遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハクモン

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どうも。執筆の間、地文のレベル低下を痛感しまくった私です。もっとテンポ良く書きたいのに変にアニメを意識するから……。もっと表現豊かになりたいです。

ついでに新パックも買いはしたのですが、“黒炎竜”と“凶雷皇”を使っての“悪魔竜”はやや扱いづらいと思うのは私だけでしょうか?
普通に通常の方を使うのがいいような……。


廃寮の亡霊

陽が沈み月が雲の切れ目から顔を覗かせている夜中ーー。

アカデミア本校のある孤島は元が無人島だったということもあり、島の半分近くの自然がそのままの形で残っている。人の手が加えられているのは専ら森の部分で、校舎の裏にある火山地帯は険しい環境等の理由で一切手が加えられていない。

そんな本校及び各寮の周辺に鬱蒼と生い茂る森だが、その中のとある場所には既に使われていない廃寮がある。かつては特別優待生が使っていた寮らしいが、ある時を境に通っていた生徒が失踪してしまったらしいのだ。無論アカデミアの方でも捜索を試みたが、結果誰一人見つけられることができず捜索を打ち切る形となってしまった。

ある人の話では、ここで【闇のゲーム】に関する研究をしていたのではーーということだがその真実は定かではない。

 

月の光に照らされながら一層暗い雰囲気を漂わせるこの廃寮に足を運んだ彼女ーー天上院明日香は、門の傍に一本の薔薇を添えると廃墟となった寮に想いを馳せる。その目には悲しみが見て取れたがそれ以上のことは何も分からない。

廃寮の景観を見回しそれ以上何をするでもなく明日香はそのまま自分の寮へと戻っていき、それを不気味に佇む廃寮は何も言わずそのまま見送る。

窓から覗いていた赤く光る目もまた同じようにーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「あ〜やっぱイエローの飯は美味いなぁ〜。量も申し分ないし、寮の飯ならここが一番だ」

「まあ確かにここの食事はバランスもいいですし、そこは否定しませんが…」

 

朝のイエロー寮の食堂では、亀崎賢司と三沢大地が向かい合うようにして朝食を摂っていた。日本人としては当たり障りがないながらも親しみ慣れたメニューに亀崎はご満悦の様子だ。

 

「オベリスク・ブルーに上がって数日してから、またここで食事をしたいと言ってきた時はびっくりしましたよ」

「いや俺としてもダメ元で言ってみただけなんだけど、樺山先生が許可を取ってきてくれてホッとしたよ。ブルーの飯は豪華すぎて俺には合わん」

 

陰謀が蠢いた月一テストにおいて出した結果によって、亀崎は問題なくラー・イエローからオベリスク・ブルーへと格上げされた。使う部屋もより広くなりもはや金持ちや貴族のそれと言っても過言じゃないほどにランクアップされ、これには“青き眼の乙女”も「私達だけでは少しばかり広いですね」と笑っていたほどである。

 

「何よりほとんどの奴らに避けられるもんだから居心地が良い訳がない。そんなに俺は近寄り難いのか?」

「月一テストでのデュエルが印象的でしたからね。何よりブルーの中でも実力者であるという藤原雪乃に勝ったこと、そして最後のターンのあれが一番の原因のような気もしますが」

 

三沢曰く月一テストで相手となった藤原雪乃、そして最後のターンで“ブラック・デーモンズ・ドラゴン”と“メテオ・ブラック・ドラゴン”という攻撃力三千超えモンスターの二体を召喚したことが、ブルーの生徒だけでなくイエローやレッドーーそして一部の教師陣にも相当響いているらしい。亀崎がKC社お抱えのデュエリストであることは入学式で紹介されたので只者ではないと思われていたようだがこの一件で確信に変わったとかで、“青眼の白龍”の件と相まって軽い“時の人”状態となっているのだ。

 

「あれは条件が整ったからできたってだけで、やろうと思えば誰でもできることだろうにーーふぅ。ごちそうさまっと」

 

誰でもできるーー亀崎が言ったことは確かに正しい。カードを選び、計算を突き詰めれば彼と同じようなことができるのは間違いない。しかしそういった構築のデッキには、必ずと言っていいほど事故がつきまとう。必要なカードが手札に来ず最悪何もできずにやられることもあり得なくはない。現に亀崎が召喚したモンスターはどちらも上級モンスターを素材とした融合モンスター……事故を起こす確率はそれなりにあった筈なのだ。

