ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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第1-8話 私に妹?

「どこへ?」

「私はリアスを鍛えに行く。今日はその日じゃからな」

「そうですか。ではいつ帰りますか?」

「昼間はリアスを鍛えるから、夕方くらいには帰ると思う」

「では、夕食はこちらですね」

 

 

私は最後に未だに寝る咲夜の頭とフェリの頭を撫でる。フェリはそれに微笑み、寝ている咲夜も微笑んだ。

 

 

「いい子で待っておるんじゃぞ」

「もう! 私は大人ですよ。当たり前です。ちゃんとおとなしく待っていますよ」

 

 

頬を膨らませ怒ったような顔になるが、私に撫でられたままなのでただ可愛いだけだった。

 

 

「では、行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 

私は地下にある転移用魔方陣のもとへと向かった。地下へと向かうための階段は薄暗い。地下へ行くための階段は窓のない部屋にある。そのため薄暗い階段はより深い闇を作り出していた。

 

その闇は人をひどく不安にさせるものだった。この闇には何かいるのでは? この闇に入ったら最後、出られないのでは? そう思わせる。明かりがあればその闇も晴れるのだが、この階段に明かりなんてない。私はその闇へと歩いていっている。

 

狐でもあり、夜の生き物である妖怪と吸血鬼の存在である私にはその闇の先が見えていた。どこに何があるのかさえも分かっていた。階段を降りると壁、いや左に道がある。また闇に染まる廊下を歩いた。

 

狭い廊下だ。二人横に並んで歩くなど無理だろう。一人なら多少余裕があるくらいの幅だった。そして、広くなった空間に出た。わずか三メートル四方の部屋だ。物はなにも置かれていない。

 

あるのは床に描かれた部屋ぎりぎりにまでに描かれた魔方陣だった。そこでやっと私は手の平に魔力を集中させ、火を灯らせた。その火は小さいがこの狭い部屋を明るくするには十分だった。

 

 

「ふむ。さすがに暗かったか。あれではフェリたちが怖がるな」

 

 

私はふと先ほど通った廊下や階段を思い出す。フェリはどうも暗闇が苦手だ。小さい頃に怖い思いをしたためだ。そして、咲夜はまだ人型になって数年。刀のときに意思があったとはいえ、生まれたばかりの子どもには違いない。

 

なのであの廊下には魔力で灯る魔道具を設置することにしようと思った。そのためにはやっぱりサーゼクスに頼むしかない。そういうものがあるといいのだけど、あるのだろうか?

 

さてとそうしているうちに時間が経っている。私は魔方陣の真ん中に立ち、魔方陣に魔力を流した。魔力を流された魔方陣は黒い光を放ち輝く。そしてさらに輝き私を包み込んだ。

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

家からの魔方陣で冥界にある私の土地へと転移した。あの魔方陣は人間界と冥界を繋ぐものだ。少々特別なため膨大な魔力を消費する。魔力の低い者が使えば一瞬でなくなるだろう。

 

それほどの魔力を消費するのだ。あまり効率のいい魔方陣ではない。ちゃんと研究すれば魔力の消費量を抑えられるのだろうが、今のところ私しか使わないので改良していない。もしフェリたちが使うことになっても、フェリたちなら大丈夫だ。

 

二人は魔王には及ばないが膨大な魔力を有している。消費しても魔力切れにはならないし、私の土地で少し休めばすぐに魔力が回復する。

 

冥界に来た私はさらに転移した。場所はグレモリー家の敷地だ。さすがに邸? 城? の中に転移するのはまずいだろう。いくら私が高位の存在とはいえ、そういう礼儀は守る。私はそびえ立つ扉の前へ来た。

 

ただでさえ大きい扉は私の背が小さいため、より大きく感じる。その扉を叩く。扉が大きいせいか音はあまり響かなかった。もしかして気づかなかった? そう思っているとその巨大な扉が左右に開いた。

 

開けたのは使用人であるメイドのようだ。しかも扉一枚につき、たった一人。このメイドが人間なら驚いたが、悪魔となるとその驚きはない。

 

 

「ようこそ、薬信御魂さま。どうぞ、こちらへ」

 

 

言葉は淡々と言っていたが、顔にはこの子どもが? という感情が表れていた。でもさすがというべきか。言葉に動揺がなかったのだから。私は複数いる中の一人のメイドについて行く。

 

入ってすぐの玄関は無駄に大きかった。いや、もはや玄関ではない。部屋と言っていいほどだ。ここで子どもが走り回っても大丈夫だ。そしてふと見上げれば大きなシャンデリアがある。やっぱり貴族は分からない。メイドはどんどん進んでいく。

 

私はその道中、周りばかりを見ていた。うん、やっぱり珍しいものばかりだ。妙に色々と高そうな壷だってある。それにメイドや執事とすれ違う。こんなに雇っているのだから結構なお金がかかっているだろうに。

 

 

「御魂さま、こちらで奥様がお待ちです」

 

 

メイドは扉をノックする。

 

 

「奥様、御魂様がおいでになりました」

『そう。開けていいわよ』

 

 

中からまだ二十代のくらいの女性の声が聞こえた。だが、私は知っている。相手が二十代ではないことを。悪魔はその魔力を使い、見た目を変えることができる。だから、実年齢は何百歳ということもある。

 

現に私を見よ。この幼い姿だがその年齢は二十万歳を超えている。まあ、私の場合はちょっと事情があるが。メイドが扉を開ける。どうやらメイドは中へは入らないらしい。私は中へと入る。

 

 

「ようこそ、御魂さん。私の名前を覚えています?」

「ヴェネラナ・グレモリー、じゃろ?」

「あら、ありがとうございます。私のことはヴェネラナと呼んでくださいな」

「よいのか?」

「ええ、なんだか御魂さんとはよい関係が築けそうですから」

「なら私のことは御魂でよいぞ」

 

 

