ハイスクールD×F×C   作:謎の旅人

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本編までが長いですね。



※ただいま再編集中。


第12話 私のお友達

ああ、やっぱり私は幼いな。いくら生きてもやっぱりずっとこれ。私が壊れるまでこれ。ずっとずっと幼い。どんなに隠しても幼いままだ。表面と裏面ではまったくの反対だな。

 

 

「はい、その笑顔です。でももうちょっと頬を力を抜いてください。ちょっと怖いですよ」

「だ、だってすぐにできるわけがないじゃん!」

「ご主人様はもうちょっと楽にしたほうがいいようですね。そうじゃないとそういう変な笑顔しかできなくなりますよ。それは嫌でしょう?」

「……嫌だ」

「楽しくするためにも友達でも作ってみてはどうです? 私が作られて結構な年月が経ちますが、そういう関係の妖怪を見たことがありません。ずっと私たち式紙としか交流してません」

「……そうだね。昔の私ならそうだったね。でもね、友達になっても私だけがいつも取り残されるんだよ。みんな数百年か千年とちょっとしたら死んじゃう。呪いとも呼べる不死が私を取り残すんだよ。もうね……耐えられないんだよ、それを繰り返すのが」

「………………」

 

 

私の言葉を聞く式紙はなにも言わない。その表情はあえて見なかった。いや、見ても意味がない。式紙はいつも無表情だから。

 

 

「だから私の霊力がある限り存在できるあなたたちといるんだよ。それでも……作れって言う?」

「言います」

「……なんでよ」

「私たちは所詮従者。ご主人様と対等には絶対になれません」

「…………………………そのわりには対等みたいな態度だよね」

 

 

ぼそりと呟く。

 

 

「なにか?」

「何も」

「つまり言いたいことを言い合えないのです」

「言ってるよね!?」

「ご主人様のその心はずっとその悲しみを抱え込みすぎなのです。私たちはそれを払うことはできません。それに私たちと一緒でいいというのは逃げなのですよ」

 

 

式紙は前を向いたまま淡々と事実を述べた。体が幼くなったせいか、泣きそうになる。

 

 

「私たち式紙は大体の記憶を共有しているので、私たちが自分のことを道具だと言ってはいけないと分かっています。しかし、今だけはそれを破ります。私たちは道具です。今のご主人様は道具を使って自分を慰める子どもです」

「そこまで……いわなくても……」

「泣きます? ええ、泣きなさい。それは自分の弱さなのですから。その涙は流すべきものではないです。涙を流していいときは悲しいとき、うれしいときだけです。それでどうしますか? やっぱり泣きますか?」

「な……泣かないよ!! 涙を流すときなんて分かってる!!」

「なら作りましょう。たとえその友が死んでもその友がご主人様に与えるのは悲しみだけではありません。その友との思い出があります。それに悲しかったということはそれだけ自分がその友を大事に思っていたということです。それは良いことではないですか」

「……………………」

「やはり嫌でしたか?」

 

 

私は微笑み、首を横に振った。そうだったね。私は昔の友達のことを思い出す。確かに友達を思い出すときは悲しかったけど、それよりはその友達との思い出のほうが大きかった。

 

友達と勉強したとき、遊んだとき、獣ごっこをしたとき、そして喧嘩をしたとき。ちなみに獣ごっことは鬼ごっこのこと。あははは、なんだか結構大人だったのに子どもっぽいことしか思い出せないや。

 

もちろんちゃんと仕事はやっていたよ。例えば医者とか農家とか教師とか……。結構色々とやってたな。そういえば私が友達を作らなくなってからどれくらいが経ったのだろうか? もう忘れた。

 

 

「そろそろ人間も発達した頃です。人間の友達でも作りますか?」

「それは無理」

「なぜです? 私の知識には妖怪と人間の知識はほぼ同じくらいです。それは今の人間との情報が合わない部分があり、その知識では人間は高い文明や文化を築いていると進行形です。今の人間は高い文明や文化を築いているとは思えません。そこらへんの事情は聞かないとして、やはり人間には何か思うことがあるのではないのですか?」

「うっ…………」

 

 

前世の時代はそういう高い文明だったようだからそういう知識しかない。そうか、式紙にもその知識があるのか。

 

 