それを全く意識させないプレイングをこなすこの人は普通じゃないーーそう思いながら三沢は自分の食事を終えてコップの水を飲み干した。

 

◇◆◇◆◇

 

「廃寮に行くだと?」

「ああ、大徳寺先生から話を聞いたら行ってみたくなってさ。亀崎さんも一緒に行かないか?」

 

その日の放課後、十代に呼び止められた俺は夜に廃寮へ行く話を持ちかけられた。廃寮は森の中にひっそりと佇む元特待生寮で、属していた生徒達の集団失踪をきっかけに閉鎖した建物ーーだったはずだ。今は立ち入り禁止区域のひとつに指定されており、立ち入ろうものなら最悪退学処分を施すと校則にも記されている。

 

「ん〜そうだな……どうせ暇してただろうし、いいぞ」

「よっしゃあ!」

「アニキと隼人くんもそうッスけど、亀崎さんも物好きッスよね…。なんでそんな怖そうなところに行きたがるんスか…」

 

翔が呆れた風を装いながら苦笑する。ちなみに隼人とは十代と翔のルームメイトである前田隼人のことである。留年した為に十代や翔達と同学年ではあるが、彼らよりひとつ年上であることは案外意識されることがない。

 

「何言ってんだよ翔。立ち入り禁止の廃寮とか探検しないわけにはいかないだろ!」

「まあ最悪景観だけ見て帰ればいいんだしな」

「僕としてはそうなることを願うばかりッス…」

 

楽しそうにする十代はもう廃寮に入ること前提に喋っているが、それは立派な校則違反だーーと言って止めるのは無粋というものか。だがこれは十代が【闇のゲーム】の存在を知る大事な要因となるので、無闇に止めようとはしない方がいいかもしれない。

 

「あら、ずいぶんと楽しそうね。何の話をしているのかしら?」

「わわ…!ふ、藤原さん…!」

「お、アンタ確か亀崎さんとデュエルしたヤツだよな」

 

ふいに聞こえた声に俺達が視線を向けると、そこには薄紫のツインテールを揺らす藤原雪乃が腕を組んで立っていた。

 

「珍しいな藤原。俺だけじゃなくレッドにも声をかけるなんて」

「別に、私はプライドが高いだけのボウヤ達と同じというわけではないもの。だからといって上を目指そうとしないボウヤ達を擁護するわけでもないけれどね」

 

そう言って藤原が十代と翔を見る。恐らくレッドの生徒が向上心のない落ちこぼればかりの階級だという話を聞いた上での発言なのかもしれないが、その目と声には他のブルーのような見下す雰囲気は感じられない。

 

「それで、何の用だよ。まさかそれ言うだけの為に来たのか?」

「まさか。本当は亀崎さんに話があったのだけれど、アナタ達に先を越されてしまったのだから仕方ないわね。そんな急ぎの用という程でもなし、ここは大人しく引き下がるわ。ーーまた夜に会いましょう」

 

聞き逃しそうなほど小さい声で予言めいた台詞を吐いて去った藤原を見送りながら、十代は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。藤原の最後の捨て台詞からして、俺にはこの時から少し嫌な予感がしてならなかった。

 

〜〜〜〜〜〜

 

時間は進み月が空に浮かび始めた頃。ブルーの自室にて廃寮へ向かう準備を終えた俺は各デッキの確認をしていた。今回の廃寮探検において十代はクロノス先生に雇われた【自称】闇のデュエリストーータイタンとデュエルすることになるだろう。だが何らかのイレギュラーが発生して自分がデュエルをせざるを得ない状況に出くわす可能性も否定できない。

 

(あの十代が負けるようなことはないと思うが…念の為だ)

 

デッキの確認を終えるのと同時にPDAから着信音が鳴り始める。確認すれば十代達がレッド寮を出たとの内容だったので、準備を整えて後は出るだけーーとなった時に声をかけられる。

 

『マスター…』

 

おずおずといった風な声に振り向けば、“青き眼の乙女”がどこか複雑そうな表情でそこにいた。何かを言いたそうにしているが、別の何かが邪魔して言えない……そんな様子だった。

