遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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どうも、“破壊剣士の伴竜”に心打たれた私です。なにあの可愛い生き物、超モフりたいーーというか“バスター・ブレイダー”が強いですね。私の“レモン”デッキがカモられる未来しか見えません…。ま、やる相手がいないんですけどね‼︎


VS鮫島 後編 もうひとつの伝説

アカデミア内にあるひとつのデュエルフィールド。生徒達ギャラリーが緊迫した空気のなかで思わず息を忘れさえするこの状況は、ある種異様と言えるかもしれない。それもその筈、デュエルで盛り上がり歓声が湧くのならまだしもあまりにも信じられない光景に、皆の思考が追いついていないのだ。

それぞれの視線の先、この空間の中央に位置する場所ではアカデミアの校長ーー鮫島と、モンスターの数で圧倒する亀崎の姿があった。

 

 

鮫島 LP 4000

手札:4

モンスター:0

魔法・罠:1

 

賢司 LP 4000

手札:3

モンスター:3

魔法・罠:0

 

 

まだ互いに1ポイントもライフが削れていないこの状況下では“ブラック・マジシャン・ガール”、“ブラック・マジシャン”、そして“青眼の白龍”を展開する亀崎が圧倒的優位に立っており、対する鮫島は伏せてある“サイバー・シャドー・ガードナー”しか身を守る手段がない。しかし鮫島にとって幸いだったのは、“ブラック・マジシャン”と“青眼の白龍”が召喚されたのがバトルフェイズ後だった。もしその前に召喚されていたら、“サイバー・シャドー・ガードナー”を以ってしても攻撃を防げるのは内1体だけで、残った2体の直接攻撃で敗北を喫していただろうから。

「なぁ。あの“ブラック・マジシャン”って、俺達が知ってるヤツと違うよな…?」

「“ブラック・マジシャン”って言ったら『紫』ッスよね…」

 

ギャラリーに徹していた遊城十代と丸藤翔が、亀崎の場にいる“ブラック・マジシャン”を見て疑問の言葉を呟く。

それもそうだ。彼らだけでなく皆が知っている“ブラック・マジシャン”とは、決闘王・武藤遊戯が使役した紫を基調としたバージョンがほとんどである。かつての決闘街ではとあるデュエリストが紫ではなく赤を基調とした“ブラック・マジシャン”を使用していたが、そちらはあまり認知度が高くないのか見かけることも非常に少ない。

そして亀崎が召喚したのは、それらとはまた違う【紫】を基調としたカラーリングの“ブラック・マジシャン”である。赤のラインが施された服に金髪と若干緑がかった肌の彼を見るのは、おそらくギャラリーの彼らにとっては初めてのことだろう。

 

「あんな“ブラック・マジシャン”は、さすがの俺も見たことはないな…」

「彼は本当に、私達の知らないカードを沢山持っているのね」

 

三沢と明日香だけでなく、亮と雪乃、いなくなった万丈目を除いた取巻と慕谷もまた色違いの“ブラック・マジシャン”に釘付けとなっている。実際のところこのような絵違いのカードは希少性が高く、コレクターの間でも高値で取引される以外ではオークションでもなかなか出回らない一品であるとのことである。特にそれが曰く付きのカードであれば、コレクターも飛びつかずにはいられないだろう。

 

(なるほど……デュエル・タクティクスに関しては素晴らしいの一言に尽きる。上級モンスターを1ターンに二体も召喚、そして手札の補充も怠らず…。少なくともアカデミアの教師と遜色ない腕を持っているようだ)

 

それ故に惜しいーー先のターンでの亀崎の動きを見た鮫島は、胸中にその思いを忍ばせていた。確かに亀崎のデュエルは軽く見繕っても教師陣、最悪今現在もそばで見ているクロノス・デ・メディチでようやく立ち向かえるかというくらい展開が速く圧倒的である。これはデュエリストとしての亀崎のレベルが高いということを、鮫島は感じ取っていた。

しかしそれと同時に、亀崎のデュエルは容赦がない。まるで獲物を狩る獅子の如く、例え相手がどんなに弱かろうと最大限の力で叩くという印象を受けていたのだ。初めて亀崎と会った時もそう、僅かながらにアカデミアのオーナーたる海馬瀬人に近い雰囲気を醸し出していたのだ。

 

(だが彼がやっているのは高い攻撃力のモンスターを頼みに相手を圧倒するデュエル…。ただ力でねじ伏せるようなデュエルを、私は認める訳にはいかんーー!)

