ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第38話 私、変態じゃないもん!

フェリに抱きしめられて慰められてついに泣き止んだ。

 

 

「と、とにかく、ま、まあ互いに遊びじゃなければよい。うん、じゃなければよい。分かったな」

「はい、分かりました。で、さきほどのキスの件ですが、二人がお母様の恋人になったということは分かりました……けど! ですが! なんであんな見ている側のほうも興奮してしまうようなことをやっているんですか!! あんないろんな意味で深いキスをしなくてもいいでしょう!! 軽くキスをするだけで我慢してください! もしするなら月明かりが障子と障子の間から薄っすらと入り込む、寝室でやってください!!」

 

 

なんだか後半がやけにロマンチックだったよ。もしかしてちょっとそういう願望があるのかな。ふふ、乙女だね。でも一応フェリからの許可は頂いた。ようはフェリの言うロマンチックな場所でやればいいんだよね。あと、誰にも迷惑かけなければいいんだ。分かったよ。私はフェリの説教からそう学んだ。

 

 

「いいですね!」

「わ、分かった」

「なら今度はこうならないようにしてくださいね。前にも言ったように自分の母親がそういうエッチなことをしている姿を見るのは色々と複雑なんですからね」

「分かっておる」

 

 

私だってお母さん……はないね。うん、ない。確かにきれいだったけど、ずっと私たち兄妹を見てきてあまり他のオスに興味なかったみたいだからね。オスよりも私たちだった。じゃあ、お姉ちゃんたちか。

 

確かにお姉ちゃんたちのうちどちらかが、別の狐といちゃいちゃしていたら、フェリと同じ気持ちになっていただろう。もう相手をぼこぼこにしてしまうくらい。これはちゃんと反省しないと。

 

 

「次は黒歌たちですが……」

 

 

フェリがチラッと私の後ろにいる黒歌たちを見る。それに釣られて私の視線も黒歌たちへと向く。黒歌のほうはさっきと変わらむっとした顔だ。まさかさっきからずっとこうだったの? 本当にどれだけキスしたいのよ。

 

私はちょっと引いていた。次に白音のほうを見るが白音は黒歌の肩を枕にして寝ていた。思わずなんで!? と驚きそうになるが、もとより白音は寝たくてここに来て、私たちもその付き添いでここに来たのだ。

 

それなのに私たちが騒がしくて白音を寝かせなかったのだ。こうなって仕方ない。それにしてもなんてうれしそうな顔なんだろうか。答えは分かっている。でもあまり喜べない。自分の笑顔が引き攣るのが分かる。だってこのうれしそうな顔って絶対に私とキスをしたからだよね。

 

だから喜べないのだ。しかも二人とも私のキスに関係しているし。私はため息とともにがくりと俯く。

 

 

「はあ……白音はまあいいでしょう。お母様、申し訳ないのですが白音をお願いします。私はちょっと黒歌に説教をしないといけないので」

「分かった」

 

 

私たちが悪かったということもあるので素直にその指示に従った。白音を黒歌から離して抱き寄せ、私の膝を枕にして、いわゆる膝枕にして寝かせた。黒歌はフェリの前に移動。黒歌は不満そうな顔のままでその説教を受ける。

 

だが、それはフェリに反省していないと思われ(実際していないからね)、お説教の内容が段々とずれてきた。フェリの声も大きくなる。なんだか黒歌の母親みたい。ああ、フェリったらそんなに大きな声を出したらダメでしょうに。白音が起きたらどうするの。

 

白音を起こさないためにも私は右手の人差し指を宙に向かって指し、周りの音を抑える術式を魔力を使って発動した。これによってフェリたちの声が小声に聞こえるようになった。これで白音はフェリの説教で起こされることはないだろう。そして、逆に私が大きな声を出してもフェリたちには小さく聞こえる。

 

私は視線を下げて膝の上で眠る白音を見る。やっぱりその顔は幸せそうだ。そんな顔でぐっすりと眠っている。私はその頬を突く。ああ、やわらかい。たまにフェリたちが寝ているときに突くけど、白音はまだ幼いせいか二人よりも弾力があった。

 

なんだかずっと成長しないでほしいなと思ってしまう。いや、本当にそうしてしまおうか。生物の成長を止めることなど長く生きた私には朝飯前だ。ただし今の私には無理だけど。なら封印を……う、あっ、だ、だめ! ダメだダメだダメだ! あ、危ない。

 

思わず自分の封印を解いて本当にそうするところだった。これも吸血欲の影響だろうか。どちらにせよ、本当にそうさせてはいけない。自分を落ち着けた後、黒歌たちの様子を見ながら白音の頭を撫でる。