「あ、あのね、人間たちは私のような妖怪を嫌うのよ。だから仲良くなんて無理だよ」

「でも、人間の中には妖怪を嫌わない者もいるのでは?」

「だとしても、なんというかちょっと無理かな。もうちょっと文明が発展してもらわないと」

「なぜです?」

「い、色々あるの!」

 

 

だって言っては悪いけど、私の思う人間って『じどうしゃ』だったけ? ちょっと忘れたけどそういう機械仕掛けの荷車に乗って、私が着ているような素材でできた服を着ているというイメージがある。

 

だから、今の人間と友達を作るのは少し抵抗がある。でもね、大丈夫だろうか? そのときにいざそういう人間が現れても、私が人間嫌いになっていたらどうだろうか? その可能性もある。だって一応妖怪だから。

 

 

「まあいいですけど。私はご主人様が友を作ってくれればそれでいいのですから」

「ねえ、本当に意思と呼べるものはないの? 話しているとあるように感じるんだけど」

「多少はあります。けど、それを意思と呼んでもいいのかというレベルです。それを意思とは呼べません。ご主人様の求めるものはこれではないでしょう?」

「そうだね。私が求めるのとは違うね。私が求めたのは表情を表す式紙だったからね」

 

 

でも、私を抱えている式紙を見ても分かるように式神は無表情。私が目指したものではないただの失敗作。実は何度も試行錯誤したのだが、ここまでが限界だった。家の中と私を抱えている式紙が一番新しい式紙。

 

そして、現時点でこれ以上は改良できないといってもいいほどのものだ。それは私の技術では限界だったからであるが。

 

 

「さて、もうすぐで家ですよ」

 

 

私の家が見えてきた。なんだか遠く感じるな。やっぱり体が小さくなったせいか。それにと下を見るとやっぱり胸がぺたぺただよ。

 

 

「家ではすでに料理を作り終わっているでしょうね」

 

 

確かにうっすらと風に乗って、いい匂いが漂ってくる。この匂いからするに魚料理かな? 魚は大好きだからな~。でも、骨が邪魔。あれって痛い。特にのどに引っかかったときが一番痛い。

 

一応取るけど、それでもめんどくさがっていくつか残る。今は式紙がいるからそんなことは滅多にない。私たちは家の前に来た。私はゆっくりと地面に降ろされる。ああ、なんだか名残惜しい。

 

滅多にそうさせられることはなかったから、これもいいように思えてきたところだったのに。どうせ子どもの体だ。今度からはこうしてもらおう。

 

 

「手を繋ぎます?」

「子ども扱いしないで!!」

 

 

やっぱりこの姿は嫌い。封印したままあの姿でいたいよ。まだよく調べていないが、思いつく原因はない。改善できるか詳しく調べよう。できなかったら……どうしよう。封印している限りこのままだったらどうしようもない。

 

そのときはあきらめる。本当はあきらめたくはないけど。私たちはちょっと長い廊下を歩く。居間へ行く間には台所の横を通る。すると匂いが一層に濃くなった。思わず涎が出そうだ。

 

それにしても結構長い間住んでいた家なのに新鮮に感じる。体が小さくなるだけでこうも違うなんて。大人になってもそう感じないのはゆっくりと成長していくからだろう。

 

 

「ご主人様、すぐに料理を持ってくるそうです。しばらくお待ちください」

「やっぱり式紙同士だとテレパシーが働いているの?」

「そうですね。でもちょっと違います。記憶の共有を利用したものです」

「へえー、まさかそういうことができるなんてね。作った私が分からないなんてね。ちょっと情けないね」

「いえ、仕方のないことです。そういうのは私たち式紙でしか分からないことですから」

「これじゃ式紙のほうが保護者だね。さっきからずっと慰められてばっかりだよ」

 

 

畳の上に寝転がり襖の前に立つ式紙を見上げる。しかし、その顔は大きな二つの山に邪魔され見えなかった。ねえ、それって小さくなった私に喧嘩を売っているの? もちろんのこと、私の体が元通りでも見えるはずがない。

 

ただの八つ当たりだ。なんか悔しい。

 

 

「今のご主人様は子どもですからね。私が保護者というのも間違ってはいません」

「ちょっといくらなんでもひどいよ! 体は子どもでも心は大人なんだから!」

「私の知識にそういう人物の情報があるのですが」

「それは言っちゃダメだから。絶対に言っちゃダメだよ」

「どうやら来たようです」

 

 

式紙はそう言うと襖を開けた。そこには木でできたおぼんを持った式紙だった。ちょっと分かりにくいけど、確か料理を作っていた式紙……だと思う。ちょっと不安だ。

 

