方向性が迷子です。
どうぞごゆっくり。
幻想郷に、一人の人間の女の子が迷い込みました。
その女の子は、当時幻想郷を支配していた吸血鬼の王に見つかってしまいます。
しかしその女の子に才能を見た王は、禁じられた行為、人間を吸血鬼にしてしまいます。
吸血鬼になり、狂ったのか女の子は、その晩一日で吸血鬼一族を半壊させました。
王をも壊したその女の子は、次々と周りを壊していきます。
しかし王の子であったレミリア・スカーレットだけは、殺せずに眠ってしまいました。
力を恐れた生き残りは、その女の子と姉を館に置いて、どこかへ去っていきました。
女の子の名は、フランドール・スカーレット。今もどこかで生きていると言われています。
―吸血鬼とその歴史 より
先日、咲夜はこう言っていた。
「妹様は、少々、気が触れているので。」
「気が触れている?」
「ええ。なので地下に封印施設があるのです。お嬢様がいっていたのはそう言う事ですよ。」
その時俺はこう思った。幻想郷だから普通なんだろう、と。
凡人だから、理解できなくても仕方ない、と。
だがそれは違った。例え凡人でも、理解しなくてはいけない事があった。
「降!今日は何する?」
「今日は、フランに聞きたいことがあるんだ」
どうしても確かめたい事があった。
これさえ分かれば全て終わりだ。
「何?」
「君が...その、気が触れているというのは、本当の事かい?」
「...どういう意味?」
「頼む...教えてくれ」
「......教えてあげる」
その時フランはこう伝えた。
自分は本当は狂ってなどいない。狂ったふりをしている。
ただ、そうするとレミリアが、館の皆が楽しんでくれる。
だから500年たった今も、こうして狂っているんだと。
俺にそれを疑う余地は無い。
何故なら彼女はただ、今にも泣きそうで、純粋な眼差しを向けていたから。
「フランはそれでいいのか!?」
「いいよ。お姉さま達が喜んでるのなら、それで。この事は誰にも内緒だよ?」
紅魔館が少女6人だけの場所だと知った時から、気づくべきだった。
ある事を確信した俺はその日館を抜け出し、走り、走り続けた。
つまりこういう事だ。
フランは狂ってなどいなかった。ただ突然の力に戸惑いながら、気がつけば一族を滅ぼしていた。そして幽閉される。
フランより早く物心ついたレミリアは力に物を言わせ、幻想郷で優秀なコマを集め、紅魔館の中で「おままごと」を始める。
コマ達は皆それを甘んじて受け入れた。あろう事か、幻想郷の住民さえも。
レミリアはフランの過去をほじくり返しながら、「おままごと」を楽しんだ。
そして俺もまた、そのコマとなろうとしていたという訳だ。
「どこへ行くつもり?」
目の前に咲夜が現れる。
「...放っておいてくれないか」
「何を知ったか知らないけど、突然いなくなるのも困るのよ。主にお嬢様が、ね」
「そうやってお嬢様お嬢様って!自分の感情はねえのかよ!?」
「私はお嬢様に救われた。名前だって付けてもらったわ。一生をお嬢様に尽くすつもりよ」
平然とした顔で答える。
「俺も同じだった。ただ、お前と違ってあんな狂った場所にいようとは思えないがな」
「...お嬢様はきっと貴方を捕まえに来る。殺すかもね。それでも?」
「凡人だからこそ言えることがある。お前ら最高にクズだ」
「残念ね。」
自分の腕に激痛を感じる。
「つっ...!」
「お嬢様を馬鹿にしたら殺す。言ったはずよ。」
「...気が触れているのは、あんたらだったな」
痛みを我慢し、最後の意地を張る。これで終わりだ。
短かったな、俺の人生。
「お嬢様には、始末したと伝えておくわ」
「...!?」
「もう会うことはないといいわね。さよなら」
そう言うと、また彼女は消え去った。
ただ唖然とする俺を残して。
「...分かってるわよ、私だって...」
あれから数ヶ月。
腹の傷も何とか塞がった俺は、全てを諦め、幻想郷で再びサバイバルをしていた。
幸い刺さったナイフのお陰か、初日の物よりは随分と効率的になっていた。今ではすっかり慣れた。
そこは幻想郷の中でもかなりの僻地らしく、妖怪も人間も滅多に来ない。勿論吸血鬼も。
身を隠すには絶好の場所だ。
生きるために時間を送る日々が続く。
そんな中で俺は一つの答えを見つけていた。
「幻想郷に俺の居場所は無い」
幻想郷で生き抜く為に、男は今日も動き出す。
紅魔館にて
「パチュリー様?」
滅多に喋らない小悪魔が話しかける。
「あら。何かしら」
「...なぜ降さんに、あの本を?」
「知ってたの?あの中身」
「ええ。パチュリー様は、一体どちらの味方なので?」
「私はいつでも正しいほうの味方よ。貴女はどうなのかしら?」
「私は、パチュリー様の使いです。それ以上でもそれ以下でもない。」
「分かってるじゃないの。」