遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

4 / 18
A Happy new イヤァァァァ!!
新年明けましておめでとうございまぁす!

投稿が遅くなって申し訳ありません。
今年もこの小説をよろしくお願いします。


絆の証明

「罠カード『ガード・ブロック』を発動!戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドローする!」

 

『究極竜』のブレスが俺の『青眼』へと放たれた瞬間、伏せられていたカードを発動させる。『青眼』は破壊されたものの、首の皮一枚で何とか耐えることができた。

 

「ふぅん…存外しぶといなーーむ?」

 

突然、海馬からPHSのコール音が鳴り始めた。海馬は少し待てと短く言うと、PHSに出た。

 

「どうした磯野?ーーふむ、わかった」

 

磯野ーーと呼ばれた人物との短いやり取りを終えると、海馬はこちらに向き直った。

 

「…リバースカードを一枚伏せてターン終了だ」

 

電話を切ってから海馬の様子が僅かに変わったように感じながら、改めて自分の置かれている状況を鑑みる。

自分の手札はなしーー海馬の場には『究極竜』と伏せカード一枚。余程いいカードを引かなくては、圧倒的なライフアドバンテージをひっくり返せない。実際のところ、それを実行できるカードはデッキに入ってはいる。しかしそれを引く確率はかなり低い。そして引き当てたとしても海馬の伏せカードで妨害される可能性がある。

 

 

「遊戯ボーイ。このデュエル…どちらが勝つと思いますカ?」

「分からないーーとしか言えないな。海馬君が強いのは僕もよく知っているけど、そもそも同じ『青眼』使いと戦ったことは流石の海馬君にもなかった筈。ライフでは海馬君が圧倒的だけれど……彼と彼のデッキはすごく強い絆で結ばれているから、この状況をも乗り越えてしまうかもしれない……」

 

ペガサスと遊戯ーー。二人を持ってしても、このデュエルの行く先の予想が定まらずにいた。

 

「さあ貴様のターンだ!カードを引け!」

 

海馬に促される形で、デッキの一番上のカードに右手の人差し指と中指を添える。デュエルモンスターズにおいてデッキからカードを引く際のもはや見慣れたものだが今の俺にとってそれは、崖と崖を繋ぐ一本の吊り橋に乗せる足を想像させるものだった。

崖下は奈落の闇ーー吊り橋は一見大丈夫そうに見えるけれど、足を乗せた瞬間にーーといったものを想像してくれればいい。

デッキからカードを引くはずの右手ーー右腕は固くなり進むのを拒む。しかし進まなければ、という焦りが更に精神を消耗させる。

 

ーー今更何を恐れているんだ?ついさっき『このデッキを信じる』と決め込んだばかりじゃないか。

 

一旦デッキから指を離してひとつ深呼吸をする。ふと視線を感じて後ろを見上げると、『究極竜』の中央の頭が俺を真っ直ぐに見下ろしていた。もの言わぬ『究極竜』はその眼に俺を映し何を訴えているのかーー今ならある程度察しがつく。

 

「そうか……お前達はいつもこうやって、俺を見ていてくれたんだな」

 

本来の元いた世界ではソリッド・ビジョンシステムどころか、情報を立体化させる技術なんて夢のまた夢だった。ただのカードでしかなかった彼らの想いを知る由もなく、俺達デュエリストは道具として使い続けてきた。

だがこの世界ではそのカードにも精霊が宿り、デュエリストを信じてその力を振るう。そしてデュエリストとの絆が表されるその描写に、子供だった当時の俺の心はいつもわくわくしていた…!もしかしたら、自分のカードにも精霊が宿っているんじゃないかって…!

 

「俺のターン!」

 

そして今、その憧れていた世界に俺はいる!それなのに『お前』といられなくなったら俺は……。

だから、このデュエルーー

 

「ドロー!!」

 

 

 

 

 

ーー絶対に負けたくない!!

