流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第33話.ナンスカ村の神様

 バスに乗ること数時間、草木もろくに生えていない荒野を眺めてからは何時間だろう。もう数える気にもならない。キザマロのブラザーになったスナップからの情報によると、今向かっているナンスカ村は古きしきたりを守っている田舎村らしい。人里離れた荒野にあるためか、バスに乗っているのはスバル達三人とウォーロックだけだった。

 眠ってしまっているルナとキザマロを横目に、スバルは八木からもらった情報を思い出していた。

 ナンスカ村に寄ったとき、ゴン太を見たということだった。あまりにも都合よく入った情報だったが、彼の言葉なら信用できる。

 

「ゴン太は今頃どうしてるのかな? なんで帰ってこれなかったんだろう?」

「どうせ食いもんにがっついて帰るのを忘れてたんだろ」

「いや流石にそれは……あるかもね」

 

 いつもお腹を減らしているゴン太を思い出すと、ウォーロックの言葉を否定できなかった。

 

「とにかく、すぐ見つかればいいんだけれど……」

 

 

「おう、皆!」

 

 到着早々、さっそくゴン太は見つかった。あまりにも呆気なさ過ぎて、スバル達はガックリと全身で項垂れた。

 

「ゴン太……こんなところで何してるのよ?」

「いやあ、この村って美味いものが多くてさ。明日帰ろう、明日帰ろうって思ってるうちに、今日になっちまって……」

 

 ウォーロックの予想がズバリである。ルナは額に青筋を立てながら、無理やり笑顔を作ってゴン太の肩に手を置く。

 

「じゃあ、今すぐ帰れるわね?」

「そうしたいんだけれど……」

「なに?」

 

 切れの悪い返事だ。ゴン太は「う~ん」と唸ると、村の入り口を指さした。

 

「中に入ったら分かると思うぜ。ちょうどお祈りの時間だぜ」

 

 ゴン太にしては良い提案だ。このまま彼のまとまらない説明を聞くよりはよっぽど理解が早まる。

 見たところ、ナンスカ村はかなり発展が遅れているらしい。家は石造りで、水も井戸から手動でくみ上げている。近代的なものは何もなく、マテリアルウェーブどころか車一つ見当たらない。

 褐色肌をした村人たちの服装は緑や赤といったヒラヒラした民族衣装だ。彼らは食器替わりにした葉っぱの上に食べ物を載せて、どこかへと向かっている。ゴン太曰く、お祈りで使う捧げものらしい。

 

「そのお祈りに何か問題でもあるのかしら?」

 

 あちこちに立っている、トーテムポールのような石像を見ながらルナが尋ねた。

 

「問題っていうか……あ、あれあれ」

 

 角を曲がると広場だった。中央には巨大な円柱状の石台があり、高さは3メートルほどはありそうだ。村人たちはその前に膝待づいて、食べ物をお供えしていく。

 

「あれがお祈り?」

「おう、神台の上を見ていてくれよ。びっくりするぜ?」

 

 そうしている内に、村長と思われる人物がやってきた。彼が杖を振ると、太鼓が鳴り響き、弦楽器や笛の音が鳴り響く。村人たちからは熱気が涌き、爛々とした目が神台の上へと向けられる。

 そこに白い光が灯った。その直後には、華やかな衣装に身を包んだ人物が現れた。歓声が上がり、村人たちが一斉に頭を下げて祈り始める。

 

「な? びっくりしただろ?」

 

 ゴン太の言う通り、スバル達はアングリと口を開けていた。別に突然人間が現れたことに驚いているのではない。現れた人が意外だったのだ。

 いま神台の上で手を振っているのは他でもない、スバル達がよく知っている友人……ツカサだったのだから。

 

 

「えっと……つまりツカサくん……」

「うん、なあに?」

 

 お祈りが終わった後、スバル達はツカサと接触していた。村の中を歩きながら一通りの話を聞いたスバルは眉間にしわを寄せた。

 

「今までの話をまとめると……一人旅の一環としてこの村にやって来た時、村長さんに電波変換を見られた。その力を利用して神様の真似事をしてほしいと頼まれて、ツカサくんは快く引き受けている……で合ってるかな?」

 

 ツカサは害の無い笑みでうなずいた。

 

「流石スバルくんだね。ゴン太くんの時とは大違いだよ」

「俺の時は三日かかったからな」

 

 笑って良い処なのかと、スバル達は苦い顔でごまかした。

 

「この村の人たちは神様を信じているんですね」

 

 キザマロは村人たちを見ながらつぶやいた。皆ツカサを見ては頭を下げたり、食べ物を勧めてくる。生き神様として扱われているようだ。

 

「もう分かっていると思うけれど、この村は昔からの風習を大事にしていて、お祈りや神様みたいな非科学的なものがいまだにあるんだ」

「珍しいわね。でも不便だわ、スターキャリアーもろくに使えないなんて」

 

