流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第35話.ブラザーになろう

 田舎の夜空は絶景だ。ナンスカ村の上には数えきれんばかりの星の絨毯。それを見上げながらウォーロックはため息を吐き出した。

 

「まさか、お前がこんなことになってるとはな」

 

 ウォーロックの隣にはジェミニがいた。かつてAM星を滅ぼすことを画策し、前の戦いの引き金になった男……ウォーロックにとって真の意味で仇と言えるFM星人だ。

 そんな彼をウォーロックは痛々しい目で見ていた。今のジェミニの姿は目も当てられないような変わり果てたものだったからだ。

 仮面は白い方一つだけになっており、赤かった目は黒色に染まっていた。

 雷が固まったような体は常に乱れていて、突然体が崩壊してもおかしくないほど弱々しく見える。周波数も不安定で、デンパくんのような微弱なものになっていたと思えば、周囲を焦がしそうなほどに大きくなったりと高低差が激しい。

 なにより、彼には自我あるのかすらよく分からない状態だった。

 

「グ…………ギ…………」

 

 これがジェミニの発する言葉である。もちろん意味なんて理解できない。

 やることにも一貫性がなく、遠くを見つめていたと思えば急に走り出し、ウェーブロードの真ん中でゴロリと寝ころぶ。そして今空を見上げているに至る。

 

「……まさか、お前とまた顔を合わせるとはな」

 

 ツカサの話によると、スターキャリアーに機種変更してから数日後に、中でジェミニが再構築され始めたらしい。元々強い周波数を持っていたこともあり、ツカサの体内にも強力な残留電波となって残っていたのだろう。

 ウォーロックは手を少し開閉させた。自慢の爪は今日もよく切れそうだ。目の前で無防備に寝転んでいるこいつを叩き斬るのは、赤子の手をひねるほど容易いことだろう。

 だができなかった。代わりに自分もゴロリとその場に寝転がる。夜空はコダマタウンとは比べ物にならないほど綺麗なのだが、彼にはその価値があまり理解できなかった。

 そっと隣を窺う。ジェミニはその場から微動だにしていなかった。

 

「……ったく、調子狂うぜ……」

 

 

 一方、スバルとツカサはのんびりと夜空の下を歩いていた。もちろん喧嘩などすることもなく、星空を見上げながら丘を登っていく。ある場所まで来たとき、ツカサが村を指さした。本物の火を使った篝火に、空いっぱいに広がる星々の灯り。ニホンでもなかなか見られない、自然が織りなす雄大な光景だろう。

 

「良い場所だね」

「でしょ?」

 

 村も夜空も2人占めできるこの場所は、スバルには聖域のように感じられた。カラッとした暖かい風が前髪を優しくなでてきて、大の字に手を広げてめいいっぱい全身で受ける。

 

「何も無い村かも知れないけれど、僕はここが好きなんだ。ここは皆が優しくて、暖かい……」

「うん、そうだね……」

 

 たったの半日だがスバルもこの村の魅力を理解していた。おまけに食べ物もおいしい。ゴン太が中々帰ってこれなかったのにも頷けるというものだった。

 

「ところでスバルくん。さっきの話だけど……」

「うん、オリヒメやオーパーツについてはさっきので全部だよ」

 

 ツカサと散歩に出かけてからスバルはこれまでのことを全て話していた。

 

「だから明日にはここを発つよ。ミソラちゃんを探しに行きたいから」

「そっか、久しぶりに君と同じ時間を過ごしたかったんだけれどな」

 

 ツカサは大きくため息を吐くと夜空を見上げた。だがすぐに明るい顔をして見せた。

 

「よし、決めた! 僕の一人旅はここで終わり。あの妊婦さんが無事に出産したら、僕もこの村を離れる。そして君と一緒に戦うよ」

「ほ、本当!?」

 

 願ってもいない言葉だった。

 

「ありがとう! ツカサくんが一緒なら百人だよ!!」

「そんなに喜んでもらえるなんて思わなかったな」

「喜ぶにきまってるじゃないか! 僕にとってツカサくんはかけがえのないブラザーなんだから!!」

「ブラザー……?」

 

 ツカサはか細い声を出すと、上着のポケットから何かを取り出した。綺麗な包装紙の中から出てきたのは一枚のバトルカードと赤い押し花だった。

 

「僕たちはまだブラザーになってないよ」

「ブラザーも同然さ!」

 

 色々あってまだ二人はブラザーを結んでいない。だがそれ以上の信頼が確かに2人の間に出来上がっている。

 

「だからブラザーを結ぼう! 今すぐに!!」

 

 スバルはスターキャリアーを取り出してツカサに迫った。だが鈍い顔を返された。

 

「……ごめん、急に言われても……心の準備が……」

 

