「母様! 遅かったですね!」
「うむ、色々とあってな」
私は黒歌を見ながら言います。黒歌はみんなの前だからか、いつも通りにしているように見えます。
「お姉さま、無理してませんか?」
「してないにゃん。さあ、行こう」
やっぱり妹である白音には黒歌が無理をしていることが分かるようです。いいな。これが兄妹の絆ですか。私は昔のこと思い出します。兄と姉で走り回って食べ物を探してたり、遊んだり……。
長いこと生きましたけど、お母さんと姉と兄との思い出は未だに鮮明に思い出せます。今も楽しいですけど、昔も楽しかったです。
「お母様?」
「ん? どうした、フェリ」
「いえ、お母様がなんだか昔のことを思い出しているような顔をしていたので」
私は思わず頬を緩めます。私にも黒歌たちみたいな絆がありました。私とフェリと咲夜は親子の関係。確かに血はつながっていないけど、その絆は確かに親子の絆。たとえ誰かが否定しても、それは変えられません。
私はうれしくなり、フェリに抱きつく。
「お、お母様?」
「ちょっとくらいこうさせよ。親孝行というやつじゃ」
「はい、分かりました」
フェリは封印状態の私より背が高いので、抱きかかえられます。そして、そのまま頭を撫でられる。完全に子供扱いされています。
「む、私を子供扱いをしておるのか?」
「いえいえ、こっちのほうが抱きやすいからです」
「本当か?」
「はい」
それなら仕方ないです。私はおとなしくフェリに抱きかかえられます。はあ、なんだか私のほうが子供でフェリが親みたいです。
「むむ! 姉さまだけずるいです! 私だって母様を抱きたいです!」
「お主は下心丸見えじゃぞ。絶対にお主だけには抱かれん」
「そ、そんな! 母様のこと大好きなのに! ちょっとくらいいいじゃないですか!」
「お主からは私の貞操の危機を感じるぞ」
私の尻尾を見るとパタパタと勢いよく振られています。うう、やっぱり体は正直です。フェリに抱かれるのはうれしいようです。
「お母様、そろそろ行きましょう。このままでは日が暮れてしまいます」
「おっと、そうじゃったな。ほれ、行くぞ」
私の一言でみんなが動き出します。私はフェリに抱きかかえられたままですけどね。門を出ると空気が変わったのを感じます。やっぱり私の土地は特別ですね。
「うにゃ、御魂ちゃん、空気が変わったにゃん。どういうこと?」
「うう、あまりいいものではないです」
黒歌と白音が息苦しくしています。やっぱりそう感じますか。都会と田舎の空気みたいなものですね。
「門の外1キロメートルはまだ私の土地じゃ。しかし、門の外は全く整備しておらん。そして私の力も働いておらん。そのせいで空気が違うんじゃよ。分かったか?」
「そうにゃんだ。結構すごいんだね」
「ふふん、そうじゃろ。私は特別だからの」
私はフェリに抱きかかえられたまま、胸を張ります。なんだかこれじゃあ、色々と台無しです。だって、抱きかかえられた子が胸を張って威張っているんです。あまりいい絵じゃないです。
「咲夜、ほれ」
私は咲夜に転移用の札を渡す。私は抱きかかえられたままですからね。これじゃ札が使えませんもん。咲夜は札を手に取り、それに気を込める。
「場所は魔王城じゃ」
「はい!」
札が輝き私たちを包み込む。そして、次に光が収まると目の前には大きな城が見えた。私は周りを見回す。誰も欠けていない。ふむ。成功ですね。
「これが……魔王城」
「ん? 黒歌は前の主のときに見なかったのか?」
「ううん。けど、こんなに近くで見たことがなかったにゃ。あいつはそこまで偉いわけではなかったしね」
「ふ~ん、そうか」
私は未だにフェリに抱きかかえられたまま、黒歌と話をする。
「フェリ、もう降りるぞ」
「はい、分かりました」
フェリは膝を曲げ、私が折りやすいようにしてくれる。私は片方ずつ足を着き、降りる。うう~ん、やっぱりフェリに抱きかかえられるのはよかったです。今度から移動の際は抱きかかえてもらいましょうか?