 

「『青眼の究極竜』!海馬瀬人の『究極竜』に攻撃!」

「なに!?」

「同じ攻撃力で相打ちをしても、残される亀崎ボーイのモンスターの攻撃力はゼロ…!これではダメージは与えられまセーン…!」

「クッ…!罠カード『バーストブレス』を発動!『究極竜』を生贄に、その攻撃力以下のフィールド上に存在するモンスターを全て破壊する!殲滅のアルティメット・バースト!!」

 

俺の『究極竜』の攻撃を躱した海馬の『究極竜』が空へと羽ばたき、フィールド目掛けてブレスを吐き出した。その破壊力はすぐさまフィールドを呑み込み、俺の『究極竜』と『青き眼の乙女』が破壊された後に力を出し切った『究極竜』も地に落ち伏した。

 

(これで貴様の場にモンスターはいなくなった。残されたのはこのターンでドローした一枚のみ…。さあ、どう来る!?)

 

この状況において海馬はもはや、俺に対する『青眼』絡みの感情を放棄していた。それは目の前のデュエリストの実力を見抜こううとする、一人のデュエリストとしての目だった。

フィールドを焼き払われて俺の場にモンスターはいなくなった。しかし俺が引いたのは、このデッキにおいて必殺の効果を持ったカードだ。

 

「手札から速攻魔法『銀龍の轟咆』を発動!自分の墓地から、ドラゴン族通常モンスター1体を特殊召喚する!」

 

カードがソリッド・ビジョン化された瞬間にデュエルフィールドであるヘリポートに暴風が巻き起こり、文字通り龍の咆哮による轟音が響く。

ちょっ、なんかすごい風なんですけど!?おまけに轟音があまりにもうるさくて耳を塞ぎたくなるぞこれ…!

 

「墓地のドラゴン族を無条件で!?」

 

この暴風と轟音のなかでも遊戯の声がはっきりと聞こえてくる。バトル・シティの飛行船の時もそうだったけど、どんな環境のなかでも人の言葉が聞こえるってどんな理屈ーーいや、これについては考えないほうがいいか…。

 

「蘇れ、長き時を共に過ごしたドラゴン!『青眼の白龍』!!」

 

速攻魔法によって、数多くのデュエルで俺の勝利に貢献してきた白き龍が蘇った。このシチュエーションもまた今までのデュエルで何度も見た光景だが、今のような負けられないデュエルで来てくれたことはこの上ない喜びを感じるられる。

 

「『青眼の白龍』!プレイヤーに直接攻撃!」

 

この世界に来て初めてのデュエル……、不安がなかったといえば嘘になる。だけどお前と共に戦えるのなら、俺はこの世界でも勝ちに行ける!!

 

 

 

海馬 LP 3900 → 900

 

 

『青眼』の攻撃を受けて片膝をつく海馬。そしてその光景を、信じられないといった表情で見ているペガサスと遊戯。

I2社の屋上には音を発するものはなく、地上の車のクラクション音や人々の喧騒が僅かに聞こえてくるだけだった。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

立ち上がった海馬が引いたカードを確認した瞬間、微動だにしなくなった。俺だけでなく遊戯とペガサスもどうしたのかと疑問に思い始めるのと同時に、海馬はカードを持つ右手を下げーー

 

「……デュエルはここまでだ」

 

ーー短くそう告げた。

ソリッド・ビジョンが消えてディスク部分が収納される。海馬はそのままエレベーターへと向かって歩いていく途中で止まり、肩越しに俺に語りかけてきた。

 

「貴様と貴様が持つ『青眼』との繋がりとやら……見せてもらった。貴様の『青眼』への処遇は保留ということにしておいてやる。決まるまではどう使おうが貴様の自由だ。だが……『青眼』を用いた上で負けることはこの俺が許さん!分かったな!?」

 

その言葉はあまりにも意外だった。

海馬のこと、てっきり「俺との決着がつくまで使うことは許さん!」と言ってくるとばかり思っていたからだ。

そんなあっさりと認めてくれた海馬に唖然としていると、遊戯が海馬に声を掛けた。

 

「海馬君…」

「遊戯、お前は奴に用があるのだろう。なるべく早く済ませることだ。さもなければお前をここに置いて日本に戻ることになるからな」

 

そう言うと海馬は俺を一瞥して、さっさとヘリに乗りこんでしまった。一時はどうなることかと思ったが、結果的に許しが出たので俺はその場に力無く座り込んだ。

 

「コングラッチュレーション!素晴らしいデュエルでした亀崎ボーイ!諦めない心と『青眼』との絆が、海馬ボーイの考えを改めさせましタ!」

「海馬君にあれ程のダメージを与えられるデュエリストはそういない。君はデュエルの腕も高いんだね」

 

