流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第21話.父の言葉

 どれくらいそうしていただろう? お昼ご飯だと呼ぶあかねの声を無視したから、1時ぐらいだろうか? もっと経っているかもしれない。眠っているわけでもないのに、スバルはずっとベットでうつぶせていた。

 何の変化も起きなかった部屋に訪問者が現れる。ドアを開けたのはあかねだった。ベッドまで歩み寄ると、放り出されていた洗濯物をタンスにしまう。それが終わると、なおも動こうとしないスバルの隣に腰掛けた。

 

「久しぶりに見たわ。こんなに落ち込んだスバルって」

 

 少しだけスバルの体が動いた。

 

「最後に見たのは、いつだったかしら? 変ね? 最近の事のはずなのに、ずっと昔の事だったみたい」

 

 あかねはちらりとスバルの方を向いた。顔を横にして目を開いている。こちらを見てはいなかった。

 視線をスバルから離して、天井を見上げた。

 

「何かあったの? お母さんなら少しくらい話相手になれるかしら?」

 

 それ以上、あかねは何も言わなかった。沈黙の時間が静かに流れる。スバルが動くことも、あかねが席を立つことも無かった。空には積乱雲でも浮かんでいるのだろうか? 部屋に差し込んでいた陽光がなくなり、少しだけ暗くなった。

 

「怖いんだ」

 

 唐突にスバルが答えた。

 

「僕……皆に褒められたんだ。凄いって。それでちょっとだけ得意げになって、段々調子に乗って、その気になって……それで、無理してかっこつけて……失敗した」

 

 最後は小声で、かろうじて聞き取れそうなほどだった。

 

「……そう……」

 

 スバルの告白に、あかねはただそう返した。

 

「それなのに……大きな失敗して、かっこ悪いところみせたのに、まだ皆は僕ならできるって思ってる……。

 怖いんだよ。僕にしかできないって分かってるのに、また失敗したらって思ったら、また皆の期待を裏切るようなことになったらって想像したら……体が動かないんだ」

 

 それだけ言うと、スバルはまた黙ってしまった。あかねはしばらく天井を見上げていたが、「フフッ」と笑った。

 

「スバルもそんなことを考えるようになったのね。お母さんの知らないところにどんどん大人になって行っちゃうのね。びっくりしちゃった。フフフ……」

「……笑わないでよ」

 

 悩みを聞いてもらったのに、それを笑われたのだ。流石のスバルも頬を膨らませて身を起こした。息子の頬を指で付きながら、あかねは笑顔を崩さずに答えた。

 

「なんだか、前に大吾さんに聞いた話を思い出しちゃった」

「……父さん?」

 

 スバルの声が裏返った。大吾の名前が出た途端、目の色が変わったのを見て、あかねは笑みを深めた。

 

「そう。宇宙飛行士って、いろんな人たちの力を借りるでしょ? 訓練をしてくれる人、宇宙船を作る人、計画を立てる人、宇宙に行った後に地球でフォローしてくれる人……宇宙飛行士っていうのはたくさんの人たちの力を借りて、その人たちの思いを背負って飛び立つの。

 だから訊いたの。『失敗は怖くないの?』って。だってそうでしょう? たくさんの人を裏切ることになるんですもの。そうしたら、大吾さんはなんて答えたと思う」

 

 スバルは黙って聞いていた。目は早く答えを教えてと訴えていた。

 

「失敗してもいいんだ。大事なのは勇気を示すことだ……って」

「ゆうき?」

「そう、どんな困難を前にしてでも踏み出す勇気……」

 

 あかねは天井を見上げた。見計らったように陽光が戻ってくる。天窓から光が差し込み、2人に降り注ぐ。

 

「もし俺が失敗しても、俺が示した勇気はきっと他の誰かを勇気づける。そいつがまた失敗してもまた別の誰かを勇気づけるはずだ。人と人が勇気によって繋がれる。そうしてできた絆はどんなものにも負けない力になる……」

 

