流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第3話.マテリアルウェーブ

 タクシーを降りると、そこはTKタワーの足元だった。ビジライザーをかけてみると、天辺のアンテナから無数のウェーブロードが広がっていた。

 

「二ホン全国に電波を送信している、国内最大の電波塔……やっぱり凄いな……」

 

 スバルは素直に感嘆の声を漏らした。だが、ポカンと口を開けている様は、ルナには気に入らなかったらしい。

 

「スバル君、あんまりみっともない行動をとらないでもらえるかしら? 私たちまで田舎者扱いされるじゃない」

 

 ルナに声をかけられ、スバルは数センチ飛び上がった。今日は怒らせないようにしようと思っていたのに、お怒りを買ってしまったらしい。

 

「ひっ!! あ、ご、ごめん!!」

「そ、そんなに怖がることないじゃない!!」

「ご、ごごごごめん!!」

「だから……もう良いわ……まったく、あなたがFM星人の侵略を防いだロックマン様だなんて、未だに信じられないわ」

 

 ルナは深くため息をついて頭を抱えた。スバルはルナがいつ爆発するのかと気が気ではない。そんなスバルを笑うのはウォーロックである。

 

「ククク、どうした委員長? 憧れのロックマン様にずいぶんとご立腹じゃねえか」

 

 火に油。とてつもなく危険な言葉がスバルの脳裏をよぎった。案の定、ルナは二本の後ろ髪を逆立て、鬼のような形相に変わった。

 

「勘違いしないでくれるかしら!! 私が好きなのはロックマン様であって、スバル君でもあなたでもないのよ!!」

「わ、分かったから委員長、落ち着いて……」

 

 ゲラゲラと笑うウォーロックに腹が立つが、今はルナの怒りを抑えることが大事だ。走馬灯を見る覚悟で、ルナを落ち着かせようとする。ルナはまだ文句を言っていたがスバルに背を向けた。スバルも冷や汗を流しながらスターキャリアーを取り出してウォーロックに文句を言う。だから気づかなかった。ルナがポケットから紙を取り出し、そこに描いたロックマンの絵を見ていることに。

 

「失礼、お嬢さん」

「え?」

 

 背後からルナと男の声が聞こえた。振り返ると、ルナが見知らぬ男から声をかけられているところだった。

 男は足まで届く紫色のコートに、丸みがかかったおしゃれな帽子を被っていた。両手には白い手袋をつけており、右手にはステッキを持っている。背中まで伸ばしている金髪は編んでおり、数本に分けられていた。身長は見上げるように高く、190センチはあるだろう。

 

「ここはTKタワーでよろしいでしょうか?」

 

 少々怪しい風貌をした男は、目の前のルナを見下ろしながら質問する。言葉遣いは丁寧だが、どこか危険を感じさせる声だった。

 

「は、はい……そうです」

 

 気の強いルナも、男の気配を感じ取ったのか少し後ろに下がり気味だ。スバルは傍に駆け寄ってルナの隣に立つ。

 

「おや、お友達とご一緒でしたか? それは失礼しました。では、これで……ンフフフフ」

 

 男は帽子を取って深々とお辞儀をすると、TKタワーの入口へと向かっていった。

 

「委員長、大丈夫?」

「ええ、ありがとう……何だったのかしら、あの人……」

 

 少々変わった男だったが、忘れることにした。そこで、ようやく屋台の前で目的を忘れていたゴン太を、キザマロが連れ戻してきた。

 

 

 TKタワーの中にはたくさんの施設やコーナーがあった。美術館ではルナがうっとりとし、世界の名産品展ではゴン太が食べ物系ばかりで足を止め、科学展ではスバルとキザマロが大はしゃぎした。古代文明展という場所もあったが、まだ準備中だった。少々残念そうになったスバルだったが、別の場所で目を爛々と輝かせた。

 

「すごい、マテリアルウェーブがこんなにたくさん!!」

 

 スバルが飛び込んだのは最先端技術であるマテリアルウェーブの展示室だった。

 

「なあ、スバル。マテリアルウェーブってのは確か……『物質化する電波』だったか?」

「そうだよロック、よく覚えてたね」

「まあ、日常的に使ってるしな」

「そうなんだよね~」

 

 スバルはスターキャリアーを取り出し、ブラウズと音声認識させる。キザマロがタクシーを呼ぼうとしたときと同じように、スバルの顔の前で操作パネルが実体化した。このパネルも、CMを流していたエア・ディスプレイもマテリアルウェーブでできているのだ。

 この展示室には机やソファーと言ったものから、掃除機に洗濯機、車にバイクといったものまで展示されている。

 

「電波だから本体はデータなんだよ。スターキャリアーの中にしまっておけるし、いつでも取り出せて便利だよね~。なにより、電波に触れられるっていうのが夢のようだよね~」

「……電波変換すりゃ同じだがな……」

「同じっていえば……」

 

 ウォーロックの退屈そうな言葉に気づくこともなく、スバルは展示されている車に近づいた。車の前方には白い目と口だけで作られた簡易な顔が設けられており、見学している人々に声をかけていた。「俺様に任せれば無事故で目的の場所まで送ってやるぜ」など、展示品であることを忘れたことを言っている。そう、このマテリアルウェーブは意思を持っているのだ。

 

