ほむらは、むき出しの欲望を高らかに宣言した。
その彼女の激情は、感情のない宇宙人にしか届かない。ここは、宇宙誕生以前、彼女の想いを何ひとつ理解できないインキュベーターのほかには何者も存在しない。
『ふうん。それじゃあ、君がどんな宇宙を創るのか見せてもらってもいいかい?』
キュゥべえは、狂気を帯びたほむらの思念をまともに受け止めても、何の痛痒も感じていないようだ。わりと、どうでもよさそうな口調で、スペースクリエイターほむらの創作活動に対して取材を申し入れた。
『いいでしょう。あなたは天地創造の生き証人となりなさい』
被造物からの懇願を受けた創造主は、悠々と頷き、尊大な口調でそう言った。
ほむらの感情は、これまでにないほど高揚して、魔力が絶好調になっている。つまり、今の彼女に、あんまり不可能はないということだ。
ほむらの口から抑えきれない笑声が、不気味なオーケストラとなって伝播した。
『それで、まずはどうするんだい?』
キュゥべえは、ほむらの変わり様を見ても動じない。顔色ひとつ変えることはない。インキュベーターは、人類が感情というものに支配されて、訳が分からない行動をとることをとてもよく理解しているからだ。
『そうね、……とりあえず、私の宇宙には、インキュベーターとかいう害虫が湧いてこないようにしましょう』
ほむらは、初手で目の前の存在を消し去った。
『僕達の居ない宇宙かい? それはとても興味深いね』
悪魔の提案に対して率直な感想を述べるキュゥべえ。
宇宙人は、自身の存在の有無が宇宙に与える影響について感心があるらしい。その他には、特に思うところはないようだ。
『あとは、えっと……。そうね……、記念すべき一つ目の宇宙は、私の良く知る元の宇宙の基盤に、この条件を加えるだけでいいわ。こういうことは最初が肝心なのよ。いきなり色々といじくり回すよりも、慎重に事を進める方が大事だわ。正直なところ、宇宙の創り方なんてよく分からないわけだし、ベスト・オブ・ベストな宇宙を創造するためには回り道も必要よ。ま、あなた達が存在しないだけでも、今よりもだいぶマシな世界になるでしょうけどね』
『“一つ目の宇宙”だって? 君はいくつも宇宙を創るつもりなのかい? なるほど、宇宙創造実験というわけだ。それは、ますます興味深いね』
いつもより饒舌なほむらの口上に、いつものようにキュゥべえが興味深い興味深いと連呼する。両者の他には何も存在しない場所で、論理の範疇を超えた会話が交わされていた。
そんなこんなで、インキュベーターとかいう害虫とのナンセンスな会話もひと段落したため、ほむらは、宇宙創りの下ごしらえをすることにした。さりとて、特に何の準備も思いつかないので、ぶっつけ本番で早速最初の七日間を始めることにする。
『さて、と。そろそろ天と地を創造しましょうか……“光あれ”』
ほむらは、適当にそれっぽいことを言った。
それは、確かに適当ではあったが、その一言に込められている魔力は本物だった。何も存在しなかったはずの“無”に凝縮された魔力塊から成る超高温、超高密度エネルギーが突如発生すると、それがすべての起となり、真空の相転移によって、爆発的に空間が膨張し始める。
こうして、新たな宇宙がいともあっさり誕生した。
ほむらとキュゥべえは、原子の生成が始まって、霧がかっている宇宙が晴れ上がり、それなりにまともな環境となったころで、創ったばかりの宇宙へ移相した。当然のことだが、この生まれたての宇宙にはまだ地球も人類も存在しない。地球が形成されるまで92億年、人類が誕生するまで137億9600万年の時を待たなければならない。
ありていに言うと、今回の天地創造では、もうやるべきことは残されていない。作業終了である。あとは、のんびりと夜空に輝くお星様を眺めながら、人類誕生までの時間を過ごすだけとなった。
