遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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遅れた最大の原因は彼にある!(責任転嫁)
亮の言葉周りがかなり悩まされました。亮はもうちょい言葉少なめの方がそれっぽいですかね。


丸藤亮

十代と翔のデュエルが行われてから少しして、購買部の一角で遊城十代は『デュエル許可願』なるものを(したた)めていた。このアカデミアにおいてデュエルを行う際にデュエルフィールドを使う場合や、目上の先輩や教師とデュエルをする場合にこの許可願を提出しなければならないのだ。十代としては翔のデュエルに対する臆病ぶりを知りたい為、こんなものを書く時間があったら直接兄である丸藤亮の元に向かいたいぐらいだった。

 

「『帝王(カイザー)』とデュエルすれば、翔の過去に何があったか分かるかもしれないからな。えーっと……」

 

このデュエル・アカデミアに入学した以上、翔もデュエリストとして強くなりたいと思っている筈。だが今の彼はそのデュエルに消極的で、自分のことを悲観している……。ああなった原因が過去にあるのは間違いない。そしてもしそれを『帝王』が知っているのならーー。

 

「〜♪……ン?」

 

ふと、子気味良いリズムを歌いながらその場を通りかかった男ーークロノス・デ・メディチが目聡く何かを熱心に書き綴っている十代を見つける。普段からドロップ・アウト・ボーイと蔑んでいる彼が何をしているのか、興味を惹かれたクロノスは十代の肩越しにデュエル許可願の紙を引ったくる。

 

「あっ…⁉︎」

「フ〜ム、デュエル許可願…?相手はーー⁉︎」

 

クロノスは対戦相手の欄に書かれていた名前を見て思わず自分の目を剥いて疑った。何故ならそこに書かれていたのは、このデュエル・アカデミア本校においてトップに君臨するオベリスク・ブルー三年の天才ーー丸藤亮の名だからだ。

 

「ゴルゴンゾーラチィーズッ…‼︎栄えある我がデュエル・アカデミアの中でもエリート中のエリートである『帝王』に、アナタのようなドロップ・アウト・ボーイが挑もうだなンーテ…!」

「返してくれよクロノス先生!俺は翔の兄ちゃんとデュエルしなきゃならないんだからさ…!」

「フンッ!ドロップ・アウト・ボーイがシニョール丸藤とデュエルしようだなんて百万年早いノーネ‼︎こんなもの

ーーフンフンフンッ‼︎」

「あああっ⁉︎何するんだよっ⁉︎」

 

大袈裟なパフォーマンスで小馬鹿にするように呆れ返るクロノスは十代の目の前でデュエル許可願を細かく破り捨ててしまった。

 

「こんな無駄なことをする暇があるナーラ、ちょっとでも成績を上げる努力をするノーネ!少しは自分が腐ったオレンジだということを自覚しなさいーノ!」

 

とても教師が生徒に向けるべきではない暴言を吐きつけたクロノスは、それっきり踵を返して行ってしまった。去っていくクロノスの背中を睨む十代だったが彼がこの程度で『帝王』とのデュエルを諦めるわけがない。その頭の中では既に次の方法を浮かばせていたのだった。

一方、切り立つ崖に佇むレッド寮では十代とのデュエルを経た丸藤翔が自室で毛布を被りがら考え事に耽っていた。その手にある“パワー・ボンド”ーー兄である丸藤亮から使用を禁じられているカードを見つめる翔の頭には、かつて亮から言い渡された言葉が蘇りただでさえ意気消沈している翔をさらに苦しめる。

 

『お前には、まだそのカードを扱う資格はない』ーー

『お前がデュエリストと呼ぶに相応しい力量になるまで、そのカードは封印する』ーー

 

…それは亮が弟である翔にただ制限を課しているだけに聞こえるかもしれない。実際にはそのカードをどう使おうとそれは個人の自由が基本である。なので翔のデッキに入っている“パワー・ボンド”も彼の意思で使っても良い筈だ。

しかしそれでも翔は亮からの言いつけを頑なに守り続けている。

十代とのデュエルの最終局面において“強欲な壺”の効果で翔は“融合”と“パワー・ボンド”を引き当てた。翔の手札と場には“スチーム・ジャイロイド”の融合素材である“スチーム・ロイド”と“ジャイロイド”が揃っていた為、“パワー・ボンド”による融合を行っていればその攻撃力は“青眼の究極竜”に迫る四千四百となっていたのだ。どちらにせよ次の十代のターンで“サンダー・ジャイアント”の効果によって破壊されてしまっていただろうが……。