ペガサスは拍手をしながら健闘を讃えてくれ、遊戯はこちらへと歩いて座り込んだ俺に手を差し伸べてくる。俺は遊戯の手を借りて立ち上がった途端、力がどっと抜けてしまった。

 

「はは…。でも勝った訳じゃないから、いつかまたデュエルすることになりそうだな…」

「海馬君だからね。勝敗がつくまで戦うと思うよ」

「ウヘァ……」

 

遊戯の言葉にさらに全身の力が抜ける。海馬の『青眼』愛はほんの少しだけ分からなくもないが、別世界の物すらも掌握しようとするのは勘弁してほしい。そしてできるならこれっきりにしてほしいものだ。

 

『大丈夫ですよマスター。私達がついています』

「……え?」

 

ふいに後ろから聞こえたその声に驚きながら振り返る。

そこには、先のデュエルで立体化していた『青き眼の乙女』が半透明の姿で浮かんでいた。

びっくりして後ずさると今度は遊戯の隣で浮かんでいる『クリボー』が視界に映る。あまりにもいきなりのことだったので少し戸惑っていると、『青き眼の乙女』が心配そうに覗き込んでくる。

 

『あの…大丈夫ですか?』

「ま、まさか……精霊、ってやつか…?」

「そうだよ、君が持つカードの精霊さ。もしかして知らなかったの?」

「存在自体は知ってたけど、こうして面と向き合うのは初めて……です」

 

驚きのあまり素に戻っていることに気づき言葉を改める。すると遊戯は「そう改まることはないよ」と気を利かせてくれた。

 

「…いきなりのデュエルで頭から抜けてたんですけど、ここってI2社ですよね?」

「その通りデース。ユーが社内で倒れていたのを私が見つけたのデース。最初は侵入者かと思ったのですガ、海馬ボーイと共に来た遊戯ボーイがユーを守る精霊が見えたと言うので、あの部屋で寝かせていたのデス」

「そうだったんですか……。そういえば、どうして遊戯さんがここに?自分の記憶違いじゃなければ、ここアメリカじゃ……」

「『クリボー』が教えてくれたんだ。“別の世界からデュエリストが来る”ってね」

 

へえ、と返しつつ『クリボー』を見ると、『クリボー』はにこりと笑いかえしてきた。こんな小さな存在でもそういうのを感知することができるのか……。

 

「どうやら亀崎ボーイにもデュエルモンスターズの精霊が見えるみたいですネ。この場で精霊が見えないのが私だけとは、少しばかり寂しいデース……。と、お喋りはここまでにして、亀崎ボーイには悪いですガ今度は私の用件を片付けさせていただきまショウ」

 

ペガサスがオーバーアクションで落ち込んでいるのを見て苦笑していると、それが嘘のようにペガサスはすぐにパッと表情を変えてフレンドリーな笑顔で俺に話してきた。

ペガサスのこと、恐らくはデュエルモンスターズ絡みだろう。

 

「ここで立ち話するのも何ですかラ、先程の部屋へバックしまショウ。遊戯ボーイ、そこからはユーの助力もお願いしマース」

「ああ。わかったよ」

 

ペガサスに促されて俺は二人と一緒に部屋へと戻る為にエレベーターに乗り込む。

海馬とデュエルする為にここへ来てから、今こうして屋上ーーヘリポートを後にするまで三十分ほどしか掛かっていなかった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

海馬瀬人 side〜

 

世界に四枚しか存在しない筈の『青眼の白龍』ーーそれらとは別の新たな三枚を持つ男とのデュエルを終えた俺は今、I2社へと向かう為に乗ってきたヘリの中でノートパソコンでとある調べごとをしていた。

機内ではキーボードを叩く音のみが耳に入るなか、自分の頭ではあの男とのデュエルを思い返していた。

 

(『青眼』は世界に四枚ーー俺が持つ三枚、そして遊戯の祖父である双六が持つ一枚だけ…。それはデュエルモンスターズの産みの親であるペガサスが、このカードが強すぎるために製造を中止したと聞いていたが……)

 

今尚製造されているモンスターのなかに、攻撃力3000を超えるモンスターはいないことはない。だがそれらは融合や儀式ーー召喚条件を踏まえたり、何らかの制約を持ったモンスターがほとんどである。『青眼の白龍』はそのなかでも何の制約もなく、特殊な条件を踏む必要もない正に最強の一角とも言えるモンスターだ。

