「ここは……どこ?」
私はいつの間にか真っ白な世界の中の上に立っていた。
この白い世界は密閉された部屋ではない。目を凝らしても壁を見えないことから、ここは別の世界などという別空間であることを把握した。
ん? あれ? なんでこんなにあっさりと冷静にこの空間を把握したのかな。
まあ、いいや。
重要なのはここがどこなのかということと自分が生きれる世界なのかということだけだけだ。
とりあえず一時間ほどまっすぐに歩いてみる。
歩き終わった。
周りの景色が変わらないので身体的疲労よりも精神的疲労のほうが大きかった。
うん、やっぱりここには壁がないということから別空間だ。
それが歩いてみてはっきりとした。
はあ……ここが別空間ってことは分かったんだけど、何で私はここにいるのかな?
「ここは死後の世界という別空間じゃ。つまりお主は死んだということじゃ」
「!? だ、誰!!」
突然後ろから声をかけられて、私は驚き振り返ると共に距離を取った。
そこにいたのは白い神々しい服を着た、どこかの仙人のように白くて長い髭を生やしたおじいさんだった。おじいさんはやさしい笑みを浮かべていた。とても安心できる笑顔だ。
だが、突然私の後ろに現れたのだ。私は警戒度を下げない。
「何者ですか?」
「わしか? わしは主らでいう神とかいう存在じゃよ」
「か、髪?」
「神じゃ。そういうボケはいらん。ほれ、その証拠として―――」
そう言いながら自称神様は手を薙ぐ。
すると周りの景色が一瞬で変わった。
周りは真っ白な空間からどこかの都市のようで背の高いビル、コンクリートの道路、その他になっていた。
こ、これってもしかして自称神様がやった?
「このようにできる。どうじゃ? 人間にはできまい。信じたか?」
うん、これはもう信じるしかないよ。
私はこの自称神様が本物の神様と認めざるを得ない。
どう頭の中で考えてもどんな技術を使ってもこれは無理だ。なにせこれらはハリボテじゃなくて、中身もちゃんとしているからだ。ハリボテならまだしも中身まで一瞬で作るのは無理だよ。
私は黙って首を縦に振った。
「おお、よかったよかった。これで信じてもらえんかったら、脳に無理やり叩き込むしかなかったからのう」
な、何か危ない言葉出たような気がしたけど、気にしないでおこう。というか、気にしたらダメだ。
「ところでお主の名前は分かるか?」
「えっ? 何を言っているんですか? 当たり前です。私の名前は……名前は……。あれ? 私はダレ? 何者?」
おかしい。どんなに頑張っても名前が思い出せない。
そもそも記憶の中の思い出がない! 知識はあるのに!
思えば自分の姿さえも分からない。
私は自分の容姿が気になり、神様が作り出した建物まで行く。そこにあるガラスを見た。
そこには私の容姿が映し出された。それは可愛らしい少女(?)の姿だった。
うん、初めて見る自分の姿だ。というか、やっぱり自分の姿を初めて知ったから、本当に映っているのが私なのか分からない。
でも、神様が私の姿を変える理由なんて思いつかないし、やっぱりこれが私の姿なんだ。
はあ……自分の姿は分かったのはいいけど、記憶がないのがつらい。
なのに私は別に泣き喚いたりしていない。至って冷静だ。冷静に受け止めている。
それはもしかして記憶をなくしたせいで、自分のことを後から付けられた人格だと思っているからだろうか。だとしたら納得いく部分もある。
後から付けられたなら私はただ知識がある生まれたばかりと言えるからだ。
生まれてきたばかりなら名前がなくて当然。思い出がなくて当然。
「そう考えるか。じゃが、お主は後から付けられた人格ではない。ただ記憶を失っているだけじゃ」
「なっ!? 私の思考を!?」
「あっ」
「あっ、じゃありませんよ! さっきからずっと私の思考を呼んでいたんですね!! いくら神様とはいえ、人の、それも女の子の思考を読むなんて!!」
いくら神様とはいえやっていいことと悪いことがある。人には知られたくない考えだってたくさんあるのだ。それを神様だからといって思考を読むなんて!!
許せない!