 

「どうしたんだ“乙女”?この部屋に現れるっていう謎の精霊が廃寮にいるからそこへ行くんだろ?十代達と行くことにはなったけど、デュエルが始まったら行動する予定だから心配するなって」

『その通りですがーーいえ、何でもありません。行きましょうマスター』

 

“乙女”はそれっきり姿を消してしまった。終始普段とは違う様子だった“乙女”が気にはなったが、これ以上ここで考えても分かる筈もないので十代達との合流場所である正門へと続く道へ向かうことにした。

 

光源のない合流場所は当然のことだが本当に暗い。月の光でなんとか周りを見渡せるものの、物陰なんかは目を凝らしても全く見えないぐらいだ。

彼らが来るまで座って待つ為にオブジェクトに腰掛けると、耳に入ってくる鈴虫の鳴き声と遥か向こうの崖下で波打つ海の微かな音を聞きながら今度は月を見上げる。元いた世界と変わらないあの月を見ていると、もしかしたら向こうと繋がっているんじゃないかと考えてしまう。

 

(そういや家族はどうしてんのかな…。俺は死んだ訳でもないし、失踪したってことになってんのかね)

 

自分でこの世界に来ることを望んでおいて何を今更ーーそう自分に言い聞かせてみても、一度心に思った気懸りはそう簡単には消えない。次から次へと浮き彫りになっていく毎に表情が沈んでいくのが自分でもわかるくらいだ。それにつられるように自然と額に右手を当てながら姿勢までも沈ませてしまう。

 

(皆もこっちに来られればまだ良かったかもしれないが……それはさすがに都合が良すぎるというものか)

 

吹き始めた風が木々を揺らし、葉が擦れる音が響く。その風はまるで自分の気懸りを攫っていくかのように海へと吹き付けていっている。だがこちらの気懸りがでかすぎるのか、風が吹いても吹いてもそれが晴れることは一切なかった。

風が止むとレッド寮とイエロー寮がある方向から数人の話し声が聞こえ始めた。十代達が来たのを確認してからようやっと来たかと腰を上げ、彼らと共に廃寮へと向かうべく歩きだした。

 

「お、俺は前田隼人って言います…!亀崎さんのことは、十代と翔からデュエルが凄く強い人だって聞いてます…!」

「よろしくな前田。そんな敬語にならんでも、ここにいる間は俺もいち生徒なんだから変に気兼ねしなくていいんだぞ」

「よーし!それじゃ自己紹介もそこそこに、廃寮に出発しようぜ!」

「そうッスね。深夜外出がバレたら大徳寺先生に怒られちゃうッス」

 

鬱蒼と生い茂る森のなか、手入れのされなくなった道を懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく。暗闇に恐怖する動物的本能と知的好奇心がせめぎ合い続けることしばらく、ようやく目的地の廃寮へと辿り着いた。

立ち入り禁止となってから手が加えられていない廃寮は外観だけでも数年ほど放置されたようにボロボロで、敷地内も雑草が生え放題の正真正銘『廃墟』と呼ぶに相応しい物件の様相だった。

 

「おぉ、ホントにあったぜ…!」

「こ…これが大徳寺先生の言ってた廃寮…なのか」

「僕もうここにいるだけで怖いッス…」

 

翔が完全にビビりモードに入ったが気にせず立ち入り禁止のプレート前まで歩いて、そこから懐中電灯で廃寮を照らしてみる。やや遠いので思ったより照らせないがボロボロなのは寮入り口のドアや窓がほとんどで、建物自体はそれほどではない。むしろ掃除やらドアや窓の付け替えを行えばまた使えるのではないだろうか。

 

「……ん?」

 

寮の周りをぐるりと周りながら懐中電灯で窓をひとつひとつ照らしつつ流していると、そのひとつで何かが照らし出された気がしてもう一度その窓に光を戻す。しかしその窓にはもう何も映らず他の窓と同じく光を反射するだけだった。

今のはいったいーーそう思った矢先、正門から女子の声が聞こえてくる。急いで向かってみれば、いつの間にか現れていた明日香が十代達に廃寮は危険だと注意を促していた。

 

