流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第81話.咎

 同じ光景が繰り返されていく。挑みかかっては弾かれ、斬りかかっては弾かれ……壊れた玩具のようにブライはただただ突撃を繰り返す。決して壊れることのない炎の盾に向かって。

 痛々しい。そんな哀れみを感じてしまうのはなぜだろう。あんな奴どうでも良いとすら思ったのに。

 またブライが弾かれた。必死に起き上がろうとする姿に、ふと自分を重ねた。

 今にも泣きそうな顔をして、友達を傷つけるために必死になる。まるで同じじゃないか。ツカサたちと戦っていた自分と。

 もし、自分がソロと同じ立場だったらどうしていただろう。元世界のツカサたちに、IF世界の彼らの現状を話すなんて、できるのだろうか。多分、無理だろう。ソロにいたっては家族も同然だった親友を失っているのだ。

 

「僕は……自分勝手だったのかも」

 

 ここまで考えて、ようやくスバルは自分の咎に気づいた。

 同じじゃないか。自分もソロに、元世界の彼について話していない。適当にごまかしたあの時のやり取りが刃となって胸に刺さった。

 パキンという音で我に返った。剣が折れた音だ。支えを失って、ブライがうつ伏せに倒れていく。

 心臓が脈打った。

 

「スバル」

 

 スターキャリアーから声が聞こえた。言われなくったって分かっている。

 心はもう、決まっていた。体は走り出していた。

 

「電波変換。星河スバル、オン・エア!」

 

 スバルから青いヒーローへと姿を変える。アポロン・フレイムは気づいていない。片手に掲げた黒い太陽を振り下ろそうとしている。バスターの狙いを定めて、放つ。光弾が吸い込まれるように片手を撃ち抜いた。アポロン・フレイムの表情に痛みが走る。サン・フレアが霧散する。その隙に二人の間へと滑り込んだ。

 

「貴様……」

 

 アポロン・フレイムが歯ぎしりを浮かべた。そうとうな怒りが涌きだしているのだろう、黒い炎が勢いを増した。

 

「スバ……ル……?」

 

 ソロが擦れた声を出した。戸惑っている彼に、少しだけ振り返って笑みを見せてあげる。

 

「僕も戦うよ、ソロ」

「……なん……で……俺は……お前に……」

「僕は君を死なせたくなんてない。母さんや皆の悲しむ顔も見たくない」

 

「それに」と付け加えて、スバルはアポロン・フレイムにバスターを向けた。

 

「君に絆の大切さを知ってもらうよ、もう一人の僕!」

 

 黒炎が踊った。アポロン・フレイムは右手を前に突き出し、纏っていた黒い炎を撃ち飛ばしてきた。避ければ後ろで倒れているソロが巻き込まれる。バスターで的確に炎を撃ち抜いた。相殺され炎が弾け飛ぶ。その間に距離を詰めにかかる。ファイアスラッシュを召喚するのも忘れない。

 アポロン・フレイムに今までと違った動きがあった。右手から黒い炎を立ち上らせると、剣を生成して見せたのだ。

 

「チッ!」

 

 ウォーロックが舌打ちした。スバルも同じ気持ちだ。アポロン・フレイムの黒炎剣が弧を描く。それだけでロックマンは近づけない。ただでさえ手足の長さが違うのだ。リーチの短さを剣で補っていたというのに、それがまた開いてしまった。もうロックマンの剣なんて届かない。アポロン・フレイムの剣が荒れ狂う。

 

「絆? 笑わせるな!」

 

 ファイアスラッシュで黒炎剣を受け止めた。鉛で殴られたかのような衝撃が走る。

 

「絆に価値など無い!」

 

 アポロン・フレイムの剣から炎が噴き出した。これは剣では防げない。炎に焼かれながら数歩後退する。

 

「貴様には分からぬだろうな。大切なものを失った事が無い、貴様などに!」

 

 アポロン・フレイムの言葉にスバルは歯を食いしばった。ウォーロックと頷き合うとバスターを放った。黒炎のリングがバスターを受けて微かに揺らぐ。

 

「僕がそんなふうに見える?」

「見えるに決まっておろう。絆が大切などという戯言は、失う悲しみを知らぬから言えることだ!」

 

 黒炎剣が突き出される。剣先に炎が収束し、弾丸のように撃ち飛ばしてくる。避けようとは思わなかった。ウォーロックがシールドを展開し、正面から受け止める。凄まじい熱がスバルを襲った。

 

