異世界戦記   作:日本武尊

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第三十六話 帝国軍の切り札

 

 

 一夜が明けて昼過ぎ。

 

 こちらの予想に反して帝国軍は昼を過ぎても動きを見せず、第二防衛線から13km離れた場所に留まっていた。

 

 夜中に海軍陸上航空隊の『芙蓉部隊』と呼ばれる艦爆彗星で構成されている夜間爆撃隊による爆撃を敢行しているが、敵は全く引く様子を見せていない。

 

 

 

「帝国は未だに動きを見せないか」

 

 司令室では一〇〇式司令部偵察機から撮影されている映像がスクリーンに流れており、帝国軍に動きは見られなかった。

 

「さすがに昨日の置き土産が大きく響いていると思われます」

 

 最初こそ進撃していた帝国軍だったが、置き土産による被害が大きすぎたのか途中で進撃を止めていた。

 

「このまま退いてくれればこちらとしては楽なのですがね」

 

「……だと良いんだがな」

 

 まぁそう簡単に進撃を止めるような連中ではないと思うが……

 

 

 

「っ!総司令! 電探基地より報告です!」

 

 と、オペレーターの一人が声を上げながら立ち上がる。

 

「たった今北北西高度1万1千距離9000に複数の大型機の反応を探知! 現在この基地を目指して進攻中!」

 

「な、なに!?」

 

「高度1万で大型機反応……」

 

「前回の本土爆撃を行おうとしていた飛行船か」

 

 やはり投入してきたか。

 

「飛行場の高高度迎撃隊に知らせ! 基地に接近中の飛行船団を殲滅せよ!」

 

「ハッ!」

 

 直ちに飛行場に指令が伝えられ、滑走路に『震電』や『秋水』『神龍』、試験運用の為少数配備されているジェット戦闘機『橘花』が出され、震電のエンジンと秋水と神龍のロケットエンジン、橘花のジェットエンジンの轟音が鳴り響き、次々と滑走路から飛び上がる。

 

 

「っ! 帝国軍が進撃を再開しました!!」

 

 と、迎撃隊が飛び上がった直後に一〇〇式司令部偵察機のカメラが、帝国軍が進撃を再開したのを映し出していた。

 

「一斉攻撃で一気にここを攻め落とそうというのか」

 

「あれだけの損害を受けて未だに進むとは。愚かを通り越して呆れますね」

 

 呆れた様子で辻が呟く。

 

「まぁ、連中が攻めてくるのなら俺達はそれを迎え撃つだけだ」

 

 

 

 

 直後に第二防衛線守備隊が攻撃を開始し、銃弾や砲弾、噴進弾が雨の如く進撃する帝国軍へと降り注ぎ、爆風や衝撃波が吹き荒れ、破片や炎が辺り一面に飛び散って大量の屍を量産する。

 

 

 続けて帝国側が第二防衛線へ爆撃を行おうと竜騎士を多く投入してきたが、三式戦と四式戦、五式戦の他海軍陸上航空隊の紫電と烈風が迎撃に向かい、空中で激しい戦闘が開始される。 

 竜騎士もそれなりの対応策を編み出したのか、1機に3体以上で攻撃を仕掛ける戦法を取ってきてこちらに損傷もしくは被撃墜機が出てきたが、固まって攻撃するのが仇となってか逆に竜騎士の被撃墜数が遥かに上回っていた。

 

 同時に高度1万m以上に出現した飛行船団を迎撃に向かった震電と秋水、神龍、橘花も戦闘を開始し、震電と秋水、神龍の機首や翼に搭載された30ミリ機関砲と橘花の機首に搭載されている25ミリ機関砲が飛行船の船体を穴だらけにして更に曳光弾によって木製の船体に火が付き、神龍と橘花、震電の翼下に懸架された噴進弾を発射して飛行船の船体を大きく抉るように破壊され、次々と墜落していく。

 しかも前回のことを何も学んでいないのか、飛行船には自衛手段がなく、迎撃機から逃れようと回避行動を取っている。そのため飛行船同士がぶつかり、そのまま墜落する飛行船が続出した。

 

 

 帝国軍が多くの犠牲を払いながらも進撃を続ける中、第二防衛線に設置されているとある兵器が狙いを定めていた。

 

「急げ! 早くしろ!」

 

「邪魔だ! 退け!」

 

 第二防衛線にある巨大な岩壁の内部を刳り貫いて出来た巨大トーチカの内部では砲兵達が忙しく走り回っていた。

 