 

(そうだ……僕なんかがアニキのパートナーなんてできるわけない…‼︎どうせ足を引っ張っちゃうに決まってるんだ…‼︎)

 

何故翔がそこまでの脅迫観念を抱えているのか、それは彼の過去にその理由がある。

まだ翔が小学生だった頃のこと……普段から自分をイジメていたイジメっ子ーーゴリ助とのデュエルを行っていた。そのデュエルの状況は翔の場に“スチーム・ロイド”と“ジャイロイド”、ゴリ助の場には“鉄の騎士 ギア・フリード”と伏せカードが一枚と翔が若干有利ではあった。しかしライフではゴリ助がまだ優位であり、その当時まだデュエルの腕も拙い翔にとってはより攻撃力の高いモンスターを引かれてしまうことを何より恐れていた。

ゴリ助の不敵な笑みを受けながらも翔はデッキから引いたのは亮から譲り受けた“パワー・ボンド”……自分のエースである融合モンスターの攻撃力を倍にできるカードを見てこのターンでの勝利を確信した。しかしその裏にある重大なデメリットを確認もせず、あろうことか翔は普段からイジメられていた鬱憤を晴らす勢いで相手を様々な言葉で罵倒、『負けたら全裸で逆立ちしながら校庭を一周する』という後先を考えない約束すらも交わしてしまうのだった。

だがこのデュエルの結果はノーコンテスト、無効の形で幕を閉じた。デュエルを見ていた第三者ーー兄である丸藤亮の介入によって…。

 

『お前には、まだそのカードを扱う資格はない。お前がデュエリストと呼ぶに相応しい力量になるまで、そのカードは封印する』

『どうして⁉︎どうしてだよ⁉︎』

 

亮の口から放たれたのは、それこそ翔が長くに渡り苦しみ続ける原因となる言葉だった。その意味を理解できず喚く翔は、亮が見せてきたゴリ助の場に伏せられていたカードを見てーーただ驚愕した。それは永続罠“六芒星の呪縛”。『相手モンスター1体の攻撃と表示形式変更を封じる』という、やや物足りなさを感じるカードである……が、今回に至ってはその限りではなかった。

この時に翔は初めて自分の愚かさに気づき唇を噛んだ。モンスターを強化する効果ばかりに目がいって、失敗した時のデメリットによる自滅をこれっぽっちも考えてなかった。“パワー・ボンド”による融合モンスターの強化は確かに強力ではあるものの、発動ターンのエンドフェイズにそのモンスターの元々の攻撃力ぶんのダメージを受けるデメリットがある。もしあのままデュエルが続いていたら、翔は相手のライフを削るどころか自分のカードによって自滅ーー敗北するところだったのだから。

この出来事が切っ掛けとなり以降、翔は自分のデュエルに自信を持つことができなくなってしまった。実の兄であり優秀である亮と違い、落ちこぼれでデュエルも強くない自分に嫌気がさす日々……。比べられたり馬鹿にされても言い返すことができず只々、その事実を受け入れながらーー。

 

過去を振り返った翔は(うずくま)り、自分でもどうしようもないほどに体をビクビクと震わせる。弱い自分じゃなくて他の誰かが十代のパートナーだったならーーふと、そう考えた翔は閉じていた目を開いた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

オベリスク・ブルーの寮にある自分の部屋、俺こと亀崎賢司は制裁デュエルに向けてのデッキ構築に頭を悩ませていた。『やはり相棒である“青き眼の乙女”は入れる』ということで一応は進歩はしたのだが、今度はそれを前提としていかに構築するかで四苦八苦しているのだ。

 

「“乙女”は魔法使い族だからなぁ…。仮にそっちに手を広げるとしたらーー」

 

今まで“青眼の白龍”を中心とした構築であったデッキを、今度は“青き眼の乙女”を起点とするデッキに構築し直すーー。

人によっては言葉や主だった必要なカード等であまり変化が見られないように思うかもしれないが、今度は『ドラゴン族』から『魔法使い族』にシフトされる訳である為、魔法使い族のサポートカードも自ずと視界に入ってくるのだ。特に“乙女”との相性が良い『対象を取る』魔法使い族専用カードは外せないこととなる。場持ちを良くする“ガガガシールド”やドローを加速させる“ワンダー・ワンド”、相手モンスターを除去できる“ディメンション・マジック”など探せば多く見つけられるので、やや魔法使い族寄りのデッキを組むこと自体は不可能ではないのだ。

