遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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やっっとこさ投稿できた、積みゲーを消化した私です。
待ってくださった皆様、申し訳ありませんでした。


制裁宣告

オシリス・レッドの遊城十代と丸藤翔が制裁タッグデュエルを行うという情報は、当事者の二人がそう話していたのを聞いた人間によって瞬く間に生徒間に知れ渡っていった。

廃寮での一件から数時間後、風紀委員に連行された二人は校長とクロノス教諭から立ち入り禁止区域に侵入したとして『退学』を言い渡されたのだ。すかさず十代が何とか退学を取り消してもらうよう頼み込んだ結果、待っていたようにクロノスから提案されたのが制裁タッグデュエルーー要はドロップ・アウト二人をまとめて退学にさせてやるノーネ、的な考えなのだろう。何故ここで不審者がいたことを伝えなかったのかが非常に謎だが。

 

「それで、自分をここに呼んだのはどのような用件で?」

 

現在、俺は呼び出しを受けて校長室へと足を運んでいた。ここには部屋の主である鮫島校長の他に十代達と同じレッド生である前田隼人とブルー女子の天上院明日香がいる。

 

「ええ、君を呼んだのは他でもありません。昨日の夜遅くに遊城十代君と丸藤翔君が立ち入り禁止指定されている場所に入ったが為に、退学を賭けた制裁デュエルを行うことは知っていますか?」

「今アカデミアではその話題で持ちきりですからね。道すがら歩いてるだけでも生徒達の話が耳に入りますよ」

 

鮫島からの問いをやれやれといった様子で無難に返した。

 

「彼らには立ち入り禁止区域に侵入した罰を受けてもらう、という風紀委員の意志です。私としてはいきなり退学に追い込むのはどうかと思いましたが、私だけの力では風紀委員の決定を変えることはできませんでした…」

 

鮫島は申し訳なさそうにそう告げる。それに関しては別に鮫島が気に病む必要はなく、むしろ彼らを止めようとせず同道した俺にも責任はある。

 

「それについてはもう決まってしまったこととして彼らに頑張ってもらうしかありません。十代はもとより翔もデュエルアカデミアの生徒、自分に降りかかる火の粉は自分で払うしかないですから」

「むぅ…。風紀委員で決まったんじゃ、オレ達にはもうどうしようもないんだな…」

「そうね…。後は十代と翔君を信じるしかないわね」

 

直談判に来ていたであろう隼人と明日香も俺の言葉を聞いて諦めがついたらしい。彼らとしても歯がゆい気持ちだろうが、組織で決められたことをいち学生が覆せることはそうない。俺としてもその場に居合わせられなかったことは悔しい。せめて原作のように二人が力を合わせて乗り切ってくれることを願おう。

 

「それでですね。我々にその情報を提供した者によれば、君も十代君達とは別に、廃寮へ侵入するのを見たというのですが……それは本当なのでしょうか?」

 

うん?、と俺は疑問に思った。十代と翔の方はてっきりクロノス先生の陰謀だと分かっているつもりだったが、鮫島校長の口ぶりからすると別人の可能性がある…?それともクロノス先生が俺に何かしらの恨みを持ってる故に俺にもターゲットを向けてきたのか。

 

「もしそうだとしたらどうするんです?」

「その場合は十代君達と同じように制裁デュエルを受けてもらうことになるでしょう。現に風紀委員の方でも、制裁デュエルを受けさせるべきだという意見で一致しているそうです」

「そんな…⁉︎」

「待ってください…!さっきも言いましたがあの場所には私と隼人君もいました!何故十代と翔君だけでなく亀崎さんも…!」

 

一度は納得していた前田と天上院が再び鮫島校長に食ってかかる。天上院はともかくまだ直接会って一日も立っていない前田が食らいつくのは意外だ。もしかしたら十代辺りから俺の話を聞いていたのかもしれないし、後で少し聞いてみるか。

 

「目撃情報があったのは彼ら三人だけで、我々はお前達のことを聞いていない」

 

