流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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 この作品はゲーム、流星のロックマン2のストーリーを小説化したものです。
 前作、『流星のロックマン Arrange The Original』の流れを組んでいます。

 ゲーム未プレイの方や、前作を読んでいない方にも分かるように配慮していますが、前作を読むことをお勧めします。

 では、どうぞご覧ください。


一章.不穏な足音
第1話.少年とヒーロー


 万を超える人々が集まった会場。その外れに設けられた特別席。ソファーのように柔らかい椅子を放り出すようにして少年は飛び出した。10歳に満たない小さい体を前へと進ませ、窓に顔をくっつけて外を窺う。見えるのは腕を振り上げ、垂れ幕を掲げる大衆。フラッシュやカメラを回す者たちもいる。分厚く、強固な窓ガラスを突き破ってくるほどの歓声が少年をビリビリと震わせる。

 音と光の嵐の中、悠然と歩みゆく者たちがいた。白い宇宙服に身を包み、片手にヘルメットを持った彼らは、塔のように巨大なロケットの入り口で立ち止まった。横一列に並び、大衆に自分たちの顔を見せる。その中の中央にいる人物、この船の船長が前へと進み出た。左手を掲げ、曇りのない笑みで歓声に応えてみせる。

 特別席にいる少年は目を輝かせ、船長を指さしながら無邪気に声を張り上げる。母親が少年の横に立ち、肩にそっと手を置いた。

 船長がこちらを見上げた。目が合う。少年は兎のようにピョンピョンと飛び跳ね、父親に自分の姿をせいいっぱいに見せつける。大衆に向けられていた船長の手は、その時だけ息子のために振られた。少年は声を張り上げ、父に呼びかけた。たぶん聞こえてはいないだろう。だが、父はニッと歯を光らせて答えてくれた。

 

 こうして、父親は宇宙へと旅立って行った。そして、帰ってこなかった。

 

 

 放送が終わったことに気づいたのは、次の番組が始まったころだった。どうやら、3年前の思い出に浸ってしまっていたらしい。父親たちを扱った特集番組を見ていたのだから、当然のことかもしれない。少年はゆっくりと立ち上がって伸びをしながら、誰もいない隣に向かって話しかけた。

 

「やっぱり、父さんはかっこいいよね!!」

 

 少年の明るい問いかけに答えが返ってくるわけがない。だが、何もない空間から声が返ってきた。

 

「そうだな、あいつはいつだって前向きだったぜ。お前と違ってな、スバル」

「一言余計だよ」

 

 スバルと呼ばれた少年が口を尖らせると、彼の隣に青い影が浮かび始めた。装甲を纏った獣のような奴が空中に浮かんでいた。

 

「ククク……まあ、ついこの間まで引きこもっていたころに比べりゃ、ましになったな」

「まあ、あれはね」

 

 スバルは相棒のからかいに軽く笑って見せた。

 彼の名は星河スバル。どこにでもいる小学五年生の男の子だ。

 そして青い獣の名前はウォーロック。電波の体を持った宇宙人だ。

 

「さてと、そろそろ時間だから行こうか。ロック?」

「おう」

 

 スバルがポケットから携帯端末のスターキャリアーを取り出すと、ウォーロックは青い光になってその中へと入っていった。

 部屋を出る前に、一度鏡に自分の姿を映す。赤い長袖シャツに、紺色のハーフパンツ。腰に巻いたポシェット。いつものお気に入りの服装だ。残念ながら茶色い髪は今日も鶏冠のような形をしている。だが、額にかけた白いサングラスが逆に良い味を出してくれている。最後に、流星型のペンダントがちゃんと胸元にあることを確かめる。サングラスとペンダント……父から受け継いだ大切なものは、ちゃんと身につけている。

 

「よし!!」

 

 部屋を出て階段を降りるとそこはリビングだ。母親のあかねが台所で何かを作っているところだった。おそらく、夜ご飯の準備をしているのだろう。

 

「出かけるの?」

「うん、行ってきます」

「気をつけるのよ」

「はーい!」

 

 スバルは赤いブーツを履くとドアを軽く開いて出かけていった。彼の後姿を見送ると、あかねはゆっくりとした足取りでテレビの下にある家族写真を手に取った。そこには3年前の自分と、まだ8歳だったスバル。そしてあの頃は側に居てくれるのが当たり前だった夫の姿があった。

 

「大吾さん……あの子、本当に明るくなったわ」

 

 写真の中の大吾は応えない。だが、妻と息子を抱き寄せている彼はあかねに笑いかけてくれているようだった。

 

「待っていますからね。スバルと一緒に、いつまでも」

 

 写真立てを戻すと、あかねは鼻歌を歌いながらパートに行く準備を始めた。

 

