流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
アメロッパの地で偶然出会ったニホン人……八木ケン太に案内され、スバルはドンブラー湖の畔を歩いていた。ドッシー騒ぎに目が行きがちだが、ここはとてものどかな場所だった。
湖は透き通っているほど綺麗で、覗き込めば小魚が悠々と泳いでいる。並び立つ風車がのどかな雰囲気を醸し出しており、それに当てられているのか羊の群れがのんびりと日向ぼっこをしている。小さな川の滝と飛沫で濡れている岩々。これがドンブラー湖の本来の姿なのだろう。
もと来た道を振り返れば、お祭り会場が遠く離れた場所に見える。もうあの騒音もほとんど聞こえない。ここは人が極端に少ないのだ。
「遊牧をしている人が時々使うぐらいで、めったに人が来ない所みたいサ。だから、ここなら電波変換しても目立たないサ」
「そう? なら大丈夫だね」
どうやら一般人はいないらしい。八木の説明に頷きながらスバルは傍らを見た。そこではウォーロックが白い電波体と肩を並べていた。
「しっかしまあ、ゴートの爺さんも地球に残っていたんだな」
「うむ」
白い電波体は短い返事をしただけだった。どうやら寡黙な人柄らしい。
彼の名はゴート。山羊座のFM星人で、先のFM星との戦いで地球にやってきた戦士の一人らしい。だが、地球侵略作戦に乗り気でなかった彼は任務を放棄し、地球で隠居生活を行うことにしたという。そんなときに八木と出会い、今に至る……ということを八木から聞いた。
「ゴートは僕の師匠なんサ!!」
「師匠……?」
「そう! 僕は師匠の拳法を受け継ぐ修行をしてるんサ!! そのためには強い人と戦う必要がある。だからスバルくんにも協力してほしいサ!!」
「なるほどね」
紫色のハチマキに緑色の道義姿……八木の格好を見れば大いに納得がいった。
そうしているうちに目的の場所にたどり着いたらしい。八木が「あれ」と指をさす。湖の真ん中にポツンと離れ小島があった。まるで整えられたかのような平地で、大きさも結構なものだ。
「あそこならだれにも邪魔されないし、迷惑もかからないと思うサ。どうかな?」
「うん、あそこにしよう」
普段のような戦闘ではなく、ただ修行の相手をしてあげるだけだ。それでも戦いには変わりないのだろう、ウォーロックは「ケケケ」と悪者の顔でスターキャリアーに入っていく。
「FM星屈指の拳法家で有名なゴートの爺さんと戦えるとはな、腕が鳴るぜ!!」
「うむ」
それだけ言ってゴートは八木のスターキャリアーに入っていった。寡黙を通り越して無視に近い反応。だが彼がそういう人格だと分かっているのか、ただ単に戦いにしか興味が無いのか、ウォーロックは気を悪くした様子も見せなかった。
「おら、スバル! さっさと電波変換しやがれ」
「もう、相変わらずだな」
「ハハハ、それじゃあ……」
八木がスターキャリアーを頭上に掲げたので、スバルも右に倣った。
「電波変換 星河スバル! オン・エア!!」
「電波変換 八木ケン太! オン・エア!!」
湖の一角で青と白の光が灯り、すぐに消えた。
ロックマンの隣には、白い電波人間が立っていた。見た目はシンプルで緑色の道着を来た山羊だ。頭には岩をも穿きそうな二本の角。頬と胸にある十字の傷が彼の培ってきた努力を物語っていた。
離れ小島に移動すると、八木は柔道着をヒラヒラとさせて見せた。
「この姿はゴート・カンフー。結構気に入ってるサ」
「うん、かっこいいと思うよ」
「スバルくんもかっこいいサ」
「ありがとう。ロックマンっていうんだ」
「名前もいいサ」