よい関係というのが友というものならやっぱり対等の立場として、互いに呼び捨てのほうがいいと思う。

 

 

「いえ、それはもう少し親しくなってからで構いませんか?」

「まあ、お主がそれでよいのならそれでよいぞ。それでリアスはどこじゃ?」

「こちらです。リアス、恥ずかしがってないで出てきなさい」

 

 

するとベッドの陰から前に会ったときからずいぶんと成長したリアスが顔を覗かせていた。リアスは恥ずかしいのか出てこない。

 

 

「リアス! 出てきなさい!」

「は、はい!」

 

 

ヴェネラナが怒るとリアスはびくりと体を震わせて、勢いよくすぐ近くまで出てきた。けど、次は母親であるヴェネラナの背に隠れていた。その姿に思わず微笑ましくなる。しかし、それはヴェネラナによって私の前に出された。

 

再び隠れようとするが、ヴェネラナに阻止される。

 

 

「こら、リアス! これから色々と教えてもらう先生に失礼ではありませんか!!」

「うう、ごめんなさい。でも…………嫌です」

 

 

リアスはそう言った。リアスの目は私を見下すような目だ。さっきの態度と変わって一転していた。

 

 

「だって、弱そうですもの。今までの先生だってそうです。みんな私の前では弱すぎました。何も学ぶことはありませんでしたわ。それに妖怪ですし」

 

 

なるほどね。どうやらリアスは才能に恵まれているようだ。その才能はリアスを教える先生の力を上回るもので、それがリアスにおかしな自信をつけたようだ。だけど、私の実力を察せない程度で強くなった気でいるなんて。

 

はは、あははは、甘いですよ。とても甘い。そうですね。まずはその自信をつぶしましょうか。ヴェネラナは私の耳元へ顔を寄せ、

 

 

「御魂さん、あの子に思いっきりお願いします」

「分かった。私があの子の教育を含め指導しよう」

「ありがとうございます」

 

 

ヴェネラナは私から離れるとリアスに向き合う。

 

 

「リアス、今日一日は先生の指示に従いなさい。いいですね?」

「でも」

「でもではありません!! 分かりましたか?」

「は、はい!」

 

 

どうやらその自信も母親には通用しないようだ。私はリアスに近づく。

 

 

「私が今日からお主の先生となる薬信御魂じゃ。以後は先生と呼ぶように」

「…………よろしくお願いします、先生」

 

 

リアスはふてくされた顔でそう言った。なんだかむかつく態度ですね。まあいいです。妖怪の子どもの世話をしていたときはこんな子はたくさんいました。そして、教育して礼儀正しい子にしました。

 

リアスもちゃんと礼儀正しい子にしますよ。そうですね。自分よりも弱い相手でも礼儀を持つ子にね。私はリアスの手を取る。リアスは一瞬びくっとなる。まさか手を繋がれるとは思わなかったのだろう。

 

 

「ヴェネラナ、それで異空間の準備は?」

「分かっていますわ。もうすでに用意できています」

 

 

そう言うと私に一枚の紙切れを渡してきた。その紙には魔方陣が描かれており、話の流れと術式でその正体が分かった。これは指定された異空間への転移用の魔方陣だ。私はそれを受け取る。

 

私の札と違って流すのは気ではなく、魔力だ。私はチラッとリアスを見る。リアスは私を見ずに別の方向を向いている。

 

 

「リアス、準備はできたか?」

「………………できてます」

「そうか。ヴェネラナ、行ってくるぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

紙に魔力を流した。起動した魔方陣は紙から飛び出て、大きくなり私たち二人の体を通過した。魔方陣が通ったあとには私たちの姿はなく、この部屋にヴェネラナだけが残った。

 

そして、私たちはどこかの異空間へと転移した。そこは多くの自然と山と草の生えていない荒れた地面がむき出しの場所だった。ふむ、鍛えるのはよい場所だ。なにより山があってよかった。

 

山のあの斜面は足腰を鍛えることに適している。なかったらどうしようかと思ったが、どうやら無駄だったようだ。そして、木などが生い茂る自然は身を隠したり、隠れている者の気配を察知するために役立てられる。

 

私の頭の中でこの土地での特訓内容を考えていた。私はこの子を強くする。だから特訓内容は慎重に考えないといけない。

 

 

「それでどうするんですか、先生」

 

 

リアスは嫌みったらしく言う。やっぱり態度が大きい。貴族の子ってみんなこうなんですか? 庶民に育てられたほうが礼儀正しくなりますよ。私はリアスにでこピンをした。

 

 

「いたっ! な、何するんですの! 私はグレモリーですよ! 分かってます!?」

「くくく、あはははははははっ」

「な、何ですか!! なにがおかしいんですか!?」

「ははは、はははははは! グレモリー? グレモリーだと? だからどうした」

「だ、だから、あなたなんてどうとでもできるんです!! それに私のお兄様は魔王です!! あなたなんて一瞬で消滅ですわ!!」

 

 

どうやら本当に甘やかされて育てられたようだ。自分の家の権力と才能で自分が優位だと思い込んでいるようだ。だが、それは自分の力ではない。それは才能であってもだ。まだ力を見てはいないが、きっとまだ扱いきれていない。

 

扱いきれていない力を自分の力とはいえない。私は昔の自分を思い出した。昔はただの狐で自分の家族を守ることができなかった。そして力を手に入れてもその力は強力すぎた。おそらく多くの者はそれで満足し、努力などしないだろう。

 

なぜなら強力すぎて損することはないからだ。だけど、暴走した。暴走した結果、私はみんなを危険にさらした。確かに強力すぎるというのはいいことであるが、強力すぎるがゆえに暴走するのだ。

 

それに細かな魔力操作ができないとすぐに魔力切れになる。

 

 