すると背後の扉が開くのと同時に、緑の制服を着たいかにも厳しそうな女性が入室してきた。確か十代と翔の元に向かった風紀委員のリーダー的な人だったか。

 

「亀崎賢司。お前をこのデュエルアカデミアの生徒として扱う以上、あの二人と同じようにお前にも制裁デュエルを受けてもらう。これに負ければ無条件で退学ーー追放になるが、異論はないな?」

「別にいいですよ?俺が廃寮に入ったのは事実ですし」

 

有無を言わさぬといった態度で告げてくる風紀委員にあっさり応じたことに前田と天上院から驚きの声が上がる。これが普通の学生だったなら慌てるなり弁明するなりと抵抗するだろうが、事実なのだから否定したってしょうがない。それに制裁デュエルというチャンスまで与えられるので、要はそれで勝ってしまえばいい話だ。

 

「本当にいいのかね?君ほどの腕となれば、このアカデミアにおいてトップクラスの生徒が相手となるのは確実と言えます。君はそれでも構わないと?」

「もちろん。その相手が俺の前に立ち塞がるというのなら、そいつをなぎ倒すまでですよ。そいつがトップクラスだろうと無敵という訳ではないですからね」

 

右手で握りこぶしを作りながら承諾の意志を伝えた俺は、そのまま校長室を後にする。今度のデュエルはアカデミアに残れるかどうかのデュエル……これに負けようものならあの海馬社長に何を言われるか分かったもんじゃない。勝つ為にも俺の持ちうるカードと情報をフルに使ってデッキを構築しなければ。そう決心すると足は自然と動きを速め、ブルー寮の自室へと向かっていった。

 

〜〜〜〜〜〜

 

ブルー寮にある一人で使うにはやや広すぎる自室。その一角にある机の上には、多種多様なカードが詰め込まれているジュラルミンケースから取り出されたカードが散りばめられている。そのどれもが様々なテーマデッキのキーカードだったりコンボのパーツとなるカードで、それらを眺めて構築するべきデッキを思考しているのだ。

 

「ん〜、どんなデッキにするかなぁ…」

 

が、いかんせん相手が誰になるのか想像がつかないのが地味に痛い。十代と翔の場合は武藤遊戯と闘ったというDM時代の兄弟デュエリスト・迷宮兄弟で間違いないだろうが、自分も同じ……とは考えにくい。実力のあるデュエリストと言うのであれば昆虫使いの『インセクター羽蛾』や恐竜族を扱う『ダイナソー竜崎』辺りが無難と言えるが、ネットによれば現在の彼らはプロリーグに籍を置いているらしいので制裁デュエルの為に態々ここに来るとは思えない。もしくは全く知らない誰かか……仮にそうなるとするなら、出来れば美人の女性がいいなーーなんて思ったり。

 

『これまで通りに私と“青眼の白龍”で粉砕!ーーとはいかないのですか?』

「それもいいんだが、いかんせんワンパターンな気がしてな。そろそろ別の闘い方を……ってどうしたんだそいつは」

 

カード達と睨めっこしていると後ろに“青き眼の乙女”が霊体化して現れたので答えながらそちらに向き直る。そして一番に目に入ったのは、“乙女”の腕に抱き抱えられた“バニーラ”だった。

 

「いえ…あれ以来から無性に抱っこしたくなりまして……。でもこの子、モフモフで抱き心地がすごくいいんですよ」

 

満面の笑顔で嬉しそうに語る“乙女”。対する“バニーラ”は暴れるでもなく、与えられたのであろうニンジンをポリポリと齧りながら大人しくしている。なるほど、ニンジンに釣られたわけか。

 

「お前は楽でいいな…。こっちは制裁デュエルに向けてのデッキを考えなきゃならんというのに」

『まあワンパターンがいただけないのは確かですね…。でも私としてはそれでも構わないんですけど』

「いっそのこと【ドラゴン族】から離れてみるのもアリかとも考えてるんだが、“乙女”はどう思う?」

 

