流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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 せっかくの2VS1なので、状況が展開していくバトルというものに挑戦しました。
 で、アホのように長くなった……。

 状況が変わっていく様というものを見て楽しんでいただければと思います。


第77話.狂炎

 ラ・ムーの上空に広がる黒い渦。あれが広がりきったとき、このムー大陸は元世界へと移動する。空中分解したはずのムー大陸が再び空に現れれば、人々はどうなるだろう。世界規模のパニックが起きるのは目に見えている。

 加えて今度の相手はオリヒメとは違い、世界を破壊するなどと謳うアポロン・フレイムだ。元世界がこのIF世界のようになるのは目に見えている。

 そんなことさせるわけにはいかない。

 スバルは雄たけびと共にロックバスターを放った。だがアポロン・フレイムの二メートルはある大きな体は、苦にする様子も無く弾丸を避けて見せた。どうやら身のこなしは良いらしい。

 加えて反撃してきた。両手をスバルに向けると、召喚していた炎を弾丸のように飛ばしてくる。

 大きさは野球ボール程度。速度はそこそこと言ったところだ。対応できないものじゃない。落ち着いて一発目を避けた。炎が床にぶち当たると、爆風が巻き起こった。近くにあった石柱が吹き飛び、床には黒い焦げ跡ができ上がった。石の焼ける嫌な匂いが鼻を刺す。威力は馬鹿にならないらしい。

 二発目が飛んでくる。

 

「ロック!」

「任せろ!」

 

 シールドを展開して受け止めた。腕に熱が走り、背中から足にかけて狂ったような衝撃が走った。防ぎきれないことは無いが、スバルもウォーロックも息を飲まざるを得なかった。

 戦闘開始直後に放ってきたことから、今の攻撃は様子見のはずだ。つまり、一番威力の低い攻撃だと考えられる。

 

「これが……?」

 

 ロックマンにとってはバスターに値する攻撃がこれだというのだ。オリヒメの言葉を思い出した。アポロンの絶大な強さに、FM星人たちは瞬く間に倒されたと。

 

「ケッ、見せつけてくれるじゃねえか!」

 

 確かに強い。それでもスバルが怯える理由には今一歩届かなかった。彼の側には常にウォーロックがいるのだ。それに今回はもう一人……今、アポロン・フレイムへと斬り込んでいる者がいる。

 

「食らえ!」

 

 ブライが剣を振り下ろした。アポロン・フレイムは回るように避けて見せると、間髪おかずに蹴りを放った。長い足がブライの腹部を持ち上げ、数メートルほど後退させる。流れるような体術だった。手足の長さも考慮すると中々の脅威と言えるだろう。

 その中に光明を見いだせたのは、強敵と戦い続けてきたロックマンだからなのかもしれない。接近されていたにも関わらず、アポロン・フレイムが放ったのはただの蹴りだ。先ほどの炎に比べればあまりにも貧弱な攻撃。つまり、接近戦における技はあまりないと考えていいだろう。

 そう、アポロン・フレイムは接近戦が苦手なのだ。先程の動きを見て苦手と言うのは少々的外れかもしれない。それでもあの炎にさらされるよりかはよっぽど良い。

 そうと分かればわざわざ相手の土俵で戦ってやる理由は無い。剣を召喚すると一直線に距離を詰める。

 アポロン・フレイムはロックマンの動きに気づいていない。再び斬りかかってきたブライに拳と蹴りで対抗している。この拮抗状態にロックマンが加われば勝利は確実なものとなるはずだ。ロックマンは素早くアポロン・フレイムの後ろに回り込んだ。ブライと目が合った。

 ここで予想外のことが起きた。ブライが一瞬動きを止めたのだ。僅かな隙が命取りとなる戦場では致命的なミスだった。アポロン・フレイムの右拳が吸い込まれるようにブライの顔へと打ち付けられた。石ころのように吹き飛ぶブライ。それに驚く間もなく、アポロン・フレイムの蹴りがロックマンを襲った。飛び退くようにそれを躱す。