「意思を持ったマテリアルウェーブもあるんだよね。ロックと似てない?」

「そうだな、俺みてえな奴らが日常生活に出てくることだってあるかもな」

「あ~、いいな~僕もほしいな~」

「……聞いてねえや、こいつ……」

 

 話題を振っておきながら、スバルは自分の興味があることに没頭してしまっていた。オタク気質な彼のことを良く知っているウォーロックは、怒る気もうせてしまった。代わりに怒ったのはルナだった。

 

「スバル君、あんまりはしゃがないでって言わなかったらしら?」

「ご、ごめん委員長!!」

「まったく、あなたって人は……」

 

 ルナが更に何かを言おうとしたとき、ふっと彼女の顔が見えなくなった。いや、照明が消えたのである。観客たちがザワザワと騒ぎ出す。

 

「な、なにが起こったの? 委員長?」

 

 段々暗闇に目が慣れてきた。ルナはちゃんと目の前にいた。辺りを見渡せば、少し離れたところにゴン太とキザマロもいる。

 

「きっと停電よ。すぐ元に戻るはずよ」

 

 突然の出来事に少々取り乱したものの、ルナはすぐに平常心を取り戻したようだった。スバルもホッと胸をなでおろす。ルナの方に向き直ると、彼女の真後ろに緑色の顔が浮かんでいた。目が釘付けになる。何かの見間違いかと疑う。だが、一瞬後には本能が叫んでいた。あれは危険だ……と。「危ない!!」と叫ぼうとしたときには、ルナの姿が消えていた。

 

「い、委員長!!?」

 

 スバルが叫ぶとほぼ同時に、会場の中央に一つだけ明かりがついた。スポットライトのような明かりの中に一人の男がいた。スバルは「あっ!」と声を上げた。TKタワーの前でルナに声をかけてきた不審な男だ。そいつの片手にはルナが囚われていた。

 ざわめき立つ観客達に、彼は帽子を脱ぎながらわざとらしいお辞儀をして見せる。

 

「皆さん、本日はTKタワーにお集まりいただき、まことにありがとうございます。せっかくの機会ですので、ここはつまらない展示会ではなく……このハイドが用意した舞台に皆さんをご招待します! ここからは(わたくし)が描いた脚本をお楽しみください!! ンフフフフフ!!」

 

 観客たちのどよめきが広がる。何かのショーかと思っている平和ボケした者達がほとんどだろう。この異常さに気づいているのは、電波変換すべきか迷っているスバルぐらいだろう。

 ハイドと名乗った男はコートの懐に手を入れた。そして何かを取り出す。スターキャリアーだ。だが、世間に普及されているものとは細部が違う。特に、市販されていない黒色のカラーリングが施されている。どこか年季の入ったそれを頭上に掲げる。

 そのとき、スバルははっきりと見た。ハイドのスターキャリアーの中に、紫色の何かがいた。白い仮面をかぶった、幽霊のような奴だ。その様はウォーロックと重なる。

 

「電波体……?」

 

 呟くような疑問はすぐに解決された。

 

「電波変換 ハイド オン・エア!!」

 

 スターキャリアーから紫色の光が生み出された。それはハイドを包み込むと、一瞬後にはじけ飛ぶ。ハイドの姿は大きく変わっていた。

 シルクハットに黒いコート。緑色の顔と目の周りだけにつけた白い仮面のような模様が見る者を不安にさせる。左手のステッキと背中まで伸ばしている数本の金髪はそのままだ。ハイドの出で立ちには怪人という言葉が当てはまる。

 

「え!? ……今のって、電波変換!?」

「なん……だと!!?」

 

 ハイドの電波変換に、スバルとウォーロックは動揺を隠せなかった。電波変換とはウォーロックのようなAM星人やFM星人と融合することだ。FM星の侵略が終わった今、新しいFM星人は来ていないはずだ。

 

「さあ、ショーの始まりです!! 二ホン転覆の様をどうぞ特等席でご覧ください」

 

 ドミノ倒しのように起きる異状事態の連続。混乱するスバルをよそに、怪人は喚くルナを連れてまたもや姿を消した。

 

「委員長が!!」

「す、スバル!!」

 

 ゴン太とキザマロが駆け寄ってきた。ルナを連れ去られ、二人は酷く青い顔をしていた。

 

「い、いいい委員長が! 委員長が!!」

「な、何なんです、今の怪人は!?」

「落ち着いて二人とも!!」

 

 一応二人を宥めるが、スバル自身も混乱していた。あの男の正体も、ルナを攫った理由も分からない。ただ、ルナを助けなくてはという使命感だけが彼を焦らせる。

 

「お前こそ落ち着け、スバル!」

 

 スターキャリアーからウォーロックが怒鳴った。スバルはポケットからそれを取り出す。

 

「あのハイドって野郎が何者かは知らねえが、電波変換しやがったんだ。サテラポリスでも歯が立たねえよ。なら、やることは一つだろうが」

「……うん」

 

 スバルはゴン太とキザマロの顔を交互に見た。2人も悟ったように頷く。

 

「僕に任せて」

「おう、任せたぜ」

「委員長のことよろしくお願いします」

 

 頷くと、スバルは誰もこちらを見ていないことを確認してスターキャリアーを頭上に掲げた。

 

「電波変換! 星河スバル オン・エア!!」




皆大好き変態ハイドの登場です。
彼は面白いのでノビノビと描きたいのですが……難しいだろうな……
変態キャラをシリアスなシーンで描くのは骨が折れそうです。

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