」

「それで〜ハ、ワタクシのターンですネ」

 

クロノスは左胸に右手をかざし、自動で引き出されたトップの一枚を引く。

 

(特別編入生……何処の誰だかは知りません〜が、このクロノス・デ・メディチを相手にした事を後悔させてあげます〜ノ!…決して憂さ晴らし目的ではないの〜ヨ?]

「魔法カード『磁石の召喚円 LV2』を発動!手札からレベル2以下の機械族を一体、特殊召喚できるノーネ!よって、『古代の歯車』を特殊召喚!」

 

古代の歯車

ATK/100

 

「さらに『古代の歯車』が場にいる時、手札から同じモンスターを一体特殊召喚できるノーネ」

 

古代の歯車

ATK/100

 

多くの歯車で構成された人間の上半身のようなロボット(?)が、一気に二体も並ぶ。しかもクロノスはまだ通常召喚をしていない。つまりこれはーー。

 

「そして二体の『古代の歯車』を生贄に捧げ、『古代の機械巨人』を召喚!」

 

二体の『古代の歯車』が光の中へと消えてゆくと、その中から見上げるほどに巨大なモンスターが現れた。そのボディには至るところに歯車が見える。

 

古代の機械巨人

ATK/3000

 

『うお〜。俺の時と同じで、あっという間に上級モンスターを召喚したぜ、あの先生』

『さすが、実技担当最高責任者の看板は伊達じゃないか…』

『クク、さぁお手並み拝見だ。あの特別編入生とやらがどこまでできるのか、この目で見せてもらおうじゃないか』

 

『古代の機械巨人』の召喚を機に周囲から様々な声が聞こえるが、今は実技試験の真っ最中。ただ目の前に集中しなければ。

 

「『古代の機械巨人』で攻撃するノーネ!アルティメット・パウンド!」

 

『古代の機械巨人』は拳を大きく振りかぶると、『アレキサンドライドラゴン』に向けて殴りつける。自身の身体ほどの拳を一身に受けた『アレキサンドライドラゴン』は破壊され、その衝撃がこっちにまで及んだ。

 

賢司 LP 4000 → 3000

 

「オホホホ!この『古代の機械巨人』は、栄光あるデュエルアカデミアの門番!このモンスターを倒せなけれ〜ば、アナタにはアカデミアに入る資格はありませ〜ン!ワタクシのターンは終了ですーネ」

 

クロノス LP 4000

手札:2

モンスター:1

魔法・罠:0

 

賢司 LP 3000

手札:5

モンスター:0

魔法・罠:0

 

エースモンスターの召喚、そして先制を取ったことでクロノスは随分と得意顔になっている。なんの、まだまだこれからだ…!

 

「デュエルはまだ始まったばかり…!勝った気になるにはまだ早いですよ!俺のターン、ドロー!」

 

引いたのは罠カード…これで『古代の機械巨人』の攻撃を防ぐことはできないが、『あいつ』と合わせれば…!

 

「『シャインエンジェル』を守備表示で召喚!さらに一枚を伏せて、ターンエンド!」

 

シャインエンジェル

DEF/800

 

「そのようなモンスターを守備表示で出したところで、『古代の機械巨人』の前では気休めにもなりまセ〜ン。ワタクシのターン。魔法カード『強欲な壺』を発動!カードを二枚ドローしテ〜、『古代の機械兵士』を召喚しますーノ」

 

古代の機械兵士

ATK/1300

 

クロノスが新たに、右腕にガンキャノンを携えた歯車仕掛けの兵士を召喚する。

 

「そして『古代の機械巨人』で、『シャインエンジェル』に攻撃するノーネ!」

 

再び『古代の機械巨人』の拳が俺のモンスターを粉砕、そしてその衝撃は先ほどよりも大きくなって襲ってくる…!

 

賢司 LP 3000 → 800

 

『『古代の機械巨人』は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が守備力を上回っていればその差のダメージを相手に与える…』

『攻撃表示で召喚すれば少しはダメージを抑えられた筈なのに、どうしてかしら?』

『分からないか?』

 

明日香と雪乃の疑問に、亮が口を開く。

 

『俺には、攻撃させる為にあえて守備表示にしたように見えるがな』

『それってどういうこと?』

『それはーー』

「『シャインエンジェル』の効果発動!このカードが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚できる!」

 

観戦している亮が言葉を続けようとするのと同時に、効果の発動を宣言する。この効果で呼び出す奴は、一人しかいない…!

 

「『青き眼の乙女』を特殊召喚!!」

 

青き眼の乙女

ATK/0

 

このデッキの中枢を担う……大黒柱とでも言うのだろうか?それに等しい存在である彼女が、フィールドに現れる。

 

『攻撃力0…?』

『あんな雑魚モンスターを出すとか、他に出せるヤツなかったのかよ』

『あんな使えないの入れるとか正気か?』

 

途端にギャラリーから浴びせられる罵倒。なるべく気にしないように努めるが、それでも少しは心にクる。だがこの後の展開を見れば、『乙女』を雑魚呼ばわりした奴はその考えを改めざるを得ないだろうな…!