 

デュエルにおいて相手を尊重し最大限の力を引き出すことーーサイバー流の師範として門下生にそう教えてきた身の上、目の前のデュエルをただ認めることはできない。鮫島は自身の胸中に、サイバー流の理念を秘めて真っ向から亀崎を見据えた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

“ブラック・マジシャン・ガール”・“ブラック・マジシャン”の後ろ、“青眼の白龍”の下に立つ俺こと亀崎賢司は、ひとつの不満を募らせていた。それは鮫島校長から攻めの雰囲気を感じ取れないからである。鮫島校長のデッキは間違いなく【サイバー】デッキ、ならばビートダウンによる勝利を目指す筈。だがここまでの間相手の攻撃宣言を一度も聞いていないうえに、戦闘向きのモンスターも召喚されていないのだ。お決まりのリスペクトデュエルか、と心の中で呟くようにひとりごちたのち、俺は攻撃力二千以上のモンスターを複数体並べる手段をとった。仮に次のターンでモンスターを守りに回しても総攻撃で必ずライフは半分以上は削れる。このような不利な状況でもまだリスペクトと言っていられるのか……。

 

「亀崎君。君のデュエル・タクティクス、ひとりのデュエリストとして素直に驚嘆している」

 

突然鮫島校長から賛辞の言葉を送られる。俺はその言葉の続きに眉ひとつ動かさずに耳を傾けた。

 

「君のデュエリストとしてのレベルは私が想像していたところより高い場所に位置していた。君ほどのデュエリストをここに迎え入れられたことに関しては、実に喜ばしいことだ」

 

なんだか妙に褒めちぎってくる…。というか俺をしてレベルが高いとか、元いた世界にはもっとハイレベルなデュエリストなんかゴロゴロいるんだが……。若干の気味悪さを覚え改めて自分のレベルの程度を再認識していると、鮫島校長の口から俺へと問いかけの言葉を投げかけてきた。

 

「だがそれと同時に、君のそのデュエルに対する態度が私には非常に残念だとも思っている。君ほどのデュエリストが攻撃力の高いモンスターを展開し、ただ相手を打ちのめす。そんなデュエルをしているのを見ていて私は悲しくなるのだ」

 

なんかいきなり生徒に向けるように諭し始めたぞ……って、一応は俺もここの生徒として扱われているのか。いや、それを抜きにしてもどう返せばいいのか困るんだがなぁこれ…。そんな眉を潜める俺をそっちのけで、鮫島校長はさらに語り続けてくる。

 

「だからこそ、せめてこのデュエルで君にはリスペクト・デュエルを是非とも知ってほしいのです。相手の人となりを知り、相手の全力を受け止め、そして相手に最大の賛辞を送る……その形こそが私の信じるデュエルの在るべき姿。ただ相手を屈させるだけのデュエルを、私は許す訳にはいきませんーー!」

 

静かに、そして確かな意志のもと鮫島校長の口からついた言葉。それを聞いたからなのか生徒達は誰ひとり言葉を発することなく、一部ブルーの生徒が若干気まずそうにしている。プロとして名を馳せた男の言葉は彼らの耳にそれほど重く響いたのか、しばしの間沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

「……それだけですか?」

 

やがてはぁ、と小さい溜息を吐いた当事者である俺は気分一転ーー自分の中で何かが冷めるのを感じながら、鮫島校長を見やる。

 

「なに…?」

「言いたいことはそれだけですか、って聞いてるんです」

 

今の返答が予想外だったのか鮫島校長は一瞬驚いたが、すぐに眉間に皺を寄せた。

 

「確かに貴方の言うリスペクト・デュエルは素晴らしいとは思います。相手を尊重し死力を尽くして闘い、互いの理解を深め合う……なるほど、それを通せばデュエルを通してより深い繋がりができる訳だ」

「…っ、そこまで分かっているのならーー!」

「だがそれは必ずしもデュエルに必要だと言えるものか?その相手が本当にリスペクトするべき人物なのか、そもそもリスペクトに理解すら示してもらえない人間だったならどうする?」

「例え相手がどのような人間であろうと、リスペクトの信念を放棄していい理由にはなりません…!」

「ならばそのリスペクトしようとする人間がその意味を履き違えていたらどうするつもりだ?奴らによる被害も、今はそう少なくないんじゃないのか?」

「くっ…!」

 

ぐうの音もでないか……どうやら鮫島校長は、【アンチサイバー流】の存在を懸念してはいたみたいだな。自らが培った理念で相手に憎しみを与えてしまうなど本末転倒もいいところだ。

 

「とりあえずデュエルを続けましょうか。貴方の言うリスペクト・デュエルで貴方がここからどう動くのか、この目で見せてもらいましょう」

 

なにやら亮の目つきが厳しくなってきているので話はこれまで、本来の目的であるデュエルを進めるとする。鮫島校長も渋々ながらもそれに応じ、デッキに指を添えた。さて、果たしてこの状況をひっくり返せるか?

 

◇◆◇◆◇◆

 

デッキの一番上のカードに指を添えながら私ーー鮫島は今一度、伝説と名高い二人の魔術師と一体のドラゴンに囲まれた彼を見た。自分を見据えているその目は並のデュエリストにはできないような深く鋭い眼光を放っている。あのような目をするデュエリストは、プロの世界でもそうは見ない。長くデュエルモンスターズに触れ、カードの知識を多く蓄えた者が相手の出すカードから戦術を読み取り、幾重もの展開を予想した上でいかにそれを突破するかーーそのような猛者とも言える眼力を彼の目から直に感じるのだ。

 

(彼が私と闘うことにまで考えが及ばなかったのはデュエルが始まる前に分かっていた。だが実際にこうして相対して初めて分かることもあった……。それは、彼がデュエルにおいて一切の容赦をしないこと…!)