「お、落ち着かないか。た、確かにわしが悪かった」
「悪かった? 悪かったで許されるなら人間界に警察も裁判所もいりません!」
「ほ、本当に申し訳なかった!」
「許しません!」
「ふ、ふむ。どうしたものか……」
神様は必死で考えている。その姿からは反省の色が見られた。
だが、私は許さない。
謝れば絶対に許すなんてものは、少なくとも私にはないからね。
「そうじゃ! お主が死んだということまで言ったじゃろう」
「えっ? ちょっと待って。わ、私、死んだんですか?」
「えっ? 最初に言わんかったか?」
さ、最初? 最初って私に話しかけてきた、アレ?
いきなりだったから驚いて聞いていなかったけど、確かにそんなことを言ったような気がする。
え、じゃあ何。私ってもうゲームオーバー? 記憶を失ったままで? というか、そもそも何で死んだのにこんなとこにいるの? というか、死んだ後なのに記憶を失うって何よ! ここに来たから記憶が失ったままじゃないの? だとしたら神様に会わなくていいからそのまま天国か地獄に直行したかった!
私は記憶が失っているのはこの神様のせいだと思って、じっと神様を睨みつける。
な、なんだか視界がぼやけているし。
どうやらショックを受けて泣いているみたい。
「え、えっと理解したか? もう一度言うぞ? お主は死んだ」
「ぐすっ、わ、私は、し、死んだ……」
「そう。これは確かなことじゃ。お主が記憶を失っているのは死んだときのショックじゃ」
「でも、普通なら記憶は失いませんよね? ここに来たから記憶を失ったんじゃないんですか?」
涙で濡れた目元を擦りながら言う。
神様は私から目を逸らした。
「まあ、そうじゃな。本来なら天国か地獄へ行くから死んだときのショックなど関係ない」
やっぱり、か。ここに来たから私の記憶がないんだ。
怒りで神様に掴みかかろうと思ってしまうが、何とか踏みとどまった。
相手は神様だ。神様だし何か考えがあって私をここに呼んだのだろうと冷静に判断した。
それにしても生きていたときの私は何をしていたの? 先ほどから色々あったが、それらに冷静に判断できている。普通ならやっぱりショックを受けて泣き喚いたりするはずだ。
なのに私はこうだ。ある程度ショックは受けるようだが、大切なところでは冷静だ。
「それでなんで私はここにいるんですか?」
「そうじゃな。それを説明しようか。まずお主は何らかのことで死んだ」
「ちょっと待ってくださいよ。何らかのことって何ですか? 記憶は失っていますが私は本人ですよ。説明してください」
「そうじゃが、神様の世界にも色々あるのじゃよ。残念じゃがお主の前世に関係することは言うことができんのじゃ」
何それ。じゃあ、つまりいつか思い出すのを待たないといけないってわけなの?
ふざけるな。
こっちは天国か地獄に行く途中だったのに、ここに呼び出されて記憶を失ったんだ。
私には何があったのか知る権利があるはずだ!
なのに!