「消滅? 消滅だと? サーゼクスには無理じゃよ。私を消すことなどできんよ」

「なっ! お兄様を呼び捨て!? 何様ですの!?」

「私はサーゼクスの友じゃよ。友なら呼び捨てでよいじゃろう」

「見たところ中級悪魔ですよね? なんでそんな人がお兄様と?」

「おやおや、まさか友とは同じ階級ではないとダメなのか?」

「そうですわ。下級や中級なんて……」

 

 

リアスは中級以下の悪魔を見下していた。どうやら自分が特別なため、そう思っているようだ。私が家族を襲った者を見下すなら分かります。でも、リアスは違う。リアスはその階級だけで見下している。

 

それはダメだ。上級悪魔なら上を立つ者なら階級だけで見下してはダメだ。

 

 

「じゃが、お主はいずれは下僕を持つ身だ。その者もそうやって見下すのか?」

「あ、あなたには関係ありません!!」

「いや、関係ある。私はお主を教育するために来た者。これからは私がお主の考えを変えてやる。今のお主はグレモリーにふさわしくはない」

「なっ! 私をバカにしています!?」

「バカにしている? いやいや、バカにする価値もない。お主はうぬぼれじゃからな」

「もう怒りました!! あなたを消して差し上げます!! お母さまにはてきとうに言っておきますわ!!」

 

 

リアスの手のひらに魔力が集まる。その魔力は実に禍々しい。ふむ、滅びの力か。確かに強力だ。並大抵の悪魔では負けてしまうだろう。だが、魔力がうまくまとまっていない。

 

なので本来の滅びの力の半分の威力しか出せていないだろう。だが、それでも強力な力だった。リアスの魔力はバレーボールくらいの大きさになる。それをリアスは放った。

 

 

「どうですか!! あなたはもうお終いです。さようなら」

 

 

リアスは悪魔らしい笑みを浮かべた。今までもきっとこれでよかったのだろう。皆それでやられた。だからまたリアスは思ったのだ。これで終わったと。だが今回は相手が悪かった。

 

相手はこの私。魔王すらも上回る力を持つ私だ。私はこの程度ではやられない。それに死ねない。そういう呪いがあるから。迫りくるリアスの滅びの力。それを私は()()()握りつぶした。

 

それを見たリアスはその場にへたり込む。よほどのショックだったのだろう。目は見開かれたままだ。

 

 

「そ、そんな……す、素手で? 魔力で覆っていない素手で? 全力だったのに?」

「お主の全力は私からしてみれば、素手でつぶせる程度ということじゃ」

 

 

次は私が笑みを浮かべた。そして、リアスを見下した。だが、私の手は焼け爛れていた。私のその焼け爛れた手からは筋肉が覗く。さすがに魔力で覆っていない素手で握りつぶすのは無理があったようだ。その焼け爛れはすぐに再生し、元のきれいな手へと戻る。

 

しかし、そのかいあってかリアスがショック受けるにはちょうどよかったようだ。

 

 

「どうした? 私を消すのではなかったのか? ほら消してみよ!! お主の自慢のその力で!! どうした!! やってみよ!!」

「あ、ああ…………う…………」

 

 

私は怒鳴り散らす。リアスはそのまま立てずに言葉にならない声を上げる。

 

 

「う、うう…………うわあああああああああっ!!!!」

 

 

そして、リアスは叫んだ。立ち上がり再びその小さな手に滅びの力を集めた。だが、さきほどと比べると威力が落ちている。リアスは放った。だが、今回は少し違う。さっきは一発だったが、今回は何発も放ってきた。

 

威力が落ちたとはいえ、いくつもの滅びの力。それを全て魔力なしで潰せない。さすがに全部潰す前に私の手が役に立たなくなる。しかし、それでも私は私へ向かってくる滅びの力を握りつぶした。

 

そして、魔力切れになったのか、リアスは放たない。リアスは肩で息をしていた。

 

 

「な、なんで? なんで…………無事なのよ!! 私はたくさん放ったのに!!」

「ん? なぜか教えてやろうか。お主の魔力が私を狙っていなかったからじゃよ」

 

 

そう。私が握り潰したのは()()()()()()()()()()()()だった。それ以外は全て外れていた。なので私の周りは地面が抉れている。

 

そして、少しとはいえ魔力なしで握りつぶしたので、私の手は骨や筋肉、肉などがむき出しになっていた。うう、自分でやったことはいえ、こういう生々しい傷を見るのには抵抗がある。

 

だが、それもすぐに再生し、もとの手へと戻った。

 

 

「冷静ではないお主のてきとうに放った魔力などが当たると思ったか? それにしても自分の力を通じなかっただけであんなに取り乱すとは、まだまだ子供じゃな。のう、リアス」

「……っ」

 

 

リアスは悔しさから小さく声を漏らす。その目には涙が溜まっていた。

 

 

「私から言わせてもらえば、よくあの程度の魔力で何も学ぶことがないと言えたな。それではお主の今までの先生たちには通用しても、将来戦う者たちには通用せんぞ」

「で、でも!!」

「私には通用せんかったろう。それでもまだ言うのか? それともまだ分かっておらんのか? ならば次は私と戦おうか。そして分からせてやろう。お主がまだ未熟だということを。どうする? やるのか?」

「やります!! 今度こそはあなたを!!」

 

 

リアスは立ち上がって涙を手の甲で拭い、私と向き合う。その目にはさっきまでの私を見下すような目はなく、自信もない。少しは自分の未熟に気づいたか。これが大人だったらプライドなんてものがあるから、簡単にはこうはならなかった。

 

リアスを今の年齢から教育できてよかった。これならリアスはもっと強くなれる。そのためにもっとリアスを壊してあげる。そして作り直すから。

 

 

「ならば来い」

「はい!」

 

 

リアスは再び魔力を込めた。ほう。あんなに魔力を使っておいてまだそれだけの魔力があるのか。それが放たれる。今度は一発だが正確な狙い。私の胴体を狙って向かってくる。

 

今度のリアスの魔力は最初に放った魔力よりも威力が上がっていた。私と戦ったためにこうなったのか? それともまだ本気ではなかった? まあどちらでもよい。私は滅びの力を()()。私の真紅に染まる瞳に五芒星が現れる。