 

例え相手がどんなに弱かろうと己のデッキの全てを持ってしとめる、まさに弱肉強食の世界を生きる獣ーーもといドラゴン…。隙を見せればたちまち攻め込まれ逆に食い尽くされる、彼が言っていた『環境』とはそれほどまでに厳しい世界だったのだろう。

 

(このデュエル……一瞬でも油断すれば食われるのは私だという覚悟で臨まねば!)

 

今の自分はさしあたり自らドラゴンの前に躍り出た餌かーーそれとも目の前のドラゴンと死闘を演じる戦士か。このデュエルの最後に示される答えを知る為、私はカードを引くーー!

 

「私のターン、ドロー!私は手札から“サイバー・サポーター”を特殊召喚‼︎」

 

サイバー・サポーター

ATK/0

 

球体の全身が銀色一色のモンスターが私の場に現れる。このカード自身は戦闘面では心許ないが、私のデッキではその効果を充分に発揮する!

 

「“サイバー・サポーター”は自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できるモンスター。そして私は“サイバー・サポーター”を生贄に捧げ、“サイバー・オーガ”を召喚する‼︎」

 

“サイバー・サポーター”が生贄となって消えた場所に今度は鬼を模した二足歩行のサイバー・モンスターが姿を現した。

 

サイバー・オーガ

ATK/1900

 

「“サイバー・サポーター”が“サイバー”と名のつくモンスター召喚の生贄となった時、デッキからカードを一枚ドローできる!私は“サイバー・オーガ”で、“ブラック・マジシャン・ガール”を攻撃‼︎」

 

「“ブラック・マジシャン・ガール”の攻撃力は二千…!“サイバー・オーガ”の攻撃力では“ブラック・マジシャン・ガール”には及ばない…‼︎」

 

どうやらイエローの三沢君が私の攻撃を理解できないみたいだが、この私もちゃんと策は用意してあるんですよ…!

 

「私は手札から“サイバー・オーガ”の効果を発動!“サイバー・オーガ”の戦闘を無効にし、その攻撃力を次のバトルまで二千ポイントアップさせる‼︎」

 

サイバー・オーガ

ATK/1900 → 3900

 

「攻撃力三千九百…“青眼”の攻撃力を上回ったわね」

「ーー」

 

攻撃力三千九百ーーまずモンスター同士の戦闘では、ほぼ負けることのない数値。先のデュエルで伝説のデュエリストである迷宮兄弟が使用した“ゲート・ガーディアン”や“ダーク・ガーディアン”の攻撃力をさらに上回る攻撃力ではあるが、それでも油断ならないのが『彼』だ。『彼』ならばこの程度、いとも簡単に食い破ってしまうかもしれない。

 

「私はこれでターンエンドです」

「俺のターン、ドロー」

 

さぁ、いったいどんな手で来る…?魔法か、はたまた罠か、それともモンスター効果かーー。

 

「リバースカードを一枚伏せて、“ブラック・マジシャン・ガール”と“ブラック・マジシャン”を守備表示に変更。ターンエンド」

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK/2000 → DEF/1700

 

ブラック・マジシャン

ATK/2500 → DEF/2100

 

伏せカード一枚と“青眼の白龍”以外を守備に変更……。攻撃に反応する罠ーー“ミラーフォース”等を張り、こちらを誘っているように見えるが………彼が本当にそんな分かりやすい罠で迎え撃つだろうか?攻撃力の低いモンスターを囮にするならまだしも、一番高いモンスターを選んだことも気になるが…。

 

 

鮫島 LP 4000

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:1

 

賢司 LP 4000

手札:3

モンスター:3

魔法・罠:1

 

 

「私のターン、ドロー!“サイバー・オーガ”で“青眼の白龍”を攻撃‼︎」

 

ならばここは罠と分かりつつも攻め込むしかないーー!事実、モンスターの数で劣る現状でターンを消費すれば彼に余裕をみすみす与えてしまう。だったら倒せる内にモンスターを減らして行かねば……!

 

「罠発動!“マジカルシルクハット”‼︎」

「なにっ…⁉︎」

 

“サイバー・オーガ”が向かう先にいた“青眼の白龍”が、突如現れた『?』をあしらったシルクハットにすっぽりと隠れてしまった…!さらには全く同じ形のシルクハットがふたつ、目にも止まらぬ速さでシャッフルされるとそれら合計三つが魔術師二人を間に置いて鎮座する。

 

「“青眼”が隠れちゃった…!」

 

「“青眼”は三つのシルクハットのどれかに隠れました。三つのうち一つ“青眼”が守備表示で、あとのふたつはデッキから選んだ魔法か罠が守備力ゼロのモンスターとして仕込まれています」

「“青眼”に当たる確率は三分の一……外せばこのターンの攻撃は無意味になる、ということですか…」

 

全くの予想外だ…。“マジカルシルクハット”は決闘王が使っていた曰く付きのカードだが、I2社の手が加わったことで若干使いずらい効果に変わり多くの不満を受けた過去がある。純粋にモンスターを守るなら他の防御カードで事足りるこの環境においては、やや珍しいとも言えるだろう。

彼の場にはモンスターが合計五体ーー魔術師二人とシルクハット。このターン、既に攻撃宣言した“サイバー・オーガ”は攻撃を続行するしないに関わらず攻撃力が元に戻る。もしこの攻撃を外せば、次のターンにいずれかのモンスターで伏せている“サイバー・シャドー・ガードナー”と相打ちをさせ、残った二体で直接攻撃を仕掛けてくるのは必至。ならばーー‼︎

