遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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どうも、運命の決闘者編を二つ買って微妙な思いをした私です。
なんで“ロード・オブ・ザ・レッド”と占星術姫の儀式モンスターが当たらなくて、“騎士ヘル”と“騎士クリ”が二枚ずつ当たるんですかねぇ…。もしかしてこの二枚は確実に当たるとか?


VS幽鬼うさぎ もの言わぬ悲しみ

時刻は深夜を過ぎようとしている頃。鬱蒼と生い茂る森の中に放置されている廃寮の中では二つのデュエルが始まっていた。

ひとつは原作でもあった十代とタイタン。そしてもうひとつはーー亀崎と謎の精霊……。

 

◇◆◇◆◇◆

 

??? LP 4000

VS

賢司 LP 4000

 

「……私の先攻。…“バニーラ”を守備表示」

 

謎の精霊の右手にホゥ…とカードが握られるとあまりにも可愛らしい一匹のウサギがポンッ、と跳躍して現れた。モフモフでまるっとしたそのボディは、デュエルでなければ飛びついて撫で回したくなるくらいに触り心地が良さそうだ。

 

バニーラ

DEF/2050

 

「……一枚を伏せて終了」

「俺のターン、ドロー!“正義の味方 カイバーマン”を召喚!」

 

正義の味方 カイバーマン

ATK/200

 

“青眼”の頭を模したヘルメットを被った某社長に似た男が、フハハハと笑いながら決めポーズをとって召喚された。普通に腕組んで出てくるもんだと思ってたぞ…。

 

「“カイバーマン”の効果発動!このカードを生贄に、手札から“青眼の白龍”を特殊召喚‼︎」

 

青眼の白龍(1)

ATK/3000

 

およそ一ヶ月ぶりほどに使う“青眼の白龍”。あいも変わらずその青みがかった白いボディは、社長に倣ってつい「美しい…」と言いたくなる。

一方で向こうの精霊は“青眼”を感情のない目をもって見上げている。

 

「“青眼の白龍”で“バニーラ”を攻撃!滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)‼︎」

「…罠発動、“同姓同名同盟”。…場から選んだレベル2以下の通常モンスターをデッキからできるだけ特殊召喚」

 

攻撃対象となりビクビク震える“バニーラ”の両隣に、同じようにポンッと飛び出す二体の“バニーラ”ーーと思ったら一体が着地に失敗して尻餅ついてるし。

いかんいかん、涙目になってるのが可愛すぎて悶絶しそうだ…!

 

バニーラ x2

DEF/2050

 

「っ、攻撃続行だ“青眼”…‼︎」

 

口から放たれた高威力のブレスがか弱いウサギを無情に消し飛ばす。それを間近で見た両隣の“バニーラ”も互いに抱き合いながら完全に萎縮してしまった。なんだろうな、この罪悪感は…。

 

『マスター…!気持ちは痛いほど分かりますがこのデュエルに負けたら我々がどうなるか分からないんですからね…!ここは心を鬼にしてください!』

 

一見人畜無害そうなとっても可愛らしいウサギ……それにドラゴンの爪牙を突き立てるなんて、感じる罪悪感のほどは計り知れない。“乙女”もそこは分かってくれているんだろうけど、攻撃を指示するのは俺なんだ…!言い換えれば俺があのウサギを倒してるようなモンなんだよ!

畜生…今回のデュエルは動物好きには辛いぜ……。

 

「カードを二枚伏せてターンエンド……はぁ」

 

??? LP 4000

手札:4

モンスター:2

魔法・罠:0

 

賢司 LP 4000

手札:2

モンスター:1

魔法・罠:2

 

「……私のターン。…装備魔法“下克上の首飾り”を発動」

 

一体の“バニーラ”に眼をあしらった首飾りがかけられた。なんともミスマッチな掛け合わせである。

 

「…“バニーラ”を攻撃表示に変更」

 

バニーラ x2

DEF/2050 → ATK/150

 

「…バトル。…“首飾り”を装備した“バニーラ”で“青眼の白龍”に攻撃。…“首飾り”の効果で、装備モンスターと戦闘をする相手モンスターとのレベル差x500ポイント攻撃力アップ」

 

バニーラ

ATK/150 → 3650

 

攻撃宣言されるやいなや、“バニーラ”はどこから取り出したのか一本の丸いニンジンを持って天井ギリギリまで跳躍ーー落下する勢いをもって“青眼”にニンジンを叩きつけた…!パッと見はちっとも痛くなさそうなのだが、“青眼”が短い悲鳴をあげたのを見るにそれなりの痛みはあったみたいだ。