「誰かと思えば。天上院じゃないか」

「亀崎さん…⁉︎どうして貴方まで…」

「十代に誘われたんだよ。廃寮なるものがあるって聞いてね」

「たった今十代達にも話しましたけど、ここは興味本位で来るような場所じゃありません。今すぐ彼らを連れて戻ってください!」

 

言い聞かせるような口調で言う明日香。十代達はともかくこっちはちゃんとした理由で来てるわけだが、さてどうしたものか…。

 

「あら、それじゃあ興味本位でなければいいのかしら?」

「っ⁉︎」

 

突如聞こえた声の主は闇と同化した木の陰から姿を現す。明日香はその人物にライトを照らすと驚きを隠さずにはいられなかった。

 

「ゆ、雪乃⁉︎どうして貴女まで…!」

「明日香が最近夜遅くにどこかへ行っているのを偶然知ってしまったの。それで後をつけてみたわけだけど…まさかここが?」

「ええ…」

「なんだよ、明日香はここに来る理由があるのか?」

 

十代の質問によって顔を沈ませていた明日香の口から聞かされたのは、この寮で行方不明になった生徒の中に明日香の兄ーー天上院吹雪も加わっているとのことだった。明日香は行方不明の現場となった廃寮を調べる為に、人目のつきにくい深夜にここへと赴いていたのだとーー。

それを聞いてなお十代は好奇心の赴くまま翔と隼人を連れて廃寮に入ろうとあっという間に敷地内へ入っていってしまう。あいつは少し躊躇ってモンを持つべきじゃないのか…。

 

「…?おーい亀崎さん、早く行こうぜー」

「俺はもうちょっとしたら行くから先に行っててくれー」

「あの人もやっぱり怖いのかな?そうには見えなかったけど…」

「き、きっとそうッス…!意外とだらしないッスね亀崎さんも…!」

 

口々に言う二人を連れて十代がついに廃寮へと足を踏み入れて行く。翔の野郎、後で覚えとけよ…。

 

「……それで?貴方があのボウヤ達と一緒に行かなかった理由は何なのかしら。まさか本当に怖気づいたとは言わないわよね?」

「そんなんじゃないっての。俺はただ、天上院が心配だからここに残っただけだ」

「えーー」

「あら妬けちゃうわね。…でもその言い方だと、まるで明日香の身に何かが起きると言ってるようなものよ?」

「ようなもなにもその通りなんだが?ーーそういう訳だからさっさと出てきたらどうだ!今のまま待ち続けても俺はここを動かないぞ!」

 

特別隠すような意味合いもないので率直に答えると二人は驚いた。明日香は間違いなく、この後タイタンに襲われるーーそんな二人から視線を外しその男へ向けて言葉を紡ぐ。

するとーー

 

「これは驚いた。まさか、闇に溶け込んだ私の存在を察知するとはな…。貴様の言う通り、このまま待っていても仕方がないか」

 

草木が覆う漆黒の闇から聞こえた低く重みのある声……それは正しく奴の声だ。やがて闇から姿を現したのは、闇と同化しやすい黒のコートと帽子、そして鉄の仮面で顔の半分近くを隠した大男だった。大男は俺達の前で止まると不敵に笑い始めるーー。

 

「貴方、アカデミアの関係者じゃないわね…何者なの⁉︎」

「フフフ…私の名はタイタン。闇のデュエリスト」

「闇のデュエリスト…?」

「そうだ。私は闇の力が渦巻くこの禁断の場所に入る愚か者に、闇のゲームによる制裁を下す存在…。故に先ほど寮に入っていったあの三人を追いかけねばならないところだが…」

 

そう言ったタイタンの視線は俺の後ろーー明日香と藤原を捉える。

 

「ただ闇のゲームをするというのも面白くない。お前達の誰かを我が手玉とすれば、奴らは闇のゲームを受けざるを得ないだろうよ」

「人質ってわけか…」

「そういう事だ。さぁーー私と共に来てもらおうか…!」

 

そう言ってタイタンがおもむろに取り出したのは、古代エジプトにおいて“ウジャト眼”と呼ばれた眼の装飾がされた四方形逆三角錐の道具ーーそれはあの“千年パズル”と全く同じ物だった。瞬間、ウジャト眼から眩い光が発せられ思わず目を覆ってしまう。しまったと思ったが既に遅く、光が収まるとそこにタイタンの姿はなかった。

まさかと振り返ってみれば藤原はいたが明日香がいなくなっていた。まさかあの一瞬で彼女を拉致したというのか。さすがは自称闇のデュエリスト、油断した…!