 

「普段ならば敢えて渦中に飛び込んでみせるところですが、今回はそうも言っていられません。すまないが安全策を取らせてもらう…!“サイバー・オーガ”、“ブラック・マジシャン”を攻撃‼︎」

 

シルクハットから“ブラック・マジシャン”へと向き直る“サイバー・オーガ”。微動だにしない標的に対し振り下ろされるスレッジハンマーが、魔術師を叩き潰した衝撃で爆発が広がる。

 

「“ブラック・マジシャン”が墓地にある時、“ブラック・マジシャン・ガール”の攻撃力は三百ポイントアップする」

「こちらの“サイバー・オーガ”も、攻撃力が元に戻ります」

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK/2000 → 2300

 

サイバー・オーガ

ATK/3900 → 1900

 

そしてバトルフェイズが終了したことで、“マジカルシルクハット”によってセットされた囮もふたつとも破壊された。消えた中央のシルクハットがあった場所にはセットされたモンスターの表示がーー場所は変わっていなかったのか。

 

「この瞬間、罠発動!」

「っ、なに…⁉︎」

 

亀崎君の声の後、フィールドの真ん中にひとつの棺が重苦しそうにその姿を現した。それを見た私は、彼の罠発動の宣言に驚きを隠せなかった…!彼の場に伏せらていた罠は発動し、たった今墓地に送られた筈だ!それ以外に罠を伏せてなどーー!

 

「“呪われた棺”……その効果は、相手にふたつの効果のうちひとつを選ばせその効果を発揮する。鮫島校長、貴方の手札一枚をランダムに捨てさせるか、貴方の場のモンスターを一体破壊するか、そのどちらかをね」

 

自分の手札またはモンスターの破壊を迫る罠…!なるほど、そのようなカードとコンボさせてくるとは…!

 

「“呪われた棺”はセットされた状態で破壊されなければ発動できない、“黄金の邪神像”と同じタイプの罠カード…」

「“マジカルシルクハット”による破壊を利用したコンボね」

 

亮と藤原君が感心しているなか、私は徐々に追い詰められていることに少しばかりの焦りを感じずにはいられなかった。

 

「私は、手札を捨てる効果を選択します…」

「では手札一枚を捨ててもらいましょう」

 

棺から伸びた一本の腕が私の手札を一枚選び墓地へと送ってしまった。消えてゆく棺を苦々しく見守っている私の手札は三枚、この手札で今できる最善の手を打たねばーー。

 

「手札から“死者転生”を発動!手札を一枚捨てて墓地の“サイバー・オーガ”を手札に加え、ターンエンドです」

 

◇◆◇◆◇◆

 

「俺のターン、ドロー」

 

ここまでの攻防で互いのライフは減らず、ただカードだけが消費されてゆく。そうなれば重要となるのは、少ない手札で如何に相手の守りを切り崩すかにかかる。鮫島校長が先ほど“サイバー・オーガ”を回収したのも、こちらの攻撃を無効にしたのち返しのターンで反撃に出る為だろう。

だがそんな手は何度も通用しないーー‼︎

 

「手札から魔法カード“滅びの爆裂疾風弾”を発動‼︎自分フィールド上に“青眼の白龍”が存在する時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する‼︎」

「くっ…!」

 

“青眼”の強力なブレスが鮫島校長のフィールドを容赦なく襲い、エネルギーの奔流を受けた“サイバー・オーガ”は呻き声をあげながら跡形もなく破壊された。

 

「このカードを発動したターンに“青眼”は攻撃できない。しかし俺の場にはまだ“ブラック・マジシャン・ガール”が残っている!“ブラック・マジシャン・ガール”を攻撃表示に変更‼︎」

 

ブラック・マジシャン・ガール

DEF/1700 → ATK/2300

 

「バトルフェイズに入る前に罠カード“サイバー・シャドー・ガードナー”を発動!このカードは発動後にモンスターカードとなり、戦闘を行う相手モンスターと同じ攻撃力・守備力となる!これで君の攻撃が私に届くことはない…!」

「速攻魔法“サイクロン”を発動!その効果により、“サイバー・シャドー・ガードナー”を破壊‼︎」

 

フィールドに発生した竜巻が鮫島校長の“サイバー・シャドー・ガードナー”を穿ち破壊する。あの手のカードは発動後も罠カードとして扱うから“サイクロン”や大嵐”で破壊することもできるのだ。

 

「“ブラック・マジシャン・ガール”で直接攻撃‼︎黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)‼︎」

『お師匠様に似た人の仇ッ‼︎』

「ぐっ、おおぉぉぉ……‼︎」

 

鮫島 LP 4000 → 1700

 

ようやくダメージが通ったか。鮫島校長の場にカードはなく、二枚ある手札のうち一枚は“サイバー・オーガ”と判明している今、この状況をひっくり返すには厳しいだろうが…。【サイバー】デッキは最悪たった二枚で切り札級のモンスターを出してきたりするのも珍しくない。いずれにしても次のドロー次第ということか。

 

 