 

賢司 LP 4000 → 3350

 

「くっ…この瞬間罠カード“ダメージ・コンデンサー”を発動!手札一枚を捨て、受けた戦闘ダメージより低い攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚する…!攻撃力0の“青き眼の乙女”を特殊召喚‼︎」

 

青き眼の乙女

ATK/0

 

『マスターの心を攻めるとは考えましたね…。ですが私にそのような方法は通用しませんよ!』

「…………じゃあ攻撃」

 

ピシャリと言い切る“乙女”に精霊は試すように攻撃を宣言すると、もう一体の“バニーラ”がちょこちょこと“乙女”の前まで歩いていく。やがて目の前で止まったのを“乙女”が訝しげに見ていると、“バニーラ”がふいにコロン、と仰向けに寝転んだではないか。腹部をさらけ出す無防備なその愛くるしい姿を間近で見た“乙女”はーー

 

『……マスター』

「な、なんだ…?」

『この子連れて帰ってもいいですか⁉︎』

「そう言って結局俺に世話を押し付けるんだろうからダメだ‼︎」

『どうしてもですか⁉︎』

「ダメ‼︎」

 

ーー瞬時に“バニーラ”を抱き抱え、捨て猫を拾った子供になりおった…。確かに可愛いのは認めるが、そのカードは俺も持ってるんだからせめてそっちで勘弁してくれ…!

 

『あぅぅ…と、とりあえず私の効果を使いましょうか』

「まったく…調子を崩させないでくれ。えぇと、“乙女”の効果発動!攻撃対象になった時にその攻撃を無効にして表示形式を変更する!」

 

そしてデッキから“青眼の白龍”を特殊召喚するーー。

本来ならばそうなるのだが、今回は違った。

ほんの一瞬ーー。その僅かな時間で相手である精霊が“乙女”に肉迫し、所持していた得物で一閃したのだ。

 

『っ……⁉︎』

「なにっ…⁉︎」

 

何が起こったのか理解できない内に“乙女”が破壊され、唖然とするしかない。“乙女”が効果を発動した瞬間に奴が“乙女”を破壊した……。そういえば奴もデュエルモンスターズの精霊、ということはあいつのモンスター効果なのか⁉︎

ふわりと元の場所に戻ったソイツはその疑問に答えるように手札の一枚を見せてくる。

 

「…手札から私自身ーー“幽鬼うさぎ”の効果発動。…モンスター効果が発動した時、墓地に送ることでそのカードを破壊する」

「……なるほど、“乙女”が破壊されたのはそういうことか。それとお前は幽鬼うさぎって言うのか。聞かない名前だな…」

 

こくり、と頷く精霊ーー幽鬼うさぎ。一度も聞いたことのないことから、オリジナルモンスターか元いた世界で新しく出たモンスターだろう。しかも見間違いじゃなければ『チューナー』と書かれていたような…。

 

「…攻撃続行。直接攻撃」

「永続罠“リビングデッドの呼び声”発動!墓地から“青眼の白龍”を攻撃表示で特殊召喚!」

 

再度の攻撃宣言によって今度はよくある形の細長いニンジンを取り出す“バニーラ”。その小さい体で精一杯投げたニンジンは放物線を描くが、“青眼”に美味しくいただかれた。

 

青眼の白龍(1)

ATK/3000

 

「…二枚伏せてターンエンド」

 

ターンを終える幽鬼うさぎを見て、面白い奴だ、と俺は思った。おそらく幽鬼うさぎが使っているデッキは【ローレベル】で間違いはないだろう。基本その類のデッキにおいては真正面からの力比べはせず、魔法や罠で攻撃を防いだり直接攻撃してくるものだと思っていた。だが幽鬼うさぎはレベルの低いところを利用し“バニーラ”を展開、さらに装備魔法によって“青眼”の攻撃力を上回ってきたのだ。

力が抜けかけている右手になんとか力を入れ直す。どうやら少し甘く見ていたみたいだ…。このデュエル、油断すればこっちが負けるーー!

