「そ、それはつまり……ふ、二人は、わ、私のことを?」
恐る恐る思いついたことを口にした。もうここまでくればそれしかないだろう。さっきは間違ったけど、もうこれは間違いようがなかった。
「やっとわかったみたいね。私と白音は御魂ちゃんのことが好きなのよ」
隣にいる白音も頷く。二人の顔を見ればやっぱりそれが本当だと示していた。そして、二人は前かがみになり、私に近づいた。
「じゃあ、もう私たちの言うこと、分かっているわよね? 白音か」
「姉さまのどちらかと付き合ってください」
ほんのりと頬を染めて言う。告白だった。私は初めて告白された。異性ではなく同性だったけどそれはうれしかった。告白されて私は照れる。心臓だってバクバクと激しく脈打っていた。こんなのは初めてだ。で、でも、
「お主らの気持ちはうれしいが、わ、私たちは同性じゃぞ!! 異性じゃない!! つ、付き合うなんて……む、無理じゃろう!!」
「なんで?」
黒歌は首を傾げて言う。
「なんでって……当たり前じゃろう!! そもそも付き合うってことは、将来、ふ、夫婦などになるということじゃ!! 夫婦になるということは子孫を残すこと!! 同性同士じゃむりじゃろう!!」
私は当たり前のことを言った……つもりだった。だが、黒歌はそんな私の当たり前をすぐに難なくぶち壊すのである。黒歌はくすっと笑う。なんで笑うのか分からなかった。どこにもそんな要素なかったよね?
「ねえ、御魂ちゃん。本来なら恋愛なんて必要ないのよ」
「ど、どういうことじゃ?」
私には分からなかった。何が言いたいの? 黒歌は私のことを好きになって今、告白したんだよね? なのになんで恋愛が必要ないという自分の告白の否定を?
「もともと繁殖に必要なのは強さなの。例えば動物。動物の中には群れで行動するものがいる。その群れはオスが一匹、メスが複数で成り立っている。そしてオスはリーダーなの。リーダーが変わるのはオスが別のオスが負けたとき。強いものがリーダーとなり生殖行為をして繁殖して、強い子孫を目的として残す。他にも鳥。鳥だって一部のものには鳴き声やスピードなどで競い合ってメスを奪い合うの。メスが受け入れるのは強いオス、つまり勝ったオス。分かる? 自然界において必要なのは強者だけ。自然界は厳しい世界だからね。強い生き物だけが生き残れるのよ」
白音は黒歌の話に関心して聞いていた。所々で頷いている。私は黒歌の話にたじろいでいた。なんだか私の言ったことが少しずつ崩れていく感覚がする。そして、もう少しで完全に崩れる。そんな予感が……。
「そこに恋愛なんてない。だって、さっき言ったように強さで決めているんだもの。強い子孫を残すためにね。だから、言いたいこと分かる?」
「え、えっと私が魔王よりも誰よりも強いから好きになった?」
「そうじゃない!!」
「ひうっ!?」
怒鳴られて少し恐怖を覚えた私は涙目になり、変な声を出してしまった。なんで怒鳴ったの? だってその話からじゃ強いからってことじゃん! そして、私は強いじゃん! どこも間違ってないよ。今日だけで本当に何回涙目になればいいのだろうか。うう、泣きそうになるのは昔から変わらないな。本当に私は幼い。
「はあ……いい? 私たちみたいな人間、悪魔、妖怪とか知能が高い生物はね、そういう強いとかで子孫を残す相手を選ばないの。恋愛感情というもので選ぶの。強かろうが余話からろうが、ね。自分が気に入ったかどうかで決める。この恋愛感情は本来必要ない」
「……恋愛感情が必要ない」
その言葉を繰り返す。黒歌の言うことはなんだか私の中に染みこむように入ってきた。なんだか私が間違っている気がする。
「そう、必要ない。強さだけが必要だもの。だからね、恋愛には子孫を残すとか残さないとか関係ないの。愛し合うことが目的。私たちのような種族の子作りは恋愛の延長線上にあるだけなのよ。よく恋愛に年齢なんて関係ないとか言うけど、それと同じで恋愛に
「つ、つまり?」
「ふふふ、私たちが付き合っても何も問題がないってことよ。子孫作りと恋愛は別物だもん」
「た、確かに」
こうして私の当たり前はあっさりと完全に崩され、さらには黒歌の当たり前が上書きされたのだった。つまりもう私は恋愛において、自分が好きになったら年齢も性別も関係ないということだ。だからもう同性が相手でも抵抗はない。
