流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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三章.古代遺産
第11話.休む間もなく


 コダマタウンのバス停に着くとその場で解散となった。ルナ達と別れ、スバルは重い荷物を背負って一人帰路につく。今歩いているのは薄暗くて人気の無い道だ。一番選んではいけない道だが、スバルにとっては問題ではない。ビジライザーを下ろせば、頼もしいボディガードの姿がみえるのだから。

 

「これで旅行も終わりだな」

「うん、色々トラブル続きだったけれど、楽しかったよ。ウォーロックは何が一番印象に残ってる?」

「俺はあれだな。有名になれたことだな」

「ああ……それはよかったね……」

「お前はどうなんだ?」

「僕は……そうだね。ゴン太とアイちゃんが一番びっくりしたかな」

 

 スバルが思い出しているのはアイをデートに誘おうとしていたゴン太の姿だった。あのとき、ウォーロックが隕石レベルの発言をしたのも原因かもしれない。

 

「なんだ、羨ましいのか? そうかそうか、スバルもようやく青春を意識してきたか」

「宇宙人が何言ってるんだよ。っていうかどこで覚えたんだよ。またドラマ?」

「当たり前だろ。まあ、俺も地球人の生態を学習してるってことだ」

 

 テレビの情報だけで何を偉そうにしているのだろう。

 

「恋人ってやつがほしいんなら……ククク、委員長にでも声かけたらどうだ?」

「やめてよ、命がいくつあっても足らないって!! それに、委員長が好きなのは僕じゃなくてロックマンだからね」

 

 ルナは美人だし面倒見が良い。おまけにリーダーシップがあって賢くて運動もでき、数々の分野でトロフィーを取っているのだから非の打ち所がない。が、ちょっとどころではないほど怖い。スバルは怯える両手を横に振った。

 

「じゃあ後はミソラしかいねえな?」

「ミ、ミソラちゃんともそういう関係じゃないって!! 

「一度デートしているのにか?」

「もう! この話は終わり!!」

 

 そう怒鳴ってスバルはビジライザーを戻した。ウォーロックがスターキャリアーの中に戻る。

 

「ミソラちゃん……か。そういえば、随分会ってないな」

「それどころかメールもしてねえんじゃねえのか?」

「……そうだね」

 

 ブラザーになった直後はしていたメールもいつしかしなくなっていた。完全に途絶えたのは、確かミソラがアイドルとして復帰したころからだ。

 スバルは足を止めてある場所を見上げた。学校の裏山にある展望台だ。

 そこはスバルの憩いの場所であり、ミソラと出会った場所でもある。

 響ミソラを一言で説明すると、スバルにとって最初のブラザーだ。

 スバルが尊敬する父親……大吾が発明し、世界中で誰もが使っているブラザーバンド。だが、当時のスバルにとっては忌まわしいものでしかなかった。父親を失った悲しみのあまり、誰かと親しくなるのが怖くなってしまったからだ。

 学校にも行けなくなったスバルが、国民的人気歌手であるミソラに出会ったのは、今から数ヶ月前のことだ。風に揺れる花のように笑い、大地を照らす太陽のように明るい女の子だった。そんな彼女は、実は自分と似た境遇の持ち主で、たった一人の家族だった母親を失って悲しみに暮れていた。

 ライブに出たくないという彼女の逃亡助けてしまったり、FM星人にとりつかれ、ハープ・ノートとなった彼女を説得したりした。そんな困難を経てスバルはミソラにブラザーを申し込んだ。彼女の力になりたいという一心で。

 それがスバルにとって大きな一歩になった。学校に行けるようになり、ルナ達というブラザーも新たに作ることができた。無論、ウォーロックやルナ達の力も大きいが、最初の一歩をくれたのはミソラだった。

 だがそんな彼女は別の町に住んでいる。おまけに最近はアイドル活動で忙しいのか連絡だってとれやしない。いや、スバルのほうが遠慮してしまい、疎遠になってしまったのだ。

 スバルは月明かりに照らされている展望台を見ながら、目を細めた。

 

「また会えるよね……」

 

 スバルは歩き出した。スターキャリアーを取り出し、画面をブラウズする。ブラザー一覧にはミソラの顔写真と彼女とのキズナ力が示されている。このキズナ力が下がったことは一度も無い。スバルは少しだけ頷くとブラウズ画面を閉じた。

