それはそうと最近過去のリメイクカードが増える傾向にありますね。今度は“バスター・ブレイダー”みたいですが、その次は何がくるのか楽しみです。
星々が輝いていた黒天が徐々に白みを帯びてゆく。やがて海の彼方から顔を覗かせた太陽は、その眩しいばかりの光でデュエルアカデミアを照らし出した。
アカデミアにおけるオベリスク・ブルー寮の一室に差し込んだ光がデュエルモンスターズが散らばるテーブルに突っ伏した主を映し出すと、同時にさえずる鳥達の鳴き声を聞いた男がゆっくりと顔を上げた後に外へと視線を向けた。
「ーーいつの間にか寝てた……」
ボソリ、と眠たげに呟いた男ーー亀崎賢司は頭を掻いて目の前の散らかったテーブルに視線を戻した。睡眠そっちのけで制裁デュエルに向けてテストデュエルを繰り返していた結果、途中で眠りこけたらしい。
「俺としたことが…らしくねぇなぁ……」
散らばったカードを片付けつつボヤく一方で、余裕で徹夜を繰り返していた昔を亀崎は懐かしんだ。思えばあの頃から随分歳を取ってしまったと、それこそ若くない思考に耽っていながら整えたカードをジュラルミンケースにコトン、と戻す。するとそれがスイッチであるかのように、亀崎の思考は一変する。
(いよいよ今日か…。このデュエルに勝てるかどうかで、俺のこの先の行く末も変わる…)
海馬瀬人から与えられたアカデミア生徒のレベルアップーー生徒全般の向上意欲を引き上げるという大任を任された身だが、正直なところそれを全うできているかと聞かれれば頷くことはできない。だが(半ば強引に)任された以上途中で辞めるのも癪である。失望されるなり罵詈雑言浴びせられるなり、最後までやってからならいくらでも受けてやる、と。
『そのように覚悟を決めるのはいいんですけど……。マスターって結構打たれ弱いから、実際にそうなったら二度と立ち直れなさそうですよね?』
普段の明るい風とは違う心配をするようにそう告げたのは、デュエルモンスターズのなかでも抜群の知名度を誇る魔法使いーー“ブラック・マジシャン・ガール”だった。
『適度な緊張感を持つのはいいことですが、あまり気負わないようにしてください。例えどのような結果になろうと、私達はマスターについて行きますから』
続いて励ましてくれたのは、亀崎がこの世界に来てから初めて知覚した精霊ーー“青き眼の乙女”。“ブラック・マジシャン・ガール”とは対照的に柔らかな口調で優しい笑顔を向けてくる。
「ああ。お前達がいてくれるなら怖いものはないな。今日のデュエルは絶対に負ける訳にはいかない……二人とも、よろしく頼むぞ」
『はい!』
『任せてください!マスターの敵は、私の魔法でドドーンと薙ぎ払ってみせます♪』
ただ短く、しかしそれに力強さを感じる無駄のない一言と、自前の杖を振るいアイドルのようにポーズを決めながらの決め台詞を聞いた亀崎は、心の内でこの上ないほどに頼もしく感じた。それは目の前の二人が海馬瀬人と決闘王ーー武藤遊戯に関わる強い存在だからではない。
『今』の相棒と『かつて』の相棒、信を置く彼女らと共に今日を乗り越える意気込みを胸に、亀崎は決戦のデュエルフィールドへと向かった。
◇◆◇◆◇◆
日常において授業が始まる時間帯、アカデミアが内包するデュエルフィールドではレッド、イエロー、ブルーの生徒達がまばらながらに集まっていた。彼らは遊城十代、丸藤翔、亀崎賢司の制裁デュエル見たさに集まっているのだろう。それぞれ場所は違うが三沢大地と天上院明日香、万丈目準と取巻太陽、丸藤亮もまたそれぞれの思惑は違えどこのデュエルに興味を持ってやってきている。
「いよいよか……」
「タッグデュエル…プロでも難しいと言われてる方式で戦うなんて、十代と翔君は大丈夫かしら」
「ここまで来れば、もうあの二人を信じるしかないさ。さすがのクロノス先生も、全く勝てない相手と戦わせることは無い筈だ」
(私のせいであの二人にこんな仕打ちを受けさせてしまった…。本当なら私もこのデュエルを受けるべきだったのに……)