私は先頭を歩き城へと進む。みんなも私のあとについてくる。黒歌と白音は城の周りにある建物を見ていた。城の周りには街がある。城下町ってやつですね。ここは首都みたいなものなので一番発展し、にぎやかなはずです。
フェリと咲夜も同じように周りをチラチラと見回す。こっちはどちらかというと、警戒しているようです。全く、そんなに警戒しなくてもいいのに。私が封印状態でも簡単にはやられませんよ。それに封印状態より強い相手でもすぐに封印を解除できますから。
封印は何回も説明しますけど、私が寝ているときなどの意識がないときに、力が具現化しないようにするためにしているだけですから。ただそれだけですよ。
「サーゼクスに用がある」
私は城の扉を守る兵に言います。兵は私を見ると厳つい顔で私を見ます。
「ああ? ふざけているのか? ここは魔王がいる場所。貴様のような者が入れる場所ではない」
むむ! 女の子に向かってそんな態度! 男は私のような
「ふむ。お主、痛い目にあいたくなければ、今すぐそこを通せ」
「はっ! たかが中級悪魔ごときが俺に勝てると思っているのか? ここにいるのは全員上級悪魔クラス! 俺はちょっと強いくらいだ。もしかしたら貴様でも勝てるかも知れないな」
「挑発か? まあよい。じゃが私のかわりの者がおるぞ」
「うん? そうみたいだな。見たところ……これはちょっとやばいな。上級悪魔クラスが3人、か。そして、下級が1人」
フェリたちを見て顔色を帰る兵。見ただけでそういうことがあるのは、実力のある証拠です。やっぱり魔王関係の仕事の人はただの悪魔じゃ務まらないということですね。
「おっと、上級の1人と下級ははぐれじゃないか。というか、下級は悪魔だったのか? まあいい。SSランクのはぐれがいるし、上級が複数。とてもじゃないが勝てない。ここは応援を呼ぶしかないな」
「ほう、自身のプライドよりも仲間を呼ぶことを優先するとはな。お主は強くなるぞ。ちゃんと何を優先すべきか分かっておるからな。もっとも私には勝てんが」
兵はすぐさま応援を呼ぶ。私はただ待つだけです。私以外は警戒。そうしてしばらく。城から多くの兵が出てくる。その全員が当たり前ながら警戒をしていました。唯一警戒していない場違いなのは私だけ。
「動くな! ここからは通さん!」
「全員警戒せよ!」
「魔王様に連絡は!?」
さまざまな声が飛び交う。それでもなお何もしない。というか、別に戦いに来たとかじゃありませんから。そんなことをする必要がないんです。でも、戦闘状態になりました。
うん。これは私が悪いです。最初に私が脅したからこうなったんですから。いつもそうですね。どうも急がないとと思うと、挑発的になるんです。
「お母様、どうします? 戦いますか?」
「いや、戦わん」
「しかし、相手はほとんど上級です。さすがの私でもちょっと無理です」
「それは勝てないということか?」
「ふふふ、お母様、わざと言っていますね。無傷で倒せないということです」
「ふっ、それは安心じゃな。けど、何もせんでよい」
私は笑みを浮かべます。さて、そろそろ終わらせましょう。私は前に出る。それに互いの警戒が高まる。
「さて、私は別にお主らと戦うつもりはない。ただサーゼクスと話をしに来ただけじゃ」
「無理だと言っている! 貴様らのような怪しい奴に会わせるわけにはいかん!」
ひどい言われようです。私は別に怪しい奴じゃありません。どう見てもただの女の子ですよ。
「やれやれ、またか。君はちょっとやりすぎだ。今度から私に会いに来るときは事前に言ってくれ。毎回ここに来る度にこれではな」
そこにそう言いながらやってくる者が1人。
「さ、サーゼクス様! なぜこちらに! ここは危険です! お下がりください!」
「いや、下がるのは君たちだ。そこの方は君たちより強い。全員でかかっても一瞬で終わる」
「ま、まさか! 相手は上級が3人、中級が1人、下級が1人です。なのに上級ではなく中級が我々より強い? ありえません!」
「だが、事実。それに今は中級クラスだが、彼女は上級悪魔だよ」
「中級クラスなのにですか!?」
やっぱり驚いています。まあ、そう思われても仕方がありません。事情を知らない人から見ればそうです。
「とにかく、彼女は私の客だ。彼女たちを通しなさい」
「し、しかし!」
「二度は言わない。通しなさい」
「は、はい、分かりました……」
兵たちは道をあけます。兵たちはみんな困惑の表情を表れていました。私はその中を通ります。フェリたちは戸惑いの表情を表していました。やれやれフェリも咲夜もまだまだ子供ですね。
長生きしてもまだこういう経験には慣れていないようです。黒歌と白音はまだ子供ですから仕方ないです。でも、フェリたちが黒歌たちと同じ表情というのは情けないです。そして、私たちはサーゼクスの部屋に着きます。
