ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第23話 私と果実

「み、御魂お姉ちゃん、大丈夫ですか? 私は姉さまと一緒じゃないと眠れないので、御魂お姉ちゃんと一緒に寝ることは大好きです。私は娘じゃないけど、私の言葉じゃダメですか?」

 

 

風呂から上がりフェリの言葉がずっと残っていた私に白音の潤んだ目で言ってきた。本当に情けない私の姿が展開されていた。今の服は和服の寝間着だ。さすがに寝るときも巫女服は寝にくい。

 

 

「大丈夫。白音がそう言ってくれて、元気になったから」

 

 

風呂から上がったばかりで、寝間着である私たちの体からはほんのりと湯気が立ち上っていた。今はかるく体を冷やしていた。

 

 

「私たちが寝る部屋はあとで案内しよう。今はデザートでも食べよう」

「そのデザートはいつ来るんですか? それにそんなの私は作っていませんよ」

「くくく、大丈夫じゃよ。私が作っておいたからのう」

「いつ作ったんですか? そんな時間なかったと思うんですが……」

 

 

気分が上がってきた私は人差し指を立て答える。

 

 

「くくく、簡単なことじゃよ。それは簡単に作れる物ということじゃ」

「そうですか。ちょっと気になっていた分、複雑な心境です」

「そうか?」

 

 

私の尻尾が左右に揺れる。すでに乾いてる尻尾はさらさらとしていた。それを見ていた白音や黒歌は無意識的にそれを追っていた。

 

 

「じゃが、美味しいぞ。フェリも前に食べたことがあると思うんじゃがな」

「そんな手軽な物を食べた覚えがありませんが……」

「そうじゃろうな。食べたのなんてお主がまだ小さい頃じゃったからな」

 

 

右手の親指と人差し指で大きさを表す。

 

 

「あのときのフェリはいつも私の後ろに付いてきていたからのう。そして、抱っこ~とか言っておった」

「なっ!? なに人の過去を言っているんですか!! ここにはみんながいるんですよ!! それを聞こえるような声で言うなんて!!」

「別にお主が子どものころの話じゃぞ。恥ずかしがることなんてない。当たり前のことじゃよ。私だって家族に甘えておった」

「そうですが……」

「そうにゃん。白音だってまだ私に甘えてくるわ。フェリちゃんが恥ずかしがることはないにゃ」

 

 

恥ずかしがっているフェリに黒歌が言ってくる。白音は未だに私の尻尾を見ていた。わざと尻尾の振るタイミングを変えると面白いように視線がそのように動いた。つい反応を見たくなり、悪戯したくなる。

 

少し尻尾を近づけ、白音の手が伸びると離す。触りたかった尻尾に触れることのできなかった白音はしょぼんとした顔になる。そのときの顔が可愛くて同じことを繰り返した。

 

 

「それで御魂ちゃん。そのデザートってもうちょっと詳しく聞かせて」

「よいぞ。そのデザートはな、私が数万年前までよく食べていたものじゃ。じゃが、ちょっとわけありで食べることができなくなったんじゃ。そして、今日、それが手に入った。それを調理したのだ」

「そんなのがあったんだ。御魂ちゃんは好物だったの?」

「もちろん! 妖怪内では一生に食べれるか食べられないかと言われるものじゃったんじゃぞ。とても貴重で実が生るのも滅多にない。それでいて美味なのじゃ。私が好きでないはずがない。そうだ。見せてやろう。あと1個あった」

 

 

私は立ち上がる。私の尻尾に夢中だった白音は尻尾が止まったせいで、残念な顔をしていた。尻尾へ伸ばした手は床に落ちる。私は廊下へ行き台所から例の物を持って来た。私が手に持つものをみんなに見せる。

 

それは私が昔に食べていた果物。ご飯を食べた後は毎回食べていた。これを食べるのは何万年振りだろうか? 1万年くらい前かな? それを見た黒歌は驚き、フェリ、咲夜、白音はよく分からないという顔だった。

 

 

「黒歌はこれが何か知っておるのか?」

「し、知っているにゃ! 神果(らいか)よね!? なんでそんな貴重なものを持っているの!?」

「らいか? そうか。そう呼んでいるのか。昔は希少なる奇跡の果実と呼んでいた」

 

 

だけど、この実はまだ貴重なようだ。やっぱりどうしても昔のように数十年に一度しか実らないらしい。人間界に出回っていないことから、妖怪内での話だとも分かった。人間界の力を借りれば少しでも改善できるかもしれないが、妖怪は人間と仲良くしたくはないだろう。

 

人間と妖怪は対立関係にある。人間は妖怪を退治し、妖怪は人間に危害を加える。そういう長年の問題がある。だが、どちらも仕方がない。人間と妖怪は違う生き物。そうなってしまうのはしょうがない。

 

 