明日香の脳裏に亀崎が制裁デュエルを承諾した後、アカデミアの校長である鮫島に再び直談判した当時の状況が蘇る。明日香はその性格からやはり自分が処罰の対象にならないことに納得できず、それならば十代達と同じように亀崎と組んでタッグデュエルをする旨を伝えたのだ。それに対し鮫島の口から聞かされたのは、自分が予想した通りの返答ーーしかし、そこから続けられた言葉に明日香は驚愕した。
「申し訳ないが、君と彼を組ませることはできない。
これは天上院君に非がないと判断した上で決めたことですので」
そう言って鮫島が取り出したのは亀崎から渡されたというひとつのボイスレコーダー、それには明日香と亀崎、そして雪乃がタイタンと相対した時の会話が録音されていた。
「…彼が言うには、この会話ののちに連れ去られた君を助ける為に廃寮へ入ったと言うのですが……。前にも言ったように風紀委員で決められたことを撤回させるのは、非常に難しいことなのです…」
明日香はそれ以上何も言えず引き下がるしかなかった。その後は三人に直接関わることはなかったものの、胸の内は三人への申し訳なさでひたすらに塗り潰されていた。その一方では絶対に勝ってほしいとも、まるで曇天の空から太陽が顔を覗かせるのを願うようにーー。
ーーーーーー
少しばかり時間を置いたのち、今回の主役である十代と翔が到着すると客席の一部から鈍い音が聞こえた。その正体は万丈目が前の客席の背もたれを苛立ちと共に蹴りつけたものだった。
「遊城十代ッ…!キサマはこの俺直々に手を下してやりたかったものを…っ!」
ーー数十分前、レッドの存在に目くじらを立てていた技術担当最高責任者であるクロノス・デ・メディチに十代の相手を嘆願する万丈目だったが、既に相手を手配しているとあしらわれただけでなく「これ以上失態を見せるとランクを落とす」と皮肉めいた忠告まで言われてしまったのだ。プライドの高い万丈目からすれば耐え難い仕打ちであり、この状況を作り出した張本人である十代は絶対に許せない相手である。
「おい、どうしたんだよ取巻?」
「ーーん?」
ふと、自分の取り巻きの一人である慕谷の声が万丈目の耳に入った。視線を向けると慕谷の隣に座っている取巻が、珍しく肩を落とし俯いている。
「どうした慕谷。取巻に何かあったのか?」
「万丈目さん…それが、ここに来てからずっとこんな調子なんですよ」
万丈目は慕谷から取巻へと視線を移す。取巻は万丈目に見向きもしなかったが、顔を少し上げたからかどこか思い詰めたような表情が見て取れた。しかし今の万丈目の胸中では取巻よりも憎き十代への憤りが優先された為、すぐに視線を外した。
(何があったかは知らんが、今の俺にとっては十代のヤツが叩き潰されればそれでいい…!俺のプライドをズタズタにしたヤツだけは、絶対に許さんぞ…‼︎)
ーーーーーー
観客席の外周である通路にたったひとり、周囲とは違った雰囲気を纏う男ーー丸藤亮はいた。腕を組み静かに佇むその姿は生徒のなかでも王者に近い雰囲気を醸し出している。
そんな亮が視線に捉えているのは、自身の弟である翔だ。兄弟としての自力の差に悩み一時は逃亡を図ろうとした彼が、信頼する兄貴分と共に試練に挑もうとしているーー。目の前の困難に挑む翔がどのような道へと進むのか……兄として、それを見届けなければならない。
「ふふふ、自分の弟がどうなるか……やっぱり気になるかしら?」
隣から聞こえる甘い声色。しかし亮は一切動じることも視線を向けることなく無言を貫いた。
「無言ってことは、肯定ととっていいのかしら。不器用な【帝王】さん…?」
「……そう言うお前はどうなんだ、【女帝】。お前にとっては、あの二人ではなくもう一人が心配なのではないのか」
【女帝】と呼ばれだ少女ーー藤原雪乃のからかいに反応した亮だったが、その返しに雪乃は手すりへと前のめりに体重を預けクスリと笑うだけだった。
「ええ心配よ。このデュエルでも私を熱くさせてくれるかどうか……その一点が、ね」
そう言った雪乃の目には十代達からやや遅れてきた亀崎を映していた。期待の眼差しで見つめる雪乃を亮は一瞥すると、彼も同じ人物に目を向ける。“青眼の白龍”を何故亀崎が持っているかという疑問はさておいて、彼がどのような考えでデュエルに臨んでいるのか……その答えを見出す為に。
「ではこれより、制裁デュエルを始めるノーネ‼︎」
