異世界戦記   作:日本武尊

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第三十三話 圧倒的戦力

 

 

 

 

 俺は司令室へと呼び出されてすぐに走り出し、司令室へと入る。

 

「どうした? 何があったんだ?」

 

 中に入ると、職員が慌ただしく動き回っており、辻が俺が入ってきたことに気づいて敬礼する。

 

「ハッ! 哨戒中の潜水艦が帝国軍の大艦隊を発見したとトラックに打電され、司令部からこちらに報告がありました」

 

「帝国軍の大艦隊だと? 規模は」

 

「詳細は不明。ですが、潜望鏡で見える範囲以上に艦隊が展開されていたと言っています」

 

「……何だと」

 

 なぜ今になって。いや、それよりも、それだけの数の船をまだ持っていたのか。

 

「現在聨合艦隊が出港準備を整え、迎撃に向かうとのことです」

 

「そうか……」

 

 まぁ、聨合艦隊の主力が向かったのなら特に問題は無いだろう。

 

(……このまま何も起こらなければ良いのだが)

 

 俺は内心そう呟いた。妙な胸騒ぎを感じながら。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 それから時間が過ぎ、所は変わって大艦隊で進攻しているバーラット帝国海軍。

 

「壮大な眺めですな」

 

「うむ」

 

 戦列艦や装甲艦で多く占める艦隊の中に、だいぶ洗練された形状をした装甲艦が後方を航行していた。

 

「これだけの艦隊を目にすれば、フソウは逃げ腰でしょうな!」

 

「全くだ! それにようやく完成した新型の軍艦もあるんだ! フソウなど恐るに足らずだ!」

 

 乗員の殆どはフソウ打倒に燃えているが、その輩は扶桑と戦ったことの無い連中ばかりだ。

 それ以外で、数人ほどはそれどころじゃなかった。

 

 

「なぁ、俺達って生きて帰られると思うか?」

 

「……無理じゃないか?」

 

 意気消沈している乗員らは過去に扶桑海軍と戦った者であり、扶桑の恐ろしさを知っている。

 

「俺、ジブラル海での海戦で生き残ったけど、とてもじゃないが勝てる気がしない」

 

「本当か?」

 

「あぁ。俺は見たんだ。空を飛ぶ物体が空を埋め尽くして、そいつらが次々と海軍の船を沈めていき、雷鳴が鳴ったかと思ったら巨大な砲弾の雨が降り注いで軍艦を次々と沈めた」

 

「俺も見た。やつらの兵器は帝国海軍の軍艦と何もかもが違う」

 

 

 と、このように反応は意気揚々だったり、意気消沈していると、それぞれだった。

 

 

 

 上空から監視されているとも知らずに……

 

 

 

「これはまぁ多いものだな」

 

 上空高くには艦上偵察機『彩雲』が飛行しており、うまく雲に隠れながら搭乗員と観測員、後部機銃手が海上を覆い尽くしている帝国の艦隊を眺める。

 

「旗艦に敵艦隊の位置は知らせたな?」

 

「バッチリと!」

 

「よし。なら、後は着弾観測だな」

 

「えぇ。しかし、帝国もよくこれだけの数をそろえましたね。かなりの数を沈められているはずなのに」

 

「全くだ。しかも馬鹿正直に綺麗な隊列を組んで。観艦式じゃないんだぞ」

 

「それに、艦と艦の間が狭いですね。あれでよく接触しないものですね」

 

「あぁ。結構錬度があるってことだろう。まぁ、それが仇になるんだがな」

 

 そう話しながら瑞雲は艦隊の上空を燃料の持つ限り周回して監視を続ける。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 帝国海軍の艦隊が迫りつつある中、遠く離れた海域では扶桑海軍の聨合艦隊が戦闘準備を整え展開していた。

 

 前方に戦艦を中心とした前衛部隊と、後方には空母と護衛の駆逐艦と巡洋艦で構成されている部隊が配置している。

 

 空母は第一航空戦隊の赤城と加賀、第二航空戦隊の飛龍と蒼龍、第三航空戦隊の天城と土佐で構成されており、第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴はトラックの護衛のために他の空母と共に残っている。

 

