そんなこんなで今回はまた真面目トーン
きっと僕は逃げていただけなのだろう。
前に進んでいるつもりで結局一歩も進んでいなかった。
別に目を逸らすことや逃げることを悪いこととは思わない。
でも、時にはまっすぐに目を向けないと進めない場所もあるということなのだろう。
だから、今は一歩。今は一歩だけかもしれないけど前には進めているのだと思う。
だって初めて自分自身に目を向けたのだから。
「んあ・・・・」
目を開けると見覚えがある白い天井が目に入った。
体は全身が気だるく重い。まだ、起床時特有の眠気が僕の意識をまどろませる。
体の方に目を向けると左腕はギブスでしっかり固定されており、体のそこらに包帯が巻かれていた。
「ここは保険室か・・・」
体を起こしあたりを見渡す。見覚えがある部屋だった。
寝起きでぼんやりとしていた頭がだんだんクリアになっていく。
そして、何があったか思い出した。
「あぁ、色々まずぃなぁ・・・」
まさかあの力を使うことになるとわ。
僕の平穏な学園生活はどうなるのだろうか。
いや、ぶっちゃけミントとかラウラのせいですでにそんなものほとんどないけどさ。
「あ、ムンク起きた・・・!!」
緑髪にやや幼さを感じさせる童顔の少女が保健室に入ってきた。
「え・・・あ・・・ミント・・・?」
「いや~もう心配したんだよ~~~三日もめを覚まさないし。」
ミントがベットの近くにある椅子に乱暴に腰掛ける。
え、僕三日間も寝てたの?
・・・・
やったぜ。授業サボりまくりじゃん。やっと僕の本領だな。
「「・・・・・」」
お互い沈黙してしまう。
ミントは何かを言おうと口をパクパクさせているが、その口から言葉はでない。
僕も何を言えばいいかわからない。
「み、ミントは怪我とかなかったの?」
「え!?あ、あ、うん。おかげさまで無傷だよ!!」
ミントは体の健康表すようにガッツポーズみたいなものをとるがその顔にいつもの元気さはない。
「「・・・・・・」」
再び沈黙。
「よーう!後輩君生きてるかーーー?」
沈黙をぶち壊すかように緑色の制服を身に付け、頭にバンダナを巻いた銀髪赤目のあからさま目立つ人が保健室に入ってきた。
「やぁ、体調はどうだい?」
続いて女性にしては短めに切りそろえられた紫髪に、紫眼、そして黒いツナギを纏った女性が保健室に入る。
この人もクロウとは別の意味で目立つ人だな。容姿はもちろんだが一つ一つの仕草に華がありついつい視線が行ってしまう。
「あ、先輩達こんにちは!!」
「やあ、ミントくん。君の笑顔はどこまでも魅力的だね。この後私の部屋によっていかないかい?」
「ほぇ?」
「こら、ゼリカ。いきなり後輩を口説くな。というか今回はそれが目的じゃねえだろ。」
「あぁ、すまない。子猫ちゃんがいると可愛がらずにはいられないのさ。」
「これだからこの女は・・・。」
クロウはため息をついて肩を落とす。なんかこの人も苦労しているんだね・・・。
「さて、見舞いに来たわけだが体に別状はそこまでなさそうだね。ベアトリク教官によれば左腕の方も2週間もおとなしくしていれば治るらしいからね。」
起き上がってそこまで思考が回っていなかったがあそこまで重症だった左腕が治ることを聞いて心が幾分か軽くなった。
再び沈黙。今度はさっきまでとはどこか空気が違う。さっきまでのは気まずさによる沈黙だった。
しかし、今は何故か威圧を感じる。
「それで、いきなりで悪いが本題に入らせてもらおうかな。」
「おい、ゼリカ。急すぎるだろ・・・。」
「悪いねクロウ。元々こらえ性がないんでね。待つなんてことは無理だ。」
