兄の行動が斜め上どころじゃなくなってる
「…へ?ごめんきこえなかった。もういっかいいって?」
「俺、ポケモンになるわ」
「なんでそうなった!!?」
こんにちは妹のヒナです。
久しぶりに兄から電話が来てすぐに駆け付けたのですが、その兄がよく分からないことを言い出していました。カント―地方の旅ではそんなバカなこと言わなかった…ああいやちょっと暴走することあったけど、まだ人としての常識は少しだけ残っていたはず。ジョウト地方の旅で一体何があったんだ…。
「なんでポケモンになるの?おにいちゃんあたまだいじょうぶ?」
「お前本当に辛辣…いやポケモンになった方が言葉とか伝わりやすいって考えてだな」
「それかんがえたじてんでほんとうにぽけもんになったらもうかみさまこえてるよ…」
「それもいいかもな」
兄は少しだけ笑って私の言葉に同意していた。もしかしたら兄は本当にポケモンになりたいという意味で言ったのではないかもしれない。ポケモンになれば言葉が伝わりやすいというのはどういうことなのだろう…。
「おにいちゃんなにかあったの?」
「…ヨーギラスにあったんだ」
「あ、なるほど」
ヨーギラスは卵の頃、母親から引き離され人に裏切られ、ひどい目に遭い続けてきたポケモンだというのは原作知識として知っていた。もしかしたらその悲惨な状況に怒り、ヨーギラスを元気づけるためにポケモンになりたいと言ってきたのかもしれない。
でももうちょっと考え方というのがあったはずなのに、本当にこの兄は少しだけ常識からずれている。
それにもしポケモンになれたとしても、ヨーギラスのためになるのだろうか?私なら嫌だと思う人、怖い人たちにわざわざ近づいたりしたくはない。兄はそういうことをわからないのだろうか?少しアドバイスで言ってみようかな。
「でもさ、ヨーギラスにむりやりはよくないよ?きょうせいてきになかよくなってもつらいだけだもん」
「…そうだな。ミュウに頼んでポケモンにしてもらおうかと思ったけど…無理強いはヨーギラスのためにならないか」
「まっておにいちゃんミュウにたのんでポケモンになろうとおもったの!!?」
「方法ならいくらでもある」
「おにいちゃんそろそろひととしてのじょうしきをもとう!!」
人としてできないはずの悩みを解決する方法を思いつく時点でスーパーマサラ人すぎる。何で伝説に頼んでポケモンになろうとする。しかもそれ以外の方法もあるとなってはもはや人間じゃないぞ兄よ。
兄はその後、納得したような表情を浮かべて私に向かって言う。
「…ヨーギラスには人の優しさを知ってほしいんだ。でも無理やりは良くないし余計に怖がってしまうかもしれないよな」
「うん。たぶんじかんがかいけつしてくれるんだとおもうよ」
「時間が解決…ね。よしわかった!俺ちょっと密漁団潰してくるよ!!」
「まってなんでそうなるの!!?」
ヨーギラスではなく密漁団を潰すとはいきなり話が変わって驚いた。おそらく兄が言う密漁団とはヨーギラスを連れ去った原因のことだろう。あれ、密漁団って捕まってなかったの?というより何故そう物理で解決しようとするんだ。しかもピカチュウを貰いに行く前日のように覚悟を決めた表情をしている。つまりは暴走状態。
「おにいちゃんヨーギラスにトラウマうえつけないでね?」
「大丈夫だって。俺がそんな失敗するわけないだろ」
「うんそうだねおにいちゃんポケモンについてはかんぺきにやりとげるもんね!!」
兄が旅立ってからというもの、スーパーマサラ人としての噂が流れてきているのは知っている。そしてシゲルさんがそんな兄に対抗しようとジョウト地方に旅立ったのも知っている。でもってシゲルさんを巻き込む形でジョウト地方でもスーパーマサラ人としての噂が流れてしまうのだろう。…なんか兄がすぐポケモンマスターになれそうな気がするのは気のせいじゃないはず。
「よしちょっと行ってくる!ピカチュウ!!」
『ピ、ピカピ?』
「ちょ、ちょっとサトシどこ行くの!?」
「サトシ!?」
「すぐ帰るから待ってて!!」
「…あーあー」
何だろう。恐ろしく嫌な予感がする。ヨーギラスにトラウマをさせないように完璧に配慮するのは分かっているし、そういう意味では大丈夫なんだろうけど…。
「おにいちゃんがどんどんじょうしきからはずれていくきがする」
ロケット団を変えたり、ポケモンになろうとしたり…兄は一体何になる気なのだろう…もしかしたらポケモンマスターを超えた超人的な何かになるかもしれないと私は思ってしまった。ひょっとしたらこの兄ならば世界征服もできるんじゃないか?
「…とりあえず、せかいせいふくはやめてっていっておかないとね」
世界征服をした兄なんてみたくはないと思う私であった。
妹の心境。
兄を止める方法を募集する。