ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第40話 私の式紙と黒猫

 それからフェリは目元をこすりながらこの部屋を出て行った。

 私たちはそれをなんとも言えない表情で見送るしかできなかった。

 ちょ、ちょっと悪いことしちゃったかな。

 

「あ、あはは~、フェリちゃんにはちょっと悪いことをしちゃったにゃ~」

「はあ……本当にじゃ。フェリが泣くなんて滅多にあることではないぞ。余程恥ずかしかったということじゃな」

「後で謝るにゃ」

「そうせい。私はフェリじゃないから分からんが、お主に根に持っているかもしれんからな。お主はフェリと仲良くしたいのじゃろう?」

「うん。なんとなくだけどやっぱりまだ壁があるみたいだし。多分、まだ家族になったばかりだから時間が経てば仲良くなれると思うんだけど、私は早く仲良くなりたいから」

 

 そうか。よかった。

 黒歌は本当にフェリと仲良くなりたいと思っている。それは家族として、ではないけどそれは仕方ないと思っている。フェリはもうとっくにだが、黒歌はある程度大人になっている。そんな二人が互いのことを家族として認識するのは難しいものがあるのだ。だから二人はきっと友人として認識するだろう。

 私はそれでいいと思う。私は二人が嫌いにならなければそれで。

 ともかく仲良くなりたいということなら私が考えている作戦が役に立つ。

 この作戦がうまくいけばフェリたちと黒歌たちはより仲良くなることができる!!

 

「ん? なんで笑っているの?」

「笑っていたか?」

「うん」

 

 頬を触って確認してみるがどうやら本当に笑っていたらしい。

 自分でも気づかなかった。うれしさのあまりだろうか。

 

「何を考えていたのかにゃ?」

「ふふふ、なんじゃろうな」

「なに、その笑い。気になるじゃない」

 

 残念だけど教えないよ。みんなにはばれずに仲良くなってほしいからね。

 私の悪戯心がざわついた。

 

「あっ、また笑った! しかも今度のは悪巧みをしているときの笑いにゃ!」

「そ、そうか?」

「そうにゃ! 何を考えているのかしら? 私にだけ教えてよ。ねえねえ」

「お、教えないからな!」

 

 黒歌が私に這って近寄ってくるので、私は逆に逃げるように後ろへ後ずさった。だが後ずさるのにもこの部屋という小さな空間では限界がある。そしてついには背には壁の感触が。

 なんだかホラー映画にありそうな光景だ。

 フェリが黒歌に注意したことから考えると襲われるという点ではホラー映画というのもあながち間違いではないかもしれない。

 もう逃げられなくなった私に黒歌はさらに迫ってきた。

 お、襲われる、か。黒歌に襲われる……。い、いいかも。い、いや! ち、違う! うん、違う。そう、違う。性的な意味で襲われることをいいなんて思っていない。なぜなら私は変態じゃないから。私は変態じゃないから。

 私は先ほど考えていたことを消すように『私は変態じゃない』と心の中でつぶやいた。

 

「くすくす」

 

 今にも襲い掛かりそうだった黒歌が私を見て笑う。

 

「ど、どうしたんじゃ?」

「だって次は顔を真っ赤にするんだもん。表情がころころ変わるから面白くて~」

「むう~~」

 

 私は眉を寄せて黒歌に向かって唸る。

 

「本当に御魂ちゃんって可愛いね。なんだか私の恋人なんてもったいないって思っちゃうな」

 

 黒歌が笑みを浮かべる。

 

「わ、私も黒歌たちが私の恋人なんてもったいないって思った」

「ふふふ、そうなんだ。じゃあ、互いにそれだけ相手の魅力に気づいているってことね」

「そ、そうじゃな」

 

 もったいないと思うのはそれだけ相手の魅力に気づいて、相手のことをそれだけ想っている証拠だ。

 私の体というか胸の奥は黒歌も私と同じ気持ちなんてだと分かって温かくなった。それに鼓動も早くなる。

 やっぱりこれが好きって気持ちなんだ。改めて私は自分の気持ちを確かめた。

 私は確かに誰かを好きになったことはある。でもこうやって互いの関係が変わってからの好きは経験がなかった。その好きは何か違うものだった。

 

「さて、そろそろ私たちも行くか」

 

 自分の考えていることを黒歌に覚らせないかのように私はそう口にした。

 

「そうね。行きましょうか。私もお腹空いたもの」

 

 黒歌はすぐに同意して、私たちは立ち上がる。私はすぐに部屋の外に出るが、黒歌はその前にぐっすりと熟睡している白音の額にキスをして、部屋を出た。

 私もやればよかったかな?

