異世界戦記   作:日本武尊

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第六十八話 ゲルマニア公国

 

 

 

 

 翌日。

 

 

 

 

 青く透き通った上空を太陽の光で反射して銀色に鈍く輝いている戦略爆撃機『B-29』と護衛のP-51マスタング6機が2機の戦闘機の誘導を受けてある場所を目指していた。

 

 先頭を飛行して編隊を誘導しているのは『FW190』と呼ばれる戦闘機で、胴体や翼の両端には黒い円の中に白い縁のある黒の×印の描かれた国籍識別マークが描かれていた。

 それが『ゲルマニア公国』の空軍所属の戦闘機である事を表していた。

 

 リベリアン合衆国から飛び立ったB-29は弘樹とトーマスを乗せて、ゲルマニア公国を目指していた。目的はスミオネ共和国を交えて扶桑国の同盟軍への加入と今後の戦略会議である。

 いくつもの飛行場を経由して海を越え、ゲルマニア公国の領空へと入るとゲルマニア空軍のFW190が現れ、向こうの確認が取れて飛行場へと誘導されている。

 

 

 しばらくして飛行場が見えてきてFW190は上昇し、B-29は着陸の為車輪を出して失速しない程度にエンジンの出力を絞って高度を下げていく。

 そしてB-29は滑走路へと着陸し、ゆっくりとその巨体を滑走路に止める。

 

 その後P-51とFW190も周囲を警戒した後、順番に滑走路へと着陸しいった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 B-29からタラップが下ろされて扉が開くと、弘樹とトーマスが出てくる。

 

「それにしても、戦略爆撃機で他国へ訪問するとか、普通ありえんだろ」

 

 制帽を被りながら弘樹は呆れながらトーマスに問い掛ける。

 

「万が一に備えてだよ。こいつなら、ある程度は対応できるからな」

 

「分からんでもないが、別に他のやつでもよかっただろ。B-24辺りでも」

 

「それも万が一に備えてだよ」

 

「全く。相変わらずやる事が派手だな」

 

「いやーそれほどでも」

 

「褒めてない褒めてない」

 

 弘樹はため息を付く。

 

 

 タラップを伝って降りると、一台の車が停車して扉から軍服に身を包む男性が出てくる。

 

「お待ちしていました、アルフレッド大統領。そしてあなたが扶桑国の?」

 

「あぁそうだ。扶桑国総理兼陸海空軍総司令官の西条だ」

 

「総統よりお話しは聞いています。ではこちらに。総統が官邸にてお待ちしております」

 

 男性は車の後部座席の扉を開けて弘樹とトーマスを席に勧める。

 

 二人が席に座ると扉を閉めて運転席に戻り、扉を閉めてから車を走らせた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 車は飛行場から街中を走っていき、大きな建物の前に止まる。

 

「着きました。総統が居られる総統官邸です」

 

 男性が扉を開けて弘樹とトーマスに目の前の建物の名前を口にする。

 

「ここがそうか」

 

「あぁ。ここに来るのは前の戦略会議以来だな」

 

 二人は総統官邸を見ながらそう話す。

 

「で、あいつはあんまり変わりは無いのか?」

 

「そうだな。あの時と対して変わってないな」

 

「そうか」

 

 

「では、案内します」

 

 男性は二人を総統官邸へと入れる。

 

 

 

「そういえば、スミオネの方も今日来るんだろ?」

 

「あぁ。正式に扶桑国が同盟軍に加入した事を締結するのと、現在の戦況確認と今後の戦力配備についての会議をお前を交えてする予定だそうだ」

 

 廊下を歩いている中で弘樹とトーマスの二人は会話を交わす。

 

「そうか。と言うか、来れるのか? 向こうはかなりドンパチしているって言ってなかったか?」

 

「まぁそうなんだが、それはあくまでも国境周辺での話だ。スミオネは地の利を生かしてロヴィエア連邦軍を防いでいるんだ。だから意外と本国は平穏だそうだ」

 

「そうなのか」

 

「あぁ。それと国境周辺の戦地を写した写真を見てみたが、色んな所の武器兵器が入り混じっていて中々カオスだったぜ」

 

「それでよく補給に苦労しないな」

 

「レンドリースと国産、鹵獲を使用する部隊を分けて使っているらしい。だから意外と補給に苦労しないようだ」

 

「鹵獲品を使っている部隊は大変だな。補給は必ず敵からの現地調達になるからな」

 