 ブライと息が合わなかった。ブライの視線で後ろにいることを気取られた。せっかく優勢に立てそうだったのに。

 幾つかの思考が廻ったが、それを絶って目の前に集中する。ブライが戻ってくるまでは一人でこいつの相手をしなければならないのだから。

 距離を置くのが一番危険なのは変わらない。手足の長さは剣で埋められる。再びアポロン・フレイムへと斬りかかった。

 ふと悪寒を感じた。いや、違和感程度のものかもしれない。アポロン・フレイムが悠々と構えているのが何処か気になった。ロックマンから距離を置こうという仕草が見られないのだ。自分の得意な戦法に引きずり込み、有利を保つ。そんな当たり前の行動が見られない。

 王者の風格というものなのだろうか。それとも単にこちらを見下しているだけなのだろうか。

 どちらでもないと気づくいたのは、アポロン・フレイムの拳に炎が纏われた時だった。反射的にシールドを掲げた。ハンマーのような衝撃と、骨まで溶かすような熱が襲った。踏みとどまるなどとてもできるものではなく、走ってきた距離の分だけ後退せざるを得なかった。

 

「チッ、接近戦もお手のものってか?」

 

 ウォーロックが舌打ちした。スバルも同じ気持ちだ。先ほどまでの攻撃は何だったのだろう。

 だが文句を言っている余裕はない。アポロン・フレイムは間を置かずに炎の球を撃ち飛ばしてきた。これの威力は先ほども経験済みだ。下手に避けて爆風に吹き飛ばされる方が危険だろう。ウォーロックが意気盛んにシールドを展開し、炎を防ぐ。腕がビリビリと痺れ、爆風が体を揺さぶってくる。それでも爆炎の向こう側からは目を離さない。そこにアポロン・フレイムの顔が浮かび上がった。腕に先ほど以上の炎を纏って目の前に飛び出してくる。

 流石にこれはまずい。体の芯を揺らされているこの体勢では素早く動けない。このまま受け止めるしかない。シールドは破壊されるかもしれないが、幾分か威力は弱められるはずだ。腹をくくった。

 

「スバル!」

 

 窮地を救ってくれたのはブライだった。横から飛んできたブライナックルがアポロン・フレイムの動きを鈍らせた。ロックマンの対応は早かった。シールドを閉じると、逆にアポロン・フレイムの懐へと飛び込んでヒートアッパーを叩き込んだ。アポロン・フレイムの顔が初めて歪んだ。

 直後にロックマンが悶絶した。脇腹にアポロン・フレイムの膝が食い込んでいる。すかさず反撃を仕掛けてくるあたり、IF世界の支配者と称賛してやるべきところなのだろう。

 2人がもつれあっている間にブライが駆けつけた。剣をしまうと、白いオーラを纏った拳と足を台風のように繰り出していく。威力ではなく手数で勝負するらしい。ロックマンもこれに習った。アポロン・フレイムの長い手足は確かに厄介だ。だが密着されれば逆に仇となる。加えて数えきれない殴打の挟み撃ちに合えば対応は困難だろう。

 現にアポロン・フレイムの動きは荒くなっていた。ロックマンに向かって炎の拳を繰り出したかと思えば、ブライにはあしらう程度のひじ打ちしかしない。よっぽど辛いのか、後者には炎すら纏っていない。

 2人の戦略は有効だったが、最善という訳でもなかった。二メートルを超えるアポロン・フレイムに対して、二人の体格は1.5メートルほどしかない。それは当然力の差となって牙を剥く。アポロン・フレイムの拳の先が肩を掠めた。たったそれだけのことが石製ブロックで殴られた様な重い衝撃となる。

 状況は優勢ではない。拮抗しているとも言い難い。もし一発でもまともに食らえばロックマンの体の自由は効かなくなる。そうなればおしまいだ。次の手を打たなければならない。

 ロックマンは拳を繰り出しながらも辺りに意識を張り巡らせた。何か利用できるものは無いだろうか。その意識の乱れを感じ取ったのか、アポロン・フレイムがロックマンへと攻撃を集中させた。強力な回し蹴りが繰り出されてくる。反応が遅れた。ウォーロックがシールドを展開してカバーする。だが少しばかり遅かった。シールドの先端とアポロン・フレイムの足が僅かにかすめただけで、威力は殺せない。回し蹴りの軌道が少しだけ上にずれ、ロックマンの側頭部に当たった。