「お主が怒るのも分かる」
私の顔は怒りに燃える般若のような顔になっているだろう。それほど怒っている。
「分かるなら教えてください! なぜ私に話さない!! 私には権利があるはずだ!!」
「そうじゃな。じゃが、教えられんのじゃ。本当にすまない」
「うるさい!! 神様だろう!? 神様なら私の気持ちがわかるだろう!! 心を読めるんだろう!? 読んでこの気持ちを理解しろ!!」
私は神様に向かって怒鳴り散らす。
「私の前世の記憶がないという恐怖が理解できるだろう!! いきなり知識だけあって生まれたような存在! その知識によって私は作られている!! それが今の私だ! なのに私にはまだ記憶がある!? 知らないほうがまだよかった!! おかげでこっちは恐怖しかない!!」
「本当にすまない。許してくれとは言わん。これはワシらのせいじゃ。じゃから、少し落ち着いてほしい」
神様が私を宥める。
いくら冷静な私も怒れるのか。しかもこんなに激しく。
どうやら私にも一線というものがあるようで、それを超えると激しく感情的になるようだ。
「……っ。わ、わかりまし、た」
私は何とか怒りを抑えた。
手に力が入る。爪が肌に食い込み、痛みが増すのだがどうも力を緩めることができなかった。
「で、話の続きじゃがお主は本来ならあの世に行くのじゃが、お主の色々な事情からお主を転生させることにした」
「転生? 転生ってあの生き返るヤツですか?」
怒りが漏れないようにして、なんとか冷静に言った。
「そうじゃ。その転生じゃ」
「転生、か。でも、正直に言って私には転生って気がしません」
こうしてしゃべっている間に私の怒りもある程度消えていた。
手に篭った力も緩んでいる。
「そうか?」
「だって私には記憶がないんですよね。だからですよ」
私は皮肉を込めてその部分を言った。
ちょっとは気が晴れた。
「なるほどのう。それはそうじゃな。で、とくかくお主は転生するのじゃ」
「転生して人生をやり直せばいいんですよね」
「そうじゃな。そして、お主は幸せにならないとダメじゃ」
「? なぜですか?」
「そうじゃのう」
神様は顎に手を当てて、考える。そして、
「う~む、これくらいは、まあ、よいじゃろう」
と、呟いた。
何がいいのだろうか。
なんだか本当はダメなことを独断で許可したみたいな雰囲気だ。
なんだか不安になってきた。
「なぜお主は幸せにならないとダメかじゃが、お主の前世でお主はある一つの願いを抱いたのじゃ」
「……」
「……」
「……えっと、それだけですか?」
「それだけじゃ」
と、とりあえず前世の私は一つの願いを抱いたんだね。
その内容は例の神様の事情で教えてくれない。
まあ、転生したらとにかく幸せになればいいのだ。そうすれば私の前世の願いは叶うだろう。
「さて、お主には転生してもらうのじゃが、その際に特典を授ける」
「特典、ですか」
こういうのって魔法を使いたいとかでもいいヤツですよね? そうですよね?
ちょっとわくわくしてきたかも。
この時点で私の怒りはきれいさっぱり消え去った。
今は特典について頭がいっぱいになっていた。
なんだか今の私は欲しい物がもらえるときの子どもみたいだ。私はクールだからもうちょっと自制しないと。
「そうじゃ。特典の数は二つ」
「二つもいいんですか?」
「よい。二つ目はお主に前世のことを言うことができないことへの侘びじゃ」
「まあ、妥当なところですね」
本当は特典をもらえるだけでお詫びになっているんだけど、もらえるものはもらわないと。それにたくさんあって困ることなんてないからね。
じゃあ、何にしようか。とても迷う。
「たっぷりと考えたまえ。時間はまだあるのじゃから」
「ありがとうございます」
一応礼は言っておく。
どんなものがいいだろうか。
前世の記憶があればそこから人生であったほうがいいという何かが分かるのに。
ん? 待って。
今の私には記憶がない。私はそのまま転生し、しばらくは記憶がないまま過ごす。いつかなのか分からないけどその記憶は戻る。
だとしたら私が今、特典を勝手に考えて貰っていいのだろうか? そして、記憶が戻ったときその特典よりも欲しい特典があったら?
記憶がなくなっても私は私だ。記憶が戻ったときの私の行動は分かっている。私はきっとなんでこの特典をもらったのだろうと思うのだ。そして何度も自分を責める。
そうなると転生しても暗い人生になる。それだけは避けたい。
そう思い私は神様にあるお願いをした。
「すみませんがその特典を転生した後に選ぶことは無理なんですか?」
「ん? なぜじゃ」
私は先ほど考えていたことを神様に説明した。
「なるほど、そういうわけか」
「はい、ダメですか?」
本当はやれと言いたかったが、我慢した。
「ダメじゃ」
「……」
私はじっと睨む。
「そう睨むな。お主は記憶を失ってもお主じゃ。それは神様であるワシが知っておる。じゃから今のお主が特典を決めよ」
うっ、痛いところ突かれた。
確かに記憶を失っても私は私だ。つまりちゃんと考えて選んだのなら、私は記憶を戻しても後悔はしないということだ。
実は私もそれには気づいていたが、後悔してしまうのではと思ってしまってそれを頭の隅にやってしまったのだ。
神様にも私は私と言われた。
はあ……今の私で考えるしかないみたいだ。
私はしばらくじっと考えてみた。記憶が戻っても後悔しない特典を。
「決めました」
「ほう。決めたか」
「ええ、決めましたよ」
私が決めた特典は決して後悔しないと確信できる。
おそらくこれら二つの特典があれば私の望みは一つ残らず叶うだろう。それだけの力を秘めているのだ。
そんなのを転生したら使うのだ。これは俗に言うチートというやつなのだろう。
まあいいや。私は別にそれで悪用しようなんて思っていないしね。ただ自分の幸せを掴み取るだけもん。とくに私は力を使ってまで幸せを掴み取っていいだろう。だって私は神様直々に幸せになれと言われたのだから。
「さあ、言うのじゃ。お主が望むものを」
「私が望むのは『あらゆるものを作り出す程度の能力』、『運と
「ほう」
最初の『あらゆるものを作り出す程度の能力』のは文字通り、あらゆるものを作り出すのだ。これによって私はあらゆるものを何の代償もなしに何もない場所から作り出せるのだ。
まさにチート! 私が本気になればこの能力だけで世界を征服すらできる!