 

 スバルが向かった場所はバス停だった。家からそれほど離れていないので、時間はかからなかった。すぐ近くにはコダマ小学校の正門と、憩いの場所である展望台へと続く階段があるが、今日は行く時間はなさそうだ。

 バスの時間を確かめようとして、電光掲示板を見る。そこで、字が乱れていることに気づいた。斜めにへし曲げられてしまったかのようにつぶれてしまい、とても読み取れそうにない。

 

「これって……」

「スバル、ビジライザーをかけてみろ」

「電波世界で何か起きているんだね? 分かったよ」

 

 スターキャリアーの中にいるウォーロックが言った。スバルはもしかしてと思いながら、額のサングラスをおろした。スバルの世界が緑色に染められ、空に浮かぶオレンジ色の 電波の道(ウェーブロード)が見えるようになった。そして掲示板の隣にいるやつも。

 黒い球体に黄色いヘルメットと足の甲がついただけの小柄な生き物のような存在だ。はたから見れば化け物とも見えるそれを見ても、スバルが驚くことはなかった。

 

「やっぱり、電波ウイルスの仕業か」

「おい、スバル! ウイルスがいるんだ。早く電波変換しやがれ!!」

「また暴れたいの? しょうがないな~」

 

 そう言っている間に、電波ウイルスは電光掲示板の中に、溶けるように入っていってしまった。スバルは周りに人がいないことを確認すると、スターキャリアーを頭上に掲げた。

 

「電波変換!! 星河スバル オン・エア!!」

 

 スバルが言葉を唱えると、スターキャリアーから青い光が生み出された。ウォーロックの体から放たれた電波粒子だ。スバルの体を包み込むと、一瞬後にははじけ飛び、大きく変化したスバルの姿があらわになった。

 赤かった服装の面影はどこにもなく、代わりに黒いスーツを身に纏っていた。両足と右手には青い装甲がついており、ヘッドギアには赤いバイザーが取り付けられている。そして左手の先にはウォーロックの顔がついていた。日常とはかけ離れた出で立ちだ。

 

「早く中にいるウイルスを追おうぜ!!」

「はいはい」

 

 左手のウォーロックは興奮した様子でスバルを急かす。スバルはやれやれと肩をすくめながらも電光掲示板にふれた。

 

「ウェーブイン」

 

 スバルの体が青い光の塊に変わり、先ほどのウイルスと同じように掲示板の中へと入っていった。

 視界が黒に染まったと思った直後、スバルは別の世界に降りていた。地面は紫色で、緑色の空には赤や青のリングが生まれては消えていく。ここは機械の中に生まれる電脳世界と呼ばれる場所だ。

 その世界の端っこに先ほどの電波ウイルスがいた。だが、そいつだけではない。他にも、火を纏った人形のような奴や、ミイラのような奴などがいる。姿かたちは違えど、電子機器を狂わせる危険なウイルスだ。

 

「よっしゃ、やるぜスバル!!」

「分かったよ、ロック」

 

 スバルは左手の先についているウォーロックの頭を、ウイルスの群れの先頭にいるやつに向けた。

 

「ロックバスター!!」

 

 ウォーロックの口から、凝縮された緑色のエネルギー弾が放たれた。先頭にいたウイルスはそれに飲み込まれ肉体を崩壊させる。ウイルスの群れがこちらに気づいた。一体のウイルスが手に持っている剣で斬りかかってくる。

 

「バトルカード ソード!!」

 

 スバルが叫ぶと、ウォーロックの顔が形を変え、一本の剣へと生まれ変わる。ウイルスの攻撃を軽くいなすと、真っ二つに切り裂いた。続けて飛んできた砲弾をかわし、剣の切っ先を向ける。

 

「バトルカード キャノン!!」

 

 剣が四角い大砲に変わり、放たれた砲弾がウイルスを吹き飛ばした。四方からウイルスたちが飛びかかってくる。

 

「ガンガン行くぜ!!」

「分かってるよ!!」

 

 敵の群れに囲まれながら、スバルとウォーロックは生き生きとした戦いを繰り広げていった。

 

 これが星河スバルの影の姿だ。ウォーロックと融合することで電波人間に変身できるのである。

 この姿を知る一部の人間は、彼のことをこう呼ぶ。

 

 青いヒーロー、ロックマン……と。




 初めまして、作者の悲傷と申します。
 前作を読んでくださった方はお久しぶりです。すいません、前作から三か月以上時間があいちゃった。

 このたび、流星のロックマン2の小説を書かせていただきます。この公開に至るまでに色々と心が折れたので、ものすごい亀更新になると思います。それでも頑張って書いていく予定なので、ご声援をどうぞよろしくお願いします。

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