特に深い意味もなく聞いたつもりだった。だが“乙女”はその次の言葉を繋げず、ゆっくりとすぐ横のベッドに腰掛けた。

 

『私はマスターがやりたいようにやるのが一番良いと思います。どんなデッキを組むのも貴方の自由……そして私達は、そんなマスターを微力ながらも支援するまでですから」

 

…なんとも穏やかな口調で言い切ってくれる。カードに宿る精霊として、己を選んでくれたことを感謝し共に闘うとーー実際に面と向かってそう言ってくれるのはとても嬉しいことだ。

だが今の俺にはそれを素直に喜ぶことができなかった。

 

『……皆寂しがっていた』

『…ドラゴンばかり使っている貴方にいつ見放されてしまうのかと』

 

昨夜に廃寮で会った精霊ーー幽鬼うさぎが言った、俺の持つカード達の不安が脳裏をよぎる。元いた世界じゃ精霊の姿が見えないどころか声すらも聞こえないのが当たり前だ。故に無機物として杜撰な扱いをされることも珍しくはない。もしそのように扱われているカードに意思があったらーーなんて思う時もないことはなかったが、所詮は『もしも』の話……とあまり深く考えることはなかったのだ。

 

(寂しい……か)

 

こっちの世界じゃ社会の大部分に関わる重要な手段であるデュエルモンスターズも、元いた世界ではただのカードゲームに過ぎない。デュエリストだった彼らは時が経つにつれて『遊び』から離れていき、カード達は幽鬼うさぎが言った通りの最後を迎えるのを待つしかない。俺の周りにいた奴らも次々とデュエリストを辞めていき、気づけば誰もいなくなっていって……残った楽しみといえば新しいカードを集め続ける、終わりのない『コレクター』だけだ。

 

(……分からなくもないか。とりあえず勝たなきゃならない時以外はドラゴン以外のデッキを使うようにしてみるか。幸いここならテスト相手に不自由しないしな…)

 

思考を纏めたところで再び机上のカード達に目を通す。

“ブラック・マジシャン”、“ガーディアン・エアトス”、“邪帝ガイウス”といった強力なモンスターから、“バニーラ”や“霊使い”といった様々なモンスターを眺めて構築するデッキを思案するわけだが、こうもカードが多いとどんなデッキを作ろうか迷ってしまうな。ネタに走り過ぎることがないよう、ある程度は闘えるものにしなければ。

 

『……あの、マスター?』

「うん?」

『ドラゴン族から離れることには構いませんが……私のことは忘れないでくださいね?私もマスターの精霊なんですから…』

 

“乙女”はベッドに腰掛け顔を俯かせたまま縋るように呟く。同じ精霊として彼らに同情したのか、それともいずれは自分も同じ道を辿ることになる得る不安からか。

当たり前だーーと言おうとした瞬間、傍に置いていたPDAが鳴り始める。手にとってみればその相手は天上院明日香だった。

 

『えっと……亀崎さん。今、大丈夫でしょうか?』

 

普段とは違う微妙にハッキリしないような声色だ。彼女にしては少し珍しい。

 

「ああ。問題ないが何かあったのか?」

『いえ。十代と翔君の様子が気になって見に行こうと思ってるんですけど、亀崎さんも一緒に行きませんか?あの二人に何かしらのアドバイスを与えられれば、この学園に残る可能性もより大きくなると思うんですけど…』

 

天上院からの用件は、制裁デュエルに臨む二人への助力だった。恐らく自分を助けてくれた人物がここを去るかどうかという申し訳なさから頼み込んで来たんだろう。天上院の言う通り、俺が相手となるであろう人物のことや、デッキ構築にアドバイスを入れられれば彼らはより勝ちやすくなるかもしれない。

しかしその結果はただ勝つ『だけ』だ。特に意気消沈している翔にはこの制裁デュエルで、僅かにでも成長してもらわなければならない。俺が何かしらのカードを貸してもそれは翔の成長の足しにはならない。最悪カードパワーに魅入られておかしなことになりかねないからなぁ。