「さあ、どうぞ。好きな席に着いてください。もちろん君たちもだ」
サーゼクスはフェリたちにも言います。私はサーゼクスの言うとおり、席に着きます。
「では、用件を聞こう。ただ遊びに来たとかいう理由ではないのだろう?」
「ふむ、そうじゃな。では用件を言う。この子らのはぐれをなくしてもらおうということじゃよ」
「なるほど」
サーゼクスは手を組む。その後ろにはグレイフィアが控えていました。この部屋にはグレイフィアとサーゼクスと私たち以外はいません。
「私個人としてはそれを許可しよう。だが、他はそれで納得するだろうか? いや、きっとしないだろう。そして、魔王としてはそれを許可しない」
「そうか。ならどうしたら魔王として許可してもらえるのかな? お主と戦えばよいのか?」
それに私たち以外が立ち上がり戦闘態勢になります。私は手を上げ、攻撃をするなという意思を伝える。
「たとえそれをしても、私は君に負けるだろう。それは無理な話だ」
「くくく、それは分かっておるよ。ただの冗談じゃ。それで他の魔王も許可すればよいのか?」
「まあ、それも1つだ。だが、時間がかかる。君は急いでいるみたいだ。それはいやだろう?」
「いやじゃな。こういうことは早く解決してほしいと思っておるからな」
だって黒歌たちのはぐれを解除するのに時間がかかったら、黒歌たちが思いっきり心を休ますことができないかも知れないじゃないですか。それは嫌です。早くはぐれをなくして、ゆっくりとしたいです。
そのためには一刻も早く、黒歌たちのはぐれを解除してもらわないといけません。ここは交渉の踏ん張りどころです。
「何かないのか? 早く解除する方法は」
「そうだな。なら君の体で払ってもらおうか」
「へ?」
サーゼクスの答えに私は間抜けな声を出してしまいました。そして、自分の顔が熱くなるのが分かります。か、体で払うってそういう意味ですよね。サーゼクスだって男です。やっぱりそういうことに興味があるんですね。
恥ずかしくなった私は、両手で胸やらを隠す。こ、こんな体でも欲情するんですね。それはそれでちょっとうれしいですけど。
「わ、私の体が欲しいのか? で、でもな、私だってお主のことは好きじゃが、それは友人などに使う好きじゃぞ? 性的な好きはまだちょっと……」
頬を染めながら言う。そこにちょっと怒り気味のグレイフィアがサーゼクスに近寄る。
「サーゼクス様? 私というものがありながら、御魂様を選ぶんですか? 私じゃ満足できないということですか? 胸が小さいほうがよかったんですね。それもロリが」
「ちょっと待て。どうしてそういう方向に話が進んでいる」
「サーゼクス様が御魂様を欲しいと言ったからです。理解できませんでしたか? 一回私と真剣に話し合わないといけないようですね」
「違う。私はそういう意味で言ったのではない! 彼女に何かをやってもらうという意味だ」
サーゼクスがこんなに慌てるなんて見たことがありません。というか、グレイフィアって結構攻めるんですね。
「ええ、分かっています。御魂様に性的な要求をするわけですね」
「違う! そういう要求ではない」
「はあ、あなたと私の子がいるのに……。あの子が大きくなったとき、なんて言えば……」
グレイフィアが手を額にやる。一部芝居が混じっていますね。最後はわざとからかったんですね。
「ほう、お主らには子供がおったのか。それはぜひ見てみたいものじゃ」
「ふふふ、御魂様、暇なときにぜひいらしてください。あの子はまだ4歳です。そうですね。あの子を鍛えてもらいたいのですが。どうですか?」
「ふむ。まあよいじゃろう」
2人の子を鍛える、ですか。鍛えるのは別にいいですね。リアスを鍛えていて楽しかったですから。ん? そうだ! これを利用すればいいじゃないですか! 私の頭の中に1つの案が浮かぶ。私は立ち上がりそうになりながら、サーゼクスに提案した。
「サーゼクス、お主らの子を鍛える代価として黒歌たちのはぐれを消すというのはどうじゃ?」
「無理だ」
私が問いてすぐにそう返されます。ま、まさか断られるなんて……。でもどうして? 一応リアスを鍛えたんです。実績にしてもちゃんとあります。断る理由はないはずですが。
「それにOKを出すのは個人としてだ。私情を代価にその子たちのはぐれを消すことはできない」
魔王としての言葉。個人ではない。へ~、ちゃんと公私混同しないようにしているんですね。私もまだ甘いです。目的ばかり優先してばかり。ちゃんと他のことも考えないといけませんね。
これからは気をつけないと。もしかしたら黒歌たちにも迷惑がかかるかもしれません。私の軽はずみの言動でそうなるのは嫌です。私は深く反省しました。