 ぎこちない動きでスバルは首を横に振った。

 あの時の……三年前の父を思い出す。大衆に手を振って、笑顔で応える父親の姿をだ。

 

「参考になったかしら?」

「…………」

 

 首から下げたペンダントを握り締める。

 その時、ピリリと音が鳴った。スバルのスターキャリアーからだ。

 

「またお友達からじゃない?」

「……そうかも……」

 

 あかねはスバルの頭をなでると、部屋を後にした。スバルはそのまま動かなかった。あかねに撫でられた場所を触り、顔を赤くする。

 

「ありがとう……母さん……」

 

 ベッドから立ち上がる。スターキャリアーからウォーロックが出てきた。

 

「ごめん、ロック……」

「踏ん切りはついたのか?」

「……分からない。けど、このままじゃダメだと思うから」

「そうか……。なら電話に出たらどうだ? 委員長からだったぜ」

「うん。ちゃんと謝らないとね」

 

 そう言って、スバルはスターキャリアーを手に取り、画面をブラウズさせる。またあの怒号が来ることを予想していた彼は目をつぶって頭を下げた。

 

「ごめん委員長!! 僕……」

『おや? もしかしてこちらのお嬢さんと喧嘩中でしたか? ンフフフフ?』

「……え?」

 

 聞こえてきたのは男の声だった。驚きで見開かれた画面を見ると、そこには丸い帽子をかぶった白人男性が映っている。その顔を忘れはしない。

 

「ハイド!?」

「なんだと!?」

 

 ウォーロックが思わず画面を覗き込む。実体化したままだ。おかげで画面向こうのハイドにも目視されてしまった。

 

『そうですか。ヤエバリゾートの一軒から、もしかしたらとは思っていましたが……やはりあなたがロックマンでしたか』

 

 今の言葉で確信した。やはり五里はハイドたちと何らかのつながりがあったのだ。

 

「やっぱり、あの事件は……」 

『これで役者はそろいました。おかげで私の舞台を整える準備ができましたよ。ンフフフフ』

 

 そこでようやく思い出した。ハイドの登場に驚きすぎて忘れてしまっていた。今彼が使っているスターキャリアーは誰の物だ。

 

「委員長は!? ……委員長に何をした!?」

『マイスイートハニーの事ですか? 彼女なら私の側で眠っていますよ。可愛らしい寝顔だ。ンフフフフ』

「今どこにいる!!?」

『おお怖い怖い。良いですよ~、その顔。もっと怒ってください。あなたがやる気なればなるほど、私の舞台はより高みへと昇っていくのですから』

 

 おちょくっているのか、本気で言っているのか分からない発言だ。ただ一つ確かなのは、スバルを本気で怒らせたということだ。

 

「答えろ!!」

『良いでしょう。あなたをお招きいたします』

 

 ピロリンという着信音と共に、メールが届いた。

 

『その場所にいらしてください。お待ちしておりますよ。ンフフフフ』

 

 ブツリと回線が切られた。

 

「……スバル」

「うん!」

 

 メールを開くと地図データが展開された。ある場所が赤く点滅している。

 

「ここは……廃工場?」

「人目につかねえ場所で決着つけましょうってか? 舐めやがって!!」

 

 スバルは険しい顔をしていた。ただ点滅しているマーカーを睨み付ける。

 

「ロック……」

「なんだ?」

「僕……まだ怖い。けど、今は逃げちゃいけない。そんな気がするんだ」

「へっ、ションボリモードかと思っていたが、そうでもねえってか?」

「……」

 

 スバルは昨日の出来事を思い浮かべていた。あっという間に消えていった皆。助け出せれなかった現実。

 ペンダントを強く握り締めた。

 

「ロック!!」

「おう!!」

 

 スバルがスターキャリアーを掲げる。そこにウォーロックが入る。少しだけ躊躇ってからスバルは叫んだ。

 

「電波変換! 星河スバル オン・エア!!」




すんません。冗談抜きでフラグでした。
執筆してないです。

今やりたいことが多いので、3章以降は休載するかもです……

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