 

「今は制裁デュエルに向けてのデッキ調整をしてるところなんだ。すまないが先に行っててくれるか?」

『ええっと、それがそうもいかなくて……』

 

俺が同行しないことに問題があるのか、やっぱり今の天上院は歯切れが悪い。いったいどうしたというのか。

 

『ーー私の声が聞こえるかしら、亀崎さん…?』

 

突如PDAから聞こえてきた怒りを孕んだ声。その主はPDAを持っている天上院が隣をちらっと伺ったことから、すぐ横にいるようだ。しかも聞き間違いじゃなければこの声は……。

 

「その声……藤原か?」

『明日香から貴方が制裁デュエルを受けることを聞いたわ。とりあえずそれについて話があるから合流すること……いいわね?』

 

棘のような鋭い物言いが俺の耳に突き刺さる。厳密に言えば彼女もあの廃寮に入った一人ではあるものの、あの時は不可抗力でもあったし態々面倒事に身を投じさせる必要もないと判断した上で語らなかった。もしこっちもタッグデュエルだと言うのであったなら、遠慮なく巻き込むつもりであっただけで。

藤原からはそれっきりで通信が打ち切られる。さすがに無視できる雰囲気ではないみたいなので、ひとまずデッキ調整は後回しにすることにして二人に合流することにしたのだった。ーーふと、思いついたことに俺は頭を掻く。

 

「…って、どこに集まるのか聞いてないし」

 

〜〜〜〜〜〜

 

藤原からの淡々とした集合命令を受けた俺は、とりあえずアカデミア校舎に続く舗装された道の手前で待つことにした。昨夜に十代達と合流した場所である。その場で少し待っていると校舎の方から藤原が歩いてくるのが見えた。

 

「ちゃんと来たのね。偉いわよ」

「っ、無視したら後が怖そうだからな…。そういえば天上院は?」

 

合流早々、笑顔を向けてくる藤原の気迫に負けてつい顔を逸らしてしまった。表情は笑ってるんだけど目が笑ってないんだもんよ…。

 

「明日香はボウヤ達が心配だからってレッド寮に行ったわ。それよりも、まずはこっちの話が先よ?」

「お、おう…」

 

藤原の静かな迫力に若干押されながらも本題に入る。内容はクロノス教諭が十代達の相手を誰にするか既に決まっているらしく、より確実に退学に追い込む為に伝説のデュエリストを当てる旨の独り言を聞いたらしいのだ。

 

「伝説のデュエリストねぇ…」

「驚かないのね?伝説のデュエリストが相手なら、貴方はともかくあのボウヤ達には相当厳しい相手になる筈よ」

「それを聞いた時点で相手が誰なのか分かり切ってるからな。だがだからってあいつ等の退学が確実になる保証はどこにもない……が、翔がそれを知ったらより悲観的になるだろうな」

 

藤原の予想はほぼ当たりと言ってもいい。藤原の言ったことが正しいならばこれで十代達の相手は迷宮兄弟で決まりだろう。だったら変にアドバイスすることなく、こっちはこっちで専心した方がいい。

だがここで問題となるのが丸藤翔だ。彼は臆病な気質の為に今回のことに消極的で、原作においても自分が十代の足を引っ張るからと一人アカデミアを去ろうとしたくらいだ。結果的に十代が引き止めたことで事なきを得たが、この世界においてそれ以上の何かをするとも限らない。少し気を配っておいても損はしないだろう。

 

「……ところで、その話はどうやって知ったんだ?クロノス教諭のことだから誰にも聞かれない場所で呟いてるのを聞いたのか?」

「そんな出歯亀みたいなことしないわよ。この子にちょっとばかり頼んだだけよ」

 

俺の疑問に藤原は一枚のカードーー“黄泉ガエル”を取り出すと、その隣に天使の輪っかをつけた両手両足が黒と黄色のストライプ模様の黄色いカエルが現れた。

 