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード“トレード・イン”を発動!手札の“青眼の白龍”を捨て、デッキから二枚をドロー!そして“死者蘇生”を発動し、今捨てた“青眼”を復活させる!」

 

青眼の白龍(2)

ATK/3000

 

「まずは装備魔法をつけていない方に攻撃だ!滅びの爆裂疾風弾‼︎」

 

幽鬼うさぎ LP 4000 → 1150

 

「続けてもう一体も攻撃する!そして手札から速攻魔法“エネミーコントローラー”を発動し、“バニーラ”を守備表示に変更!これで“下克上の首飾り”の効果を恐れる必要はない…!」

 

バニーラ

ATK/150 → DEF/2050

 

二体の“青眼”によって幽鬼うさぎの場にモンスターの姿はなくなり、大幅にライフを削ることができた。だが大きなアドバンテージを得られようと、幽鬼うさぎが使っているカードは俺が持つカードプールの中にあるものも含まれているので簡単に逆転されることも珍しくない。ここは逆転されようとせめて絶望的な状況にならないことを祈ろう。

 

幽鬼うさぎ LP 1150

手札:1

モンスター:0

魔法・罠:2

 

賢司 LP 3350

手札:0

モンスター:2

魔法・罠:0

 

「……楽しい?」

「なに?」

「……デュエル、楽しい?」

 

いきなり何を言い出すのか、幽鬼うさぎがポツリと聞いてきた。質問の意図は分からないが、少なからず今感じていることを素直に伝えてみる。

 

「なんでそんなことを聞いてくるのか分からんが、そうだな……どっちかって言ったら楽しくはないかな」

「…どうして?」

「今みたいに人質を取らずに真っ正面から挑んでくれたなら純粋に楽しかったろうな、ってことだ。お前がどうして俺が過ごしてる部屋に出没していたのかは知らないが、少なくともこんな悪役紛いのことをされちゃ楽しいとは思えないだろ?」

 

幽鬼うさぎの後ろで未だウサギの霊に囚われたままの藤原を見つつも、至極真っ当なことを言ったつもりだった。全員が全員とは言えないが、幽鬼うさぎがやっているのは現在十代の相手をしているであろうタイタンと何も変わらない。明日香の悲鳴が未だないことに気付いたがあの十代のこと、自分から最奥へと向かうことだろう。

 

「…でも、デュエルできて嬉しい?」

 

そんな俺の気持ちを知らずか幽鬼うさぎは表情を微塵も変えずに別の質問を投げかけてくる。この世界に来た最たる理由……デュエルに飢えていた俺の願望を何故知らない筈の奴が知っているのか。

 

「…どういう意味だ」

 

俺がそう言うと幽鬼うさぎは顔を伏せてしまった。前髪の陰に隠れたその表情は部屋の暗さもあって伺い知ることはできず僅かな沈黙が流れた。

 

「……皆寂しがっていた」

「…?」

「…強くないから……扱うのが難しいから。…その理由で皆埃をかぶって、忘れ去られてーー最悪そのまま捨てられていく。…貴方の所有しているカード達も、皆それを恐れてる。…いつもドラゴンばかり使っている貴方にいつ見放されてしまうのか、と」

 

幽鬼うさぎが語ったのはあまりにも突拍子のない理由だった。普通の人間ならば『オカルトじみている』と考えるだけで気にも留めない、そんな理由。だが今の俺には彼らの不安を無視することができるとは思えない。

俺の持っているカードは言わばデュエリストとして歩んできた道のようなものだ。新しいパックが出るたびに買い求めたことで集まったなかで使わずにおくカードはありはしても、捨てるなんてことは絶対にあり得ないことだ。しかし幽鬼うさぎの言うように使われないことで不安に感じるモンスターがいることも否定できない。

 

「…確かに俺はここ最近ドラゴンばかりに注視していた。だがだからといって他のカード達を使わないからと捨てるようなことはしない!」

「…重要なのはそこじゃない。…彼らは自分達を使ってほしいと言っている。…ドラゴンばかりじゃなく自分達も少しでも貴方の力になりたい、と。使わずにしまい込むだけなのは実質捨てているのと変わらない」

「ぐ…っ」

 

幽鬼うさぎの言葉に反論できないーー。奴の言葉はケースの中に押し込められたカード達の思いを代弁している。幽鬼うさぎもデュエルモンスターズの精霊……奴が何度も部屋に現れたのは、使われないカード達の憤りを感じ取っていたからなのかもしれない。もしそうだとしたら、知らない内に彼らは俺への不満を蓄積させていたということになる。

かつてはドラゴン以外にもデッキを組んでいたことはあった。“ブラック・マジシャン”や“チェスデーモン”、“地縛神”に“シンクロ”、“エクシーズ”といった多様なデッキを都度組み上げていたのだ。しかし今となってはそれらも解体され、ケースの中で眠る日々……幽鬼うさぎの言う通り不安を持たれても仕方のないことかもしれない。