しかし、今の私が黒歌たちにドライグとアルビオンに抱いた恋愛感情を抱くというわけではなかった。私はさっきまで黒歌たちをそういう目で見ていなかったからだ。……たぶん。傍で話を聞いていた白音は黒歌の話に目を輝かせている。
「さすがです、姉さま! すばらしい話でした!」
「ふふん! 当たり前にゃ!」
「しかも、納得のいく内容でした!」
「だって適当に言ったわけじゃないからね」
私は悩む。うう、確かに黒歌たちに恋愛感情は抱いていないけど、それは本当なのだろうか。私は今、それに悩んでいた。なぜ悩んでいるかというとさっきの私の行動だ。いや、それだけでなく数日前の夜のことも。
私はなぜあんな行為をしたのか。私が取った行動はすべて単なる家族や友達などにはしない。全て恋人などにする特別な行為だ。それを二人にした。だから悩む。実は心の奥ではやっぱり二人に特別な感情があるのではないのかと。じゃないと悩まないよ。
「それで御魂ちゃん、私か白音のどちらかと付き合ってくれる?」
「御魂お姉ちゃんがどちらを選んでも怨みません。怨むのは姉さまだけですから」
私は二人の仲が悪くなるのなら選びたくないんだけどなあ。だが、それを目の前の二人は許さないだろう。確実に答えを待っている。ん? あれ? ちょっと待って。今思ったんだけど、なんで選ぶのが黒歌と白音だけって厳選されているのだろう。
普通考えて私が別の誰かを選ぶってことを考えなかったのだろうか。二人に対してまだ一応恋愛感情は抱いていないのだから。しかし、そうは思ったもののそういう相手もいないのも事実だ。そして、その相手になりえるのは黒歌と白音でもある。
「わ、私には……」
「「私には?」」
「……ま、まだ決められない。じ、時間をくれ!」
相手にはなりえるがまだそういう相手として見ていないし、どちらかを選ぶのだから時間がかかるのだ。
「姉さま、どうします?」
「そうね。まあ、決まっているわ」
「じゃあ、やっぱり」
「ええ、多分白音が思っているとおりで合っているにゃ」
でも時間があれば決められるのだろうか。そういう問題じゃない気がする。
「御魂ちゃん、それはダメにゃ」
「だ、ダメじゃと!? なんで!!」
「それは私たちが今すぐ答えを求めているからよ。だから今すぐ答えて」
「そ、そんな~。じゃが、お主らはそれでいいのか? 焦ってから指名しても実はもう一人のほうが好きで、私からの好意なんて薄くなるかもしれんぞ」
言ってちょっと恥ずかしくなった。何? 私からの好意って!! な、なんて恥ずかしいことを言ったんだ!! 内心はこうだが表情は真剣だ。今すぐ一人になって部屋の隅で膝を抱えたい。
「それは……嫌だけどそれでも答えを待てないの! だから早く、それでいて御魂ちゃんの好意を厚く受け取れる相手を選んで!」
うわあ、そう来たか。これは困ったよ。さっき自分は時間の問題じゃないって思ったもん。いくら心の中の話のこととはいえ、黒歌たちも真剣なのでそんなの無理なんて言ったりはしない。そういうわけで私は自分の心の奥を見る。
私が黒歌たちにそういう行為をしたということは絶対に黒歌たちが求める答えがあるはずだから。そう思って見ているのだが、長い月日を生きた私にもさすがに自分の心の奥を見るなんて芸当は難しかった。
どうしても見ることができない。これならまだ他人の心の奥を読んだときのほうが簡単だ。はう~自分の心の奥を読むことがこんなに難しかったなんて思わなかったよ。私は二人の顔を見る。二人は私の答えを待って、緊張した顔をしていた。
それにしてもなんで私を好きになったのだろうか。ちょっと疑問に思った。だって私は産んだわけではないけど子持ちだ。それに時々暴走して破壊行為を行う。特に最近はひどい。吸血衝動のせいだ。その破壊行為で私は二人を傷つけたのに。
でも、それなのに私のことを好きでいてくれるんだもん。疑問にだって思うさ。色々と問題があるのに好きでいてくれるんだから。だから決まった。こんな私を好きになってくれた二人だから。
「き、決めた」
「「!!」」
私の言葉に二人が目を見開く。そして、うれしそうになるが、すぐに真剣な顔になる。そ、そんなに真剣にならないでほしいよ。言いにくくなるから。