 歩いているうちに公園の傍にある歩道に出た。ここを過ぎれば家はすぐそこだ。

 何気なく公園の敷地内に目を移すと明かりが見えた。バトルカード専門ショップ『BIGWAVE』のものだ。南国という変わったサーファーが営んでいるコダマタウンの名物店である。

 

「南国さん、今もお仕事中なのかな」

「一人で経営してるからな。やることが多いんじゃねえか」

「大変だね」

 

 今日は特に寄る用事も無い。それより早く帰ってご飯を食べたい。そのまま通り過ぎようとする。こういう時にハプニングに巻き込まれるのがスバルという少年である。店内から悲鳴があがった。

 

「ぎょぇぇええ的なっ!!」

 

 ビクリとスバルは飛び上がった。この『的な』という変わった口癖をいう人は、二ホン全国を探してもあの人しかいないだろう。

 

「南国さん!?」

「お? 事件か? 行くぜスバル!!」

 

 ポケットの中でスターキャリアーが楽しそうに飛び跳ねる。他人の不幸を前にしてはしゃぐとは感心しないが、今は南国が心配だ。スバルは旅行の疲れも、重い荷物を持っていることも忘れて公園の中に入り、半開きになっているシャッターをくぐって店内に入った。

 

「南国さ……え!?」

 

 目に飛び込んできたのは床に倒れている南国だった。気を失っているようで、赤いサングラスの下では目が渦を巻いている。

 だが、スバルが驚いたのはそこではない。南国の傍にいる黄色いやつだ。ヘルメットにツルハシを持ったそいつは紛れもなく電波ウイルスだ。

 ウェーブロードや電脳世界でしか活動できないはずのウイルスが実体化し、現実世界で活動していたのだ。

 

「な、なんでウイルスが!?」

「スバル! あれ見ろ、あれ!!」

 

 ウォーロックが実体化し、店の端っこを指さした。そこにはマテリアルウェーブでできたサーフボードが南国と同じように目を回して横たわっていた。

 だいたい理解できた。

 サーフボードにウイルスがとりついていたのだ。それに気づかなかった南国はウイルスも一緒にマテリアライズしてしまったのである。マテリアルウェーブも電波ウイルスも結局はデータの塊だ。ウイルスがマテリアルウェーブの実体化能力をコピーしてしまったのだろう。

 

「ど、どうしよう……」

「決まってんだろ、バトルだバトル!!」

 

 ウォーロックの答えは単純だった。破壊活動をしている迷惑者がいるのなら倒すだけだ。尋ねるどころか考えるまでもないことである。

 実体化していようが、結局はウイルスである。大して怖い相手ではない。厄介なのは、数が少し多いことと、南国と店内に気を配ることぐらいだろう。

 

「さあ、スバル! リアルでバトルだぜ!!」

「はしゃがないでよ。電波変換!!」

 

 すばやくロックマンに変身し、目の前のウイルスをソードで切り裂いた。続いて、南国に近づこうとしていたやつを切り捨て、残ったウイルスに斬りかかる。ものの10秒ほで全てかたづけることができた。

 

「よし、これで終わった」

 

 剣をしまってホッと一息つく。辺りを見ると、南国にも店にも被害はないようだ。スバルにとっては満点ともいえる結果だったが、ウォーロックには退屈でしかなかったらしい。「ふああぁ」と欠伸をしている。

 

「けっ、大したことなっ……上だスバル!!」

「え?」

 

 ロックマンは慌てて天井を仰いだ。電波ウイルスが一体だけそこに張り付いていた。しまったと思ったときには、幽霊のようなウイルスが鎌を振り上げ、眼前に迫っていた。

 

「うわっ!!」

 

 とっさに手を前にかざす。腕に走る痛みを覚悟し、目をつぶる。だが、その鎌が振り下ろされることはなかった。

 

「ショックノート!!」

 

 ギターのような音が鳴った。何処からともなく飛んできた音符型のエネルギー弾がウイルスを打ち抜き、消滅させた。

 

「え……? なに?」

「おい、今のって……」

 

 一瞬何が起こったのか分からなかった。だが今の音と声には聞き覚えがある。まさかと思って店の入り口を見る。そこにはピンク色の電波人間がいた。水色のギターに白いスカーフ、間違いない。スバルは思わず頬を緩めた。

 

「ミソラちゃん!? ……じゃなくて、ハープ・ノート!!」

 

 驚くスバルに、ミソラは曇りのない空のような笑みを浮かべた。

 

「久しぶり、スバルくん」




これで2014年の更新は最後となりますね。

皆さん、良いお年を~(・▽・)ノ~~

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