 

「ご主人様、料理を持ってきました」

「ありがとうね、式紙」

「「はい」」

 

 

おぼんを持った式紙と私といた式紙が同時に返事をした。

 

 

「違う! おぼんを持っているほうの式紙!!」

「すみません。しかし、ご主人様。そういう場合はまぎわらしいので、詳しくお願いします」

「それはこっちのセリフだよ」

「いえ、そもそも私たちの見た目はご主人様が決めたじゃないですか。私たちに言われても無理です」

「うう…………」

 

 

何も言えない。そういえばそうだった。この姿って私が決めたんだった。みんな同じじゃない姿にするのもよかったんだけど、それは面倒だからと言う理由で止めた。まさか後悔するときが来るなんて。

 

その間に式紙は座卓に料理を置いていく。今日は秋刀魚の塩焼きのようだ。ん? あれ? 秋刀魚? なんで秋刀魚があるの? というか、私よく秋刀魚って名前を覚えていたね。

 

秋刀魚なんて十数万年振りだよ。…………多分。私は式紙を見る。しかし、式紙は私の視線を気にせずに準備をする。

 

 

「ねえ、なんで秋刀魚があるの?」

 

 

聞いてみた。

 

 

「海で獲ってきました」

「どうやって?」

「海まで行ってです」

「そういうことを聞いているんじゃないの!! どういうやり方かって聞いているの!!」

「少々力を使いました。内容は言えませんが」

 

 

確かにおぼんを持ってきた式紙の霊力が結構減っている。

 

 

「そ、そう。よく獲ったね」

「すべてはご主人様のためですから。喜んでもらえるのならそれでいいです」

「……っ」

 

 

その言葉が胸に刺さる。感情がある誰かが自分の意思で言ったのならここまではなかった。しかし、式紙には感情がない。式紙は私が作ったもの。つまりはその考えも私が設定したに等しい。

 

式紙は私に設定されたものを自分のものだと思っている。でも違う。私はとても残酷な生き物だ。

 

 

「さあ、お食べください。初めてで知識で作ったので少々不安がありましたが、まあご主人様なので大丈夫だと思います」

「それってどういう意味かな? バカにしているの?」

「いえ、ご主人様。そう思えるのはご主人様を信用しているからです」

 

 

式紙が私と同じ目の高さになり、私の頬に手を当てた。

 

 

「それでは……ダメですか? この少々不安の残る料理を食べてもらう理由にするのは」

「だ、ダメじゃない。それにそんなことを言わなくてもちゃんと食べるから」

「では食べてくださいね」

 

 

では早速と私は料理に手をつけた。見た目には問題ない。秋刀魚のその身には黄金色の焼き目が付いている。そして、その横に秋刀魚の塩焼きならこれがないとね、である大根おろしが積まれていた。

 

箸で身を摘むと簡単に崩れる。だが、その崩れは身がボロボロというわけではない。身がやわらかいため、簡単に身を取ることができるということだ。それを口へと運ぶ。ああ、この味だ……。

 

数十万年以上食べていなかったこの味。私の記憶の奥深くから昔に味わった秋刀魚の味が蘇る。今食べているものと比べるのは難しいが、こんな味だったような気がする。

 

 

「どうでしょうか?」

「おいしいよ。本当においしいよ。よく作ってくれたね。本当にありがとうね」

「いえ、これが私たちの仕事ですから。ご主人様に喜んでもらえて、私たちはうれしいです」

「……そう」

 

 

それからは何も言わずに黙々と食べた。別に式紙は私と会話ができないわけではない。それは今までを見たら分かる。だから、食べている最中にも傍にいる式紙と会話することはできるが、今はそういう気持ちにはなれなかった。

 

式紙への感情がそうさせたのだ。私がうまく式紙を完全にできたら、こんなことにはならなかった。私の食事が終わるとおぼんを持った式紙が食器をそのおぼんに載せ、部屋を出て行った。

 

残されたのは私ともう一人の式紙だ。式紙はただ無言。とても気まずい空気だ。別になにかあったわけでもない。ただ私の心がそうさせている。この空気に耐えられない私は、尻尾を弄って誤魔化す。

 

 

「ご主人様」

「は、はい!!」

「どうしたんですか、そんな声を上げて」

「な、なんでもない。で、どうしたの?」

 

 