さてーー幾らかの採用圏内にある魔法カードと罠カードを見繕ったら今度は採用するモンスターを選ぶのだが、俺がつまずいているのがまさにここである。目の前の机にはその魔法使い族の筆頭である“ブラック・マジシャン”や“サイレント・マジシャン”、元いた世界ではアイドルカードとして有名だった“霊使い”に“ブラック・マジシャン・ガール”といったカード達が置かれており、俺はそれらひとつひとつを視線で捉えながら脳内でイメージプレイを行っていたのだが……。

 

『う〜ん、楽しみだなぁ!マスターと一緒に闘えるなんて何年ぶりだろう!』

『あんなことを言った手前、撤回するつもりはありませんが、変に偏らないかが心配です…』

 

すぐ後ろでは今回組むデッキの大まかな案を聞いた“青き眼の乙女”ともう一人……“ブラック・マジシャン・ガール”がそれぞれ違う反応を示していた。

少し前、藤原の話から戻ってきた俺に“ブラック・マジシャン・ガール”は久しぶりに自分や師匠ーー“ブラック・マジシャン”を使ってほしい旨を話してきたのだ。まだ“青眼”のテーマが今ほど充実していなかった時代に彼らを使っていたのだが、続々と新規カードが現れていくにつれて自然と他のカード同様、眠らせる形となってしまったことに少々勿体無い感覚は覚えていた。

普通に考えれば事故る為に決して組まないような構築も、この世界でなら割と回るという不思議補正を加味すれば、ロマンあるデッキにできるのだが……。

 

『心配なのは分かるけど、マスターのことを信じよ?いくらマスターでもそんなに偏った風にはきっとしないよ』

『分かってはいるのですが……』

 

【ブラック・マジシャン】と“青き眼の乙女”には魔法使い族であるという共通点があるので回る構成で組めれば、充分に採用する価値はある。彼らは“青眼の白龍”のような高い攻撃力は持ち合わせていないが、“千本(サウザンド)ナイフ”や“黒・魔・導(ブラック・マジック)”のほか“マジシャンズ・サークル”などの強力なカードとのコンボが可能なモンスターでもある。“青眼”を使っているとどうしても攻撃力で上回る戦法ばかりになるので、より相手に対する対処の手段は増やしておくに越したことはないだろう。ましてや制裁デュエルにおける自分の相手は完全に不明だからだ。

 

「ん〜、とりあえずはこの形で組んでみるか。そうと決まればーー」

 

方向性を定めた今度はケースから紙束を引っ張り出して、必要となるカードを次々と重ねていく。集めたカードは魔法使い族のサポートカードばかりではあるものの、ちゃんと“青眼”も恩恵を受けられるカードもピックアップしたそれらを見返すーー別のカードと入れ替えるを数度繰り返していると、いつの間にか“ブラック・マジシャン・ガール”が覗き込んでいた。びっくりしたなもう…。

 

『う〜ん、無難ってところですね。私としてはもうちょっと攻めてみてもいいんじゃないかな〜って思いますよ?』

「ただでさえシナジーの合わない構成なんだから無難になるのはしょうがないだろうに…。それと念の為にもう一度言うけど、相手如何によって使わない前提だってことも忘れてないよな?」

『むぅ……まあ仕方ないか。マスターが負けてここを追い出されちゃったりしたら、行く宛てもなく放浪することになっちゃいますもんね』

 

“ブラック・マジシャン・ガール”は意見が取り入れられなかったことに口を尖らせたが、今回の事情を突き出すと大人しく下がってくれた。こんな状況でないなら存分に彼女らを使ってやりたいが、相手が突発的に構築したデッキで勝てるとは考えにくい。念の為にもうひとつ、制裁デュエル用のデッキを作る必要があるな……。

 

「分かってるならいいんだ。さて、魔法・罠はこれでいいとして次はモンスターだな。とりあえずこいつらは入れるとしてーーん?」

 