 

むう、さらさらだ。自分の毛と比べても同等と言ってもいいほどの触り心地だ。私の毛は金色で光を反射するもので、とくに人型のときに目立つ髪と尻尾は実は自分の身体の中でも自慢の部位なのだ。狐から人型になれたときは物を細かく操作することができる手があったので、これで毛の手入れができると密かに喜んだ。

 

そういう髪や尻尾の手入れは何か忙しい用事がない限りは毎日やっている。ほぼ習慣である。その習慣はもちろん銀狼で娘であるフェリにも。フェリは最初の頃はめんどくさがっていたが、いつの間にか自分からもやるようになっていた。

 

やっぱり白音や黒歌も私たちのように手入れをしているのだろうか。どちらにせよ、近いうちに白音と黒歌と三人で毛の手入れをし合いたい。だ、だって、こ、恋人だもんね。そういうことはやってもいいよね。でも、

 

 

「はあ~こんな可愛い子が私の恋人か。なんだかもったいないな」

 

 

なにせ私は色々と異質でこの世界では異物とも言える存在。本来ならいるはずのなかった存在だ。それが転生者である私。しかし、転生と言ってもそういう実感はない。なにせ私には前世の記憶がない。

 

転生というのは記憶あってのものだ。なにせ記憶があっての人格だからね。よって、前世の私と今の私はもはや別人と言ってもいいだろう。私はある意味前世の私の人生を乗っ取ったと言っていい。そんな私がこんな幸せな人生を送っているのだから。

 

これは心の奥で思ってきたこと。ずっとずっと。いや、ずっとは言いすぎか。この世界に生まれたときはそんなこと思っていなかった。思い始めたのはつい十数万年くらい前。つまり生まれてから数万年だったかな。

 

そんなに時間がかかったのは多分、無意識のうちに逃げてきたからだろう。そして、ようやく受け止めたのだ。本当に時間がかかった。人間なら人生数百回くらい生きられる。それでやっと受け止めた。

 

 

「こんな私が二人に触れるなんて……」

 

 

白音を触ろうとするが止めた。自分という存在を考えたら、途端に白音のような無垢な存在に触れることが躊躇われた。だが、その心も一瞬で崩れた。寝ぼけたのか白音の手が偶然か途中で止まっていた私の手を掴んだ。

 

白音の手の掴む力は弱いものだったが、私の先ほどの考えを壊すには十分なものだった。白音は寝ぼけてなのか知らないけど、まるで白音がそんなことはないと言ってくれたようだった。たぶん本人は私の心なんて読めないからそんなことなんて思ってもないんだろうけど。

 

ふふふ、全くこの子が私の恋人なんて本当にもったいないくらいだ。でも、そんなこと思っちゃダメだね。そんなことを思うことは彼女たちの好意を侮辱することだ。本当に私も成長しないね。そういうことはとっくの昔に学んだと思ったのになあ。

 

 

「それにしてもフェリの説教は長いね。あれ? 思ったんだけどなんか忘れているような気がする。何だろう?」

 

 

この部屋、今の時間、ここにいるフェリ。これらが何か引っかかるのだが、思い出せなかった。まあいっか。とても気になるけど今は白音の寝顔だ。この寝顔は今は私だけのものだ。これを堪能しないと。

 

私はじっと、ただじっと白音の寝顔を見続ける。私は白音の顔をまんべんなく舐めまわすように見る。閉じられた目蓋とそこに綺麗に並ぶまつ毛、小さな鼻、私の膝の上で扇状に広がる肩までの長さの髪、そして僅かに開いている口。

 

私が一番注目しているのは口―――ではあるがここは唇といったほうがいいか。やっぱりそちらを注目してしまう。だってさっきまで私のと触れ合っていた部位だから。そのためか白音の唇は湿っている。

 

一瞬ドキッとする。さらに体が熱く感じた。私は一旦深呼吸して落ち着く。だけど、どうしても唇が気になってしまう。こんなに気になるのはやっぱりキス、したから? そう思っていると白音と手を繋いでいるほうじゃない、もう片方の自分の手が動いていた。

 

その手の人差し指はまず自分の唇に触れる。自分の唇は白音と同じように湿っていた。私は人差し指を舐める。その人差し指は自分の唾液で濡れたままある場所へと動いた。もちろん勝手に手が動いているわけではない。一応自分の意思だ。

 

そのある場所とは白音の湿った唇だった。そこに私の濡れた指が触れたのだ。ただ私はそれだけでは満足しなかったのか、少し開いた口に自分の指を入れていた。そこで私はやっと正気に戻った。な、なにやっているの!?