 彼の心中を察し、スバルもスターキャリアーをポケットにしまった。

 

「……僕の方こそゴメン。急だったよね」

「ゴメン……君の方から誘ってくれているのに……最後かもしれないのに……」

「良いんだ。僕はツカサくんがどんな人か理解しているつもりだよ。そのうえで僕は君とブラザーになりたいんだ」

「スバルくん……」

「だからさ、ツカサくんがニホンに帰ってきたら……一緒に戦う時が来たら、その時はブラザーになって欲しいんだ」

 

 ツカサは直ぐには答えなかった。目を閉じて自分の胸に手を当てる。風が通り過ぎた時にそっと目を開いた。

 

「分かった。その時に……ブラザーになろう!!」

「うん、約束だよ?」

「今度は破らないよ」

 

 ツカサはスバルの手を取り、硬く握りしめた。

 

「それは困る」

 

 しわがれた声が2人の間に割って入って来た。

 ムッとしてそちらを向くと、アガメ村長が近づいてくるところだった。村長はスバルに目もくれることなくツカサに近づいた。

 

「困るって……どうしてですか? 僕が生き神様の役を演じるのは出産が終わるまでの間だったはずです」

「事情が変わってきたのだ」

 

 村長は首を横に振って申し訳なさそうな顔で告げた。

 

「君は確かによくやってくれた。村人たちも君を心から大切に思っている。だが影響力が強すぎた。君がいなくなると村人たちは心の糧を無くすだろう。君を失うということはこの村が滅びるのと同じだ。これからも君にはこの村で暮らしてほしい」

 

 なんて身勝手な理由だろう。スバルは文句を言ってやろうとしたが、ツカサが手で止めた。

 

「お断りします」

「そんなことを言わずに……。ここで暮らせば何物にも代えがたい確かな地位を得られるのだ。少なくとも食べる物には困らない」

「必要ありません。僕は最初の約束通り、出産が終わったらこの村を去ります。それでは。

 行こう、スバルくん」

 

 ツカサはスバルの手を取ると、早足でその場を後にした。

 後にはアガメ村長だけが残された。

 

「……いや、しかたないか……」

 

 ツカサに突きつけた内容は全てこちらの都合だ。ツカサが了承してくれるわけがない。今だって、彼の善意に甘えて生き神様のふりをしてもらっているだけに過ぎない。こちらには感謝こそすれど、文句を言う権利などないのだ。

 

「しかし、彼がいなくなった後はどうすればよいのか……」

「いい方法がありますよ」

 

 ゾッと悪寒が走った。首だけで振り返ると、背中にくっつくようにして一人の男性が立っていた。悲鳴を上げようとして口がふさがれる。

 

「怯えることはありませんよ。私はあなたに良いお話を持ってきたのです。ンフフフフフ……」

 

 

「ツカサくん、あんな言い方は無かったんじゃ……」

 

 充分離れたところでツカサは手を放してくれた。

 

「別に普通だよ。村長さんの言っていることは完全に我儘じゃないか」

「それはそうだけど……」

 

 言いたいことがあったがスバルは口を閉じた。どうもツカサは機嫌が悪いらしい。

 ここは話題を変えることにした。

 

「そういえば、一緒に戦うって言ってくれたけれど、ヒカルは大丈夫なの? さっきも白いほうだけで戦っていたみたいだけれど……」

「あ、その話だね。聞いてよスバルくん!」

 

 一転してツカサは心の底から嬉しそうな顔をして見せた。つい釣られてスバルも笑ってしまう。

 

「なにか良いことがあったんだね?」

「そうなんだ。僕、ついにヒカルを封印できたんだ!」

「……ふう……いん?」

「そう、封印。これでもうヒカルが表に出てくることはないよ。僕はヒカルに勝ったんだ!」

 

 嬉々として話すツカサにスバルは違和感を覚えた。

 ツカサは以前こう言っていたはずだ。ヒカルはツカサのもう一人の人格であり、自分自身である。これから話し合っていかなければならないと。

 そんな彼から封印やら勝つやらと言った言葉を聞くとは思わなかった。

 

「どうやったの……?」

「最初は苦労していたんだ。けど、この前これを拾ってさ。それからは簡単だったよ」

 

 ツカサは懐から何かを取り出した。それを見てスバルは全身が怯えたような気がした。

 歪な塊だった。それは見ている物を引き込むように黒く、そして魅惑的だった。

 そんな気味の悪い物を手に、ツカサは満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 翌朝、スバルは泊めてくれた民家の中で目を覚ました。体を起こして耳を澄ますと、外が騒がしいことに気づいた。スバルが眠気眼でビジライザーをかけると、大あくびをしているウォーロックがいた。

 

「朝から賑やかだね?」

「ああ、おかげで目が覚めちまった」

 