魔法・罠を終えて次のモンスター選定に取り掛かろうとした瞬間、外から何か言い争う声が聞こえた。『見てくる』と言って“ブラック・マジシャン・ガール”が窓から飛んで行ってから数分、戻ってきた彼女が言うには寮の前でレッド生がブルー生に追い返されていたのだと。そのレッド生は悔しながらもそれ以上のことはせず、もう一人のコアラみたいなレッド生と一緒に帰っていったらしい。

コアラのようなレッド生ーー前田隼人と一緒に来たってことはそのレッド生は遊城十代で間違いない。【帝王(カイザー)】こと丸藤亮に挑みに来たのだろうが門前払いで会えず、ってところか。

 

『よろしいのですか?あの人は確か、ご自分の部屋にいらっしゃる筈では……』

「問題ない。いずれにしてもあの二人は今日の夕方に出会うからな。それに……今亮とデュエルをしてもそれは何の意味もない。今の翔に必要なものは言葉じゃなくて、デュエルに望む心構えのようなものだ」

『心構え…?』

「翔がタッグデュエルに消極的な原因は、自身の力量不足を鑑みたが故の、最悪な結末を真っ先に思い浮かべていることにある。自分のプレイイングミスが積み重なって相方の足を引っ張って負けるとかな。最悪な結末を予想するのは誰にだってあることだからそれは仕方ないさ」

 

ーー問題なのは、その最悪の結末が変えようのない決定事項だと自分の中でガッチリと固めてしてしまっていることだ。翔が抱いている不安は当然のものとして、結末に関してはなにもひとつとは限らない。何より翔だけではなく、自身が慕う十代も一緒なのだ。闘う相手が一筋縄ではいかないことは分かっていても、一人で臨むよりはいくらか希望があるだろう。

 

『でもウジウジしてたって前には進めないんだから、開き直っちゃえばいいのに』

「俺だったらそうしてるだろうが、あいつみたいに気弱な奴ってのは一度嫌なことを想像したらなかなか拭えないもんだ。ーーまぁ例え翔が今のまま開き直ったとしても、最悪の結末を回避できる可能性はあまり変わらないだろうけどな」

 

そして翔にはもうひとつ必要なものがある……それこそが十代と亮のデュエルを見て得られるものであり、このタッグデュエルを制し今後の翔自身が成長する上で非常に大切な要素だ。これなくして彼の成長はあり得ないと言ってもいい。そこは原作通り、二人のデュエルに翔がうまく立ち会ってくれればいいのだがーー。

翔の話もそこそこに、再びデッキ構築に意識を集中させる。といってももうほぼ決まっているようなものなので、必要なモンスターカードを入れていくだけであっという間に試作型が完成してしまった。

完成したデッキを見た“ブラック・マジシャン・ガール”から嬉しそうに拍手が送られてくる。

 

『なんというか、あっという間に完成しちゃいましたね?』

「何言ってるんだ。後はひたすらデュエルを繰り返して調整を加えていくんだから、むしろここからが本番だぞ」

『ではーーまた、いつものように?』

「ああ……それじゃあ始めようか」

 

組み上げたデッキの調整は実際にデュエルをしながら確かめるのが一番だ。幸いにもそれに協力してくれる相手は『ここ』にいるわけで。

俺はもうひとつのデッキを取り出すと、その相手となる人物の前に置いた。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

調整の為のデュエルを始めて数時間。『彼ら』のお陰で最初の方はまちまちな結果しかあげられなかった制裁デュエル用のデッキも、いくらか安定して闘えるようにすることができた。まあまだ不安要素は残っているが、制裁デュエルまではまだ時間がある。それまでをフルに使えばまだ間に合うだろう。

合間の休憩を取るついでに、寮内にある自販機の前で何を飲むか腕を組んで悩む。選べる飲料は誰しもが知っているコーラだとか紅茶など学生達が好みそうなラインナップばかり。値段も本土で売っている物より微妙に安いのがまた何ともいえない。適当にするか、と決めてコーラのボタンをカチッと押す。所謂ドリンクサーバーみたいなものなので、紙コップにコーラ注がれたのを確認して取り出し飲み始める。

 

「うあぁ、炭酸キッツ…」

 

子供の時は難なく飲めたコーラも、大人になると炭酸がキツいと思うのは誰もが通る道……だと信じたい今日この頃。ふとそんなアホらしいことを考えていると、寮の出入り口方面から誰かがこっちに歩いてくる。視線を向ければそこにいたのは、端正な顔立ちをしたアカデミアにおける最強の『帝王』ーー丸藤亮だった。