「だ、誰? 私? 白音?」
「ね、姉さま。邪魔です! 乗り出さないでください!」
「しょうがないでしょう! 気になるだもん!」
「大人気ないです!」
「まだ子どもだからいいのよ」
「子ども? 姉さまが? 笑わせないでください。そんなでっかい胸を持つ子どもなんて見たことがないです」
白音が黒歌の胸を見て言う。黒歌は手で両胸を隠した。
「む、胸は関係ないでしょう! 胸が大きい子どもだっているわよ!」
「見たことがないですけどね。誰かいましたか?」
「え、え~と、た、例えば……」
「ほら、いないでしょう。姉さまは大人です」
「ち、違うもん! こ、子どもだもん」
私、子ども扱いされたいって人初めて見たよ。どちらかというと大人扱いされたい人のほうが多かった。もちろん私は子ども扱いよりは大人扱いされたほうがいい。いや、そもそも本来なら普通にしても高確率で大人扱いされるのだ。だが、これも全て封印のせいで子供扱いされる。全く子どもの姿になっていいことは少ない。店でちょっとだけおまけしてくれたり、交通機関などでは小学生の料金でも怪しまれないということだけだよ。それ以外には全く役に立っていない。
「それに思い出したもん!」
「へえ、誰ですか?」
「フェリちゃん。今、中学一年生でしょう? ほらなら私の年齢ならちょうど中学一年生だし」
まあ、確かにそうだけどね。だけどそれは戸籍を改ざんしたからであって、実年齢と見た目は中学一年生ではなくて、最低でも中学三年生の体つきをしている。なのでフェリは転入初日から目立っていたらしい。
さらには成績も優秀なので学校内では『お姉さま』なんて呼ばれているようだ。しかも、そう呼んでいるのは学校ではフェリの先輩にあたる上学年の生徒からもだ。そうなったときのフェリは頭を抱えて悩んでいた。
そして、それ以来しばらくの間、どうしてこんなことに……とほぼ毎日自室で呟いていたのをフェリの部屋の前を通ったときに聞こえていた。あと、ちなみにフェリがお姉さまと呼ばれていることを知ったのは、たまに本当にたまに小鳥の式紙で様子を見ていたからだ。フェリは式紙の存在には気づいていないはずだ。
「姉さま、フェリさんは違います。姉さまよりも長く生きているんですよ」
「うぐ、そ、そうだけど~」
「ほら、もうあきらめましょう。姉さまくらい、もしくは以上の胸を持つ子どもなんていませんよ」
「うう~」
ねえ、そこで話すのはいいんだけど、私の話があるんだけど。しかも、二人が一番知りたいことなんだけどな。まあ、聞きたくないのなら私はいいんだけどね。
「そ、それよりも御魂ちゃんが誰かを決めたんだから、ね? そっちに集中しよう?」
「誤魔化しましたね」
「ご、誤魔化してない、よ?」
「……なぜ疑問系」
二人はようやく私の話を聞くことにしたようだ。はあ~緊張するな。だってこれって告白の返事だもん。私は大きく深呼吸をした。これである程度の緊張をほぐす。
「私は……」
「「わ、私は?」」
「りょ……」
「「りょ?」」
「両方を選ぶ!! つまり、ふ、二人ともということじゃ!!」
言ってしまえば私はへたれなのかもしれない。私はどちらかを選ぶことができなかったのだから。でも、仕方ないじゃない。私だってよく考えてその結果、二人とも好きになったんだ。私たちは別に夫婦になるというわけでもないので問題はない。
これは恋愛なんだから同時に好きになっても別に問題ない。黒歌の言葉を真似るなら恋愛に人数は関係ない、かな。それに二人ともだから二人が怨み合うこともないはずだ。ただし、それは二人が了承したときだけだが。
「だ、ダメか?」
反応のない二人にそう言った。や、やっぱり一人がよかったの? 二人同時にはさすがに嫌?
「「…………よ」」
「よ?」
な、なに?
「「……………………………………………………よろしくお願いします」」
二人の声は本当に消え入りそうな小さな声で、同時にそう言った。私がただの人間なら聞こえなかったが、私の耳はちゃんと聞き届いていた。聴いた瞬間、私の体が熱くなった。つまりこれで二人は私の恋人ということになったのだから。
なにか変なところがあったらお願いします。
特に書き方とか。