 

「攻撃力0のモンスターを出すとは…恐らくはその伏せカードで守るつもりですーネ?シカーシ!『古代の機械兵士』が攻撃する時、アナタは魔法・罠を発動することができまセーン!よってこのターンで決着ナノーネ!『古代の機械兵士』、プレシャス・ブリット!」

 

『古代の機械兵士』は『乙女』にガンキャノンの狙いを定めると、シリンダーを回転させ始める。銃撃が始まれば『乙女』はなす術なく破壊され、俺のライフはゼロになるだろう。

しかしーー。

 

『……?』

『…あれ、どうして攻撃が始まらないの?』

「ど…どうしたノーネ、『機械兵士』!?」

 

徐々に違和感を感じ始めたギャラリーからどよめきが聞こえ始めた。無理もない、『古代の機械兵士』の攻撃がいつまで経っても始まらないのだ。

やがてシリンダーの回転は勢いを弱めていき、ついには完全に停止してしまった。

 

「どうなってるノーネ!?まさかデュエルディスクの故障ナノーネ!?」

「……ククク」

『マスター……意地が悪いですよ』

 

攻撃が止まった原因が分からずあたふたするクロノス先生を見てつい笑いがこぼれてしまい、『乙女』に窘められる。そういえばこれは試験だったっけか。真面目にやらんとな。

 

「『青き眼の乙女』の効果発動!」

「エ…?」

「このカードが攻撃対象になった時、その攻撃を無効にしこのカードの表示形式を変更する!」

 

青き眼の乙女

ATK/0 → DEF/0

 

「故障ではなくそのモンスターの効果だったとは…。デス〜ガ、このターンを凌いでも次のターンでアナタの負けは決まってますーノ!」

「…それはどうでしょうかね?」

「負け惜しみ〜ヲ。この状況からどうやって逆転するーのデス?」

「『乙女』の効果にはまだ続きがあります。この効果が発動された時、デッキ・手札・墓地からその身に宿すドラゴンを特殊召喚する効果が…」

 

『青き眼の乙女』の真骨頂。それはこの効果である。

数多く存在するモンスターのなかでも、最初期から未だその人気を衰えさせぬデュエルモンスターズの代表とも言えるモンスター。

そして、海馬瀬人の忠実な僕と名高いあのモンスターを呼び出す効果…!

 

「い、今更どんなドラゴンを召喚しようト…!」

「ならばその目でしかと見てもらいましょうか…!このデッキのエースの姿を!」

 

『乙女』の体から湧き出た白のオーラ、それが天高く昇ると徐々にその形を定めていく。

大きな翼、長い尻尾、そして鋭い爪と牙ーー。

そして白いボディと青の眼ーー。

徐々にその正体が露わになるにつれて、ギャラリー達が息を呑んでいるのが見える。

 

「さあ…お披露目の時間だ!出でよ、長き時を共に歩みし戦友!降臨せよ、『青眼の白龍』!!」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

やがて、完全に具現化された『青眼の白龍』が咆哮する。今この瞬間、ギャラリーのほぼ全員の視線はこのモンスターに釘付けにされているかもしれない。

本来ここにはないはずのカードだからな。

事実、ギャラリーの騒ぎようが半端じゃない。

 

『お、おい…あれってもしかして…!』

『伝説中の伝説と言われてる、あの…!』

『『青眼の……白龍』…!!』

『あれって、伝説のデュエリストーー海馬瀬人しか持っていない筈じゃ……!?』

『ーーーー』

『……さすがの私も、こればかりは予想外だったわ』

『あれが、伝説の『青眼』…』

『すっげー!!まさかあの伝説のモンスターを、この目で見れるなんて…!』

『あ、あわわ……』

 

『青眼』の召喚によって試験会場は完全に沸きだってしまった。本来なら沈静化させるべきである試験官達も、伝説と謳われているカードから意識を外せないでいる。

 

「せ、静粛ーニ、静粛ーニ!ま、まだ試験の途中ですーノ!静かにするノーネ!!」

 

一足先に我に返ったクロノス先生が沈静化を図り、ようやくざわつきが収まった。こっちが召喚しておいてなんだが、自分でもまさかここまで騒がれるとは思わなかった…。とりあえず心の中でクロノス先生に謝っとこ…。

 

「さ、さすがに驚きを隠すことはできなかったノーネ…。ですが伝説のモンスターを召喚したとしても、勝てるかどうかは別の問題デスーノ…!ワタクシは手札一枚を捨て〜テ、魔法カード『古代の採掘機』を発動!デッキから魔法カード一枚を選び、場にセットする〜ノ。ターン、エンドナノーネ…!」

 

クロノス LP 4000

手札:1

モンスター:2

魔法・罠:1

 

賢司 LP 800

手札:4

モンスター:2

魔法・罠:1

 

◇◆◇◆◇◆

 

(あの伝説の『青眼の白龍』を持っているとは、いったいこの男は何者ナノーネ…!?)