 

「…私のターン。魔法カード“トライワイトゾーン”を発動。墓地に存在するレベル2以下の同名モンスターを三体特殊召喚」

 

部屋の床から顔だけを出す三体の“バニーラ”。キョロキョロと周りを見渡してからいそいそと穴から抜け出してきた。

 

バニーラx3

DEF/2050

 

「…この子達も同じ。『例えどんな役割だろうと、少しでも貴方の力になりたい』……それがこの子達の思い。…罠カード“ミス・リバイブ”、貴方の墓地から“正義の味方 カイバーマン”を特殊召喚する」

 

“ミス・リバイブ”によってこちらの場に召喚される“カイバーマン”。“ミス・リバイブ”とは相手の墓地のモンスターを相手の場に召喚するという、一見意味を見出しにくいカードである。

このプレイングに関して俺はどことなく察しがついていた。同名モンスターが三体にこっちのモンスターも同じく三体……この条件で発動されるカードを俺は知っている…!

 

「…もう一枚、罠カード“スリーカード”。…自分の場に同名モンスターが三体いる時、相手のカードを三枚破壊する」

「態々こっちのモンスターの数を増やしたのは、やっぱりこの為か…!」

「…どんなに弱くても、他と合わせればどんなに強力モンスターが相手でも勝てる。…私は“バニーラ”二体をリリースして“ラビードラゴン”をアドバンス召喚」

 

ラビードラゴン

ATK/2950

 

『リリース』と『アドバンス召喚』ーーどちらもこっちの世界に来てから久しく聞いてなかった単語だ。これらが浸透したのはシンクロ世代からなので、それ以前の代であるこの世界ではそれぞれ『生贄』及び『生贄召喚』と呼ばれていた。確か響きが悪いからって変えたんだっけか…?

そんなことを考えていると、幽鬼うさぎのフィールドにはウサギのような耳と体毛を持ったドラゴンが召喚される。微妙に“青眼”に届かない攻撃力ではあるが、それさえ除けば充分に代わりを務められるモンスターとも言えるだろう。

 

「…“ラビードラゴン”で直接攻撃」

 

ラビードラゴンの強靭な脚による飛び蹴りが容赦なく俺に襲ってくる。ウサギの名を冠するだけあってその衝撃にたまらず吹っ飛ばされ仰向けに倒れてしまった。背中に感じる痛みがじんわりと全身に巡っているせいか、立ち上がろうにも力がうまく入らない。

 

賢司 LP 3350 → 400

 

『マスター…!』

「だ、大丈夫…だ。くそ、身体に力が入らねぇ……どうなってんだ…」

 

墓地にいるからなのか姿を見せず声で心配してくれる“乙女”に対して強がるように言ったつもりだったのだが、起き上がろうとしても身体に力が入らないのだ。さっきのライフが僅かに減った時も力が抜けていくような感覚は覚えている。

まさかとは思うがーー俺の中の最悪の予想を見透かしたかのように、幽鬼うさぎがその暗い目にこちらを捉えながら口を開く。

 

「…いつからこれが闇のゲームじゃないと錯覚してたの?」

 

◇◆◇◆◇◆

 

「…いつからこれが闇のゲームじゃないと錯覚してたの?」

 

目の前いる存在が口にしたその言葉に、私ーー藤原雪乃は混乱していた。いや、それ以前に今自分が置かれているこの状況がどういうことなのか、誰かに聞きたいくらい。

 

(確か……廃寮の前であのタイタンとかいう男が現れたかと思ったら、何かを光らせてそれで…)

 

何かに身体を操られて廃寮の中のこの場所まで連れてこられてーー私の記憶ではそこまでしか覚えていない。彼ーー亀崎さんも操られた私を追ってここまで来てくれたのはちゃんと覚えている。そして今、目の前で彼とデュエルしているこの子が私を操った張本人と見て間違いはないみたいね。

 

「なんだと……これが…闇のゲーム…?」

 

なんとかといった様子で上半身だけを起こした亀崎さんが、信じ難いという声色で目の前の存在に聞き返す。闇のゲーム…確か伝説の決闘者、武藤遊戯が決闘王に輝いた【決闘街(バトルシティ)】において、幾度か行われたと噂されていた文字通り命を賭けた闘い……目の前で行われている二人のデュエルがまさにそれなのだと言うの?