宇宙創造という大仕事を終えたほむらは、失われた魔力を取り戻すために休眠状態へと移行することにした。彼女の現在位置は、ビッグバンからさほど遠くない時点にある。この辺りならば、光速を超えて加速膨張する時空間の境界面に阻まれて、何者も彼女の眠りを妨げることはできないだろう。
初期宇宙を観測してくると言い残し、どこかへ消えてしまった白い小動物のことは完全放置して、彼女は、意識をシャットダウンした。
そして、長い年月を経て、魔力の充填が完了したほむらの意識が再起動する。
星の海で静かに覚醒した彼女は、まずは大きく欠伸をして、肺を新鮮な真空でいっぱいに満たす。それから、ぐっと胸をそらしながら翼をピンと張って全身をめいっぱい伸ばした。
新しい朝が来た。希望の朝だ。こんなにもすがすがしい気分で目覚めるのは久しぶりだった。どれくらい眠っていたのだろうか。彼女は、しばし無重力に身を任せて、星の海を漂流する。くるくる回りながら、遥か彼方を見定める。夜のカーテンに光の粒が無数に散りばめられていた
『おはよう。疲れはとれたのかい?』
ほむらに朝の挨拶が投げかけられる。その直後、小さな影が空間転移により時空の狭間から飛び出してきた。彼女は、ソイツを一瞥する。天体観測の邪魔をしたのは、毎度お馴染み、キュートな白い小動物キュゥべえ君だった。
『あなたの姿を見たら最低の気分になったわ。今はいつ頃なの? もう地球はできてるの?』
『まさか、地球どころか天の川銀河も形成されていないよ。現在は宇宙誕生からだいたい4億年後だ。地球誕生まで、あと88億年ほど待たなければならないね』
ビッグバンからおよそ4億年。数多くの恒星が生まれ、ようやく最初の銀河が形成されそうな頃合である。宇宙はまだまだ始まったばかり、地球までの道のりは非常に長い。
ほむらは、ゲンナリしながら、傍らに浮かぶ小動物に目を向けた。
(88億年を共に過ごす相手として、“コレ”以上に最悪な存在はいないわね)
感情のない宇宙人との会話ほどつまらないものはない。彼女は、もう一度休眠状態へ移行することも考えたが、せっかく宇宙を創ったのに寝てばかりいるのもおかしなことだと思い直した。とはいえ、何もやることがないのも事実だ。何か、良い暇つぶしはないものか。色々な星を見て回るというのもひとつの手だが、何だかあまり気が乗らない。本当にどうするべきか。キュゥべえと延々しりとりでもやっていればいいのだろうか。それだけはありえないだろう。何というべきか、現在の状況を端的に言い表す良い言葉がある。
『暇ね』
ほむらがぶっちゃけた。
『そうかい? 僕はそうは思わないな。これからこの宇宙がどのような進化を遂げるのか、それをリアルタイムで観測できるんだ。暇なんて事はないはずだよ』
『いいえ、暇よ。何か打開策を考えなさい。時間を早送りするとか、未来へ行くとかはできないの?』
両者の時間間隔には大きな差があるようだ。数十億年程度なら、馬鹿のように待ち続けられるインキュベーターに対して、ほむらはそこまで馬鹿になりきれなかった。
『この宇宙を創ったのは君だろう? 君にできないことが僕にできるわけないじゃないか』
『“できない”? それは、私の聞きたい言葉ではないわ。あと5秒以内に、もっとマシなことを言えなかったら、インキュベーターという種族を根絶やしにするわよ。5、4、3――』
ほむらは、真顔で命のカウントダウンを始めた。
『それは、さすがに困るね。……そうだ、こうしようじゃないか。君の主観時間と宇宙の経過時間をズラせばいいんだ。大きく分けて、やり方は2つある。ひとつ目は、君が限りなく光速に近い速度で移動して、宇宙空間との相対的な速度差によって時間の遅れを生じさせる方法。ふたつめは、超重力によって光の速度を遅らせる方法だ。ブラックホールの近くでは、光が脱出できないほど強い重力が作用している領域がある。その境界である事象の地平面に限りなく接近すれば、君も知ってのとおり、通常の重力場との時間の遅れが発生することになる。どちらの方法も、自身と光速との相対速度を利用しているから原理は同じさ。好きな方を選ぶといい』