 

「おお、『帝王』丸藤亮じゃないか」

「どうも」

 

なんとも素っ気なく返すだけ、立ち止まることなくすれ違う亮。話すことがないから立ち去るっていうのは分からなくもないが少し、いやちょっと寂しい気持ちになるぞ…。

 

「どうだった?十代とのデュエルは」

 

亮の背中にそう問いかけてみると亮はその足を止めた。亮に背を向けている形なので彼がどんな顔をしているのかは分からない。

 

「…なんの事ですか?」

「寮に戻ってくる前に十代とデュエルしたんだろう?弟が見ている前で、折れかけていたその心を勇気付ける為に」

 

そこまで言って初めて、亮がこっちへと向き直る。その視線が後頭部に突き刺さるが、構わず続ける。

 

「確かに俺は先程まで遊城十代とデュエルをしていました。ですが、貴方はそれを知ってどうするんです?」

「別になにも。ただ『帝王』が遊城十代とデュエルした、その感想を知りたいだけだ。今後の参考の為に、ね」

「……」

 

ーー亮はそれっきり沈黙した。こっちの意図を探ろうとしているのか、それとも言葉を選んでいるのか……紙コップに残っているコーラをチビチビと飲みながら、彼の言葉を待つ。

 

「少し詰めの甘いところがありますがデュエルを全力で楽しむ、デュエリストとしての正しい姿を自然に体現する男ーーそれが俺の正直な感想です」

 

 

 

ーーデュエルは終始、亮が有利に立っていた。

 

「“サイバー・ドラゴン”は相手の場にのみモンスターが存在する時、手札から特殊召喚できる」

「あちゃ〜、そんなモンスターありか…?」

 

十代も負けじと己の持てる力の全てを振り絞りーー

 

「“サイバー・ツイン・ドラゴン”の攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト‼︎」

「リバースカード・オープン、“ヒーロー見参”‼︎選ばれたカードはモンスターカード!“フレンドッグ”を守備表示で特殊召喚‼︎」

 

ーー遥か高みにいる男を破ろうとした。

 

(次のターン、“ハネクリボー”と“進化する翼”のコンボで“サイバー・ツイン・ドラゴン”を破壊すれば俺の勝ちだ…!)

 

だがそれ以前に、十代は亮とのデュエルを楽しんでいた。遥か高みに存在する男とのデュエル、不利に甘んじながらも十代なりに全力で闘い続けたから。そして亮も十代の在り方をデュエルを通じて解し評価する。

 

「俺は君のデュエルに敬意を表する」

 

 

ーーと、自分が知っているのと同じ展開であったことを前提とすれば亮の言葉に翔は耳を疑っただろう。亮がこれまでにその言葉を贈るほどの相手がいたかは定かではないが、確かに十代のデュエルはデュエリストとしての正しい姿だ。一部のブルー生徒のように驕ったり相手を非難する言動はデュエリストとして最低な行為である。

ひたむきにデュエルを楽しむその姿は子供らしいと言っても差し支えないかもしれない。だがそれを僅かばかり羨ましいと思ってしまうのは大人の身からすれば無理もないだろう。

 

「そうか……いや、ありがとう。なかなか良いことを聞けたよ」

「そうですか。では俺からもふたつ程…まず、貴方が何故俺と遊城十代がデュエルしたのを知っているのかを聞いても?」

「放課後の時間帯に十代が君とデュエルする為にここまで来たらしくてね。それに、君が時々レッド寮の方向にある灯台へ行っているのをレッドの生徒が言っていたのを聞いてな。生徒の模範とも言われる者がこんな時間まで帰ってこなかったことを考えれば、もしかしたら……ってことだ」

 

記憶にある最もらしい憶測を並べたことに、亮は肯定も否定もしない。その沈黙を肯定と見なして次の質問を聞くことにして亮を促す。

 

「で、もうひとつの質問は?」

「……貴方のデュエルに関して、です」

「俺のデュエル?」

「入試試験の時、伝説と謳われているあの“青眼の白龍”をいとも容易く使いこなしていた亀崎さんのデュエルは、おそらくあの場にいた全員の頭に強烈に焼きついたことでしょう。かく言う俺もその一人ですが……それとはまた別に