 

「…そう。…事実、今の直接攻撃によるダメージで身体に力が入らない筈。…ライフが減れば減るほどに、貴方の魂はその分闇に蝕まれているのだから」

 

あまりにも現実味がなく信じ難いーーだけど現に彼は起き上がるのに時間をかけている。いや、かけなければ起き上がれないほどに弱っていると言うべきなのか…。

彼は何とか立ち上がることができたけれど、体力を消耗しているからか顔に疲労の色が見て取れる…。

 

「だからどうした…!このデュエルに勝てば、何の問題もないだろう…!」

「…その通り。…でももし負けたらーー貴方はこのカードに封印される」

「……懐かしいな。敗者の魂をカードに封印する、ってやつか」

 

そういって懐から取り出したであろうカードを見せる何者か。この場所からじゃ見えないから分からないけれど、それを見た亀崎さんは何かを確信したかのような表情になった。

「懐かしい」…ってどういうこと?まさか彼は闇のゲームを知っていたというの?もしそうだとすればーーなんてそんなことを考えている場合じゃない…!さっき彼は「勝てば問題ない」と言っていたけど、デュエルの状況はあまりにも絶望的だわ。この子の場には攻撃力2950の“ラビードラゴン”がいるのに対して、亀崎さんは場はおろか手札すら一枚もカードがない状態……。こんな圧倒的不利な状態を次に引くカード一枚でどうやって覆すっていうの…!

 

「……怖くないの?」

「怖いに決まってるだろ。本当にカードに封印されるのかは知らないが文字通り運命を賭けてんだ、恐怖するのは当たり前だ。もっとも、だからって藤原を見捨てて逃げるわけにはいかないがな」

 

まるで物語の主人公のような台詞を言い切った亀崎さんはデッキに指を添えた。彼はまだデュエルを続けるつもりなのだろう。普通なら焦りのひとつくらい見せる筈のこの状況においても、彼は微塵もその様子を見せず自然体のままでいる。

彼には危機感というものがないのかしら?私を助けようとしてくれるのは有難いけれど、逆転できるとは到底思えないもの。それなのに虚勢を張って強がるなんてーー

 

「本当、馬鹿な人……」

 

伏目がちにポツリと呟いた私はそのまま顔を上げず、このデュエルの成り行きを耳で聞き届けることにした。

彼が負けるのを見たくないわけじゃないけれど、それでもせめてーー本当に逆転できるカードがあるのならそれを引けるように、私は心の中で小さく願った。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「俺のターン、ドロー!」

 

先の見えない道へと一歩を進めるようにカードを引く。この一枚で俺が闇へと落ちるか、それとも命を繋ぎとめるか……意を決して引いたを確認する。

 

「魔法カード“貪欲な壺”を発動!墓地に存在するモンスター五体をデッキに戻し、その後カードを二枚ドローする!」

「…おかしい。…貴方の墓地のモンスターは四体の筈。…なんで発動できるの?」

 

俺が発動した“貪欲な壺”を見て幽鬼うさぎはコテン、と首を傾げる。ふむ、もしやこれは遊戯王でよくある『アレ』をやるべきところかな?

 

「いいや。俺の墓地にはちゃんとモンスターが五体いる」

「…そんな筈」

「おそらく幽鬼うさぎが把握しているのは“青眼”二体と“カイバーマン”、そして“乙女”の四体だろ?だがそいつらの他にもう一体いるんだよ」

 

墓地スペースから引き上げられる五枚のモンスターカード。その内の四枚は今言ったように幽鬼うさぎが把握していたものだったが、残りの一枚ーー“アレキサンドライドラゴン”を見た瞬間に幽鬼うさぎが僅かに目を見開く。

 

「ッ、いつの間に…!」

「“ダメージ・コンデンサー”を発動した時だ。あの時に手札を一枚捨てただろう?墓地から選んだ五枚をデッキに戻しシャッフル、新たに二枚を引く!ーーそして“青き眼の乙女”を守備表示で召喚!」

 

青き眼の乙女

DEF/0

 

シャッフルを終えたデッキから引いた二枚を確認する。ゲームエンドに持ち込めはしないものの、現状においては最良の引きではあるだろう。特に狙ったように来てくれた“彼女”には感謝するべきだ。

 

「先ほどは驚きましたが、もう遅れはとりません!」

「さらに魔法カード“禁じられた聖槍”を発動!“乙女”の攻撃力をエンドフェイズまで800ポイント下げる代わりにこのターンの間、他の魔法・罠の効果を受けなくなる!」

 

場に現れた聖槍を手に取ると、意外にもこなれた手つきで槍を回す“乙女”。もしかして“乙女”って武闘派…?

