流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第10話.雪と炎と

 飛び上がったイエティ・ブリザードは巨大な面積を持つ足を突き出し、急降下をしかけてきた。

 

「ビッグスタンプ!!」

 

 そんな直線的な攻撃を見きれないわけがなく、ロックマンは悠々とかわして見せた。イエティ・ブリザードが着地した場所から、大量の雪が吐き出されるように吹き飛び、壁となる。その中央に向かってロックバスターを連射した。

 

「嫌がらせして、人を傷つけて……そこまでしてホテルがほしいの!?」

「なんで俺の狙いがホテルだと知ってんだ? どこで調べたのかしらねえが、そうだぜ。それ以外に何があるってんだ?」

 

 まるで自分が何か悪いことをしているのかというような口調だった。バスターの痛みで顔を歪ませながらも、イエティ・ブリザードは右手を高く上げた。一瞬の間に直径2メートルほどの雪玉が出来上がる。

 

「ユキダマフォール!!」

 

 雪玉が投げつけられる。これも直線的な攻撃だ。いくらデカくても距離があれば充分にかわせる。大きく横に飛んで回避した。後方から太い物が無理やりへし曲げられるような、重い音が鳴った。見ると、数本の木がボーリングのピンのように弾き飛ばされていた。ロックマンは距離を保ちながら、バトルカードのマッドバルカンを連射する。

 

「たった……たったそれだけのためにゴン太とアイちゃんを傷つけたっていうの!?」

「ゴン太? 誰だそりゃ? そこにいる太ったガキのことか?」

 

 

 ロックマンはギッと歯を食いしばった。五里がゴン太の名前を知らないことは当然のことだろう。それでも込み上げてくるものがあった。今までにない、黒い感情が胸の中で毒を吐いた。

 

「お前は……お前だけは絶対に許さない!!」

「あ~あ~、いるんだよな~、お前みたいな正義の味方気取りのガキ。鬱陶しいんだよっ!!」

 

 イエティ・ブリザードが腕を前に付きだし、盾代わりにして距離を詰めてくる。どうやら拳で接近戦をご所望らしい。

 投げつけられてきたユキダマフォールを、ロックマンは左手をヒートアッパーにして横なぎに打ち砕いた。

 

「ロック!!」

「おう、やってやれ!!」

 

 ウォーロックの頷きに背中を押され、スバルは目前に迫っていた敵に飛び込んだ。拳がぶつかり合う。

 体格差が結果に出た。ロックマンは重い一撃を受けて後退した。大ぶりの一撃がスバルの思惑通りに振り下ろされる。殴り合うふりをして、とっさに姿勢を低くする。頭上に掲げたヒートアッパーの上をイエティ・ブリザードの拳が火花を上げて滑っていく。その間に、右手もヒートアッパーに変え、相手の腹を打ち上げた。イエティ・ブリザードの目と口が限界にまで開かれ、体を大きく曲げる。

 頭に血を上らせたのか、イエティ・ブリザードは懐に潜ったロックマンめがけて拳を振り下ろそうとする。それを片手でいなして、足にフックを叩きつける。頭上から聞こえてくる悶絶を聞き流しながら、ロックマンはエレキソードを召喚して腹を斬りつける。再び悲鳴が上がった。

 

「五里、距離をとれ!!」

 

 イエティの指示に、五里はとっさに後ろに跳び下がった。ロックマンの剣が空を切る。すかさずマッドバルカンに変えて追撃をしかけた。

 

「俺に命令してんじゃねえよ、イエティ!! 舐めやがって!!」

 

 助言をくれた相手に感謝するどころか、口汚い文句を言いながらイエティ・ブリザードは両手を頭上に掲げた。先ほどのものよりは小さい、数個の雪玉が召喚される。

 

「ユキダマラッシュ!!」

 

 ユキダマフォールを大砲と例えると、今度はショットガンだった。数個のユキダマがロックマンに襲い掛かってくる。一発一発の威力は低そうだが、範囲が広い。避けるのは困難と判断し、ウォーロックのシールドで防いだ。