 

「くそ、あいつ天上院を狙いやがったか…!藤原、奴を追うぞ!」

「…………」

「…藤原?」

 

藤原は顔を伏せたまま、まるで糸に吊り下げられる人形のようにピクリとも動かない。まさかタイタンの催眠術にかかっているのかと考えたが、それなら藤原も連れて行かれてる筈だ。顔は前髪によって隠れていたので表情を伺おうと顔を覗き込んでみると、ようやく藤原が顔を上げた。

 

「…!」

 

その藤原の顔を見て俺は思わず息を止めてしまった。

普段のような余裕のある表情はなく、どこか生気を感じさせない表情ーー例えるなら某レインさんがイメージできる無表情なのだ。さらにはその目も赤く光っていることから、藤原に何かが起こっているのは確かだ。いったい何があったんだ…?

 

『マスター‼︎あそこに…‼︎』

 

突如として俺の名を呼ぶ“乙女”の視線の先。そこは廃寮の構造上二階なのだろうが、その窓から子供のような何かが赤い目を光らせてこちらを見下ろしていた。

突然現れた存在に気を取られていると、今度は走り出した藤原が躊躇なく立ち入り禁止のプレートが提げられたロープを越えて廃寮へと入っていってしまう。

 

「ちょ、おい藤原…‼︎」

『マスター、追いかけましょう!もしかしたらさっきのが…!』

 

例の精霊かもしれないーー“乙女”の言わんとすることを理解した俺はこんがらがる頭の中を無理矢理整理して藤原を追いかけるべく廃寮の中へと急行するーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

荒れ果てた外観と比べ予想以上に立派な内装の面影を残す廃寮の中を走るなか、私は何が起こっているのかが分からなかった。今走っているのも自分の意思ではなく何かに身体を勝手に動かされてるような感覚で、止まろうとしても走るスピードはちっとも落ちることがない。

 

(くっ…!いったい何なのよこれ…!)

 

自分の意思ではないとはいえ走っているのは自分の身体。息は切れるし走っていることによる疲労はちゃんと感じるている。ああもういったい誰なのよ…!私の身体を好き勝手に弄っているのは…⁉︎

いや分かってる。さっきの大男による光に目を眩ませられているなか、私は見たのだ。光の中から“白い何か”が私目掛けて飛んで来るのを。そしてそれが私の中に入ってきたのと同時に私の意識と身体は離れてしまった。身体が私の言うことを聞かないので目を通して映る景色を眺めるしかないのだ。

 

(いい加減止まりなさい…!この…!)

 

今一度抵抗を試みても自分の身体はどこ吹く風。止まる素振りを全く見せずにある部屋へと駆け込んでいくと、部屋の中央にてようやく走るのを止めてくれた。

 

「はぁ…はぁ…やっと追いついた…」

 

少し遅れてから息を切らせた彼が走り疲れた様子で部屋に入ってくると、それに反応するように自分の身体がゆっくりと彼に向き直る。月の光が差し込む廃墟の一室、二人の男女が視線を結んでいるーー今のこの状況がまるでドラマのワンシーンのようだと思う辺り、私は俳優の娘なんだと再確認させられていた。

 

「ふぅ…。それで、お前は何者だ?藤原をここに連れてきたのは何が目的だ」

 

彼は息を整えた後、まるで私の中にいるもうひとつの存在に問いかけるように言うが私の口は開かない。いや、開こうとすらしない。“それ”に語る意思がないのか、それとも喋ること自体ができないのかは分かる筈もなくただ静寂がこの場を支配する。でも何故かしら。私には語らないというより語りたくない……ように感じるのだけど。

そう私が考えていたところで目が閉じられ視界が闇一色となると、私の中にいた“それ”が身体から徐々に抜けていく。やがて糸が切れた操り人形のように床に倒れてしまった私の耳に、そんな私を心配してくれる彼の声。そしてもうひとつの声を聞いたのを最後に、私は意識を手放してしまったーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「藤原が操られてるだって…⁉︎」