鮫島 LP 1700

手札:2

モンスター:0

魔法・罠:0

 

賢司 LP 4000

手札:2

モンスター:2

魔法・罠:0

 

 

「どうですか鮫島校長。少しは本気を出す気になりましたか?」

 

身じろぎする鮫島校長にやや見下すようにそう問いかける。鮫島校長はライフを大きく削られたにも関わらず、その目力は全く衰えることなく睨みつけてくる。

 

「…私は最初から本気です。手を抜いて相手をしようなど、その相手に失礼極まりません…」

「そうですか。しかし本気を出してこれとは、どうやらリスペクト・デュエルというのも思っていたほど大したものではなかったみたいで…」

 

「楽しみにしていたのに残念だ」とさらに付け加えて言葉を区切る。やはり自身の信念を侮辱されたのが許せないのか鮫島校長がより強くこちらを睨みつけてくると、涼しい顔で受け流している俺に訴えかけるように再び語りかけてきた。

 

「何故だ…いったい何が君にそのようなデュエルをさせているのだ…!君が召喚するモンスター達は皆、君を信頼しているように私には見える。だが肝心の亀崎君は相手を倒すことに注力しすぎているようにしか見えない…!今のような圧倒的な力で相手を降すデュエルなどそれはもはやデュエルではない、ただの蹂躙だ…!」

 

何を言いだすかと思えば……本っ当、どこまで甘いんだか。これまでならそのやり方で良かったかもしれないが、I2社のペガサスが俺の所有するこの時代にないカードの製造を始めた以上、この先のデュエルが多少なりともスピードアップするのは目に見えている。そうなればもうリスペクト・デュエルなんて言ってる余裕などない、『殺るか殺られるか』の世界へと変貌するだろう。そんなことになっても彼らはリスペクトを捨てないと言い切れるのだろうか……言い切るだろうな。

 

「別におかしなことではないでしょう。モンスター同士の戦闘においてより攻撃力が高いモンスターを採用するのは分かりきっていること。もっとも、攻撃力だけでそのモンスターの全てが決まる訳ではないですがね」

「ッ…」

「それに自分が元いた場所では、リスペクトなどという生温いことをしようとする奴はどこにもいなかった。誰もが自分の組み上げたデッキで相手に勝とうと躍起になり、時には手札とデッキの破壊やモンスターの動きを封じるカードを使ってくる奴も多くいた。勝利こそが全てのその環境では、リスペクト精神など何の役にも立たないってことだ」

 

あの世界でデュエルを楽しめるのは見知った人物を相手にした時のみ。それ以外はただ勝つ為に死力を尽くすだけで、相手のことな知ろうともしない……いや、知る必要もなかった。誰だって負ければ悔しいもので、負けたくないから相手を全力で叩き伏せるーーそれの何が悪い?隙を見せれば自分が痛い目を見るというのに。

ギリッ、と顔をしかめる亮と今にも食ってかかりそうな翔のイメージがちらついたが気にする必要もない。

 

「さぁそちらのターンですよ。なんなら、そのリスペクト精神でこの状況を覆してみせてください。鮫島校長の実力はこんなものじゃないでしょう?」

 

嫌味ったらしく薄く笑いながらターンを譲る。まだ“サイバー・オーガ・2”も“サイバー・エンド・ドラゴン”も出ることなく終わるんじゃ、肩透かしもいいところだ。圧倒的な瞬発的火力を叩き出す代表とも言えるカテゴリの真骨頂、是非とも見せて欲しいものだ…!

 

「私のターン、ドロー!私は“強欲な壺”を発動!その効果でカードを二枚ドローする!」

 

“強欲な壺”により引いた二枚を見た鮫島校長が、一瞬目を見開いたように見えた。余程良いカードを引き当てたのか、それとも無念を噛み締めずにいられなかったかーー。

 

「ーー亀崎君。確かに君の言う通り、リスペクトの精神を必要としないデュエルが、この世界のどこかにあるのかもしれない。リスペクト精神を持たずに強くなることも、できるのかもしれない」

 

だがーーと続ける鮫島校長のその目には、強敵に対し諦めず立ち向かおうとする確たる意志が感じられた。やはり、彼はどんなことがあろうと、その信念を崩すことはないらしい。

 

「リスペクトとはただ形だけのものに非ず。互いの絆を深め合い、人としての成長を試みる。そしてそのデュエルを通じて人々が繋がり、一人では決して得られない『何か』を皆が得られれば…と、私はその想いでサイバー流を立ち上げた…!何も無理にリスペクト精神を持てとは言いません、しかしーーそれでも私は、相手を踏みにじるようなデュエルを見過ごす訳にはいかないのです‼︎」

「鮫島校長…!」

「校長先生、カッコイイっす…」

 

何ともご立派な自分語りだ。一部の生徒や教師が胸を打たれているなか、俺はというと熱しもせず冷めもせず心に何も響くことなく鼻をふん、と鳴らすだけだ。

 

「私は永続魔法“未来融合ーフューチャー・フュージョンー”を発動‼︎」

「“未来融合”…っ⁉︎」

「このカードは融合モンスターの素材となるモンスターをデッキから墓地に送ることで、二ターン後の私のスタンバイフェイズにその融合モンスターを特殊召喚することができる‼︎私はデッキより、三体の“サイバー・ドラゴン”を墓地へ送る‼︎」