私は長年生きてきた。その経験から相手の顔を見ただけで多少の心を読むことができる。もちろんそれは相手の顔の表情あってのこと。式紙は無表情なのでそこからは何も読み取れない。だから、聞くしかない。

 

 

「明日からは友達探しに行ってください」

「なんで?」

「おや? もう忘れたのですか? さすがに長く生きていたせいでボケましたか」

「ボケてない!! 覚えているよ!! 確か…………えっと………………」

「確か、なんですか? 早く答えてください」

 

 

だが、答えはでない。あれ? 本当に何だったっけ? 封印のことがいっぱいで他はあまり覚えていない。だけど、今更忘れたなんて言いにくい。なんとか思い出さないとボケたと思われる。

 

それは嫌だ。私は別にボケていないもん。記憶だってはっきりしている。それにまだ体は若い。しかも、封印の副作用で体はさらに若くなり、幼いが似合う姿になっている。ボケたくてもボケられない。

 

さてどうしようか。思い出せないものは思い出せない。

 

 

「ご主人様? どうしたのですか? やはりボケましたか」

「ぼ、ボケてないもん。ただ忘れただけだもん」

「つい数時間前のことを忘れるなんてボケている証拠です。ボケているご主人様のために言います」

「……ボケていないもん」

「ご主人様には友と呼べる人はいません。なので友達を作りましょうという話です。簡単に言いましたが思い出しましたか?」

「……思い出しました」

 

 

そういえばそうだった。けっこう大事な話だったのに。やっぱり本当に歳なの? それは認めたくはない。

 

 

「ですから、早速明日から友達探しというわけです。相手はどんな種族でもいいのでとにかく友達になることです。分かりましたか?」

「分かりました」

「では、がんばってください」

 

 

私は明日から友達探しをすることになった。見つかるといいけど。

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

私は暗い森の中を歩いていた。そこは家から遠く遠く離れた森。暗いのは時間帯が夜だからではない。ここは木が多く、木と木との間は狭くそのため木たちの長い枝にある葉が重なっているため、日が地面まで差し込まないためだ。

 

森の奥を見通そうとしようにも普通の目では影も形すら分からない。だが、見えないのは日が差し込まないからというわけでもない。他にも原因はある。この森には妖力による瘴気が満ちていた。

 

本来なら瘴気は気体なので、満ちることはない。しかし、この森は重なる葉が森の屋根の代わりをして瘴気を満たす原因となっていた。目にも見える瘴気は黒い気体だった。

 

普通の生き物、つまりは兎などの動物がここに来ればこの瘴気を吸った瞬間に死んでしまうだろう。だからさっきから動物の姿が見えない。そういう危険な気体で満ちている。その中を私があくびをしながら進むことができるのは、私が膨大な量を持つ生き物だからだろう。

 

封印されて使える妖力は少なくなったとはいえ、器は変わっていない。無限にも等しい妖力や気を持つことができる私には、この程度の瘴気は全く問題ない。なぜここを歩くのか。私がここを歩いているのは友達を探すためだ。

 

この森は説明したように瘴気に満ちている。ここに生き物はいない。そう、普通の生き物は。私が探しているのは普通の生き物ではない。このような場所を住処や生活圏にする生き物だ。その生き物なら私と友達になるかもしれない。

 

普通の生き物が嫌というわけではないが、私は普通でいない生き物。個人的にも普通ではない生き物と友達になりたい。

 

 

「いないかな~♪ いないかな~♪ 私の友達になってくれる誰か~いないかな~♪」

 

 

私は瘴気の満ちた空間でおかしな歌を歌った。声は響くよなものだが、響かない。瘴気が音を響かせるのを邪魔をしているからだ。でも別に聞いてほしいわけではない。だが、暗くて全く変わらない景色。

 

それを歩き続けて数時間。さすがに飽きたのだ。だから気分を変えるために歌を歌った。それにしてもこの森はでかい。数時間歩いても何も見つからない。何か強い生き物がいそうという理由でここに来たがそれは間違いだったのかな。

 

でも、強い生き物なら森の奥で待っているものだ。だったら奥へ進もう。ふふふ、待っていてくださいね。私と友達になりましょう。そう思ったがその顔は不気味な笑みを浮かべた。

 

どこをどう見てもこれから友達を作ろうとする者の顔ではなかった。

 

 

そしてまた、歩き続けた。本当に暇だ。早く何か出てきてほしい。いつもなら寝て時間を潰していたが、ここは森の中。こういうところで寝るなんて無理。瘴気で満ちているから虫はいないとおもうけど、狐だったときならまだしもこの体で寝たくはない。

 

まだかな? そう思っていると、

 

ガウッ!!