 

時は少し遡り、突然廃寮へと走り出した藤原を追うなか、俺は“乙女”から信じられないことを聞いた。それを聞いた俺の脳裏に浮かんだのは先のタイタンが発動させた催眠術だが、そんなことなら何故彼女を気絶させずにおいたのか。明日香と同じように人質とするならさっさと連れ去るのが一番手っ取り早い筈なのに。

 

『はい。ですがあの人を操っているのはあの大男ではありません。……何故なら僅かではありますが、彼女から精霊の力を感じましたから』

「っ!それじゃあ藤原を操っているのは…!」

『…おそらくはその精霊と見て間違いはないかと』

「ちっ…!できれば巻き込みたくなかったってのに!」

 

藤原に未だ見ぬ謎の精霊の手がかかったことに罪悪感を感じながらも藤原を追って二階に上がると、やや奥の部屋へと走り込んでいくのを見つけたので追いかけて部屋に入る。しかしこの程度の全力疾走で疲れだすとか、身体が鈍ってるって嫌でも思い知らされる。これからは自主トレを考えてみるべきか…。

 

「はぁ…はぁ…やっと追いついた…」

 

部屋の中央で立ち尽くす藤原を捉えて安堵しながらも何とか息を整える。彼女がゆっくりと振り返る動作に不本意ながらドキリとしたが、その両目が未だ赤く光っているのを見れば高鳴った鼓動はすぐに元通りのリズムを刻む。

 

「ふぅ…。それで、お前は何者だ?藤原をここに連れてきたのは何が目的だ」

 

藤原を操っている精霊へ向けて喋りかけてみたが、こっちの質問に言葉を返すことはない。しかしその代わりだと言うように藤原が目を瞑ると彼女の身体から白い靄のようなものが抜け出ていき、それが抜け切ったことで糸が切れたように藤原が倒れてしまう。

 

「っ…藤原!」

 

急いで藤原の元に駆け寄ろうとした瞬間、今度は藤原から抜け出した白い靄が俺の行く手を阻んだ。それはやがてどんどんと自らの形を明確にしていく。丸い小動物のようなフォルムににょきっと緑色の耳が生え、くりくりとした赤い目。それを何かに例えるとするならーー。

 

『えっと、これは……』

「……ウサギ、か?」

 

ようやく正体を見せたそれは、雪の季節によく見たあの雪兎にそっくりなヤツだった。降り積もった雪で体を作り、葉っぱを耳として石ころで目を表すアレとよく似ている。

可愛らしいその姿に僅かに心奪われているとソイツが正体を表すのを皮切りに一匹、また一匹とバリエーションの違うウサギがふよふよと現れてくる。

 

「……可愛い」

『マスター!あんなものに見惚れてる場合じゃありません!来ますよ‼︎」

 

瞬間、宙に浮くウサギ達の下で青白い光がぼうっ、と光り始めた。そこから現れたのはたった一人の女の子なのだがその風貌に俺はとにかく驚いた。白くボリュームのある長い髪からは二本の赤い角が顔を出し、暗い色合いの和服の帯には刀や鎌などの物騒な刃物を数点差し込んでいるのだ。どこからどう見てもまともな精霊ではありません本当に(ry

その精霊は藤原と俺の間に実体化して現れると閉じていた目を開く。隈に彩られたその目はまるで亡霊のように表情のない『赤い目』を俺に向けて鈍く光らせる。

 

「“乙女”……あれが俺の部屋に現れたっていう精霊か?」

『他の精霊達から聞いた情報と一致しています…間違いありません』

「そうか。お前、名はなんだ?デュエルモンスターズの精霊なら名前くらいはある筈だろう」

「…………」

 

またも静寂…こいつは喋ることができないのか?俺から一切逸らそうとしないその目が何を意味しているのかもさっぱり分からない。

 

「………デュエル」

「何?」

「……デュエル」

 

ポツリと消え入りそうなか細い声でそう言うと、精霊が着ている和服の袖からデッキが顔を覗かせる。これはあれか。タイタンと同じように藤原を助けてたかったらデュエルで勝ってみろ、ってことか。それならそれで話は早い。俺は『白』のホルダーのデッキをデュエルディスクにセットする!