特に生贄召喚のルールが施行される前の環境においては、その圧倒的な攻撃力の前にどのモンスターもなす術はないにも等しい時期があった。ペガサスが製造を中止したのはこの環境を危惧したからだろう。

事実、当時は先に攻撃力の高いモンスターを出せば勝ちとも言えていた。

 

(だが今のルールに改定されてから今に至るまで『青眼』の製造は行われていない……。そのような情報も今までなかった。そしてあの時のペガサスの反応…)

 

海馬はペガサスを問い詰めた時のことを思い返した。

ペガサスのあの反応からして、秘密裏に製造を再開しているのは考えにくい。ならばペガサスの言う通り、あの三枚の『青眼』は奴の物だというのは間違いないだろう。

問題はどうやって手に入れたかーーそれに尽きる。

最初はコピーカードであることを考えたがすぐにそれはあり得ないと一蹴した。もしコピーカードならば、かつて『青眼』を自分のものとする為に所在を調べた際、あれらの存在も知り得た筈だ。それとも調査が不十分だったか?否、それでも少なからず僅かな情報くらいは出てきただろう。こと『青眼』に関しての情報を見逃す、聞き逃すほど自分は抜けてはいない。

次にI2社以外のカード会社が極秘に作った可能性も考えたが、これについても確実と言うにはあまりにも弱すぎた。

今この世界に存在するカード会社において各社が製作したカードはまずI2社で審査を行い、そこで通って初めてカード化される。だがI2社が製造を中止したカードを、他社が秘密裏に製造したというのであれば話が違う。時間が空き次第調べていくつもりだが、この予想も外れていたとしたら……後は再度奴に聞くとしよう。例え行方を眩まそうとも、地の果てまで追いかけてやる…!

たまたま、目デュエルディスクにセットされたままのデッキが目につき、一番上のカードをめくる。そのカードは、さっきのデュエルにおいて最後に引いたカードだった。

 

(奴とはいつかまた戦うことになるだろう…。あの局面でこのカードを引いたということは、まだ決着をつけるべきではないということだろうからな……。精々その時までにデュエルの腕を高めておくがいい…!)

 

海馬は窓から『その時』を見定めるかのように空を見上げる。雲一つない青空はまるで海のように、その先にあるであろう未来をひた隠しているようにも見えた。

海馬の手にある『輪』は、『その時』が来るまで待つようにという神からのメッセージだったのかもしれないーー

 

 

 

海馬瀬人 side end

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

海馬とデュエルした屋上から自分が寝かされていた部屋へと俺は戻ってきた。ペガサスと遊戯、そして精霊である『青き眼の乙女』と『クリボー』も同じくこの部屋にいる。

 

「う〜ん…」

『クリ?』

 

両手を腰に当てながら目の前で浮いている『クリボー』をじっ、と見る俺。『クリボー』は逃げるでもなくその場にふよふよと浮いている。そんな様子を見て、遊戯が疑問を投げかけてきた。

 

「『クリボー』がそんなに珍しいかい?」

「いや。精霊を直に見ると、カードのイラストと雰囲気が違うんだな〜って」

 

実際、初めて『クリボー』のカードを見た当初はこんなに可愛らしいモンスターだとは思っていなかった。てっきり素知らぬ顔でイタズラをするような奴だとばかり……。

 

「フム、次からはもっと愛らしいクリボーを描いてみるのもいいかもしれませんネ。いっそのこと、ワタシのトゥーンの仲間にするというのはどうでショウ?」

 

俺と遊戯のやりとりを見てペガサスが変なことを言い始めた。『トゥーン・クリボー』……見てみたい気はするけど需要は果たしてあるのか…。

その後もちょっとしたデュエルモンスターズ談義が続いていたが、ひと段落したところで遊戯が本題を切り出してくる。

 

「ーーって、このままじゃこの話だけで終わっちゃうね。そろそろ本題に入ろうか」

「そうですネ。亀崎ボーイも大分リラックスできた様子ですシ」

 

さっきまでの和気藹々とした雰囲気が少しだけ薄れる。しかし二人の雰囲気は微塵も変わらず、あくまでただ俺がとこから来たのかを知りたいという様子だった。

 