準備が整ったのを確認したクロノスの高らかな宣言によって、この場に集まったギャラリーが沸き立つ。熱気と緊張感を孕んだ雰囲気のなか、三人にとって負けられない戦いがとうとう始まるーー。
◇◆◇◆◇◆
クロノス先生によって盛り上がる観客席では、生徒達ほぼ全員がランクの関係なく同じように待ってましたと言わんばかりの様子だ。やはりこの世界でもデュエルはひとつのエンターテインメントとして浸透しているということかーーそう思いながら、俺こと亀崎賢司は別の【遊戯王】を思い浮かべていた。
「不心得者を叩きのめすべくーーデンセツゥの決闘者を呼んでありまスーノォ‼︎」
その間にクロノス先生がこの日の為に招いたと言う『デンセツゥの決闘者』二人がカンフー映画ばりのアクロバティックなアクションと共に現れた。最後まで鏡写しのようにキッチリと決めるところは同じ兄弟である身としては素直に感心してしまうな。
「我ら流浪の番人ーー」
「ーー迷宮兄弟‼︎」
「おぉー、香港映画か!」
「もしかして、この人達が対戦相手…?」
クローンではないかと思わずにいられない程瓜二つなハ…兄弟にそれぞれの反応を示す十代と翔に、クロノス先生がこの二人が伝説の決闘者たる所以をプレッシャーを与えるように聞かせる。要は武藤遊戯とデュエルしただけなのだが、それでも翔には少なからず効果があったのか目に見えて動揺し始めてしまう。明日香や三沢も対戦相手の素性を知った途端に不安を醸し出すのは仕方ないが三沢よ…「勝てるわけがない」とハッキリ口に出しちゃダメだろうよ。
「お主らに恨みはないがーー」
「ーー故あって対戦する」
「我らを倒さねばーー」
「ーー道は開かれぬ」
「「いざ、勝負っ‼︎」」
阿吽の呼吸という言葉しか出てこない程にピッタリな言葉繋ぎに圧倒される十代と翔。そしてそれを後ろでコッソリと笑うクロノス先生に、生で伝説の決闘者を見ていることに興奮する鮫島校長と矢継ぎ早に展開は進んでいった。やがて伝説の決闘者相手にやる気を滲ませる十代を見て渋い顔をしていたクロノス先生がおもむろにこちらへと振り向いた。
「まずはこの二人のデュエルから始めまスーノ。シニョール亀崎はその後ナノーデ、少しだけ待っててくださイーネ」
十代と翔の対戦相手が提示されただけでこちらの対戦相手は知らされず、クロノス先生に促されるまま観客席へと向かう。果たして自分の相手となるのはいったい誰なのだろうか。鮫島校長が言ったようにこのアカデミアにおける実力者か、それともあの迷宮兄弟のような外部の人間か。
(…考えてても仕方ない、か。今はーー十代達のデュエルを見ているとしよう)
『あの子たち、勝つといいなぁ』
(勝てるかどうかは、翔の心の持ち方次第だ)
「各チーム、共通ライフポイント八千ナノーネ!デハーー」
「「「「決闘‼︎」」」」
〜〜〜〜〜〜
十代達の運命のデュエルは、翔の“パワー・ボンド”を決め手とした彼らの勝利で幕を閉じた。兄による封印の戒めを正しい形で破った翔は、このデュエルでデュエリストとして一歩成長したに違いないだろう。当の翔は最後まで共に闘い抜いたパートナーに賛辞を送る十代によって、嬉し泣きをしながらも勝った実感を噛み締めていた。
「やったな翔!お前のお陰だぜ‼︎」
「アニキ、僕…僕……っ」
制裁デュエルを制したことで退学は取り消そうーーデュエルを見ていた鮫島校長は、大徳寺先生が抱える愛猫ファラオに怯えるクロノス先生を背にしながらそう言い伝える。これに十代と翔は喜びはしたもののそこは学園という組織、あくまで『退学は』取り消すだけで廃寮に入った罰がデュエルレポート三十枚に置き換わっただけだった。頭を悩ませる十代ではあるが、こうなったのは自業自得なので慰めようもない。なにせーー。
「さて、次は君の番だねーー亀崎君」
ーーこのデュエルに勝ったところで俺も同じ道を辿るのだろうだから。ようやく順番が巡ってきたことで俺は再度デュエルフィールドへど降りていった。
「十代達の相手は伝説のデュエリストだったが、亀崎さんの相手となるのはいったい誰だろうか…」
「まさかまた伝説のデュエリストとかじゃないわよね…」
「ふふ、ようやくね。このデュエルでまだ私の知らない貴方を見せて頂戴」