「榴弾装填! 装薬装填!!」

 

 そんな中巨大な砲に巨大な砲弾と装薬が装填され、巨大な尾栓が閉じられる。

 

 

 扶桑陸軍が開発した最大の口径を持つ榴弾砲である『四十一糎榴弾砲』であり、海軍より譲渡されて本国とトラック泊地の沿岸、要塞基地に配備されている『砲塔四五口径四〇糎加農砲』に匹敵する口径と火力を有している。

 使用している砲弾は榴弾だが、サイズと重量も相まって強力な威力を発揮する。史実では『破甲榴弾』別名『べトン弾』と呼ばれる強固な要塞を破壊する砲弾を使用しているが、ここに配備されている本砲は侵攻する敵を迎撃する目的があるので専用の榴弾がある。

 

 

「装填完了!」

 

「照準良し!!」

 

「撃てぇ!!」

 

 合図した直後に轟音とともに砲身が後座して砲弾が放たれ、進撃中の帝国軍の中心辺りに着弾し、大爆発を起こす。

 その大爆発時の衝撃と爆風で地面にはクレーターが出現し、多くの兵士や魔物が吹き飛ばされ、飛び散った巨大な破片によって身体が粉々になって人間の形として原形を留めていない屍が増えていく。

 

 次々と各トーチカの加農砲と榴弾砲が放たれ、帝国軍の軍団に降り注いで多くの兵士と魔物達が粉々に粉砕されていく。それでも帝国軍は進撃の速度を緩めなかった。

 

 

「これだけの損害を受けていながら、なぜ退かないんだ」

 

 映像に映る帝国軍の姿に俺は拳を握り締める。

 

「兵士は消耗品の一つ、とでも言うのでしょうかね。理解に苦しみますね」

 

 辻も不機嫌そうに声をもらす。

 

「……」

 

 

「っ!? 総司令!!」

 

「どうした?」

 

「魔力電探に感あり! 第二防衛線から30km離れたところで転送反応が!」

 

「なに!?」

 

「このタイミングで」

 

「……しかも、これは――――」

 

「どうした!」

 

「……魔力の規模が、大きい」

 

「なに?」

 

「どういうことだ?」

 

「そのままの、意味です。しかも反応が、強い」

 

「……」

 

「規模が大きく、強力な魔力だと」

 

「……」

 

 何か、デカイのが来るというのか

 

 

「転送、来ます!!」

 

 すると森林がある方向から眩い光が放たれると、森を覆い尽くさんばかりに光の輪が広がっていく。

 

「っ!」

 

 光が強すぎて誰もが目を腕や手で覆う。

 

 

 

「……」

 

 光が収まり、俺は腕を退かすと――――

 

 

『っ!?』

 

 映像に映し出されている存在に目を見開き、それはその場や前線に居る兵士達も同じだ。

 

 

 山が出現した。最初に脳裏に浮かんだのは、それが最初だ。

 

 しかしよく見れば山のようだが、それはれっきとした生き物だった。

 岩の様にゴツゴツとした紅い体表を持つ、とてつもなく巨大な龍だった。

 

「な、なんだ、この大きさは!?」

 

「……山のように大きな、ドラゴンだと」

 

 おいおい冗談きついぞ。某ハンティングゲームの巨龍じゃないんだぞ。

 

「こんなものまで用意しているとは」

 

「恐らく、帝国軍は切り札を切ったと思われます」

 

「だからあれだけ攻撃を受けても退こうとしなかったのか」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 

 

 その後すぐにあの巨大ドラゴンの正体を知るためガランド博士を呼び出し、司令室に博士が入ってくる。

 

「突然呼び出してすみません」

 

「いえ、お構いなく。それで、これが問題の?」

 

「えぇ」

 

 ガランド博士はスクリーンに映し出されている巨大なドラゴンを見て険しい表情を浮かべる。

 

「これは……『グレートドラゴン』」

 

「グレートドラゴン?」

 

 偉大な名前だこった。ってそのまんまか

 

「ドラゴン種の中で一番巨大と言われている存在です」

 

「一番巨大か」

 

「言い伝えで聞いたことはありますが、実際に見たのは初めてです。でも、これほど大きなものとは」

 

 博士はスクリーンに映し出されているグレートドラゴンが動き出した姿を見て呆然となる。

 

「こいつには巨大以外でどういった特徴が?」

 

「はい。性格は穏やかで、ブレスは吐きませんが、山のように巨大な身体で歩くだけで小規模の揺れが起こり、グレートドラゴンが行く先にある物は全て破壊されると言われています」