 

複写眼(アルファ・スティグマ)だ。私はその瞳で滅びの力を解析した。そして私は理解した、滅びの力を。

 

 

「こうか?」

「なっ!?」

 

 

私の手のひらに魔力が現れた。それは今向かってくるリアスの滅びの力だった。それにリアスは驚く。私はリアスの滅びの力に私の滅びの力を放つ。二つの滅びの力はぶつかり相殺した。

 

その衝撃で土煙が舞った。リアスは腕で向かってくる土煙から顔を守った。

 

 

「……あなたも私たちと同じ家の者なのですのね。バアルの者ですよね?」

「いや、私はバアルなど知らん」

「嘘です! その滅びの力はバアル家とその血を受け継いでいる私とお兄さましか使えないはずです!!」

「だとしても、私はバアルの者ではない。私の親は父親は知らんが、母親は狐じゃったしな」

「ならなぜですか!?」

「詳しくは言わんが、ただの魔力弾でもそれを構成するもの式がある」

「式?」

「そう式じゃ。その式があるためにさまざまな魔力が使えるのだ。だから、式さえ分かれば私にも使えるのじゃ」

「そ、そんな……。ならその式さえ分かれば誰でも使えるんですか?」

「いや、使えん。そもそも式を教えることなどできんよ。式といっても数字をつかっておるわけではないしな」

 

 

私が使えるのはこの目のおかげです。これのおかげで大抵のものは使える。でも、弱いころの私ならともかく、今の私にはあまり使いどころがない。あるなら飛んでくる魔力を分解することくらいだろう。

 

それに相手の魔力を真似しても、大抵は私の魔力弾のほうが威力が上だ。だから本当に使いどころがあまりない。

 

 

「それでリアス。まだ戦うか?」

「……いえ、戦いませんわ。私はどうやら間違っていたようです」

 

 

リアスはその場にぺたんと座り込む。長い紅の髪が地面に広がった。私の金色の髪と同様、きらきらと輝く。この紅の髪はグレモリー家の証だ。グレモリーはこの髪を持つ。私もリアスの傍に膝をつき座る。服が汚れるが気にしない。

 

 

「おや。やけに素直じゃな。さっきまでは私を消すと言っておったのに」

「あ、あれは忘れてくださいませ!! でも、許されるのなら私を鍛えてくれないのでしょうか?」

 

 

リアスは私をチラチラと見ながら、恥ずかしそうにそう言った。どうやら根はいい子のようだ。私は思わずその頭を撫でてしまった。さらさらとした紅の髪の感触がした。

 

 

「ひゃっ!? な、なにするんですか!?」

 

 

リアスは私の手を払いのけ、すばやく私から離れた。その顔は真っ赤になっていた。ふふふ、可愛いね。でも、やっぱりフェリや咲夜には負けるけどね。

 

 

「ああ、すまない」

「もう! それでどうなんですの?」

「もちろんよいぞ。もともとはお主を教育するために来たのじゃから。じゃが、その前にこれからは相手の階級がどうあれ、年上には敬意を払え」

「で、でも」

「でも?」

「い、いえ! 分かりました。年上の方には階級が低くてもちゃんと敬意を払います」

「それでよい。もしも払っておらんかったら、そのときはお主を壊して人形にするぞ」

「わ、分かりました」

 

 

リアスはびくんと体を震えさせた。それだけ私が怖かったようだ。でもこれでその考えが変わるのならそれでいい。恐怖で変えるのはあまりやりたくないが、今回のはこれでいいだろう。

 

あとは私が教育している間に変える。私は特訓をするために立ち上がり、膝の土を払い落とした。リアスも立ち上がる。

 

 

「では、始めようか」

「は、はい、先生!!」

「まずは体力作りだ!!」

 

 

私は指を鳴らす。すると私たちがいる場所から山へとかけて攻撃性のない魔力弾が現れた。それは今からリアスを走らせるためのコースをあらわす。私はそれをリアスに説明する。

 

 

「えっと、つまりはこれを辿りながら走ればいいんですね?」

「そうじゃ。今日は初めてなので一周すればよい」

「結構簡単ですわね」

 

 

リアスは少し笑う。あれ? いいところの育ちだから体力はないと思ったけど、体力に自信があるなんて。まあいい。言った以上は今日は一周だ。次からは増やせばいいだけ。

 

それに特訓は走るだけではない。まだ他にもやることはある。だから走った後に体力があるほうには問題はないだろう。

 

 

「では、走れ。私は上から見ておるからな」

「あの、途中で休んでいいんですか?」

「もちろんダメじゃよ。そして、走るスピードは落とすな。そのまま維持しろ。いいな?」

「分かりました」

 

 

リアスの顔に動揺が見られる。どうやらスピードを落とさずにということに動揺したようだ。だが、やってもらう。苦しい中で走ってもらわなければ特訓ではない。リアスは大きく息を吸い、深呼吸した。

 

そして、準備体操を始める。しばらくすると準備体操が終わり、リアスの準備が終わった。リアスは走る姿勢になり、自分で決めたスタートで走り出した。ほう、速いな。リアスはその小さい体で人間の男性とほぼ同じくらいの速さだった。

 

さすがは悪魔というべきか。悪魔は人間とは比べ物にならないほどの身体能力を持つ。たとえリアスくらいの子どもでもその身体能力は、人間の成人男性と比べることができるくらいだ。でも、もしそれで体力持つのかな?