、俺にはあれが貴方にとっては当然のことのように見られました。まるで長い時を共に歩んで来たのだと予想できるほどに」

 

なんてこった、亮が想像以上に鋭い…!たった一回デュエルを見ただけでそこまで近づいてくるとは、これもサイバー流の教えによるものなのか。

 

「亀崎さん。俺は貴方にとって“青眼の白龍”がいったいどのような存在なのか……それが気になります。制裁デュエルの前に、それだけでも聞かせてはもらえませんか」

「それこそ聞いてどうするんだ?今時、カードを使いこなすなんてやろうと思えば誰でもできることだぞ」

「…………」

 

この上なく真剣な風に、相手のデュエリストとしての本質を問うてくる亮。これもサイバー流に属する者としての興味本意なのか、茶化す言葉にも反応しない真面目っぷりに内心嘆息を吐いた。

やれやれ……どうもこういった真面目すぎる問いかけっていうのは昔から苦手だ。これまで“青眼の白龍”を使っておきながら何だが、あまり深入りされるのも嬉しくはないものだな。

 

「あっ‼︎丸藤先輩ここにいましたか!もう夕食の時間ですよ、早く行きましょう!」

 

どうやって亮をいなすか考えていたところ、不意に第三者の声が聞こえた。やや高い声を発して亮の元に駆け寄るその男に見覚えが全くないことからモブの一人だと思われる。

 

「引き止めて悪かったな。夕食の時間は限られてるんだ、後輩君と一緒に行ってくるといい」

「ッ…俺の話はまだーー」

「なに、制裁デュエルでむざむざ負けるつもりなんてないんだ。終わった後にまた来ればちゃんと聞かせてやるさ」

 

いまひとつ納得がいかない風の亮だったが、渋々と引き下がり後輩と共にその場から去って行った。こちらからは見えないが、恐らく亮の姿が見えなくなったぐらいで先の問いの答えを誰に聞かせるでもなく呟いたーー。

アカデミアにおいて生徒の中でも屈指の実力を持ちながら相手の全力を受け止め最大限に評価するーーリスペクトデュエルを淀みなくこなす彼が遊城十代から感じたもの。それをかつて通り過ぎた景色を思い出すかのように懐かしみながら、残っている飲み物を一息に煽った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

遊城十代と丸藤翔、そして亀崎賢司の三人に制裁勧告が下されたその二日後の太陽が空高く昇る時刻ーー。

 

『いきなり連絡を寄越したかと思えば、「ヤツについて知りたい」とはな…』

「私なりに調べてはみたのですがめざましい情報がなかったもので、ここはオーナーから直接聞くべきだと判断したもので…」

 

デュエル・アカデミア本校校長ーー鮫島は自室である校長室でオーナーである海馬コーポレーション社長の海馬瀬人に亀崎賢司に関しての情報を聞き出そうとしていた。彼がこのアカデミアに連れてきた素性の一切が謎に包まれた男……オーナーは彼をデュエリストとしていくらか認めているようだが、賢司が持つ『青眼の白龍』は世界に四枚しか存在しなあ筈の代物であり、その内の三枚は海馬瀬人が所有しているとされている。つまり、例え運良く持っていたとしても持てるのは残った一枚だけの筈……。しかし賢司はその事実に当てはまらないかの如く当然のように三枚を使用していた。しかも自分が見たものが間違いでなければ、そのうち二枚はどちらも『見たことのないイラスト』だったのだ。

あれを見てからというもの、鮫島の中で賢司に対する疑問は更に大きくなっていった。彼は一体全体どうやって三枚もの“青眼の白龍”をその手に収めたのか、またそれらの出処はどこなのかーー。

 

「ヤツについてはこっちでも調べ続けてはいる。だがあいつに関わりがありそうなものはまだ何ひとつーーいや、そもそもヤツの存在自体を証明するものすら見つかっていないがな」

「…どういうことです?」

「亀崎をそっちに寄越した後から今までヤツの生年月日や住所、家族構成に至るまで徹底的に調べ上げてみたのだ。そして文字通り、情報は何ひとつ見つからなかったということだ。まったく…ヤツに対する謎が深まるばかりだ」

 