 

「その程度の攻撃じゃ俺のシールドは破れねえぜ?」

 

 ウォーロックのうまい挑発だ。頭に血を上らせたイエティ・ブリザードはやけになって無駄な攻撃を続ける。ロックマンはシールドで防ぎながらマッドバルカンで確実にダメージを与えていく。相手を追い詰めていく。

 この間にもロックマンは思考を巡らせた。この攻撃を防ぐことはできるが、いまいち身動きが取れない。絶え間なくシールドをたたいてくる雪玉が厄介だった。

 この膠着状態を維持して相手の疲れを待つのが上策だろう。だが、それはゴン太とアイが居なければの話だ。早く2人をホテルに連れて帰りたい。ちらりと後ろを窺ってしまった。

 愚かな行為だったと一瞬後に気づいた。バルカン砲をうけて苦渋に歪められていたはずのイエティがにやりと笑ったのだ。汚い犬歯が獰猛に光った。

 巨大な両手がゆっくりと胸の前に移動する。最後の雪玉がシールドに当たって砕け散った。今なら動ける。なのに、体が動いてくれない。勝利を確信したかのような、不気味な相手の動きを、ただ目で追うことしかできなかった。

 

「ナダレダイコ!!」

 

 イエティ・ブリザードが胸をたたいた。右左と交互に何度も叩きつける。大地が動いた。雪と音が踊るように跳ね回り、段々と大きくなっていく。

 そしてそれらは一つに合わさり、大自然の驚異となってロックマンに襲い掛かった。雪の大津波……雪崩だ。

 

「まずいぞスバル!!」

「ゴン太! アイちゃん!」

 

 枷が外れたかのように、ロックマンは飛び出した。ゴン太を抱きかかえ、アイの傍に移動する。二人を真後ろに置いて、迫りくる雪崩に向かってバトルカードを使った。

 

「バトルカード ダブルストーン! バリア!」

 

 ロックマンよりも一回り大きい2つの岩が前方に出現する。それが防壁となって雪崩の勢いを弱めた。だが、それですべて防ぎきれるわけがない。雪崩は岩の合間を抜けて牙を向けてくる。それから2人を守るため、球状のバリアで自分ごと包み込んだ。

 ロックマンが考えられる限りの防御策。それでも充分とは言えなかった。

 弱まっているはずの雪崩の威力はすさまじく、バリアがバリバリと悲鳴を上げる。いつ破られてもおかしくはないだろう。雪崩は弱まるどころか、やむ気配すら見えない。むしろ強まってくる。イエティ・ブリザードはこのまま全ての力を出しきってしまうつもりなのだろう。

 

「どうした、正義の味方気取り様よ? さっきまでの勢いはどこに行った!? グワハハハ!!」

 

 ロックマンは歯を食いしばった。今すぐにでも高笑いしている顔を殴りつけてやりたかった。

 だが、この状況をどうやって打開できるというのか。ゴン太とアイを見殺しにすれば勝つ手段はいくらでもあるだろう。そんなものに意味はない。

 

「スバル……」

「分かってるよ。ゴン太……アイちゃん……待ってて! 僕が必ず……君たちを守るから!!」

 

 できるできないではない。ただ己のなしたいことを言い聞かせるように、ロックマンは力の限りに叫んだ

 ふと、ロックマンは背中が暖かくなっていることに気づいた。いや、熱い。まるでストーブを真横に置かれたような熱さだ。

 

「……なに?」

「スバル、後ろだ……」

「え?」

 

 振り返るとロックマンは今の状況を忘れてしまった。それだけの事態が背後で起きていたのだ。

 ロックマンの真後ろでは炎が燃え上がっていた。その中心にいるのはゴン太だ。燃えているのではない、彼の体から炎が噴き出しているのだ。そして、彼に重なるようにして赤い牛の姿があった。