 

リアスはコースに従い、走っていった。それを私は上空から追いかける。このコースの距離は子どもであるリアスには長いだろう。約十キロメートルだ。だが、ただの道のりではない。

 

自然が多くある道のりだ。その自然には木々の根っこがむき出しになり、それを踏めば体力の消費が激しくなる。そして、山。木々の根っこに加え、山の斜面だ。それでまた体力が消費される。

 

私の作ったコースはそういうコースだ。ただの十キロメートルを走るときとは違って、大幅に体力を消費される。リアスもそれにより段々とスピードが落ちていった。だが、それでも必死にスピードを落とさないようにとがんばっていた。

 

私の言いつけを守っているのか。本当にいい子だ。そして、山の山頂あたりでついにリアスは倒れた。私はすぐさま降りて、リアスを抱きかかえる。

 

 

「大丈夫か?」

「はあ、はあ、はあ、うっ……す、すみません! は、吐きます!」

 

 

リアスはすぐさま私から離れて胃の中のものを吐き出した。私は近づきその背をさすってやる。リアスは苦しげな顔で吐き続けた。

 

 

「うえっ……うう……げえぇ……げほっげほっ」

「今日はここまででいい」

「ま、待ってください!! わ、私まだ大丈夫です!!」

「無理をするな。体力はもうほとんどないじゃろう」

「うぐ……ごめんなさい。私がだらしないせいで……」

 

 

リアスは涙を流しながら、謝った。きっと途中で投げ出したことが余程、悔しかったのだろう。リアスはグレモリー家の娘だ。それなりにプライドがある。生まれてからレベルの高い教育を受けてきたリアスはそれをこなしてきた。

 

リアスにはできないことはない。そういう自分にリアスは誇りに思っていた。その自分ができないことなど許されない。そう思っていたのだろう。

 

 

「いや、よくやった。今日は初めてじゃったからな。お主にだってできないことはある。じゃが、ショックを受けて止まっていたままではダメじゃぞ」

「はい、ありがとうございます。でも吐きました……あんな姿を人に見られるなんて……」

「言ったじゃろう。止まるなと。そういう姿を見られても下を向くな。いいな」

「はい……」

 

 

リアスは力なく返事をした。まだ幼いとはいえ女の子だ。他人に胃の中身をぶちまける姿は見られらくはない。私だって見られたくはない。私は今にも泣きそうなリアスを抱きしめた。

 

リアスは一瞬抵抗を見せたが、そのまま私に抱きしめられた。そして、頭を撫でる。

 

 

「……なんでこうしてくれるんですか?」

「私の生徒じゃからな。嫌じゃったか?」

「い、いえ! でもなんだか優しい感じがしてうれしいです」

「そうか」

 

 

私もうれしくなり、リアスの顔の横で微笑んだ。私は抱き合いながら私はリアスの体についた傷を治した。

 

 

「あ、あの口を漱ぎたいので水を……」

「む、そうだな。ちょっと待っておれよ」

 

 

私はリアスから離れ、この山に流れる水を汲む。入れ物は吸血鬼の具現化能力で出した。ここは異空間だがなぜか水が流れていた。見たところこの水は飲めるようだ。だが、見たところ、だ。

 

私は水の入ったその容器に口を付け、その水を飲んでみた。口の中に冷たい水が流れのどを通った。味には問題ない。そして、私の体にも問題はなかった。でも私の体は色々と特別なので大抵の毒などは効かない。

 

つまりこの水を飲んでリアスの体になにか起きることがあるかもしれないということだ。でも、ここは一応、グレモリー家でありリアスの母親であるヴェネラナ・グレモリーが用意したものだ。毒などはないだろう。

 

私はすぐにリアスのもとまで向かった。リアスに容器を差し出し、リアスは受け取る。そして、水を飲もうと口を付け容器を傾ける、が、

 

 

「あ、あのそう見られると恥ずかしいのですが……」

「すまん」

 

 

頬を少し赤く染め、リアスの様子を見ていた私にそう言った。私が後ろを向くとその背後でうがいをする音が聞こえる。私はそれを聞いていただけだった。そういえば、フェリたちはどうしているだろうか。

 

フェリはまあ、大人だから大丈夫だと思うけど、咲夜はまだ子どもだ。我がままとか言っていなければいいのだけれども。あの子は私がいないとなるとすぐに我がままを言う。

 

それがきっかけで二人は喧嘩をいつもしていた。まあ、全部本気じゃないから、仲がいいという証拠だ。それに全部口喧嘩だった。今日もそうなのかな。やっぱり喧嘩しているのかな。

 

 

「あの、せ、先生。もう終わりましたわ」

「なら向いていいな?」

「はい」

 

 

リアスは口元を恥ずかしそうに隠していた。

 

 

「さてと、昼食にはまだ時間がある。次は魔力の特訓じゃ。いいな?」

「はい、大丈夫です」

「なら、次は指に火を、いや、火はダメじゃな」

「え? なぜですか?」

「お主には滅びの力があるからじゃ。お主のこれから使う魔力はほとんど滅びの力じゃろう。じゃから滅びの力じゃよ」

「でも、今さら何の特訓を? 必要ないと思いますけど」

 

 

私はリアスの額にでこピンをした。

 

 

「い、いたっ。せ、先生何をするんですか!!」

「まったくお主はまだまだじゃな。あきれるほどじゃ」

「なっ!! 言いすぎですわ!! 私は生まれてからこの力を中心に使ってきました!! 言ってみれば火や水、雷よりも一番使い慣れています!!」

「そうは言ってもお主はまだ生まれて数年じゃろう。使い慣れているというのはこういうことじゃよ」

 

 

私は指先に火の玉を作る。そこまでは誰でもできる。しかし、火の玉は形を変える。きれいな人型から蛇、鹿、ドラゴンと次々と形を変えた。これが大きな火の玉だったら簡単だったのだが、私の火の玉はピンポンボールくらいの大きさの火の玉だ。

 

魔力は小さければ小さいほど扱いが難しくなる。いや、小さくすること自体も難しいのだ。その小さな火の玉の形を変えるということは相当な難易度。

 

 

「す、すごい!」

「ここまでできて使い慣れている、じゃ」

「でも、きっと世の中で使い慣れているって言っている人でもここまでは無理だと思いますけど」

「ははははっ何を言っておるんじゃ? みんなできるに決まっているじゃろう」

 