「それではユーについて色々と聞かせてもらいマース。まずーーユーは何処から来たのですカ?」

 

ペガサスがまず最初に提示した質問はいきなり返答を考えさせられるものだった。俺はその質問に正直に答えるか否か、少し考えた。

ペガサスと遊戯の二人は『千年アイテム』という特殊な道具に選ばれた共通点がある。遊戯は『千年パズル』をーーペガサスは『千年眼』をそれぞれ所有していたのだ。『決闘王国』のラストでは、この二人がその千年アイテムを用いた闇のデュエルという現代科学も真っ青な戦いをしていたのは、当事者と遊戯の友人達のみだろう。

その為二人はある程度の非現実的なことでも、しっかりと聞いてくれる可能性がある。だがもし「次元跳躍?ナイワー」と言われたら、自身の経緯を伝える術がなくなってしまう。その一点だけが正直に話すのを躊躇することに繋がっている。

 

『…マスター。私から彼等にお話しましょうか?』

 

そう悩んでいると、横にいた『青き眼の乙女』が代わりに話すかと聞いてきた。ここで任せればどれ程楽かと一瞬考えたが、こればかり自分で伝えなければと考えを改めて『乙女』に「大丈夫だ」と返した。

 

「…信じられないと言うのであれば、無理に信じてもらわなくとも構いません。ーー」

 

念のための断りをいれると、俺は静かに息を吸ってーー

 

 

 

「俺達は……別の世界から来ました」

 

ーー嘘偽りのない真実を述べた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「これは驚きましタ…。只者ではないと薄々感じてはいましたガ、亀崎ボーイがこことは別世界の人間ーーしかも三幻神のパワーでこちらの世界に来たとハ……」

「うん…俄かには信じ難いよね」

 

全てを話し終えるとペガサスは顎に手を添え、遊戯は腕を組んだ。

二人の言葉は至極もっともだ。例え共通する物を持っていたとしても、いきなり別世界からやってきましたなんて言われたら自分だって「はい?」と答える自信がある。

 

「亀崎君…だったよね?君の言ったことは嘘じゃないよね?」

「ここで嘘をついてどうするんですか。少なくとも、頼れるところがないこの状況で身分を偽っても仕方がないと思います」

「そうか…。だったら今は変に疑っても仕方ないね」

 

そう言うと遊戯は俺から視線を外す。その先を追っていくと、いつの間にか『乙女』と『クリボー』が話し込んでいるのが見えた。『クリボー』が視線に気づくとすぐに遊戯の元に向かい、何かを伝えている。

 

「君の言ったことに嘘はないようだね。『クリボー』も君の精霊から同じことを聞いたみたいだ」

 

『クリボー』から伝え聞くと遊戯は友好的な笑顔になった。どうやらこっちの事情に納得してくれたらしい。

 

「疑ってごめんね。僕は不思議なことに少しだけ縁があるから、つい…」

「いやいきなりこんなこと言われたら誰だって疑うのは当たり前でしょう。でも、信じてくれてありがとうございます」

 

謝罪とともに差し出された右手を躊躇いなく自分の右手で握る。握手に応じながら、遊戯の手が見た目より大きく感じたのは彼が決闘王だからだろうか。

 

「異なる世界のデュエリストが邂逅するこのMiracleに立ち会えるとハ、この世界のデュエルモンスターズの親として大変嬉しく思いマース!」

 

まさに奇跡と言いながら全身で喜びを表すペガサス。

 

「ところで、こんどはワタシの用件を聞いてもらえまスカ?特に難しいことではありまセーン。ただユーが持つカードを見せてもらいたいのデース」

「確かに僕も気になるな。別世界のデュエルモンスターズがどんななのか」

 

そう言ったペガサスと遊戯が室内の一点ーーテーブルの上に置かれた二つのジュラルミンケースに視線を注ぐ。恐らくあの中に、元いた世界で集めてきたカードが入っているのだろう。

 

「この世界とそんな大差はないと思いますが、それでもいいなら……」

 

そう断りをいれてひとつのジュラルミンケースを開けてみると、やはりカードの束がギッシリと入っていた。それらは自分がデュエルモンスターズを始めてから、集め続けてきたカード達だ。その中のいくつかの束を取り出すと二人は一枚一枚を丁寧に見始めた。