この会話の間もゴート・カンフーは膝を曲げたりして体をほぐしている。今までの戦いでは無かったやり取りに新鮮味を感じながらロックマンも真似をする。
「では……」
ゴート・カンフーの纏う空気が変わった。ロックマンも気を引き締めて構える。
「ゴート・カンフー。ロックマンと御手合わせ願う!!」
「よろしく!!」
ゴート・カンフーが胸の前で拳と掌を突き合わせた。ロックマンも真似する。
そしてゴート・カンフーが構えた。ロックマンも片足を少し下げる。
「いざ、尋常に……勝負!!」
ゴート・カンフーが地面を蹴った。
「カンフースマッシュ!」
ゴート・カンフーが正面から正拳突きを繰り出してきた。まっすぐで単調、シンプルな一撃。だが早い。一瞬にして懐に潜り込まれていた。 ゴート・カンフーの初手を、ロックマンは落ち着いて右手で払った。確かに早いが、これぐらいならウォーロックのシールドを使うまでもない。
拳を払われたゴート・カンフーは直ぐに後方へと飛びのいた。その顔には笑みが見える。
「まずは様子見。良い反応サ。なら……!!」
フッとゴート・カンフーの姿が消えた。先程よりも早い。一瞬反応を遅らせるロックマン。背後に気配を感じてシールドを展開した。ゴート・カンフーの蹄のような拳が目の前で弾かれた。
「くっ!?」
「今度はガードさせたサ!!」
様子見という言葉に偽りはなかったらしい。ゴート・カンフーのスピードがさらに上がる。消えたと思った直後に右肩を殴られた。とっさにそちらを向くが、風が舞っているだけだ。背中を痛みが走る。そう思った直後には胴に二発拳を入れらえた。
「スバル! このままじゃやられっぱなしだぞ!!」
「分かってる! ワイドソード!!」
幅広い剣を回転するに振った。だが手ごたえは感じられない。回転している僅かな間にもゴート・カンフーを探す。視界の隅に彼がいた。ロックマンから距離を取っている。彼が飛び上がる。と思えば足を前に付きだし、猛スピードで突っ込んできた。
「ゴートキック!!」
ジェット機のような蹴りがロックマンの顔面をとらえた。ゴロゴロと転がりながら立ち上がる。
「くっそ!」
ロックマンの反撃はバルカンだった。左手を振り回して、でたらめに弾丸をばらまく。
ゴート・カンフーの姿が消えた。同時にロックマンは右手をロングソートに変えて背後を斬りつける。
切っ先が、真後ろに回り込んでいたゴート・カンフーを捕らえた。
「え!?」
「やっぱりそこにいたね?」
「なっ!?」
誘導されたことに気づいたらしい。
「ニドラッシュ!」
左手のバルカンが別の形へと変わる。次に放たれたのは散弾銃だ。至近距離で受けたゴート・カンフーはひとたまりもない。何とか逃げようとするも、一度に放たれる数発の弾によって囲まれてしまっている。逃げ場を見失うとどうしても隙が生じる。それをロックマンは見逃さない。防御に徹するゴート・カンフーとの距離を詰め、右手の剣を拳に変えた。
「ヒートアッパー!!」
「ぐはっ!!?」
炎の拳がゴート・カンフーの防御ごと吹き飛ばした。ゴート・カンフーの属性は木だったらしく、火属性の攻撃に悶絶している。たったの一撃で形勢逆転だ。
それだけの一撃を受けたというのに、闘志を失わないのはさすがと言うところだろう。立ち上がったゴート・カンフーの表情は、この苦戦を楽しんでいるようにすら見えた。
「くっそ!! なら、シャドースマッシュ!!」
ゴート・カンフーが横に飛んだ。また同じ動きかと思ったが少し様子が違う。仕掛けてこないのだ。ロックマンの周りをグルグルと回っている。
何をするのだろうかと観察に徹するロックマン。二週目に入ったころに、ゴート・カンフーの姿が2つに見えた。錯覚かと思って目を凝らす