 

獣の声が聞こえた。一瞬、昔のことを思い出す。その一瞬は狩るプロにとっては絶好の隙である。声の持ち主はこの暗い中で私の死角から私を襲ってきた。私に向かってくる鋭く伸びた獣の爪。そして、大きく裂け大きく開く口から覗く歯が迫ってきた。

 

やはり、獣。しかし、獣ならなぜ襲う前に声を? 獣は確実に獲物を仕留めるためにわざわざ自分の存在を知らせない。たとえ、相手に隙を作らせるためでもだ。でも、今は気にしていられない。

 

私は現在進行形で襲われている。私は不死身だが、だからといって襲われるわけにはいかない。封印とともに身体能力は落ちたとはいえ、こちらには長年の経験がある。もう距離はわずかだが、それでも私の反撃のほうが速かった。

 

私の手が獣の頭の前へ持っていかれる。そして、その額に軽く()()()()をした。ただのデコピン。だが、私のデコピンだ。その威力は桁違いだ。獣は吹き飛ばされた。飛ばされた獣は背中からぶつかる。

 

獣は背中からぶつかったにもかかわらず、うまく着地した。だが、そのダメージはやはり大きかったようで苦しげに息をしていた。

 

 

「へー、丈夫だね。それに……妖怪か。姿は狼だね。姿はそれ以外に変えられないのかな?」

「グルルルルルルッ」

 

 

言葉が通じないのか狼はただ唸るだけだ。狼の毛並みは黒と灰色だった。その目はまだ私を狙っている。

 

 

「うーん、妖怪だったら意思疎通ができるけど、君とはできないみたいだね。それになにか違和感がある。もしかして、元は普通の狼? おっと危ない」

 

 

再び襲ってきて今度は反撃をせずに避けた。おそらくこの狼は元は普通の狼。なのに妖怪になったのはこの森が関係しているのだろう。ここは瘴気で満ちて普通の生き物が立ち入ればすぐに死ぬ。

 

だが、もしも瘴気に耐性があればどうなるか。その生き物は死にはしないが、瘴気に呑まれ妖怪化してしまうことがある。狼にはそのことが起きてこうなった。

 

 

「さてと、どうしようか。君は妖怪と狼の本能が争っているみたいだね」

 

 

だから、私を襲う前に声を出してしまったのだ。

 

 

「私なら元に戻すことも時間のかかる妖怪化も一瞬でできる。でも、聞いたところで君はまだ狼。言葉は理解できていないわね。だから私が決めてあげるわ」

 

 

言葉の理解できない狼は私を襲う準備をしている。大きく裂けた口からは涎を垂らしていた。やっぱり私って美味しいのかな? 複雑だけど食べられるのなら美味しいと思われたほうがいい。

 

美味しくないは食われるほうとしてもショックだ。だけど、今の私を食べようなんて無理だ。私は絶対的な力を手に入れた。今の私を食べることなんてかなわない。食べたいなら私に勝て。

 

私は痛いのは嫌いだ。だから全力で阻止する。それで私を負かし食べることができるかな。狼は私の隙を窺っている。とくに野生の生き物はその野生の勘で相手の力量をはかることができる

 

しかし、分かったからといってその生き物が逃げるかは別として。この狼はどっちかな。逃げるか襲うか。どちらにしても私は逃がさない。だって狼を妖怪化させるか元に戻すと決めたから。

 

私はただ立ち、狼の次の動きを待っていた。私は隙があるように見えて、隙がない状態だ。どこから来ようが返り討ちにしてやれる。しかし、ずっと待つというのにもう飽きた。私はここに来るまで何時間もかかった。さすがに限界。

 

 

「ねえ、来なよ。私は逃げないよ。あと少しだけ待ってあげるから早く決めて。待ってまだそうなら私が仕掛けるから。いいね?」

 

 

もちろん伝わらない。狼は唸るだけ。でもよく見ると狼って可愛いよね。見てよ、あの尻尾。もっさりして触ればきっと癖になるような感触だよ。毛並みだってそう。ちょっと押してもふんわりとはねかえることが見ただけで分かる。

 