 

私はその火の玉をさらに小さくした。次はパチンコ玉くらいの大きさだ。それにリアスは驚き目を見開いた。

 

 

「まだ小さくできるのですか!?」

「さすがにここまでくればマスターしているというべきじゃ」

「いや、でもやっぱり先生のようにできる人はいませんよ」

「おお? 今日会ったばかりの私を褒めるとは一体どうした?」

「褒めてません!! 皮肉です!!」

 

 

私は火の玉を握りつぶした。

 

 

「そうだ。やはり滅びの力だけというのはダメじゃな。そういうわけで片方は滅びの力、もう片方は火じゃ」

「えっ!? ちょっと待ってください!! 二つですか!? それも種類の違うものを!?」

「無理か?」

「無理ですよ!! できるわけありません!!」

 

 

リアスは必死になった。そんなに無理だろうか。ではと私は右手の人差し指に火を、左手の人差し指に滅びの力を出してみた。二つの魔力はピンポンボールくらいの大きさで安定していた。うん、できる。無理ではない。

 

それをリアスに見せるが、額に手を当てため息をついていた。どうしたのだろうかと思ってリアスの顔を覗き込む。

 

 

「どうした?」

「……いえ、なんでもありません。とりあえずがんばってみます」

 

 

顔を上げ両手それぞれの人差し指に魔力が込められる。しばらくしてもまだ何もでない。魔力が集中しているのは確かだが、コントロールがうまくいかないせいかできていないようだ。

 

リアスの顔は必死に力を入れているため、顔までもが違う意味で真っ赤になっていた。それでもまだ魔力は出現しない。リアスは一旦止め、しばらく考える。そして、また始めた。

 

だが、今回はさっきとは違う。リアスはまず片方に火を灯した。その火はバレーボールくらい大きさだった。やはりコントロールがダメなようだ。そして、次にもう片方に魔力を集中した。

 

なるほど。同時は無理なら一個ずつか。ちゃんと考えていますね。ただ片方に集中するともう片方の魔力が小さくなってしまっている。そして、また反対側に集中するともう片方の魔力が小さくなる。

 

うむ。やはり二つ同時と言うのは難しかったのか。

 

 

「そこまで!」

「っ……はあ、はあ、はあ」

 

 

力んでいた体の力が抜けたリアスはその場で大きく息をする。

 

 

「すみません。できませんでした」

「そうみたいじゃな。まあよい。この特訓は毎日一時間以上やれ。できなくても、じゃ。じゃが、さっきは滅びの力と別の魔力といったが、まずは同じ魔力を二つでよい。それができたら別々の魔力でじゃ。そして、今からは片方だけでよい。とにかく小さくしろ。あと三十分あるから、がんばれよ」

「はい」

 

 

リアスは指に滅びの力を出現させる。だがまだ大きい。大きさはバレーボールより小さいくらいだ。リアスは少しずつ小さくしていく。少しずつ少しずつだ。だがある程度の大きさになるとそこで止まる。

 

それから小さくしようとするが、そこからは細かなコントロールが必要なため、そのコントロールが未熟なリアスでは、魔力が消えかける。それが何度も繰り返され結局それ以上小さくならなかった。

 

 

「うう、できませんでした」

「よい。今日が初めての特訓じゃったろう。才能があっても最初から何でもうまくいくわけがない。こういうのは毎日の特訓が必要じゃ。落ち込むなよ」

「はい、先生。ありがとうございました」

 

 

そう言って頭を下げた。たった一日、いや数時間なのにリアスの性格は変わってきている。このままいけばいい子になる時間も遠くはない。けど、私のやっていることは他人の娘を洗脳しているようなものだ。

 

しかし、これは必要なものだ。ヴェネラナには悪いけど、この子は私がすべて教育させてもらう。私が教育している間はね。

 

 

「あの、今日の午後はどうするんですか? また特訓ですか?」

「そうじゃな。午前は魔力を中心にしたから午後は身体能力に関係することをしようか」

「なぜです? 必要ないでしょう」

 

 

リアスは首を傾げてそういった。

 

 

「まさかお主は遠距離からの攻撃しかせんつもりか?」

「そうですけど?」

 

 

きょとんとした顔で言った。ああ、まさか悪魔ってみんなこうなんですか? 遠距離の攻撃が使えるから近接攻撃はいらないということですか? そうだとしたらそれはダメですよ。

 

いや、悪魔には下僕となるものがいる。だから必要ないと感じているのか。ともかくリアスにはどの距離でも対応できる悪魔になってもらう。一つの距離だけなんて言語道断。

 

でも、だからといって剣などの道具を使う近接攻撃はリアスには向いていない。リアスの最大の攻撃は滅びの力だ。武器を持っては邪魔になる。となると体術になる。リアスは悪魔とはいえ、女の子。

 

確かに相手が人間では力では勝っているが、同じ悪魔が相手となるとあまり意味がない。なら力の大きさを利用する合気道や柔術を教え込むか。

 

 

「なら遠距離からの攻撃しかしないという考えは捨てろ。これからは近接もする」

「分かりました。でも、なぜですか?」

「なぜ、か。その前に一つ。お主は将来下僕を持つ。そうじゃろう?」

「はい、上級悪魔なのでそうなります」

「ではまずその下僕たちをどうやって決める? ただ実力のあるものを下僕にするのか?」

「まだ……よく分かりません」

 

 

リアスにはまだ早かったようだ。リアスはまだ子どもだ。勉強はできてもこういうことには人生経験が関わってくる。人を見極めるのに必要なのは知識と経験なのだから。そしてその経験は私が教えて学べるようなものではない。

 

長い時間をかけて学ぶものだ。一番いい方法としては多くの者と話すこと。リアスは七十二柱の一柱のグレモリー家の娘だ。そうなると他の悪魔との交流は多くあるはず。この交流には多くの悪魔が集まるだろう。