 

「違います!マスターが何度も槍を持たせてくるものですから、扱いにすっかり慣れてしまっただけです…!」

 

あ〜…そういえば元いた世界にいた時からそうだったっけか。でも武器を持つ持たない関係なく戦う女性というのは純粋にカッコいいと思うんだけどな、“コマンド・ナイト”とか。ちなみに“乙女”の攻撃力は元から0なのでこれ以上攻撃力が下がることはない。

 

「カード効果の対象となったことで“青き眼の乙女”の効果を発動!デッキから“青眼の白龍”を特殊召喚‼︎」

 

青眼の白龍(1)

ATK/3000

 

「“青眼の白龍”で“ラビードラゴン”を攻撃!」

「…ッ!」

 

幽鬼うさぎ LP 1150 → 1100

 

よし、これで当面の脅威は乗り越えたーーあぁヤバイ……ちょっと気を抜いたらすぐにへたり込みそうだ。自分の両足に喝を入れながらも「どうだ」と言わんばかりに視線をやると、幽鬼うさぎは逆転されたことが信じられないといった様子で口を開いた。

 

「……信じられない。まさか本当に逆転するなんて…」

 

しかしその口から聞こえたのは幽鬼うさぎの声ではなかった。否、正確にはその隣後方から聞こえた声は未だ囚われている藤原のものだった。

 

「藤原…!気がついてたのか?」

「少し前から、ね。…それにしても貴方の引きの良さには驚かされるわ。普通だったら手札一枚でひっくり返すことなんてできないのに……」

「…それには私も同意。…ちょっと興味湧いてきたかも」

 

あれ、なんか藤原はともかく幽鬼うさぎに興味持たれたんだけど?決して嫌というわけじゃないんだけどこれって闇のゲームの途中だよな…、そんなこと言われちゃ倒しずらくなるだろ…!

 

幽鬼うさぎ LP 1100

手札:0

モンスター:1

魔法・罠:0

 

賢司 :400

手札:0

モンスター:2

魔法・罠:0

 

「…私のターン。ーー…モンスターを守備表示でセットしてターンエンド」

 

幽鬼うさぎのターンは予想通りにさっさと終わってしまった。ただ、セットされたあのモンスターはかなりの曲者だ。単なる時間稼ぎとして出されたのなら心配はないがもしリバース効果モンスター、それもダメージを与えてくる効果だったなら下手をすればライフが0になってしまう。かといって後回しにしても解決することはなく、最悪それが自分の首を絞める結果に繋がることもあり得る…!

 

「…これが貴方のラストターン。…このターンで私に勝たないと、貴方に勝ち目はほぼなくなる。…その証拠に、私がセットしたモンスターは“デス・ウサギ”。…このモンスターはリバースした時、私の場にいる通常モンスター1体につき貴方に1000ポイントのダメージを与える効果がある」

「えっ…⁉︎」

「…例え“青眼の白龍”で“バニーラ”を倒しても、次のターンで通常モンスターを引けば私の勝ち……そして貴方はカードに封印されるーー」

 

じっと見ていると吸い込まれそうな闇を内包した幽鬼うさぎの目は、獲物を定めた狩人のように俺を捉えている。どうやらここが本当の運命の分かれ道のようで、俺の周りにはウサギの霊魂がいくつも飛び交い始めているのを見てそう確信した。

 

「大丈夫ですよマスター。いつも通り私がついています、ですからマスターも普段通りに勝利を目指してください!」

「…当たり前だ。こんなところで負けてカードに封印されるなんて真っ平御免だからな!そういうわけだ幽鬼うさぎ、俺のターンでこのデュエルを終わらせてもらうぞ‼︎俺のターン、ドロー‼︎」

 

“乙女”の励ましを受けてデッキから勢いよくカードを引いた俺は、そのカードを確認すると勝利を確信した。幽鬼うさぎが伏せたのが本当に“デス・ウサギ”であれば、このモンスターが来てくれたのは非常に嬉しい。

 

「俺は“暴風竜の防人”の効果を発動!自分の場のドラゴン族通常モンスターにこのカードを装備!“暴風竜の防人”を装備したモンスターが守備モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が上回っていれば貫通ダメージを与える!“暴風竜の防人”を装備した“青眼の白龍”で守備モンスターを攻撃!滅びの爆裂疾風弾‼︎」

 