「な、なら分かっているよね、どんなものか。どこで手に入れたの?」

「これは本当に偶然じゃ。ある場所に空間の乱れを感じた。それは妖怪が住む異空間の入り口じゃった。じゃが、見て分かるほど乱れておった。まあ、強制的にその入り口を開いて中に入ってみれば、そこにあったのはあちらこちらに空間の穴の空いた地じゃった。そこで探索をしていたら、この実を見つけたというわけじゃよ」

 

 

その異空間は捨てられた空間だった。いろんな理由から妖怪がいなくなり、その空間を維持する力がなくなり、空間に穴があいて不安定になった。そんな場所で生っている実を見つけた。それが神果だった。

 

きっとずっと独りで実をひっそりと付けていたのだろう。そのためか5つほど生っていた。私が持っているのはそのうちの1つだった。ほかはもう調理した。もうすぐで式紙が持ってきてくれる。

 

 

「ご主人様、持ってまいりました」

「ふむ、ご苦労。ここに置いてくれ」

「かしこまりました」

 

 

デザートが置かれる。そのデザートからは甘い匂いが漂ってきた。白音はじっと見つめる。その口の端からは涎が垂れてきてもおかしくないような状態だ。そのデザートはアップルパイだった。

 

いや、アップル、つまり林檎の変わりに神果で代用しているので、ライカパイですね。長年この実を食べてきた私は、神果の調理法を知っている。本来なら洋の食べ物を作ることはないのだが、お菓子は別だ。

 

和菓子も好きだが、甘い物が多い洋菓子も大好きだ。なのでパスタなんて作らないが、ケーキは作る。

 

 

「お母様が洋菓子を作るなんて珍しいですね。私も数回しか食べてません」

「でもこれって何ですか? アップルパイじゃりませんよね! 話からするに神果という果物のパイですよね! 黒歌はどんな味か知っているんですか?」

「私も知りたいですね。お母様はそんなものを教えてくれませんでしたから」

 

 

チラッとフェリは私を見た。その目にはなんでそんなものを食べさせてくれなかったんですかという感情が篭っていた。そんなに食べたかったのかと思うと一度くらいは食べさせればよかったと思った。

 

白音の口の端からは涎が垂れていた。それを見た黒歌はその涎を拭いていた。どうやら白音は食いしん坊のようだ。黒歌は白音の口の端を拭きつつ話す。

 

 

「神果は主に妖怪たちの中でよく知られているの。詳しくは知らないけど、金持ちの人間には知っている人はいるみたい。その味に魅せられてね。それでその味はとても美味しいらしいの。神果はが生るのは数十年に一度で1本の木につきたったの数個だけ。それだけしか生らないから、妖怪の中でもそれを食べられる者は滅多にいないし、あったとしてもとても高い。あっ、ほら白音、我慢しなさい」

 

 

抜け駆けしてつまみ食いをしようとした白音を止めた。私は式紙に指示を出す。それに従い式紙はパイを切り分けた。

 

 

「ありがとうね、御魂ちゃん。そういう理由もあって食べられないの。私もちょっと見たことがあるだけ。だから分かったの。そ、それを、い、今から食べるの? に、偽物じゃないわよね? ほ、本物よね?」

「もちろん。なぜ偽物を出す必要があるんじゃ? そんなつまらんことをするわけがないじゃろう。それにそんなに疑うなら食べてみよ。味はちゃんと保障するぞ」

「い、いや、疑うわけじゃないよ。でもそんな高価な物を食べるなんてなかったから」

 

 

黒歌は両手を思いっきり左右に振る。私は切り分けたパイを皿に移し、みんなに配った。みんなはフォークを手に取り、一口にしたパイを口に運んだ。私も一口食べる。口に広がる甘い味。

 

思わず頬が緩んでしまう。昔、食べた味を思い出した。神様を辞めてからずっと食べていなかった。フェリの子育てということもあったし、何よりも神様をしていた家に種を置いてきてしまった。

 

この実がある異空間といってもあんまりないし、毎日が楽しくてそんなことどうでもよかった。能力で種を出しても良かったが、それを忘れていた。うん、私はバカだったみたい。

 

だが、今出そうにもできない。その能力は今、私の妹のところにある。吸血鬼の具現化能力を使っても、それは本物ではない。外見が同じだけのもの。

 

 

「う~ん、いいね。美味しいにゃ♪ これが神果なのね! 高い理由も分かるにゃ」

「そうですね。美味しいです。まさかこんなに美味しいものが食べられるなんて感激です」

 

 

言葉の中には表れていないが、その顔にはニコニコ顔で表れていた。満面の笑みと言ってもいいだろう。白音はあんまり表情を表さないが、その白音がこんなに表すほどの美味しさということだ。

 

