流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第71話.ごめんね

 横から飛んでくるのは音符型のエネルギー弾と蛇の群れ。それを掻い潜りながら、必死に眼前の赤い敵に飛びかかる。オックス・ファイアが太い腕を、マテリアルウェーブの障壁に振り下ろそうとしている。させはしない。

 だがそれを阻むのがジェミニ・スパークWだった。道を塞ぐように剣を振るわれる。ここは立ち止まるか、剣で受け流すべきなのだろう。だがブライは焦っていた。悪手と分かっていても、体は跳躍して飛び越えることを選んでしまった。そこをジェミニ・スパークBに狙われた。ブライの頬をロケットナックルが殴りつけた。同時に、マテリアルウェーブの障壁の砕ける音がした。

 

「ま、待て……ぐっ!」

 

 太くてしなやかなモノがブライの体に巻き付いてきた。オヒュカス・クイーンの尾が締め付けてくる。その間に、オックス・ファイアが穴の中へと跳びこんでいった。

 

「ずいぶん手こずったね」

 

 ハープ・ノートが顔についた傷を撫でながら言った。他の三体も大なり小なり怪我をしている。ジェミニ・スパークWに至っては肩に大傷を付けられている状態だ。それでも、彼は苦しそうなブライを見上げながら笑みを浮かべた。

 

「アポロン・フレイム様が唯一警戒しているのが君だって言うけれど、終わってみれば大したことなかったね」

 

 後はブライを甚振って始末するだけだ。一般人はオックス・ファイアに任せておけばいいだろう。

 これからどんな拷問をしてやろうか。そんな快楽の時間に思いをはせた時だった。全員の意識が一カ所に……オックス・ファイアが跳び込んだ穴に向けられた。

 

「嘘……だろ」

 

 ジェミニ・スパークBの言葉が皆を代表していた。オックス・ファイアの周波数が消えたのだ。彼が電波変換を解くことはありえない。倒されたのだ。思いもしていなかった事態に、緊張ではなく驚愕が彼らを支配した。

 そんな隙をブライは見逃さない。尾が緩んで、腕を動かす余裕ができた。ブライソードを召喚して全力で振るった。刻まれた尾が宙を飛び、オヒュカス・クイーンが悲鳴を上げる。

 ようやくジェミニ・スパークWたちが戦闘態勢に移った。転げまわるオヒュカス・クイーンをよそに、三体の視線がブライに集められる。

 大きなミスをしたことに、ジェミニ・スパークBが気づくことは無かった。彼は穴に一番近い場所にいた。なのにブライに気を取られて、穴に背を向けてしまったのだ。当然、そこから飛び出してきたロックマンに気づけるわけがない。

 ロックマンからすれば、敵が背中を無防備にさらしているのだ。ウッドスラッシュを召喚して、切っ先を躊躇なくうなじにたたき込んだ。そして叫ぶ「こっちだ!」

 オックス・ファイアの周波数が消えてからここまで、僅か5秒と言ったところだろう。立て続けに起きる事態の変化に、アポロンの手先たちが混乱するのは仕方のないことと言えた。ブライはそれをさらにかき乱す。ブライバーストを彼らにお見舞いしてやった。放った衝撃波は四発。うち二発は、残る三体を分断するように放った。一発は身動きの取れないオヒュカス・クイーンを的確に狙う。最後の一発は、一番身軽なハープ・ノートの足元に走っていく。

 足をやられれば動けなくなる。そんな言うまでもないことをされるわけにはいかない。条件反射でハープ・ノートは後ろに飛び退いてしまう。そこにロックマンが素早く回り込んだ。跳びこんできたハープ・ノートの背中に剣を突き立てる。「ごめんね、ミソラちゃん」と呟いて。

 電波変換が解けたミソラをその場に寝かせると、ロックマンは無言でオヒュカス・クイーンに近づいていった。既に電波崩壊が始まっていて、苦しそうに手を伸ばしている。奥歯を噛みしめて、一刀両断した。戻ったルナを抱き留めてその場に寝かせる。

 

「待て!」

 

 ブライの声に振り返る。ジェミニ・スパークWがウェーブロードに飛び移り、走り去っていくのが見えた。逃げようとしているのだ。

 追いかけようとするブライ。その肩を押さえ込むように手を置いた。

 

「僕に任せてくれないかな?」

「だが……」

 

 一人で行く必要なんてない。言いたいことは分かっている。でも、そんな理屈じゃないのだ。

 