“青眼”の攻撃対象となったカードが表となり姿を現したのは、世間で知られている一般的なものよりも若干目つきの鋭いウサギーー幽鬼うさぎの言った通り“デス・ウサギ”だった。

 

デス・ウサギ

DEF/1900

 

“青眼”のブレスに“デス・ウサギ”はなす術なく破壊され、その衝撃はそのまま幽鬼うさぎへと襲いかかっていく。

 

幽鬼うさぎ LP 1100 → 0

 

幽鬼うさぎのライフが0となったことで、デュエルが終了し互いのモンスターが消えると、それと同時に藤原を捕らえていたウサギの霊魂達が一斉に藤原から離れていく。

 

「……負けた。ごめん、みんなーー」

 

膝をついた幽鬼うさぎがそう呟くと身体が光り始め、少しするとその姿はなくなってしまった。俺は幽鬼うさぎがいたところまで歩いていくと、その場に落ちている一枚のカードを拾い上げる。それには自分が今しがたデュエルをしたのと同じ姿のモンスターが描かれていた。

 

「“幽鬼うさぎ”……やっぱり精霊だったのか」

 

カードの隅々まで調べてみるとどうやらこのカードは予想通り、元いた世界で生まれたカードらしい。さっき見た時にあったと思われるチューナーの文字はなくなってはいるが、テキストに『①』という表記があることからそれで合っている筈だ。

 

「勝った…のよね?」

「ああ。そっちは大丈夫だったか?」

「操られたこと以外は特にないみたいね。それにしても、まさかこの目で闇のゲームを見る時が来るとは思わなかったわ」

 

藤原の身に目立った被害がないことに安堵する。今回のことはこっちの事情に巻き込んだ形だったからな…。もしも何かあったら親御さんにどう説明すればいいのやら……。

それにしても藤原の言からすると、どうやら闇のゲームのことは知っているみたいだ。確か隼人も一応は知っていたし一応聞いてみるか。

 

「闇のゲームのことを知っていたのか?」

「あくまで風の噂程度よ。あの武藤遊戯が決闘王となった決闘街の裏で密かに行われていた、っていう眉唾ものだけど」

 

裏っていうか普通に表立ってやってたけどなーー肩を竦める藤原を見て俺は密かにそう思っていた。まあ目撃していた一般人が極少数だったからあまり広がらなかったってだけなんだろうけど。

 

「さて、藤原を助けだしたわけだし次は天上院をーーあら…?」

 

本来の目的も達成したので後は十代達の元へ向かおうと歩き出そうとした瞬間、急な虚脱感を感じたかと思うと自分の体が前のめりに倒れていくのが見えたーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「ちょっ、ちょっと…どうしたの⁉︎」

 

言いかけた言葉から明日香を探しに行こうとしたのだろう、亀崎さんは糸が切れた操り人形のように倒れてしまった。急いで抱き起こしたけれどピクリとも動かないどころかうんともすんとも言わない。

 

「気を失ってる…まさかさっきのデュエルが原因?たった一回でこんなに体力を消耗するなんて……」

 

自分は体験していないから分からないけれど、さっきのデュエルでは彼はまるで現実にダメージを受けたかのように悶えていた。もし本当にそうなのだとしたらなんて危険なデュエルなのだろうか。ダメージを現実に受けるとは、それによって死に至ってしまうからこそあれが『闇のゲーム』と呼ばれる所以ということなのか。

 

「とにかく、一度外まで運ばないと…」

 

考察はここまでとして、まず彼をこの廃墟から連れ出すことを考え肩に腕を回して立ち上がり少し時間はかけつつ外まで連れ出す。まだ日が顔を見せない暗い夜のなか、気絶している彼をレンガ造りの門に背を預ける形で座らせると、タイミングを計ったかのように意識を取り戻した。

 

「う…っ……」

「良かった、気がついたわね」

「藤原…?確か俺は、気を失って……」

「ええ。それで私がーー」

『その藤原さんがマスターをここまで運んでくれたんですよ。ちゃんとお礼を言ってくださいね?』

「え?」

 

突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには青白い長い髪の半透明の女性がいた。確か彼女は亀崎さんが召喚してた“青き眼の乙女”……だったわよね?でも今はデュエル中ではないのにどうして…?