まあ、私の尻尾には及ばないけどね。そして、あの耳。耳は耳でなんというかさわり心地がいいんだよ。私は自分のを触ったことがある。でも狐と狼では大きく違うと思うから触ってみたい。

 

ああ、意識したら触りたくなった。そうだ。いっそのこと私のものにしちゃおうかな。式紙には友達を作れと言われたけどペットでもいいのかな。いいよね。それじゃ決定。

 

 

「君は私のものにすることにしたよ! 私が君をもらう! 大丈夫だからね。ちゃんと優しくしてあげるからね」

 

 

そう告げた。狼は一瞬びくりと震える。尻尾と雰囲気からして怯えている。

 

 

「あははは、ほらおいで! もう私のものなんだから」

 

 

狼はあきらかに私に恐怖していた。さきほどの私への攻撃性はない。私が一歩踏み出せば狼は一歩後ずさる。もう相手は逃げる気満々だった。そんなことはさせない。だから……。私の姿は狼の視界からは消える。

 

狼は驚くが、姿勢を低くし首だけを動かして辺りを警戒した。

 

 

「残念~! 後ろだよ。えいっ♪」

 

 

一瞬で狼の背後へと移動した私はその体に抱きついた。うーん、ちょっと予想していたよりは毛が硬かった。でも、これはこれで……癖になりそうだ。私のような柔らかい毛もいいけどこれでもいい。

 

でもちょっと臭いかな。やっぱり野生の生き物は石鹸とかないからか。私のものにしたら、すぐに体を洗ってあげよう。家が臭くなるのは嫌だしね。

 

狼はさらに驚き激しく暴れた。大きさは私くらいだが、妖怪になりかけているせいか私が乗ってもよく動いていた。狼は私を飛ばそうとする。しかし、私はしっかりとしがみ付いているせいで離れない。

 

 

「ほら、暴れないの! いい子にしなさい」

 

 

そうは言っても言葉の通じない狼はそれを理解することはできない。狼はついに周りの木々に背中からぶつかり始めた。背中には私がいる。私は九本の尻尾で衝撃を和らげる。危ない危ない。

 

いくら傷が治るとはいえ、そのときの痛みはあるのだ。痛いのは嫌いだ。私のためにも狼のためにもちょっと荒っぽい手段を使おうか。

 

 

「ちょっと我慢しなさいね」

 

 

子どもに言い聞かせるように言った。狼に抱きついている腕に妖力を込める。そして、狼を完全に妖怪へと変える。ただの生き物を妖怪へと変える方法はいくつかある。今回は狼が一部妖怪化しているため、その妖怪化を活性させることで完全妖怪化させる方法だ。

 

特別な方法で活性させた。狼はそれに苦しむ。通常まれにただの生き物が妖怪になるためには環境にもよるが、長い時間をかける。それを私が無理やりにただの獣が妖怪へと一気になろうとしているのだ。

 

体へかかる負担は大きい。それはとても苦しいだろう。私はその苦しみが分からない。だけど苦しむ姿を見ると私も涙が出そうになる。とても心が苦しいよ……。だが、ここで躊躇うわけにはいかない。

 

ここで止めればさらに長く苦しめることになる。だから止めない。狼は苦しむため倒れ暴れる。それで私に被害が及ぶが私の尻尾で衝撃を吸収し、狼へのダメージも吸収した。それと同時に私の尻尾で狼の尻尾を拘束した。これで尻尾による被害はなくなる。

 

あとは胴体だけどそれも私がさらに強く抱きしめることで阻止する。私はずっと抱きしめ続けた。安心させるためでもある。だがそれは苦しむこの子には届かないだろう。そうしてしばらく。狼は暴れるのを止めて、荒い息をするだけとなった。

 

その様子を見るにどうやら完全に妖怪となったようだ。私はそれを確認し、開放する。狼は拘束から開放されたのだが、横たわったまま息をするだけだ。おそらく先ほどの妖怪化のせいだろう。それで体力を消費したのだ。

 

横たわる狼からは魔力が溢れる。ただの生き物にはあるはずのない力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封印の影響のせいか、体が昔と同じつるぺたになりました。

尻尾が9本は少し邪魔になるので消えるかなと思ったら、1本以外消えました。

 

 

 

そういえばこの間、2匹のドラゴンが天空で争っていたので自分の封印を解除して乱入しました。

名前はドライグとアルビオンというドラゴンでした。

 

 

「なんだ、お前は」

「我らが、二天龍の戦いを邪魔をするか」

「そうだ。さっさとどっかに行け、小娘」

 

 

かちんときました。私に喧嘩を売っているのでしょうか?