 

自らのターンを終えたクロノスは亀崎の隅々までを、改めるように眺めていた。その心中は決して穏やかではない。

 

(…まぁ、いいでショウ。どの道次のワタクシのターンで終わるのは確定しているのデースから。この、『リミッター解除』がある限り…ネ)

 

◇◆◇◆◇◆

 

「俺のターン」

 

クロノス先生が伏せた魔法カード…。あれはほぼ間違いなく『リミッター解除』だろう。幸いそれに対抗できるカードが手札にはある。

だがそうすると後は消化試合のような、一方的な蹂躙の様相を呈する可能性がでてしまう。海馬からは「実技でとにかく目立て」と言われているので、ここらでもう一つ派手なところを見せたいものだ。

例えば……そう、『究極竜』の召喚とか。

 

「ドロー!」

 

引いたカードを見て思わず吹き出しそうになる。

なるほど…これが『ドロー(りょく)』ってやつか…。

 

「永続罠『竜魂の城』を発動!墓地のドラゴン族を除外し、自分の場のモンスター一体の攻撃力を700ポイントアップする!『アレキサンドライドラゴン』を除外し、『青き眼の乙女』の攻撃力をアップさせる!」

 

青き眼の乙女

ATK/0 → 700

 

「そして『乙女』の効果!効果の対象になった時、デッキ・手札・墓地から『青眼の白龍』を特殊召喚!」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

二体目の召喚でギャラリーが再び騒ぎ始めるが、それを無視してデュエルを続ける。

 

「さらに魔法カード『融合』を発動!」

「『融合』!?」

「場の二体と手札の『青眼』を融合!現れろ、『青眼の究極竜』!!」

 

三体の『青眼の白龍』が交わり、更に巨大な三つ首のドラゴンが現れる。それはかつてデュエルモンスターズにおいて最強の座に君臨していた、まさに究極のドラゴンである。

 

青眼の究極竜

ATK/4500

 

「この『究極竜』で、門番である『古代の機械巨人』を倒す…!『青眼の究極竜』の攻撃!」

「速攻魔法『リミッター解除』発動!この効果でワタクシの場の『古代の機械(アンティーク・ギア)』達の攻撃力を、倍にするノーネ!」

 

古代の機械巨人

ATK/3000 → 6000

 

古代の機械兵士

ATK/1300 → 2600

 

『採掘機』で伏せた魔法を発動させたクロノス先生は、これで決着のつもりなのだろう。

だがそれぐらいのことは予想できていた…!

 

「手札から速攻魔法『エネミーコントローラー』を発動!その一つ目の効果により、『古代の機械巨人』を守備表示に変更する!』

「なんでスト!?」

 

古代の機械巨人

ATK/6000 → DEF/3000

 

「守備表示なら『リミッター解除』を発動されても怖くはない!『究極竜』、アルティメット・バースト!!」

 

放たれた三つのブレスが一つに集約、『古代の機械巨人』は跡形もなく消し飛んだ。さすが『究極』を冠するだけはあり、途轍もない破壊力だ…。

現に、クロノス先生が吹っ飛ばされそうになってるし。

 

「グググ…!ま、まだ『古代の機械巨人』がやられただけナノーネ…!すぐに反撃をーー」

「速攻魔法『融合解除』。『究極竜』を融合前の姿に戻す」

「…!!」

 

元の姿に戻った三体の『青眼』。【GX】の初戦、締めはやっぱりこうでないとな…!

 

「『青眼の白龍』の攻撃ーー滅びの爆裂疾風弾!!」

「マ…マ…マンマミーヤー!!」

 

放たれた三つのブレスは、『古代の機械兵士』とクロノス先生を飲み込み爆発。黒煙が晴れると、クロノス先生はカエルがひっくり返ったかのような格好で目を回していた。

 

クロノス LP 4000 → 0

 

「ふぅ。ありがとうございました」

 

デュエルが終了したのを確認し、一息つくのと同時にソリッドビジョンが消える。クロノス先生は未だ立ち上がる気配がないようで、試験官やスタッフの人達が無事を確認している。

少しやり過ぎたか…?

 

『マスター、アレはやらなくていいのですか?」

「アレ?」

『粉砕・玉砕〜、っていうアレですよ。本当はやりたかったんじゃないですか?』

「流石に公衆の面前であんなことは出来んよ…。顔が隠れてたりしてれば、出来なくはないかもな…」

 

実際、あんな事を素でできるカイバーマンはある意味尊敬するわ。それともやっぱりああいうのが出来た方がいいんだろうか?

 

そんなことを考えながらフィールドを後にした俺はそのまま騒然としている会場の中、様々な視線を受けながら今後の身の振り方について思案を始めた。

 

 




『青眼』を揃えて勝ちたかった(願望)

最初は『乙女』の直接攻撃でフィニッシュの予定だったんですがね。それじゃ格好つかないかと思い直しました。

さて、アカデミアでの最初の相手は誰にしようかな〜。

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