「心許せる者ができる。その者と親しくなればなるほど、その者は心に奥深く入り込んでくる。その分だけ失ったときに傷つくのだ。地中に深く根を張った木を無理やり引け抜けば、その土地が抉れるように」

 

 熱は予想以上のものだった。体のあちこちが火傷で痛い。スバルは胸を押さえた。

 

「ならば初めから一人であればよい。そうすれば他人ごときで傷つく必要はないのだ」

 

 スバルは目を閉じた。戦いの最中でなんと不用心なのだろう。アポロン・フレイムはここぞとばかりに剣を振りかぶって距離を詰める。

 

「絆など、初めから無ければよいのだ!」

 

 目を開く。もう片方の手にエレキスラッシュを召喚してアポロン・フレイムの剣を受け止めた。

 

「ねえ……」

 

 スバルが発したのは、場違いなほど静かな声だった。

 

「なんで君は絆なんていらないって言うの?」

 

 アポロン・フレイムは目を丸くした。何を言っているのだろう。今さっき説明してやったばかりだというのに。

 

「先ほども言ったであろう、我は……」

「父さんをなくした……」

「……なぜ知っている?」

 

 答えなかった。

 

「君は父さんをなくして、深く傷ついた」

「そうだ。ゆえに絆など……」

「でも母さんが残ってる」

 

 アポロン・フレイムが……いや、IF世界のスバルが息を飲んだ。

 

「それに、もう一人……」

 

 スバルの視線が横にそれる。IF世界のスバルは釣られて目で追ってしまう。ソロがこちらを見ていた。剣の炎が少しだけ赤く揺らめいた。

 

「そっか……分かったよ、もう一人の僕」

 

 もう一人のスバルが初めて怯えた表情に変わった。

 

「君はソロのヒーローに……」

「黙れ!」

 

 アポロン・フレイムが剣を振るった。

 

「怖かったんだろ! 愛想をつかされるのが。だから……」

「黙れと言っている!」

 

 太陽が両手を振り回すように荒れ狂った。ロックマンは大きく後退する。

 

「だから自分から離れたんだろ!」

 

 炎の弾が襲ってくる。完全な黒色ではなく、少し赤っぽいのは気のせいだろうか。

 

「ソロが離れて行ったらまた傷つく。それが一番怖かったんだろ!」

 

 炎が爆ぜる。弾けた音がロックマンを襲う。それでも叫ばずにはいられない。

 

「君は孤独になんてなれてない!」

 

 爆発が止まった。攻撃が中断されたのだ。爆炎と粉塵の中をロックマンは突っ切る。

 

「本当は誰よりも絆に固執してるんだ!」

「それ以上しゃべるな!」

 

 煙を潜り抜けて、ロックマンは足を止めた。アポロン・フレイムの手には巨大な炎の塊。反射的にバスターを放とうとする。だが遅かった。

 

「サン・フレア!」

 

 太陽がロックマンを押しつぶした。豪熱が輪を作り、瓦礫を砂塵のように吹き飛ばす。その光景をソロは見ていることしかできなかった。

 

「あ……ああ……」

 

 炎が消えて行く。中央ではスバルがうつ伏せに倒れていた。電波変換も解けてしまっている。優勢に見えていた戦いは、呆気ないほど簡単に終止符を打たれてしまった。

 

「クッ……」

 

 勝者であるはずのアポロン・フレイムが膝をついた。彼も電波変換が解けてスバルへと戻る。肩を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返している。最後の攻撃でエネルギーを使い尽くしてしまったからなのだが、ソロにはそこまで頭が回らなかった。

 

「……ソロ」

 

 少しだけ息を整えたのか、スバルが歩み寄ってくる。電波変換していた時とは違う、憔悴しきったような、それでいて思い詰めたような表情だった。

 

「さっき、その偽物が言っていたこと……多分、間違いじゃないと思う」

 

 動かなくなったほうのスバルを指さしながらスバルはたどたどしい口調で言った。

 

「だからさ……やり直さないかな?」

「……え?」

 

 耳を疑った。今何と言われたのだろう。もう一度友達になってほしいと言われた気がする。

 

「けど……」

 

 スバルの声が低くなった。

 

「そのためには……本当の友達に戻るためには、邪魔な奴がいるんだ」

 

 ソロの背筋にゾクリと寒気が走った。まさかと視線を横ずらす。

 

「そうだよ、よく分かってるね」

 

 一転して明るい声で、スバルは告げた。

 

「だからさ……殺してよ。あの偽物を」




次の更新は9月25日です

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