フェリ、咲夜も自分の頬を両手で押さえ、その美味しさを噛み締めていた。それを見て私は美味しさとは別の笑みを溢す。娘たちが喜ぶのを見るは私の幸せだ。これを見るために生きているといってもいい。

 

 

「御魂ちゃんはよく食べていたなんて言ってたけど、どのくらいだけ食べていたの?」

「そうじゃな。ほぼ毎日じゃな。毎日の夕食のあとのデザートはこれを食べておったぞ。美味しすぎて一度に何度も食べていた」

「え゛な、何度も? ほ、ほぼ毎日? こ、これを?」

「そうじゃよ」

「あははははははっ! ちょ、ちょっと御魂ちゃん。いくらなんでもそんな嘘分かるわよ。全く面白いんだから!」

「いや、嘘じゃないんじゃがな……」

 

 

私は何もなくなった皿にフォークと丁寧に置いた。そして、まだ調理されていない実にかぶりついた。さっきとは違いダイレクトにその実の甘さが口に広がる。昔はこれだけでも良かったけど、こうして調理して食べることもいいということに気付いた。

 

実を食べて私の歯は硬い何かにたどり着く。見ればそれは種だった。それを取り出し、神力を込めてみる。悪魔でもある私にあってはならい聖なる光を放つ。他はそれに気付かない。

 

種はその光に答え、小さな幼い芽を出した。私はそれを小さな音を立てさせ座卓の上へ置く。デザートに夢中になっていた視線が集まる。

 

 

「それはなんにゃの?」

「これは神果の種じゃ。どうじゃ、これで私の言ったことを証明せぬか?」

「いいけど、そんな簡単にできるの?」

「もちろん。それくらい私には朝飯前じゃからな」

「ふふふ、数年後が楽しみにゃ♪」

「なにを言っておるんじゃ? 数日後には結果はでるぞ」

 

 

私は首を傾げた。黒歌も傾げた。互いになにを言っているんだという顔だ。

 

 

「木になるまでどれだけ時間がかかるのか知っているの? 小さな木ならまだしも、これが実をつけるまでとなると結構かかるにゃん。それにいくらなんでも数日はないと思うわ」

「くくく、そう()()()木ならな。残念だがこの種が私の手の上に置かれた時点で、もうただの種ではない! フェリ、この土地が荒地からここまでになるのにどれだけの時間がかかった?」

「約1ヶ月です」

「えっ!?」

 

 

黒歌は声を上げ、驚いた。

 

 

「ここって荒地だったの!? しかもそれをここまでにするのにたったの1ヶ月!? ど、どうしたらそうなったの!?」

 

 

体を乗り出し、私に顔を近づいた。近くから見ると黒歌はまだ幼いながら、美人という言葉がふさわしい顔立ちだった。あと1年もすれば幼さも抜け美人になるだろう。そして、白音。白音はまだとても幼い。

 

残念だけどきっとあと数年しても変わらないと思う。ちょっとは成長するかもしれないけど。でも、美人になる可能性は高い。

 

 

「少し落ち着け。ちゃんと話すから」

「ご、ごめんにゃ」

「よい。まあ簡単に話すとここはもとは荒地で、それを私の力でここまでにしたというだけじゃ。もちろん力のことは秘密じゃよ」

 

 

まさかその力が神の力なんて言うことができるわけがない。だが、神は神でもこっちの天使がいう神とは違う神だ。私が使うのはこの世界を作った神と同じ神の力。もちろん下級神なので結構制限がかけられているし、神の中でももっとも弱いだろう。

 

まあ、そもそも神様同士が戦うなんてないから、あまり関係ないんだけどね。それに他の神様なんて出会ってないし、私は色々と不安定だから。

 

 

「私はそれを使いほぼ毎日これを食べていたぞ」

 

 

食いかけの実を前に出す。それを見た黒歌たちは睨むような目で私を見てきた。

 

 

「……どうして1人で食べているんですか? 黒歌も白音も咲夜もまだ食べたかったのに。それを一番年長者であるお母様が食べるなんて……。はあ……大人気ないです」

「ぐすっ、御魂ちゃんだけなんてずるい! 御魂ちゃんはずっと食べてきたんだから、私たちに分けてくれてもいいじゃない!! それに御魂ちゃんの力が本当ならあと数日で食べられるんでしょ!? ならまだ一回しか食べたことのない私たちに分けてよ!!」

「黒歌の言うとおりです! 私たち娘に分けてくださいよ!」

「私、あんなに美味しいものを食べたことなかったです。もうちょっと食べたかったのに……」

 

 

フェリ、黒歌、咲夜、白音に色々と言われる。そのせいで私は涙目になりそうだった。

 

 

「ひぐっ……う、うう……ごめんなさい。で、でも数日まで待ってくれ! ちゃんとみんなにも分けるから」

 

 

この場はそういうことで収拾がついた。その後すぐにみんなにこの実を食べさせるためにも私は、種を植えた。


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