さっきからこの2匹はえらそうですね、本当に。

この中の格上が誰か教えてあげます!

 

 

「うるさい!トカゲ野郎!この中の誰が強いのか教えてあげる!」

「ほう、貴様。我らが二天龍に勝てると思っているのか!!」

「いいぞ!やってやろう!」

 

 

二天龍から大量の妖力の弾が放たれます。ちょっと卑怯じゃないんですか?

だって2対1ですよ?私はその弾の数以上の数の妖力の弾を放ちます。

威力も相手以上です。

私の半分の弾で、相手の弾を相殺させます。残った弾は二天龍に直撃します。

 

 

「なんだ!?その異様な量と威力は!?」

「我らが二天龍の皮膚に傷をつけるとは!?」

 

 

二天龍は一気に私との距離をつめていきます。赤いドラゴンの鋭い爪の斬撃は私の右腕を

吹き飛ばします。反対側からは白いドラゴンの爪の突きです。その突きは私の体を上半身と

下半身を切り離します。

 

ごふっ

 

私の口から血が吐き出されます。

ちょっと油断しました。と言っても実戦はこれが2度目です。

これがドラゴンの力ですか。今まで会った妖怪よりも何百倍も強いです。

 

 

「なんだ、この程度か」

「全くだ、アルビオン。我らの皮膚に傷をつけたから少し本気になったが、

やりすぎたな」

「俺もだ、ドライグ。大人気なかったな」

 

 

「なに終わった気でいるんですか?まだ終わってませんよ?」

 

 

「バカな!?上下バラバラになったんだぞ!?」

「ありえん!なぜ傷がない!」

 

 

どうやら驚いているようです。

さすが吸血鬼の体です。下半身と右腕が一瞬で生えてきました。

 

さあ、気を引き締めていきましょう。

ここからは私の戦いです。

 

 

私は一気に二天龍の距離を詰めアルビオンと呼ばれた白いドラゴンを殴ります。

アルビオンは吹き飛ばされます。私は次にドライグと呼ばれた赤いドラゴンに

大量に妖力がこめられた弾を3つ放ちます。ドライグは防御したようですが、

私の弾は防御を破りドライグに当たります。

 

ドライグの赤いからだは血と言う別の赤色に染まっています。

私はアルビオンのほうに意識を向けます。

アルビオンは口に妖力を溜めていました。

その妖力の量からこれはさすがにやばいなと感じます。

 

私は阻止しようと数十発の妖力の弾を放とうとします。しかし、

ドライグから妖力の弾が放たれます。私はそれを相殺するためにドライグに向けて

弾を放ちます。その瞬間にアルビオンの準備が完了したようです。

アルビオンの口から妖力の光線が放たれます。

 

やばいですっ!!

私は全身を霊力で体を覆います。気合防御です。

 

私は光線に巻き込まれました。

 

 

 

「やったか?」

「おそらくな。ドライグお前はボロボロだな」

「ああ。強かった。俺たち以外にあんなに強いやつがいるとは・・・」

「だがもう終わったこ――――ゴハッ!」

 

 

アルビオンの腹から妖気の弾が出ます。

 

アルビオンの後ろには、アルビオンの背中を細い腕で貫いている私の姿があります。

もう片手はドライグのほうに手を向けます。

妖気の弾を球体から鋭い矢の形にします。

 

それを放ちます。

矢はドライグの体を貫きます。

 

私はこうして二天龍を倒しました。

殺してはいません。

 

 

「な、ぜだ・・・。俺の光線は、お、前を消しと、ばし、たはずだ」

「それは後にしましょう。それより傷の手当をしましょう」

 

 

私は2匹を治療しました。

 

 

「俺は二天龍のうちの1匹で、赤龍帝と呼ばれているドライグだ。白いのは俺と同じ二天龍

で白龍皇と呼ばれている」

「アルビオンだ」

「そう、よろしくね」

「お前の名は?」

「私は名前はないの」

「で、お前は何者だ?」

 

 

ドライグが聞いてきます。

 

それに私は――――

 

 

「私?私は

 

 

 

 

    ただの狐で妖怪で吸血鬼よ」

 

 

 

 

 

そう答えました。

 

 

 

 


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