初めてそう思えたのだから仕方ない。
何もない空間、ただそこに浮かぶのは神々しいポケモン一体のみの空間。空間に入ることができる生き物は限られていて、その一体以外は絶対に誰も入ることのできない場所。
そんな空間にいるのはアルセウスだけだ。
『……サトシ』
アルセウスはただ思い出していた。あの時助けてくれた少年を、この世界の異物であるはずの人間の姿を。
だが、アルセウスは考えながら空間に漂っているだけで何も行動しようとはしない。ただあの時の出来事を思い出し、嬉しさという感情を心に秘めているだけである。
『また、会えるだろうか…』
アルセウスはただそう願っていた。サトシに会いたいという気持ちが強いと言うのに、伝説であり世界の創造神としてはそれを許せない立場にいることで揺らいでいた。…過去に起きたあの出来事も、人を信用し力を譲ったことによって起きた過ちだったということも分かっているし、サトシによって助けられたけれども、もう二度とあのような出来事を起こすつもりはないとアルセウスは考えていたのだ。
…だが、このままこの何もない空間で過ごし、サトシが生きている時間を無駄にしたくはないという気持ちも強かった。
『サトシ…会いに行こう…』
アルセウスは決心した。サトシに会いに行くと言う決断をしたのだ。その決断はアルセウスにとって大切な選択であり、また起きてしまうかもしれない過ちをサトシに会いたいという選択によって起きないようにしようと決心した瞬間でもあった。
マサラタウンに着いたときはアルセウスはサトシがいないということ、その妹のヒナという少女もいないということを知って落胆した。だが、まだやるべきことは残っている。マサラタウンではポケモンたちがサトシとヒナに会いたいといってどう行動するべきか考えている最中のようだ。アルセウスはその会話を無視してサトシに会いに行こうと行動を開始した。
ミュウツーが何やら行動をしているアルセウスを見て話しかける。
『おい、一体何をする気だ』
『決まっているだろう、空間を捻じ曲げてサトシに会いに行く』
『それをやって世界を崩壊させはしないだろうな…?』
『平気だ。何も問題はない』
イッシュ地方というのはここからとても遠い。アルセウスはある程度時間をかければすぐに行ける距離なのだが、今すぐにサトシに会いたいためにここから空間を捻じ曲げ、イッシュ地方へ繋げていけばいいと思っていたが、その考えはすぐに潰されてしまう。
サトシのポケモンであるフシギダネがここでの空間を捻じ曲げる等の力を禁止にしたのだ。アルセウスならばその言い分を無視して勝手に空間を繋げてもいいのだが、フシギダネを無視するということはサトシのことを無視する行動だと言われてしまい思考が停止してしまった。もしもサトシに嫌われるようなことが起きたらどうする。それはアルセウスにとって避けなければならないこと。だからアルセウスは強固な手段には出れなかった。
そしてまた次に来たハルカという少女に電話でサトシと話してみたらと提案されたのだが、電話があるのはオーキド研究所の中であり、いつ博士たちが来るか分からないため伝説は入れられないとなってしまい、それにアルセウスほどの身体の大きいポケモンは建物に入れないとなってしまったため、そこでもまた少し落ち込んでしまった。
だがアルセウスはすぐにまた考えた。もうこのままサトシに会いに行けばいいと。
そして来たイッシュ地方でようやく会えたサトシの姿が上空から見えた。
それより少し後ろの方で光っている雷雲が見えたが、アルセウスが邪魔だと遠くへやってしまった。すべてはサトシと会って話したいがためやった行動なのだ。
そしてようやくサトシがアルセウスのことを見て、走って近づいてくる。
アルセウスはサトシのもとへ降りてきて話しかけた。
『…久しいな、サトシ』
「そうだなアルセウス。何か用か?」
『ピッカ?』
『…いや、ただ会いたいと思いこちらへ来たのだが…邪魔であったか?』
「そんなことないけど…でもイッシュ地方に来てもいいのか?」
『ああ、良い。サトシと会えるのなら構わないことだ』
「…………そうか」
『…ピィカ』
サトシとピカチュウは少しだけ微妙な表情をしていたのだが、肝心のアルセウスはそれに気づいていない。ただ夢中になってサトシに話しかけている。元気にやっているか、旅は順調かなどを聞いて嬉しそうにしている。その様子は伝説と呼ばれ、創造神と崇められるアルセウスとは思えないぐらい、ただ世界のどこにでもいるようなポケモンにしか見えなかったとサトシは後にピカチュウに語っていた。
特になし。