 

「そうか……悪かったな藤原。助けに行っといて逆に助けられるとか世話ないな、俺」

 

そう言って頭をポリポリと掻く彼。でも今しがたの彼の視線は間違いなくあの女性の方に向いていたことに、私は意を決して聞いてみた。

 

「それは全然構わないけれど……もしかして貴方ーー彼女が視えるの?」

 

そう言って私は女性ーー“青き眼の乙女”を指差す。彼はポカンとした表情であっけらかんと答えた。

 

「え?ここに来る前から視えてたし声も聞こえてたけど……。それがどうしたんだ?」

 

視えるし声も聞こえるーーそれを聞いて私は驚かずにはいられなかった。彼は自分と同じ存在だと思っていたけれど、まさか()()()だとは思ってもいなかったからーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「なるほど。俺と同じってそういう意味だったのか」

 

廃寮の門に背を預けたまま俺は藤原の話を聞いていた。どうやら彼女は十代のように幼少の頃からデュエルモンスターズの声が聞こえていたらしく、それから今まで精霊の姿を見ることなく声だけでやりとりをしていたらしい。俺と海馬のデュエルを知っているのも遠出していた精霊が目撃していたからなんだとか……本当か?

 

「アカデミアで時々貴方が誰かと話しているのを見かけてたから興味本意で盗み聞きしてみたら、姿はないのに声だけが聞こえたんだもの。私以外に同じような環境に身を置いてる人がいて、ちょっと嬉しく思ったわ。でもまさか姿まで視えてたなんてね」

「確かに側から見れば独り言だもんな……。これからはもっと気をつけとかないと…」

 

藤原の視線の先は俺を挟んだ反対側の“乙女”に向いていた。“乙女”はというと心なしかちょっと機嫌が良くなさそうな表情を浮かべている。

 

「ねぇ、貴方は他にも精霊を連れているの?」

「今のところは“乙女”だけだ。ただ…幽鬼うさぎが言うぶんには他にもいるみたいだけどな」

「それも精霊なの?」

「間違いないだろうな。精霊の中には実体化できる奴もいるから、こいつもその類だったんだろうーー!」

 

カードを覗きこんでくる藤原に、気づけば密着するような形になっていた。ただ単に女性慣れしていないだけで思わず離れてしまったが、決して藤原のことが嫌というわけじゃない…!

 

「……あら?もしかして亀崎さん、女性とあまり親しくしたことがないのかしら?」

「そ、そうだな。考えてみればそういった女性は全くいなかったな…」

 

しかし藤原は怪しい笑みを浮かべながらにじり寄ってくる…!俺はしどろもどろに答えながらも逃げようとするが、まだ体力が回復しきっていない為に藤原から上手く逃げることができない…!

 

「ふぅん…。それなら、私が貴方の『初めて』になってあげてもいいわよ?」

「ふぁっ⁉︎」

「貴方のデュエルの腕は私の心を震わせてくれるほどに高いわ。ふふっ、私としては是非とも受け入れてほしいのだけど……ダメかしら?」

 

逃げる俺を追う形で自然と女豹の体勢をとっている藤原の提案を断る理由もなし、ここは頷いて……おけばいいのか?いや、女性に慣れる為と考えればいいんだ…!邪な考えさえ持たなければ問題はない筈ーー‼︎

 

『もしもーし。私のこと忘れてませんかー?』

 

いい加減見ていられなくなったのか、いつの間にか俺と藤原の間に頬を膨らませた“乙女”が座り込んでいた。藤原との話ばかりで構ってやれなかったから拗ねてしまったのだろうか、俺と藤原はそんな“乙女”を見て小さく笑い合った。

それから少しして、十代達が明日香を無事に救出して戻って来た。聞けば俺の知る通り十代とタイタンのデュエルは途中で闇の力が働き、闇のゲームとなったようだ。結果として十代が勝利したことに変わりはないが、十代は終始タイタンが用意した仕掛けだと勘違いしていた。今はまだそっち方面に関しては知らせる必要もなさそうなので、手品として話を適当に合わせておく。

気がついた明日香が無事であることを確認すると、昇り始めた太陽に照らされた森をそれぞれの寮へと向かう。確か次は……やれやれ、できれば俺のところには来てほしくないなーー欠伸を噛み締めつつも帰路についた俺はそう願った。

 

 

 




んー、せっかくだし“青眼”繋がりで“クリティウスの牙”も使わせたいな〜。普通のカードとしてならアリだと思うんですがね…。
ちなみに【クロスオーバー・ソウルズ】以降のカードもどんどん取り入れていきますが、シンクロ・エクシーズに関しては重要なものを優先していく予定です。あくまで持たせるだけであってデュエル使うことはない…………筈。どうしても使わせたくなった時は活動報告に書きますので、その時はよろしくお願いします。

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