 戦艦は大和型戦艦の『大和』『武蔵』『美濃』『近江』『駿河』の5隻に岩木型巡洋戦艦の『岩木』『淡路』『日高』『若狭』の4隻、天城型巡洋戦艦『飛騨』『常陸』の2隻、大改装を終えて生まれ変わった金剛型戦艦4隻を引き連れている。

 長門型戦艦の『長門』『陸奥』は翔鶴、瑞鶴と共に、巡洋艦、駆逐艦数隻とトラックの護衛のために残っている。

 

 だが、その中で一際目立つ存在があった。

 

 聨合艦隊旗艦であり、扶桑海軍が建造した史上最強の戦艦である紀伊型戦艦一番艦『紀伊』である。

 改めてだが、周囲を航行している大和型戦艦が重巡洋艦に見えてしまいそうな錯覚があるほどに、紀伊の船体は巨大であった。

 

 

「長官! 偵察機より報告です!」

 

 紀伊の昼戦艦橋で、通信手が大石長官のもとへ駆け寄る。

 

「ワレ、敵艦隊ミユ! 本艦隊との距離、2万7千!」

 

「うむ」

 

 大石は報告を聞くと、軽く縦に頷く。

 

「艦隊の構成は分かるか?」

 

「ハッ! 戦列艦と装甲艦を中心に構成され、中には新型と思われる艦も確認されています」

 

「新型か。この状況でよく新しいものを作れるものだな」

 

「全くです」

 

「尚、中には甲板を全面平らにして竜を待機させている戦列艦や装甲艦が確認されています」

 

「ほぅ」

 

「我々の空母を真似ているのでしょうか?」

 

「航空戦力の有用性を知ったのだろうが、しょせん戦術のせの字も知らない、姿を真似ただけのものだろう」

 

「でしょうな」

 

 なら、潰すのは簡単だな。

 

 

 その後大石の指令ですぐに各空母は艦首を風上に向け、飛行甲板に上げられた第一次攻撃隊が発艦する。

 

 各空母には新型の艦戦『烈風』に艦爆『彗星』、艦攻『流星』『天山』で構成されており、約130機近くが飛び立ち、半数に分かれて敵艦隊の左右から挟みこむように移動する。

 

 

「第一次攻撃隊、全機発艦完了!」

 

「よし。空母と護衛艦隊は後方に下がり、戦艦部隊は前進。これより砲撃を開始する」

 

 第一次攻撃隊が発艦後すぐに空母とその護衛艦隊は戦艦飛騨と常陸と共に下がり、残りの戦艦は前へと出て右へと回頭する。

 それと同時に偵察機からの情報を基に各戦艦の主砲塔が左へと旋回し、砲身の上げ下げをする。

 

「そういえば、この紀伊にとっては初の実戦となりますね」

 

「そうだな。史上類を見ない51サンチ砲の威力。今回の戦闘で示されるか」

 

 実のところ就役して今日に至るまで紀伊はトラックに待機のままで実戦に出たことが無かった。別に紀伊の使用を躊躇ったわけではないが、あまりにも強力な威力を持つ51サンチ砲はそう簡単には使えない。

 なので、今回初めて紀伊の主砲が実戦で放たれるのだ。

 

「しかし、帝国には同情しますね。何せ2tや1.5t以上ある砲弾が雨の如く降り注ぐのですから」

 

「だろうな。史実でもこれだけの艦砲射撃は全く前例が無いのだからな」

 

 もっとも、46サンチの主砲を持つ戦艦が2隻しかいない上にほとんど撃っていないので、実現も何も無いが。

 

 

「全艦! 主砲発射準備完了!!」

 

 それからして全ての戦艦の主砲の照準が定まり、報告が旗艦紀伊へと伝わる。

 

「警報! 甲板要員は遮蔽物に退避!」

 

 艦長の号令で紀伊の主砲砲撃を始める警報が鳴り響き、甲板要員は艦内に入るか遮蔽物の陰に隠れ砲撃に備える。

 

「……全艦! 第一斉射! 撃ち方はじめぇっ!!」

 

 一間置いて大石が号令を下し、それぞれの砲の一門から一斉に雷鳴のような砲声と共に火を吹く。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ん?」

 

 これから自分達に起こることなど露知らず、進行している帝国軍の艦隊。その中の一隻の甲板にいる乗員がふと顔を上げる。

 

 空は曇り出してはいるが、雷が鳴りそうな雲は出ていない。しかし雷鳴のような音が小さく響き渡っていた。

 

(何だ?)