『ゲロ』

「“黄泉ガエル”の精霊…?そういえば精霊の声は聞こえるんだっけか」

「聞こえると言っても極一部のモンスターだけよ。あの廃寮の一件以来は姿も見えるようになったけれど」

『ゲロォ』

 

“黄泉ガエル”はカエルらしくゲロゲロと鳴いているが、それ以外の言葉を喋ろうとはしない。藤原はどうやって“黄泉ガエル”の言葉を理解したのか。“黄泉ガエル”につられるように“乙女”も霊体化してじっと眺め始める。

 

『可愛い蛙ですよね。他の蛙もこれぐらい可愛いかったらいいんですけど…』

『ゲロ?』

「あら。貴方って蛙が苦手なの?』

『“ミ・ガエル”とか“ガエル・サンデス”がちょっと見た目で無理でして…。あ、あと“鬼ガエル”もあの色合いが……分かってるんですけどどうしても…』

「あらそう。……ふふ、良いこと聞いちゃったわ」

 

どんよりとする“乙女”と黒い笑いを浮かべる藤原によって、いつの間にか話題がすり替わって見事に脱線してしまった。とりあえず“乙女”がちゃんと女の子してることを再確認しながら、俺は気になっていたことを口にする。

 

「なぁ藤原。どうやって言葉を理解したんだ?」

「最初は私も何を言ってるのか分からなかったけど……意識を集中すればある程度は何を言ってるか分かるみたいよ」

 

それを聞いて俺は十代と“ハネクリボー”のことを思い出す。そういえば十代もクリクリしか言わない“ハネクリボー”と何気なく会話するんだよな。そこを考えるとこの二組は似た物同士ってことか。

 

「話が逸れたけど、あのボウヤ達が伝説レベルのデュエリストと闘うとしたら、貴方の方も同じレベルの相手と当たる可能性があるわ。そこに関しては勝つ自信あるの?」

 

おそらくこれが本当の本題…。藤原は俺のことを『そこらのデュエリストよりは強いけど、伝説には及ばない』と考えているのだろう。まぁ実際はちょっとデュエルの技術が進んでるだけでどこにでもいる一般デュエリスト(持ってるカードがちょっと多い)なわけだが、ここではKC社お抱えのデュエリストとして来ている以上デュエルを提示されたら受けるしかない。

 

「逃げたところで物事が好転する試しはないんだ。だったら伝説だろうがなんだろうが闘って勝つまでだ」

 

それ以前に“青眼”を社長に取られたくないしーーそう付け加えそうになったがすんでのところでなんとか口を閉ざす。藤原は俺のやる気を感じてくれたのか、クスリと小さく笑った。

 

「……ふふ、そう言ってくれると思ってたわ。私に勝ったぐらいだもの、これぐらいの窮地のひとつやふたつは乗り越えてもらわないと♪」

 

俺の意気込みを聞いて満足したのか藤原は笑顔を向けてくれる。どうやら知らずの内に藤原から期待されてしまっていたらしい。

 

「やれやれ、こりゃ余計に負けらんないな…。デッキの方も真面目に取り組まないと」

「そういえばさっきはデッキを構築している途中って言っていたわね。どんなデッキかは知らないけれど、制裁デュエルにはそのデッキで挑むつもり?」

「偶には他の奴を使おうかと思ってな。それで挑む訳じゃないんだが、気分転換も兼ねてやってたところだったんだ」

「ふうん……」

 

藤原は短く呟くと顎に人差し指を当てて何かを考え始める。何を考えているのかは分からないが、彼女も自分なりに俺のことを気にかけてくれていたようだ。それについては感謝するべきだろう。

 

「まぁ気にかけてくれたのは嬉しいよ。ありがとな」

「その様子だと、私の力は必要ないみたいね。ちょっと寂しいけれど仕方ないわね」

「いや、気持ちだけでも有難く受け取っとくさ。それじゃあ俺は寮に戻るからな」

 

