マサラ人だけどスーパーマサラ人ではないはず   作:若葉ノ茶

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妹たちが迷子になってしまった。


第六十四話~妹とヒトカゲが迷子になった~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは妹のヒナです…。ここどこなんでしょうか…。

 

「お兄ちゃん…どこぉ…」

『カゲェ…』

 

 

ちょっとした散歩のつもりだった。兄たちが修行のためにポケモンバトルをしているから、きのみ集めと散歩を兼ねてちょっとだけ歩いただけなのに、気がつくと兄たちのバトルによる騒音は聞こえず、森の中に私とヒトカゲが迷っている状況になっていた。

今まで修行していたからこういう森の中に2人でいるという状況は慣れている。最初は迷子になったらその場を動くなとよく聞かされていたから動かなかったのだが、いきなり来たシキジカの大群に襲われ、走ってしまい余計に森の奥深くまで来てしまったと感じた。

そしてそこからまた戻ろうと警戒しながら森の中を歩いていて、またいきなり来たミネズミたちからの攻撃を受けてすぐに体勢を整えヒトカゲのえんまくで逃げてきたのだ。そのため今この場所が兄たちから離れたところなのか、近くにいるのかすら分からなくなってしまった。

ここがマサラタウンの森だったら私たちは迷ったとしても余裕で歩いていられる。なぜなら森の中のポケモンたちとは何度も遊んだり修行したりした仲なのだから。

でもここはマサラタウンの森とは違う、まったく知らない森だ。そして兄たちと離れてしまい、もう二度と会えないかもしれないという不安が出てきて、すごく涙がでそうになる。でもここで泣いてしまったら今までしてきた修行の意味はない。ヒトカゲも泣きそうな表情だけど、私の手をずっと掴んで涙を堪え我慢しているのだから。

 

 

「…ヒトカゲ、とりあえず右にいってみよう……」

『……カゲ』

 

 

 

恐らく兄たちも探していると思うから兄たちの声や音がするまで歩き続けていようと思い歩き始めた。だが歩き続けてもずっと木しかない静寂な森の中。ポケモンがこちらの様子をうかがっているのは気配で分かるのだが、兄たちに会えるような感じは全然しない。それがまた余計に不安に駆られる。

 

 

 

 

「ヒトカゲ。大丈夫だからね。絶対に大丈夫…」

『カゲ…カゲ!』

 

 

 

 

 

ヒトカゲと自身に対して力強く励ましの言葉を言う私だけど、心の中では不安しかない。それにヒトカゲも気づいているのか、私をしっかりと見て、大丈夫だよと声をかけてくれた。

私はヒトカゲの声に頷き、とにかく森の中を歩き続ける――――――――。

 

 

 

 

 

 

『エル―』

『フーン!』

 

 

 

「…え?」

『…カゲ?』

 

 

 

不安になって歩いている中、後ろから何やらポケモンたちの声が聞こえてきたので襲われるのではないかと警戒してすぐに振り向いたら、エルフーンの集団がいて驚いてしまった。しかもそのエルフーンたちは私たちに攻撃しようとは思っていないのかただ微笑んで私たちの近くに集まってきている。

…あれ、ここってエルフーンの森じゃないよね。数が凄く多いんだけど、しかも皆が私たちのことを近くに来てからじっと見て首を傾けているし。

私は思い切ってエルフーンたちに声をかけた。

 

 

「…ねえ、君たちは私たちに何の用?」

『カゲカゲ?』

 

 

『エルフー!』

 

 

何の用か聞いてみたけど、エルフーンたちはただにっこりと笑って私たちの方を見るだけだ。それでは何も意味はないと思っていたのだが、急に私たちに近づいてきた集団の中の一番大きなエルフーンがモモンの実を2つ渡してくれた。もしかしたらこの大きなエルフーンは群れのリーダーなのかもしれない。モモンの実を食べてほしいという仕草をしてきたので、私とヒトカゲはお互いに顔を見合わせてからエルフーンたちに微笑んだ。

 

 

「モモンの実をくれて、ありがとう!」

『カゲ!』

 

 

『エル―!!』

 

 

 