と3つに増えた。ハッとして辺りを見渡すと、もう遅かった。何人ものゴート・カンフーの残像がロックマンを取り囲んでいた。
後ろから気配を感じ横に飛びのく。ゴート・カンフーの拳がチラリと見えた。振り返りざまにロングソードを振るうが空を斬るだけ。ゴート・カンフーの姿はとっくに残像の海の中だ。間髪おかずに横から強打された。痛いと思ったときには胸を殴られていた。なんとか脱出しようと前に転がる。目の前に右手を大きく引いているゴート・カンフーがいた。鼻面に拳がめり込んだ。ゴート・カンフーのニヤリとした顔が見えた。スバルの胸の中が熱くなった。
「ロック、派手に行くよ?」
「おう、大歓迎だぜ!!」
スバルにしては珍しい発言だった。ロックマンは両手から武器が消える。代わりに、大量の爆弾がその手に握られていた。
「ミニグレネード!! ヒートグレネード!! いっけええっ!!」
それを一斉に放り投げる。ロックマンを中心にして円状にだ。大小様々の爆発が周囲を火の海にした。当然、ゴート・カンフーの残像達を巻き込む。
「うわっ!?」
勢いあまって爆風に飲み込まれたゴート・カンフーは足を止める。このチャンスを逃す理由などあるわけもなく、狙いを定めながらロックマンはニヤリと笑ってあげた。
「キャノン!!」
砲弾が直撃し、吹き飛ばされるゴート・カンフー。島の端っこの方にいたこともあり、見事に湖にダイブした。小さな水しぶきが上がる。
「……八木くん、泳げるのかな?」
「大丈夫なんじゃねえか?」
スバルの心配をよそに、ゴート・カンフーはすぐに水面から顔を出した。鍛えているだけあってか、ロックマンの手を借りずに這い上がってきた。
「うう……強いサ……」
全身びしょ濡れになって這いつくばっているゴート・カンフーと、彼が立ち上がるのを待つロックマン。審判がいるわけではないが、どう見てもロックマンの勝ちだった。
「な、なんでこんなに手も足も出ないんサ……」
別に彼が弱いわけではない。拳法家の道を進んでいるだけあって、その身体能力や技の洗礼さはロックマン以上だろう。だが、最も大事な部分で彼はロックマンに劣っているのだ。
こういう時に弟子を導くのが師匠という存在だ。膝を突くゴート・カンフーの前にゴートが姿を現した。
「師匠……なんで僕は……」
「……うむ」
戦いの間、一切口を挟まなかった彼は八木の質問にただそれだけ答えた。
「実戦経験!? そ、そうか……ロックマンはFM星人達を倒してきた……潜り抜けてきた苦難の数が違うということ……確かに、修行ばかりしてきた僕にはないものサ!!」
「……うむ」
「え? 今のってゴートが説明したの?」
「……そうみたいだな……」
「うむ」の一言でどうやって伝わったのだろう。いや、むしろあれだけの内容を瞬時に理解した八木が凄いのだろうか。疑問がついえない。
「うむ」
「え!? あれを!!? ですが、本当の強者か何に変えても守らなければならない時のみ使うことを許してくださると……」
「うむ」
「今がその時!? 分かりました!! では……」
まるで八木の一人芝居だ。
「ねえ、本当に会話になってるのかな?」
「……とりあえず、気を引き締めろ。あいつら何かする見てえだぞ?」
確かに一見ふざけたやり取りだが、その内容はとっておきの切り札を使うというものだ。ゴート・カンフーはスターキャリアーを取り出すと、ブラウズ画面をタッチした。
「マテリアライズ!」
ゴート・カンフーの手に緑色の物体が生成された。そこから溢れる周波数に触れた時、ロックマンの内側から熱いものが滾った。突沸した熱気が体内に充満するように。
