流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第38話.いつか必ず

 喧騒の中、「うん……」と唸りながら目を覚ました。

 

「……なんの騒ぎだ?」

 

 体に痛みを感じつつも、アガメは包帯だらけの体を起こし、杖を突きながら家屋の外に出る。外はもう夕暮れを迎えており、荒野は鮮やかな橙色に染まっていた。火は消し止められたようで、一部は焼けてしまったものの村は無事だったようだ。

 辺りを伺うと、広場の方に人が集まっていた。村が焼けたというのに、大人たちが酒を口にし、子供たちが無邪気に走り回っているのが窺える。

 

「あ、村長さん!」

 

 眼鏡をかけた少年がこちらに気づいた。続いて、隣にいる金髪の少女が村人に声をかける。

 

「皆、村長さんが目を覚ましたわよ!!」

 

 一カ所に集まってワイワイと騒いでいた村人たちが一斉にこちらを向く。笑顔を絶やさぬまま近づいてきた。

 

「ほら? 来てくれよ村長さん」

 

 ゴン太が肩を貸し、村人たちが体を支えるようにして広場へと牽引する。その中央を見て村長はようやく皆が笑っている理由を理解した。

 赤ん坊がいたのだ。親になった夫婦の間で静かに眠っている。

 親子を祝う村人たちを見て、村長も笑みを浮かべた。

 

 

 そんな暖かい光景をウォーロックはウェーブロードの上から眺めていた。

 

「まあ、めでたしってやつなんだろうな」

 

 隣ではジェミニが寝転がっている。ずっと空を見上げたままだ。

 

「なあお前……あの時……」

 

 そこまで言って、言葉を詰まらせた。尋ねても無駄だ。結局答えは返ってこないのだから。

 

 

 村から少し離れた丘の上、村人たちのどんちゃん騒ぎもここならば微かにしか聞こえない。そんな場所にスバルとツカサは腰かけていた。ここに来てから……いや、来るまでの間から2人は言葉を交わしていなかった。砂交じりの風が吹き病んだ時、とうとうツカサが口を開いた。

 

「スバルくん……」

「……なに?」

 

 尋ねたが本当は分かっている。スバルは泣きそうになる心臓を必死で押さえた。

 

「やっぱり僕は……まだ君とはブラザーになれない」

「……そっか」

 

 予想通りだった。

 

「間違っていたよ。ヒカルを封印するなんて間違っていた。ヒカルは僕の感情から産まれた、もう一人の僕。分かりあうべきだったんだ。一からやり直すよ」

「……うん」

 

 それ以外に何も言えなかった。これはツカサ自身の問題だ。スバルが口を出すことではない。

 ツカサは立ち上がってスバルに歩み寄ると、ポケットからある物を取り出した。昨晩見せてもらった黒い塊だった。

 

「これ……預かってくれないかな?」

「これを?」

 

 流石のスバルも身を固くした。これがロクなものでないということは、一目見た時から察していたからだ。

 

「うん、これを持った時からだと思うんだ。僕がヒカルを封印しようと思ったのは。これは人の心に影響を与える、危険な物なのかもしれない」

「…………」

「これを捨てようとも思ったんだけれど、誰かが拾ったらと思ったら、怖くって……スバルくんに預ける以外に、安心できる方法が思いつかなかったんだ。ごめんよ、こんな理由で」

「……ううん、良いよ。僕が預かるよ」

「ありがとう」

 

 スバルは黒い塊を受け取るとポーチにしまった。

 ツカサは哀しく笑うと目をつぶった。

 

「……残念だったな……これが最後のチャンスだったのに」

「え?」

「実はさ……僕、転校するんだ」

 

 強い風がその場を駆け抜けた。

 

「……嘘……でしょ?」

 

 震えるスバルの声に、ツカサは首を横に振った。開いた目は潤んでいた。

 

「孤児院側の都合でね、別の孤児院に行くことになったんだ。だから、スバルくんとはこの夏休みでお別れ……」

 

 今度はスバルが首を横に振る番だった。

 

「そんな……急に……なんで……」

「この夏休みが終わる前に……旅を終えた頃に言おうと思ってたんだ。いや、違うな。決心付かなかったんだと思う」

「……委員長たちには?」

「まだ言ってないよ。最初に伝えるのは、スバルくんであってほしかったから……」

「……そっか」

 

 スバルは口を一文字に結ぶとツカサに背を向けた。スバルの態度に、ツカサは顔を下に向けて悲しそうに顔を歪めた。と、ツカサのスターキャリアーが鳴った。取り出してブラウズする。一件のメールが来ていた。開いて驚く。スバルからだった。画面には「許可」のボタンが大きく表示されている。ブラザー申請メールだ。

 

「いつでも押してよ」

 

 スバルが振り返った。目元には涙が小さく光っている。

 

「僕はいつでも君を受け入れる。どんなに離れていても僕たちはつながっているよ」

「……スバルくん……」

 

 ツカサの頬を涙が伝う。だがその顔には笑みが広がっていた。




 ツカサとヒカル、そしてジェミニは流ロクでも大好きなキャラです。このシリーズを書くにあたって、彼らをもっと深めて、物語に交えたいという思いがありました。
 ですが……この章は実力不足でしたね。
 振り返ってみればスカスカだったなと思う所です。
 3でも彼らは出す予定です。その時までには実力つけて、今回の汚名を返上したいところです。

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