 ロックマンの世界が回る。体が二転三転したと思ったときにはもう倒れていた。目が回っている。手で床を探す。ウォーロックの声が遠くに感じる。その更に向こう側からは殴打の音。ブライが一人でアポロン・フレイムと戦っていることだけは理解できた。

 立ち上がって見ればブライたちとは結構距離が開いている。横転している間に突き放されてしまったらしい。急がなければ。早く合流しなければ。いや、その後はどうするのだろう。何か手が欲しい。足元がふらついた。側にあった壁にもたれ掛かる。

 ロックマンが気づいたのはその時だった。なにも馬鹿正直にアポロン・フレイムを相手にする必要はないのだ。

 

「ロック……」

「ああ、俺好みじゃねえがそうも言ってられねえな」

 

 今、もたれ掛かっているのは壁じゃない。

 ロックマンはバトルカードを召喚した。そう、あの時と同じことをすればいいのだ。

 

「食らえ!」

 

 ブライとアポロン・フレイムの動きが止まったことに気配で気づいた。特にアポロン・フレイムは狼狽していることだろう。ラ・ムーが火を噴いているのだから。

 

「何をしている!」

 

 お決まりの言葉が聞こえてきた。同時にブライが殴りかかる音。彼が足止めしてくれている間にと、ヘビーキャノンを連発する。ラ・ムーの上空に出来上がりかけていた黒い渦が乱れが見えた。

 

「もっとだよロック!」

「おう!」

 

 ここぞとばかりにウォーロックもバトルカードを体から引き出した。

 

「ヒートグレネード、グリーングレネード、アイスグレネード。いっけえ!」

 

 両手に溢れんばかりに召喚された、三属性の卵型爆弾を力の限りに投げつける。もちろんこれでは終わらない。

 

「レーダーミサイル! シルバーメテオ!」

 

 ミサイルと氷塊が群れとなって降り注ぐ。ラ・ムーが悲鳴を上げた気がした。

 アポロン・フレイムからしたらたまったものではない。長い時間をかけて、ようやく実行段階にまでこぎつけたこの計画が、根本から破壊されようとしているのだから。ロックマンを止めに行きたいが、ブライが絶妙に邪魔してくる。なりふり構っていられないというのがアポロン・フレイムの答えだった。ブライの鉄のような拳に向かって、巨体を最大限に活かした体当たりを行った。

 ブライも優秀な戦士だが体格はやはり少年のものだ。子供が大人に体当たりなんてされれば結果は見えている。転がるブライを背にアポロン・フレイムはロックマンへと駆けだした。本当は火の球を放ってやりたいところだが、避けられてラ・ムーに当たりでもしたら目も当てられない。

 豪炎を思わせる殺気が近づいてくることにロックマンも気づいた。攻撃を中断し、エレキソードを手に迎撃態勢をとる。ラ・ムーが自分の後ろに来るよう位置を取るのも忘れない。

 

「ワレの計画に遅れを出させおって。後悔させてくれる!」

「やれるもんならやってみな!」

 

 ウォーロックが挑発して見せた。こういうのはいつだって彼の役目だ。だが今回は違った。スバルもアポロン・フレイムに言いたいことがあるのだ。拳を掻い潜りながらスバルは叫ぶように問いかけた。

 

「アポロン・フレイム。お前はツカサくんたちに何をしたんだ?」

「ツカサ? 誰だそれは」

「ジェミニ・スパークたちのことだよ!」

 

 病室にいたツカサ達のことが思い浮かぶ。あそこまで彼らが荒んでしまった理由を知りたい。もし知っているとしたらアポロン・フレイム以外には考えられない。はぐらかされるかと思ったが、意外にもあっさりと答えてくれた。表情一つ変えずに。

 

「あやつらか。絆の不必要性を説いただけだ。それだけでワレに忠誠を誓ったぞ」

 

 スバルの中で炎が弾けた。いや、爆発した。こいつがツカサ達を狂わせたのだ。元の原因はFM星人達に憑りつかれたことだろう。そこから人として突き落としたのは……こいつだ。

 

「アポロン・フレイム!」

 

 剣が唸りをあげた。アポロン・フレイムの腕を傷つける。

 