「まぁさすがにそれじゃ不安定だからな。他の部隊にも拾ってきてもらっているらしい」

 

「そりゃそうだろうな」

 

 

「到着しました。こちらが総統の執務室です」

 

 二人が話していると男性は扉の前に止まる。

 

「総統。リベリアン合衆国の大統領と扶桑国の総理をお連れしました」

 

『入れ』

 

 扉をノックして二人を連れてきたのを伝えると中から女性の声がして男性は扉を開ける。

 

「では、どうぞ」

 

 そう言われて二人は執務室に入ると、執務机の向こうにある椅子は窓の方を向いており、誰かが座っていた。

 

「ごくろうだった。お前は下がっていいぞ」

 

「ハッ!」

 

 男性は姿勢を正して敬礼すると扉を閉める。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……こうして直接顔を合わせて話すのは、初めてだな」

 

 と、椅子が後ろを振り返ると、一人の女性が姿を見せる。

 

「私がゲルマニア公国の最高指導者たる総統……『アリア・ヴィルヘイム』だ」

 

 女性ことアリアは立ち上がりながら自身の名前を告げる。

 

「久しぶりだな、西条弘樹」

 

「あぁ。久しぶりだな、アリア」

 

 お互いに再会の言葉を掛けて弘樹は彼女の姿を見る。

 

 腰まで伸びた紅いロングヘアーの一部を三つ編みの様にして編んで左側に垂らしており、若干垂れ目気味な眼の瞳の色は透き通ったルビーのような色をしていた。

 背は女性としては高く、身体つきは出ている所は出て引っ込んでいる所は引っ込んでいるとバランスのいいスタイルをしており、モデルと言っても違和感は無い。

 服装は軍服風のデザインの黒いスーツを身に付けており、両手には白い手袋を付けている。

 

「来て貰って早々に悪いが、隣の部屋に移動して状況の確認をしよう」

 

「いいのか? スミオネのやつを待たなくても」

 

「西条に現状を説明して戦力配分を話し合わなければならない。今は一時の時間が惜しいからな」

 

「それはそうだが」

 

「まぁ、やつには途中からでも構わないだろう」

 

「いいのか、それで」

 

 弘樹が呆れながらも隣の部屋を開けたアリアに付いて行くと、そこには大きなテーブルが部屋の中央に設置されてその上に地図が広げられ、壁にも地図が張られている。

 

 

 

「では、現状を説明する。現在我がゲルマニア公国とリベリアン合衆国、スミオネ共和国とその他多数の同盟軍はロヴィエア連邦軍を中心とする連合軍とこの大陸で大規模な戦闘を行っている。

 現時点ではこの4箇所が主な交戦地域となっている」

 

 アリアはテーブルに広がる地図に描かれている森林や砂漠、雪原、平原を指揮棒で指しながら説明する。

 

「現在砂漠の方……ガラバ砂漠にはロヴィエア連邦軍の他にブリタニア帝国軍が陣取っている。そこを奪還すべくリベリアンと共同で攻めているが、一進一退を繰り返している」

 

「ブリタニアか。一進一退を繰り返しているって事は、戦力は強力なのか?」

 

「あぁ。量では劣っているが、質は高い。投入されている戦車はどれもセンチュリオンだ。それも戦後で生産された型だ」

 

「センチュリオンか。ちょっと厳しいか」

 

 戦後の生産型となると砲は20ポンド砲を使っている可能性がある。下手すると74式戦車も食われるかもしれんな。

 

「他にもセンチュリオンを大きくしたような戦車が確認されている。向こうは主力戦車の開発に本腰を入れていると思っていいだろう。最もそれはロヴィエアにも言えた事だが」

 

「……」

 

「だが、砂漠で最も警戒すべきは、ヴェネツェア王国軍だ」

 

「ヴェネツェア王国が?」

 

「あぁ」

 

「何でだ?」

 

「情報によればヴェネツェア王国へブリタニア帝国が攻撃を仕掛けたそうだが、ほぼ毎回帝国側が壊滅的打撃を受けて撤退をしているそうだ」

 

「……ヴェネツェアもお前達とほぼ同じぐらいに来たのなら、兵器技術的にブリタニアの戦車部隊を壊滅できるとは思えんが?」

 

「我々と同じならば、な」

 

「……?」

 

「だが、やつらの所は事情が違う」

 

「どういう事だ?」

 

「そういやまだ言ってなかったな」

 