私たちの言葉を聞いたエルフーンたちは凄く喜んでいるようだ。にっこりと笑ってくるりと一回転して喜びのあまり踊っているように見えた。もしかしたら私たちを励ましてくれてるのかな?そう思いながら美味しそうなモモンの実を食べた。…うん凄く美味しい。

 

 

『エルエルー!』

 

「え、そっちに何があるの?」

『カゲ?』

 

 

エルフーンが私たちを引っぱって森の向こうに行こうと言ってきたので私はどうしてなのか言う。だがエルフーンはただこっちに来いとしか言わないので私たちは疑問に思いながらエルフーンたちと一緒に歩き出す。

エルフーンは私たちの前と後ろにいて、時折こちらを見て笑っていた。それはまるで私たちを気にかけているようで、そしてちょっとだけ歩く速度を遅くすると後ろにいるエルフーンたちが心配そうにこちらを見て、前にいるエルフーンたちに声をかけてモモンの実を取り出し渡してきてくれた。まるで食べて元気を出せと言っているかのように。

何でそんなに私たちを気にかけてくれるのだろう。凄く疑問に思ってエルフーンたちに行ってみたのだけれども、その問いに何も答えず、ただ楽しそうにしているだけ。

 

 

 

私たちはそのエルフーンたちの行動に疑問に思いながらも前へと歩き続ける。

 

 

「…あれってモモンの実?というよりきのみの森!?」

『カゲ!?』

 

『エルフー!!』

 

 

歩き続けてしばらくすると広場のように大きく広がっている場所があって、エルフーンたちがそこへ案内してくれた。そしてふと周りの木を見てみると、その木々すべてにきのみがあって、まるできのみの森だと思ってしまうぐらい凄い光景だった。

そして驚いた私たちにまたエルフーンたちが悪戯を成功させた時のような表情で楽しげに踊る。私はそのエルフーンたちに話しかけた。

 

 

「…もしかして、ここに連れてきてくれたの?私たちにきのみを食べてもらいたかったの?」

『カゲ?』

 

 

『エル―!!!!』

 

 

 

エルフーンたちは私たちに向かってその通りだと力強く言ってくれた。おそらく元気のない私たちがモモンのみを食べたから元気になったと思って、このきのみの森のような場所まで案内してくれたのだろう。

エルフーンたちの親切がとても嬉しいのだけれど、私たちは森の中で迷子になっている身なのだ。このまま兄たちと合流できなかったら駄目だ。だからエルフーンたちに言わなければならない。

 

 

 

「ごめんね、私たち迷子なんだ。お兄ちゃんたちと会えなくなったままこっちに来ちゃったから凄く心配してると思うの…だからここにいれないよ」

『カゲェ…』

 

 

『エル…』

 

 

エルフーンたちが私たちの言葉を聞いて落ち込んでしまった。その様子に罪悪感が出るが、このままここにいても仕方がないため私たちはありがとうとお礼を言ってエルフーンたちから離れる。でもエルフーンたちはそれで納得しないようだ。私たちにまた近づいてきて大きな声で言う。

 

 

『エル…エル―!』

 

「え、もしかしてお兄ちゃんたちに会えるまで一緒にいてくれるの?」

『カゲ!?』

 

 

『エルフー!!!』

 

 

「…ありがとう!」

『カゲカゲ!』

 

 

 

エルフーンたちが私とヒトカゲと一緒に来てくれた。何でそんなにエルフーンたちが私たちのことを気にかけてくれるのかもわからないし、親切にしてくれるのかもわからない。でも話したりしているうちに少しづつ仲良くなっていったように感じる。まるでマサラタウンにいるポケモンたちのように思えた。

 

 

兄たちと合流できたのはそれからしばらく歩き続けてからなんだけど、エルフーンたちがいてくれたから全然不安はなかった。私たちが不安になったり落ち込んだりしたときにすぐに慰めてくれてきのみを持ってきてくれて元気出せと励ましてくれたから大丈夫だったのだ。本当にエルフーンたちには感謝している。

 

 

 

 

――――――――まあ、合流できた後は兄たちにものすごーく叱られたんだけどね…。

 

 

 

 

 

「ありがとうねエルフーン!!!」

『カゲェェ!!!』

 

 

 

 

『エルフー!!!!』

 

 

 

 

 




妹の心境。
 またエルフーンたちに会えるかな?

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