「お前だけは……絶対に許さない!」

「フン。で、どうする?」

「お前を止める! 僕の世界にだって手は出させない。だから……お願いだブライ!」

 

 大きな破壊音が鳴る。ロックマンとブライが役目を交代していることにアポロン・フレイムは今頃になって気付いたらしい。驚愕するアポロン・フレイムをよそに、ブライブレイクがラ・ムーへと叩き込まれていく。

 

「うっとうしい!」

 

 最初の余裕はどこに行ったのやら、アポロン・フレイムが歯ぎしりをしてみせた。ブライを相手にすればロックマンが、ロックマンを相手にすればブライがラ・ムーを破壊する。一人で二人を相手にしている以上、この板挟みは覆しようがない。

 戦況は掌握した。今の自分の役目はアポロン・フレイムを足止めすることだ。ロックマンが笑みを作ったときだった。アポロン・フレイムの目がロックマンへと向けられる。太陽と対峙しているというのに寒気がした。アポロン・フレイムの手足に炎が纏われる。何を勘違いしていたのだろう。この状況、一番危険なのは自分だ。

 アポロン・フレイムの怒涛の攻撃が始まった。炎の右拳がロックマン目掛けて振り下ろされる。ウォーロックのシールドを上に掲げる。「下だ!」とウォーロックが叫んだ時には蹴りが腹部を突き上げていた。ロックマンの体が宙に浮く。そこに振り下ろされる右拳。頭から地面へと叩きつけられ、勢いあまって撥ね上がる。浮いた体に再び蹴りがお見舞いされた。脇腹から嫌な音が鳴った。世界が大きく揺れる。

 二人がかりでどうにか押さえ込んでいたアポロン・フレイムを一人で相手にしているのだ。こうなるのは当然のことだった。アポロン・フレイムは守勢に徹することを止め、各個撃破することにしたのだ。ロックマンを早々に倒してしまえば、後はブライの息の根を止めるだけだ。

 ブライもこちらの様子に気づいた。ラ・ムーの破壊を中断して駆けつけようとする。

 

「ダメだ!」

 

 ロックマンは叫んだ。ブライが急停止する。

 

「ブライはそっちを!」

 

 アポロン・フレイムの拳を受けながらロックマンは力の限りに声を振り絞った。

 ブライが戻ってきてしまったら、最初の状況に戻るだけだ。ならば自分がアポロン・フレイムの攻撃を受けるしかない。自分が倒れるのが早いか、ラ・ムーが壊れるのが早いかだ。

 

「ガトリング!」

 

 弾数の多い攻撃でアポロン・フレイムのペースを乱しにかかる。時間稼ぎなのは筒抜けのようで、アポロン・フレイムは被弾しながらも前進してくる。掌に炎の塊を生成すると、ロックマンの足元に振り下ろした。爆炎が悲鳴ごとロックマンを焼き尽くそうとする。ブライがこちらを窺ったような気がした。

 

「ケッ、温いんだよ! アンドロメダの方がまだ手ごたえがあったぜ」

 

 ウォーロックの強がりだ。火力はあれと遜色ない。

 

「これくらい、何ともないよ!」

 

 アポロン・フレイムにというよりは、ブライに聞こえるように声を張り上げた。

 炎の拳が休む間もなく襲い掛かってくる。お腹に受けた痛みが込み上げてきた。動きが鈍ってしまい、左拳を顔に受けてしまう。倒れそうになったところを右拳で持ち上げられる。回し蹴りが肩を打ち、右拳が顔面を直撃した。意識が白くなっていく。

 

「スバル!」

 

 ウォーロックの声がスバルを呼び起こす。本能的に体を丸めた。交差した腕に衝撃が走り、左脇腹に蹴りが入る。意識を左に向けたと同時に右拳で殴打された。確実にこちらの防御を崩しにかかっている。もう反撃どころじゃない。倒されぬようにと小動物のように体を丸めるしかない。

 そんな時間も終わりが近いらしい。ロックマンの鳩尾に綺麗な蹴りが入った。交差していた腕が下がる。すかさず顎を打ち上げられた。剥き出しになった首根っこを掴まれ、大きく投げ飛ばされる。遠ざかっていくアポロン・フレイム。その手には炎の球。さっきよりも大きい。これはシールドを張っても耐えられないだろう。アポロン・フレイムの手がこちらに向けられる。その時、ロックマンは見た。アポロン・フレイムの後ろに黒い影が駆け寄ってくるのを。