 

「…確かに我が社で製造しているカードと大した違いはありませんネ…」

「でも所々に見たことのないカードもあるよ。ほら、これとか」

 

そう言って遊戯が示したのは『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』ーー元いた世界で放送されていた【遊戯王ARC-Ⅴ】の主人公、榊遊矢のエースモンスターだった。

ここで自分の中にひとつの疑問が生じる。今いるこの世界では、間違いなくまだ『ペンデュラムモンスター』は存在していないはず。いや『シンクロ』もそうだろう。さっきジュラルミンケースの中をサッと見たところ、カードは束になっていたとはいえ種類で分けられていたわけではなかった。もし現時点でそれらが知られたらこの世界の在り方が変わってしまうかもーーと心に焦りが芽生えた。

しかしーー。

 

「…ん?」

 

ーーその心配は杞憂に終わった。なぜならその『オッドアイズ』は、【ペンデュラムモンスター】ではなく一般的な【効果モンスター】としての姿に変わっていたからだ。

それを見た俺はジュラルミンケースの中にある【ARC-Ⅴ】以降のカードを探し確認していった。

 

『時読みの魔術師』ーー

『星読みの魔術師』ーー

『EM』ーー

 

次々と確認したがどれも『オッドアイズ』と同じく、ただの効果モンスターに変化していた。もしやあの三幻神の仕業か、と考えたが今となってはそれを確かめる術はない。これならこっちに着いた時にシンクロとエクシーズ、そしてペンデュラムがどうなるのか聞いておくべきだった……。

 

「Wonderful!ワタシですらも考え及ばないような素晴らしいカード達デース!亀崎ボーイがいた世界でハ、これらが既に販売されているのですネ!」

 

ペガサスがカード達を持ったまま感銘を受けている。その様子に俺は苦笑しかできなかった。これらは未来において作られたカードだから。

 

「亀崎ボーイ。いきなりで申し訳ないのですガ、ユーのカードをほんの少しの間だけお借りすることはできないでしょうカ?折角のこの機会、ユーの持つカードを我が社で製造させてもらいたいのデース」

「え!?そ、それはーーってこっちの世界から向こうに許可を取りに行く方法がないんだった……。まあ、いいと思いますけど……少し待ってください」

 

ペガサスからの以外な提案を承諾すると、二つのジュラルミンケースに入っているカードをざっと確認し、紛れていた『Sモンスター』・『Xモンスター』関連のカード抜き取った。

 

「亀崎君。そのカードは?」

「これらは知られると少しまずいことになりそうなので、抜かせてもらいました。あとのカードは好きに見てもらっても構いません」

「そうですカ……。ワタシとしてはそれらも是非見せてもらいたかったのですガ、仕方ありませんネ」

 

ペガサスは残念そうにすると、控えていた部下に指示してジュラルミンケースを回収させた。

 

「デハ亀崎ボーイ、ユーのカードは責任を持って預からせていただきマス。こちらの方が終わりましたラ、必ずお返ししまショウ。ただそうなると時間が掛かってしまいます、どうしたものでショウ……」

 

ペガサスが悩んでいると再びドアが開かれる。開けたのは、またしても海馬だった。

 

「遊戯。そろそろ俺は海馬コーポレーションに戻らねばならん。用は済んだのか?」

「まだ終わったわけではないけど、大体は」

「Oh、Greatな案が浮かびましタ!海馬ボーイ、日本へ戻る際に亀崎ボーイも連れて行ってはもらえないでしょうカ?」

「何?」

「私としては彼をここに置くのは構わないのですが、社員の目があるので居心地があまり良くないと考えましタ。実は亀崎ボーイが目覚める前に、もし日本に身寄り等がいない場合は一時的に遊戯ボーイの家に厄介になることを、遊戯ボーイと話していたのデース」

 

ペガサスのあっけらかんとしたびっくり発言を聞いて、目が点になる錯覚を覚えた。海馬は一瞬だけ面を食らうと、すぐに気を持ち直した。

 

「ふぅん、その必要はない。それならばそいつは海馬コーポレーションで預かっておいてやる」

「ふぁっ!?」

 

と思ったらペガサスに負けないびっくり発言を聞いてしまった。何故そんな考えに至るのか……。

 