肩を竦める藤原との話を終えた俺は寮へ戻るべく歩き始める。制裁デュエルの相手に関しては一抹の不安はあるものの、自分がデュエリストである以上逃げる訳にはいかない。何より藤原の気持ちを無碍にするわけにもいかないーー使うデッキをいち早く決める為、俺の足は自然と速くなっていった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「やっぱり…ボクにアニキのパートナーは無理なんだぁーっ‼︎」

 

オシリス・レッド寮の近くの崖下ーーそこでは賢司と同じく制裁デュエルに臨むこととなった十代と翔がデュエルを繰り広げていた。崖の上では同じレッドの生徒である前田隼人とオベリスク・ブルーの天上院明日香が成り行きを見守っている。

デュエルのきっかけは翔のデュエルの腕を見るためと真っ当な理由だった。しかしいざ始まってみると、モンスター効果を把握していなかったり一回の直接攻撃で戦意を喪失するなど甘さが所々で際立っていた。途中で隼人の激励を受けて立ち上がるも、引き当てた『パワー・ボンド』を兄に封印された過去に葛藤し使わなかった為に敗北という結果に終わってしまった。

翔が最後のターンで迷巡していたことに疑問を持った十代が問うも、翔は己の力不足に対する悲観をより深めてその場から逃げるように駆けだしたのだった。

翔が自分と違って苦しそうにデュエルをしていた理由がなんなのかーー明日香から翔がこのアカデミアにおいて最強の存在、『帝王(カイザー)』の異名を持つ丸藤亮の弟であることを知った十代は、翔が苦しむ原因となったものを確かめるべく、デュエルをする意志を固めるのだった。

 

「よ〜し!待ってろよ帝王‼︎」

 

意気揚々と丸藤亮とのデュエルを望む十代は拳を空へと高く突き上げる。そんな彼を見ていた明日香は今の十代では亮には敵わないと警告をしていたのだが、十代はそんなことを全く気にしていなかったことに良い意味で呆れていた。こんなにも素直にデュエルを楽しむ人間ならばもしかしたら……と。

そこで明日香は制裁デュエルを受けるもう一人の存在を思い出し、十代にそれを知らせた。

 

「えーっ⁉︎亀崎さんも制裁デュエルを受ける⁉︎あの人も廃寮に入ったってことか⁉︎」

「私も詳しくは分からないわよ…!会話のやりとりから、入ったのは確実みたいだけど……」

「ってことはもしかしたら、デュエルできねぇままサヨナラってことになっちまうのか⁉︎あ〜っ、それは嫌だ‼︎せめて制裁デュエルの前に亀崎さんとデュエルしてぇ…‼︎」

 

無類のデュエル好きである十代は未だ一度も闘っていない賢司とのデュエルを渇望するが、その声は波打つ音にかき消されてしまう。

 

「あの人なら帝王に会うよりも簡単にデュエルを引き受けてくれそうだけど、今は制裁デュエルに向けての新しいデッキを構築しているみたいよ?」

「マジか⁉︎あの人のデッキは幾つも見てきたけど、また新しいデッキを作んのか…!俺、ますます亀崎さんとデュエルしたくなってきたぜ‼︎」

 

新デッキ構築の情報を聞いて闘志をより激しく燃やす十代の顔は、まさにワクワクといった様子で微笑ましいものだ。先ほどまでの凛々しい顔が嘘のようである。

しかしまずは翔の問題が先決だと定めた十代は、明日香に別れを告げて校舎へと走っていく。賢司とのデュエルは制裁デュエルさえ乗り切れればいつでもできるが、まずは翔を何とかしなければそれすら危ういのだ。それに同じレッドの生徒として彼を見放すことはできない……自分のパートナーは翔以外にあり得ないのだから。

 

(翔、待ってろよ。お前の過去に何があったのか……兄ちゃんから絶対に聞き出してやる!)

 

 




実は五月中に完成していたことは絶対に言えない(震え)

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