「お願い。僕の……友達なんだ」

 

 ブライが言葉を失った。目を上下左右に転がすと、ゆっくりと剣を下した。

 

「ミソラちゃんと委員長を……二人をお願い」

 

 ブライの返事を待たずにウェーブロードへと飛び上がった。遠方に見える白い背中に向かって駆け出す。肩を負傷しているからか、思ったより足は速くない。距離が縮まってきたところで左手を突き出し、狙いを足に定める。ジェミニ・スパークWの体がふらついた。一瞬照準がぶれる。冷静に定め直して、ロックバスターを放った。

 緑色の弾丸は的確に足を射抜いた。ジェミニ・スパークWが小さな悲鳴を上げる。足をもつれさせ、ウェーブロードから転がり落ちて行く。ロックマンも後を追う。降りた場所は、このIF世界では当たり前な瓦礫の海だ。瓦礫の隙間から剥き出しになった土が見えた。

 屈めていた身を起こす。ジェミニ・スパークWがヨロヨロと立ち上がるところだった。

 

「追ってきたんだね……」

 

 唾を吐き捨てると、口角を鋭利にあげて見せた。

 

「ねえ、見逃してよ。そうすれば、僕からアポロン・フレイム様に取り次いであげるから」

 

 親友の声が醜い音となって並べられる。だがスバルが目をそらすことは無かった。

 

「仲間が倒されたのに、なんで笑っていられるの?」

「仲間? 冗談はよしてよ。あんな使えない雑魚なんかと一緒にしないでほしいな」

 

 その暴言にロックマンは目を閉じた。大きく息を吐きだして空を見上げる。黒っぽくなった雲が空に押し詰められている。

 ジェミニ・スパークWに視線を戻す。怪我の痛みよりも、仲間と言われたことの方が嫌だったのだろう。ロックマンを見る目には苛立ちの色が濃く表れている。

 ロックマンは小さく首を振った。

 

「ツカサくんは、そんなこと言わない」

 

 ジェミニ・スパークWの目が大きく開かれた。右手にエレキソードが召喚される。さっきまでふらついていたことが嘘だったかのように、剣を前にして突進してきた。

 

「僕をその名前で呼ぶな!」

 

 ジェミニ・スパークWの魂を込めた絶叫。撃たれた足で瓦礫と土を蹴飛ばし、前進してくる。ふと、ロックマンは気づいた。ジェミニ・スパークWの足元に、一輪の花があることに。茎を折れ曲がらせながらも荒れた土の上で、赤い花弁を開かせようとしている。ジェミニ・スパークWの足がそれを踏みつぶした。彼は気づきもしなかったらしい。目はロックマンだけを見ている。怒りの炎だけを灯して。

 

「ウッドスラッシュ」

 

 右手に剣を召喚した。目の前にはエレキソードを振り上げたジェミニ・スパークW。雷の剣が弧を描いて振り下ろされる。ロックマンは一歩だけ前に進んだ。ジェミニ・スパークWの剣を召喚している方の腕……右手の手首に剣先を当てた。手首から先が剣ごと宙を舞う。素早く剣を切り払うと、ジェミニ・スパークWの体に線が走った。彼の足が折れ曲がり、ロックマンの腕に体を収めた。

 

「く……そ……」

 

 電波粒子がはじけ飛んだ。一人の男の子に戻る。動かなくなった彼の顔を窺う。緑色の髪に女の子と見間違いそうな顔つき。紛れもなくツカサだった。目は閉じているものの、顔は憎しみで歪んだままだった。

 唇が震えてくる。

 

「ごめん……ごめんね、ツカサくん……皆……」

 

 戦いの終わりを告げるように、雲から雨粒が落ちてくる。それに顔を濡らしながらスバルは崩れるように座り込んだ。

 雨脚が早くなってくる。世界に灰色のカーテンがかかろうとしていた。




もうちょっと苦戦させたり、長く戦わせてもいいかなと思ったのですが、戦闘シーンを長々と書いてもつまらないなと考え、さっさと終わらせることにしました。
スバルの精神状態を考えても、長い戦闘は無理だろうという判断です。

また、この場を借りてお詫びを申し上げます。

再び休載させていただきます。

執筆が思うように進まず、現在停滞している状態です。
もう少し書き進めてから投稿を再開させてください。
遅筆な作者で申し訳ございません。

この作品は必ず完結させます。
どうか連載再開の時期をお待ちいただければ幸いです。

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