「下手に泳がせるよりは、手の届く場所に留めておいた方がいいからな……」

「まあ海馬コーポレーションなら心配はいらないと思うけど、亀崎君はどうする?」

 

監視されるような形ではあるものの、一応は身柄を保護してくれる……ということでいいんだろうか?向こうに着いた途端に質問攻めとかは勘弁してほしいけど、せっかくなんだからここは乗っておこうか。

 

「よろしくお願いします…」

「ふぅん、それでいい。よし、そうと決まればすぐに発つぞ」

 

俺は『乙女』を連れて海馬、遊戯と『クリボー』と共に再度ヘリポートへ行き、KCのロゴが入ったヘリに乗り込みI2社から童美野町へと飛び立った。二次元にしか存在していなかった町への想いで、俺の鼓動は自然と速く高鳴っていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

実際に童美野町を見て歩いてみると、雰囲気は自分が元いた世界とそれ程大きな変わりはなかった。強いて言えばデュエルモンスターズに関する広告やらがよく目に入ることか。それと公園などの広いスペースでは子供がデュエルをしていたりするのを見て、自分は本当に『遊戯王』の世界に来たんだと改めて実感した。

 

「しかし手元に置いた方がいいと言っておきながらいきなり外に放るとは、海馬社長は何がしたいんだ」

「う〜ん。きっと何か準備をしてるんだと思うけど、さすがに僕もわからないな。でもそのお陰でこうして童美野町を回れるからいいじゃないか」

「回りたいって言ったのは自分だしな……」

 

遊戯の案内のもと童美野町を歩く。

バトルシティ開幕の地である広場から彼の友人である真崎杏子がかつてアルバイトしていたレストランなど、記憶が怪しいところもついでのように案内してくれた。

そして次は遊戯の実家であるゲーム屋『亀』に向かおうとしていた途中、ひとつのカードショップの前に差し掛かった。

 

「ここにもカードショップがあるのか…」

「ここは城之内君と一緒にデュエルディスクを受け取った店だね。その時の店員がグールズの一員だったんだけど、今はもういなくなって普通のカードショップになってるんだ。せっかくだし入ってみるかい?」

 

遊戯からの提案を受けてカードショップに入る。店内の雰囲気は特に特別といったものではなく、カードもパックだったりバラでガラスケースに入っていたりと至って普通の店だった。

店員もちょび髭を生やしたいかにも温厚そうなおじさんだ。

 

「君がいた世界でもカードショップは似た感じなんだね」

「だからなのか、ここにいると少しホッとするよ。まるで向こうの世界と繋がってるみたいだ」

 

そんな会話をしながらガラスケースの中のカードを見て回ると、そのどれもが純粋に攻撃力の高いモンスターばかりであることに気づいた。どうやらこの世界では多少扱いずらくとも攻撃力が高ければ、それだけで価値があるらしい。

試しに目に留まった一枚のカードを見てみる。

 

サイバティック・ワイバーン

☆6 風属性 機械族 ATK2500 DEF1200

¥4000

 

それを見て頭に浮かんだのはたった一言。

 

「高ぇ……」

「そうかな?これぐらいが普通だと思ってたけど」

 

まぁ確かにサポート豊富な通常モンスターで、尚且つレベル6でこのステータスなら少し高かろうと驚きはしない。だがこの値段は明らかにぼったくりじゃないか?四千円もあったらどれくらいのカードが買えるのやら……。

 

「でも君が持ってる『青眼』だって、一枚で家が建てられるくらいの価値があるんだよ?あくまでこっちの世界ではこれが普通なんだ」

 

遊戯にそう言われて俺は改めてガラスケースに視線を戻す。

すると遊戯が持っている携帯から電話のコール音が鳴り始めた。遊戯は「少し待ってて」と言って店から出て行ってしまった。それを見届けた俺は暇潰しがてら、カードを見つつ店の奥ーーデュエルスペースへと足を運んだ。

そこにはひとつで三組がデュエルできるテーブルが四つあり、ちようど一組の男女がデュエルしているところだった。

 

(ふ〜ん…男の方が勝ってんな)

 

男の方は黒髪リーゼントに黒の学ランというオーソドックスなヤンキースタイルで、女の方は褐色肌に腰まであるであろうサラサラなクリーム色の長髪というソッチ系にはご馳走とも言える風貌だった。歳はまだ中学生ぐらいか。