「…………」
三沢、明日香、雪乃、亮がそれぞれ見守るなかデュエルフィールドにたどり着いた俺は今一度辺りを見回す。どこを見てもギャラリーに徹する生徒達と、大徳寺先生とクロノス先生、そして鮫島校長しかいないこの場所に俺の相手を務めるような人物はいないように見える。もし迷宮兄弟のように外部から来るのであれば、単純にまだ来ていないというだけか…?未だ晴れない疑問を俺はクロノス先生へと問いただしてみることにした。
「クロノス先生。今度は自分がデュエルする番ですが、肝心の相手は誰なんです?」
「フム〜、シニョール亀崎の対戦相手は鮫島校長が決めていまスーノ。少なくとも私は何にも聞かされてないノーネ」
クロノス先生の素振りからを見るに言っていることはどうやら本当のようだ。俺がクロノス先生から鮫島校長へと視線を移すと、こちらの言わんとしていることを感じ取ったのかやや微笑みながら口を開いた。
「ホッホッホ。君の相手なら、既に目の前にいるじゃないですか」
「…?」
「私ですよ。私が、君の相手をすると言っているんですよ」
鮫島校長が……俺とデュエル?冗談で言っているーー訳ではないな、あの目は。
「ええっ⁉︎校長先生が亀崎さんの対戦相手ッスか⁉︎」
「マジか!こりやわ面白そうだぜ‼︎」
事態を把握したことで生徒達間のざわつきが一気に激しくなる。アカデミア本校のトップがデュエルするなんてそうそうないだろうに、鮫島校長はいったい何を思っているのか。
「どうかな亀崎君。それとも、相手が私では不服かね?これでもかつてはプロデュエリストとして名を馳せたものだが」
「……いいえ。相手にとって不足はありません」
鮫島校長のプロ時代……前に気まぐれで鮫島校長の過去をほんの少し調べはしていた。【マスター鮫島】という二つ名とリスペクトデュエルを持って長い間プロリーグで活躍したという豪傑ーーそれが目の前にいる鮫島校長の過去である。その後は自身のリスペクト精神を後世に受け継がせる為の【サイバー流道場】を開設、今も日本某所に存在しているという。
「校長と言えば、【マスター鮫島】としてプロリーグに在籍していたデュエリスト…。長らく離れていたとはいえ、その腕はまだ錆びついていないーーそうよね?」
「…ああ。鮫島校長はプロを離れても、デュエリストとしての自分を忘れることなくデュエルに励んでいた。恐らく、デュエリストとしての強さは現役の頃から変わっていないだろう」
「ふぅん。だとしたら今の彼にはぴったりの相手かしらね」
「…どういう意味だ?」
「彼の顔を見て分からないかしら?あの表情、さすがの彼も油断はできないって思ってるみたいよ」
雪乃の言う通りだった。というのも、今現在において鮫島校長は十代の次あたりに強いと判断しているからだ。根拠のない、あくまで予想に過ぎないわけだが少なくとも今の俺はそう思っている。
「エ、エー。それではさっそく始めまスーガ……鮫島校長、本当によろしいデスーノ…?」
「構いませんよクロノス先生。私も、彼とは一度デュエルをしてみたかったものですから」
「…わかりましターノ。ではこれより、制裁デュエル二組目を始めまス〜ノネ‼︎」
十代達の時以上の歓声がこの空間に木霊した。そんなに俺達のデュエルが見たいというのか、それとも元プロの鮫島校長に対するものなのか。
いや、そんなものはどうでもいい。今の俺がやるべきことはただひとつーー。
「泣いても笑っても、チャンスは一度きりです。どうか悔いのないように闘ってください」
「その点はご心配なく。全力を尽くして勝利を掴んでみせますよ!」
それぞれの言葉を最後に互いのデュエルディスクを起動させる。気のせいか、今日の“青眼”型デュエルディスクも起動にかなりキレがあるように見える。こいつもこの一戦に気合を入れているようで嬉しくなる。
「「決闘!!」」
鮫島 LP 4000
VS
賢司 LP 4000
「先攻は私が貰おう、私のターン!私は“サイバー・エスパー”を攻撃表示で召喚!」
サイバー・エスパー
ATK/1200
全身をメタリックアーマーに覆われた人型のモンスターが静かに鮫島の場へと現れた。攻撃力は高くないが、最初の様子見としては悪くないモンスターだ。