 

「お前は……オックス!?」

 

 以前、ゴン太にとりついた牡牛座のFM星人、オックスだった。ウォーロックはかつての同僚であり、敵となった彼の姿を見て警戒心を強めた。

 ウォーロックの言葉にオックスが反応することはなかった。魂でも抜き取られたかのように、ただその場で佇んでいる。

 ピクリとゴン太の指が動いた。手と足が動き出す。スバルとウォーロックが息をのむ中、ゴン太がゆっくりと立ち上がった。彼の目は虚ろで何も映してはいない。だが、その視線の先には横たわっているアイがいた。

 

「アイちゃんは俺が……」

 

 オックスが動いた。ロックマンが気づいたときにはすでに遅く、オックスはゴン太の中に取り込まれていた。

 ゴン太の体が内側からビクリと跳ねる。二度、三度と繰り返し、段々と大きくなっていく。バリア内の温度もより上がっていく。ロックマンがまずいと思ったときには、ゴン太の体が赤く光った。

 

「俺が守る!!」

 

 内側からバリアが破られた。業火が立ち上がり、ナダレダイコをかきけす。アイを庇ったロックマンはそこから離れたところに直地した。イエティ・ブリザードも呆気にとられたようで動きを止めていた。

 業火の中心にいたのは、以前倒したはずのオックス・ファイアだった。

 

「ブロオオオオオ!!」

 

 2メートルを超える巨体がイエティ・ブリザードに向かって直進していった。

 オックス・ファイアの大ぶりの拳が呆けているイエティ・ブリザードの顔面を打ち砕いた。ゴキリと気持ちのいい大きな音が鳴る。ようやく我に返ったイエティ・ブリザードがオックス・ファイアを殴りつけた。2つの巨体が雪上でぶつかり合い、拳を打ち付け会うたびに炎が辺りに舞う。

 

「ど、どういうこと!?」

 

 突然の異常事態にスバルは混乱を隠し切れなかった。それでも、今も気を失っているアイを木陰の後ろに隠れさせることは忘れなかった。

 

「オックスの残留電波だ……まだゴン太の中に残ってやがったんだ。ゴン太のやつ、感情を高ぶらせて呼び覚ましちまいやがったみてえだな」

 

 なぜ目覚めたのかは尋ねなかった。そんなこと訊かなくても分かる。答えはロックマンの隣にいるのだから。

 意表を突かれたイエティ・ブリザードはオックス・ファイアに追い詰められていた。とりあえず体勢を立て直そうと、慌てて距離をとる。それはオックス・ファイアの得意な間合いだ。角がついた頭を前方に突き出し、オックス・ファイアはトラックのような突進をしかけた。

 

「ユキダマフォール!!」

 

 ゼエゼエと荒い息を上げながらイエティ・ブリザードが雪の大砲を打ち込む。もちろん全力でアクセルを踏んでいるオックス・ファイアが避けることなどない。巨大な雪玉を正面から、しかも頭で受けてしまった。火と水の属性相性もあって、相当量のダメージを受けたはずだ。それでも突進は収まらない。

 焦ったイエティ・ブリザードは大量の雪玉を投げつけるユキダマラッシュに変えて迎え撃つ。雪玉は頭だけでなく、腕や足に当たって鈍い音を鳴らす。それを笑い飛ばすかのように、オックス・ファイアは全身に豪炎を纏って速度を上げた。

 こんな直線的な攻撃は避ければいい。頭では分かっているのに、なぜか五里の足は動かない。

 

「く、来るんじゃねえぇっ!!」

 

 五里の純粋な悲鳴を突き破り、オックス・ファイアの巨体がイエティ・ブリザードの全身を砕いた。鈍重な破壊音はイエティ・ブリザードの悶絶する声をかき消した。

 ここがオックス・ファイアは限界だったらしい。やはり雪玉のダメージが大きかったのか、電波変換が解けた。オックスの体が粒子となって溶けていき、イエティ・ブリザードの足元にゴン太が横たわった。