 

 首を傾げていると、空に黒い点がいくつも現れる。

 

「お、おいあれ!」

 

 それに気付いた乗員が声を上げて空を指差し、全員が空を見る。

 

 すると黒い点は徐々に大きくなり、こっちに向かってきていた。

 

「な、何だあれは!?」

 

 慌てて声を上げるが、空気を切り裂く音とともに黒い物体のいくつかは艦隊の中央から散布して広範囲に着弾すると同時に大爆発を起こし、残りは艦隊の上で破裂して中から無数の焼夷弾がばら撒かれる。

 

 大爆発による衝撃波で木造の戦列艦はバラバラに砕け、装甲艦は舷側がひしゃげて甲板要員は吹き飛ばされて海へと叩きつけられる。

 そして雨の如く降り注ぐ焼夷弾によって木造の戦列艦は一瞬にして炎を上げ、装甲艦は甲板上で炎上、または不幸にも大砲に詰める火薬に引火して爆発を起こす。

 

 

 帝国軍が知る由も無いが、紀伊や大和型戦艦、岩木型巡洋戦艦、金剛型戦艦より放たれた51サンチと46サンチ砲弾はそれぞれ零式弾や三式弾であり、特に紀伊の51サンチの零式弾は至近弾でも木造の戦列艦を沈め、装甲艦は装甲がひしゃげるほどの威力を発揮していた。

 何より三式弾の威力は絶大で、木造の戦列艦では防ぐ手段が無い。

 

 

「な、何事だ!?」

 

 新型艦に座乗している艦隊の提督は目の前で起きている惨状が信じられなかった。

 

 戦列艦は大炎上して大砲の火薬に引火して爆発を起こし、装甲艦も一部が爆発を起こして沈んでいた。

 

「ふ、フソウ軍による砲撃です!」

 

「馬鹿な! やつらの船はどこにも見当たらんぞ!!」

 

 単眼鏡を見るもフソウの軍艦の姿はどこにもない。実際黒い点ぐらいで見えるはずだが、若干もやが掛かって視界が悪いので発見に至らないのだ。

 

「で、ですが現に砲撃がこうして降り注いでいるのです!」

 

 と、その瞬間新型艦から少し離れたところに砲弾が着弾し、大爆発を起こして波と衝撃波が襲い掛かる。更に炎を纏った塊が甲板に直撃し、火が広がり出す。

 

「馬鹿な。フソウの軍艦は……化け物揃いだというのか」

 

 振り落とされないように近くの物にしがみ付いて、自分達がどんな存在を相手にしているのかを思い知る。 

 

 だが、死神は次なる鎌を振り下ろさんとしていた。

 

 

 

「おー。より取り見取りだな」

 

 続けて第三斉射を受けた艦隊は更なる被害を受けている中、左右に分かれて艦隊の側面から接近していた第一次攻撃隊の艦爆隊は高度を上げて急降下爆撃を行おうとしており、蒼龍所属の江草隊の『江草志郎』少佐は自身の彗星から小さく見える艦隊を見下ろしていた。

 

「いいな! 訓練を思い出してやれ! 行くぞ!」

 

 そして一斉に彗星全機が急降下姿勢を取る。

 

 エアーブレーキを展開して機体が安定し、一定の高度に達した瞬間に胴体の50番爆弾1発と翼の25番爆弾2発が一斉に投下され、装甲艦の旋回式カノン砲に着弾して発射用の火薬に引火して大爆発を起こして船体が真っ二つになる。

 投下された全ての爆弾は装甲艦数十隻に着弾して、全てが甲板を貫通し、艦内で爆発して直撃した装甲艦ら全てを轟沈とさせた。 

 

 

 続けて左右に分かれていた烈風が戦爆として運用されている烈風と共に艦隊の左右から迫る。

 

 最初に機銃掃射を行い甲板員や魔法使いを射殺すると、続けて噴進弾を翼の下に6発ずつ計12発を下げている烈風による爆撃が戦列艦と装甲艦に襲い掛かる。

 放たれた噴進弾は戦列艦と装甲艦の舷側に突き刺さり、内部で爆発を起こして火災を起こし、大砲の火薬に引火して大爆発を起こす船が次々と現れる。

 