「さらにリバースカードを一枚セットしてターン終了です」
「俺のターン、ドロー!」
特別目立った様子のない始め方で鮫島はターンを終えた。事前に予想した通りであることを確認したのち、デッキからカードを引いた。
「この瞬間“サイバー・エスパー”のモンスター効果を発動。“サイバー・エスパー”が存在する限り、私は相手がドローしたカードを確認することができます。さあ、見せてくれたまえ」
“サイバー・エスパー”の効果については分かっていた。ドローしたカードも相手に見せて問題ない為、そのカードを遠慮なく鮫島校長に突きつける。その瞬間、鮫島校長の顔は驚愕の表情に染まった。
「ーーそ、そのカードは…ッ‼︎何故君がそのカードを…‼︎」
「なんだなんだ、校長先生どうしたんだ?」
「何かスゴイカードだったンスかね…?」
鮫島校長の反応に一部のギャラリーがザワつき始めた。本来なら諌める立場の筈のクロノス先生も興味があるのか、「ここからじゃ見えないノーネ…!」とデュエルフィールドのすぐ傍に近づいてくる始末だ。
「続けても?」
「う、うむ……」
「ではまず、手札から“ホーリー・エルフ”を召喚!」
ホーリー・エルフ
ATK/800
俺が召喚したのは、緑のケープを身に纏ったいかにも優しそうな金髪青肌のエルフ。彼女が祈るその姿からは神聖な雰囲気を醸し出している。
「さらに速攻魔法“ディメンション・マジック”を発動!自分の場の魔法使い族モンスターを生け贄に、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する!」
フィールドに現れた人一人ぶんの大きさの棺が開き“ホーリー・エルフ”が自ら入りこむと、棺が完全に閉めきられた。この棺自体はよくトリックショー等に用いられる道具が元ネタなのだろう。実際に手札の魔法使いと入れ替わるのだから、さしずめ『入れ替えマジック』と言える。
そんなことを考えていると、棺がついに開き始めた。“ホーリー・エルフ”と入れ替わりに出てきたのはーー。
「“ブラック・マジシャン・ガール”を特殊召喚‼︎」
ブラック・マジシャン・ガール
ATK/2000
「“ブラック・マジシャン・ガール”っ⁉︎」
「あのカードは決闘王、武藤遊戯しか持っていない筈じゃ…⁉︎」
「ブラブラブラ…“ブラック・マジシャン・ガール”ゥ⁉︎あ、あの超激レアモンスターをこんな間近で見られるナンーテ…‼︎ホ、ホントにホントにシニョール亀崎は何者ナノーネ⁉︎」
“ブラック・マジシャン・ガール”の登場で火に油をぶち撒けたかの如くギャラリーのボルテージが最高潮に達した。そんな彼らに動じることなく目の前の元凶が律儀に皆へと笑顔で手を振ると、ギャラリーは益々ヒートアップしていく。ほら、翔なんか感極まったのか泣いてるぞ。
『なんだか歓迎されてるみたいで良かったぁ!よ〜し、久しぶりにいっぱい頑張っちゃうぞ!』
「頑張るのはいいけどあんまり痛いことはしないでくれよ」
『も〜、マスターノリ悪いです!昔のマスターだったらここは一緒にノってくれたのに」
「人はいつまでもそのままでいられないんだ。それくらい分かるだろうに」
奮起していた“ブラック・マジシャン・ガール”は小さく頬を膨らませて無言の訴えをしてくるが、ここは右から左へと受け流す。子供の時ってちょっとしたことで湧いたりできるから、大人になるとそれを思って悲しくなってしまうものだ。
「“ディメンション・マジック”のさらなる効果!モンスターを特殊召喚した後に、フィールド上のモンスター1体を破壊することができる!“サイバー・エスパー”を破壊‼︎」
「ならば、私は“サイバー・エスパー”が破壊された瞬間に罠カード“サイバー・シャドー・ガードナー”を発動!このカードは発動後、モンスターカードとなりモンスターゾーンに特殊召喚される!」
“サイバー・エスパー”を破壊されるのを見越した上で鮫島校長が呼び出した第二の壁は、全身が漆黒の機械モンスター。てっきりあのカードを使うと思っていたが、なかなか厄介なカードを伏せていたな…。
サイバー・シャドー・ガードナー
ATK/?