 ちょっとそういう気持ちがあったので、今日の夜にでもやろうと思った。

 縁側に出ると庭で式紙たちが庭の整理をしている姿が見えた。

 その式紙の中に一人ちょっと変わった式紙がいた。その式紙はほかの式紙と違ってオッドアイであり、私が数万年以上求めていた完成した式紙である。そんな彼女には肉体と名前と特別な力を宿した鈴を与えた。

 彼女の名前は(すず)で、彼女は生き物と同じ肉体を持つのだが、ほかの式紙と一緒で私から気(霊力)を供給することによって生きることができる。もちろん食べることでも生きることはできる。

 そんな彼女はほかの式紙が仕事をしているというのに庭にある岩に腰掛けていた。見るからにサボっている。

 ただの式紙ならこうならなかった。式紙は僅かな意思はあるものの命令には忠実な従者だからだ。絶対にサボることなんてせずに命令を全うする

 これはやっぱり私の求めていた式紙ということで喜ぶところなのだが、まさかサボっているところを見て実感するとは思わなかった。ちょっとショックを受けた。

 はあ……注意しないと。

 

「鈴!!」

「えっ!? あっ、ご主人様!? い、いつの間に……」

 

 私に怒鳴られて鈴が立ち上がり慌てる。

 表情、口調にはやはり感情があり、式紙には見えなくて私たちと同じ妖怪にしか見えない。

 鈴はすぐさま私の前に来て、ビシッと立ち、その場で色々と整える。

 

「何か御用でしょうか、ご主人様」

 

 他の式紙らしく真面目な顔になり、同じようなしゃべり方になった。

 変わりようの早さに思わずくすっと笑ってしまう。

 

「さっきまでお主は何をしておった?」

「仕事です」

「内容は?」

「庭の手入れです」

「ほう、そうか。庭の手入れか。私の目にはお主が休んでいたように見えたがそれは私の見間違いか?」

「ぐっ、み、見間違いではありません」

 

 いくら彼女が完全に肉体と意思があるとはいえ、彼女は式紙である。どうしても式紙である。式紙は私を、(あるじ)を裏切ることはできない。なので、嘘を付きたくても付くことはできないのだ。

 サボることはできても私に逆らうことはできない。

 

「そうかそうか。見間違いではなかったか。もしかして私の目が悪くなったかと思ったぞ」

「ほ、本当に申し訳ございません!」

「はあ……もうよい。サボるなと言わんが、ほどほどにせよ。そして仕事はちゃんとしろ」

「は、はい! お許しいただきありがとうございます!」

 

 鈴は腰を曲げすぎではというくらい頭を下げていた。

 隣の黒歌はちょっと引いている。私もちょっと引いた。

 

「ところでご主人様」

「ん? なんじゃ?」

「隣にいるのは新しくご主人様の家族になりやがった黒歌さん、でしたよね?」

「ん? う、うん、そうじゃ」

「でしたら挨拶を」

 

 なんだかやばい言葉が聞こえたような気がしたが、鈴に限ってそれはないはずだ。うん、だから気のせいだ。

 ニコニコ顔の鈴に私は頷く。

 隣の黒歌はなぜか引き攣った顔をしていた。

 どうしたのだろうか?