アンゼリカが僕を睨みつける。その瞳はまるでカミソリかと思えるほど鋭い。
威圧感にたじろぎ喉をゴクンと鳴らす。
「君は何者だい?」
きた言葉はド直球だった。これでもないかというほどド直球。
アンゼリカは今回の一番大きな疑問と言える部分を正確についてきた。
「う・・・ぁ・・・」
言葉につまる。
「君は何のためにこの学園に来て、何をしようっていうんだい?」
その瞳に感情は篭っていない。ただただ冷たく、冷静で、ある意味冷酷に真実を突き止めようとしている。
「・・・・・」
「だんまりか。普通だったらそれでも構わないんだがね。でも流石にあの力は歪すぎる。放っておくわけにはいかない。」
「君はーー「こらっ、ゼリカ。」」
こてんっとクロウがアンゼリカの額を小突いた。
「お前は色々察しがいいから、なんでも感ずいちまうけどさ。今回、それはお前の役割じゃねーだろ?」
アンゼリカは目をパチクリとさせたかと思うとニヤリと笑った。
口はしを思いっきりあげて「ニヤァ」と擬音が聞こえたかと思うほど邪悪な笑みだ。
「そうだね。それなら私の役目を果たすとしようか。」
そう言ってアンゼリカはクロウのほうに向き指の関節をゴキンゴキンと盛大に鳴らす。
「いや、ぜ、ゼリカさん?なんで俺のほう向くの?」
「君との付き合いはもう一年になるが私は悲しいよ・・・この私に隠し事なんて。」
「ま、魔皇兵のこと?いや、俺もあれについは聞いたことあるだけだからな?」
「その割には随分落ち着いてたというか、戦いなれていたようだが?
まだなにか隠しているだろう?」
だらだらと物凄い量の汗をかくクロウ。
沈黙
「退散っ!」
「あはは、この私から逃げれると思わないことだ!地獄の果てまで追いかけようじゃないか!」
アンゼリカの表情はどこまでも生き生きとしていて、まるで獲物を見つけた猛獣だ。
あんなのに追われるクロウに心から同情する。同情しても金は上げないけど。
「行っちゃった・・・。」
「うん。何をしにきたんだろ・・・」
「なんかムンクくんとラウラちゃん見たいだね。」
脳裏に泣きながら青い鬼に追われる僕が浮かび上がる。なにこれ?泣きたくなってきた。
どうやらラウラは僕の骨髄まで恐怖を植え付けたらしい。ラウラ恐ろしい子!
「言わないでよ。悲しくなる・・・・。」
沈黙
お互い視線をうろうろさせてどこか気まずい雰囲気が流れる。
あんなことがあった後だ流石のミントも何を言えばいいのか分からないのだろう。
だったら・・・僕はとっとと言うべきことを言おう。
言わなければならないだろう。言いたくないと叫ぶ僕の弱気な心を無理矢理殴りつける。
嫌なことから逃げるだけるなんてのはもうだめだ。
「あのさ・・・ミントは僕のあの腕をどう思った?」
「えっ・・・いや!?」
ミントは驚き慌てふためく。いきなりこんな話題を切り出したのだから当たり前か。
「怖かったよね・・・。もしくは汚らわしく感じたよね。」
いつもだらけている表情に力が入り強ばるのが分かる。
「そんなっ・・・!?」
ミントが言葉を紡ごうとするが僕はわざと遮る。
「だからさ・・・。もう無理に僕に関わらなくてもいいよ。今回だって危険な目に合わせちゃったしね・・・。」
ザクッと胸をナイフで切り裂かれた気分だ。僕はなんでこんなにも痛さを感じているのだろうか。
体はどこも悪くないのに。
狙ったようなタイミングで風が開放された窓から勢いよく吹き込む。
季節は六月の下旬に差し込み蒸し暑い季節なはずなのに、風は僕の体温を急速に奪い去り、真冬とも錯覚させた。