キュゥべえが、何だかよく分からないことを言い出した。宇宙人の提案が良いものなのかどうかは不明だが、ブラックホールの近くに居てうっかり長時間が経過していたということなら、前に経験したことがあった。ここは、とりあえずこの案を採用してみるのもいいだろう。
『光の速度で飛ぶのはダルいから、第2案を選定するわ。早く近所のブラックホールまで案内しなさい』
『分かったよ。この宇宙で最初に形成された銀河の中心に、この宇宙で最初に形成されたブラックホールがあるから、そこに行こうじゃないか。』
発注者は、受注者の比較検討案を一瞥しただけで計画を定め、横柄な態度でこき使う。だが、脅迫されたあげく手駒にされても、キュゥべえは何も感じず、何も言わず、ただ黙って悪魔に従うのだった。
『あれが、第1号ブラックホールなの?』
『そうさ。銀河の中心に位置するだけあって、それなりに巨大なブラックホールだね』
空間転移によって跳躍したほむらは、キュゥべえと並んで浮遊し、遥か前方にある暗黒の天体を睥睨する。以前見たことのあるブラックホールよりも大規模なそれからは、とてつもないエネルギーが放射されていた。
あとは、あの黒い穴に近づけば自動的に時間が早送りとなるはずだ。そう考えた彼女は、重力の中心に向かって躊躇いなく飛翔を開始する。一気に速度を上げようと魔力を込め、翼を大きく広げたほむらの肩に、断りもなくキュゥべえが飛び乗った。
(この獣、土足で人様の肩に上がっているわ。ちゃんと足を拭いたのか確かめるべきかしら)
ほむらは、このキュゥべえの行いに微かな苛立ちを感じる。そして、不思議な既視感を憶えた。このようなことが、遥か昔にあったような気がする。それは、どれほど昔のことなのだろう。それは、いつの――
『ほむら、そろそろ事象の地平面に到着するよ』
宙をかけるほむらに、キュゥべえが思念を発する。そこで彼女の追想は途切れ、おぼろげだった過去が露と消える。あの頃を思い出すことは、もう、できない。
ほむらは、魔力を勢いよく逆噴射して推力を反転させる。そして、何度か魔力を放出して、ブラックホールとの相対速度をゼロに調整した。
『ここからは、慎重に事象の地平面へ近づいたほうがいいね。不用意に接近しすぎると、とんでもない時間が経過してしまうんだ。君が時間停止魔法を使っている場合を除いてね』
『……ちょっと考えたのだけど、今ここで、88億年を経過させて地球を誕生させても、私の知る現代は、それからさらに46億年後なのよね? だったら、ここに〈転移ゲート〉を設置して、いつでも好きなときに来られるようにするべきだわ。そうすれば、必要に応じて時間を早送りできるわけだし』
人は、一度楽を憶えると堕落する。便利なものがあるのにわざわざ不便な思いをする必要はない。
『そうかい? それなら、君の膨大な魔力の一部を提供して欲しい。〈転移ゲート〉は、エネルギーさえあれば簡単に作成できるんだ。設置場所は、……そうだ、どうせならブラックホールの中心に置こうじゃないか、そこなら、君以外の存在には手出しができないはずさ』
『そうね、悪くない考えだわ。じゃあさっさと中心まで行きましょう』
ほむらは、そう言うと時間停止魔法を発動させ、ブラックホールの中心へと向かう。事象の地平面の先へ彼女と共に進入したキュゥべえが、周囲を観測しながら「これは興味深いね」といういつもの台詞を言っていた。
ブラックホールの中心などという場所へ、もう一度行く事になるとは想像すらしていなかった。しかも、これから先のことを考えると、ここへは何度も足を運ぶことになるだろう。彼女は、今更ながら、自身の数奇な運命に思いを馳せる。
(私は、どれほど遠くまで来てしまったの……?)