 

「止めろ!」

 

 ブライソードがアポロン・フレイムの背中を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

 アポロン・フレイムが小さく声を漏らした。掌にあった炎が消滅し、痛みのあまりに動きを止めてしまっている。今までにないたじろぎように、ブライまで一瞬動きを止めてしまう。アポロン・フレイムはその隙を逃さず、拳を後ろへと振り回す。ブライは辛うじて剣の側面で受け止めたが、力負けして剣を手放してしまった。狼狽えてしまっても仕方のないところなのだが、ブライの切り替えは早かった。拳を固めてアポロン・フレイムへと殴りかかっていく。

 怯まず向かってくるブライの様子を前に、アポロン・フレイムはほくそ笑んでいた。確かに背中の傷は浅くないし、ブライの激しい攻撃にさらされている。だが力の差はなおも大きく、戦況もアポロン・フレイムへと傾いていた。ブライをラ・ムーから引き離せた。ロックマンは完全に沈黙したようで、仕掛けてくる気配が無い。

 もう敗北する理由は無いのだ。

 ある可能性に気づいたのは、ブライの目を見た時だった。こんな状況下だと言うのに、絶望の色が見えない。まさかと思って目視でロックマンを探す。居た。傷ついた体を引きずるようにしてラ・ムーのすぐ近くへと移動していた。ウォーロックの口には既に相当量のエネルギーが溜まっている。

 いつの間にか2人はまた役目を交代していた。動揺したアポロン・フレイムの足をブライが蹴り飛ばす。

 ロックマンは背後から聞こえてくる戦いの音に耳を傾けながらも、ラ・ムーの様子をつぶさに確認する。ブライは役目をしっかりと果たしてくれたらしい。肩、二の腕、掌、胸、脇腹……いたる所が瓦解し、電波粒子が漏れ出している。頭上に広がっていた黒い渦は大きく乱れている。

 

「後は……」

 

 エネルギーを溜めるには当然時間がいる。ブライの足止め時間を考慮すると、この一撃が最後のチャンスだろう。狙う場所を慎重に定める必要がある。時間は必要なかった。スバルはもう知っているのだ。どこを狙うべきなのかは記憶が教えてくれた。元世界のラ・ムーはどこにオーパーツを収容していただろうか。

 目は自然とそこに移動した。ラ・ムーの胸に開いた穴へと。そして確信する。胸から漏れている電波粒子の量は他と比べてもかなり多い。

 狙いを定めた。ウォーロックも目を細める。

 

「ロックバスター!」

 

 渾身の一撃が放たれる。それは導かれるように胸の穴へと吸い込まれていった。ラ・ムーが火を噴く。中枢機関が破壊され、首辺りから爆発が起きた。連鎖的に他の穴からも炎が噴き出していく。黒い渦は形を大きく崩して、霧散していった。

 終わった。元世界への進行は無くなったのだ。

 

「馬鹿な……」

 

 計画の要が破壊され、流石のアポロン・フレイムも動揺を隠せなかった。ラ・ムーが崩壊していく様を呆然と見上げている。ブライを目の前にしながらだ。

 ブライが再度剣を召喚した。闘志が白いオーラとなって剣に纏われる。アポロン・フレイムが気づいたのは、剣を振り上げた時だった。「行け!」とロックマンは叫んだ。ブライが剣を振り下ろす。そうすればアポロン・フレイムは倒れる。それで本当に全てが終わるのだ。元世界も、IF世界も救われるのだ。

 それなのに動かない。ブライは剣を振り上げたまま動かない。アポロン・フレイムを前にして完全な隙だらけだ。なぜとロックマンが思ったときには、もうアポロン・フレイムは動いていた。拳がブライの手首を打った。剣が宙に飛ぶ。「しまった」と声を漏らす前に顔に拳が打ち込まれる。

 

「何やってるんだよ!」

 