 しかし帝国側もやられてばかりではなく、態勢の整えた艦からカノン砲やバリスタなどの砲撃が開始され、マスケット銃や弓矢も放たれ、魔法使い達が炎や氷で弾幕を張るが、殆ど効果は無かった。

 

 その間に半分以上が沈められた全面平らの船より竜騎士が次々と飛び立つが、そのあいだに烈風の機銃掃射や彗星の爆撃によって飛び立つ前に竜騎士諸共ドラゴンは粉砕される。

 

 飛び立った竜騎士は艦隊の側面より雷撃を行おうとしている流星や天山の編隊に襲い掛かろうとするも、『岩本哲三』中尉と『坂井三良』中尉の烈風2機が竜騎士らに機銃掃射を行って粉砕する。

 直後に後ろから竜騎士がドラゴンより火球を吐かせてくるも二人は回避し、そのまま竜騎士とのドッグファイトを行う。

 

 が、零戦以上の性能を得ている烈風を操る二人は水を得た魚だ。捻りこみや木の葉落としを掛けて一瞬にして竜騎士の背後を取り、機銃掃射を行って粉砕する。

 

 

 そして烈風に護衛されながら海面すれすれの超低空飛行で雷撃隊は艦隊側面に迫る。

 

「こいつはすげぇぜ!」

 

 戦列艦や装甲艦より放たれるカノン砲やバリスタの砲撃が海面に着弾して水柱を上げて墜落させようとしており、流星に乗る飛龍所属の『友永定市』大尉は手汗を掻きながら操縦桿を握り、息を呑む。

 その中で流星と天山の数機が水柱に巻き込まれて墜落する。

 

「まだだ。まだだぞ……」

 

 投下レバーを握り、投下ポイントまで迫る。

 

「よーそろ、よーい……」

 

 砲弾が海面に着弾して上げられた水柱が流星のボディーに降り注ぐ。

 

「ってぇ!!」

 

 投下ポイントに達し、友永は投下レバーを下ろして胴体に吊り下げていた魚雷を投下する。同時に他の流星や天山も腹に抱えている魚雷を投下する。

 

 とっさに操縦桿を引いて上昇し、その際に翼の20mm機銃を放って戦列艦と装甲艦の甲板要員を粉砕する。

 

 投下され雷跡を描きながら海中を突き進み、戦列艦と装甲艦の舷側に突き刺さって起爆し、どれも船体を真っ二つに折られて轟沈する。

 更に反対側でも接近していた雷撃隊が魚雷を投下し、次々と戦列艦と装甲艦を沈めていく。

 

 

 周囲では炎を上げて沈んでいく船が続出する中、装甲艦の甲板で魔法使いが火球を出して飛ばし、噴進弾を翼に下げた烈風の胴体に直撃して炎上する。

 

『おぉ!!』と甲板要員は全員声を上げる。

 

「見たか! ざまぁみやがれ!!」

 

 誰もが烈風を撃ち落したことに歓声を上げていたが、直後に炎を上げる烈風は機首を装甲艦へと向ける。

 

「っ!? おい、おいあいつ突っ込んでくるぞ!?」

 

 それに気付き甲板要員は誰もが慌てふためき、魔法使いは魔法を放とうとするも慌ててしまい術式を噛んでしまう。

 

「くっ……ぐふっ!……どうせ、もう助からん!!」

 

 炎を上げる烈風の搭乗員は血を吐き血まみれになって意識を失いそうになるも気合で意識を繋ぎ止め、操縦桿を握り締めて針路を固定する。

 

「貴様らも、道連れだ!! 扶桑国! 万歳!!」

 

 そして烈風は猛スピードで装甲艦の旋回式カノン砲に衝突し、噴進弾がその衝撃で爆発するとカノン砲の火薬に引火して大爆発を起こし、船体が真っ二つに折れて轟沈する。

 

「……」

 

 その光景を見ていた烈風の搭乗員は悲しみを押し込むようにして噛み締めると、敬礼を向ける。

 

 

 

「馬鹿な。こんなことが……」

 

 爆撃を受けて船体が傾斜し始めた甲板上で艦隊の提督は驚愕の表情を浮かべる。

 

「皇帝陛下直属の艦隊が、こうもあっさりと」

 