 

「いいだろう、そのデュエル受けて立つ!“乙女”、力を貸してくれ!」

『承知しました。このデュエル、勝利を我がマスターに…!』

 

霊体化していた“乙女”がデッキへと戻り、デュエルディスクよるオートシャッフルが開始された。相手の方も倒れていた藤原をウサギ達が邪魔にならないよう抱き起こし、精霊の背後へと移動する。

 

「柄じゃあないがついでだ。助けるから待ってろよ藤原…!」

 

「デュエル‼︎」「デュエル……」

 

◇◆◇◆◇◆

 

「廃寮って聞いてたけど、思ってたよりボロボロじゃないんだな」

「なぁ、俺達やっぱりここに住まないか?こっちの方が部屋も広いしさ」

「い、嫌ッスよぉ…。こんな何が出てくるか分かんない場所なんて…」

 

亀崎が謎の精霊とのデュエルを始めたのと同じ頃、先に廃寮へと入っていた十代達は奥の探索を行っていた。回ってきたそのほとんどの場所は散らかっていたり埃が積もっていたりしていたが、ちゃんと手入れをすれば再び寮として使うことが充分可能だと見て取れた。思ったより廃墟然としていなかったことに十代は少し不満だったようだが、それもすぐに吹き飛ぶことになる。

 

「だいぶ奥まで来たな」

「後はこの広間だけみたいなんだな」

 

懐中電灯で照らしてみれば、そこには多くの道具や装飾が置かれた場所だった。

 

「ここも似たようなところか……ん?」

 

十代が偶々床を照らすとそこに一枚のカードが落ちていた。気になった彼はそれを拾い上げて確認してみると、それは『エトワール・サイバー』のカードだった。

 

「これは…明日香が持ってるのと同じカード…」

「じゅ、十代…!」

 

突然の十代を呼ぶ隼人の声を聞いて彼の元へと駆け寄る十代。

 

「どうしたんだ隼人?」

「こ、これ……」

 

声を震わせる隼人が床を照らしているのを見て、十代はすぐに隼人が何を言おうとしているのかを察した。

この廃寮は長い間放置されていることは大徳寺先生から聞いていた。長期間も放置されていたならどんな場所でも埃が積もるのは当然のこと。

だが隼人が照らしている床には埃が全く積もっていなかったのだ。さらに同じような部分の床がこのフロアのさらに奥ーー洞窟の入り口のような場所まで続いているのである。

 

「何かを引きずった跡か?」

「た、多分だけど割と新しいんだな…」

「もしかして…ボク達の他にも誰かいるってことッスかね…?」

 

自分達以外の誰か……一緒に来た亀崎や先に来ていた明日香が先回りして態々こんなことをするとは考えにくい。じゃあいったい誰なのか。

十代達は意を決して最奥へと足を踏み入れる。そこは岩肌が物々しいドーム状の広場となっており、光が一切ないにも関わらずこの空間だけ光源がなくとも多少見渡せるぐらいに明るかった。

 

「…アニキ‼︎あそこ‼︎」

「っ、明日香⁉︎」

 

叫んだ翔が照らす先ーー自分達とは反対の場所に立てかけられた棺桶のような物に廃寮入り口で別れた筈の明日香がいたのだ。明日香は気絶しているからなのか十代達の声に一切の反応を示さない。

明日香の元へ駆け寄ろうとする三人。しかし突如としてこの空間に低い男の声が響く。

 

『フフフ…。この者の魂は、既に深き闇へ沈んでいる』

「誰だ…⁉︎」

 

十代の問いに魂までも凍えそうな冷気と共に声の主が姿を現わす。その男は先ほど亀崎達の前に現れた人物と全く同じ、闇に溶け込むような黒のコートを着た大男だ。

 

「ようこそ遊城十代…」

「誰だお前は⁉︎」

「我が名はタイタンーー闇のデュエリスト」

 

大男ーータイタンは静かに、そして重い言葉で告げる。例え事実がそうでないとしても、この場の雰囲気も相まって彼らがその言葉を信じるには充分だった。

 




youtubeで日本語版GXが見れなくなったのはかなり痛い…。一応タイトルで大まかな流れは思い出せるけど、これは『DVDを買え』という神のお告げなのだろうか?

あぁ無性にウサギをモフりたい

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