流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第82話.君と

 スバルのすまなさそうな声が聞こえる。

 

「いや、僕だってさ。君に辛いことをさせるのは胸が痛いんだよ」

 

 ソロの周りを歩きながらスバルは石を拾った。元は床の一部だったそれを品定めすると無造作にほうり捨てた。

 

「でも、君を僕は信じたいんだ。君が僕の偽物じゃなくって、僕を選ぶ。その証が見たいんだ」

 

 別の石を投げ捨てた。コロコロという可愛い音がソロの耳に重く響いた。

 

「もう二度と僕以外のモノに執着しないって。僕の親友でいてくれるって……示してよ」

 

 何個目かで、やっとお眼鏡にかなうものが見つかったらしい。それを片手にスバルが戻ってきた。

 

「はい」

 

 石が手渡された。小ぶりで少し持ちにくいが、先が尖った鋭利な石だった。

 

「人一人殺すのにはそれだけあれば充分だよ。大丈夫、一回じゃ死なないだろうけれど、何回もやってたらそのうち死ぬから」

 

 オールゴールのように穏やかな口調だった。ソロの心臓が寒さで震えた。

 

「さあ」

 

 声に背中を押され、ソロは数歩前に進み出た。足はためらうように歩幅を短くしていく。

 

「ソロ」

 

 優しい音色の脅迫だった。スバルに名前を呼ばれれば、ソロには進む以外に道なんてない。自分がやろうとしていることの愚かさを分かっていてもだ。

 そうしてスバルの枕元まで進んでしまう。スバルは今も動かない。白いうなじを無防備にさらけ出したままだ。

 

「さあ、ここからやり直そうよソロ」

 

 吸い込まれるようにソロはしゃがみこむ。戦慄で目が痙攣するように踊る。動かないスバルの体を髪の毛から足先までなぞるように見た。

 耳に微かに声が入ってきた。あのウォーロックとかいう異星人だ。彼も瀕死の重傷のようで、蚊の鳴く様なか細い声をあげている。これが精いっぱいなのだろう。

 

「ソロ!」

 

 背中が跳ねた。

 

「偽物の友情を壊してよ。全部真っ白にするんだ!」

 

 呼吸が荒くなる。息苦しくって、胸が痛くなってくる。頭の中が白く塗りつぶされていく。震える腕がゆっくりと持ち上がった。石の鋭利な部分を下にして、スバルの首筋に狙いを定める。

 光が目を差した。思わず手を止める。スバルの首元で白い光を放っているものがある。流星型のペンダントだった。腕の震えが止まった。左手でおもむろに自分の胸元を探る。同じ形をしたペンダントが指先に絡みついてきた。

 

「ソロ……」

 

 元世界のスバルと目があった。もうボロボロで動けないはずなのに、力強い目がソロを見つめている。

 胸の痛みが治まった。激しかった動悸も、息苦しさも無くなっていた。ペンダントを握り締める。手の隙間から光が漏れていることに気づいた。光っているのだ、自分のペンダントも。白く温かみを感じさせる光がソロを包み込む。

 

「なにやってるんだよ」

 

 IF世界のスバルが何かを言っている。もう甘いとは感じなかった。

 

「そいつを殺して、もう一度友達になろうよ、ソロ!」

 

 石を床に置いた。ゆっくりと立ち上がる。

 

「断る」

 

 IF世界のスバルが息を飲んだのが気配で分かった。

 

「……ソロ、どういうこと?」

「どうもこうもない。このスバルも……俺の友達だ」

 

 手を差し出した。スバルはそれを握って起き上がる。

 

「ロック!」

「何偉そうにしてんだよ。さっきまで寝てたのはどっちだよ」

「ハハハ、それは後で」

「だな」

 

 スバルとソロの目があった。ソロのペンダントに呼応するように、スバルのペンダントが光を増した。もう、言葉はいらなかった。

 

「電波変換!」

 

 スバルとソロはロックマンとブライへと姿を変える。ロックマンの胸元にある流星型のエムブレムと、ブライの首から下げたペンダントは今も光を失ってはいない。とてもちっぽけなはずなのに、何故だろう、酷く眩しいのは。

 

「消えろよ……」

 

 疑問を振り払うように、スバルはアポロン・フレイムへと電波変換した。

 

「消えろ……全て消えてしまえ!」

 

 アポロン・フレイムは最後の力を振り絞った。両手を掲げ、今までにないほど巨大なサン・フレアを召喚してみせる。黒い太陽がロックマンとブライに絶望の陽光を浴びせてくる。

 その程度のものに、もう二人はひるみやしない。ロックマンはバスターを構え、ブライは左拳にオーラを溜め始めた。

 

「もう一人の僕、君はさっき言ったね」

 

 言葉をこぼすようにスバルは語りだした。スバルは思わず耳を傾ける。

 

「僕が大切なものを失った事が無いって……」

 

 ウォーロックと少しだけ視線があった。

 

「違うよ。僕は君と同じで、大切なものを失った。父さんを失ったんだ。でも、教えて貰ったんだ。たくさんの人から……絆は人を強くしてくれるって! それが今の僕だ!」

「そして俺だ」

 

 ソロが続けた。

 

「俺はスバルに出会えて絆を知った。孤独の無力さを知った。今度は、俺がお前に教える番だ!」

 

 スバルの目が僅かにうろたえた。黒い太陽が揺れ動き、幾分か赤くなったように見えた。

 

「ふざけるな! そんなものに価値なんてない!」

 

 サン・フレアがさらに膨張した。二つの光も負けじと輝きを増していく。

 そして決着の時はやってくるのだ。

 

「サン・フレア!」

 

 漆黒の太陽が振り下ろされる。それに向かって2人は力を解き放った。

 

「ロックバスター!」

「ブライナックル!」

 

 2人の力は一つの白い太陽となって黒い太陽をいとも簡単に掻き消した。何て呆気ないのだろう。だがスバルは慌てなかった。まだ自分には炎の盾がある。これがある限り、負けはしないのだ。

 その時、スバルは見てしまった。ソロの左拳から漏れる、白い光に。首から下げているものとはまた別の、もう一つのペンダント。

 炎の盾は現れなかった。

 白い光の中で、スバルは目を閉じた。




来週は二話更新で、最終回となります。
最後までお付き合い、よろしくお願いします。

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