デュエルでは、男の場には攻撃表示の『ゴブリンエリート部隊』と『血の代償』ーー小女の場には守備表示の『岩石の巨兵』と伏せカード一枚。状況はヤンキーの方が有利に見えるがーー。

 

「っしゃあ!『ゴブリンエリート部隊』で攻撃だぁ!」

「罠カード『岩投げアタック』発動!岩石族墓地送り、500ダメージ!」

「んなっ!?」

 

ヤンキー LP 400 → 0

 

ーー決着は呆気なくついた。

小女は自分のカードを回収すると立ち上がり、デュエルスペースから出て行こうとする。しかしヤンキーが声を荒げて引き止めた。

 

「ちょい待て!今のデュエル納得がいかねえ!もう一度だ!」

「私、ちゃんとデュエルした。納得いかないの、知らない」

 

ヤンキーの言葉も虚しく少女は片言で答えると、ブーツを鳴らしながら出口であるこっちに歩いてくる。聞き入れられなかったヤンキーは体をわなわなと震わせると、勢い様に少女の手からデッキを奪い取った…!

 

「な、何する!返せ!」

「ウルセェ!テメェがもう一回デュエルに応じりゃ良かったんだろうが!罰としてこのデッキは俺が貰っといてやるぜ!」

 

少女はヤンキーに取られたデッキを取り返そうとするものの、体格差がある為に玩具を取り上げられた子供のようになってしまっている。

このまま傍観者でいるのも気まずいので助けに入るとしよう。

 

「何してんだ。デュエルに負けて悔しいのは分かるけど、相手のデッキを取るのはデュエリストとしてどうなんだ?」

 

俺の言葉に両者の視線が集中する。途端に、自前のチキンハートがビクリと小さく跳ねた。『乙女』は後ろから「マスター、頑張ってください!」と小さく応援してくる。

 

「ああ?んだオメェ?」

「偶然二人のデュエルを見てただけだ。だけど今の状況を見て助けずにはいられなくってな。デッキを返すならそれでよし。返さないならーー」

「デュエルってか?ーー面白ぇ!こいつに負けた腹いせをテメェにぶつけてやんぜ!」

 

なんというかアッサリ釣れた……。てっきり『テメェもデッキを賭けろ!』と言われるかと思っていたが、杞憂に終わったようで内心胸を撫で下ろした。

 

「何の騒ぎだぁ?」

 

ふいに背後から声が聞こえてきたので振り返ると、先程のちょび髭の店員が顔を覗かせていた。

しかしこの店員、全体的に見て影が薄そうなんだよな……。

 

「オッサン!ディスク二つレンタルだ!」

「レンタルぅ?まあちゃんと返してくれるならそれでいいけどな……」

 

店員の顔が引っ込んだかと思うと、少ししてデュエルディスクを二つ持って現れた。内ひとつをヤンキーに奪われると、もうひとつを俺に差し出してきた。

 

「壊したら弁償だぞ?」

 

柔和な笑みのちょび髭店員からディスクを受け取り、ヤンキーに続くように外へ出る。周囲には次第に人が集まり、あっという間に包囲網が完成した。

するとデッキをヤンキーに取られた少女が近づいてきた。

 

「あのデッキ、パパから貰ったカード、だけ……。私の、大切なカード、だから……勝ってください…!」

 

デュエルを終えた時の勝気そうな吊り目が、今は目尻がしおらしく下がってしまった少女が頭を下げた。俺は呆気に取られたがすぐに気をとりなおし、「任せろ」と一言告げてヤンキーと真っ向から向かい合う。そして『青眼』ーーではなく、腰に携帯している四つのデッキのうち左後ろの三番目のデッキを取り出しデュエルディスクにセットする。

ヤンキーもデッキをセット、ディスクを起動して準備は万端といった様子だ。

 

「俺に挑んだこと、後悔させたるぜ!」

「じゃあ俺は、『あの時大人しく返しておけば良かった』と後悔させてやろう」

「それじゃあこのデュエル、俺が見届けるからなぁ。勝っても負けても文句言うなよ?」

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 




もっと海馬節を効かせたかったです。(無力感

改めて書き直しておりますが、直した話は追記でお知らせしていきます。

せっかくのお正月なのに休めないとかどういうことなの…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。