 ルナが不満を漏らしながらスターキャリアーを開いた。電波はほとんど受信できない。スバルがビジライザーをかけてみると、ウェーブロードは途中でちぎれていたり、飛び石のようになっていたりと酷い有様だった。

 ネットワークへの接続が悪い環境だが、村人たちは特に問題にしていないらしい。それもそのはず、スターキャリアーを持っている人は指折り数える程度にしかいないのだ。

 電波情報社会の今日にこのような地域があるなど、スバル達にとっては考えられないことだった。

 

「まあね、それについては村長さんも……あ、噂をすれば」

 

 通りの向こう側から、派手な衣装を身に着けた老人が近づいてくるところだった。お祈りの時に杖を振っていた人物だ。

 

「皆、この人はアガメさん。ナンスカ村の村長だよ」

「やあどうも。ツカサくんのお友達ですね。よくぞこんな辺境の村にお越しくださいました」

 

 アガメという名の老人はスターキャリアーを取り出し、翻訳ソフトを通じて礼儀正しい挨拶をしてくれた。見た目通り穏やかそうな人柄だ。

 

「ところでツカサくん、友達とのお話し中申し訳ないのだが、今から来てくれるかね?」

「はい、あの場所ですね」

「ああ、またお腹を触ってほしいということだ」

「分かりました。友達も一緒で良いですね?」

「大丈夫だろう」

 

 よく分からないままに会話が終わってしまった。ツカサに連れられるがまま、スバル達はある民家にたどり着いた。その家だけは周りと違って、綺麗な花や織物で装飾されて煌びやかだった。

 中に入るとびっくりするぐらいお腹が膨れ上がった一人の女性が横たわっていた。ルナは直ぐに理解した。

 

「この方、妊婦さん?」

「うん、妊娠12ヶ月目……」

 

 赤ん坊が生まれるのは妊娠してから10ヶ月目のことだ。2ヶ月もオーバーしている。ツカサが笑ってお腹を触ってあげると、妊婦と夫はありがたそうな顔でツカサの手を握った。

 家を後にしてツカサはスバル達に振り返った。

 

「分かったかな? 僕がここで神様の真似事している理由」

「うん、あの夫婦のためだね」

 

 可愛そうなことに、医療機関もないことから難産が予想されるだろう。仮初であろうとも希望が必要だ。ツカサはその役目を担うことにしたのだ。

 

「あの夫婦のためでもあるけれど……見て」

 

 ツカサが指さしたのはこの家の装飾だった。

 

「村の人皆で子供が生まれることを祈って応援しているんだ。こんな

優しい人たちの力になりたいって思ったんだ」

 

 村の中を見渡しながら、スバル達は大きく息を吐き出した。

 

「ツカサくんもお人よしね」

「ゴン太くん、ちゃんとお手伝いしたんですか?」

「あったりまえだろ? これを知っちまったら、俺も知らんぷりして帰れなくなっちまんだよ」

「さっき食べ物が……って言ってなかったかしら?」

 

 ギクリとゴン太が飛び上がった。

 

「そ、それもあるけれど! じゃなくて、いやそういうわけじゃ……」

「もう遅いですって」

 

 ルナが怒ってゴン太が縮こまり、なぜかキザマロが巻き込まれそうになる。それを側で笑うのがスバルとツカサの立ち位置である。

 

「でもよかった。ツカサくんが元気そうで」

「そう見える?」

「もちろん。さっきのツカサくん、いい顔していたよ」

 

 この間もルナ達はマイペースにいつもの漫才を繰り広げていた。言葉は分かっていないようだが、村人たちは賑やかな雰囲気が面白いのか段々と輪を作っていく。暖かい円卓が出来上がろうとしていた。

 それを掻き消す轟音が鳴った。夫婦の家が崩れたのだ。天井の一角に穴が空いている。

 声もあげずにツカサが飛び込んだ。遅れてスバルがドアをくぐる。中では夫が重身の妻の肩を抱き寄せて震えているところだった。無事らしい。

 2人の視線の先でスバルの目が留まった。村長が尻餅をついている。反射的に体が動いた。「村長さん!!」と叫ぶツカサの隣を駆け抜け、スバルは素早く電波変換した。そして村長の隣にいる人物……この事件の犯人に殴りかかる。

 

「ブライ!!」

 

 ソロが電波変換した姿……ブライがいたのだ。彼の手には獣の頭骸骨のような赤い物体。一目見て体が叫んでいた。あれはオーパーツだと。

 何故かは分からないが、村長はオーパーツを所持していたのだ。ブライはそれを狙ってきたのだろう。

 

「ロックマン!?」

 

 ブライもここにロックマンがいるとは思っていなかったらしい。ロックマンの拳をかろうじて片手で打ち払うと、穿たれた天井から外へと飛び出した。

 飛び石のようなウェーブロードの上でロックマンはブライと向き合う。

 

「また貴様か……!!」

「こっちのセリフだ!!」

「ブライ、それを渡してもらうよ!! バトルカード、ファイアスラッシュ!!」

 

 炎の剣を携え、ロックマンはブライへと飛びかかった。


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