 鈴は自己紹介のため黒歌の前にすぐに移動した。

 

「改めて自己紹介を。私は薬信御魂作、第八十五世代万能補助型式紙、その中でも完成した式紙、『鈴』と申します。どうぞよろしくお願いします」

「そう。私は新しく御魂ちゃんの家族と恋人になった黒歌よ。よろしくね」

「こ、恋人? き、聞き間違いでしょうか?」

「聞き間違いじゃないわ。恋人って言ったわ」

 

 黒歌が胸を張って誇らしげに言った。

 な、なんだかそんなに誇らしげに言われるとこっちも照れる……。

 

「ご主人様!?」

「な、なんじゃ?」

「今の話……本当ですか? 本当にこの黒猫の?」

「そ、そうじゃ。あと黒猫じゃない。黒歌じゃ」

「ぐぬぬ~!」

 

 どういうわけか鈴は黒歌に向かって睨んでいる。

 

「分かったかしら?」

「くっ、本当のようですね。まさかこんな黒猫がご主人様の恋人だなんて……」

 

 鈴はがくりと膝をついた。

 え、えっと鈴は私と黒歌がそういう関係だということが嫌なのかな? 違うと思いたい。

 

「ほら、手を貸してあげるわ」

 

 四肢をついている鈴に黒歌が手を差し伸べる。

 鈴はその手を取り立ち上がる。

 

「ふん、礼は言いませんよ」

「別に言わなくていいわ。ま、だけど改めてよろしくね」

「こちらこそ」

 

 二人はがっしりと力強く握手をした。

 どちらもニコニコと笑っているのだが、なぜだろうか。なんだか怖くて近づきたくない。それに二人の額に血管が浮き出ているんだけど! そ、それほど力強く握手したの? それとも怒って? い、いや、ありえない。

 だって二人はニコニコと笑っているのだ。そして、握手をしている。どうみても仲良くなろうね♪ とやっているじゃないか。だから怒っているというのはありえない。ただ力強く握手しただけだ。

 私はなぜか怖くなりそう解釈した。

 二人はそのままでしばらくして互いの手を離した。離したあとは二人とも肩で息をしていた。

 

「はあはあはあ、まあいいわ。今日のところは見逃してあげる」

「それはこっちの台詞ですよ! ご主人様の前じゃなかったら今頃はあなたなんて!」

 

 あ、あれ? おかしいな。二人は仲良く握手していたんだよね? なぜ咲夜が見ているような漫画やアニメに出てくる戦ったあとの相手に言うような台詞を言っているのだろうか。

 普通、ここはもっと仲良くなる言葉を言うところなのに。

 二人は色々と服を整えたあとそれぞれ別の行動へ移した。黒歌は私の後ろへ、鈴は私の前へ。

 

「ご主人様、これで失礼します」

 

 鈴が私に頭を下げる。

 

「ふむ、サボるでないぞ」

「はい、分かりました」

 

 鈴が立ち去ろうとするが、その前に言わなければならないことを思い出したので呼び止めた。

 

「はい、なんでしょうか?」

「お主は今日から人間界での屋敷で仕事をせい。よいな?」

「かしこまりました」

 

 鈴は返事をすると仕事へと戻った。

 ちゃんと仕事をするかな? していなかったらお仕置きをしないとね。

 頭の中で鈴へのお仕置きの内容を考えてみる。思いついたのは数十個ほど

 ちょっとその場に突っ立って考えていると後ろにいた黒歌が後ろから抱き着いてきた。私の胸に黒歌の成長途中の胸が当たる。やわらかい感触だ。

 咲夜の漫画にヒロインの女の子が主人公の男の子に同じようにして、主人公が慌てふためくシーンがあったけどちょっとその気持ちが分かったような気がする。

 

「ねえ、ご主人様って呼ばれているけどそれって御魂ちゃんが? もしかしてそういう趣味があるの?」

「そんなわけがないじゃろう!? それは式紙が勝手にしたことじゃ!!」

 

 私にそんな趣味もプレイもない。

 

「自分で作ったのに?」

「そうじゃ! 作った私にも分からないことはあるんじゃ!」

 

 本当に式紙については分からないことがある。私が式紙について知っているのはまだ一部なのだ。作った本人だというのに一部。それほどまでに式紙は奥が深いのだ。

 本当、作った本人なのになんでと思う。

 

「本当かにゃ~?」

「む、疑うのか?」

「だって作った人が分からないっていうのはね」

 

 私も黒歌の立場だったら疑うよ。なので強く言うことはできない。

 

「そうは言うが作った者が作った物の全てを知っているわけではないぞ。知っているわけではないから、失敗というものが起きるのじゃ。じゃから私が式紙について知らなくても当たり前ということじゃ」

「そう……ね。御魂ちゃんの言うとおりよ」

 

 どうやら納得してくれたみたいだ。これで式紙が『ご主人様』と呼んでいるのが私の意志じゃないって分かってくれるよね。

 そう思っていたのだが、

 

「はあ……」

 

 なのに黒歌はなぜか残念そうにため息をついた。

 黒歌の顔は私の肩の上に乗っているので耳元がちょっとくすぐたかった。

 な、なんで? どこも残念になるところもため息をつくところもなかったよね?