「“サイバー・シャドー・ガードナー”の攻撃力と守備力は、戦闘を行う相手モンスターと同じ数値となります。このまま攻撃を仕掛けても、君のモンスター共々相打ちになるだけです」
「出鼻を挫かれたか…。俺はカードを一枚伏せてターンエンド」
「発動ターンのエンドフェイズ、“サイバー・シャドー・ガードナー”は自身の効果でセットされた状態に戻ります」
鮫島 LP 4000
手札:4
モンスター:0
魔法・罠:1
賢司 LP 4000
手札:2
モンスター:1
魔法・罠:1
「“青眼”を持っていたことから只者ではないと思ってはいたけど、まさか“ブラック・マジシャン・ガール”を繰り出してくるとはね…」
「“ブラック・マジシャン・ガール”を出したってことは、もしかしてあのデッキには“ブラック・マジシャン”も入ってるのかな…!せっかくアカデミアに残れたんだから、この後すぐに亀崎さんとデュエルしてぇなぁ!」
「その前に貴方と翔君はレポートがあるでしょうに…。でもこればっかりは私も驚きを隠せないわね」
この世界で伝説のレアカードとして名高いモンスターに、未だざわざわと湧く生徒達。それは十代達だけではなく、件のブルー生徒も同じだった。信じられないであろう光景に言葉を失っている慕谷の隣にいる取巻だ。
「あ、あいつ……“青眼”だけじゃなく、決闘王のカードまで…!」
ちょうど今の立ち位置からほぼ正面にいるので、取巻の驚きようもバッチリと見えている。まぁ、また何かしらの難癖をつけられそうだが絶対に辞めることはないがな。
「“ブラック・マジシャン・ガール”……決闘王・武藤遊戯が信頼するモンスターの1体ですか。そのようなカードを何故君が持っているのか疑問が尽きませんが、今はこのデュエルに集中するとしましょう。私のターン、ドロー。私は“サイバー・フェニックス”を守備表示で召喚し、ターン終了です」
サイバー・フェニックス
DEF/1600
「俺のターン、ドロー」
てっきり反撃してくると思っていたが、ただモンスターを出しただけか。…何を考えている?
鮫島校長の狙いが何なのか、それを知る意味も込めて目を細めたが鮫島校長の表情が変わることはなかった。このままじっとしていても埒があかないのでデュエルを進めるか。
「バトル!“ブラック・マジシャン・ガール”で“サイバー・フェニックス”を攻撃する!そして攻撃宣言時に罠カード“マジシャンズ・サークル”を発動!魔法使い族モンスターが攻撃宣言した時、互いのプレイヤーはデッキから攻撃力二千以下の魔法使い族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する‼︎俺は“青き眼の乙女”を特殊召喚‼︎」
『今回は控えめなお力添えになりそうですね…。まぁ、今回は譲りましょう』
青き眼の乙女
ATK/0
「むぅ…私のデッキに魔法使い族はいません」
「戦闘続行!