 

ならばその悪魔の中には悪いことを考えている悪魔やそうではない悪魔がいる。人を見極めるにはとてもいいものだ。

 

 

「そうじゃろうな。ならばアドバイスしよう。下僕にするなら実力よりも中身にしろ」

「その相手が全く無能でもですか?」

「そうじゃ。では信頼のできない実力のある悪魔と信頼できる実力のない悪魔。どちらが安心できる?」

「それは……」

 

 

リアスは腕を組んで考えた。そんなリアスに私は、

 

 

「これに正しい、正しくないなどない。どちらもが正しい。そう深く考えなくてもよい」

 

 

それによってリアスは自分の答えが見つかったようだ。リアスは私と視線を合わせる。

 

 

「信頼できる実力のない悪魔です」

「なぜじゃ?」

「信頼できない実力のある悪魔が下僕だと、裏切って私を殺すかもしれないからです」

「そうじゃな。じゃがお主がその下僕から殺されないほどの実力があればよいのでは?」

「………………」

 

 

しばし沈黙。そして意を決した顔になった。

 

 

「私一人では倒せない相手と出会ったときに、信頼できるものであれば一緒に戦えます。けれでも信頼がないとその下僕が怖くて一緒に戦えません」

「そうじゃな。中身といったのはそのため。まあ、言ったように答えなどないからな。お主が正しいと思った通りにやれ。ただよく考えよ。」

 

 

リアスは小さくうなずいた。

 

 

「それで近接もする理由じゃが、王はお主が育てた下僕たちに守られる。じゃが、常にというわけではあるまい。王が一人になりそれで戦うことになるかもしれん。そのときの相手がもし遠距離に強く近距離に弱いとしたら? 遠距離ばかりのお主は負けるじゃろうな。つまりそんな相手でも対応できるようにというわけじゃよ」

「でも、そんな相手と出会う確立なんてあるんですか?」

「ある。いつかは知らんがな。まあ、世の中には色々な相手がいる。使える手は増やしておけということじゃよ。それに学んでおいて損はない。お主は王じゃ。王なら逆に下僕を守れるくらい強くなれ。少なくとも下僕はお主のために守るのじゃから」

「分かりました。私も先生みたいに強くなって、下僕を守れるくらい強くなります! そのために色々と学びます!」

 

 

リアスは目を輝かせて言った。

 

 

「もう時間が来てしまったな」

 

 

私は一枚の紙を取り出す。それには魔方陣が描かれている。これは転移魔方陣。ここに来るときに使用したものだ。これを利用してリアスの家へと帰る。

 

 

「リアス、帰るぞ」

「はい」

 

 

私がリアスに手を差し伸べ、リアスはその手を握った。ここに来たときは嫌々という感じがしたが、今は自ら私の手を取った。私はそれをうれしく思った。僅か数時間でリアスは変わった。

 

私はリアスの私よりも小さな手を見つめた。普通の悪魔なら友達と遊んでいる時期だ。妖怪の子どもだってそうだった。だから、

 

 

「お主はこの生活で幸せか?」

 

 

そう聞いた。リアスはいきなりの質問に疑問の顔を浮かべた。しかし、すぐに元通りになる。

 

 

「はい! 幸せです!」

 

 

満面の笑みでそう答えた。その笑みには偽りなく、心からの笑み。本当に幸せであるものしか出せない笑みだ。それは私の心でも感じられる。私も幸せな気持ちになったから。笑みというものは他人にもその感情を共有させるものだ。

 

だから私も幸せにさせたその幸せは本物だ。私の幸せは家族といることだ。家族と幸せ。私は昔のことを思い出す。私を生んだお母さんとその子どもである私とお姉ちゃんとお兄ちゃん。

 

あの時も幸せだった。ただその幸せも一匹の獣によって消された。昔のことだが今も鮮明に思い出すことができる。腹の中身を喰われて動かなくなった二匹。二度ともう話せない。

 

まだ言いたいことあった。それなのに言えずに二人はいなくなった。今でも後悔している。私がもっとしっかりしていれば、まだ長く生きることができたのに。それなのに私がバカだったから二匹は死んだ。

 

だから、もう二度とそうならないためにも私を力をつけた。

 

 

「先生?」

 

 

リアスが不安そうな顔で覗いてきた。

 

 

「どうした?」

「いえ、怖い顔をしていたので……」

「すまないな。ちょっと考えごとじゃよ。では一旦帰るとしよう」

 

 

私手に持った魔方陣に魔力を込めた。さっきと同じように私たちはグレモリーの家へ転移していった。転移した後はリアスの母親であるヴェネラナに午前は終了したと伝えた。

 

そして、昼になったということは私も昼食を食べるのだが、私もここでリアスたちと食べることになった。ここの料理は家の見た目どおり洋食だった。普段あまり食べない洋食だったが私に気を使ってくれたのか、味は薄めにされていた。

 

食べている間に考えていたのはリアスの特訓内容ではなく、やっぱり家で留守番している二人の娘のことばかりだった。留守番させるのはこれが初めてではないのだが、やはりどうしても心配してしまうものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、お母様」

「お帰り!母様!」

「うむ。ただいまじゃ」

「お母様。ご飯にします?お風呂にします?それとも「それ以上はいわせんぞ!」

ゴホン、夕飯にしましょう」

「ああ、それでよい」

「母様!リアスはどうだったんですか?」

「そうじゃな。体力が少なかったな。じゃからしばらくは体力作りじゃな」

「私も手伝いたいな~!」

「だめじゃよ。お主は手加減できんじゃろ」

「うう、確かにそうだけど、姉さまの手伝いは暇なんだもん!」

「まだ一回目じゃぞ?もう少し続けなさい」

「分かりました~」

「咲夜。あとで話があります」

「ね、姉さま。そういえばいましたね」

「二人とも、そろそろ食べないか?私は腹が減っておるんじゃが」

「そうですね。話はあとでいくらでもできますからね」

「そ、そうですね。ご飯を食べましょう~」

 