「“サイバー・ドラゴン”を三体…ってことは…!」

「『帝王』と同じ“サイバー・エンド”を召喚するのか‼︎」

 

ここで“サイバー・エンド・ドラゴン”を呼び出そうとしてくるか…!だが召喚されるのは二ターン後とタイムラグがある。それまでこっちの攻撃を耐え切るつもりか…⁉︎

 

「さらに魔法カード“サイバネティック・フュージョン・サポート”を発動!ライフ半分をコストに、私が機械族融合モンスターの融合召喚を行う際に一度だけ、手札と場だけでなく墓地のモンスターも融合素材とすることができる‼︎そして私は“融合”を発動し墓地の“サイバー・ドラゴン”三体を融合ーー“サイバー・エンド・ドラゴン”を召喚ッ‼︎」

 

鮫島 LP 1700 → 850

 

サイバー・エンド・ドラゴン

ATK/4000

 

たった三枚のカードで攻撃力四千の大物を呼び出した鮫島校長。この三つ首の機械竜こそが【サイバー流】の象徴とするカードであり、また免許皆伝の証。強大な力をただ振るうだけではなく、振るうべき時と相手を見定め己を律することを自らに戒めるカードーーみたいな扱いだったような気がする。

そんな機械竜が唸りながら見下ろしている様を見て、俺は見慣れた状況を前に僅かばかり口角を吊り上げた。

 

「“サイバー・エンド・ドラゴン”で“ブラック・マジシャン・ガール”を攻撃‼︎エターナル・エヴォリューション・バースト‼︎」

 

賢司 LP 4000 → 2300

 

機械竜の三つの口からエネルギー波が放出され、標的となった“ブラック・マジシャン・ガール”は散っていった。攻撃力四千の衝撃はソリッド・ビジョンとはいえ、人体に影響のない範囲で体感される仕様上でもつい身構えてしまう。

 

「フーーククッ、やはりデュエルはこうでないとな…」

 

ようやっとこのデュエルで、デュエルらしい様相を見せ始めたーー鮫島校長のターンエンドを聞いた俺は、無意識に口角を吊り上げながらそう呟いた。

様子見ならばまだ構わないがこちらが全力を引き出すまで待つ、または手加減するなど所詮ただの自己満足だ。同じ自己満足ならば容赦なく潰された方がまだマシというものだ。

 

「これこそが我がサイバー流の化身たるモンスター。この“サイバー・エンド・ドラゴン”の前では如何に伝説のドラゴンといえど、その攻撃を防ぐことはできません。そして“サイバー・エンド・ドラゴン”は、守備モンスターを攻撃した時に攻撃力がその守備力を超えていれば貫通ダメージを与える効果を持っています」

「……」

「例えモンスターで守りを固めようと、君のライフは着実に減っていく。この“サイバー・エンド”を超えるモンスターを召喚しない限り…!」

 

親切極まりない説明をひと通り聞いた俺は、今一度自分の手札二枚を確認する。手札には“融合”と“黒魔術のカーテン”の魔法カード、うち即戦力となるのは“融合”のみで召喚権を失う“黒魔術のカーテン”は状況を鑑みても使うことはできないその事実に、今度はこっちがドローカード次第であることを認識せざるを得なかった。

ふと周りが気になり視界を巡らせると、皆がこのデュエルの結末を息を呑んで見守っていた。制裁デュエルらしからぬ激しい攻撃のぶつかり合いがこの空気を生み出し、極度の緊張感を等しく全ての者に与えているようだ。要は皆が似たような緊張の面持ちでいる、ってことだ。取巻だけは『負けろ』というオーラ全開の表情で凄い目力を向けてきているが。…やれやれ、こっちまで緊張してきたぞ。

 

「俺のターン、ドロー‼︎」

 

このドローカードが明暗を分けるーーそう思いながら引いたカードを見た俺は、このデュエルの決着を悟った。

 

「鮫島校長。貴方の本気、確かに見せてもらいました。そして最後にこのデュエルを楽しませてくれたことを感謝すると同時に、リスペクト精神を嗤ったことを謝罪します」

「な、なんだねいきなり。私は別に謝ってほしいと思ってなど…」

 

真っ直ぐに鮫島校長を見据える俺に本人は戸惑った様子で返してくる。

 

「最後に強大な壁が立ち塞がりそれを倒せるかという緊張感……永らく忘れていたこの気持ちを思い出させてくれた校長に感謝している、ってことですよ。嗤ったことについては、ああでもしないと本気で攻めてくれなさそうだったもので。俺自身、リスペクト・デュエルに関しては反対という訳ではありません」

 

ただちょっと押しつけっぽく感じますが、と付け足した後も目を点にしていた鮫島校長。呆気に取られている彼をよそに、俺はさらに喋り続けた。

 

「鮫島校長が全力を出したのなら、それを超える為にこちらも更なる力を引き出すとしましょう。“サイバー・エンド・ドラゴン”を倒すに足るモンスターを…!」

「ッ…!まさか“究極竜”を…⁉︎」

 