 

「……こ……こ、の……クッソガキがああぁああ!!!」

 

 イエティ・ブリザードはぷるぷると振るわせながら腕を振り上げる。その顔面を黄色い光が射した。

 

「ホタルゲリ!!」

 

 ロックマンはイエティ・ブリザードを力の限りに蹴飛ばした。ゴン太を汚いゴリラから遠ざける。

 ロックマンは尻餅をついたままのイエティ・ブリザードに詰め寄る。もう相手に戦う力は残っていないようで、反撃どころか立ち上がろうとする気力すらないようだった。元々ロックマン相手に苦戦し、ナダレダイコで力を大量に消耗し、オックス・ファイアの突進で大ダメージを受けたのだ。当然のことだろう。

 

「プラスキャノン」

 

 ロックマンは左手をバズーカ砲に変える。とどめを刺すつもりだ。

 

「お、おい待てよ。正義のヒーロー様は無抵抗の奴を攻撃するのか?」

 

 何と早い変わり身だろう。さんざん悪事をしておきながら被害者気取りらしい。ロックマンは目を細めてイエティ・ブリザードの怯えた顔に銃口を向ける。

 その時、イエティ・ブリザードの体が紫色の光を放った。光の中から出てきたのは、人間に戻った五里だった。少し離れたところでは、イエティが黒いスターキャリアーを持って一目散に逃げようとしていた。ロックマンは正確無比な射撃でその背中を撃ちぬいた。

 イエティの体が崩壊し、電波粒子となって空に溶けていく。その先で雲が晴れていく。イエティが消滅したことにより、天候制御装置が回復したのだ。

 

「終わったね」

「ああ、行こうぜ」

 

 ロックマンはゴン太を抱え、木陰に避難させていたアイを抱き上げる。2人とも気絶しているが、抱えたまま下山することは問題では無いだろう。

 

「お……おい! お、俺は置いていくのか!!?」

 

 五里が何か叫んでいるが、スバルもウォーロックも振り返ることすらしなかった。この後、五里が駆けつけたサテラポリスに連行されていったのは言うまでもない。

 

 

 その日の夕方、ヤエバリゾートは騒然としていた。状況はTKタワーの時と似ていた。駆けつけたサテラポリスがホテル関係者と観光客たちに事情聴取をしているのだ。マスコミは相変わらずうるさい。

 そんな騒ぎから遠く離れたスイートルームのフカフカベッドの上で、スバルは横たわっていた。顔にはげんなりとした暗い影がかかっており、この世の終わりといった目で萎れていた。

 

「あら、どうしたのスバル君? あなたはこのホテルを悪党から守ったヒーローなのよ。自分のしたことにもっと誇りを持ちなさい」

 

 ルナがふんぞり返り、隣ではキザマロがうんうんと頷いている。このい2人の物言いに、スバルはどうしても納得できなかった。しぼんだ風船のようになった心で、体中に鉛を埋め込まれたかのような体を必死に起こした。

 

「誰のせいで僕が落ち込んでると思ってるの?」

 

 下山すると大勢の人がロックマンを歓声で迎えた。まさかと思うと、またしてもルナとキザマロだった。「あれがロックマン様ですわ!!」「噂のヒーローです!!」「正義の味方よ!!」と、好き放題にロックマンのことを宣伝していたのだ。

 ただでさえテレビを通じて有名になってしまったばかりだ。こんな短期間で話題が持ち上がってしまったとなれば、どうなるかは目に見えている。

 

「まったく、ま~た有名になっちまったな、スバル」

 

 スバルとは正反対に、ウォーロックはご満悦だった。周りに花でも咲かせそうなほど明る笑みを浮かべている。陽気な音楽を流したら慣れないダンスでも披露してくれそうなほどだ。

 

「嬉しそうだね、ロック……」

 