 

「そうか」

 

 いよいよ某ハンティングゲームの巨龍だな。

 

「ん? そういえば、こいつ」

 

 ふと、グレートドラゴンを見て脳裏にある光景が蘇る。

 

 

 もう一年ちょっと前になるが、あの時中間補給拠点となった砦と思われる廃墟の調査をして帰還している途中に出現したドラゴンの姿を思い出す。

 大きさや細部は違うが、どことなく似ている。

 

「あのときの、ドラゴンに似ているな」

 

「え? サイジョウ総理は、あのグレートドラゴンを前にも見たことが?」

 

「いや、俺が見たのはあんなごつごつとした巨大な姿じゃない。まぁでかかったことに変わりは無いが、何よりあれは気が荒かったぞ」

 

「……恐らく、それはグレートドラゴンの幼体かと思われます。幼体では気が荒いと言われていますから」

 

「あれで幼体かよ」

 

 結構な大きさがあった上に戦車砲の砲弾が効いてなかったんですが……

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 グレートドラゴンは移動速度こそかなり遅いが、歩幅が広く更に歩く度に小規模の地震が発生する。

 

 第二防衛線の各トーチカや丘のあちこちから戦車の砲撃や榴弾砲や噴進弾が一斉にグレートドラゴンへ向けて放たれ、四十一糎榴弾砲も衝撃波で砂煙を上げながら『破甲榴弾』が放たれる。

 

 雨の如く榴弾や噴進弾がグレートドラゴンに降り注ぐが、体表の表面に生えているコケが剥がれてその下は全く傷一つ付かず、四十一糎の破甲榴弾は体表の突起物を吹き飛ばしたが、それだけで殆ど効いていなかった。

 

 

 

「嘘だろ……」

 

 ヴァレル基地の飛行場より離陸した一式陸攻の機長は銀河と共に投下した80番爆弾が全く攻撃が効いていないグレートドラゴンに思わず声をもらす。

 

「80番を受けても全く損傷が無いとは」

 

「……」

 

 

「この飛龍をもってしてもだめか」

 

 四式重爆撃機 飛龍の機長は忌々しげに80番爆弾の直撃を受けても平気なグレートドラゴンを睨む。

 

「海軍陸上航空隊のやつらの爆弾も効いていないようですね」

 

「……」

 

 

「化け物め」

 

 彗星に乗り込んでいる『美濃部(みのべ)(ただし)』少佐はグレートドラゴンを忌々しげに睨みながら周囲を飛ぶ。

 

「このままでは、防衛線を突破されかねませんね」

 

「あぁ。だが、今の我々に出来ることは無い」

 

「……」

 

 

 悔しげにギリッと歯軋りを立て、爆撃隊は爆弾の補充のためそのまま基地へと戻る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「グレートドラゴンへの砲撃及び爆撃、効果なし!」

 

「帝国軍! 第二防衛線に急接近! 塹壕周辺では混乱状態が起きているようです!」

 

「っ! 戦車もどきの砲撃でトーチカが破壊され始めています! このままでは防衛線が!」

 

 次々と報告が上がり、俺は静かに唸る。

 

「敵も中々やってくれますね」

 

「あぁ。切り札の投入で士気も上がっている。だが、あいつの硬さは厄介だな」

 

 四十一糎の破甲榴弾ですら殆どダメージが与えられんとは。

 

 これじゃ46cm以上の艦砲射撃があっても、ダメージが通るかどうかが怪しいな。

 

「……」

 

 スクリーンにはグレートドラゴンの出現で士気が上がっている帝国軍はどんどん侵攻を続ける。

 

(このままじゃ第二防衛線が突破されるのも時間の問題か)

 

 まぁ、それは今の状態(・・・・)を維持し続けている場合だがな。

 

「……だが、甘く見ないでもらおうか」

 

「……?」

 

 辻は一瞬怪訝な表情を浮かべる。

 

「司令官」

 

「ハッ!」

 

「例のあれは使えるか?」

 

「あれとは、まさか!」

 

 基地司令官はすぐさま例のあれが何かを察する。

 

「ハッ! 直ちに!」

 

 基地司令官はすぐさまとある場所に連絡を入れ、例のあれを使用するための準備をさせる。

 

「一体何を?」

 

「なぁに、目には目を。デカブツにはデカブツをぶつけるだけだ」

 

「デカブツ……」

 

 辻は一瞬分からなかったが、次の瞬間にはその正体に気付く。

 

 

 

 

 


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