 

咲夜は食べ終わったあと逃げようとしましたが、同じタイミングで食べ終わった

フェリが捕まえ別の部屋に連れて行きます。やっぱり仲がいいです。

母親の私としてはうれしい限りです。

 

食べ終わったあとは風呂に入り、すぐに寝ます。

明日もありますからね。私の体調はそう簡単には崩れませんが、精神的な疲労は

あります。今日は特に何もしていませんが。

 

寝室では親子3人で寝ます。家は和風なのでベッドはなく布団で寝ます。

洋風の2階建てでも良かったんですが、私としても和風の2階建てがよかったので

親子3人で和風にしました。庭も和風です。

 

 

 

 

朝になります。朝ご飯などはフェリが作ります。私と咲夜は食事ができて、フェリが

お越しに来るまで寝ます。私は母親ですが、これくらいいいでしょう。

 

 

「お母様、咲夜。朝ですよ。起きてください」

「う、う~ん。おはよう。フェリ」

「おはようございます、お母様」

「う~、あと5分・・・」

「咲夜。起きなさい」

「あと5分です~」

「咲夜。起きなさい。そろそろ怒りますよ?いいんですか?」

「うるさいです~」

 

 

その一言にフェリがキレる。フェリは咲夜の頭を掴み、庭に引きずります。

そして、庭の池へ放り込みます。

 

 

「ヘックション!何をするんですか!」

「咲夜、目が覚めましたか?」

「え?はい、覚めてますけど?」

「なら、朝食です。顔を洗う必要は・・・・ないですね」

「あります!この水、池のですよ!?ここの水はきれいですけど、それでも池です!」

「なら早くしなさい」

 

 

咲夜は急いで家の中に戻ります。

私たちも入ります。そういえば、フェリたちの調査の報告を聞いていません。

 

 

「フェリ、昨日の調査の報告はあるか?」

「いえ、まだです。少しありますが、まだ大したものではありません。

集まったら報告します」

「分かった」

 

 

食べ終えた後、私はリアスのもとへではなく特訓した異空間へ直接向かいます。

昨日、そこに来るようにしておきました。封印は解きません。力が大きすぎるので

ずっと手加減するのは難しいからです。

 

 

「リアス。今日も走ってもらうぞ。お主には体力がない。数日間はこれだけじゃ。

体力がある程度ついたら武術の特訓にも入る。分かったな」

「はい」

 

 

リアスが走りだします。私は空中で見るだけです。

リアスは学習能力は高いようです。昨日よりもスムーズに走り抜けます。

今日は昨日より早く着きます。昨日は午後からだったので、時間がありませんでしたが

今日は午前からなのでまだ時間があります。

 

 

「リアス。午後からも走ってもらう。それまでは魔力のコントロールの特訓じゃ」

「どうすればいいんですか?」

「これを昼食まで続けておれ」

 

 

私は人差し指に蝋燭くらいの火を出します。

出しすぎても、小さすぎてもだめです。

 

 

「昼食までですか?」

「そうじゃ」

「そんなに持つでしょうか?」

「お主の魔力の量ならぎりぎり持つじゃろう」

「わ、分かりました」

 

 

リアスは最初は魔力の大きさのコントロールに手間取っていましたが、

数十分すると蝋燭の火より少し大きいくらいになりました。

この特訓は魔力のコントロールという目的もありますが、その魔力をコントロールし続けるという精神力も必要です。

 

この特訓だけでも2つのことが鍛えられます。一石二鳥です。

リアスが保つことができたのは1時間ちょっとだけでした。あと1時間ちょっとで

昼食でした。

 

私は自分の土地で昼食を食べた後、再び異空間へ行きます。

 

 

「昼食のあとじゃ。急な運動はせん。今から2時間くらいは魔力の特訓をする」

「分かりました」

 

 

 

 

2時間が経ち、また走らせます。ゴールするまでの時間が少しずつ早くなっていっています。順調です。30分以内になったら距離を増やしましょう。

 

 

「明日から武術の特訓に入る」

「あれ?数日後じゃないんですか?」

「そうじゃ。その様子じゃ武術の特訓に入っても大丈夫そうなのでな」

「分かりました。内容は何ですか?」

「明日、教える。今日は解散じゃ。しっかり休んでおくんじゃ」

 

 

私は家に帰ります。

 

 

「お母様、今日は早いですね」

「午後からじゃなかったからな。それなりに時間に余裕ができたんじゃ」

「そうですか。すみませんが、夕食は少し待ってください。すぐに出来上がります」

「そうか。咲夜はどこへ行ったんのじゃ?」

「咲夜はおそらく自分の部屋です」

「そうか。なら問題ないのう」

 

 

その後、夕食を食べ、風呂に入り寝ます。

リアスには合気道などの力をあまり必要としない武術を教えましょう。

他にはCQCでも教えますか。

 

 

 

 

 

 

リアスが走り終えます。

 

 

「早速、武術などの特訓に入る。お主に教えるのは相手の力を利用する武術じゃ。

そして、近接格闘術、つまりCQCを教える」

「先生、なぜ私が接近戦を」

「お主が接近戦をするときのためじゃ」

「そんなことありますか?」

「世の中、いろんなことがある。お主がもう少し強くなってからその接近戦の大切さを教えてやろう」

 

 

私は道場を作り出します。そして、リアス用の道着も作り出します。

合気道などを教えるのですから、ちゃんと服装から入ります。

リアスの準備ができます。

 

 

「準備ができたようじゃな。まずは受け身から入る」

「受け身?」

「受け身は地面にぶつかる際に体にくるダメージを軽減するものじゃ。戦闘では滅多に

使わないと思うが、さっきも言ったように何があるか分からん。無駄かと思うかもしれんが損はない」

 

 

私は受け身を教えます。

明日からは技に入ります。

 

 

 


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