“究極竜”召喚を懸念する校長だが残念ながら今回“究極竜”は召喚しない、というより手札からしてできない。ここらで“サイバー・エンド”を倒せるモンスターは“究極竜”だけではないということを教えるとしよう。

 

「魔法カード“死者蘇生”を発動!墓地より“ブラック・マジシャン”を復活させる‼︎」

 

ブラック・マジシャン

ATK/2500

 

「さらに“融合”を発動!“青眼の白龍”と“ブラック・マジシャン”、この二体を融合させる‼︎伝説の白き龍よ!伝説の黒き魔術師よ!その身に宿す力をひとつとし、ここに奇跡の力を呼び起こさん‼︎融合召喚ッ‼︎出でよ“呪符竜(アミュレット・ドラゴン)”‼︎」

 

呪符竜

ATK/2900

 

伝説の龍と伝説の魔術師の融合ーー全身に魔術文字が浮かぶ“青眼の白龍”と、それに乗る“ブラック・マジシャン”の姿に鮫島校長を含むこの場にいるほぼ全員が唖然としている。何せこのモンスターはおそらく世間にあまり知られていないであろうとある事件の際に召喚されたモンスター、知っているのは極一部の者だけだろう。

 

「“呪符竜”の効果発動!“呪符竜”が召喚された時、互いの墓地の魔法カードをゲームから除外することでその枚数×百ポイント攻撃力をアップする‼︎この効果で俺は互いの墓地にある魔法カード、合計十一枚を除外‼︎」

 

鮫島校長と俺のデュエルディスクそれぞれの墓地から合計十一の光が“呪符竜”へと取り込まれ、全てを取り込んだ“呪符竜”の攻撃力は“サイバー・エンド・ドラゴン”と互角の数値を叩き出す。

 

呪符竜

ATK/2900 → 4000

 

「バトル!“呪符竜”で“サイバー・エンド・ドラゴン”を攻撃‼︎マジック・ディストーション‼︎」

 

“ブラック・マジシャン”の魔力が“青眼”のブレスへと加わり、迎撃する“サイバー・エンド・ドラゴン”の攻撃と撃ち合う。攻撃力四千同士の攻撃による衝撃が地面を揺らし暴風を生み出し、やがてデュエルフィールドを覆うほどの大爆発を引き起こした。

 

「く…っ!まさか“サイバー・エンド”との相打ちに持ち込むとは…。だがこれで亀崎さんもモンスターを失い、次のターンの攻撃を防ぐ手立てはーー‼︎」

 

煙幕が晴れた俺の場を見て、亮が言葉を詰まらせた。何故なら俺の場に、再度墓地に送られた筈の“ブラック・マジシャン”が復活していたからだ。

 

「“呪符竜”は破壊された時、墓地の魔法使い族モンスターを一体特殊召喚する効果がある。その効果で“ブラック・マジシャン”を復活させた訳です」

 

ブラック・マジシャン

ATK/2500

 

“ブラック・マジシャン”の復活に鮫島校長は己の敗北を悟ったのか、静かに目を瞑った。抵抗の術を持たないという意思表示を見て、俺は最後の攻撃を宣言する。

 

「“ブラック・マジシャン”、プレイヤーに直接攻撃‼︎黒・魔・導(ブラック・マジック)‼︎」

 

鮫島 LP 850 → 0

 

 

鮫島校長の敗北ーー。アカデミアの長たる彼の姿は決して無様なものではなかった。己の信じる道を貫き闘い抜いた彼に歩み寄って行くと、鮫島校長は閉じていた目を開いた。

 

「…君の勝ちだ。約束通りアカデミアからの追放は取り止めることにしよう」

 

闘いを制したことでアカデミアへの残留を告げる鮫島校長の声はどこか落ち込み気味に聞こえた。生徒や流派の人間の前で負けたのが堪えたのだろうか、そんな彼に向けて俺は右手を差し出したーー「デュエルの相手を務めてくれてありがとうございます」と付け加えて。

鮫島校長は一瞬呆気に取られていたが何かを感じ取ってくれたのか、笑いながら同じく右手を差し出し握手に応じた。

 

「振り返ってみるととてつもないデュエルだったけど、終わってみるとあの人もひとりのデュエリストだったってことよね」

「デュエリストとして強い相手と闘いたいと思うのは当然のこと。彼もまた鮫島校長というデュエリストと闘うことに、少なからず喜びを見出そうとしていたのかもしれないな」

「じゃあリスペクト・デュエルを見下すようなことを言ってたのも、校長先生に本気を出させようとしてワザと言ってたってこと…?」

「強いヤツとデュエルしたいってのは俺も同じだ!亀崎さんもここに残るのが決まったし、近いうちに絶対デュエルするぜ‼︎」

 

意気揚々とする十代の隣、翔は複雑な表情を見せていた。自分の憧れであるリスペクト・デュエルを見下していた時が本性なのか、それとも今笑顔で握手している姿が本当なのか。本人の心を読める訳ではないのでそう思っているのか、と憶測を立てることしかできないのであまり突っ込むことは止めておいた方がいいだろう。

 

「しかし追放は取り消しになっても、廃寮に入った罰は受けて貰わねばならない。それは分かっているね?本来なら十代君達と同じような内容にするところなのだが……クロノス君」