自分が、希望へ向かっているのか、絶望へ向かっているのか分からなくなる。それでも、ほむらを突き動かすものは、“愛”。少なくとも彼女だけは、そう信じていた。
『あれが、重力の特異点……。すごい、こんなにも間近で観測できるなんて……』
キュゥべえは、ブラックホールの中心を見ることができて感動しているようだ。いや、感情がないのだから、感動はしていないのだろう。いつも通りだった。
『で? どうするの? 〈転移ゲート〉を作るのに私の魔力が必要みたいだけど、エネルギーの渡し方なんて知らないわよ』
『知らなくても大丈夫だよ。ソウルジェムに接触させて貰えれば、こちらで魔力を吸い上げるからね』
果たして、それが大丈夫と言えるのかどうかは怪しかったが、少しでもこちらに危害が及びそうになった場合、即座にこの宇宙人を抹殺すればいいだけの事だ。ほむらは、形状変化したソウルジェムを具象化させて、キュゥべえを無言で促した。
キュゥべえは、ほむらの魂の結晶に小さな前足をちょこんと置くと、こう言った。
『ふうん。直接交信してもまったく底が見えないね。凄まじい魔力係数だ。これほどの魔力があれば、すぐに〈転移ゲート〉を作ることができるだろう。じゃあ、ほむら、君の魔力を貰うよ』
ソウルジェムから淡い光がこぼれ出し、ほむらは、魔力の流出を感知する。彼女から吸い上げられた魔力は、肩の上に乗っているキュゥべえへ流入して、滅紫の魔力光を放つ。
キュゥべえは、深い紫色の光を身に纏い、目標を見据えている。暫くの間、宇宙人は、その小さな体に膨大な魔力を蓄積して練り上げていた。やがて、背中の奇妙な模様から、細かな粒子が大量に排出され始める。それは、真っ黒な煙となって立ち昇り、重力の中心へ向かってザーッと移動すると、モヤモヤと滞留しながら徐々にはっきりとした形を作り出した。
特異点を取り囲むように形成されたそれは、直径2m程の真っ黒なドーナツ型構造物――〈転移ゲート〉だった。
ゲートは、恐ろしい速度で円周方向に回転している。ほむらは、出来立てホヤホヤのドーナツを見ながら、少し引っ掛かることがあった。
『やっぱり、私が前にブラックホールの中心で見た〈転移ゲート〉もあなた達が作ったモノのようね。コレは、アレとそっくりだわ』
『へえ……。確か、ブラックホールの中心に設置されていたゲートが、宇宙誕生以前へ通じていたという話だったね。でもそれはおかしいよ。今、僕が作った〈転移ゲート〉は、君の魔力なしでは作り出すことができないんだ。このゲートの構造体は、無限大の重力に耐えるために時間を凍結させている。君の時間停止魔法を技術転用させて貰ったんだ。記録装置には、君が過去に〈転移ゲート〉作成に関わったというデータは残されていない。だから、もし、君が見たという〈転移ゲート〉が僕達の作ったものだとしたら――それが、いったい何を意味しているのかをよく考えてみる必要があるね』
それを考えてみたところで、何も得られることはなさそうだ。結局、どこかのだれかが何かの理由で作ったことだけは確かであり、ほむらとは何の関係もないに決まっているのだから。
『さて、〈転移ゲート〉の設置は無事に完了したし、一旦、事象の地平面の外側へ戻ろう』
『このドーナツは今すぐ使用できないの?』
『何を言っているんだい? 対となるもうひとつのゲートを地球の傍に設置しないと、使うことができないに決まっているじゃないか。君は、56億7000万年も生きているのにそんなことも分からないのかい? まあいいよ、とにかく今は外に出よう。説明はそれからだ』
キュゥべえが、やれやれとばかりに念話を発信する。
ほむらは、肩に乗っている小動物を鷲掴みにして、無限大の重力へ向かって放り投げたい衝動に駆られたが、ぎりぎりのラインで感情を制御することに成功した。
彼女は、大きなため息をひとつ吐くと、もと来た道を超高速で引き返す。肩の上のキュゥべえは、急激な加速で振り落とされないように懸命にしがみついていた。