 スバルは全てに絶望した顔を枕に埋めた。もしかしたら泣いているのかもしれない。そんなスバルにルナはさらに言葉を浴びせる。

 

「もう、友達2人の命を救えたんだからいいじゃない」

 

 スバルは何も答えなかった。数秒後にゴロンと仰向けになる。

 

「うん……今回はそれでいいかな……」

 

 少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

 翌日、スバル達は一日中スキーを満喫した。途中、アイが練習の息抜きにとやってきて少しだけ一緒に滑ったのは大切な思い出だ。ゴン太とアイをわざと2人きりにして、ブラザーバンドを結ぶ様子を覗き見したことも含めて。

 そんな楽しい時間も夕方で終わりが来る。バスから大量に降りてくる観光客たちを尻目に、スバル達は滑田親子とお別れの挨拶をしていた。

 

「どうもありがとうございました」

「いやいや、お礼はこっちが言いたいくらいだよ。アイが最高の友達に出会えたからね。本当にありがとう」

 

 スバルは首を横に振った。

 

「それは僕たちも同じです。ねえ、ゴン太」

「お、おう!!」

 

 ゴン太はぶんぶんと首を縦に振る。アイはクスクスと笑っていた。

 

「皆、また来てね?」

「君たちならいつでも歓迎するよ」

「はい、ありがとうございます!!」

「お世話になりました」

 

 ルナの言葉でスバル達は頭を下げ、帰りのバスに乗り込んだ。バスが出発してからも、スバル達は滑田親子に手を振り返し続けた。

 

 

 その様子を見守っている者がいた。スキー場の一角にある立ち入り禁止区域。そこの崖に一人の少年がいた。白い髪と褐色肌が特徴的だ。彼はバスに乗り込むスバルとその隣にいるウォーロックを、氷のような赤い目で見下ろしていた。

 

「……なんのようだ?」

 

 背後から近付いてきていた気配が足を止めた。

 

「これで分かりましたか? 五里のような弱い人間ですらあれほどの力を手に入れられる。これがムーの電波体の力です。我々はまだ何体かそれを手に入れています。それだけの力と情報力があると言う事です」

 

 そこで言葉を区切り、ハイドは意味もなく帽子の角度を変えた。

 

「我々の組織に加わるということは、あなたにとっても有益だと分かったはずです。さあ、ソロ! 今こそオリヒメ様に忠誠を誓いなさい!! 我々の手で、理想の世界を築くのです!!」

 

 声高らかに語るハイド。だが、ソロと呼ばれた少年は振り返りもしなかった。

 

「……聞いていますか? ソ……っ!?」

 

 冷たい感覚がハイドの言葉を止めた。言葉だけでなく、指ひとつ動かすことも、呼吸ひとつすることもできなかった。それだけで命を落とす気がしたから。まるで心臓に氷のナイフを当てられているかのような感覚だった。

 

「勘違いするな」

 

 ブルブルと震える、焦点がぶれたハイドの目。それは奇妙な動きをして下に向けられる。ソロが懐に潜り込んでいた。己でもわかるほど心音が縮まり、冷たい汗が頬を伝う。

 

「俺は一人だ。誰とも組まない」

 

 ソロの両目にハイドが映った。冷たくて赤い炎を宿した瞳。今、自分の命はこの少年が握っているのだと改めて思い知らされる。ハイドの呼吸が乱れていく。

 

「……これだけは言っておく。俺の邪魔はするな。それと、オーパーツの情報が入れば、真っ先に知らせろ」

 

 それだけ言うと、ソロはハイドの脇を静かに通り抜けて行った。ソロの気配がなくなるまで、ハイドはそこから一歩も動けなかった。ようやく生きた心地がして、どっと膝から崩れ落ちる。震える肩を押さえつける。雪山の風が暖かく感じられた。

 

「お、おのれ……あのガキ……私を馬鹿にしおって……」

 

 ハイドは拳を握ると、雪の地面を殴りつけた。


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