「八木……くん……それっ、て……?」
尋ねなくても分かっている。体が答えを叫んでいた。
「これ? この前ある遺跡で見つけたんサ。なんだか凄い周波数を放ってるし、忍者が使う手裏剣みたいでかっこいいから貰ってきたサ」
召喚されたのは緑色の十字手裏剣だった。手裏剣にしては大きく、とても片手では持てそうにない。事実ゴート・カンフーは抱えるようにしている。
古代文明展の記憶と体内にあるベルセルクから答えが導き出された。おそらく古代文明の一つ、シノビのオーパーツだ。他にもオーパーツが存在していたのだ。
「これを体内に取り込むと……ぬうんっ!!」
シノビがゴート・カンフーの胸から入っていく。体に収まると、ドクリとゴート・カンフーの体がはねた。彼の周りに緑色のオーラが纏われる。
「この通り、パワーアップできるサ!! と言っても、これは僕本来の力じゃないから、修行では使わないサ。ロックマンが本当に強いから使わせてもらったサ」
どうやら彼はロックマンの時と違ってオーパーツを制御しているらしい。彼が積み重ねてきた修行の賜物と言ったところだろうか。
彼から放たれているオーラの量を見て、ロックマンは察した。これはこちらも同じ手を使うしなさそうだ。
「……思った以上にえらいことになっちまったな。スバル、こっちも見せてやろうぜ?」
「……うん。そうだね」
体内に感じるベルセルクと波長を合わせ、ロックマンも力を開放した。
「トライブオン!!」
体中を雷のエネルギーが駆け巡り、ロックマン・ベルセルクへと姿を変える。
今度はゴート・カンフーが驚く番だった。
「これはびっくりサ!! まさかロックマンが同じようなものを持っていたなんて……」
「うん、僕も驚いたよ。だからここからは僕も全力で行くよ!!」
「望むところサ!!」
ゴート・カンフーが消えた。剣を横に振ると、刀身とゴート・カンフーの拳がぶつかり合った。その次の瞬間には背後に気配がある。身をかがめて避けながら剣を払う。だが、もうとっくにゴート・カンフーはロックマンの真上へと飛んでいた。ウォーロックがとっさに開いたシールドがゴートキックを防いだ。
らちが明かないと感じたのだろう、ゴート・カンフーがロックマンの周囲を回り始め、残像を生み出していく。自慢の俊足を最大限に活かした「シャドースマッシュ」だ。
「させないよ!!」
ロックマンは刀身にエネルギーをチャージすると、それを辺りにばらまいた。雷のエネルギーがバチバチと地面にとどまる。八方を囲んだ即席の城壁だ。振れれば当然感電し、ゴート・カンフーの動きを止めることができる。
「……小細工は通用しないみたいサ……」
ゴート・カンフーが動きを止めた。正面からロックマン・ベルセルクと向き合う。ロックマンも剣にエネルギーを溜めながら応える。
「とっておきの一撃で決めるサ!!」
ゴート・カンフーの右手に緑色のオーラが集中する。この一撃にシノビから貰った全ての力を込めるつもりらしい。ロックマンも同じだ。剣にエネルギーを集中させ、雷の刀身を滾らせる。
風がやみ、湖からも音が消えた。一瞬の静寂と同時に、2人は駆けた。剣と拳がぶつかり合う。黄と緑の光が爆発する。豪圧と暴風が渦を巻いた。
吹き飛ばされる一つの影。数回地面に叩きつけられるとバタリと仰向けになって寝転がった。そして彼は清々しい笑みで敗北を宣言した。
「僕の負けサ……ロックマン」
ゴート・カンフーのバトルを書いていたらめっちゃ長くなっちまった……
ゴートのキャラは公式では紹介されていません。
そのためオリジナル設定です。
色々と考えていたのですが、こんな風になりましたw
八木くんがおバカっぽくなっちゃってる……orz