 

な、なんでこんな変態みたいなことを!? ま、まさか自分の唾液の付いた指を白音の口に入れるなんて!! た、確かに私たちは恋人になったよ! だからキスしたいという気持ちがある。で、でもなんでこんな!! うわああああぁぁぁぁぁっ!!

 

私の体は恥ずかしさのあまり真っ赤になり、熱くなっていく。熱くなったのは顔だけじゃなく全身で、今まででなったことのない熱さだった……気がする。はうう、本当なら今すぐにでも畳の上に転げまわりたいところだが、白音が膝の上で寝ているのでなんとか我慢する。

 

いや、待って!! それよりもやることがあるでしょう!! 私はいつまで白音の口に指を入れているの!! は、早く出さないと!! しかし、そう思う私の意志とは反対に指は動かない。決して白音の口が私の指を放さないというわけではないのに。

 

なのに、指が動かないということは私自身の心が、深層心理というやつが否定しているというの!? ま、まだ黒歌たち二人には見られていないからいいけど、もし見られたら絶対にまたフェリに何か言われて、黒歌にはさらに嫉妬されるだろう。

 

絶対に面倒になる! お願い、私の指! このままでいたいという気持ちは分かるけど、面倒になるんだよ!! そう自分に何度も言い聞かせてようやく白音の口から指を出した。私のその指にはもちろん白音のまだ温かい唾液が付いている。

 

それを見て私は困った。この唾液……どうしよう。普通に考えてちょっとやり方は汚いけど、着ている服で拭うという選択しかないのだけど、色々と変態な思考になってしまった私にはそんな考えはない。ただ舐めたほうがいいのか、舐めないほうがいいのかの二択しかなかった。

 

自分でも思う。誰だこれ。こんなことを考える変態、私じゃない。もしかして誰かと両思いになったから? だからテンションが上がってこんなことを? 多分そうだ。あまりいい傾向ではないな。しかし、約二十万年も生きた私がこんなになるなんて、私もまだ子どもということか。

 

結局、指に付いた白音の唾液は正気に戻った私が、冷静に着ている服で拭った。拭った後は白音を撫で、ちらりと未だに説教しているフェリとされている黒歌を見た。そのとき、ちょうど黒歌と目が合う。

 

フェリは位置的に私と目が合うことはない。黒歌と目が合って分かったが、黒歌はどうやらさっきの行為を見ていたらしい。おかげで表情はフェリに叱られてさすがに反省した、という風になっているが、目だけは嫉妬の火、いや炎が篭ったものだった。思わず顔がひきつる。ああ、これは面倒になるなあ。

 

しばらく目が合っていると泣き声が聞こえた。音を小さくする術式が展開されているので、声は小さかったがちゃんと聞こえた。すぐさま術式を解除した。フェリも黒歌ももちろん気付いているようで、何事かと中腰になり構える。

 

 

「あっ、そっか。引っかかったのが分かった」

 

 

泣き声の持ち主が誰かで全てが繋がったのだ。泣き声の持ち主は咲夜で今の時間は朝。フェリがここに来たのは私たちに朝食ができたことを伝えにきたのだ。フェリがここに来てから結構な時間が経った。咲夜はずっと待っているのにフェリたちは来る気配がない。

 

それは咲夜だって泣きたくなるだろう。バタバタと縁側を走る足音が響き、この部屋の前で止まった。そして勢いよく障子が開かれた。そこには目元を擦りながら泣く咲夜がいた。咲夜には悪いがその姿を可愛く思った。

 

 

「ふぐ、えぐっ、姉さま!! なんで!! ぐすっ、来ないんですか!! ずっとずっと我慢して待っていたのに!! お腹空いたのに!! うええええぇぇぇぇぇぇん!!」

「ご、ごめんね、咲夜。忘れていたわ」

「忘れていた? 姉さまにとって私はすぐに忘れるような存在なんですね!!」

「ち、違うわ。あなたは私の大切な妹よ! こ、今回は……ちょっと色々あって、ね」

「色々?」

「ちょっと説教を」

「何でですか?」

 

 

疑問に思った咲夜が濡れた瞳でフェリに尋ねる。ちょっとは落ち着いたようだ。

 

 

「え、えっと、さ、咲夜にはまだ早いです! ほら、すぐに行くから先に行ってなさい。結構時間が経っちゃったから冷めていると思うから温めなおして。あとで咲夜にもかまってあげるから」

「は、はい! 分かりました! がんばって温めなおします!」

 

 

フェリのかまってあげるに反応して咲夜は笑みを浮かべてまたバタバタと縁側を走って行く。その姿にフェリはくすっと笑っていた。




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