 さっきまで黙っていたトーマスが口を開く。

 

「ヴェネツェア王国の兵器技術は……もう現代レベルだからな」

 

「何だって?」

 

 衝撃の事実に弘樹は驚きを隠せなかった。

 

「戦車は既にアリエテを配備しているし、海軍も艦艇は新旧入り混じっているが、大半は新鋭の物ばかりだそうだ。

 オマケに空母も新旧含めて多くを配備している。質量共に侮れん」

 

「……」

 

「なぜかは分からんが、扶桑とヴェネツェアだけは俺達より先にこの世界に来ているみたいだ。最も、ヴェネツェアの方が一足先に来ていたようだがな」

 

「……」

 

「幸い向こうはあくまでも中立の立場を取るようだ。だが、自分の領土に攻めてくるのならそれを迎え撃っているがな」

 

「つまり、攻撃しなければ向こうはこちらに関わる気は無いと言うわけか」

 

「そうだ。だから、同盟軍としてはヴェネツェアはしばらく放って置いても構わないだろう」

 

「……」

 

「話を戻そう」

 

 アリアは指揮棒を置くと、兵士が持ってきたコーヒーの入ったカップをソーサーごと持ち、カップの取っ手に指を掛けて持ち上げて一口飲む。

 

「西条の扶桑国には、この森林……バロッサ森林にて行われている戦闘に戦力を送ってもらいたい」

 

「戦況は不利なのか?」

 

「どちらかと言えば、不利だな。ここは最近戦闘が発生した場所で、こちらの戦力が整う前に向こうは多くの戦力を送り込んできた。何とか質で対抗しているが、耐えられるも時間の問題だ」

 

「こっちも戦力は送っているが、他に戦力を送っているとあって数は少ない」

 

「それで不足分を俺の所で補うと」

 

「そういうことだ」

 

「分かった。それで、どのくらいの戦力がいる?」

 

「そうだな。少なくとも機甲師団を2個、いや、3個師団は必要だ」

 

「3個師団か」

 

 弘樹は顎に手を当てて考える。

 

「無理か?」

 

「いや、可能だ。今回連れて来た陸軍の機甲師団の編成が完了次第送り込む」

 

「助かる」

 

「だが、他の戦場はいいのか? バロッサ森林に戦力を送り込むと、他にまわす余裕は無いぞ」

 

「構わん。他の戦場はリベリアンと共に戦力が充実しているからな。今の問題はそのバロッサ森林だけだ」

 

「そうか」

 

「で、次に雪原だが――――」

 

 

 すると扉からノックする音がする。

 

『失礼します、総統。スミオネ共和国の首相をお連れしました』

 

「そうか。入れ」

 

 彼女がソーサーごとカップをテーブルに置いて入室を許可すると、扉が開く。

 

「悪い。ちょっとゴタゴタして立て込んでいたから遅れちまった」

 

「構わん。先に始めさせてもらっている」

 

 入ってきた男性は申し訳なさそうに言いながら入室し、アリアは素っ気無く言う。

 

「よぉ、アルネン。久しぶりだな」

 

「あぁそうだな。以前の会議以来か」

 

「で、どうだった? この間送った武器兵器は?」

 

「前線の部隊からは好評だ。まぁ、補給が大変なのがネックだがな」

 

「そりゃそうだろう」

 

 トーマスが男性に話しかけて会話を交わすと、男性は弘樹の方を見る。

 

「で、お前が扶桑国の?」

 

「あぁ。直接会うのは初めてだな。扶桑国総理の西条弘樹だ」

 

「アルネン・ハッキネン。スミオネ共和国の首相だ。会えて光栄だ」

 

 二人は右手を差し出して握手を交わす。

 

「それにしても、随分と忙しそうだな」

 

「あぁ全くだ。毎日ドンパチと騒がしい。おかげで風呂に入る暇すらない」

 

 そう言いながら若干ボサ付いた金髪を掻く。

 

「だろうな」

 

 

「色々と話したい事が多いだろうが、そろそろ続きをしたいのだが?」

 

 アリアは腕を組み不満な雰囲気を出しながらそう言う。

 

「そうだな」

 

「あぁ。俺的には出来れば始めから説明し直して欲しいけどな。一応他の戦線の戦況を聞いておきたいからな」

 

「……まぁいいだろう」

 

 アリアは改めてアルネンを加えて、現状の説明を入れる。

 

 

 

 

 


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