『君は時間停止魔法を解除して、事象の地平面へ接近するんだ。そうすれば、君の視点では通常空間における時間が早送りされることになる。その後、ちょうどいい頃合を見計らって、〈転移ゲート〉を通過して欲しい。僕はその間に、通常の宇宙空間を航行して、未来で地球が形成される座標へ向かうことにするよ。ふたつ目の〈転移ゲート〉は、……どこか太陽系内の適当な位置に設置しておくよ。それじゃあ、ほむら、88億年後にまた会おう』
ブラックホールから脱出した後、ほむらの肩から大きく跳躍したキュゥべえは、そう言って姿を消した。
しかし、事象の地平面とやらに、近づけば近づくほど時間が早送りされるとのことだが、その加減がよく分からない。
(まあ、なんとかなるでしょう。駄目だったらやり直せばいいだけだし)
ほむらは、魔力を推力に換えて加速する。
人生というゲームをリセットできるほむらは、物事をいい加減に捉えて、考えなしにブラックホールへ再突入した――
『……! ……むら! ほむら! 君は、いつまでそこにいるつもりだい!? 今すぐ事象の地平面から離れるんだ!』
――途端に、キュゥべえからの念話が飛び込んできた。
その声を受け、ほむらは、瞬時に魔力を前方に放出して大きく後退する。
『何? 何か言い忘れたことでもあったの?』
『……ようやく念話が届いたみたいだね。もっと遠へ離脱したほうがいいよ。ほむら、君は境界面に近づき過ぎた。外界では、すでに200億年が経過している』
『はぁ!? そんなことはもっと早く言いなさい!』
また、このパターンである。また意図せず時間が過ぎ去ってしまった。この宇宙人は、報告が遅すぎる。だいたい、いつも手遅れになってから、いけしゃあしゃあと訳知り顔でご高説をのたまうばかりではないか。何の役にも立ちはしない。
『それは難しいよ。君が居た場所へ近づくものにはすべて、時間の遅れが発生してしまうんだ。実際、僕が君に向かって念話を放射したのは、僕の主観時間で今から112億年前――』
『ああ、もう! 今からでも地球へ向かうわよ!』
既に色々と台無しだが、この宇宙を放棄する前に、せめて、人類がどのような文明を築いているのかを確認するべきだ。そう考えたほむらは、ブラックホールへ再々突入しようとする。
『行っても無駄だよ。ほむら、地球はもう存在しないんだ』
キュゥべえの言葉には、何の感情もこもっていなかった。
『……どういうこと?』
ほむらは、慎重に聞き返す。
『10億年ほど前に、赤色巨星となった太陽に飲み込まれて跡形もなく蒸発したよ。もっとも、人類はそれよりも遥か昔に絶滅していたけどね。30億年前くらい前から徐々に、太陽からの熱放射が増加し始めたんだ。それによって、気温が急上昇して、海水が全て蒸発してしまった。その後も、地球の高温化はどんどん進行して、人類が生存できるような環境ではなくなってしまったんだ。人類が死に絶えても、ごく一部の微生物は生き残っていたけど、彼らにしても、先に言ったとおり、太陽に飲み込まれて死滅した。だから、今はもう本当に何も残されていないよ』
『それは、つまり……』
ゲームオーバー。はじめての宇宙創りは、人類滅亡という結末を迎え、見事失敗に終わった。
(ちょっと待って。私は、まだ何もしていないわ。ブラックホールを馬鹿みたいに、行ったり来たりしただけよ。というか、本当に、今回は何ひとつ進展がないわ。何なのこれは? いい加減にしなさい)
『ほむら、君は何度でも宇宙を創り直す事ができる。次の宇宙では、少し気をつければいいだけの話さ。まったくもって、簡単なことだろう? 何せ君は、君の思い通りの宇宙ができあがるまで、何度でも繰り返せばいいだけなんだ。それは君の最も得意とするところじゃないか。そうさ、何度でも何回でもやり直しができるんだ――』
キュゥべえが、“笑った”
『――まったく、うらやましい限りだね』