 最大の好機が一転して窮地へと変わった。このままではブライがなぶり殺しにされる。いや、消耗した今の2人では対抗できるかすら怪しい。

 バスターを連射しながら駆け出した。ブライを殴打していたアポロン・フレイムが振り返る。そこに少しだけ勝機を感じた。アポロン・フレイムの顔に疲れが見て取れた。ここまでの戦いで確実に気力を削いでいたらしい。一人で二人を相手にしているのだから、無理もない話だ。

 気力を損なえば確実に動きは鈍くなる。そして体感的に受けるダメージも大きくなる。ちょっとした一発の打撃が、鈍器かなにかで殴られたかのように感じるほど。今のアポロン・フレイムもそんな状態だ。ロックマンかブライのどちらかが、大きな一撃を与えられれば、勝てる。

 

「撃てスバル!」

 

 ウォーロックがガトリングを召喚した。弾丸の雨がアポロン・フレイムの動きを止める。だがまたしても誤算が起きた。挟み撃ちを担当するはずのブライが倒れて行く。彼も限界だったのだ。アポロン・フレイムが体勢を整えればもう勝機は無い。このまま勢いに任せて撃ち倒すしかない。

 ガトリングの弾が尽きた。アポロン・フレイムが動き出す。手に炎を召喚して放ってくる。最初に受けた一撃が脳裏を駆けた。避ける。その選択肢は無い。避ければその時間だけ勢いを失い、アポロン・フレイムに余裕が生まれる。だから突っ込んだ。シールドも召喚せずに姿勢を低くして、地面に体が擦れるほどに。炎が背中を焼きながら通り過ぎた。背後で爆発が生じ、ロックマンの体を押す。それは推進力となり、威力へと変わった。

 アポロン・フレイムの驚愕に満ちた顔が間近に迫る。ウォーロックがヒートアッパーを召喚した。その手を握り締める。

 

「食らえ!」

 

 全力で腕を振った。重い感触が腕に走った。アポロン・フレイムの顔が「く」の字に曲がる。首が斜めに伸びきり、胴体が引き上げられる。二メートルを超える巨体が宙に浮いた。遅れてアポロン・フレイムの口から悲鳴のような声が漏れる。

 アポロン・フレイムの体が吹き飛んだ。床を撥ねて、数メートルほど転がっていく。ロックマンは跪くようにその場で倒れた。もう指一本動かせる気がしない。これで立ち上がってきたら終わりだ。だがそんな心配はいらなかったらしい。アポロン・フレイムは立ち上がろうとしているが、どうも無理そうだ。体を震わしてもがく様は、敗北者にはお似合いの姿だと言えるだろう。とうとう電波変換も解けてしまった。

 それが意味することをスバルは知らなかった。このIF世界で成してきたこと、自分が思い感じてきたこと全てをひっくり返す事なのだと、今になって知ることになったのだ。

 

「……どういう……こと?」

 

 その言葉しか出なかった。ウォーロックも言葉を失っている。ソロが少しだけ身を動かした。だが顔はうつ伏せたままスバルを見ようともしない。

 

「どういうことなの……ソロ」

 

 声を掛けられてソロの顔が歪んだ。歯を食いしばり、目を閉じている。そう、彼は最初から全て知っていたのだ。

 

「どういう……ことなんだよ!?」

 

 気づけば叫んでいた。アポロン・フレイムがゆっくりと立ち上がる。いや、正確にはアポロンと電波変換していた者だ。彼はスバルを見ると、同じ顔で笑って見せた。




 67話から伏線を大量に張って来たので、丸分かりでしたよねw ああいうのは伏線ではなく布石って言うんでしょうね。伏線ってのは見えないぐらいがちょうど良いらしいですから。

 ちなみに、アポロンの意識はIF世界のスバルと統合しています。だから、電波変換しているときだけ口調がアポロンのものに変わります。

 本当はアポロンも独立したキャラとして動かしたかったのですが、この物語はスバル、IFソロ、IFスバルの三人に焦点を当てなくてはなりません。アポロンの存在が蛇足になると感じたため、残念ながら省くことに決めました。

 まあ、原作のアポロンは「並行世界を潰す理由? そんなものない。ただワレはそのようにプログラムされているだけだ」というキャラなので、動かすとしても難しいんですよね……。

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