賢司がアカデミアに来てからは既にひと月が経過している。海馬瀬人がその気になればいち一般人に関する情報などあっという間に調べ上げることができるだろう。鮫島は海馬瀬人の手腕を疑うわけではない。だが実際はオーナーですら空に浮かぶ雲に手を伸ばしながらもその手に届かないかの如く、賢司に纏わる情報を掴むことができずにいる。鮫島もよほど厳重に過去の情報を隠蔽しているのかと疑ったこともあったが、そうまでする理由が分かる筈もなかった。

 

(もしや彼が持っているカード……デュエルモンスターズが関係しているのだろうか?彼が持つ“青眼の白龍”……少なくともその内の二枚は見たことのないイラストだった。そしてこのアカデミアに来てからの彼とデュエルした生徒によれば、「見たことのないカードを使ってきた」ということだが……)

「以前ペガサスの奴が発表した大量の新規カードも、そのほとんどが亀崎の所持していた見たことのないカードだそうだ。そのことから察するに、ヤツの持ちうるカードはI2社以外のカード会社で造られたということだな」

「しかしこのご時世、それこそカード会社は世界中にいくらでもありますが…」

「無論全てのカード会社のデータベースと亀崎が俺とのデュエル中に使用したカードの一部を照らし合わせてみたが、それらにもヒットしなかった。こうなると亀崎自身が自らの手で造りあげた、という可能性も否定できんな」

 

考えれば考えるほどに、賢司に対する謎が深まっていく。最初に一目見たときはどこにでもいそうな至って普通の青年だった。だが実際に蓋を開けてみればその中身は真っ暗闇ーー正体不明の人間だったのだ。果たして本当にここに迎えて良かったのかーー鮫島は唸りながらも頭の中で自問を始めてしまうくらいに賢司に対する不安を募らせていった。そんな鮫島を見かねた海馬はひとつの案を提示した。

 

「そこまで気になるというのなら、手っ取り早い方法がひとつあるではないか」

「……オーナー、それはまさかーー」

「ふぅん……考えるだけでは奴を理解しきることは不可能だ。だが奴と貴様には、【デュエルモンスターズ】という共通のツールがあるのだ。デュエルを介せば多少なりとも亀崎のことを理解できるのではないか?」

 

海馬から言い渡された方法……それはまさにサイバー流の『元』師範代たる自分に適任とも言えるものだった。カードと心で繋がる大切さや、相手を尊重する精神などデュエルにおいて忘れてはならない心構えを教えてきた自分が、おそらくはそれと逆の位置に立つ未知の人間と闘うーー。

決して恐れているわけではない。ただ仮に亀崎とデュエルを行ったとして、それをきっかけにサイバー流に対して敵愾心を持つ彼らーーアンチサイバー流を勢い付かせる結果に繋がる可能性も考慮しなければならないのだ。

 

「……そうですね。ならば近い内に、彼とデュエルをしてみることにします」

「精々死力を尽くすことだな。亀崎は仮にもこの俺を相手に引き分けた男だ、生半可な闘い方では簡単に押し切られるぞーー」

 

その言葉を最後に海馬瀬人との通話が切られ、鮫島の息遣いのみが聞こえるほどの静寂が校長室を包む。鮫島は一息吐いたのちに椅子から立ち上がると、一面の特別仕様のガラス一枚を隔てた空を見上げた。

 

(亀崎賢司……以前行われた月一試験のデュエルを見ただけでは、まだ彼のデュエリストとしての姿を測り切ることはできなかったがーー今度の制裁デュエル、考えてみたほうがいいかもしれんな)

 

プロリーグの一線から退いたのちにサイバー流を発足、そして今はデュエルアカデミアの校長という立場にある鮫島。一線を退いたとはいえ鮫島は今も時折プロ等とのデュエルを行う機会があった為、その腕は未だプロデュエリスト達からは一目置かれ続けていた。かつて名を馳せた自分のデュエルが亀崎を相手にどこまで通用するのか。そう考えていると、自分の中のデュエリストとしての魂が震えていたことに鮫島は僅小さく驚き、そして笑ったーー。

 

「この歳にもなってまだ心が震えるとは……私も、まだまだ若いということか」

 

 




マリ○ンとエクセ○が好き過ぎてつらい…。
それはそうとアニメでは“スカーライト”が出ましたね。確かにカッコ良くはあるのですが、個人的には“レモン”の方がイラスト的には好みかな〜。もちろんデッキは組むけど!

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