「分かりましたーノ。シニョール取巻!デュエルフィールドまで来るノーネ!」

 

クロノスが呼んだのは以前にアンティルールを持ち込んできたブルー生徒だった。取巻は普段の高圧的な雰囲気はどこへやら、萎縮した様子でデュエルフィールド上の鮫島校長の前までやって来た。

 

「さて、彼を呼んだのには理由があってね。少し前に君達二人は、利用時間外にデュエルフィールドでデュエルをしていたね?私がこの目で見ていたよ」

「しかもシニョール取巻によれ〜バ、カードを賭けたアンティルールだったノーネ」

 

…なるほど、取巻の様子がおかしいのはその件が校長にバレたからだったのか。しかし鮫島校長がそれを知っていたとなれば、取巻はともかく俺は校則を二重に破ったことになる。予想以上に言い逃れできない悪い展開に内心冷や汗が止まらないなか、鮫島校長はさらに続ける。

 

「私としては生徒を無闇に退学させたくないという気持ちはありますが、規則は規則です。そこで、君達に受けてもらう罰を考えてみた結果ーー」

 

鮫島校長の口から告げられた罰……その内容に俺は思わず言葉を失った。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「くそーーっ、この俺が、こんなことをしなきゃならないなんて…っ‼︎」

「文句言う暇があるなら体動かせよー」

 

制裁デュエルから数日後、アカデミアのとある教室で取巻と亀崎の姿があった。その二人の両手には一本のモップが握られており、二人して床を磨いているーー言わば掃除をしているのだ。

 

「問題起こして罰として掃除言いつけられるとか、学校じゃお決まりみたいなモンじゃないか。これもイベントだと思って、さっさと終わらせようぜ?」

「こんな屈辱的なイベント、誰が喜ぶって言うんだ…!」

 

屈辱で顔を歪ませ愚痴を言っていた取巻が手を止めて恨めしそうに呟く。すると、教室の入り口で監督していたクロノスの叱責が飛んできた。

 

「シニョール取巻ッ‼︎シニョール亀崎ッ‼︎さっさとここの掃除を終わらせるーノ!まだまだ綺麗にする場所は沢山あるノーネ‼︎」

 

クロノスが言っている内容、それこそが二人に課せられた罰ーー『アカデミア内の清掃』である。学業を疎かにできないという理由で早朝と放課後に行っているのだが、通常の学校よりも内部面積が広い為に数日かけての作業となっている。

ちなみに同じく制裁デュエルを受けた十代と翔にはデュエル理論に関するレポート三十枚の提出が課せられていたが、今も悪戦苦闘しているのを明日香が見ていたのだとか。

制裁デュエルの結果としてはこのような形になりはしたもののアカデミアに残ることができた亀崎は、ひとつの山を乗り越えて再び学園生活を堪能する。この一件で自分を見る周りの目は多少変わっていることも踏まえて、どのように過ごして行くのか……それは亀崎の気の向くままと言えるだろう。

 

「ムムッ、シニョール亀崎ッ‼︎ここのモップがけが甘いノーネ‼︎もっとしっかりやるノーネ‼︎」

「はいはい、っと…」

「『はい』は一回、そして元気よくナノーネ‼︎」

 

…とりあえず目下、この掃除をさっさと終わらせるべきと判断した亀崎は一層掃除に力を注いでいった。その後、アカデミア内の清掃場所全てを掃除し終えたのは制裁デュエルを終えた翌日からしばらく後の夕暮れ時だったーー。

 




以上、鮫島とのデュエルでした。以下は今話におけるボツ案みたいなものです。

・強化された“サイバー・オーガ”に魔法の筒”をぶち込んで鮫島のオリジナル速攻魔法“サイバー・パリィ”の効果でダメージ0。
・“滅びの爆裂疾風弾”使用後に“黒魔術の儀式”を使い“マジシャン・オブ・ブラックカオス”を、“死者蘇生”で“ブラマジ”を復活させて魔術師三人を揃える。
・“究極竜騎士”の召喚。
・そもそも使うのが“青眼”ではなく【サイバー】デッキだった。

とにかく展開に悩みはしましたが、最後は遊戯王らしくできたかなと思っています。いやまぁ付け焼き刃なんですけどね(汗)。
次回からは原作の流れを踏まえつつ何かしらオリジナルの話を作れたらいいな、と考えています。どうぞよろしくお願いします。

今回のオリジナルカード

サイバー・サポーター
星1 光属性 機械族 ATK/0 DEF/0

自分フィールド上にモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる。この効果を発動するターン、自分は機械族以外のモンスターを召喚・特殊召喚できない。このカードが機械族モンスターの生贄召喚の為に墓地へ送られた場合、デッキからカードを1枚ドローすることができる。
イラストではどこかのメンテナンススペースを背景に、人間の作業員に紛れて“サイバー・ドラゴン”のメンテナンスを補助している銀の球体の姿が描かれている。


サイバー・パリィ 速攻魔法
自分フィールド上に“サイバー”と名のつくモンスターが存在している時に発動できる。相手がコントロールするカードによって自分が効果ダメージを受ける場合、そのダメージを1度だけ0にする。
イラストでは“サイバー・オーガ”が青い閃光を傍に弾いている様子が描かれている。

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