 率いていたのはバーラット帝国軍の中でも精鋭を集めた帝国最強の艦隊だ。今回がフソウとの初めての戦闘だったが、それまでは無敗を誇る艦隊だった。

 だが、こう戦ってみて分かったことと言えば、自分達は強大な力を持つ、とんでもない国を相手にしているということだ。

 

「……これでは、帝国は――――」

 

 

 その瞬間周囲を炎を上げながら航行している装甲艦が突然爆発音とともに船体が真っ二つに折れて轟沈する。

 

「っ!?」

 

 提督は爆発した方向に視線を向けると、戦列艦や装甲艦が次々と船体が真っ二つに折れて爆発する。

 

「な、何だ!?」

 

「分かりません! 突然爆発を起こして次々と沈んでいます!!」

 

 突然船体が真っ二つに折れて轟沈する光景を目にした提督は呆然となるが、その光景を見て脳裏にある事が過ぎる。

 

 

 海の化け物。

 

 

 周囲には敵影が無い中で、船団が突然襲われ、全ての船が沈められて殲滅される事件が数多く起きていた。

 いつしかそれは海の化け物による仕業である、と広まったのだ。

 

「まさか、この海域に……やつらが……」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 あながち提督の予想は間違っていなかった。

 

 

 海中にはあの幻影艦隊が潜み、先ほど艦首魚雷発射管より4本ずつ、計40本の魚雷を放ち、戦列艦と装甲艦を沈めていた。

 

 元々幻影艦隊は自分達の活動拠点である秘密基地へ向かう途中、帝国海軍の別働艦隊を偶然にも目撃した。幻影艦隊はすぐさま魚雷による雷撃にて、別働艦隊を殲滅した。

 その後無線傍受でトラックに敵艦隊の接近の報を聞き、移動後敵艦隊の側面から攻撃を開始したのだ。

 

「全弾命中を確認」

 

 潜望鏡から見える轟沈した装甲艦を確認した艦長が小原に伝える。

 

「ふむ。さすがの腕だな」 

 

 小原は魚雷の調整が完璧であることに水雷長の腕を評価する。

 

『魚雷室より艦橋! 魚雷3番7番発射管、4番8番発射管に魚雷装填! いつでも撃てます!』

 

 伝声管を通して魚雷の発射準備が整ったことが報告され、艦長が小原に視線を向けると彼は軽く縦に頷く。

 

「ってぇっ!!」

 

 艦長の号令とともに伊400型潜水艦10隻の艦首に内蔵されている8門の魚雷発射管の下から半分から九三式魚雷が一斉に放たれ、航跡を残さずに傾斜しつつある帝国の新型艦へと忍び寄る。

 

 新型艦に乗艦している提督は自身に向かって死神の鎌を振り下ろさんとしている魚雷の接近に気付く事無く、魚雷が10本近く新型艦の左舷へと被雷し、大爆発を起こして船体がいくつも分裂し、何が起きたのか理解する前に運命を共にした提督と轟沈する。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「報告します! 第一次攻撃隊。敵艦隊に甚大な被害を与えました!」

 

 通信手の報告を聞き『おぉ!』と声が上がる。

 

「さすがだな」

 

「えぇ。我が海軍最強の搭乗員が揃う精鋭部隊ですからね」

 

「あぁ」

 

 何せ初期から居る搭乗員が占めているのだ。その技量は計り知れないところがある。

 

「だが、念には念を入れ、各空母に打電。第一次攻撃隊を収容後、第二次攻撃隊を発進させろ」

 

「ハッ!」

 

 通信手はすぐさま無線の前に向かい、各空母へ第二次攻撃隊の発進を打電する。

 

「しかし、大艦隊で攻めておきながら、こちらに攻撃を仕掛ける事無く全滅しそうですね」

 

「うむ……」

 

 しかし大石の顔色は優れなかった。

 

「何か引っ掛かるところが?」

 

「いや、大したことじゃない。が……」

 

 大石は灰色の雲に覆われた空を見つめる。

 

「どうも嫌な予感がする」

 

「……」

 

 その言葉を聞き、副官の表情に緊張が走る。

 

「このまま、杞憂に終われば良いのだが……」

 

「そう願いたいものです」

 

 副官も同じ気持ちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この不安は現実のものとなるのだった。

 

 

 

 

 

 


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