『せ〜の、ファイヤー‼︎』
掛け声と共に放たれた魔導球は“サイバー・フェニックス”を容易く破壊した。さすがに力みすぎて暴投なんてことはなかったようで安心したよ俺は。
「“サイバー・フェニックス”が戦闘で破壊され墓地へ送られたことにより、私はカードを一枚ドローします」
「俺は手札から装備魔法“ワンダー・ワンド”を発動、“青き眼の乙女”に装備!装備した“乙女”の攻撃力を五百ポイントアップ!」
青き眼の乙女
ATK/0 → 500
「そして“ワンダー・ワンド”の効果対象となったことで、“青き眼の乙女”の効果を発動によりデッキ・手札・墓地から“青眼の白龍”を特殊召喚できる‼︎デッキより現れろ、“青眼の白龍”‼︎」
青眼の白龍
ATK/3000
「“ワンダー・ワンド”のもうひとつの効果!このカードと装備モンスターを墓地に送ることで、デッキからカードを二枚ドローする!」
“ワンダー・ワンド”とそれを装備した“乙女”がふたつの光の球となりデッキに触れると、トップの二枚が引き出されたのでその二枚を引く。こういう細かい演出も、自分がソリッドビジョンを好む理由のひとつでもある。
「大型モンスターの召喚だけでなく手札の補充も行うとは…、彼もなかなかやりますにゃ〜」
どこかで太ましい猫の鳴き声が聞こえたような気がするが、視線はとりあえず引いた二枚から外さないでおく。ふと引いたうちの一枚を見ておっ、と内心で小さく呟いた。とある条件下でのみデッキから上級魔術師を呼ぶことができるカードなのだが、今自分の場には“青眼の白龍”がいることを考えると、初期からデュエルモンスターズを追いかけていた自分にとって感慨深く感じてしまう。
だからこそ問おう。もし同じ立場だとしたら、デュエルモンスターズを象徴である白き龍と黒き魔術師を並べられるチャンスがあれば並べようと思うか?俺はーー思う‼︎
「さらに手札から“賢者の宝石”を発動‼︎」
「“賢者の宝石”…!」
「その効果により、自分の場に“ブラック・マジシャン・ガール”が存在する時、デッキからーー“ブラック・マジシャン”を特殊召喚する‼︎」
「“ブラック・マジシャン”⁉︎」
「“ブラック・マジシャン”って、あの武藤遊戯さんが使っていたモンスターじゃないか…!」
デッキから取り出す“ブラック・マジシャン”の名を宣言したことで、翔と十代が再び驚愕の表情に染まっているのがその声だけで分かる。いや、きっとこの場にいるほとんどが同じようになっているだろう。なにせ決闘王とそのライバル、その両名のエースモンスターをひとりの人間が召喚しようとしているのだから。その点については有していたカードを持って来させてくれた神に感謝である。
「出でよ!“ブラック・マジシャン”‼︎」
声高らかに呼んだことで、“賢者の宝石”のソリッドビジョンから現れ出でる“ブラック・マジシャン”。悠々と腕を組んでいるその佇まい、鋭い眼光は上級魔術師の名に相応しい貫禄を放っていた。
ブラック・マジシャン
ATK/2500
「なんと……」
“ブラック・マジシャン”と“ブラック・マジシャン・ガール”、そして“青眼の白龍”……。一見すればシナジーのない組み合わせ。ただの個人的趣向なロマンでしかないデッキ構築。
ーーだがそれでも、俺はやりたかった。小さな時から【遊戯王】というコンテンツを好むものとして、今なおひとりのデュエリストとして……三者が存在する自分の場の様相改めて満足した俺は、三者の並び立ちに圧倒されている鮫島校長に問いかけた。
「どうですか鮫島校長。これを見てもまだ……動く気にはなれませんか?」
「……っ!」
伝説と謳われるデュエリストのなかでもトップツーである二人の象徴であるモンスターが、ひとつの場に会するというこの瞬間。圧倒され言葉を失った生徒達が見守るこの時、のちのアカデミアにおけるひとつの伝説が今この時から始まったことを、自分を含めたこの場にいる誰もが知る由はなかったーー。
そろそろオリカも出したいな〜、と思っているんですがこれがなかなか難しい。一応このデュエルで出そうなのは1、2枚ほど考えていますが…。あ、勿論使うのは鮫島校長です。