 

「ど、どうした?」

「いや、ね? 御魂ちゃんの趣味だったらちょっとそういうプレイもやりたかったな~って思って」

「な、ななな、何を言っているんじゃ!? そ、それに、ぷ、プレイって!! 私にそういう趣味はない!! ぜ、絶対にやらないからな!!」

 

 た、確かに私たちは恋人という特別な関係になったけど! でもやらないから!

 

「はあ……残念だにゃ~」

 

 黒歌がわざとらしく頭をがくりとさせた。

 だ、だから髪が耳に……。

 

「それよりも早く行くぞ!」

「そうね~」

 

 私は黒歌を私の背中から引き離してフェリたちのもとへと向かった。

 こんな風に話していたらまたフェリが私たちを呼びに来るよ。そして、また説教が……。それが長引いて咲夜が泣いて来る。うん、ループするのが見える。とにかく、そうならないためにも早く行こう。

 今日のご飯は何かな~♪

 そんなことを考えながら角を曲がった瞬間、私の体が勢いよく背から壁にぶつかった。

 いきなりだったが無意識に受身を取ることができた。しかし、受身を取ったとはいえ、それなりの衝撃だったので壁にぶつかった瞬間に肺の空気が押し出された。

 

「ぐっ、げほっ」

 

 私は咳をしながら瞬時に分析する。

 こういう自分の危機というのに冷静に分析できるとは……。

 まず私を壁に叩きつけた方法は何らかの力によるもの、もしくは物理的な力によるものだ。しかし、この家はそういう攻撃的な力をある程度防ぐ結界が張ってある。

 もしも何かの力によって私が叩きつけられたならば、まず結界が壊れるはずだ。そして、結界が消えたら、結界を張った本人である私は察知することができるのだ。

 ということはだ、私を叩きつけたのは物理的なもの。つまり誰かが私に接触して叩きつけたということで、相手は私の近くにいたということだ。

 次に相手は私に敵意を持った相手が殺気どころか近づいた気配すらさせなかった。その事実は相手が相当の使い手とかのレベルではない。

 私は何十万年と生きて気配の察知についてはすでに才能とか使い手とかのレベルで気配を上手く隠しきれることなどできないものだ。

 それはただの自意識過剰とかではなく、絶対的な事実なのだ。それなのに私に気配を察知させなかった。だから私は驚いた。

 ま、まさか敵!? ば、バカな!! 私が感じ取れた気配は()()()()なのに!

 相手はそれから私の両肩に手を置いて動きを制限した。後ろには壁、前には私の両肩を抑えている敵。

 まさかこの私がここまでされるとは思わなかった。

 ぼやける視界の中、相手の姿がうっすらと見える。黒い髪に黒い服(着物か?)を着ている。

 なぜかその姿に見覚えがあった。それもごく身近に。

 私は攻撃されるかと思ったが、その攻撃はまったくなかった。

 相手は何を考えている? 私が行動不能な今に攻撃しないと逆にやられるというのに。

 その理由は完全に視界が回復するとともに分かった。正体は黒歌だった。

 黒歌の顔はほんのりと頬を染めて私をじっと見つめていた。黒歌にこれ以上攻撃する意思はないようだ。でも黒歌が私に攻撃したということで混乱した。

 なんで黒歌がこんなことを? 黒歌は最初から私の敵だった?

 頭の中はそれだけで一杯になった。




更新を長くしていなくてすみません。
これには理由があるのです。
事の始まりは「評価一覧」の一言がきっかけです。見事に『ごみ』と書かれたのです。
いや、このことに反論はありません。自分でもひどいものだと思います。
そこで気分転換などを目的に三人称で書いた作品を投稿しました。
結果、学ぶことがありました。
まあ、段落を作ったほうがいいことですが。

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