例えば核ミサイルを作り出して撃つとか。
私の能力は材料がないと作り出せないとかはないので、何発だって撃てる。
そんな私と世界。
世界はあっという間に征服できるのだ! くくく、転生したら早速やろうか!
とは思わない。これはただの一例。
第一世界征服してどうするよ。正直言ってめんどくさいことばかりだろう。
毎日毎日机の上の山のような束を処理とかしないとダメなのだ。そんな面倒ななことをするよりも、別の楽しむことができることをしたほうがいい。
独裁政治にしたって私には他人が苦しんでいる姿を見て喜ぶ性癖もない。
私はこの能力を使ってただ幸せになるだけだ。
で、最後の『運と幸の世界』だが、これも呼んで字のごとくだ。
これは運を向上させ幸せになるのだ。
いや、正確には幸せになるのではない。幸せになる要因を呼び込むのだ。つまり私の行動次第でその幸せを受け取るかどうか選択できるのだ。
運の向上と幸せを呼び込む能力。
これはただ単純に自分が幸せになれるようにするためのものだ。これさえあればどんな死にそうな場面でも生きることができる。これもまたチートだ。
こんなチートだらけだが、許されるだろう。
「ふむ。なるほどのう。よかろう」
どうやらオッケーのようだ。
「あっ、あとちょっと条件を加えていいですか?」
「なんじゃ?」
「『あらゆるものを作り出す程度の能力』にちょっとした条件、いえ、制限ですかね?」
「ほう。まさか自分の能力に制限をかけるのか。珍しいのう」
「そうですか?」
「そうじゃよ」
まあ、その制限というのは私にとって利点に成り代わるんですけどね。
そんなことを思いながら私は神様に説明した。
私の言う制限とはある物を作り出す際にただそれを思い浮かべるのではなく、頭の中で内部構造、仕組みまで設計しないと作り出せないという制限である。
この制限、実にめんどくさいもののようだが、なぜだろうか。私の魂がこの制限を付けろと言ったような気がした。私はそれに従い、この制限を付けることを決めた。
理由はあるのだろうけど、まだ自分を理解していない私には分からなかった。
「よかろう。その制限をかけよう」
「ありがとうございます」
ふっふっふ~、これで私の輝かしき第二の人生が約束された!
……第二の人生とはいえ記憶がないからこれが第一の人生って感じなんだよね。
はあ……本当に複雑な気分だ。記憶がないからこれからが私という存在が生まれる感じなのにね。
「では、そろそろ転生と行こうか。お主の準備はできたか?」
「すでに」
「よし! では行ってこい! そして必ず幸せになれよ!」
神様はテンションを上げて言う。
それと同時に私は浮遊感を感じた。まるで私が宙に浮いているような、そんな感覚だった。だが、それは間違いだ。なぜなら私は実際に落ちているからだ。
「えっ!? うにゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
驚きのあまり変な叫びを上げながら私は落ちていった。
くそっ! 神様め! このことは絶対に忘れないんだから~!!
そんなことを思いながら私は転生したのだった。
初めての作品です。アドバイスなどがありましたらください。
精一杯やらせてもらいます。