 外に出ると黒に近い雲が広がっていた。雨でも降るのか、あまり気乗りのしない天候だ。

 騒ぎの方向に足を向けると、一際大きな家……村長の家の前に人だかりができていた。すでにルナ達も集まっている。中央ではツカサとアガメ村長が向かい合っていた。

 

「こんなに頼んでもダメなのですか?」

「何度も言いますよ村長さん。僕は出産が終わったらこの村を離れます」

 

 村人たちが悲しそうな声を上げた。昨晩村長が言っていた通り、ツカサはこの村の希望ともいえる存在になっているようだ。

 

「皆悲しそうですね……」

「俺がこの村に落っこちてきた時からツカサは村の人たちに頼りにされていたからな」

 

 同情するゴン太とキザマロに頷きつつもルナは首を横に振った。

 

「それでもツカサくんには帰るべき場所があるわ。そうでしょ、スバルくん?」

「もちろんだよ」

 

 ルナの言うとおりだ。ツカサをこの村に渡す気は無い。

 次に村長が何かを言おうとしたら自分が加勢に出る。そう決意したスバルは村長の出方を伺った。ツカサに断れた村長はガックリと首を項垂れている。

 

「そうですか……こんなに頼んでもダメですか……仕方有りませんな」

 

 どうやら諦めてくれたらしい。ホッとスバルが胸をなでおろしたとき、村長は懐から黒いスターキャリアーを取り出した。画面には赤い鳥のような電波体が映っている。

 

「やはり私が神になるしかない!!」

 

 村長が大股でツカサに歩み寄る。手を伸ばし、ツカサの首から下げられていたダイナソーを鷲掴みにする。ようやくスバルが人ごみから抜け出した。スターキャリアーを取り出し、電波変換と叫ぼうとする。だが、村長の方が早かった。

 

「電波変換!! ナンスカ・オサ・アガメ オン・エア!!」

 

 赤い光がその場にいた皆の視界を奪った。突如豪風が巻き起こり、人々をなぎ倒す。尻餅をつくスバルが見上げたのは赤い色をした巨大な怪鳥だった。

 短い首に大きな翼とその後ろについたジェット噴射機。鷹のようでありながら戦闘機のようにも見える。

 

「これが……コンドル・ジオグラフの力! そしてダイナソーの力か!!」

 

 コンドル・ジオグラフの額が赤く光る。体内にダイナソーを取り込んでいるのだ。

 声から怪鳥の正体に気づいた村人たちは悲鳴を上げて距離を取る。コンドル・ジオグラフは片翼2メートルはある体を見せつけるようにしながら声高らかに宣言した。

 

「我が親愛なるナンスカ村の者達よ、よく見ておくのだ。私はこれより神となる。生き神様に代わってこの村を守護する神となるのだ!!」

 

 そして目を丸くしているツカサを見下ろした。

 

「この村に神は2人と必要ない。より強い方がこの村の神となるべきであろう」

 

 村長が何をしようとしているのか理解したのだろう。ツカサはスターキャリアーを手にしながらスバルの方を見た。

 

「スバルくん。これって君が言っていた……」

「そうだよ。だから……」

 

 この勝負を辞退して村を去るのがツカサにとっては一番いいだろう。だが村長はダイナソーを取り込んでしまっている。オリヒメが狙っているオーパーツをだ。昨日のソロのような刺客に襲われるのは時間の問題だろう。いや古代のスターキャリアーを持っていたことから、今も監視されていると考えた方が良い。

 ここは決闘を受けて立ち、ダイナソーを回収するほかない。

 スバルとツカサは頷き合うと、スターキャリアーを頭上に掲げた。

 

「電波変換!! 星河スバル オン・エア!!」

「電波変換!! 双葉ツカサ オン・エア!!」

 

 青と白の光が煌めき、ロックマンとジェミニ・スパークWが姿を現す。2人の電波人間を前にしてコンドル・ジオグラフは高らかに笑って見せた。

 

「2人がかりか。それを下して私が神になる!!」

 

 コンドル・ジオグラフは両翼の噴射機から緑色の炎を吹き出し、大空へと飛び立っていく。ロックマンとジェミニ・スパークWも小岩のようなウェーブロードを飛び移って、後を追った。

 

 

 

 その様子を傍観している者がいた。白い椅子に腰かけた彼は、荒野を背景に場違いな紅茶をすすると、君の悪い笑みを浮かべた。

 

「ン~フフフフ……私の脚本通りです。

 さあ、互いに戦ってください。どちらかが倒れた時、弱った方に私がとどめを刺す。そしてダイナソーを手に入れる。

 ロックマンの始末にダイナソーの入手……これで私もオリヒメ様の……ンフフフフ……」




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情報、ありがとうございました。

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